可憐ガール、リア充花火をドッカンドッカンやるってよ

    作者:朝比奈万理

     日がゆっくりと西に傾きつつある七里ガ浜。
     この浜から見える太平洋、ひいては江の島はとても絵になる。
     今夜、この近くで花火大会が開催されるということもあれば、当然のごとくたくさんの人で賑わうもので。
    「あー、よかった。現れてましたね」
     国道から浜辺に降りる階段の最上部で立ち止まって、月影・木乃葉(深窓の令嬢・d34599)は海の方に目を落とした。
     彼の視線の先には少女が一人。
     海の水に華奢な足を浸すと白いワンピースに海の青が乱反射し、麦わら帽子の下の表情はとても可憐。ナンパにあえばきっと、引く手数多だろう。
    「あの白いワンピースに麦わらの女の子。あの子が僕が見つけた都市伝説、リア充を爆破して綺麗な花火にしてしまうんです」
     え、あの子が? うそでしょ? と言わんばかりの仲間たちに、
    「少し様子を見れば解ります」
     と、木乃葉は立てた指を口元に当てる。
     ちょ、まてよー。つかまえてごらんなさぁーい。とキャッキャうふふしながら砂浜を駆けるリア充に。
     なぁ、キスしていい? こ、こんなところで? な、石段に座ってしたいヤツと満更じゃないイチャコラリア充に。
     彼ぴっぴとデートなう。と海をバックにセルフィしちゃってSNSに乗せちゃうヤツと、恥ずかしがりつつ嬉しいヤツに。
    「あれ、『しっとのほのお』っていう火?」
     千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)の指差す先、彼女の背中には黒い炎がめらめらと燃えあがりはじめた。
     頷いた木乃葉は、
    「元は、自分は超絶可愛いと思っていた女子がナンパ待ちをしていたけれど結局夜まで声を掛けられず、悔しさ余って広めた噂が独り歩きして生まれたのがあの子なのだということです」
     という憶測を告げ、何とかしなくては。と皆に向き直った。
    「一番手っ取り早く安全なのは、ボクたちがリア充を装って一般の人たちに目を向けさせないという方法でしょうか」
     早い話、あの少女の目に留まるほどのリア充っぷりを演出できればいいのだ。
    「あの子の攻撃方法ですが、おそらく炎です」
     嫉妬心から湧き上がる炎を投げたり、足や拳に宿らせて蹴ったり殴ったりするのであろう。
     実にシンプルで解りやすい。
     木乃葉は再び海岸を見下ろした。
    「この海岸の平和を守るため、頑張りましょう」
     告げた直後、号砲花火が打ちあがる。日が沈みしばらくしたら花火があがる。
    「あの子を倒し終えたら、花火を見ながら夏の海辺を堪能するのもいいかもしれませんね」


    参加者
    ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)
    アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)
    安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)
    月影・木乃葉(レッドフード・d34599)
    シャオ・フィルナート(猫系おとこのこ・d36107)
    神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)
    水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)
    榎・未知(浅紅色の詩・d37844)

    ■リプレイ


     刻一刻と日が西に傾き、湘南七里ガ浜は今まさに黄金の時間。
     今日は花火大会。まさにこれからが雰囲気の出るいい時間だというのに、一般人が蜘蛛の子を散らす様に海岸を後にしていた。
     国道から海岸に降りる階段の最上段で水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)が百物語で海岸周辺の雑霊をざわつかせれば、
    「この一帯は本日貸し切りですので、お引き取りください」
     葉山側の人払いを、王者の風を纏った神乃夜・柚羽(睡氷煉・d13017)が請け負う。
     一方、江の島側にはハイナ・アルバストル(塗り潰す蒼・d09743)と、殺界を形成させた茶倉・紫月(影縫い・d35017)が付いて人払いを行っていた。
     がらんとした一帯に揺らめくのは、いわゆる『しっとのほのお』。
    「……なによなによ!! 見せ付けてるわけ……!?」
     少女がめらめらと燃やすしっとのほのおは、徐々に大きくなっていく。
     一般人のが去ったというのに気づきもしない。
     なぜなら、彼女の前では2組のリア充が、強くつよく己らの存在をアピールしている為である。
    「しかも、私と同じ服装の子が、男連れ!! くやしい! しねばいいのに!!」
     目に映る女は皆、麦わら帽子に白ワンピ。
     ではここで、各リア充たちにクローズアップしてみよう!

