狂戦士たちのデスマーチ~後編

    作者:長野聖夜


    (「良かった……」)
     宙を舞う舞姫の急所を黒鋼の双翼でズタズタに斬り裂いた柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232) が、何処か安堵を感じさせる笑みを浮かべて意識を闇に呑まれながらそう思う。
     高明の愛機ガゼル事、彼を飲み込む闇を見ながら、唖然とした表情でその様子を擬視する槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877) に向けて笑って見せた。
    「高兄……!」
     守れなかったことに対する悔恨の表情を浮かべる康也を見て、高明は思う。
     ――こいつが目の前で堕ちる姿を見ずに済んで良かった、と……。
    「アステネス先輩、柳瀬先輩……?!」
     幾度か戦いを共にしたことがある有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)の悲壮な表情を見て、ほんの少しだけ胸が痛んだ。
     ――けれども。
    「康也。お前達なら必ず俺達を助けてくれると信じているぜ。だから……帰ったら一緒に缶おでん食べような!」
     そう言ってサムズアップを康也達に向けて……高明の表情から笑顔が消え、まるで機械の様な無表情へと変わっていく。
     その心も又、闇に塗り潰されていくのを感じながら……それでも尚、高明は仲間達の事を信じていた。
    「有城……今のお前を此方に行かせることは出来ない。理由が知りたければ……私を救ってくれよ。私はお前達を信じている」
     冷静な表情のままにレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162) の告げる言葉に絶句する雄哉。
    「まあ、灼滅はされないでくれよ?」
     レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)の呼びかけにレイは頷き。
    (「任せたぞ……」)
     闇に意識を飲まれながらもレイは信じる。

     ――北条が送り出した仲間達が自分達を救うことを。


    「……掃討開始」
     ガゼルを取り込んだ機械じみた駆動音を上げるラプターの声。
     けれども……ただ、淡々と目の前の敵を殺戮せよと命じる本能の中に、雑音の様なノイズが混じっている。
    (「まだ……抵抗するか……」)
     自分の中でまるでエラー音の様に鳴り響く其れを耳にしながら、ラプターは目の前の康也達灼滅者を淡々と見据えている。
     その様はまるで危険を排除する無機質な機械の様で。
    「それでは、始めましょう。新たなる戦いを」
     何処かわざとらしい作り物めいた口調で大仰に告げるはミゼン。
    「さーて、諸君。さっきのは前座だ。これからが本番だぞ」
     飄々と、けれど何処か愉しげにレオンが告げれば。
    「高兄……今度も俺が絶対に救って見せる! それで……皆で缶おでんを食べるんだ……!」
     康也が自らの心に突き刺さる棘を振り払う様にそう叫び。
    「……いろはは堕ちれなかったか。まあ、それなら今は只あの人を殺す為に前に進むだけだけど」
     四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)が何処か悟った様に溜息を一つつきながら腰の刀に手を乗せて構え直し。
    (「何で、何で僕はいつも……いつも……!」)
     雄哉が血の滲まんばかりに唇を噛み締めて2人を睨みつけ。
    「さて、第2ラウンド開始ってね。忘れちゃ駄目だよ、皆。病気と怪我以外で殴って治せない物は無いんだってことをね」
     ハノン・ミラー(蒼炎・d17118) がそう告げれば。
    「そうだね。2人を倒すんじゃない、救う為に最善を尽くすよ、私なりに……」
     久我・なゆた(紅の流星・d14249)が静かな気迫を込めて呟き、レムがそれに応じるようにニャアと一鳴きする。
    「それでは諸君、張り切っていこうかね」
     レオンの言葉を合図にして。
     灼滅者達は、ラプターとミゼンに襲い掛かった。


    参加者
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    阿剛・桜花(年中無休でブッ飛ばす系お嬢様・d07132)
    久我・なゆた(紅の流星・d14249)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    カルナヴァル・ジンガムル(俺の指揮を見ろや・d24170)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)

