これまでのあらすじを語ろう。
カードデュエリスト挑武とギタリストジョニー。二人のアンブレイカブルを前にギリギリの激闘を繰り広げた八人の灼滅者たち。
挑武との宿命のデュエルを繰り広げた皇・銀静(陰月・d03673)。
レスラーの誇りを胸にリングを守ったリリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)。
ジョニーとの激しいラッシュを交わしたリアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549)。
身体を張って仲間を守った蔵座・国臣(殲術病院出身純灼滅者・d31009)。
そしてその戦いをギリギリまで耐えた朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889)。
彼らは激しい戦いの中で傷を負い、しかしうっすらと回復した意識で身体を起こしていた。
「二人が、ダークネスの力に呑まれていく……」
くしなの目の前で、小谷・リン(小さな凶星・d04621)と平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)はダークネスへと急速に変貌していった。
灼滅者だった頃の意識は、少なくとも表層には残っていない。
苔石・京一(こけし的な紳士・d32312)が戦闘態勢のまま間に割り込んだ。
「皆さん。その身体で連戦は無理です。ここは撤退して下さい」
「ですがあなたは……」
「大丈夫。すぐに援軍が駆けつけます。聞こえるでしょう、足音が」
一方で二人の闇堕ちは済み、黄金のステージにはダークネスとなった小谷・リンと平・和守が観客たちを見回すように立っている。
「彼らが我らの『贄』か。どうやら、新たな灼滅者も近づいてきているようじゃの」
ぶわりとわき上がった禍々しい闇が、リンを螺旋状に包んでいく。
「どれ、半分くれてやろう。その後、協力してこの場を脱するのはどうじゃ」
話をふられ、それまで黙っていた和守がついっと顎を上げた。
闇のような迷彩色に彩られた全身鎧(フルアーマー)。真っ赤なゴーグルが光るヘルメット。
小銃を手にとって、リンへと視線を向けた。
「武蔵坂学園……灼滅者……。彼らは、ダークネス社会の平和を脅かす、テロリストだ。断固として殲滅せねばならない」
だが、とリンに向き直る。
「テロリストに背を向けて逃げることは貴様とて許されない。正々堂々、戦って切り抜けるべきだ」
「意見の対立……というわけでもなさそうじゃの。よかろう」
二人の視線が、京一へと向けられる。
京一は独特の戦闘態勢をとると、緊張に胸を鳴らした。
「最初からわかっていたこと。必ず、助け出して見せますよ。さあ、来なさい!」
参加者 | |
---|---|
鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181) |
夏雲・士元(雲烟過眼・d02206) |
皇・銀静(陰月・d03673) |
ゲイル・ライトウィンド(カオシックコンダクター・d05576) |
柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607) |
苔石・京一(こけし的な紳士・d32312) |
百道浜・華夜(翼蛇・d32692) |
楯無・聖羅(冷厳たる魔刃・d33961) |
●人生はいつも手持ちのカードでしか勝負ができない
傷ついた仲間たちが撤退し、代わりに和守とリンの闇堕ちを知った仲間たちが駆けつける。
苔石・京一(こけし的な紳士・d32312)はその時間を稼ぐかのようにダークネス二人の前に立ち塞がったが……。
「お手伝いしますよ」
カードデッキのようなものをポケットにしまい込み、皇・銀静(陰月・d03673)が彼の横に並んだ。
「いいのですか? その傷ついた身体では……」
「この作戦は倒すことが主眼じゃない。儀式の強制力に引きずられた仲間を取り戻すことです。なら、僕にも出来ることがある」
「承知しました。では、私の後ろに」
そんな会話をしている間に、リンと和守は戦闘準備を整え終えていた。
「下らぬ話し合いは済んだかの」
「下らないかどうかは後で証明するよ、センパイ」
護符を扇状に広げて構える夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)。