    「疲れたね、少し座ろうか」
     沖縄で買ったかりゆしウェアにハープパンツ姿のニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)は階段に乗る砂を手で払い除けると、そこに清楚な白ワンピに身を包んだロングヘアに麦わら帽子のスレンダー美人を座らせた。華麗なエスコートである。
     スレンダー美人の正体は榎・未知(浅紅色の詩・d37844)。恥ずかしがりながらも小さく頭を下げると淑やかに腰かけた。その実、今年二回目の白ワンピ、恥ずかしいからあんまりこの格好見んな! である。
     未知に密着するように腰を落ち着かせたニコは、内心で頭を抱えていた。
     実は彼女いない暦=年齢のニコ。未知は良き悪友だが――。
    (「ああこれが本物の美少女だったらどんなにいいか……」)
     気を取り直してサングラス越しに海を眺める。
     未知はニコを気にするように、ちらっちらと彼の横顔を伺いながら思うのは――。
    (「超イイ男なのに、なんでこの人未だに彼女出来ないんだろ?」)
    「海が、綺麗だね、未知ちゃん」
     そう言いながら未知の肩をそっと抱き寄せれば、その流れでサングラスを外した。
     未知もニコの肩に頭を預ける。スレイヤーカードから立ち上がるしっとの気配は放っておいて。だ。
    「でも、君の方がずっと綺麗だよ」
    「ばっ、馬鹿じゃないの!」
     ニコに褒められて、恥ずかしさのあまり思わずそっぽを向いた未知。その頬は赤い。
     だけど、そっとニコに向き直った。ツンの後のデレ炸裂である。
     二人は顔をぐっと近づけて、唇を重ねるのであっ――。
    (「……た。の前に、都市伝説はよ!!」)
    (「都市伝説よ早く釣られろ!!」)
     ニコと未知の唇は、付くか付かないかのぎりぎりの狭間で震えていた。

    「あの、優……この服ね、優に見てほしくて……どう、かな……似合う?」
     白ワンピの裾をひらりとひるがえし、シャオ・フィルナート(猫系おとこのこ・d36107)が神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)を小首をかしげながら見上げた。藍色の長い髪からはいい香りが靡き、麦わら帽子の中から覗く顔は元の顔つきも相まってメイクも映え、まさに乙女そのもの。ネイルアートも海岸と空をイメージした青のグラデーション。
     先ほどまで自分に引っ付いていたビハインドの海里には、スレイヤーカードにお戻りいただいた。これで心置きなくリア充を演じることができる。と、優はにっこりと笑んで見せる。
    「あぁ、とっても似合うよ」
    「えへへ、嬉しい」
     優に褒められてシャオは柔らかくはにかんだ。
     と、突然のいたずらな風がシャオの麦わら帽子を空に舞わせる。
    「あ、帽子が……」
     慌てて踵を返したシャオ。しかし砂に足を取られてバランスを崩して転びそうになったところを――。
    「シャオ!」
     優が寸でのところで抱きとめた。砂地にスカートの裾が付いて気にするシャオをさらに強く抱き。
    「服は兎も角、お前が……」
    「あ、あの……優……」
     あまりに近くで、シャオの頬がなお一層紅に染まる。
     そのまま、二人は流れに任せて――。

    「ステキな白ワンピのお嬢様方、一緒にお茶をしませうか?」
     安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)は、麦わら帽子にランニングシャツ、半ズボンという出で立ちに、両手に虫かご虫取り網の『正しい日本の夏休みスタイル』で、二人の少女に声を掛けた。セリフ回しも古風である。
    「え、わ、私?」
     声を掛けられて振り返ったのは、都市伝説だけではなかった。
     都市伝説の隣には、麦わら帽子に白ワンピ姿の月影・木乃葉(レッドフード・d34599)。作戦前に都市伝説疑惑をかけられた事で、疑いを晴らし冤罪を押し付けられないように、やる気は満々であった。
    「え、私ですかぁー?」
     女の子より女の子らしく振舞う木乃葉。
    「ちょっ! なんで私とそっくりなの! 私が誘われたのよ! ねぇ、あなた……」
     突然のライバル登場に声を荒げた都市伝説が目にしたのは、もう一人の少女。
     麦わら帽子から長髪を棚引かせ、白ワンピから丁寧に手入れされた脚を覗かせた千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)。
     ジェフはキュートな木乃葉とスレンダーな花近に手を伸ばし。
    「美少女が二人、誘わないのは失礼ですよ。イギリスでは女の子とのデートなんて挨拶みたいなものですから」
     と、二人をエスコート。
    「……そうですね、お茶、行きましょうっ」
     花近はその長身に似合わず、かわいらしく可憐に笑み返し。
    「あら、そんな照れますわ……では、エスコートをお願いできますかしらムッシュ……」
     呆気に取られている都市伝説に追い打ちをかけたのは、木乃葉の優雅に答えた後の、ドヤ顔だ。
    (「見たか2Pカラー。これ男同士だし、僕は彼女いない歴イコール年齢なんだぜ!」)
     顔で笑って心で泣いて。花近は思わずハンカチを手渡した。
     その血の涙、拭きなよ……。

