右九兵衛暗殺計画~激闘戦線とロードローラー

    作者:のらむ


    「はい、どうも皆さんこんにちは。既に知っているとは想いますが、先日のご当地怪人からの同盟提案は却下という形になりました。ご当地怪人の最終目的や、そもそも相手がダークネスであるという事を考えると、妥当な判断だったと思います」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、教室に集まった灼滅者達にそう話を切り出した。
    「しかし……依然として状況は芳しくない……といいますか、かなり危機的です。ご当地怪人の援軍が無い状態で、アンブレイカブルを吸収した六六六人衆に加え、同盟相手である爵位級ヴァンパイアを同時に相手にする事は……ええと、そうですね。非常に難しいといいますか……ヤバイです。激ヤバです」
     特に、武蔵坂学園の内情を良く知り、同名の立役者である銀夜目・右九兵衛が暗躍する限り、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟は強固かつ脅威であり続けるだろうとウィラは言う。
    「現在、銀夜目・右九兵衛は同盟を進める為に六六六人衆の拠点の1つに身を寄せています。彼に関して直接の予知は出来ていないのですが、六六六人衆と接触を持った事で、その動きをつかむことができました」
     その六六六人衆の拠点とは、田子の浦沖に沈んだ軍艦島を改造したもの。銀夜目・右九兵衛はこの拠点の、旧ミスター宍戸ルームに拠点を構えているという。
    「現在軍艦島には、戦神アポリアを筆頭とした複数のハンドレッドナンバーと、その他護衛の戦力が多数配置されています。戦神アポリアは爵位旧ヴァンパイアとの交渉を担当しつつ、右九兵衛の護衛と監視を行う立場みたいですね」
     更に田子の浦周辺にはロードローラーが控えており、いつでも援軍を出せる様準備が整えられているという。
    「旧軍艦島の海底拠点は、相当規模が大きく、相当数の戦力を投入しなければ攻略はままならないでしょう。その上侵入経路が特定される事もあり、制圧可能な大部隊を派遣すれば、右九兵衛を含めた有力な敵達は悠々と撤退することが予測されます」
     旧軍艦島拠点を攻略し、右九兵衛を灼滅する為には、緻密な作戦と連携が駆使された精鋭達による特殊な作戦が必要となるだろうと、ウィラは言い切った。
    「さて、それでですね。今回ロードローラーが軍艦島ではなくその周辺に居るのは、『軍艦島に攻め寄せた灼滅者を挟撃して撃破』する為の様ですね。嫌な話ですね。ロードローラーの存在に気づき大きな戦力で攻めれば、軍艦島を放棄して撤退。気づかずに少数の精鋭部隊での強襲を目論めば、ロードーローラーの増援を送り込み灼滅者を全滅させる……。こんな作戦らしいです。やっぱり嫌な話ですね」
     灼滅者側はこの敵の作戦を逆手に取り、少数の精鋭部隊での強襲でロードローラーの増援を発生させた上で、ロードローラー本体を灼滅して分体を消滅させる作戦を行う事となる。
    「この場に集った皆さんは、陽動部隊として動いて貰います。ロードローラーの増援を誘き寄せる為、軍艦島に正面からド派手な強襲をかましてきて下さい」
     当然ながら、敵の重要拠点に正面から攻め込めば、敵方からの激しい迎撃は避けられないだろう。
    「ただでさえ激しい戦闘になりますが、その上戦闘中にロードローラーの分体が増援としてやって来る為、非常に危険……というかもはや敗北必至と言っていいでしょう。しかしながらこの陽動が成功しなければ、作戦の成功はあり得ません」
     軍艦島からの迎撃部隊を撃破してロードローラーの援軍を呼び寄せ、更に可能な限り長く闘い、かつ多くのロードロードローラーを灼滅する事が出来れば、ロードローラー本体への奇襲攻撃への大きな助けとなる、最良の結果となるだろう。
     危機的状況の中、もしかしたら闇堕ちしてしまう灼滅者が出る可能性もあるだろうとウィラは言う。
    「それ自体は、やむを得ない場合もあるかもしれません。が、現在多くのダークネス組織が武蔵坂学園を脅威と感じており、闇堕ちした灼滅者がダークネス組織に取り込まれ戦力化される状況は続いていくと思われます」
     もし今回の作戦が成功し、右九兵衛やアポリアといったダークネス組織の幹部となった闇堕ち灼滅者を灼滅する事に成功しても、第二第三の彼らを出してしまえば、意味がなくなってしまうとウィラは言う。
    「可能な限り、闇堕ちに頼らずに戦い抜くのが理想となるでしょう……って、やっぱり結構な無理難題をふっかけてますよね。すいません。ですが、それ位の状況なんです」
     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。何度も言いますが、とにかく危険な任務となります。敵拠点に正面から突撃するわけですから。勝利は絶望的ですが、それでもロードローラー本体の灼滅が成功するまで。なんとしてでも、死ぬ気で闘い続けて下さい……でも、死なないで下さい。お気をつけて」


