右九兵衛暗殺計画~ロードローラー灼滅作戦

    作者:三ノ木咲紀

    「ご当地怪人の同盟提案への回答、お疲れさまや。難しい選択やったけど、曖昧な条件でのダークネスとの同盟はできん、いうみんなの決断は納得できるもんやったと思うで」
     にかっと笑ったくるみはしかし、不安そうに眉をひそめた。
    「そやけど、これで次の戦争にご当地怪人の増援はのうなってもうた。六六六人衆にアンブレイカブル、更に爵位級ヴァンパイアまで相手にせなあかんのは正直……至難の業や。みんなの実力はよう知っとるけど、それでも危機的状況であることには変わらん」
     特に、武蔵坂学園の内情をよく知り、同盟の立役者でもある銀夜目・右九兵衛が暗躍する限り、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟は強固であり続けるだろう。
     爵位級ヴァンパイア勢力の右九兵衛は直接予知することはできない。
     だが六六六人衆と接触を持ったことにより予知が可能となったのだ。
     現在、右九兵衛は六六六人衆との同盟を進めるために六六六人衆の拠点の一つに身を寄せている。
     この機会を逃す訳にはいかない。
     予知によると、右九兵衛は田子の浦に沈んだ軍艦島の宍戸ルームに拠点を構えている。
     ここには戦神アポリアを始めとした複数のハンドレッドナンバー、及び護衛の戦力が配置されている。
     戦神アポリアは爵位級ヴァンパイアとの交渉を担当しつつ、右九兵衛の護衛及び監視も行っているようだ。
     また田子の浦周辺にはロードローラーが控えており、いつでも援軍を出せる準備をしている。
     旧軍艦島の規模はかなり大きく、一定以上の戦力を投入しなければ攻略は難しいだろう。
     また、侵入経路が特定されるため、拠点制圧可能な大規模部隊を投入すれば、右九兵衛を始め有力な敵は悠々と撤退してしまうことが予測される。
     旧軍艦島を制圧し、右九兵衛を灼滅する為には、緻密な作戦と連携を駆使した精鋭部隊による作戦が必要となる。
    「……ここからが本題や。作戦を説明するで」
     大きく深呼吸したくるみは、淡々と語り始めた。
    「六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟を強固なもんにさせんために、右九兵衛を暗殺する。右九兵衛がおらんようになったら、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの連携が取りにくうなる。その隙を突くんや」
     右九兵衛を暗殺するためには、数々の障害があり、それらを攻略する必要がある。
     六六六人衆側は、右九兵衛との連携協力および護衛・監視のために、戦神アポリアを始めとした護衛戦力と海底に沈んだ軍艦島を改造した秘密拠点を提供している。
     更に増援可能な場所にロードローラーを配置することで、防衛体制を整えている。
     これらを打破する必要がる。
    「うちらの班は、ロードローラー本体の攻略に動くことになったんや」
     今回ロードローラーが軍艦島にいないのは、『軍艦島に攻め寄せた灼滅者を挟撃して撃破』するためのようだ。
     ロードローラーの存在に気づき、十分な戦力で攻め寄せれば、軍艦島を放棄して撤退。
     ロードローラーの存在に気づかず少数精鋭の部隊で強襲を目論んだ場合は、ロードローラーの増援を送って挟み撃ちにする。
     そんな作戦のようだ。
    「今回はこの作戦を逆手に取って、少数の精鋭部隊での強襲を行ってロードローラーの増援を発生させた上でロードローラー本体を灼滅。分体を消滅させるんや」
     まずは陽動として、少数精鋭の部隊で軍艦島を強襲。
     ロードローラーは灼滅者を挟み撃ちにするために増援を派遣するはずなので、増援が軍艦島に到着したタイミングで田子の浦の津波避難タワーに攻撃を掛ける。
     このタイミングでロードローラーに攻撃を仕掛けることになる。
     ロードローラー本体に攻撃を仕掛けるのは三班。
     ロードローラーは一人軍隊ともいえる強力なダークネスだが、本体を撃破すれば分体はすべて消滅する。
     増援を軍艦島に向かわせた、とはいえ最低限の護衛は残している。
     苦戦は免れないが、ロードローラー本体さえ灼滅することができれば、軍艦島の戦いに勝機を見出すことができる。
