黄金インフェルノ~後編

    作者:佐伯都

     黒褐色の戦士と、クロスカウンター気味にレーヴァテインを決めた堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)の顔が歪んだ。仰向けにそのまま倒れていく『鉄の王』ムファルメ・チュマから一歩退き、小さく咳き込む。
     アンブレイカブルを仕留めた代償として、呪いのように降りかかる闇堕ち。
    「ははは……こらあかん、急がな……」
    「朱那ちゃん」
     愕然と呟いた篠村・希沙(暁降・d03465)を安心させようとして笑いかけたものの、うまく笑えたかどうか定かではなかった。すでに戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)は限界で、これ以上戦闘を長引かせると希沙はもちろん、天方・矜人(疾走する魂・d01499)や冬城・雪歩(大学生ストリートファイター・d27623)も危うくなるかもしれない。
    「さあ、ここから先はヒーロータイムだ!」
     矜人が先陣をきって反撃に出るも、貴夏・葉月(紫縁は希望と勝利の月華のイヴ・d34472)のビハインドが『凪の城』カスル・ハダの最期の抵抗で消滅していった。ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)が自分のやや前で、肩で息をしている背中を茫然と見つめている。
     震える手で、己が罪を見るような目で、雪片・羽衣(朱音の巫・d03814)が引導を渡した瞬間だった。
     
    ●黄金インフェルノ~後編
     高い、悲鳴に似た叫びで雪歩は我に返る。目の前で、アンブレイカブル灼滅の代償としての闇堕ちが完成しつつあった。
     明るい色をした、顎ほどまでのボブカットを羽衣が狂おしく揺らしている。唐突に悲鳴が途絶え、ふらりと杖に縋った華奢な体躯に思わず駈け寄ろうとした希沙はすんでの所で思い止まった。
     顔をまるごと覆い隠すように乱れた黒髪。その間からまるで白く輝く冠のように短い角がいくつか突き出している。『彼女』はもう羽衣ではない、羅刹だとルフィアは己に言い聞かせるしかなかった。
    「堀瀬……」
     一方、あれだけ明るく色鮮やかな印象だったはずの朱那もまた豹変している。
     冷たく、青く白い、触れれば切れそうな静けさをもって矜人の前に立ち尽くしていた。
    「……我に何用か」
     ゆらりと持ち上げた腕は、肘から先が人ですらなくなっている。いや、人の手指は備わっているが、どこか獣の脚に見えなくもなかった。
    「用か。さてなァ……さしずめ、何があっても連れ戻す、ってあたりか」
    「どこに連れ戻るのだ。帰る場所など我にはない」
    「帰らなくたっていいじゃない」
     ふふふ、と鈴を転がすように羽衣は笑う。
    「弱いのはきらいよ。でも慮外者はもっときらい。『王の娘』を楽しませてくれないの?」
     今やダークネスと化した二人からゆっくり距離をとりながら、久遠は矜人の背中へ囁いた。
    「すまん、後は任せた」
    「私もここまでのようです。片翼をもがれていては十全と言えない」
     ビハインドがまだ復帰しない葉月もまた、連戦は不可能と判断しリングを降りていく。まもなく増援が来るはずだとわかっていてはいたものの、変わり果てた二人を前に希沙はごくりと喉を鳴らした。


    参加者
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)
    黒谷・才葉(ナイトグロウ・d15742)
    莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    冬城・雪歩(大学生ストリートファイター・d27623)

    ■リプレイ

     背骨の形状を模した長杖を油断なく構えたまま、天方・矜人(疾走する魂・d01499)は慎重に今やダークネスとなった二者と間合いを計る。連戦は不可能と判断したメンバーがリングを降りていく背中を、黒髪の『うい』が眺めていた。
    「……帰るなんてつまらないのだわ。楽しませてくれると思っていたのに」
    「もちろん叶えてあげるよ、雪片さん」
     そのまま無造作に矜人へ歩み寄ろうとした羅刹の足元へ、かたい音を立てて手裏剣が突き立つ。ひらりと体重を感じさせない身のこなしで、乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)が空いたスペースへ飛び降りてきた。
    「今ははじめまして、かな。今の雪片さんは俺のこと知らないだろうし」
    「そうね。お前なんか知らない」
     お前も、そこのお前も、お前もお前も、みぃんなしらない泥人形!