    参加者
    ヴィント・ヴィルヴェル(旋風の申し子・d02252)
    森田・依子(焔時雨・d02777)
    津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)
    雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)
    フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)
    楯無・聖羅(冷厳たる魔刃・d33961)
    ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)
    六千六百六十六議院・壱号(人工の殺し屋・d37563)

    ■リプレイ


    「闇堕ちしたとはいえ、学園の先輩を殺害しないといけないんですね。私たちは直接手を下す訳ではありませんが、その事を重く捉えないといけませんね」
    「暗殺以外に最早状況打破の術がないとは……策と呼ぶにも、あまりにも綱渡りな作戦。とはいえ、この場での最善を尽くすのみ」
     フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)とヴィント・ヴィルヴェル(旋風の申し子・d02252)がそう話をしていると、船は予定通り軍艦島の海上へと到着した。
    「黄金闘技の結果は酷く恥辱に塗れ、己の奥底を覗かれた。故に此度の遊戯では更なる冒涜を掲げるべき。精神に渦巻く負の感情で撲り潰す」
     誰に言うでもなく呟き、海面へ飛び込んだニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)。確かに息は苦しかったが、ニアラにとってそれは重要な事では無かった。
    「武運を祈りマス。心配ありまセン。きっとピンチを笑い話で終わらせマ……ぶ、ぶくぶくぶく……」
     不安を払う様に言い切り海に飛び込んだ六千六百六十六議院・壱号(人工の殺し屋・d37563)。早速溺れかけていたが、流石灼滅者というだけあってすぐに体勢を持ち直す。
    「去年は臨海学校の海。そんで今年は……塩辛い海になりそぉやねぇ」
     更に雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)が海に飛び込む。息苦しくは無かったが、どことなく投下される機雷の様な気分になっていた。
     海に潜り、全員が十分な視界の確保と意思疎通の準備が出来ている事を確認すると、灼滅者達はいよいよ本格的に軍艦島を目指し進み始めた。
     それから程なくして、灼滅者達の眼前に、大量の黒い影が姿を表した。吸血蝙蝠達だ。
    「早速のお出ましだな……さあ行くぞ、有象無象ども?」
     楯無・聖羅(冷厳たる魔刃・d33961)は襲いかかる蝙蝠達に向け巨大な斬撃を放ち、一気に斬りつけた。
    「よーっし、派手にいきましょうか!」
     続いて津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)が連なる斬撃の嵐を放ち、蝙蝠達を更に切り刻む。
     灼滅者達は蝙蝠達に対し、殲滅では無く突破の道を選んだ。最低限の撃破に止め、先に進む事を優先させたのである。
     その目論見は成功し、灼滅者達は大した傷を負わず、軍艦島に大きく接近する事が出来ていた。
    「……! 皆さん待って下さい、何か来ます!!」
     森田・依子(焔時雨・d02777)は敵接近のハンドサインを交え、仲間たちを制止する。
     灼滅者達が目を凝らすと、軍艦島の方面から蝙蝠では無い何かが近付いてくる。
    「まさか正面から突撃してくるとは……危険を顧みぬ思い切りの良さだな、灼滅者よ」
     姿を表したのは、両手に鋭い鉤爪を嵌めた、筋骨隆々の老人。アンブレイカブルであった。
    「我が名は老牙。我が役目を果たすため、そして我の力の糧とする為。貴様らには死んでもらおう!!」
     構える灼滅者達に、老牙は爪を振りかぶり襲いかかった。