「ええ。あなたの心、必ず取り戻してみせるわ」
コンバットスーツに着替え、格闘姿勢をとる鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)。
「心。心なあ」
闇堕ちしたリンは、堕ちる以前とは比較にならないほど表情豊かに、そして冷酷に大笑した。
「斯様な存在に心などあるはずもなく。我はただひたすらに、殺戮を楽しむモノ也!」
両手の間に大量のナイフを生み出し、襲いかかるリン。
その一方で……。
「もう仕掛けるか。負傷者を相手に正々堂々とは言えないが……致し方ない」
闇堕ちした和守もまたの戦闘に加わろうとした、が。
「和守さん。こっちを見てください」
声に思わず振り返る和守。
そこには、ライドキャリバー・エスアールに跨がった百道浜・華夜(翼蛇・d32692)の姿があった。
「引っ張り戻しに来ましたよ。仕方なくね」
同じく剣を抜くゲイル・ライトウィンド(カオシックコンダクター・d05576)。
「二人とも戦うべき相手を間違えている。厄介なことになる前に、止めさせて貰うぞ」
ギターケースを足で蹴り開き、中から飛び出したアンチマテリアルライフルを掴み取る楯無・聖羅(冷厳たる魔刃・d33961)。
美しい刀を抜き、和守を囲むように位置取る柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)。
「絶対に、アナタたちを闇に沈ませたりなんてしないよ!」
「何をごちゃごちゃと……」
ヘルメットに手を添え、ゆっくりと首を振る和守。
「闇こそ平和。脆弱な人類文明を栄えさせ、今日の平和な日常を維持しているのは闇あってこそだ。平和をかき乱す灼滅者(テロリスト)どもめ、俺がたたきつぶしてやる!」
和守のアーマーが低くうなり、各所の赤いランプが煌々と輝き出す。
こうして、二人の闇堕ち下仲間を救うための戦いが幕を開けた。
先に待つのは――灼滅か、救済か。
●「わたし、きる、するだけ。けど……」
様々なナイフが弾幕の如く飛来し、銀静を襲う。
傷ついた彼を真っ先に潰す作戦だ。それはリンが生来もっていた冷酷で強かな性格ゆえとも言えたが、闇堕ちした現在の残虐さゆえのものとも言えた。
しかし。
「黙ってやらせるわけないじゃない」
逆手に握ったコンバットナイフで致命的なものだけをたたき落とし、残りを自らの身体でうけとめる狭霧。本来ならヒットアンドアウェイで効率的に立ち回る彼女だが、リンの容赦ない攻めの前では被弾箇所を限定させて致命傷を防ぐのが精一杯だった。
「貧乏くじ引かせたみたいね、小谷さん。でも、だからって虐殺を見逃すワケにはいかないわ。彼の話を聞きなさい!」
「リン……」
指をつきつけ、銀静は語り出した。
「過去の記録を読みましたよ。食を楽しみ美を楽しみ、和を楽しみ……君は純粋にあらゆることを楽しんでいた。君はきっと、本質的には優しい子なのでしょう。そしてこんな殺戮を、君は決して望まない」
「おぬし、誰のことを言っている? そんな戯言、聞く価値ももたぬ」
そう言いながらも、ナイフの勢いが弱まったことを狭霧は肌で感じた。銀静に続けるように目配せする。
「『きる、する』。一見無感情に見えるこのスタンスは、周りの誰かを傷付けさせないためです。現にあなたは僕を闇堕ちさせまいと汚れ役を奪っていった。そんな君の身体を好き放題動かしているのは、君の兄を騙った『にせもの』だ」
「……」
「君が地獄に落ちようが、奈落の底に沈もうが、僕はあなたを助けます。更に言わせて貰えるなら……リンの口調のほうが、可愛いと思いますよ」
「――ッ!」
リンのナイフが激しい渦を巻き、殺意の嵐となって銀静たちをかき乱した。
ラビリンスアーマーを展開して攻撃をしのぐ玲奈。
「リンさん、もう分かってるんでしょ。そのダークネスはお兄さんなんかじゃないって。そこは、あなたの居るべき場所じゃないって。私の後ろを見て!」
手を翳す玲奈。リングの力に呑まれ自意識無き観衆となった人々を指さした。
「この人たちにも家族がいる。悲しむ人が居る。それをアナタは知ってるはずだよ!」
「そうですリンさん。あなたにも戻ってきてもらわないと意味が無いんです!」
華夜が玲奈に重ねるように呼びかけた。
彼女たちを排除すべく、大ぶりなナイフで斬りかかるリン。
それを、聖羅は美しい日本刀で受け止めた。
「随分と理解を示されているようだな。関わりないように見えながら、仲間意識は強いらしい」