     点呼するように、足元へ突き立った手裏剣のために一瞬注意がそれた隙に援軍として到着した、莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)や黒谷・才葉(ナイトグロウ・d15742)を次々と指で指し示していく。
     そして最後に指差された花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)がきつく唇を噛むのを、『うい』は笑って眺めていた。
     心のままに素直に笑い、奔放に踊る極彩色。想々にとっての朱那の印象や記憶には、常に鮮やかな色彩がある。
    「増援か。他愛もない」
    「起こしてごめんなさい」
     白と青、まるで冬を具現したように変わり果てた朱那を痛みを堪えるようにながめ、想々はクルセイドソードを抜いた。
    「謝罪など受けぬ。用もない相手に謝られる義理はない」
    「でも折角起きたのだから、少し力比べしませんか。そしてまた――」
     肩の高さへ掲げた切っ先を朱那へ向け、想々は毅然と言い放つ。
    「あんたには眠ってもらう」
     それが合図だったように、前半戦で乱れていた呼吸を鎮めていたルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)と冬城・雪歩(大学生ストリートファイター・d27623)が前へ出る。距離を詰められた分そのまま下がろうとした朱那の腕を、しかし、誰かが唐突に掴みあげた。
    「用はあるよ」
    「ッ、……きさまっ」
     さすがに予想外だったのだろう、森田・供助(月桂杖・d03292)が掴みあげた左腕をふりほどこうと朱那はもがく。変わらずに左手首を守ったままのバングルが鋭く光をはじいて、朱那が顔を背けた。
     無理に腕を拘束することなく供助はあっさり解放し、代わりにダイダロスベルトを周囲へ展開する。そして腹の底から出る怒号がそれに続いた。
    「任せとけ、俺らが叩き起こしてやるよこの寝坊助をな!!」
     至近距離からのレイザースラストを朱那は避けようとして、そして避けきれずに直撃を浴びる。あははっ、と児戯めいた笑い声をあげて鬼の腕をふりかぶった『うい』に向けて、聖太の鋼糸が飛んだ。
     『うい』が動きを阻害する極細の糸をうるさげに打ち払うのを、聖太はただ黙って眺めやる。後方からのましろの声音に、羅刹は反応を示すだろうか。
    「朱那ちゃん! 鬼の手は守ること、夢を掴むこと、大好きな人と繋ぐこともできる――わたしがこの手で皆を守ることで、それを証明してあげる」
     その言葉通り、精度の高い鬼神変で朱那へ挑みかかるましろの表情は決然としている。
     ……まあ、言いたいことは好きに言わせておけばよいかと聖太は腹をくくる。強者にしか心を動かさないのなら、どちらが上手かを心底知らしめるだけだ。
    「ねぇシューナ。オレの声、聞こえてるかな。届いてるかな」
    「……」
     がつり、とクロスグレイブへ爪が突き立てられるにぶい音。
     そのまま鍔迫り合いに持ち込み、才葉は朱那のあおい瞳を覗きこむ。白と青ばかりのどこまでも冷ややかな姿になり果てても、あかるい青のそこはほとんど変化がなかった。なぜか。
    「いつか約束したの、覚えてる? オレは消えない。だからシューナも消えないで、って」
    「さて、な」
     天空を、空を象徴する武器を駆り供助と才葉は猛然と氷色のダークネスを攻めたてる。『うい』が強者にしか興味を示さないであろうことはもちろん、朱那の注意を他へ逸らさないよう全力で。
