何杯食べられる? 魅惑のわんこが作る、わんこそば

    作者:芦原クロ

    『わんこそば、準備に入ります!』
    『お客様はどのわんこが良いか、ご指名ください!』
    「どうして犬が喋っているのか不思議だけど、可愛過ぎるからもうどうでも良いー!」
     とあるシャッター街。シャッターが開いている場所を覗き込めば、柴犬やパグやダックスにチワワ……エトセトラ。あらゆる犬種が、走り回っている。
     普通の犬より、可愛さが数倍以上、増しているようにも見える。
     あまりの可愛さに骨抜き状態になった一般人数人が、限界までわんこそばを食べたのか、少し苦しそうに、だが幸せそうに倒れていた。

    「可愛いわんこ達がわんこそばを作ってくれるらしい。ここで、間違い無いようだね」
     灼滅者を連れて来た比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)が、一般人の様子を確認。
     全員骨抜き状態になっており、このまま放っておけば、一般人たちは何日も帰れないことになってしまいそうだ。
     1人に給仕が1匹つき、あとは普通のわんこそばと変わりは無く、給仕のわんこが、お椀に次々と一口大のそばを入れ続ける。
     愛らしいわんこたちの虜にならないよう、注意が必要だろう。
    「夏は、そばを食べたくなるよね。あんなに可愛いわんこ達が振る舞ってくれるなら、沢山食べられそうだよ」


    参加者
    アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)
    ハイナ・アルバストル(塗り潰す蒼・d09743)
    比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)
    切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)
    エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)
    カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)
    新堂・アンジェラ(業火の魔法つかい・d35803)
    梯・槐(歪曲マーダー・d37878)

    ■リプレイ


    「わんこ達にわんこそばを作ってもらい、みんなで食べよう」
     比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)が、仲間たちに声を掛ける。
    「わんこそばか、早食い大食いの定番じゃな」
     アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)は、まるで飢えているかのように、食欲を全面に出す。
    「わんこそばは、たくさん食べるわ」
     超がつくほどハラペコの子、新堂・アンジェラ(業火の魔法つかい・d35803)。
    「わんこ♪ わんこ♪ わんこそば~♪」
     ブラックホール並みの胃袋を持つ、カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)。
     2人とも、わんこそばを沢山食べることに意識が向いている。
    「空気を凍らせかねないのであえて黙るが……」
     ハイナ・アルバストル(塗り潰す蒼・d09743)は思ったことを言葉にしないよう、すぐに口を閉ざす。
    「わんこそばかぁ、ニュースで見たことはあるけど、食べるのは初めてね。うん、楽しみ!」
     エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)は、正義のヒーローとして頑張ろうという責任感を抱えているが、わんこそばへの興味が半分をしめている。
    「わんこには興味ねえが、わんこそばはたらふく食うぜ!」
     わんこそばを食べる為だけに空腹状態にして来た、切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)。
    「そばの食べ放題と聞いてやって来たんやけど、会場ここ?」
    『いらっしゃいませ! お客様はどのわんこが良いか、ご指名ください!』
     梯・槐(歪曲マーダー・d37878)の問いに、一匹の犬が元気良く答えた。