    「自らの力量を見誤った無謀、死して悔いるが良い!!」
    「させません」
     命を狩る一閃。その一撃を受け止めたのは依子であった。左肩から腕にかけて深々と傷が刻まれるが、依子は僅かにも怯まなかった。
    「逃げる訳には、いかないんですよ」
     至近距離から放つ戦帯の一撃が老牙の左肩を抉り、その一瞬で距離を離す。
    「おっと、隙だらけですよ!」
     再び攻勢の構えを取る老牙だったが、その背後に陽太が回り込む。
    「とにかく今は、派手にやらせてもらいます!!」
     全身全霊の力を込め、陽太は鬼の拳を打ち放つ。
    「グゥ……!!」
     鈍い音を立てながら老牙の身体は吹き飛び、その体勢が大きく崩れた。
    「力量がどうとか言ってるけどな。お前の方こそ、その老体で私達を止められるつもりか?」
     聖羅は『アクセラレーターAM500』を構え、隙が出来た老牙に狙いを定める。
    「ジイさんは大人しく家に引き籠もってな」
     50口径の弾丸が脳天に直撃し、老牙は忌々しげに聖羅を睨みつける。
    「小童が。すぐにその減らず口を利けなくしてやろう」
     そして振るわれる双爪。飛ばされた斬撃が灼滅者達の身体を纏めて斬りつけた。
    「拙者らも、そう易々とは倒れないでありますよ」
     ヴィントが光を発する剣を振り払うと、剣先から放たれた暖かな風が、灼滅者達の傷を纏めて癒やしていく。
    「威勢の良いご老人ではありますが、恐らく彼だけなら拙者らだけでも灼滅は可能。しかし問題は……」
     その時ヴィントは、とてつもなく嫌な気配を感じ取り、後ろを振り返った。
     そして迷わずマグネットボードに感嘆符を描き、仲間たちに指し示し。一同はヴィントが指差す方向に視線を向ける。
    「ふええぇ、ロードローラーさんが上から降ってきてますよ。てっきり、海底を整地しながら進んでくるのかと……って、あれ? ロードローラーさんの周りに、何か……?」
     橙、赤、黄。3台のロードーローラーがこちらに急接近する様にフリルは思わず声を漏らすが、現れたのはそれだけでは無かった。
     ここに来るまでの道中、灼滅せず振り切ってきた吸血蝙蝠の全てが、ロードローラーと共に姿を表したのである。
    「こ、これは……すごくとっても頑張らないと駄目かもしれませんね……」
     一斉攻撃が来る。そう確信したフリルは依子の傷を癒やし、身構える。
     ズン、ズン、ズン、と。3台のロードローラーの突撃が灼滅者達を吹き飛ばし、蝙蝠達がその身体に食らいついていく。
     更に老牙の斬撃が再び灼滅者達を斬り、状況は一気に転じた。
    「イタタタタ……残念ながら余裕は無さそうデス」
     仲間を何度も庇い、相当の傷を負った壱号は、止むを得ず自らの傷を癒した。
    「蝙蝠の迎撃は最低限という方針ハ、陽動作戦としては正しかったと思いマスガ……戦術としてはかなりの大打撃デスネ……でもまあどうにかしまショウ!」
     壱号の言う通り、敵の増援が来ると分かりつつ周囲に敵を残し、更に島の強敵も釣りだすというのはかなり危険な作戦であった。
     しかしながらこの陽動部隊の作戦の結果、現在ロードローラー本体と戦うチームに大きな利益をもたらしている。
    「まさかコウモリさん達まで来るとはなぁ……厳しいけど、後は気合やら根性やらでどうにかするしかないんよぉ」
     丹は槍を構え、一気にロードローラーに突撃する。
    「モヒカンカッター♪」
     橙のロードローラーがモヒカンを投げ飛ばし迎撃するが、丹は紙一重で避け、一気に接近する。
    「ここやぁ!」
     放たれた刺突がロードローラーに深々と突き刺さり、機体から火花が飛び散った。
    「狂武人、重機土竜、蝙蝠、灼滅者。魑魅魍魎共が一堂に会している」
     まさに地獄絵図といった状況。しかしニアラの心中はこの危機的状況に対する考えではなく、ロードローラーに対する嬉々と憤慨に満たされていた。
     ニアラはロードローラーに目をやると静かに口を閉じ、虹色に輝くダイダロスベルトをロードローラーに伸ばす。
    「ふふ~ん、そんな攻撃当たら……当た、痛ッ!!」
     幾重にも絡みついた帯がロードローラーの全身を捻り上げ、その鉄の身体にヒビが入る。
     敵の数は余りにも多く、戦況的にはとてつもなく不利なのは誰の目にも明らかだった。
     しかし灼滅者達はどうにかして、この苦境を耐え凌がなくてはならない。