片眉を僅かに上げ、表情の曇ったリンを見た。
「どうだ。このまま戦い続ければお前は確実に死ぬ。私はそうしてやってもいいぞ、死ぬまで憂さ晴らしをするがいい。私は命など惜しくないが、お前はどうなんだ」
僅かな力加減を見極め、リンを蹴り飛ばす聖羅。
圧倒的な個体差があったはずのリンが、格闘で押されていた。
ゲイルが『あとは任せますよ』と言って夜霧隠れを展開する。
霧に覆われたリング上で、士元と京一がリンを挟むように陣取った。
「今のキミは嘘つきだ、リン。お兄さんのふりをするのも、心が無いふりをするのも、だってキミは言ったよ。『くらすめいと……欠けるの、絶対、嫌だ』って」
表情がまるで動かず、言葉を繋ぐのが下手で、不器用な彼女だけれど。
「キミはあんなにも、感情豊かじゃないか。今の『それ』は、自分への裏切りになる」
こくり、と京一は頷いた。戦闘姿勢を解き、滅多に見せない素顔を晒した。
「あなたが自分を犠牲にしてとどめを刺さなければ、銀静さんや私がそこにいたでしょう。そしてその場合、いまここに立っていたのはあなただった筈です。あなたはそういう人間だ」
「……」
京一の言葉を否定することは簡単だった。はねのけることも、耳を塞いで斬り殺すことだってできたはずだ。しかし……。
「あなたは色々なことを成し遂げてきました。だから、自分の闇に打ち勝つことだって、できるはず。そして何より、あなた自身がそれを望んでいるはずです!」
「五月蠅い!」
ついに、リンは耳を塞いで後退した。
まるで破壊を楽しむような表情が沈み、見慣れた無表情へと変わっていく。
●「世界の平和は俺が守る。俺が、正義最後の砦だ」
和守の弾幕を防ぐことは、人外のパワーをもった灼滅者たちにとっても至難の業であった。
柱という柱が消し飛び、壁という壁が崩壊していく。
「逃げるな、戦え! 卑劣なテロリストどもめ……!」
一方で、崩壊した柱を盾にしていた銀静と玲奈は頷きあった。
「説得を頼みます。弾よけ任せてください」
「でも……ううん、わかった!」
銀静が魔剣を呼び出して防御姿勢をとるかたわら、玲奈は和守に呼びかけた。
「和守さん! アナタのまもる平和は誰のための平和なの? 戦う力のない人たちを守るためでしょ!」
「ダークネスを何人も手にかけたお前たちが今更――」
「今更なのは和守さんのほうだよ。今日の私は、ひと味違うんだから!」
銀静が耐えきれなくなる頃、玲奈がシールドを展開して突撃した。
ショルダータックルで迎え撃つ和守――へ、素早く背後に回った狭霧がナイフをねじ込んだ。
「私たちがテロリスト? 違うわね、政治目的も無ければ破壊や虐殺もしない。これから一般人を皆殺しにしようっていうアンタの姿が、テロリストそのものなんじゃなくて?」
「違う! 一般人を虐殺することはダークネスの平和を守る大切な……ぐうっ!」
ばちん、と和守のヘルメットにスパークが走った。
「そもそも、平和ってのはそんな主観的なモノじゃないわ。互いの無理解から平和は瓦解していく。それがたとえダークネス相手であろうとも、私たちはそうしてきた。ちがう?」
「ち、違う! 灼滅者を殲滅することが、世界の、平和に……!」
「笑えるな。お前の守るべきものはそんな腐った社会だったのか」
隙を突いて叩き込まれたライフル弾が、和守に直撃した。
聖羅が鋭く語りかける。
「ダークネスとは人間社会の平和と秩序を奪う存在だ。平和の守護者がそんな奴らに魂を捧げる理由がどこにある」
ダークネスのもつ矛盾のひとつ。
人間を自らの根源ととらえておきながら、家畜のように扱う。
殺し、洗脳し、誘惑し、絶望させ、社会を歪めていく。
ゲイルが好機とみて語りかけ始めた。
「いやいや平さん、素晴らしい二枚舌ですね、恐れ入る」
「なんだと……」
「僕はルイスくんの言った食物連鎖が最適解だと思うんで全く同意は出来ませんが……それでも平さん、貴方は僕に言って見せた。『ダークネスや俺達が神様紛いの不思議な力で横槍を入れるべきじゃない。考える能力があるんだから、人間の問題くらい人間が解決せんでどうするよ』って」
「…………」
和守のアーマーが各所でスパークをおこし、赤いライトが弱まっていく。
「つまり貴方は、人間の平和は管理されて与えられる物ではなく、自分で考えて積み上げていく物だと、僕にそう言ってのけた。その貴方自身の信念を、そうして闇に呑まれたまま虚言としてしまうのですか?」
「ぐ、う……」
