「ラジオウェーブのラジオ放送だ」
竜宮城の乙姫様を思わせる水着姿を披露しながら、御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)は集まった灼滅者達にそう話を始めた。
深夜のとあるラジオ放送。
昔話の浦島太郎の話から、もし亀が助けられなかったら、となって。
「虐められた亀が巨大化して襲い掛かって来ると言うのだ」
そうであろう? と確認する視線に、棒アイスを齧っていた八鳩・秋羽(中学生エクスブレイン・dn0089)が、こくりと頷いて見せる。
タタリガミの首領と目されるラジオウェーブ。
そのラジオ電波の影響を受けたこの放送は、都市伝説になってしまう。
赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査で判明したこの現象は、ゆえに、都市伝説が発生する前に不確定ながらも情報を得ることができるのだ。
「海で、男の子3人、亀、虐める」
「虐める、と言うか……興味から弄り過ぎたと言う状況のようだな。
どちらにしても、亀にとっては『虐められた』ことに変わりはないのであろう」
秋羽のぽつりとした説明に、補足していく百々。
そして虐められた亀は巨大化し、その男の子達を襲おうとしてしまうらしい。
「仕置きにしてはやり過ぎだ。
ゆえに、彼らを助け、亀を倒す」
巨大亀は、倒されると元の普通の亀に戻るらしい。
倒すことが亀を助けることにもなるようだ。
「しかし、亀はどう攻撃してくる生き物なのか?」
「……噛みつく? 体当たり?」
「巨大と言うなら、踏み潰される危険もあるやもしれん」
いずれも威力のある近接攻撃、といった印象かと、百々と秋羽は推測し合う。
それに、亀には甲羅があるから、守りも堅そうだ。
相手は1体、それに被害者(?)とはいえ、油断は禁物だろう。
秋羽と情報を確認しあった百々は、扇で口元を隠し。
「助けたら竜宮城へ招待されぬかのう?」
くすりと悪戯っぽく笑って見せた。
参加者 | |
---|---|
羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490) |
ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078) |
志賀野・友衛(大学生人狼・d03990) |
七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825) |
フリル・インレアン(中学生人狼・d32564) |
榎・未知(浅紅色の詩・d37844) |
●それは昔話の始まりのようで
「むかしむかし、あるところに……」
耳馴染みの定型句を呟いて、フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)は砂浜を歩く。
さくさくと砂を踏むのは、リボンをあしらった青いサンダル。
淡い赤地に白水玉のワンピース水着の上から、水兵さんを思わせる上着を羽織り。
緩くウェーブのかかった銀髪を下ろして背中の辺りで揺らして進む。
だが、その光景を見つけた途端にフリルは立ち止まり、黄色と白の花を飾った麦わら帽子をぎゅっと押さえて顔を隠した。
「ふぇ、む、昔じゃないです」
帽子の下からちらちらと覗く先では、フリルと同じ歳か少し下くらいの男の子3人が、物珍しそうに海亀を囲んで集まっている。
「とりあえず動物愛護的な気分で来てみたんだが……」
ブルーのサングラスの下からそれを眺めた七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)は、ため息交じりに呟きを零す。
白のタンクトップにデニムのショートパンツと、夏の海を楽しめそうな服装とは裏腹に、難しい顔で筋肉質な腕を組んだ。
「亀ってさ、ツンツンしたら頭とか手足引っ込める姿可愛いじゃん?
