死闘に生きる者達~後編

    作者:雪神あゆた

     夜のビアホール。その中央に現れた黄金リングで、灼滅者と二体のアンブレイカブルの激闘が繰り広げられていた。
     灼滅者たちは、攻撃を優先する陣形と戦術で、アンブレイカブルへ総攻撃を仕掛ける。
    「痛い……けど、敵だって傷ついているっす。だからガク、撃つっす!」
     宮守・優子(猫を被る猫・d14114)は反撃を受け負傷しつつも、サーヴァント・ガクに銃撃を要請。
     銃声の響く中、優子自身は影業を操る。優子の影が、アンブレイカブル・剛力を命ごと斬り裂いた。
     そしてしばらく後。地面に這いつくばったミラクルマスクへ、
    「まだ立ちあがろうというのですね。でも、これで……終わりです!」
     白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が十字架を叩きつける。轟音とともに、アンブレイカブルとの戦いを終わらせた。

     アンブレイカブルにとどめを刺した二人の姿が変化する。
     ジュンは赤い右目のノーライフキングへ。
     優子は四足獣めくデモノイドへ。
    「グアアアァ!!! グアアアアア……?」
     咆哮をあげる優子。だが、咆哮が止まる。リングの外にあるテーブルの一つを見ている。そこには肉料理。
    「やれやれ。今、気をとられるべきは、料理ではなく灼滅者でしょう?」
     ジュンの冷ややかな声。ジュンの声を受け、優子は視線を灼滅者に向ける。牙をむき出し威嚇。
    「……グルル……」
     ジュンは赤い赤い右の瞳を灼滅者に向けた。
    「真正面から戦うのは不本意ですが、私の平穏な生活のために、皆さんには死んでいただきましょう。なに、死体は有効に活用してあげますよ」
     唇の右端を吊り上げる。
     北逆世・折花(暴君・d07375)は表情を変えることなく、
    「ボクは君たちには殺されない」
     と断言。
    「その通りです、北逆世さん」
     九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)は頷き、一歩踏み出す。
     御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)は引き続き構えを取らぬまま、戦うべき二人を見ていた。
    「この殺気……油断はできないな」
    「なら、油断せず、確実に二人を助けてやろうぜ」
     白焔に並ぶ、三影・紅葉(あやしい中学生・d37366)の声は楽観的でそして不敵。
    「来るぞ……!」
     短くかつ鋭く告げる文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)。
     その目の前で、
    「さあ、仕掛けますよ」
    「ウウウッッ!」
     狡猾と狂暴、二種の殺意の持ち主が、動きだす。
     アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)はわんこ耳をぴんと立て、叫ぶ。
    「白金さん、宮守さん。すぐに助けるっすからね!」
     戦いが、始まる。


    参加者
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    北逆世・折花(暴君・d07375)
    津軽・林檎(は寒さに強い・d10880)
    戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)

    ■リプレイ

    ●駆け付けた増援
     月灯の下。ビアホールの客たちは、今まで以上の熱い歓声をあげる。
    「いいぞ!」
    「もっとやってー!」
     そのホール中央、リングの上に、六人の灼滅者はいた。
     彼らが対しているのは、黒い衣装を纏い、背から骨の翼めいたものを生やした、白金・ジュン。青い獣の体に黒い金属を装着した宮守・優子。共に闇に堕ちている。
    「傷だらけの方も多いですね。なら私たちの勝ちは……」
     余裕を顔に浮かべたジュン。が、リングサイドから、
    「わたしは、愛の戦士、ピュア・アップル! 信じる想いを、力に変えて、貴方の心に希望を届けます! 今、お二人を助けに来ました!」
    「一時休戦だ、ピュア・アップル、ホワイトを助け出すまで、正義と悪との共闘だぁ!!」
     津軽・林檎(は寒さに強い・d10880)と強化改造制服姿の神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)の声。
     長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)、ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)、戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)も現場に来ていた。彼ら五人が増援に駆け付けたのだ。
    「ピュアホワイトを返して貰おうか」
    「よっしゃ間に合った! グッドタイミングっしょ、ね、希望の戦士?」
    「迎えに来たぞ、白金。今助ける」
     増援がリングに上がると同時、傷の深い三人が去る。
     引き続きリングに残るのは、北逆世・折花(暴君・d07375)、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)。
     折花と皆無はジュンへ、紫と灰の四つの瞳を向け続けている。
    「キャプテン達の援軍はありがたい。もっとも別に心配はしていないけどね。白金がダークネスに屈する筈がないから」
    「ええ、先頭を切って戦って下さった白金さんが、あのダークネスに負けることはありませんよね」
     咲哉は優子に、
    「折花や皆無の言う通りだ。優子もそう思うだろう?」
     問いつつ黒猫の着ぐるみパーカーを羽織る。
    「ウ?」
     黒猫姿に気を取られる優子。ジュンは冷静な表情を崩さぬまま、優子へ指示。
    「全く、囀ること囀ること……優子さん、皆さんを死体へ変えてあげなさい」
     が、八人は気づく。ジュンの声に、ごくわずか感情の揺れが混じっていることに。

