右九兵衛暗殺計画～欺き、曝かれず

■リプレイ

●
（「あれは……陽動班か？」）
　水中呼吸で呼吸の苦しみを和らげながら、ヴォルフ・ヴァルト（花守の狼・d01952）が前方を見て息を呑む。
　視認したのは傷だらけの8人の灼滅者達が互いを支えあいつつ、此方へと泳ぐ様。
　背後から追撃するは筋肉質で頭にスカーフを巻き、縞模様のTシャツを着た傷を負った海賊風のアンブレイカブル。
（「後はお任せください」）
　灯屋・フォルケ（Hound unnötige・d02085）が手信号で告げる想い。
（「ああ、任せたぜ」）
　北条・葉月の声なき声と信じる想いを追い風に、目の前の敵と相対す。
「……新手か？！」
「殲具解放！」
　目を見開く男にギィ・ラフィット（カラブラン・d01039）が背中から『剥守割砕』を抜き漆黒の炎を纏わせ袈裟斬りを放ち。
「道を切り開きます」
　西院鬼・織久（西院鬼一門・d08504）が闇器【百貌】を振り抜く。
　水を巻き込み巨大な螺旋状の渦を描いた刺突が男の鳩尾を貫いた。
「この……！」
　硬質化させた拳を振り上げる男。
　だが……。
「ん、踊るといいよ？」
　新城・七葉（蒼弦の巫舞・d01835）がトリニティダークの引金を引く。
　3つの銃身から放たれた弾丸が男の足元を撃ち抜き溺れさせ、攻撃の機会を奪う。
　七葉の相殺の隙を見逃さずノエルが引っ掻き攻撃。
「邪魔だ」
　月翅・朔耶（天狼の黒魔女・d00470）の制約の弾丸。
　ノエルが開けた傷口にそれは吸い込まれて神経を侵す。
　すかさずリキが斬魔刀。
「時間かけていられないんだよね」
　備傘・鎗輔（極楽本屋・d12663）が閃光百裂拳に続けてわんこすけが六文銭射撃で敵を射抜く。
「気合い入れていきますわよ！」
　ベリザリオ・カストロー（罪を犯した断罪者・d16065）が気紛れな足捌きを見せながらスターゲイザー。
（「そこです」）
　ベリザリオの逆方向へと影を移動させ男の身を締め上げるフォルケ。
「終わりだ」
　虫の息の男をヴォルフが一瞥して腕を銀狼化させ残虐に斬り裂き止めを刺す。
　消え逝く男を一瞥せずギィ達は水泳を続けそして軍艦島に上陸。

　……アポリアの待つ宍戸ルームは、もう目前だ。

●
「久しぶりっすね、アポリア。この黒い炎、覚えてるっすか？」
　宍戸ルームに入るや否や多数の護衛に囲まれる右九兵衛とアポリアを睨みながらギィがその手に黒い炎を生み出す。
「灼滅者じゃな」
　好戦的な笑みを浮かべるアポリア。
（「流石の数と言ったところですね」）
　事前に仲間達と合わせた時計を確認し注意深く周囲を観察していたフォルケが内心で溜息をつきつつ右九兵衛が思ったよりも突出していることに気が付く。
　フォルケの思考など露知らずアポリアが仰々しく両手を振りながら告げた。
「決死の陽動で妾がライバルロードローラーを灼滅とは、流石はその手に未来を求めし灼滅者達じゃのう。じゃが、その程度の戦力で此処に集った妾達を殲滅するのは不可能じゃ。お主たち自身の無力と浅慮に絶望しながら死ぬが良い！」
　煽られるように護衛のダークネス達が動き出した。