    「……このロードローラー灼滅に失敗した場合、作戦の続行は困難になってまう。今回の作戦は中止撤退となるんよ。失敗は許されへん。みんなの力を貸したってほしいんや」
     淡々と説明を終えたくるみは、大きく息を吐くと改めて灼滅者達に向き合った。
    「この戦いに敗北したら、六六六人衆との戦いはかなり劣勢に立たされてまう。厳しい戦いやけど、皆だけが頼りや。頼んだで!」
     くるみは頑張ってにかっと笑うと、深く頭を下げた。


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    遠夜・葉織(儚む夜・d25856)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)
    苔石・京一(こけし的な紳士・d32312)
    三影・紅葉(あやしい中学生・d37366)

    ■リプレイ

     階段を駆け上がり屋上に到達した灼滅者達は、本体の姿に一気に距離を詰めた。
     第一班がうまく引き付けてくれたのだろう。黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)は、ガラクタの上で両手を広げる本体の姿に即座に斬りかかった。
    「やっと会えましたね、締固め用機械。約束通り解体してあげますから覚悟して下さい」
     以前分体を深く抉った日本刀の八咫烏 ー日本刀ーを掲げた璃羽は、日本刀に影を纏わせると本体へ解き放た。
     本体へ纏わりつき、見せるトラウマ煩そうに払う本体へ、氷の炎が襲った。
    「凍てつけ!」
     苔石・京一(こけし的な紳士・d32312)の氷を不快そうに見下した本体は、何事もなかったかのように肩をすくめた。
    「やあ来たね灼滅者♪」
    「お前を倒すのが、私達の役目ですから」
     京一の声に、本体は肩をすくめた。
    「さっきのはやっぱり囮かぁ。でも残念♪」
     本体が言い終わるのが早いか。
     灼滅者達と本体の間に、赤・青・黒のロードローラーが現れた。
    「ごるぁ!」
     赤のロードローラーはけたたましい音を響かせると、前衛へ向けて体当たりを放った。
     本体から引き離すように放たれた一撃をいなした灼滅者達に、本体の笑い声が響いた。
    「ボクはまだ分身できるんだ。恐れ入った?」
    「確かに、敵分体の数がわからないなんて大問題だな。しかし、撤退するつもりはないぜ」
     決意と共に繰り出された三影・紅葉(あやしい中学生・d37366)のクロスグレイブの一撃が、突出した赤の鼻面を強かに強打する。
     クロスグレイブを振り抜いた紅葉に向けて、黒のロードローラーが白い歯を見せながら突進を仕掛けた。
    「撤退なんて、させないよ♪ ここで皆、轢き潰しちゃうからね♪」
     猛烈な勢いで紅葉に向けて突進を仕掛ける黒の攻撃に、紅葉は息を呑みながら後退する。
     ダメージの深い紅葉をチラリと見たロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(夢途・d36355)は、同じメディックである遠夜・葉織(儚む夜・d25856)をチラリと見ると交通標識を掲げた。
     黄色い光が交通標識から溢れ出し、前衛を癒しながら耐性を与えていく。
     交通標識をくるりと回したロードゼンヘンドは、少し遠くに見える本体の姿に眉をひそめた。
     分体はさっき、確かに「轢き殺す」と明言した。
     やはり、もう戻れない公算が高いのだろうか。
    「こんな形でロードローラーの本体に合うのは非常に残念だ。一度喋りたかったよ外法院・ウツロギ」
     ぽつりと呟いたロードゼンヘンドは、意識を戦闘へと切り替えた。
     本体との間に割って入った護衛を前に、光の奔流が溢れ出した。
     ヒラヒラしたミニスカ衣装にロングジャケットを羽織った魔法少女に変身したアプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)は、決めポーズを取るとマテリアルロッドを本体へ向けた。
    「ここからが正念場っす。気合い入れていくっすよ!」
     アプリコーゼのロッドから放たれるマジックミサイルが、後方にいる本体を抉る。
     始まった戦いの中、若桜・和弥(山桜花・d31076)は眼前で拳を打ち合わせた。
     暴力で解決する事の意味、伴う痛みを忘れない為のルーティーン。