    ●武と言葉
     優子の体の表面が脈打ち、猫に似た寄生体が出現。優子は灼滅者後衛に寄生体をけしかける。目視できぬほどの速さで迫る寄生体。
     咲哉がパーカーの猫耳をぴこっと動かす。ハノンも携帯食をひらひら振った。
    「ウウ?!」
     途端、優子の攻撃の狙いが逸れた。寄生体はハノンへぶつかり爪で肌を掻きむしる。
     ハノンを襲う激痛。が、ハノンは寄生体を払い前進。シールドで優子の顎をかちあげた。
     咲哉はハノンの後方にいた。指輪をはめた手を前へ。制約の弾丸を放つ。弾丸はハノンの肩を越え、優子を貫く。
     咲哉の横で、林檎は札を取り出す。指先から札へ力を。そして投げる。札がハノンの背に貼りつき、林檎の癒しの力が流れこむ。
    「やはり津軽さん、貴方から死んでいただきましょうか」
     林檎を見るジュンの左目は赤く冷たい。そしてジュンの体から一条の光線が林檎へと。
     三成は走る。林檎を狙う光を、三成は体で止める。
     三成は痛みに脂汗を浮かべつつ腕の筋肉を盛り上げた。無骨な斧『断悪斧』に畏れを宿し、斬撃!
     三成は声を張った。
    「ピュア・ホワイト……手前はそんな闇に負ける小さな存在じゃねぇだろうが! 仲間まで悲しませて何やってやがる! とっとと戻って来い!」
     久遠が三成に並ぶ。
    「白金はいつも他者の為に、希望という光を灯し続けてきた。憶えている筈だ。白金が照らし続けてきた縁が、白金、お前を待っている。だからこそ――再び立ち上がれ、希望の戦士ピュア・ホワイト!」
     手を差し出す久遠。ジュンは久遠の手を三成の顔を、見つめた。
    「……待っている……」
     兼弘が、そうだ、と頷いた。
    「みんなが君の帰りを待っている。彼らを置いていくのか? 思い出そうぜ、マジピュア」
    「思い出すことなど……ありません。――さあ彼らを……」
     ジュンは下がり、優子へ指示を出そうとする。
     皆無はジュンへ必死の声を飛ばす。思い出してください、と。
    「白金さん、今のように誰かの後ろに隠れて戦う、そんな姿を望んでいたのですか? 違うでしょう、そうじゃないでしょう。先頭を切り戦う姿こそ、貴方に似合う姿でしょう?」
    「……っ!」
     ジュンは返事をしない。ただ灼滅者を睨む。