     ロードローラー分体出現から数分の時が経ったが、未だ分体は健在し続けていた。
    「さあどうする、灼滅者。この場の全ての敵を殲滅しなければ、島に上陸する事すら叶わぬぞ!!」
     攻撃の対象から外れた老牙は、更に積極的に攻撃を仕掛けてくる。
    「私達が本体だと勘違いしてくれるのは有り難いですけど……これじゃあ回復がギリギリ、というか間に合っていないですね……」
     敵の猛攻に対し、必死に回復をし続けるフリル。灼滅者達は未だ誰も倒れてはいなかったが、それもそう長くは保たないだろう。
    「回復ばっかりされたらちゃんと殺せないじゃん♪」
     赤いロードローラーのタイヤが急激に回転すると、フリル目掛けて猛突撃する。
    「一々全部の攻撃に当たってあげると思ったら、大間違いですよ」
     フリルは自身の眼前にダイダロスベルトを網状に展開。ロードローラーの突撃を網で急停止させ、一気に押し返した。
     ロードローラーは回転しながら吹き飛ばされるが、その先にはニアラのビハインド『隣人』が待ち構えていた。
    『隣人』は吹き飛んできたロードローラーを掴み上げると、一気に霊力を流し込み、更に投げ飛ばす。
     直後、ニアラの足元から伸びた貝殻の如き影がロードローラーの機体を叩き潰した。
    「……未だ破壊は成されず。やはり蝙蝠共の存在が障害と化している」
     灼滅者達は赤のロードローラーに集中攻撃を仕掛けていたが、蝙蝠達に攻撃を阻まれていた。
    「諦めが悪いな、灼滅者よ。無駄なあがきは見苦しいものだぞ!!」
     老牙は爪から更なる斬撃を放つと、その一撃を受けた『隣人』がついに消滅した。
    「ドンドン行くよ~♪」
     ロードローラーの追撃も放たれ、人数が減った前衛に厳しいダメージが蓄積される。
     多くの傷を受けた灼滅者の1人である聖羅。しかしその戦意は失われてはいない。
    「お前はアンブレイカブルの癖に、つまらない降伏を望むのか? せっかく私たちが来てやったんだ、楽しまなかったら勿体ないだろう?」
    「この期に及んでまだ減らず口を……だが、これで終わりだ!!」
     老牙は聖羅の首元目掛け、爪を突き出す。狙いは外れること無く首を抉り、おびただしい量の血が流れ出すが――。
    「まだだ……まさかこの程度の攻撃で終わりじゃないだろう? もっと私に傷を負わせてみせろ!!」
     気力で耐え切り、聖羅は引き金を引く。無数の銃弾が敵陣に突き刺さり、羽根が吹き飛んだ2体の蝙蝠が消滅した。
    「やるじゃ~ん♪ でもマグレはそう何度も続かないよ?」
     瀕死の聖羅に橙ロードローラーが突撃を仕掛け、
    「決めつけるのは早いデス」
     そこに割り込んだ壱号が突撃を受けとめ、耐え切った。
    「……本体が倒されるまではどうにか持ちこたえないといけないデス」
     壱号は敵陣に向け、怪談を語りだす。その怪談は敵の魂に入り込み、その内側から蝕んでいった。
     そして再び繰り出される敵の猛攻。壱号は何度も仲間を庇い、攻撃を受けるが……。
    「グ……!! 残念ながら、どうやらここまでみたいデス……」
     リングスラッシャーの一撃が蝙蝠の身体を両断した後、壱号はロードーローラーの突撃を受け、意識が失われていった。
    「くそ、崩壊する時は一気にくるな……私もここまでだ……」
     その直後、老牙が放つ巨大な斬撃に巻き込まれ、聖羅もまた意識を失った。
     一気に2人の灼滅者が倒れ、戦況は更に悪化する。
    「おやおや、随分と苦しそうだね~? 逃げなくて良いのかな?」
    「逃げる気なんかないから安心してえぇよぉ?」
     自身も傷だらけではあるが、手を止める訳にはいかないと、丹は槍を構えロードローラーと対峙する。
     かつてウツロギが闇堕ちした時、丹はその場に居合わせていた。丹はその時の事を一瞬思い出す。もしかしたら、あっち側に居たのは自分だったのかもしれない、と。
    「もし、なんてあれへんやろぉけど≪LEVITHMONG DE A VL TORZVLP VORS DE CNILA≫」
     そう呟き、丹は槍を突き出した。槍先から放たれた無数の氷の刃が赤のロードローラーに突き刺さっていく。
    「冷たい! も~、そういう事する子にはお仕置きだよっ♪」