    「今年もやってきましたねRBの季節……てか、これで引っかかる方が馬鹿すぎね? 違和感ないのが何人も混ざってるのが原因とはいえ……」
     花の簪に合わせて女物の浴衣に身を包んだアトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)が呆れたように苦笑い。
     唯一の女子である紗夜も、頷きながら虚無の瞳で木製のバットで素振りを繰り返す。
     囮役になり甘いリア充を演じるのは性に合わない。だけど、男同士の囮と分かっていても荒れ狂ってしまうマイハート。
    「で、先輩は、爆破、しないの、かい?」
    「ん? そりゃ本物なら俺も爆破するぞ? でも、今回は依頼だし、知り合いな上に男だしでやる気が出ないだけで。で、お前は水着で素振りか」
    「僕、なんで、こんな格好で、素振り、してるん、だろうね」
     首をかしげても素振りはやめない。それほどビックバンなのである。
     穏やかな会話を交わしながらも、ブォンブォンと木製バッドが風を斬る音が響く。
     サウンドシャッターしとくべきかな。と、紗夜が考え始めたその時――。
    「ふ、ふ、ふざけるんじゃないわよーー!」
     女の金切り声とともにまず階段が爆発する。続いて間髪開けずに砂浜が爆発し、その拍子に天高く花開く7発の花火。
     打ち上げられた灼滅者はというと。
    「にゃーーんっ」
     意図して海にダイブするシャオを筆頭に、爆破された面々は空中で態勢を立て直して狙い通りの場所に落ちた。