    「ケジメはつけるべきだ、ロードローラー!」
     和弥は両の拳が訴える痛みを感じながら、オーラキャノンを赤に放った。
     自然に押されるように後退した紅葉に、白い帯が放たれた。
     紅葉の傷を癒した葉織は、怜悧なる聖帯から溢れ出す癒しの手応えを確かめると、紅葉に語り掛けた。
    「まだいけるな?」
    「無論だ。ロードローラー本体の首がとれるまで諦めない」
     腕を回しながら本体を睨む紅葉に、葉織は頷いた。
    「今更灼滅者に戻れるなどとは、ロードローラー自身思っていないだろう。ここがあいつの墓場だ」
     葉織の声に反応したかのように、鬨の声が響いた。
     ロードローラー本体を担う第三班が、奇襲を開始したのだ。
     まず屋上に現れたのは五人。
     ダブルジャンプで一気に駆け上ったのだろう。本体に攻撃を仕掛ける灼滅者達をチラリと見た青は、おもむろに階段へと向かった。
     子供のような仕草で階下を覗き込んだ青は、口元を大きく歪める。
    「多分この辺に……いたぁ」
     階段を駆け上る灼滅者へ狙いをつけた青は、口を大きく開けるとエネルギー弾を放とうとした。
     その背中を白い帯が貫いた。
    「させないわ!」
     神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)が放ったダイダロスベルトの一撃が、青の背中を大きく引き裂く。
     突然の攻撃に驚いたロードローラーのエネルギー弾が、後続の灼滅者達の脇を貫き地面を穿つ。
     その隙に階段を登り切った灼滅者達は、明日等に感謝の視線を投げかけると本体へ向けて駆け抜けていく。
     振り返った青は、恨めし気な視線を明日等へ投げた。
    「痛いなぁ、なにするのさ!」
    「アイツらへの援護が、アタシ達の仕事だからね」
    「じゃあ、ボクはキミ達を邪魔するのが仕事だね!」
     楽しそうに笑った青は、灼滅者達へ向けて突進を繰り出した。


     ゆっくりと後退し本体と極力距離を取った灼滅者達に、青は突進を仕掛けた。
    「いっけぇ、ローラー突進!」
     突風のように駆け抜けたロードローラーの攻撃が、後衛を踏みつぶして駆け抜ける。
     攻撃を耐え抜いたロードゼンヘンドは、後衛にイエローサインを放ちながら仲間を振り返った。
     さっきの攻撃で分かった事がある。
     赤の方が攻撃力が高く、青の攻撃には強い服破りが乗せられている。ならば。
    「皆! 恐らく青がジャマーで赤がクラッシャーだ!」
    「青からっすね、了解っす!」
     頷いたアプリコーゼは、離れた場所にいる本体をチラリと見た。
     本当は本体を攻撃したかったが、引き付けが成功してここからでは攻撃できない。
     今は分体を倒すことが先決だ。意識を切り替えたアプリコーゼは、マテリアルロッドを握り締めると青へ向けてフォースブレイクを放った。
     青へ意識を向けた灼滅者達に、赤は苛立ったようにローラーの唸りを上げた。
    「無視してんじゃねぇぞゴルゥア!」
    「危ない!」
     怒りも露わに葉織へ突進を仕掛けた赤との間に、京一は割って入った。
     ローラーの回転を得物で防いだ京一は、ローラーを蹴ると距離を取った。
     黒は灼滅者達を見定めるように体を揺すると、京一に向けて突進を仕掛けた。
    「これより殲滅に移っちゃうよー!」
     楽しそうに突進するローラーが、京一を巻き込んで進む。
     跳ね飛ばされる京一に八咫烏 ー断斬鋏ーを握り締めた璃羽は、青のロードローラーへ鋭く繰り出した。
    「必ずここで決着を着けましょう、ロードローラー!」
     璃羽の決意に頷いた明日等は、自分を守ってくれたウイングキャットのリンフォースの頭を撫でると妖の槍を構えた。
    「楽しそうに好き勝手してくれたけど、お愉しみはここまでよ」
     明日等が繰り出す鋭い槍が、螺旋状に青の車体を穿つ。
     同時に駆け出した和弥は、青の死角に回り込むと鋭い斬撃を放った。
     かすかに痛みの残る拳が、暴力で解決することの意味を和弥へ問いかける。
    「それでも。勝たなきゃ我を通せないって言うなら、そうしよう」
     決意を新たにする和弥に、紅葉は頷くと改めてロードローラーを見た。
     目の前にいるのは、間違いなく難敵。逃げようと思うから心が揺らぐ。