いかに闇堕ちしようともその本質を喪わなかった和守は、その本質がゆえに自己矛盾をおこしていた。
言葉を重ねにかかる京一。
「貴方が考える秩序と平和とはなんですか? 親しい人に悲しみを与えている今が平和ですか? あなたが本当に望んでいる平和を手にするために今すべきことは分かっているのでは?」
「すべきこと、は、テロリストの殲滅……テロリスト、とは……」
闇雲に放ったバースト射撃を、士元が護符の障壁ではねのけた。
和守のもつ膨大な火力が、大きく弱まっているのだ。ライトも今やほとんど光を失っている。
「平和とは敵を排除することじゃない。彼女と存分にイチャイチャできる環境だよ、和守センパイ。現に、そこにいる。センパイは彼女をどうしたい?」
「俺は、貴様たちを、破壊して……!」
混乱を振り払うかのように繰り出したコンバットナイフ。
しかしそれは、第二形態に変形したエスアールの突撃によって相殺された。
様々な思い出がゴーグルの内側をよぎる。
ダークネスとなっても尚残る、灼滅者だった頃の思い出が。
「和守さん。今のあなたにとっては私も平和を脅かすテロリストですか? もしも、そうなら私はとても悲しいです」
「そ、そうだ。貴様は、テロリスト……」
「だとしても、それはそれでいいんです!」
両手を腰に当て、華夜は胸を張った。
向けたライフル。しかし照準ががたがたと震えている。
兵士が子供を撃てなくなるように、和守は今堂々と胸を張った少女を撃つことが出来なかった。
「大体、和守さんは平和とか秩序とか高い目標を言ってますが、その割に精神面が弱すぎるんです! そうやって意固地になっていたら、後でつらくなりますよ!」
「い、意固地になどなってない!」
意固地になっている人の言い方だった。
もはや完全に華夜のペースである。
「社会の平和を守るために身を粉にして戦うのあなただから。人々を虐殺する平和なんて望まないって、私は知っているから……だから、そんなあなたを、今私が守ります!」
蛇のようなベルトを複雑に展開し、華夜は和守をびしりと指さした。
一方の和守はヘルメットのスパークが限界を超え、ついにはゴーグルが面が砕け飛んだ。
●あなたを知っているから
リンと和守の、邪魔なものを力ずくで振り払うような猛攻。それを最初にとめたのは銀静だった。
皆の前に立ちはだかり、攻撃を一身に受けとめる。
「後は任せますよ」
「任されとくわ」
銀静を味方にパスして、狭霧が和守へと飛びかかる。
彼女のナイフ術が、和守の巧みなナイフ術を僅かに上回って装甲の隙間へと滑り込んだ。
更に、後ろに回り込んだゲイルが剣でもって背部装甲を砕きにかかる。
ひどく広がったヒビ割れめがけ、聖羅がスコープごしにターゲットをロック。引き金をひくや、ライフルから放たれた弾が装甲を破壊。和守の姿をさらした。
目を見開く和守。
そこへ、エスアールに直立乗りした華夜が突っ込んでいく。
「愛しています。和守さん!」
座席から飛び、弾丸そのものとなった華夜の拳が、和守の頬にめり込んだ。
一方、リンはその強さを遺憾なく発揮しながら玲奈を押し込んでいた。
しかし表情はなく、まるでかつてのリンのように鋭く純粋な太刀筋を打ち込んでくる。
だからこその強さであり、だからこその苦戦である。
しかし。
「リンさん、必ず連れ戻すよ!」
剣が撥ね飛ばされ、急所めがけて打ち込まれる。
心臓部へ差し込まれたナイフをそのままに、玲奈はリンの腕をホールドした。
「今だよ!」
士元が、京一が、リンの背後に現われた。
二人は掌底をリンの背に押し当てると……。
「何度も闇堕ちした仲間を助けたキミだから、この後のことは分かるよね」
「苔石流柔術の真の力、お見せしましょう」
二人から伝わった激しいエネルギーがリンの中を暴れ、そして爆発した。
意識を飛ばされ、崩れ落ちるリン。
和守とリンは、その場にぐったりと倒れている。
リングの力から開放された人々はへんなイベントにうっかり参加してしまったという顔で散り散りに去って行き……。
そして、和守とリン。
二人の灼滅者は、仲間たちに抱え起こされた。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年8月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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