    ■リプレイ


    「絶対、全員でっ」
     久我・なゆた(紅の流星・d14249)が上空へと飛び出し、両手から気功を放つ。
     気功弾がミゼンに吸い込まれると同時にレムが猫魔法で追撃。
    「私を狙いましたか。まあ、そうでなければ面白くないですね」
     ミゼンが何処からともなく取り出したクラブのカードをその身に浸す。
     傷を修復しミゼンの周囲の闇が勢いを増した。
    「何と言うか知り合い連中も含めて男衆は世話が焼けるよ。しかも待っている女が居るのに限って面倒臭い事になるし」
     四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)が溜息をつきながら、一瞬でラプターとの間合いを詰め納刀していた大太刀【月下残滓】を抜刀。
     湾刃の波紋を持つ美しい白銀の刃が妖艶に煌めきラプターの脚部を斬り裂いた。
    「……排除開始」
     機械のような音を立てたラプターが目の前にいる槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)を機械触手で貫こうとしたその時。
    「させませんわ!」
     康也の前に立ち塞がる女性。
     大地に根付く幹の様にしっかりと両足でリングに踏み込んだその女性は、緋色の髪を風に靡かせ立っていた。
     阿剛・桜花(年中無休でブッ飛ばす系お嬢様・d07132)。
     高明の、最愛の人。
    「桜花?!」
     高明の闇堕ち姿を桜花に見せてしまったこと、そして自身の目の前で彼が堕ちたことを見た動揺を落ち着けるべく胸元に潜ませた焼け焦げたクリップの破片を触って確かめながら康也がその腕を銀爪へと変化させ、ラプターを斬り裂く。
     その様子を見ながら小さく息をつく桜花。
    「大丈夫って言ってたのに、また無理して……。帰って来なかったら承知しないんですから!」
     そんな桜花の背に帯が放たれ触手に貫かれた傷を回復。
    「もしもし聞こえる? もう一度連れ戻しに来たよ。今回だってレイを待ってる人が、あーらなんと目の前に! ……彼の為だけでもいいから戻ってきなよ。俺らはアンタらの為に全力を尽くすからさ!」
     カルナヴァル・ジンガムル(俺の指揮を見ろや・d24170)が冗談めかして、けれども真剣に告げつつ軽く肩を強張らせる有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)を指差す。
    「ヒューヒュー! あっつい助っ人が来てくれたもんだぜええ!! 百人力軽く超えていますよコレ」
     ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)がカルナヴァル達援軍に喝采しつつミゼンの周囲に除霊結界を展開。
     霊状の網に縛られたミゼンを見て雄哉が吼える。
    (「過ちは繰り返さない。そう、あの時に決めたんだ。だから今回も必ず助ける。でも、でも……くそっ!」)
     爆発的な殺気を周囲に展開しつつ、溢れ出る負の感情が具現化したバトルオーラでミゼンを撃ち抜いた。
    「レイはもういませんよ。此処にいるのは、私です。それが分からぬ貴方達ではありませんよね?」
    「言ってくれるねミゼンくん。でもね」
     レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が笑いながら紅い骨と聖別済み銃器で構築された魔払いの薔薇十字……RoseRedStraussに聖歌を奏でさせながら砲弾を射出。
    「……祈れ、己の全てを賭して」
     レオンの黙示録砲に射抜かれ肩を竦めるミゼン。
    「流石ですね。ですが、既に彼の意識は消えました。此処にいるのは、私とラプター……2体のダークネスと貴方方だけです」
    「ハッ、“12人”相手にちーっと余裕かましすぎだろうよ」
     大仰なミゼンの言葉を一蹴するレオン。
    「……12?」
    「あ? 数が合ってねぇって? 馬鹿言うなよ、今、お前らの中で踏ん張っている連中もいるって話だ。――灼滅者のしつこさ、ナメてると痛い目見るぜ御両人」
     エラーを咎める機械の様に抑揚なく問うラプターにレオンが笑い。
    「二人とも絶対助けるから、踏ん張れ! ……諦めたら、俺が許さねぇ!」
    「あなた達が一度乗り越えられた闇だよっ……負ける筈がないでしょうっ!」
     康也となゆたの叫びを受けて。
     ラプターとミゼンの中で何かが蠢く。
    (「……まだ、抵抗するか……」)
    (「今度こそ葬って差し上げますよ」)
     ラプターとミゼンが内心でそう答えた。