     ジュンから優子への指示が途切れた。
    「……?」
     振り返る優子。
     機を逃さず、皆無が跳躍。光る足裏を前に出し、スターゲイザー!
     皆無の蹴りは、ジュンを庇う位置にいた優子に命中。皆無の蹴りの威力が優子をふらつかせる。
     兼弘は優子の横を通り抜け、ジュンの懐へ。ジュンの鳩尾めがけ、鉄鋼拳!
     兼弘の拳が、ジュンを吹き飛ばした。リングロープにぶつかるジュン。
    「少し甘く見ていたようですね。認識に修正が必要ですが、問題はありません」
     ジュンはシャウトで態勢を立て直す。そして優子へ命令。
     優子が久遠の前へ移動。口を大きく開けた。牙が覗く。次の刹那には、久遠の肩に牙が刺さった。血。
     が、久遠はほんのわずかも退かない。
     久遠は、『我流・堅甲鉄石』技名を高らかに叫び、『大極練核』よりシールドを展開。己を治癒し、守りを固める。
     敵の進路を塞ぐように立つ兼弘や久遠。白銀の毛並みの霊犬・風雪も、主の横へ。斬魔刀で敵を牽制。
     二人と一体が敵を引き付けている間に、折花は目を見開く。精神集中。ジュン周辺の風を操り、空気の刃でジュンを裂く。
     優子がまた走り出そうとしていた。ジュンを庇おうとか。が、折花は優子が動くより早く、皿を優子に見せた。皿には、仲間の用意した肉やビアホールで供されていた生春巻き。
    「キミを救うためにボク達も全力を尽くそう。だから、戦いが終わったら美味い飯でも食べに行こう。祝勝会というのも、悪くはないだろう?」
     小さく笑う、折花。優子は動くのを忘れたかのように、皿と折花を見くらべた。
     林檎も優子の前に駆け寄る。頬を赤く染めながら、
    「祝勝会のためにも、わたし達が絶対に連れ戻します。もう少しだけ我慢してくださいね。優子さんがダークネスに負けないって信じてます!」
     拳をぎゅっと握りしめた。
     ハノンは身を屈め、優子と視線を合わせる。
    「好きなんでしょ? 食べ物も猫も。でも、このままだと優子の好きが、なくなっちゃうかもしんない。嫌でしょ? なら闇の底から這いあがって来い。こっちも全力で引き上げるから!」
     咲哉もパーカーの尾を揺らしつつ、
    「そうだ、闇に流されるな! 猫も食べ物も気になる。それは優子の中に、忘れたくない思いが沢山詰まっているからだ。自分を、在るべき姿を、見失うな!」
    「ぅぅ……ァァ」
     四人の言葉に、優子の口から、か細い救いを求めるような声。

    ●伸ばす手
    「言葉は、所詮、言葉……ここから力で圧倒すれば無意味っ!」
    「……ウァァウウウッ!」
     ジュンと優子は動揺を見せつつも、反撃を続行。
     ジュンのジャッジメントレイが、優子の影喰らいが、灼滅者後衛を襲う。
     が、技の威力は落ちていた。灼滅者が二人を説得し、心を刺激できた結果だ。また灼滅者の作戦で、ジュンと優子の連携も途切れている。
     故に、灼滅者は分厚い守りで敵の攻撃をしのぎきる。
     数分が経過した頃には、優子とジュンの全身に多くの傷。
     ジュンはなお笑みを作る。
    「しかし、皆さんとて無傷ではない。勝つのは私。ダークネスにしてノーライフキングたる私です」
     ジュンの視線を林檎が真っ向から受け止めた。頬を先ほど以上に赤く染め、
    「貴方はそんなのじゃありません! 貴方は何ですか? わかっているはずです。知っているはずです! 貴方は伝説の戦士マジピュア! 希望の戦士ピュア・ホワイトです!」
     ぶつかりあう二人の視線。一秒、二秒……二人はほぼ同時に動いた。
     ジュンの体からあふれ出る光線。林檎が放つ青森のパワーに満ちたリンゴビーム。二種の光が交差。
     はたして、林檎はジュンの光線に吹き飛ばされた。が、林檎のビームも命中したのだ。
     痛みに顔を顰めるジュンへ、
    「今、キミを助けるよ。キミの心の強さはボクもよく知っている。心の強い白金に、悪役は似合わないからね」
     折花の影が伸びる。
     折花の影が立体化し刃へ変化。ジュンの肌を装束を切り刻む。
     零れる血。
    「なぜ、先程から……よけられない? 私の、内側から、抵抗が……これがマジピュアの……?」
     ジュンは苛立たしげに言うと、続く灼滅者の攻撃の幾つかを耐え、巨大な氷塊を生み出した。灼滅者へ氷塊が飛ぶ。
     同時に優子が体を振った。尾が空気を裂く音を立て、灼滅者へ迫る。
     ジュンの氷と優子の尾の前に立ったのは、ハノン。
     ハノンは攻撃二種を腹と胸に受け、膝を揺らす。しかし致命傷ではない。威力がさらに弱まっているのだ。
     追撃しようとするジュンに咲哉が迫った。ジュンが咲哉を見、唇を動かしかける。が、咲哉は眼差しと己の言葉で制した。
    「思い出してくれ。お前達は何故ここに来た? 殺戮を止める為だろ? 仲間を信じあえて敵にとどめを刺してくれた。だから、俺も信じているぜ、お前達が闇に勝つことを!」
     ハノンも震える膝を立て直し、絶叫。
    「希望の戦士がこんな強引な方法で、こんな自分本位な奴に屈するわけがないでしょ? そうだろジュン?! 手ぇ伸ばせ!!」
     ジュンの足がピタッと止まった。
     咲哉は【十六夜】の柄をしかと握る。勢いを、全体重を、何より想いを込め、斬撃。
     さらに、ハノンがジュンの側面に。片足を一歩前へ。ハノンは杖をスイング。フォースブレイク!
     二人の連携攻撃に、ジュンは仰向けに倒れる。ジュンの体が灼滅者のそれへ戻る。