●
「さっさと終わらせるっすよ！」
　黒い炎を翻して解放するギィ。
　漆黒の炎の奔流が右九兵衛と周囲の護衛をまとめて焼き尽くす。
「恋人同士の関係に割って入るつもりは無いけどさ。それは当人同士、2人で話し合うのが正しい物語ってね。まあ、その物語の為にも先にやるべきことをやらせて貰うよ」
　護衛達の攻撃を捌きつつ鎗輔がインパクト・ハンマーを地面に叩きつけ杭を打ち込む。
　打ち込まれた杭が大地を揺るがす振動を生み出し右九兵衛達の足元を陥没させ。
　わんこすけが六文銭射撃で右九兵衛達を撃ち抜き。
「側面から行きます……coverよろしく」
「分かった」
　フォルケに朔耶が頷く間に織久が右九兵衛へと螺穿槍。
　右九兵衛が咄嗟に後退して攻撃を躱した時に生じた側面の死角に音もなくフォルケが潜り込み。
（「ここで連絡線を切らないと後が厳しいですし確実にやらないといけませんが……残念ですね……」）
　M9MacheteSawback"Dschungel Kralle"を振るうがそれは護衛に阻まれる。
　反撃してくる敵の合間を縫って朔耶が制約の弾丸を右九兵衛へと放つのに合わせ、織久達を守るべくリキが口に咥えた斬魔刀を右九兵衛に放つがこれも護衛に阻まれた。
「弾幕、行くよ」
　息つく暇など与えないと七葉がガトリングガンを右九兵衛と配下達に向けて連射。
　右九兵衛の護衛達の反撃から織久やフォルケをわんこすけやリキが庇った。
「ノエル」
　七葉の愛猫ノエルのリングが光り、一度離脱し態勢を整えた織久達の傷を癒す。
「戦い方はいくらでもありますわ！」
　攻撃を続けた方が右九兵衛を追い込めると判断したベリザリオがGaraa de bestiaによる右九兵衛への縛霊撃は護衛が阻むがヴォルフが護衛事右九兵衛達を援護射撃で撃ち抜いた。
　他班の者達も其々に右九兵衛へと火線を集中させる中右九兵衛の懐に最初に肉薄したのはゲイル・ライトウインドのガトリングの砲火を避け切れずそこに付け入る隙を見出した琶咲・輝乃等の班だった。
「友達を大怪我させた分、キッチリ返させて貰うから――覚悟してね」
　その腕を鬼の腕へと変貌させ、右九兵衛に強烈な痛打。
　肉薄した彼女達に続けて右九兵衛を捉えたのは押出・ハリマ達の班である。
「おお、怖。そない睨まんといてなァ」
　軽口を叩きながらも間断なく続く攻撃に薄ら笑いを浮かべる右九兵衛。
「しかし――こら、ちぃと拙そうやな」
　ちらりと一瞥しそれまで配下のダークネス達の指揮に専念していたアポリアが鱶の様な笑みを浮かべた。
「考えたのう……。お主等の作戦の真の目的は銀夜目の命か。じゃが、其れをさせるわけにはいかぬな」
　アポリアが腰に帯びた白銀に煌めく刀を抜く。
　まるで人魂を思わせる白い靄を這わせた銀の刃で空間を薙ぎ払った。
　瞬間極大の衝撃波が生み出され他班の勢いに乗じて右九兵衛の懐に飛び込もうとしていたヴォルフ達を襲う。
　ヴォルフの前にリキが、ギィの前に鎗輔が、フォルケの前にノエルが立ち塞がるがその傷は決して浅くない。
「織久！」
　負傷が深い織久をベリザリオが祭霊光で癒す間にアポリアはゆっくりと右九兵衛を振り返る。
「銀夜目、お主は護衛を引き連れ例の通路よりこの場から撤退せよ。残りの者達は、こやつらの殲滅じゃ」
「ほな、そうさせて貰いましょ。おおきに、アポリアはん」
　悠然と述べるアポリアに頷き、右九兵衛がこの部屋の壁に掛かっていた『ＨＫＴ』の３文字がある無駄に派手なプレートに手を掛け、其れを押し込む。
　――ガコン。
　鈍い音が響き背後の壁が動いて秘密の通路が姿を現した。
「ベッタベタな仕掛けやなぁ。そいじゃあまたな」
　いつかと同じ台詞を残し通路へ飛び込む右九兵衛。
　アポリアの目配せを受けた数体の護衛達がその後に続いた。
「今ならまだ追いつける！　先行するよ！」
「走るわよ、ソース！」
　無堂・理央とペペタン・メユパールが飛び出し彼等の後を追う最中。
「アポリア……いや、あきらちゃん」
　理央達の殿を務めていた富士川・見桜が一瞬だけこちらを振り向き……。
「ばかやろう！」
　告げてその場を後にした。
　そして……。
「逃がさない！　ここで逃げられたら、もう助ける事も出来ないじゃないか……！！」
　言い残したハリマ達の班もまた右九兵衛に追い縋った。