    「どのわんことか興味ねえから、はやくわんこそばを持ってこい!」
     村正が睨みつけると、犬は怯えながらも急いで準備をする。
    「あー、戦いも大事やけど食事も大事だもんな。それより犬って喋るもんだっけ? これも都市伝説の影響?」
     槐は、村正の言動を良いように解釈して頷き、不思議そうに犬を見ている。
    「食べるからには沢山食べたいよね」
    「食べ放題と聞けば財布も助かるのぅ」
     席についたカーリーが、わんこそばが出て来るのを今か今かと待ち、アリシアは犬を適当に指名する。
     犬たちがテーブルの上へ薬味を置いていると、一匹一匹を、優しく撫でてやる、逢真。
     撫でられると気持ちよさそうに、犬たちは逢真に対して尻尾を振り、好感を示す。
    『撫で方が優しいひとが居るね』
    『ぼくも撫でてもらっちゃったー』
     薬味を準備する用の犬たちは、キャッキャッと言葉を交わしながら、嬉しそうに下がってゆく。
     続いて他の犬たちが、厨房から出て来た。
     2匹の犬が運ぶ、大きなお盆の上には、そばが入った小さなお椀がいくつも乗っている。
     給仕を担当する犬は、灼滅者それぞれに1匹ずつ配置された。
    『わんこそば、いきます!』
     灼滅者たちが持っているからっぽのお椀に、そばが入った小さなお椀が返されて、一口分のそばが入り込む。
    「え、まじで喰ってえぇの?」
    『どんどん食べてください!』
     槐が給仕の犬に訊くと、犬は元気良く答える。
    「一本勝負じゃ!!」
     箸を手にした瞬間、人が変わったように一心不乱に食べまくる、アリシア。
    「わんこそば♪」
     カーリーは速いペースで食べ、周りに空のお椀がどんどん積み重なってゆく。
    「わんこ達、見事なお手前だね」
     給仕の犬との間にリズム感覚が生まれている光景を見て、逢真が拍手をすると、犬たちはすっかり逢真に懐いた様子で、尻尾をふりふりしている。
    「早速、イタダキマス……今回は、一気に飲み込むんじゃなくて、ちゃんと麺を味わって食べるわ」
     アンジェラは、喉ごしが良く、柔らかいそばに舌つづみを打つ。
    「村正、勝負よ! 大食いには自信ないけど、正義のためだもの。わんこそばも気になってたし、ガンガン食べるわよー!」
    「ん? なんだぁエリザ、俺と大食い勝負したいってか? いいぜ、ただ食べてるだけじゃおもしろくねーもんな!」
     負けず嫌いの村正は、エリザベートが勝負を持ちかけると、あっさり応じた。
    「ガンガン食らうぜ!! むしろ腹減ってるから手加減なんかしねぇ!!」
     エリザベートが年下だろうと遠慮せず、大食いぶりを発揮する、村正。
    「お? お? 競争やるんか?」
     わんこそばの勝負が始まったのを見ると、槐も混ざり、大食いの2人を相手に、エリザベートは焦る。
     食べられる量は並みの為、どんどん限界が近づいている、エリザベート。
    「ん~? 箸、全然進んでねぇぞ? そんなもんかエリザぁ~?」
     エリザベートのペースが遅いことに気づき、村正が煽る。
    「ま、まだまだ! 食べられるわよー!」
     煽られたエリザベートはムキになり、必死で、食べるスピードをアップした。
     村正は余裕たっぷりに、わんこそばを食べるというより、もはや飲んでいる。
     アリシアも空のお椀の山を積んでゆき、その形相は、他の灼滅者の食べっぷりを奮い立たせる勢いだ。
    「わんこそばの大食いや早食いのトライアルだと、噛まずにとにかく全部飲み込むらしいけど、アンジェラはちゃんと味わって食べるわ」
    「僕はわりかし貧乏な男だから、こう無制限に食事ができる場はとても貴重なんだ」
     アンジェラとハイナは、場の雰囲気に流されることは無く、自分のペースでわんこそばを味わっている。
    「どの味がお勧め?」
     逢真は犬たちと交流を深め、おすすめの薬味を訊いては試して美味しさに喜び、犬たちを褒めたり撫でるのも忘れない。
    「え? このクーラーボックス? 知り合いの牧場から持ってきたコッコ達の卵に、手作りの特性のめんつゆ、擦ってきたとろろ、刻みのり、わかめ、おくらとかトッピングするもん。この日のために用意してたんだよ。いる?」
    「アンジェラも薬味はたくさん持ってきたから、いろいろ試して味変していくわ。ワサビ、おろしショウガ、一味、七味、大根おろし、オクラみじん、山芋とろろ……少しずつ使うのがポイントね」
     槐がクーラーボックスを示して仲間たちに尋ね、アンジェラも持参した薬味を取り出す。
    「あと、総菜屋で天ぷらを数個買ってきたわ。これも、味変でたまに食べると、気分が変わってまた食が進むのよね」
    「折角の一口蕎麦だから、ネギや海苔、錦糸卵、鰹節等の薬味を持って来たよ」
     アンジェラの言葉を聞き終えてから、逢真もテーブルの上に持参した物を並べ、薬味を交換し合ったりと、和やかムードだ。
    「ここで一摘み……」
     アリシアは辛味の強い薬味を使い、味を変えると、再び猛スピードでわんこそばを平らげてゆく。
    「そんなに食べても大丈夫? 食べても大丈夫! 食べれば大きくなれるからね~♪」
     楽しそうに歌いながら、まだ小学生のカーリーは、たくさん食べれば身長が大きくなると信じているようだ。
     お盆の上の器がすべて空になると、犬たちは急いで厨房に向かった。