    「俺だって、高兄が堕ちるとこなんて見たくなかったよ、バカ野郎! これでおあいこ……なんて言ってやんねーからな!」
     康也がラプターにレイザースラスト。
     帯がラプターの足を絡め取り自らの命中精度を上げ。
     ラプターが反撃とばかりに無慈悲な機械の如く精密な動きで上空に銃口を向けて発射。
     放たれた光弾が弾けハノン達を灼く。
    「高明もレイも私達なら助けられるって信じてあいつらにトドメ刺しに行ったんだ。嘘だらけの影野郎にも殺人プログラムにも用はない。さっさと引っ込んで二人を返してもらうよ」
     雄哉をハノンが庇いながら祭霊光で桜花を回復。
    「では、参りましょう」
     ミゼンが告げながら自らの手に掲げる杖を天空に翳す。
     杖に雷が収束し、ハノン達を防御事打ちのめした。
    (「レイも高明も絶望から堕ちたんじゃない。運命を彼等に託したんだ。だったら助太刀しないわけにいかないじゃん」)
     カルナヴァルが内心の想いを確認しつつ、バイオレンスギターをかき鳴らし康也達に立ち上がる力を与える。
     その支援を受けながら、雄哉が自らの影を無数の刃にして解き放つ。
    (「今は冷静にならなきゃ……でも……くそっ……!」)
     自らの心の裡の衝動に翻弄される雄哉を見て薄っすらと笑みを浮かべるミゼン。
    「そんなにレイが失われたことが憎いのですか? それとも、貴方の心の中にわだかまりがあるのですか? 例えば……レイが失われる前に何かを言われたとか?」
    (「こいつ……!」)
     一瞬目を見開く雄哉を飛び越え一瞬で距離を詰めたいろはがミゼンに純白鞘【五番の釘】の先端を向けて妖冷弾。
    「ミゼンとしての君に聞くけど。このままいろは達を返り討ちにして黄金闘技大会の資格者として進んでもキミが望む本当に面白い結果になると思う?」
    「おや? 貴女は面白くないとでも?」
     問いかけるいろはに、怪訝そうなミゼン。
     いろはの開いた道になゆたが割込み、フュルフュールの槍の先端から妖冷弾を撃ちだしその身を凍てつかせた。
    「十中八九ミスター宍戸や大老が予め描いた結末にしかならないと思うんだ」
    「その先にあるのが面白い未来かも知れないではありませんか」
    「どうかな? それよりは六六六人衆、アンブレイカブル、爵位級吸血鬼と言うかつてない強敵ダークネス達と同時対決をする事になった武蔵坂と言う特等席で行く末を見届けるほうが楽しいんじゃないかな?」
    「では武蔵坂として私を迎え入れてくれますか?」
     からかう様に問いかけるミゼンにいろはが肩を竦める。
    「今のはいろはから君への質問。此処からが肝心な話。レイ、何人にも居なくなった誰かの代わりなんて出来ないんだから、ね」
     ――いろはにとってのあの人の代わりを、誰にも出来ないのと同じように。
     腰に巻いた殺戮帯【血染白雪】を優しく撫でながら告げるいろは。
    「しっかりとキミ自身が帰ってきなよ。さっきの問いで雄哉と答え合わせが出来るのはキミだけなんだよ」
     いろはの呟きに応じるミゼン。
    「既に彼は私の中から消えていると言うのに」
     ――違うね。
     レオンが内心でそう返しながら斬影刃。
    「さて、灼滅させるなって言葉はしっかり覚えているな? ――んじゃ今から俺らが踏ん張るからよ、お前もそのいけすかねぇ策士家気取りを中から食い破ってくれ」
     ミゼンが微笑を僅かに歪める。
    「まだ信じているのですか。レイが生きていることを」
     レムがリングを光らせ前衛を癒すのを確認しながらなゆたが力強く声を張り上げる。
    「シャドウ大戦での長期間堕ちでも戻ってきた貴方です……このくらい平気でしょうっ、何度でも私達仲間がレイさんの傍に行きますからっ!」
     なゆたの言葉に頷きながらラプターの攻撃を受け止め、清めの風を吹かせながら問いかけるのは桜花。
    「皆をトラウマで苦しめようとしてるのは本心かしら? 有城さんや皆を守るため闇堕ちした貴方は、本当は優しい方なのではありませんか? 皆も私もレイさんに帰って来て欲しいと思っていますわ」
    「そうです、雄哉さんを守る為堕ちた貴方は、本当は優しいはず!」
     桜花の問いとなゆたの指摘にミゼンは何も答えなかった。