●
（「お主達の思い通りになる筈が無かろう」）
　見桜やハリマを初めとする2班が右九兵衛を追うのを目の端で捉え直衛の5体の忍装束の六六六人衆に目配せし後を追わせるアポリア。
（「我等が怨敵六六六人衆……！」）
「織久、今はアポリアですわ！」
　憎悪に身を焦がす織久をベリザリオが窘め宍戸ルームに残った4班の内2班が周囲の護衛のダークネスを引き受けギィ達はもう1班と共にアポリアに接敵。
「これ以上、増援はさせないぜ。ぶちのめす！」
　会敵するや否や問答無用で援護射撃を行うヴォルフ。
「戦力的には劣勢だが、お前を灼滅すれば後は烏合の衆だ。此処で討ち取らせてもらう！」
　朔耶が接近してアポリアの肉を斬り裂いた。
　自らの傷を見ながら溜息をつくアポリア。
「少ない戦力を更に分けて各個撃破される愚を犯すとはお主達も大概じゃのう。銀夜目への増援の阻止とは言うがあの程度の灼滅者達ならば、あの戦力で十分じゃろうて」
「驚く事じゃないでしょ？　不利な立場からでも切返す。それだけ。だから……アポリア、覚悟はいい？」
　ブレイジングバーストを放つ七葉に肉食獣を思わせる笑みをアポリアは浮かべ。
「特別じゃ。お主達は妾自らじっくりと嬲り殺しにしてやろう。銀夜目の援護はその後でも問題なかろうしな」
「あの裏切り者の後は追わせないっす。このまま道を切り開いて、あきらも返して貰うっす！」
　ギィが気迫と共に『剥守割砕』を大振りする。
　だが、その瞬間にはアポリアが彼の目前に迫り白銀の刀を突き出していた。
「まるで、蠅が止まっているかのような鈍さじゃな」
「ギィ君！」
　鎗輔がギィとアポリアの間に滑り込む。
　急所こそ外したが螺旋状の鋭い刺突に鎗輔が喀血しながら不敵に笑う。
「まだ立っていられるか」
「ギィ君が本気で大切にしているあきらさんに話しかける機会を作る為には当然だよね」
「鎗輔さん！」
　グラインドファイアを放つ鎗輔にベリザリオが祭霊光。
「リキ！」
　朔耶の指示に従いリキも浄霊眼。
　流血は止まったが鎗輔の顔からは血の気がかなり失われている。
「流石に強敵、と言うことですか……！」
　先代の『戦神』を思い出しながら織久が闇器【影面】を起動。
　無数に蠢く人の腕がアポリアに襲い掛かるがそれを受けても微動だにしない。
　背後に回り込んでいたフォルケがアポリアの脚部を穿った。
「ほう……？」
　僅かに声を上げるアポリアへと主人を傷つけられた怒りに燃えたわんこすけが斬魔刀。
「使い魔のお主等が妾を倒そうなど片腹痛いわ！」
　吠えながらアポリアが日本刀を振るい再び極大の衝撃波を生み出す。
　其れはギィ達だけでなく攻撃を続けていたもう1班をも飲み込んだ。
　この攻撃で織久を庇ったリキが消滅し更にギィを庇ったわんこすけも深手を負う。
　ヴォルフを庇ったノエルもかなりの深手を負いながらリングを光らせるが焼け石に水の感がある。
「随分調子に乗ってるようで。だけど、今度もまたあきらを返して貰うっすよ」
　わんこすけを飛び越えたギィが『剥守割砕』に纏わせた黒い炎に渦を巻かせて解き放ち。
「行動解析……逃がさないよ」
　放たれた黒い炎がアポリアを包む間に七葉がレイザースラスト。
　帯に一瞬その動きを束縛されたアポリアを朔耶が制約の弾丸。
「ヴォルフ！」
「ああ！」
　朔耶と同時にヴォルフも制約の弾丸を放ちアポリアの動きを阻害。
（「不愉快なんだよ……あきら」）
　先日の人の命を贄とした馬鹿な提案や、堕ちることで知り合いに辛い思いをさせる行為を繰り返し、しかもそれを反省しないその態度が。
（「少しでも時間を稼がなければ……」）
　左程進んでいない分針を見ながらフォルケは思う。
　かといって守勢に回れば、アポリアが疑う恐れもある。
　今やれることを最大限行うしかないのだ。
「織久さん、よろしくお願いします」
　目配せしながら、フォルケがM9 MacheteSawback"Dschungel Kralle"の鋸刃でジグザグに斬り裂く間に織久が闇器【闇焔】でアポリアにティアーズリッパ―。