     階段から降りてきた紗夜とアトシュも合流し、9人の灼滅者が都市伝説を囲む。
    「解せない解せない!! あんたたちがリア充なんて、解せないわよ!!」
     囮役の灼滅者の奮闘が叶い、都市伝説はかなり弱体化が進んでいた。こんなに近くにいるのに白ワンピの灼滅者が未だ女に見えているあたり、弱体化しすぎて現実が見えていないようであった。
    「私の方が、超絶可愛いじゃないの!!」
     どーーん!
     叫びと同時に狙撃手と回復手を襲ったのは、砂地から吹き上がる激しめなしっとの炎。それを守り手が余さず守り切る。
     未知は、自分を守ったビハインドの大和も顔を見た。小さなへの字口は心なしか拗ねてる証拠か。
     こっちの機嫌も直さなければと思うが、都市伝説への憤りの方が勝る。
    「もっと早くしかけて来いよ! 危うくニコさんとチューするところだったじゃねぇか!」
     叫んでも歌声は高らかに。未知が惑いの歌を海岸に響かせれば、大和はその歌に合わせて霊障波を飛ばす。
    「は? なにそれ本当はチューしたかったっていうツンデレ? もう一回しっとの炎で爆破してあげましょうか!?」
     耳をふさぎながら叫ぶ都市伝説に、エアシューズ『stiefel』の力を持って炎を蹴りだすニコ。
    「そう、危うくファーストを男に捧げるところだった……何がしっとの炎だ! 俺が爆破したいわ!」
     連発する舌打ちに隠し切れない苛立ちが滲む。仕方がない、彼女いない歴イコール年齢だから憤りも一入だろう。
     ニコが叫ぶのは珍しいこと。
    「いい男が涙目になってんじゃないわよ! 涙拭けっ!」
    「な、泣いてなどいない!」
     と、炎に巻かれる都市伝説と本当に涙目のニコが言い合う中、
    「色々なRB都市伝説と戦ってきましたが、珍しいタイプですね」
     可憐な女の子型とは。奴らは皆、おっさんだったりマッチョの二人組だったりしたものだが。と、ジェフはふと過去のリア充爆破都市伝説を思い起こし、体内から噴き出す炎を得物に宿して都市伝説に炎を叩きつける。続いてタンゴも咥えた刀で斬りかかった。
    「ナンパ待ちという文化は聞いた事がありますが、白ワンピの人は声をかけられると迷惑に思うタイプが多いのは?」
     清楚系は、そういうのを嫌いそうであるし。皆がうんうん頷く。
    「それに、気が付きませんでしたか。白ワンピとあの浴衣は男ですよ」
    「は!? おとこぉ?」
     炎を払いながら都市伝説があんぐり口を開けた。
     シャオは得物の『断罪の剣』を白く光らせると。
    「俺はリア充の芝居、楽しかったよ」
     未だに信じられない様子の都市伝説に斬りかかる。
    「……芝居? お、俺ぇっ!」
     驚きの表情を隠せない都市伝説に、優は白ワンピの男どもを指し示し。
    「シャオと榎と月影と千曲。アトシュな。女は水燈だけだ」
     優に紹介されて、どうもー。と手を振る白ワンピと浴衣。紗夜は憐みの瞳を都市伝説に向ける。
     優はその隙にと、標識である『どうせ生える』を黄色く光らせて守り手を癒した。
    「……じゃぁ、あなたの隣にべったりなその子が……!」
     都市伝説が息を呑んで指差す先には、優の隣にべったりくっつくのはビハインドの海里。やっと表に出られた嬉しさと、無理やり引っ込められていたことへの憤りから、優の周りを行ったり来たり。
     優と海里がリア充だと勘違いしてる……?
    「だから、違うって言ってるでしょぉ!」
     海里を自分から引っぺがして都市伝説に投げつける優。意図せず霊撃が都市伝説を襲うが、海里哀れ……。
     カオスな空気は花近がロッドを振るっても払拭されない。
    「私、超絶可愛いし、器量も愛嬌もあるのに、どうして私が非リア充で、こんな男同士がリア充なわけ!?」
    「あー……その自意識過剰はどうかと思うぞ……」
     囮役のうち数人は本当にリア充なのは、黙っておこうか。騒ぎ立てる都市伝説の死角に回ったアトシュは、凶悪な笑みと共に彼女を斬り付ける。
    「経緯はどうであれ、あなたも立派な同士。せめて安らかに眠れ」
     本当は別のサイキックをと考えていたが作戦変更。男が好き好んで麦わら帽子に白ワンピの女装して、相手の男とリア充していると見えているならば、これは早く送ってやった方がよさそうだ。
     波打ち際で紗夜が得物の『永却』をふるえば、足元では水飛沫があがる。
    「大丈夫、僕は君と考えを共にしているからね」
    「おぉ、心の友よ! この際女同士でもいい! お姉さま――」
     目を輝かせて自分に抱き着こうとする都市伝説を、キュッと鞭剣で縛り上げる紗夜。
    「生憎そういう趣味は持ち合わせてはいないのでね」
     紗夜と変わって都市伝説に殴り掛かったのは、紫のドロドロしっとオーラを漂わせる都市伝――木乃葉。
    「っ! 何そのオーラの色、ヤバい!」
     リア充爆破都市伝説ドン引き。彼女に言われたら流石に終わりだ。
    「そちらだって、ほのおが真っ黒ですわ! お互い様ではないのかしら?」
     白ワンピの呪いだろうか、未だに口調がお嬢様口調である。木乃葉のオーラがさらに燃え上がり何度も何度も連打をぶちかました。
    「もしあなたが都市伝説でなく灼滅者であれば、気が合い交際の道もあったかもですね……」
     波打ち際に仰向けで沈んだ都市伝説に、拳を握り締めてにやりと笑った木乃葉。
    「あなたと交際? ……それは素敵ね」
     そういうと静かに瞳を閉じた都市伝説。
    「あなた達に私のしっとの心を継承するわ……。どうか私の代わりに、しっとのほのおを……燃やし続けて」
     最後にこんな言葉を遺して、都市伝説は泡となって消えていった。
     しっとの心? そんな心いらねぇよ。と思う者もいれば、その心を受け継いでしっとの心を新たにする者もいて。
     これはしっとの心を燃やすものとしての冥利に尽きたのではないだろうか――。