    「……うぷっ、も、も、無理……」
     エリザベートが早くも、リタイア。
    「汁を飲みすぎると飽きも早いから、そこは気を付けるわ」
    「汁って、飲まなくて……い、良いの?」
     ニュースで見たことしかなかったエリザベートは、お椀の中に溜まっていた、つゆを捨てていなかった。
     アンジェラの言葉に、ショックを隠せない、エリザベート。
    「わんこ達用のクッキーを用意して来たけど、食べられるかな?」
     逢真が犬を優しく抱き上げ、ふわふわの毛並みを堪能しながら、腹や頭を優しく撫でて尋ねる。
     クッキー目当てに、他の犬たちもわらわらと集まり、逢真はモフモフ天国状態に。
     七不思議使いの逢真は、今まで吸収した動物の都市伝説を出現させ、犬たちと遊ばせたり、お餅を犬たちと一緒に食べたりしている。
     色んな種類の犬を撫で、モフモフっぷりを比べている逢真は、楽しそうだ。
    「きゅうけ~い、犬モフろ」
     槐も、犬たちのふんわりした毛並みを堪能し始める。
    「うん、まあ犬は嫌いではない。猫の方が好きと言えば好きだが、こういう動物を撫でるのは結構好きだよ」
     ハイナが犬を撫でていると、犬にアンジェラの視線が注がれる。
    (「わんこだけにわんこそばっていうのは聞いていいかどうか……そこは空気を読むわ」)
     考えるだけにとどめておく、アンジェラ。
     厨房から戻って来た犬たちが、わんこそばを運んで来る。
    「わんこそばって、犬が蕎麦を食べさせる話だっけ? そういう都市伝説で、いいのよね。まぁ、人でも犬でも、わんこそばを食べさせてもらえるなら遠慮なく……おいしい蕎麦は、味わわなきゃね」
     アンジェラは首を傾げるが、都市伝説なのだから考えても分からないだけだと結論を出し、薬味を使ってキレイにそばを食べる。
     対照的に村正は豪快に、つゆを飛ばしたりと、無我夢中で食べている。
    「遠慮なく堪能させてもらうとしよう。満腹のその先までね」
     お椀の中に次々と入れられるそばを、ハイナは限界を突破するまで食べる気だ。
    『はい! はい!』
     給仕の犬たちは大食いのメンバーに対し、一生懸命、次から次へとそばを配る。
     膝の上に犬を乗せてモフりながら、わんこそばをじっくり味わい、素敵な空間を満喫している、逢真。
     食べては少し休憩をし、犬と戯れ、また食べて、と繰り返していた逢真が、お椀に蓋をする。
    「うーん、食べ過ぎちゃったかな。色んな意味で、お腹いっぱいだな」
     逢真は犬を撫でて、のんびりとした時間を過ごす。
    「一瞬千食!」
     アリシアが箸を巧みに使い、一瞬で、わんこそばをすべて平らげた。
     すると厨房から、犬たちがよろめきながら出て来る。
    『もう、作れません……』
     疲れ切った声を出す、犬たち。
     わんこそば用のそばは、おそらく都市伝説の能力で出していたのだろう。
     すっかり弱体化してしまい、作れなくなったのだと、灼滅者たちは察する。
    「よっしゃあ、結構食ったし腹ごなしするか!」
    「ゆ、勇気の魔女へクセヘル……ド……ここに、さんじょ……」
     村正が席を立ち、エリザベートはなんとか名乗り、カードの封印を解く。
    「……な、なるべく動かないよう遠距離攻撃で……Pfeil Regen、魔法の矢よ……うぷっ」