　防御を破った手応えを感じつつもアポリアはまるで怯まない。
「妾を殺すにはお主達だけでは役者不足じゃ。『戦神』を侮ってもらっては困るのう」
　もう1班の緋桜・美影の必死の呼びかけにも応じる様子を見せずに彼は笑う。
　その好戦的な邪笑は果たしてあきらの人格が残っていても浮かべられるものなのだろうか？
（「いや、例え人格が失われていても……」）
　ブックマーク・カタールを翳して癒しの風を起こしながら鎗輔は思う。
　わんこすけが六文銭射撃を放ちアポリアを牽制する間にギィが再び踏み込み、『剥守割砕』を大振りすると見せかけて黒い炎を刃に這わせて撫で斬りを放つ。
「あきら、一緒にまた愛し合うっす。だから自分の所に帰って来るっすよ！」
　放たれたレーヴァテインをアポリアが敢えてその身に受けながら踏み込んだ。
「今の一撃は覚悟も踏み込みも見事じゃったが……妾は倒せぬ！」
　――光が走った。
　そうとしか形容出来ない一閃。
　反射的に後退するギィの目の前で、鎗輔が血の池に倒れ伏した。
「『先代』の秘技じゃ。お主等に躱せる技では無いわ」
　その勢いのままに左の掌を開き、漆黒の弾丸を放つアポリア。
　弾丸は一瞬で万単位に分裂しギィに連携して追撃を行おうとしたヴォルフを撃ち抜く。
「くっ……！」
　最後の力を込めた畏れ斬りで強かな斬撃を加えるがガクリと膝をつくヴォルフ。
「迷い惑わせ」
　せめて一撃は耐えられる様、七葉が帯を放って織久の身を覆いベリザリオも祭霊光を施す。
「ヴォルフを……よくも！」
　朔耶が叫びながら肉薄して殺人鋏。
　放たれた一撃はアポリアの体を貫き。
「ふむ……？」
　僅かに呻くアポリアの隙を見逃さず、フォルケがティアーズリッパ―で斬り裂き、織久が無数の手でアポリアの体を締め上げ。
　ノエルはリングを光らせて少しでも耐えられるようにと傷を癒し、傷だらけのわんこすけは斬魔刀。
　他班も諦めてたまるかとばかりに立て続けに攻撃を行っていた。
「良いぞ、良いぞ灼滅者！　お主等の覚悟流石じゃのう！」
　愉快がりながら放たれたアポリアの衝撃波でわんこすけとノエルが消滅。
「もっと妾を楽しませてくれ！」
　更にアポリアの鋭い刺突に朔耶が貫かれてその場に頽れる。
（「回復が……間に合いませんわ……！」）
　ベリザリオが唇を噛み締めながらスターゲイザー。
　放たれた蹴りがアポリアを強かに打ち据え胸に青痣を作るがアポリアは掌を返してベリザリオに向け、無数の漆黒の弾丸を放つ。
　耐え切れずにその場に倒れるベリザリオ。
「兄さん……！　貴様……！」
　憤怒に身を任せて織久が肉薄して、闇器【百貌】でその鳩尾を貫き。
「行きます」
「さあ、あきら！　二桁なんて馬鹿やってないで、自分と一緒に学園に帰るっすよ！」
　フォルケとギィが両翼から同時攻撃。
　3人の同時攻撃と他班の攻撃を受けたアポリアは、肩で息を切らせつつも余力を感じさせる笑みを浮かべた。
「この人数で妾に挑んできたときは無謀じゃと思ったが……中々に楽しませてくれるのう、お主等」
　アポリアがそう告げた時。
　右九兵衛達を追跡していた2班が戻って来る。
「？！」
　アポリアが息を呑む音と久成・杏子のホイッスルの音が宍戸ルームに響いたのは同時だった。
「皆、撤退するよ」
　七葉の合図にギィ達は戦闘不能者と重傷者を回収し速やかにその場を退いた。

作者：長野聖夜	重傷：備傘・鎗輔（極楽本屋・d12663） ベリザリオ・カストロー（罪を犯した断罪者・d16065）  死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年8月31日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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