だから弄ってみたくなる気持ちもちょっと分かるというか……」
「それに、海で亀さんって実際あまり見ないですから。
男の子達が亀さん弄る気持ちは、あたしもわからないでもないなぁ」
その横で、榎・未知(浅紅色の詩・d37844)と羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)がこっそりと意見を交わし頷き合う。
触ってみたいと、どこかうずうずしているような陽桜に、未知も面白がるように、何かをつつくような仕草を見せた。
だが、麗治がくるりと振り返って。
「動物は繊細だからな。
人間がスキンシップで触っても、かなりのストレスを受けることも多い。
俺達だって見ず知らずの集団に突然ボディタッチされたらイヤだろ?」
じっと見つめてくる赤い瞳に、思わず未知は目を反らす。
麗治の言葉を反芻した未知の脳裏に浮かんだのは、何故かウサミミをつけた集団で。
想像の中の未知は、やたら楽しそうな笑顔に囲まれて、集団ボディタッチからのいつの間にかウサミミ装着でもみくちゃにされていく。
「……うん、反省します」
どこかげっそりと呟く未知の肩に、ビハインドの大和がそっと手を置きました。
「そうですよね。亀さんからしたらたまったものじゃないですよね」
陽桜もしゅんと肩を落とすと、霊犬・あまおとが足元からその顔を見上げる。
俯いたピンク色の頭2つをぽんぽんっと軽く叩き、麗治は表情を和らげた。
その間に、男の子達の行動は、恐る恐る触ったりするものからどんどん大きくなって。
押したり叩いたり、甲羅を蹴ったり、転がそうとしたりもするようになっている。
「自覚がなくともやり過ぎはいけないな」
志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)は、陽桜の肩を包むように手を置いて。
「でも、まだ間に合うのは幸いだ。男の子達も亀も助けられる様に頑張ろう」
陽桜が顔を上げると、にっこりと微笑む友衛の青瞳があった。
それは、友衛が身に纏う白い水着に走る青いラインのように爽やかで。
ゆったりとした白地の上着に透けるうっすらとした泡模様のように不思議と優しく。
青空の眩しさも相まって、陽桜はふっと目を細める。
「さあ、反省の時間は終わりか?」
そこにニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)が声をかけた。
青い水着姿から、スレイヤーカードを解除し、赤い魔法使い姿へと衣装を変えて。
ニーハイブーツでぐっと砂を踏みしめると、槍の穂先でその光景を指し示す。
「やられたらやり返す気概があるとは大した亀だ」
感心するニコが刃に陽光を煌めかせる先で、海亀がぐんぐんと大きくなっていた。
成長ではなく、画像を拡大するかのような、巨大化と呼ぶべき不自然な膨張。
「とはいえ、流石に褒めている場合でもないか」
「ふえぇぇ……」
ニコの向こうで、フリルがさらに深く帽子を被りながらも、ちらりと皆を見て。
「助けてやらねばな」
「行くぜ、ニコさん! 大和!」
その視線を言葉にしたニコの声に、真っ先に未知が応え。
続くように、灼滅者達は巨大亀の元へと走り出した。
●虐める者、助ける者
見下ろしていた亀が、あっという間に見上げる程に大きくなって。
甲羅に足を乗せていた男の子は、後ろに倒れて尻もちをつき。
亀の後方にいた男の子は、目の前に迫ってきた尻尾に反射的に後ろへ下がり。
1歩離れて亀の顔を眺めていた男の子は、ぽかんと口を開けて立ち尽くす。
亀の巨大化、というありえない光景をすぐ理解して受け止められるはずもなく。
呆然とただ見上げるだけの男の子達を、ギロリ、と亀の大きくなった瞳が捉えた。
そこに映るのは、怒り。
しかし、事態すら把握しきれていない男の子達にその感情を読み取ることなどできず。
尻もちをついたまま動かない男の子に、亀はそのヒレ状の前肢を持ち上げた。
虐めていた相手を踏み潰そうとする動きを、男の子は見上げて。
そこに飛び来た鋭い帯が、前肢を撃ち止める。
「少々やり過ぎたな。早く逃げなさい」
降って来た声に男の子は見上げていた顔をさらに真上へと上げた。
そこにいたのは、魔法使い。
真っ直ぐ伸ばした腕に帯がするりと引き寄せられ、袖口の広い上着に戻り。
星の花が7色並ぶ三角帽子の下で、ふっと小さく笑いかけながら、ニコは男の子を守るように立ちはだかった。
目を瞬かせる男の子の横を、畏れを纏ったフリルが帽子を押さえながら駆け抜け。
蝋燭の白炎を飛ばした友衛は、亀の視線が自身を捕らえたのを感じると。
「ほら、こっちだ!」
さらに亀へと声を上げ、ストライプ模様の大きなタオルを振りながら、水着と同じ白と青のカラーリングも鮮やかに男の子達から離れ行く。
「立てますか?」
皆が亀の気を反らした隙にと、陽桜は男の子に手を貸して。
「早く逃げないと危ないぞ」
麗治が重ねてかけた声に、そして発動させた殺界形成に、男の子は慌てて走り出した。
その小さな背中の向こうに、先に逃げ出していた他の2人の姿もあるのを見て、陽桜はほっと安堵の息を吐く。
逃げた男の子達を亀が追わないように、あまおとが四肢に力を入れ立ち塞がり。