     供助と才葉の、そして朱那の手首を飾るブレスレットは揃いのものだ。たとえ今は彼女はそのことを覚えていないとしても、押し込められた『朱那』がそれに気付いてくれたら。そしてその贈り主が、揃いのブレスに何を願ったかを思い出してくれたら今はそれでいい。
    「朱那、覚えてるか。お前が戦うのは世界を護るためで、世界は場所のことじゃなくて、そこにいる誰かを含んでた。だから帰る場所はないなんて言うなよ」
     あたしの世界を守る為、ミンナの笑顔を守る為。
     そう彼女が言ったことを供助は閃光のような記憶の中に覚えている。強く確固としたひかりのような。
    「……まったく、今まで一緒に戦ってた連中がこうなると思うとぞっとしねぇな」
     そんな風に呟いて、矜人は才葉の援護に入りつつマスクの下で苦笑う。ダークネス二体を、ひとまとめにオールレンジパニッシャーの光条で灼いてゆく才葉へ、朱那が鋭い目を向けた。
    「説得のつもりか。無駄なことを」
    「シューナ、オレさ、一緒に見たい世界がまだまだたくさんあるんだ。見たことのない空の色、雲の変化、昇る太陽や沈む夕日……オレに、彩の世界を教えてくれた」
    「聞いておらぬようだ」
     不快感のままきつく眉根を寄せ、朱那は炎を纏わせた右腕を鋭く振り抜く。一瞬で全身を業火に包まれながらも、才葉は目をそらさなかった。
     しかし次の瞬間、息を呑んだのは朱那のほう。
    「それをキミにも見て欲しい。知って欲しい」
    「な――」
     その隙に叩き込まれてくる想々と供助のサイキックに、青銀色のダークネスが苦悶の叫びをあげた。次いで、強かに打ち据えてくる矜人の長杖を壮絶なほどの憤怒の表情で睨みつける。
     咄嗟に援護に入ろうとした『うい』の前へルフィアと雪歩が立ち塞がった。
    「さて雪片、手合わせ願おう。拳で語り合うなんて、実にふさわしい展開だろう?」
    「邪魔するの? 残ったからには楽しませてくれないと!」
     喉の奥で笑った『うい』はそのまま、何のてらいもない鬼の腕の横薙ぎを浴びせにくる。がつりと音をたてて黄金リングを踏みぬき、体勢を立て直した雪歩へ羅刹はおそろしく凄惨な笑顔を向けた。
     後方からのましろの視線を痛いほどに感じながら、雪歩は縛霊手の右腕を正眼へ据える。
    「あまり楽しくないのだけど……こちらはキミの内側に用がある。万が一の事があったとしても、ボクがキミを介錯してあげる覚悟もあるよ」
    「すまんが、そうなるとまた闇堕ちが出るので善処を希望する」
     ルフィアの呟きに、雪歩は生真面目な顔のまま首肯した。実は割と高い確率でその結末を覚悟していたことは黙っておく。
     ふわふわと風を孕む黒髪を揺らし、羅刹は小さく首をかたむけた。うふふっ、とまるで邪気のない笑いにましろは目を瞠る。ダークネスのはずなのに。何故。どうして、同じ顔で、同じ笑い方で。
    「じゃ、ぐっちゃぐちゃに壊れても平気ね」
     なぜ、羽衣と同じ声でそんなにも血煙を喜ぶのか。
    「……帰らなくていいなんて言わせないよ」
     袈裟懸けの一撃を耐えぬいたルフィアの援護に回りながら、ましろは聖太とアイコンタクトを交わす。朱那のほうは他のメンバーに任せるとして、ちくちくと地味に行動阻害を重ねている聖太の声も借りなければ羽衣を連れ戻すのは難しいと感じたからだ。
    「こんなもの全然痛くないよ。わたし達は自分の闇を恐れず、皆を信じて後を託した、本物の強さを持っている子を知ってるもの!」
     深々と雪歩のWOKシールドへ爪を立てたまま『うい』は一瞬目を瞠り、そして我慢ならないとばかりに笑い出した。
    「あの子のほうが強い? 『何のために生きるか』さえ答えられなかったやつが強いわけない!!」
     笑わせるな、と羅刹が哄笑する。
    「……何の話?」