    「周りがわんことモフついて幸せそうな雰囲気醸し出してるかもしれないが、普通に斬らせてもらう!」
     エリザベートが魔法の矢を飛ばすと同時に、村正が飛び出して犬を斬る。
    「もう試合終了かぇ? お代の代わりじゃ」
     まだまだ食べ足りなかったアリシアは、可憐さを追求したアリシアのマジカルロッドangelで、近くの犬を殴り、魔力を流し込む。
     戦闘能力の低い犬たちは次々と消えてゆき、残った犬たちは、容赦の無い攻撃を見てブルブルと震え、身を寄せ合っている。
    「ところで最初に思ったことは口火に使えるな? 言いにくいんだけどさ、毛が入ってるよ」
    『そ、そんなハズないワン! 僕たちの毛は落ちな……』
     ハイナのクレームに、反論しようとした犬だったが、奇譚が如き足跡で、容赦の無い飛び蹴りを食らって消えてしまう。
    「食べるだけ食べて、おなか一杯になって、ほかのみんなも満足したようだから戦闘ね。逢真くんが吸収しやすいようにするわ」
     アンジェラが加減をして攻撃し、残った犬たちは優しかった逢真になだれ込む。
    『うわーん、信じて!』
    『毛なんて入ってないよ!』
     犬たちが必死に訴えるあまり、逢真は犬まみれになっている。
     これでは攻撃の体勢に入れないなと、モフモフにまみれながら逢真は軽く笑ってしまう。
    「余裕があるので攻撃♪」
     メディックのカーリーが、逢真に当たらないよう、犬を攻撃。
    「犬モフモフじゃん。え、攻撃? あー、忘れてた」
     戦闘狂の槐だが、動物好きな為、今回は攻撃よりも犬をモフるほうに意識が向いてしまったようだ。
    「僕は七不思議使いではないから、トドメは譲るよ」
     最後の一匹になった犬を見て、ハイナが告げる。
     逢真がなるべく苦しまないようにと、優しく、加減して最後の犬を攻撃する。
    「よかったら俺の所においで。友達にも美味しいわんこそばを食べさせてあげたいんだ」
     消え掛けた犬に、逢真は優しく説得すると、もとから逢真に懐いていた都市伝説の犬は、あっさり吸収された。


    「わんこの出す蕎麦だから衛生面が気になってしまってね。実にクレーマーだ」
     ぽつぽつと呟く、ハイナ。
    「これで仕事も終わりか、また腹減ってきたな……エリザ、どっかに寄ってくかぁ~?」
    「む、無理……」
     村正が誘うが、エリザベートは、ぷるぷると震えている。
    「盛岡繋がりで次は冷麺、そしてジャージャー麺じゃ!」
     食べ足りないアリシアは、他の店に向かってゆく。
    「あー、やっぱ夏は蕎麦だな」
    「わんこそば美味しかったよ♪」
     満足している、槐とカーリー。
    「ちゃんと味わって食べると、何倍も美味しくなるのね」
     味わうことの大切さを知った、アンジェラ。
    「帰ろうか。俺の友達は優しいから、怯えなくても大丈夫だよ」
     逢真は吸収したばかりの犬たちに優しく語り掛ける。
     そう、犬たちだ。一匹だったハズなのに、短時間で増えていた。
     優しい逢真の友達なら、きっと優しいだろうと犬たちは安心し、逢真と共に帰路を辿った。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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