     すべての人払いを解いたら、続々と人が帰ってきた。
     日が西に沈み、辺りがゆったりと青く暗くなるころに、沖合から一つ二つと花火が撃ちあがる。
    「あ……」
     波打ち際で紗夜を待っていた柚羽は思わず声を上げた。
     遠くからやってくるのは後輩の紗夜。その紗夜に引っ張られ……いや、引きずられているのは紫月だ。
    「扱いが酷いのは気のせいか? 引き摺られているのも気のせいだな」
    「まったく、腐敗しかけないでくれよ」
    「腐敗? 何のことか……」
     柚羽から突然の接近禁止令を出されて半月。
     紫月は明らか腐っていて、ドンと打ちあがる花火を見て去年の臨海学校を思い出していた。

     人ごみの中で見た、大輪の花。
     浴衣姿の柚羽と見たのだ。
    「……て、あれ? ゆーさん?」
     柚羽のことを考えていたから幻でも見ているのだろうか。紫月は思わず駆け出して。
    「本物?」
     見つめられて柚羽は微かに眉根を寄せて、紗夜に視線を送る。
    「……確かに、女子だけでとは言っていなかったですね……」
     小さく息をついて、小さく告げる。
    「しーくん、接触禁止令を解きます」
     半月以上も彼を避けていた。だから、もう。
    「え、接禁令を解くって……よかった。嫌われたかと思ってた……」
     思わず抱きしめてしまいそうになるが、ぐっとこらえる。手を繋ぎたい衝動もぐっとこらえる。なぜなら。
    「……リア充ビックバン……」
     ぼそりとつぶやいた紗夜のひんやりとした視線。
    「じゃぁお二人さん、ごゆっくり」
     踵を返す紗夜。
    「紗夜、お前も一緒に居ろ。1人で見るより複数人で話しながら見る方が楽しいから」
    「そうです、3人で花火見ましょう」
     と紫月と柚羽は息ぴったりで、紗夜を引き留めた。
     鮮やかな色彩を空に描く花火を見上げるうちに、紫月は服にかかる小さな重みに気が付く。
     それは、自分の服の裾をぎゅっと掴んだ柚羽の小さな愛情表現。
     一方、残りの灼滅者たちは誰もいない岩陰で花火を見上げていた。
     屋台で食べ物を買い込んだアトシュは、それらをもぐもぐ。
     完全に花より団子である。
     対して花近はキラキラした瞳で、またハイナは無表情で花火を見上げていた。
    「仕方がないとはいえ、本当にすまなかった」
     平謝りのニコと未知の間には、体育座りの体の大和。完全に拗ねていらっしゃる。
    「あれは演技だったんだって。大和機嫌直せってー」
     その間も、一つ、また一つと大輪の花が夜空に咲き誇る。
    「二ホンの花火は凝ってますね。美しいです」
     着替えて浴衣姿になったジェフは次々に打ちあがる花火を見上げ。
    「これからは発明品の自爆装置の火薬にも、あの美しさを取り入れてみますか」
     ……爆炎の中から上がる花火も、なかなか乙なものになりそうである。
    「……海里、離れ……、しがみ付く力強くなーい?」
     優は海里にべったりとくっつかれていた。剥がそうとしても首を振られてしまう。
    「シャオとは演技だって……!」
     説明しても離れる気配はない。優は小さく息をついて、海里の好きなようにさせておく。
     満足するまで、このまま花火を見上げていようか。
    「キレイだねー」
     花火を見上げてうれしそうなシャオ。
    「おぉ、リア充がいっぱい……爆破していいっすかね……」
     対して、未だ目が濁りすぎている木乃葉の視界には、少し離れた場所の一般人のリア充しか見えていない。
    「木乃葉さん、はい」
     シャオに呼ばれて手渡されたのは、花火爆弾。
    「たーまやー」
     笑顔のシャオに木乃葉もにっこり笑を返しながら、渡された花火爆弾を手にシャオを追いかけ始めた。
    「おら、お前もオチになるんだよ!!」

     リア充である者とリア充を憎むもの。
     それぞれが一緒に見上げる花火は、今年もとても美しかったことだけは、確か――。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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