     まったく見えない話に、ましろはうすら寒いものすら覚えた。言われていることが理解できない。
     ……何のために生きるか、だって? その問いに羽衣が答えられなかったという事なのか。そんなもの知らないし、聞いていない。
    「雪片は答えられなかったが、お前は答えたということか」
     油断なく得物を構えたルフィアの問いに、羅刹の少女はやけに鷹揚な笑顔で首肯してみせた。
    「そう、だからこの身体はわたしのもの。養い親の問いに先に答えを出したわたしのもの、『うい』はもうどこにもいない!」
     とっても残念なのだわ、と黒髪の羅刹が笑う。しかしルフィアは、そうかと事も無げに言ってのけただけだった。不審に思ったのだろう、羅刹は怪訝な顔をする。
    「何、存外薄っぺらいのだなと思ってね」
    「聞き捨てならないのだわ」
     途端に眦をつりあげた羽衣へ、ルフィアは心底おかしそうに続けた。
    「『なぜ生きるか』の問いに答え、優位に立ったのだな? ならば少なくとも、それまで彼女の優位は覆せなかった。しかも実力で蹴落として今ここにいるわけでもない。彼女の闇堕ちでようやく機会を得て、表に出てこられた」
     要するにおめでたくもただの火事場泥棒なわけだ、と正論すぎる正論を冷静に展開してくるルフィアに、羅刹は咄嗟に言い返せなかったようだった。
    「ついでに言えば、彼女自身闇堕ちの可能性は織り込み済み。それでも恐れず立ち向かい結果に向き合った。『王の娘』の称号にふさわしい勇気と誇りを備えているのはさて、どちらかな」
     ん? とどこか余裕すら漂わせているルフィアへ、癇癪を起こしたように『うい』が噛みついた。
    「黙っててよ!! 闇堕ちがなくたってこの身体はわたしのものになっていた! 無礼な奴は許さない!」
     怒りに任せて滅茶苦茶に振り回される杖と鬼の腕をかいくぐりながら、何故だか雪歩はだんだん楽しくなってきている自分に気づく。
    「いーや黙らないよ! 仮にキミが彼女より強かったのだとしても、だ。ボクは彼女の信頼に応えるよ」
     あの時自分達は互いに、誰が闇堕ちしようが必ず救出すると信じて戦っていた。
     それは誰が何を言おうと覆せない真実だ。その信頼が、ダークネスの甘言に負けると雪歩は思わない。
    「救うって決めたんだ、現れるダークネスがなんであろうとね! ましてその相手がたった一つの優位にしがみついているだけなら、そんなものは恐るるに足らないのさ」
     話を聞く気になるまで控える、そのつもりだった。少なくともほんの数瞬前まで。
     しかしましろは、ふわふわの愛情で包んで、何もかもから隠し通す、そればかりが愛情とは思わない。否、思わないつもりだった。
    「……うるさい!! あんな負け犬、わたしより強いはずがッ」
    「いいかげんにしなさい。ういちゃんにおかえりなさいを言いたい人、いっぱいいるんだからね」
     名を呼ばれた事に一瞬遅れて気がつき、『うい』がぎらりと目を光らせる。しかしましろは負けじと見返した。
    「こんなにみんな心配してるのに……」
     間違っているなら正さなければ。誤ったまま放置するなんて、それは愛情じゃない。だって、わたしは。わたしは。
    「笑顔でただいまを言ってくれなきゃ、おねいちゃんぷんぷんだよ!!」
     それはあまりにも、あんまりな、そんな台詞だったかもしれない。
     しかしましろの叫びはきっと正鵠を射ていた。
     なぜ生きる。なんのために生きるのか。その答えはたぶん、灼滅者であろうがなかろうが、きっとそんなに難しくない。
     金切り声をあげ両目を血走らせた『うい』が雪歩へ掴みかかろうとする。しかしすんでの所で、何かにつんのめったかのように転倒した。何もかもを受け入れられない、癇癪を起こした子供と同じわめき声。