フリルが赤くスタイルチェンジした交通標識を振るい、通行止めをその身で示す。
非物質化した剣を突き付けて威嚇する麗治は、油断なく亀を見据えて。
「さすがにデカイな……恐竜さながらだ」
思わずその口から苦笑が零れた。
亀が持ち上げている頭の位置は、目算で5m程か。
実在の生物でもなかなか対面できない大きさに、麗治は驚愕よりも感嘆を抱く。
「昔、映画でこんな怪獣見たことあるな……」
未知も、連想するのは仮想の世界。
滅多にない光景を余さず見ようとするように、亀の周りを走り動けば。
それが亀の気を惹いたらしく、ぐるりと巡った顔が未知へと迫り、大きく口が開いた。
噛みつかれるその直前、大和が割り込み盾となり。
ニコの槍が螺旋の如く突き出され、亀を横手から穿つ。
だが、ニコの手に伝わるのは硬い衝撃。
思わず舌打ちしながら飛び退くと、入れ替わるように麗治が破邪の聖剣を振るい。
続けて、友衛が魔法の矢を撃ち込んでいく。
しかし、亀は攻撃を気にしていないかのように、ゆっくりと首を巡らせて。
「本当に防御が固いな。効いている気がしない」
友衛は、大きな傷どころか動揺すらも見えない亀に頑健さを感じ、呟いた。
「弱点はあるのか?」
「少なくとも甲羅は違いますよね」
ふと思い首を傾げると、縁珠を繰り大和を癒していた陽桜も、きょとんと考え込み。
その流れを聞きとめたニコが、至極真面目な表情で頷いた。
「ひっくり返すか」
「あ、それ俺も思ったけど……」
未知もまず思いついたくらいに、虐められる亀、となるとよくある図の1つだが。
相手が見上げるような大きさとなれば話は別。
物は試しと、ニコが袖を翻して手にした杖を魔力と共に叩きつけ、爆発を起こす。
だがやはり、巨大な亀はひっくり返るどころかよろめくこともなく。
「ひゃうっ!?」
爆風に煽られたフリルが帽子を押さえながら転がっていっただけだった。
「ふむ。無理か」
「ですよねー」
それでも、攻撃が全く効いていないわけではない。
「硬くとも届かせるだけだ」
静かに宣言する麗治のクロスグレイブから聖歌が流れ、光の砲弾が放たれれば。
未知も神秘的な歌声を響かせる。
それらの旋律は、都市伝説を倒すためではあるけれども、できれば海亀を傷つけたくないとも願うもので。
力強くも優しい音色にそっと瞳を伏せて聴き入った陽桜は、縁珠についた真珠色の鈴飾りの音もりんと重ねて皆を支援する。
「亀さんを虐めるのはよくありませんが、都市伝説さんの力で襲っちゃダメです」
フリルの纏う畏れも、海亀ではなく、その怒りを、そして、それに纏わりついてしまった力を削ぎ剥ぐかのように、切り裂いていく。
友衛は白炎灯籠を掲げ、しかし、こちらを振り向こうとする亀をじっと見つめ。
元々の動作ゆえか、巨大化ゆえか、ゆっくりとしたその動作を見守るかのように待つ。
亀の瞳が自身を捉えたのを確認して、しっかりその視線を受け止め微笑んでから、友衛は蝋燭から白炎を放った。
相手を思い、相手に合わせた、戦い。
非物質化した麗治の剣も、肉体ではなく霊的防護だけを直接破壊して。
あまおとの刃が閃いたところへ、大和の霊撃と友衛の魔法の矢が重なり。
未知の影が亀を捕らえたところに、ニコが手加減攻撃を繰り出して行く。
あと少しと、陽桜の縁珠が攻撃に翠く翻ったその間を縫って、飛び込んだのはフリル。
「めでたしめでたし、にします」
精一杯の決意を込めて放たれた一撃に、巨大な亀は姿を消して。
着地したフリルの足元で、元の姿に戻った海亀が、ころんとひっくり返った。
●助けた亀に連れられて
「痛くしてすまなかったな。大丈夫か?」
武器を収めた友衛が、都市伝説の消滅を感じて、亀に手を伸ばす。
元の大きさになってはいるが、それでも一抱え程はあり。
また、乱暴に扱うわけにもいかず、仰向けの亀に添えた手が迷った。
それを見た麗治が方法を提案し、ニコと未知も手を貸して。
「せーのっ」
かけ声で4人タイミングを合わせ、海亀はようやく、体勢も含めて元に戻る。
亀は、どこかきょとんとするように、しばらく動かなかった。
そこに静かに近づいて、しゃがみ込んだのは陽桜。
「そぉっと、甲羅撫でてもいいですか?」
目線を合わせて伺うけれど、亀は特に何の反応も示さず。
じっと陽桜が見つめる前で、ゆっくりと海へと進みだした。
無理を通してまで触りたいとは思ってなかった陽桜は、諦めて道を開けて。
でも、至近距離で海亀を見れたことに満足そうに微笑む。
「亀さん怖がらせちゃダメですよね」
呟きは、自身に向けてか、興味津々に鼻先を向けていたあまおとに向けてか。
霊犬をそっと撫でてから、ゆっくり進む亀の後を少し離れてゆっくりと追う。
優しい海風がフリルの柔らかな髪をふわりと撫でた。
打ち寄せる波に、亀の前脚が濡れていく。
続く陽桜の足も濡れ、海へ向かう歩みは止まらない。
「沖までお見送りしてきます」
「気を付けて」
笑顔に友衛は頷いて見せ、フリルが麦わら帽子を押さえながら片手を小さく振った。
麗治も水着姿になると、後を追うように海に入っていく。
海水へと身体が浸かった後は、亀の動きは早かった。
「これからも強く生きていけよー」
亀の甲羅が消えた海へ、未知が声をかけ大きく手を振る。
そしてくるりと振り向くと。
「さあ、海に来たからには遊ばねば!