     ――数分後。
    (「……危険だな」)
     ミゼンの様子を見ながらラプターが現状を確認。
     ――目前の灼滅者達を見るたびに、ラプターの中で何かが蠢く。
     特に康也と桜花の存在を認識した時、エラー音は顕著になる。
    「ラプター! 高兄を返せ! エラーだなんていわせねえ! 高兄が居なくなっちまうなんて、俺は嫌だ! 俺は絶対諦めねーし、高兄は負けねえって信じてる! だからてめーをぶっ飛ばす! 何度でも!」
     叫びながら康也が制約の弾丸。
     放たれた弾丸に射抜かれつつラプターが康也の髪を斬り裂くべく黒鋼の双翼を羽撃たかせるがハノンが康也を庇う。
    「待ってる人こんなに頑張ってるんだ。応えないとカッコ悪いよなあ?!」
     DESアシッドをミゼンへ射出するハノン。
     その攻撃を妨害しようとするラプターが殺気を足元に不意に感じた。
    「行くぞオラァ! 足元がお留守だっての!」
     脚部を斬り裂き空中で身を翻すレオン。
     ミゼンの影に全身を締め上げられるが気にしない。
    「そら、弟分が大分踏ん張ってるぜ。『兄貴』としちゃ、もうちょい格好つける場面じゃねえかよ! 足掻いて踏ん張って手を伸ばせ! 機械仕掛けなんぞに明け渡す体はねぇって叫んでみせろっ!」
    「仲間のためならなんだってする! それが武蔵坂だろうがよぅ!」
     カルナヴァルが帯を射出してレオンを覆いながらラプターに向けて叫び。
    「修学旅行で綺麗な洞窟の景色を見せてくれたり、他にもいろんな場所で沢山の思い出を作ってくれて……。あなたが優しい事、誰かのために無理しちゃう事もずっと傍で見てきましたわ。貴方は冷酷な機械ではありませんわ! 戻ってきて下さいまし、高明さん!」
     桜花の叫びながらのオーラキャノンに射抜かれたラプターに一際強い頭痛が起きる。
     目の前に僅かに靄が掛かる様な錯覚を覚えるラプターに、雄哉が接近。
    「うおおおおっ!」
     雄叫びと共に手を硬質化させて強打を叩きつけるのに応じるラプターを援護するように、ミゼンが咢を開いた影を呼び出し雄哉を喰らった。
    (「いなくなるなら自分からなのに……何故止める……!?」)
     他人も自分も信じられなかったが故に守れなかったという事実をトラウマとして追体験する彼をレムがリングを光らせて癒し、カルナヴァルがラビリンスアーマーでサポート。
    「ミゼンの言うことは気にしなさんなよ。わざわざ相手の嫌がりそうな言葉を選んでくるんだ。どのみちレイの言葉じゃないし。ねー雄哉君!」
     カルナヴァルの激励を横目に見ながらなゆたが上空へと飛び出し、フュルフュールの槍の先端をミゼンへと定め。
    「レイさん、高明さん、学園が危機的な状況の今、貴方達の力が必要なんです! だから、絶対に助けます!」
     撃ち出した妖冷弾がミゼンを仰け反らせるその間にいろはが肉薄し純白鞘【五番の釘】を振るい脇腹から凍てつかせ。
    「レイが戻ってきたら前みたいに葡萄狩りにでも付き合ってあげるよ」
    「一度ならず、二度までもですか。灼滅者の優しさはやはりレイの希望……なのですね」
     氷が全身に回ったミゼンが静かにそう告げ頽れたのをレオンが拾い、自分達の後方戦場外へと運び出す。
    「さて、後はお前だけだぜラプター!」
     振り返り様に地面の影を蹴り無数の刃へと変貌させてラプターを斬り裂く。
    「邪魔だ」
     傷だらけのレオンをラプターが炎を帯びた蹴りで戦闘不能に追い込もうとするが。
    「誰も倒させねえ、俺が全部守る!」
     康也が壁となり、全身を炎で焼き尽くされながらも銀狼化した爪でその身を斬り裂き。
    「手荒でごめん! 全力でぶん殴るからそこから這い上がって来い! そっちが信じてるって言うんならこっちだって信じてんだ。無理矢理堕とされたってあなたたちは絶対に闇に負けなんかしないってね!」
     ハノンが康也の火傷を祭霊光で癒し。
    「貴方は機械なんかじゃない、優しく気高い人なのは、先程の戦闘でもよく分かる。貴女を大切に思っている方の声を聞いて!」
     懐に潜り込んだなゆたが流星を思わせる力を纏った膝蹴りをラプターの鳩尾に叩きつけ。
     レムが追随して猫パンチ。
    「二人の親友たちだって救いに来たかった筈なんだ。エクスブレインだって同じはずだ。それら全部背負っているんだ、今更戻って来れないなんてあるわけないだろ!」
     カルナヴァルが叫びながら、レイザースラストでラプターを締め上げ。
    (「……何言っても説得力はないけれど、これだけは言える」)
    「柳瀬先輩、アステネス先輩の様に、戻って来ないと……許さないから!」
     雄哉が抗雷撃。
    「此処までだよ、ラプター」
     いろはが納刀した大太刀【月下残滓】を抜き打ちざまにクルリと翻して鮮やかなみね打ちを叩きつければ。
    「一緒に帰りますわよ……高明さん!」
     桜花が天星弓に矢を番えて射った。
     放たれた矢は一筋の軌道を描いて、真直ぐにラプターに突き刺さり。
     同時に、射抜かれた場所から音を立ててガゼルが飛び出す。
    「任務失敗か」
     それを見やりながらラプターが黙然とその場に倒れ伏すのだった。