     避けられない戦いだ。負けて生きるより、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあるだろう。
    「ロードローラー本体の首がとられるまで諦めない。思い切って戦うぜ!」
     紅葉はダイダロスベルトを構えると、青に向けて解き放った。
     鋭い帯の刃が、青を切り裂く。
     攻撃を一通り受けた黒は、いたずらを止められた子供のような笑みを浮かべた。
    「みんな思ったより強いなぁ。これで闇堕ちとかされたらやばいかも。……そうだ!」
     一拍置いた黒は、赤と青と額を寄せ合うと、にんまり笑い同時に体を揺らすと宣言した。
    「「「みんな一度に殺しちゃおう!」」」
     一人ゴルァ! と付け足す赤には構わず、紅葉は眉をひそめた。
    「どういう意味だ?」
    「キミ達の闇堕ちは、正直脅威だよねぇ。たった一人で戦況を覆しちゃうかも知れないんだもん」
    「だが絶体絶命にならなきゃ、闇堕ちはしないだろごるぅぁ!」
    「ならば! 戦闘不能ギリギリまで全員追い込んで、まとめて轢けばいいんだよ。やだ僕って頭いい~」
    「間違って踏みつぶしすぎちゃったら、ごめんね~!」
     口々に言うロードローラーに、アプリコーゼは手を握り締めた。
     この戦力差に加えて、ロードローラーは本体が撤退に成功するか増援に出た分体が戻ってくれば勝利なのだ。
     相手はこちらを見下している。ならばそこに付け入る隙もあるはずだ。
    「やれるもんなら、やってみるがいいっす!」
     尻尾をぴん! と立てたアプリコーゼに、黒は突進を仕掛けた。


     どのくらい時間が過ぎたのか。
     リンフォースに庇われたアプリコーゼは、消滅する猫に感謝の視線を送ると最後の力を振り絞ってマジックミサイルを放った。
    「これで、終わりっす!」
     無数のミサイルが青に突き刺さり、跳ね飛ばされた青は床でバウンドするとそのまま動かなくなる。
    「どうっすか!」
    「ゴルぁ!」
     唸り声を上げた赤が、アプリコーゼを踏みつぶす。
     追撃を受け意識を失ったアプリコーゼに、黒はローラーの回転数を上げた。
    「そろそろ、いい頃かなー?」
     言い終わるが早いか突進する黒のローラーが、後衛を蹂躙する。
     列攻撃に耐えきれなかった紅葉は、声もなく倒れ伏す。
     攻撃を耐え抜いた後衛に、黒は首を傾げた。
    「うーん、もう一息だね!」
    「それは、こちらの台詞です!」
     叫んだ和弥は、リングスラッシャーを構えると光の輪を赤に放った。
     和弥の声を皮切りに、総攻撃がかけられる。
    「ここで、倒します!」
    「失敗は許されないもの!」
     璃羽の日本刀から放たれる斬撃が赤を引き裂き、明日等の螺穿槍が深い螺旋の穴を穿つ。
     そこへ、バベルブレイカーが突き刺さった。
    「最後まで引きません!」
     赤の懐に一気に駆け込んだ京一の一撃は赤を抉り取り、瓦礫の塊へと変じさせた。
     青と赤が倒された黒は、意外そうな声を上げた。
    「あれあれ? これは予想外」
    「戯れが過ぎたな、ロードローラー」
     ラビリンスアーマーで回復した葉織の言葉に、黒は素直に頷いた。
    「ホントホント。でも、大体計算通りかな?」
     首を傾げる黒に、ロードゼンヘンドは唇を噛みながらイエローサインを放った。
     悔しいが、確かにその通りだ。ロードゼンヘンドは改めて戦況を見渡した。
     引き離した距離は詰められ、本体が手の届く場所まで近づいている上に、黒はほぼ無傷で健在だ。
     六人無事だから絶体絶命という程ではないが、全員殺傷ダメージは累積し、いつ倒れてもおかしくない。
     戦いながら移動したのだろう。かなりの手傷を負った本体は、囮班がいる階段付近まで移動していた。
     強力な列攻撃を避けるにはどうすればいいか考えを巡らせたロードゼンヘンドの耳に、声が響いた。
    「ロードローラー!」
     階段下からかけられた鋭い声に、本体が立ち止まる。
     竹尾・登が、本体へ語り掛ける声を聴きながら、明日等はそっと駆け出した。
     列攻撃を防ぐには、こうする外ない。転がる瓦礫の影に身を潜めた明日等の耳に声が響いた。
    「大丈夫だよ、まだサヨナラなんてしないからね☆」