    「覚えているかわからないけど。出発前に俺に言ったんだ、ういは絶対大丈夫よ、って――俺はあの言葉を信じている。これ以上、雪片羽衣を操らせてたまるものか」
    「ア、ああア、いや、もういやあアアッ」
    「スミケイから伝言だよ」
     もはや半狂乱になって叫びまわる『うい』へ聖太が突きつけたもの。
    「『待ってる』ってさ」
     『うい』に見覚えはないはずの、ここにはいない誰かとの絆を形にした指輪。しかしそれがどんな意味なのか、知っているとしか思えない悲鳴を黒髪の羅刹はあげた。
    「羽衣、全員で一緒に帰るんだよ!」
    「返してもらうぞ、雪片・羽衣を!」
     金切り声をあげるばかりの羅刹へ雪歩のスターゲイザー、そしてルフィアのフォースブレイクが引導を渡す。がくりと糸が切れたようにうつ伏せになって倒れた羽衣へ、ましろと聖太が駆け寄った。
     仰向かせたその顔、こめかみのやや上を飾っていた角は消えている。ただ意識を失っているだけだと確認し、聖太は内心ほっと胸を撫で下ろした。
     そして朱那をめぐる攻防もまた、大詰めを迎えている。
    「朱那さん、貴方の覚悟は皆が見届けました。だからもう少しだけ頑張って」
     だから起きて下さい、と切々と訴える想々へ、白銀の獣の殺意が向く。さながら人の身を借りた白虎がそこに顕現しているようだった。四肢が猫科のそれへ変じた朱那は、どこか儚げな外見にそぐわぬ力強さと素早さで抗っている。
    「貴方がいないと寂しい、帰ってきてほしい理由がそれだけじゃ駄目ですか?」
    「これからもやる事は多いはずだ、そろそろ帰ってこいよ堀瀬! そっちでよろしくやってる暇なんかどこにもねえぜ?」
     縦横に駆けその首を搔かんとする朱那を、呵々大笑しながら矜人は想々ともども追い詰めていった。もし朱那の中のダークネスに誤算があったとしたなら、身体の支配よりもまず先に彼女の交友関係からどうにかするべきだったと矜人は言ってやりたい。もっとも、そんな事は考えてみなくとも不可能ではあるが。
    「なあ、まだまだ見足りないだろう?」
     彼女がいない世界を供助は想像できないし、そもそも嫌だ。お前を含めた世界が大事だと言葉を重ねた供助へ、まさしく猛虎さながらの凶暴さで朱那は迫る。しかし、そこへ矜人が立ちはだかった。
     低い位置へ据えた鉄壁の長杖に阻まれ牙を剥く朱那に、矜人はむしろ勝利宣言とも表現すべき快哉の叫びをあげる。
    「さあてそろそろ二人ともきっちり助け出して、試合終了のゴングといこうか!」
    「シューナ! 帰る場所なんて、いつだってここにあるんだよ!」
     武器もなにもかも捨てて両手を広げた才葉へ、いつのまにかぼろぼろになった爪を朱那は突き立てんとする。しかしやはり、ダークネスの狂爪は血に染まらずに終わった。永久に。
     がふ、と空咳のような息を吐いた朱那へ、想々が今にも涙をこぼしそうな笑顔を見せた。
    「帰る場所はここに、ちゃんとあるがいね」
     正確に鳩尾を切り払った神霊剣。
     今や熾烈な攻防の痕跡を残すだけのリングへ、ゆっくりと崩れ落ちる身体を想々が抱きとめる。しゃら、と涼しげな音をたてたバングル。昏倒し目を閉じたその顔は思いのほか幼かった。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月25日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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