     残るダークネスは、優子のみ。ジュンを庇ってきたため、傷は深い。
     皆無と兼弘が肉とライスを彼女に見せつける。
    「貴女が剛力たちと躊躇せず戦って下さったからこそ、今私たちが貴女を取り戻すため戦えています。戻ってきてください。闇よりひだまりでお昼寝する方がいいでしょう?」
    「戻ったほうが美味い肉が食べられるぜ。気持ちいい昼寝もな。自分で選ぶんだからさ」
     二人の声に、
    「アアア……アアッ」
     泣きそうな声の優子。
     それでも優子の中のダークネスは消えない。優子は首を動かし、咬みつこうとしてくる。
     が、兼弘はその動きの荒さに気づいていた。兼弘はジンギスカン鍋の形をした『Genghis Khan』で優子の体を弾き、回避。そして、ベルトを伸ばし、優子の体を刺し貫く。レイザースラスト!
     皆無は呼吸を止めた。敵の真正面で手を固く握りしめ、鬼神変!
     異形化した拳で、優子の眉間を殴りつける。優子の首が揺れた。
     ダメージによってか、優子の目はうつろになる。焦点が合っていない。
     が、優子は倒れない。跳躍し、三成へ影喰らい。猫の形したものが、三成を呑もうとする。
     三成はトラウマに襲われながらも、吠える。
    「今のままだと、旨い肉も、食べたいもの全部が食べられなくなるぞ。戻ってこい! 一緒に旨い物でも食べようぜ!」
     三成は一歩二歩、前へ前へ。『恋の予感壱号』から杭を射出。優子を撃ち抜いた。
     優子は息も絶え絶えの様子ながら、撃ち込まれた杭を口で咥え抜く。更に灼滅者に跳びかからんとリングに爪を立てる。
     そのとき、久遠の風雪が、六文銭射撃を開始。
     思わず首をそらした優子へ、久遠が接近。紺青の闘気を迸らせ、
    「我流・要散木!」
     顎へ鉄鋼拳。優子の体が宙を舞う。
     優子がリングに落下した時には、優子から闇は消えていた。救えたのだ。

    ●瞬く星々
     決着と同時、ビアホール中の一般人たちから、ひときわ高い歓声。その声がピタッとやむ。一般人たちは脱力し、意識を失ったようだ。
     リングの上では、仰向けのジュンと優子が、目を開く。半身を起こし皆を見て、
    「いま戻りました。皆さんのおかげで戻ってこられました」
    「自分も戻れたっす。みんな、有難うっす」
     皆無と林檎が二人に駆け寄る。
    「怪我はありませんか? 大丈夫ですか?」
    「助けられて、良かったです。本当に……」
     二人を助け起こす皆無と林檎。
     ハノンと兼弘は、
    「二人が手を伸ばしてくれて這いあがろうとしてくれたから、助けられたんだよ」
    「呼びかけに応えてくれて、こっちこそありがとう」
     片目をつむるハノン。二人の肩をぽんと叩く兼弘。
     三成は戦闘時とは異なる柔らかな口調で、
    「二人とも無事のようですし、救出は成功……ですね」
     言い息を吐く。

     しばらくして。
     咲哉と折花は、助け出した二人に肩を貸す。咲哉は二人の顔を覗きつつ、
    「美味しいうどんでも、皆で食べに行くか?」
     折花は、うん、と首を縦に。
    「戦闘中も言ったけど、祝勝会をするのもいいね」
     満面の笑みになる優子に、もう一度頭を下げるジュン。
     灼滅者はビアホールの出口へ歩き出す。言葉と笑顔をかわしつつ。
     久遠は最後尾を歩きながら、仲間の背を見ていた。自分が救った者の背。共に戦った者の背。
    「希望、か。他人に力を与えられる存在とは、眩しいものだな」
     呟く久遠の上で、そして会話する仲間の上で、星は燦然と輝いていた。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月29日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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