ニコさん、1対1のビーチバレーやろうぜー!」
「いいだろう」
早速ビーチボールを手に遊び始める未知とニコ。
ちなみに大和が審判をするようです。
その様子を眺めながら、フリルは波打ち際を何となく歩いて。
「ひゃうっ!」
青いサンダルに跳ねた波に、思わず驚いて飛び退いた。
「ああ、これも海ならではの楽しみだな」
それ見て、逆に友衛は楽しそうに波を受けるように歩き寄る。
青と白のアンクレットを濡らしながら、足を撫でるように行き来する海水を感じるように、ぱしゃぱしゃと波と戯れた。
フリルも倣うように海へと足をつけ、気持ちよさそうに表情を緩めて。
不意にその足が海側に引っ張られた。
「ふえぇぇ!?」
慌てるフリルに、友衛がすぐに駆け寄り見れば。
サンダルについた赤いリボンと一緒に揺れる、緑色の海藻。
どうやら波で打ち寄せられたのが絡んでしまったようです。
大丈夫、とフリルを落ちつかせながら、その足を解放してあげて。
さあ遊ぼうと誘うように、友衛はフリルに笑いかける。
その頃、波の届かぬ砂地では、熱戦が繰り広げられていた。
青いニコと、赤い未知。
水着の色も対照的に向かい合う2人の間をビーチボールが何か凄い勢いで飛び交う。
「負けた方がアイス奢りな! あ、俺が勝ったら大和の分も買ってもらうから!」
「つまり、俺が勝ったならアイスを2つ食べられるというわけだな?」
「うわっ、それズルい」
「どっちがだ」
ボールと一緒に声も交わし行く中で。
ニコが見切って手を引いたボールが、コートと決めたラインのわずかに外を跳ねた。
だが、審判の大和は、未知のポイントを宣言する。
あからさまに主である未知贔屓の判定です。
「未知ィ! 貴様、己の従者にどういう教育をしているのだ!」
「は? 失礼な、俺が上手すぎるだけだろ」
怒るニコにドヤ顔の未知。そして、素知らぬフリの大和。
それでも再び飛び交うビーチボールを眺めて、友衛は目を細めた。
「楽しそうだな」
隣のフリルもこくりと頷く。
接戦が続く脇で、友衛とフリルも波を思う存分楽しみ。
ふと気づくと、日陰でくつろぐ麗治の姿があった。
いつ海から上がったのかと問いかけながら近づけば、差し出されたのは2本のジュース。
「喉乾かないか?」
それを友衛は有難く受け取り、フリルにも渡して。
あと3本、ちゃんと人数分用意されているのに気付いてふっと微笑んだ。
ビーチバレーの試合観戦にもちょうどいい場所と見て、麗治の横に2人並んで腰掛けながら、友衛は、その場にあと1人足りないことを思い出す。
「そういえば羽柴は?」
「しっかり見送りをしていたからな。だが、そろそろ戻るだろう」
ESP水中呼吸も用意していた陽桜は、麗治よりも長く海中を楽しんでいるようだった。
当然竜宮城はないし、南方の海のような珊瑚などの色鮮やかさもなかったようだが、それでも陽の光に輝き、多くの魚が泳ぐ海は、興味深い光景だったと麗治が朴訥に語る。
思い思いのそれぞれの海。
後で皆から話を聞き合うのも楽しそうだと考えて。
友衛はジュースを傾け、その甘さに優しく微笑んだ。
作者:佐和 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年9月18日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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