    「高兄! 高兄!」
     涙を零しながら高明を抱き留め一発其の顔をぶん殴る康也。
    「何だよ、康也……痛えじゃないか」
     苦笑を零す高明を見て戻って来たのだと確信し、康也が大泣きしてそのまま引っ付こうとするが、直ぐに何かに気が付き桜花にその場を譲る。
    「高明さん……」
     安堵と共に高明に寄りかかる桜花を受け止めて笑った。
    「……なっ? 大丈夫だっただろ?」
    「……大丈夫だっただろ? じゃ、ありませんわ……!」
     それ以上の言葉を続けられず涙を零す桜花に困ったように頭を掻く高明。
    「やっ、久しぶりだね」
     カルナヴァルが笑顔で告げレイに片手を上げた。
    「ジンガムル……助けられたのは2回目だな。ありがとう」
    「まっ、一件落着で何より、何より」
     傷だらけのレオンがうんうんと頷くのに対し、安堵からか笑顔で軽く涙を拭うなゆた。
    「約束通り、その内葡萄狩りにでも付き合ってあげるよ」
     いろはの言葉に頷くレイの様子を確認し、限界が来た雄哉が倒れかける。
     ハノンが彼を受け止めるのを見ながらレイが溜息を一つ。
    「有城は残される者の事を考えていない。そのことに本人は気が付いているのかな?」
     レイの呟きになゆたが頭を振るのを見ながらハノンがそっと雄哉に告げる。
    「『殺されるのは自分でいい』だなんてのは、私みたいなやつのセリフだぞ?」
     その言葉が届くかどうかは分からないけど。
    「おーい、皆で缶おでん食おうぜ! 沢山用意してあるからな!」
     康也の缶おでんを配る声が張り詰めた空気を弛緩してくれた。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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