    「いいえ、さよならよ。アンタとはいい加減、これっきりにしてみせるわ!」
     瓦礫を蹴り、飛び出した明日等の槍が本体を貫く。
     二撃を受けた本体は、振り返るとにい、と笑った。
    「後方注意、なんだなー」
    「ローラー突撃!」
     本体の援護へ向かったのだろう。黒は本体班を押しのけながら猛突進を仕掛けると、明日等を背中から轢き倒した。
     意識を手放し、登の隣に倒れた明日等の姿に、黒と本体は顔を見あわせた。
    「「殺っちゃおう♪」」
    「させない!」
     戦場を駆け抜けた和弥は、迫る黒のローラーの間へ強引に割って入った。
     交通標識を縦に構えて猛烈な圧力を耐えるが、ダメージが累積した和弥はいなしきれない。
     和弥が意識を手放した時、ふいに圧力がなくなった。
    「させるかよ!」
     回復を放棄したロードゼンヘンドは、「ローラー禁止」と書かれた交通標識を強かに黒へと叩き込んだ。
     頭付近を強かに強打された黒の体がぐらりと揺らぐ。
    「ロードローラー、絶対許さない」
     冷静にティアーズリッパーを構えた葉織は、階段側へ回り込むとローラーを大きく抉り取った。
     そこへ、雷が放たれた。
    「階下へ、落ちなさい!」
     態勢を崩され、階段側のローラーを抉られた黒へ、京一のアッパーカットが叩き込まれる。
     階段近くにいた黒は、三連撃を受けて階下へ消える。
     ひとまずの脅威は去った。だが、すぐに登ってくるだろう。
     京一は璃羽へ目くばせをする。真意を読み取った璃羽が頷き駆け出した時、黒が飛び出した。
    「よくも階段落ちなんてやってくれたなぁ! 轢く! 轢き殺しちゃうもんね!」
     着地し、広い場所大きくUターンした黒は、倒れる二人に向けてもの凄い勢いで襲い掛かる。
     これを止める術はない。闇堕ちを覚悟し黒の前に立ちふさがった時、嘆きが響いた。
    「ああああああああああああ!」
     絶叫が空に響き渡る。その声に消されるように、黒が冷たい炎に包まれていく。
    「やった……のか?」
     振り返ったロードゼンヘンドの視線の視線の先で、いろはの嘆きの声が響いた。


     京一と視線を交わした璃羽は、本体へ向けて矢のように駆け出した。
     意識が飛びそうになる。璃羽も満身創痍だが、ここでウツロギを灼滅しなければ必ず又同じことを繰り返す。
    「あなたの享楽に付合う気も、犠牲になる気もない。ここで解体します!」
     璃羽が手にした八咫烏ー日本刀ーが一閃する。
     首を狙い放たれた雲耀剣が、本体の首を刎ねる。
     誰もがそう思ったが、文字通り首の皮一枚で堪えた本体は、殺意を露わにする璃羽にむけてにやりと笑った。
    「璃羽ちゃんだっけ? 璃羽ちゃんじゃダメなんだよ。だってさあ」
     ふいに振り向いた本体は、斧に変じた腕を振り上げ璃羽を振り払った。
     そのまま、真っ直ぐ駆ける。
     ただ真っ直ぐ駆け抜けた先には、深手を負ったいろはの姿がある。
     駆けてくる本体の姿に静かな決意を込めて抜刀したいろはと、いろはを殺そうと襲い掛かる本体と。
     日本刀と斧。二つの武器が交差することはなかった。
     いろはの日本刀が本体を貫き、首が天高く飛ぶ。
     その時、本体が――ウツロギがどんな表情をしていたのかは分からない。
     驚愕に目を見開くいろはへ、斧から人のそれに変じた腕が伸びる。
    「僕の死に場所は、ここだからね♪」
     ウツロギがいろはを抱きしめた瞬間、黒い炎が燃え上がった。
     いろはを抱きしめるように、わずかの間燃え上がった炎は全てのロードローラーを包み込む。
    「ああああああああああああ!」
     静けさを取り戻したタワーの屋上に、いろはの絶叫だけが響き渡っていた。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914) 若桜・和弥(山桜花・d31076) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月31日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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