     ロードローラーは突き刺さった氷をそのままに丹に向かって突撃。丹は持ち堪えようとするが、
    「あ、これはもうあかん奴かもしれんなぁ……」
     呟いた直後、目の前がふっと暗くなり。丹の意識もまた失われた。
     ついに3人の灼滅者が倒れ。前衛1人、後衛4人の5人のみになってしまった。
    「勝てないとは聞いてたけど、これは本当にキツイな……だけどまだ、退く訳にはいかないぜ!!」
     陽太は片腕を鬼の如く変化させ、赤のロードローラーに飛びかかる。
    「もう一度言うぞ、灼滅者。潔く諦め、そして死を受け入れよ!!」
     老牙の斬撃が陽太の身体を抉る。だがその勢いは緩むこと無く、ロードローラーの眼前まで辿り着いた。
    「いい加減、壊れろよ!!」
     機体から剥き出しになった顔面に鬼の拳が突き刺さり、その余りの衝撃に機体が大きくひしゃげた。
    「うぶ……鼻血が……だけどざ~んねん♪ 僕はまだ倒れ」
    「ならもう一撃だ!!」
     更に至近距離から放った帯の一撃が赤のロードローラーの機体を貫き。全身から更に激しく火花が飛び散り始めた。
     だが、まだ灼滅には至らない。しかし瀕死には追い込んでいた。
    「……行きます」
     依子は傷だらけの身体を抑え、槍を構えて前に出る。蝙蝠の再出現という事態にも動じず、冷静に戦況を見極めてきた依子が、ここは一手でも敵の攻撃を減らすべきだと判断したのである。
     学園の元灼滅者。当然暗殺する事に抵抗が無いはずもない。
    「だけど、逃げる事は出来ない。生きる為には、戦わなくてはならないんです」
     渾身の力を込め、依子は槍を突き出した。真っ直ぐな一撃は赤のロードローラーの中心を穿つと、轟音と共に爆発四散していった。
     直後、撒き散らされた残骸の中を突っ切り、老牙が依子の胸に爪を突き立てる。そして一気に引き抜いた。
    「…………撤退です」
     血が溢れ出し薄れ行く意識の中、依子はハンドサインと共に撤退の号令を出す。そして依子は気を失った。
    「了解であります」
     ヴィントはすぐさま周囲を見渡した。敵は老牙と、ロードローラーが2体。そして蝙蝠が5体。
    「死ぬ気で行けば逃げられなくもないでしょうか……進むべき道は此方、とにかく急ぐであります!!」
    「如何にも。重機の貌で眩暈を覚える」
     ヴィントの言葉にニアラも応え。灼滅者達はそれぞれ気絶した灼滅者達の身体を抱え、撤退を開始した。
    「逃しはせんぞ!!」
     放たれる老牙の斬撃。次いで蝙蝠達の追撃。ヴィントは言葉通り死ぬ気で泳ぎつつ、残った仲間たちの傷を癒やしていく。
     その時、背後の老牙から動揺の声が上がる。
    「な、なんだ……? あの薄気味悪い重機共が……!?」
     灼滅者達がチラリと後ろに目をやると、2体のロードローラーが黒い炎に包まれ、今まさに消滅していく所だった。
    「何故だ……!? 貴様ら、まさか増援の存在を初めから知っていたのか!?」
    「そう狼狽えるとみっともないでありますよ。拙者らはこれで本当に失礼するであります」
     ヴィントはそう言い放ち、灼滅者達は更に海上へと突き進む。
     老牙からの更なる追撃は無かった。追撃ではなく軍艦島の防衛に向かうべきだと判断したのだろう。

     そして灼滅者達は蝙蝠からの追撃を振りきり、どうにか海上まで辿り着いた。
     半数の灼滅者が戦闘不能、その他の灼滅者たちも決して浅くない傷を負っていたが、目的を達する事が出来た。
     ロードローラーこと外法院・ウツロギの灼滅は、成功したのだ。

    作者:のらむ 重傷:森田・依子(焔時雨・d02777) 雲・丹(まさかのとぅえんてぃふぉー・d27195) 楯無・聖羅(冷厳たる魔刃・d33961) 六千六百六十六議院・壱号(人工の殺し屋・d37563) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月31日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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