右九兵衛暗殺計画~復讐代行再び

    作者:相原あきと

    「みんな、ご当地怪人との同盟を断ったのよね。私も邪悪なダークネスとの共闘は危険だと思うし、良い決断だったと思うわ!」
     教室に集まったみんなを開口一番、鈴懸・珠希(高校生エクスブレイン・dn0064)が賞賛する。
    「ただ、問題はアンブレイカブルを吸収した六六六人衆よね。このままだと爵位級ヴァンパイアも合流しかねないし、そうなったら戦争を起こしても……正直、危険としか言えないわ」
     声のトーンが自然と一段階低くなる。実際には相当危険な状況にあるという事だ。特に、武蔵坂学園の内情を良く知り同盟の立役者でもある、銀夜目・右九兵衛が暗躍する限り、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟は脅威であり続けるだろうと珠希は説明する。
    「だから、戦争前にダークネスたる銀夜目・右九兵衛だけは、最低でも灼滅しておくべき、だと思うの」
     本当なら予知のできない爵位級ヴァンパイア勢力の右九兵衛だが、今は六六六人衆と接触を取っている為その動きを掴む事ができたと言う。
    「現在、銀夜目・右九兵衛は、同盟を進める為に六六六人衆の拠点のひとつに身を寄せているわ。その拠点は田子の浦沖の海底に沈んだ『軍艦島』ーーを改造した場所。六六六人衆の拠点の旧ミスター宍戸ルームに拠点を構えているみたい」
     もちろん軍艦島には護衛も配備されており、中には戦神アポリアを筆頭とした複数のハンドレッドナンバーも存在すると言う。ちなみに戦神アポリアは、爵位級ヴァンパイアとの交渉を担当しつつ、右九兵衛の護衛及び監視も行なう立場であるとの事。
    「それに、田子の浦周辺にはロードローラーも控えているわ。しかも、いつでも軍艦島へ援軍を出せる準備をしているみたい」
     ロードローラーが軍艦島にいないのは『軍艦島に攻め寄せた灼滅者を挟撃して撃破』する為らしい。ロードローラーの存在に気づき充分な戦力で攻め寄せた場合は、軍艦島を放棄して撤退。ロードローラーの存在に気づかず少数の精鋭部隊での強襲を目論んだ場合は、ロードローラーの増援を送って灼滅者を挟撃し全滅させる。どちらで灼滅者が攻めてきても対応できるよう戦略を立てているとの事だ。
     とはいえ、軍艦島の海底拠点は一定以上の戦力を投入しなければ攻略は難しい。しかし、侵入経路が特定される為に拠点を制圧可能な大部隊を派遣すれば右九兵衛を初め、有力な敵は悠々と撤退してしまう。
     じゃあどうすれば、と顔を見合わせる灼滅者達に。
    「ええ、攻略は一筋縄じゃいかないわ。緻密な作戦、連携を駆使した精鋭部隊、更に敵の作戦を逆手に取った特殊な作戦、それら全てを巧くやってもどうなるか……でも、軍艦島拠点を攻略して銀夜目・右九兵衛を灼滅する事は、どうしてもやっておかないといけない事なの!」

     少し熱くなったわ、と冷静さを取り戻しつつ珠希が、今回この教室に集まって貰った皆に担当してもらう作戦について話始める。
    「作戦の順番としては、少数の精鋭部隊での強襲を行ってロードローラーの増援をわざと発生させた上で、ロードローラー本体を灼滅、増援部隊たる分体達を消滅させる。その次に侵攻部隊が正面から軍艦島を強襲……皆にはこの侵攻部隊をお願いしたいの」
     軍艦島に突入したら、右九兵衛が存在する旧ミスター宍戸ルームを目指す事となる。そこには戦神アポリア他、複数のハンドレッドナンバーが控えており戦力的には劣勢となるが、勝利では無く『銀夜目・右九兵衛の灼滅』を執拗に狙い、戦神アポリアに『安全の為に護衛をつけて右九兵衛を撤退させる』よう判断をさせるのが今回の目的だと言う。
    「もちろん撤退路の先には、右九兵衛を灼滅する為のチームが向かう予定よ。だから皆は、右九兵衛を撤退させる事ができれば役割を果たした事になる」
     戦神アポリアは攻撃を仕掛けてきた皆を余裕をもって撃退できる戦力を残し、残りの戦力を右九兵衛の護衛にまわすと想定される。つまり、灼滅者側の脅威度が高いとアポリアに思わせることができれば、右九兵衛の護衛が減り灼滅チームが勝利しやすくなる事に繋がる。もちろん、右九兵衛撤退後も、撤退した右九兵衛に追いすがる為に戦闘を続けるように振る舞い、灼滅を狙うチームの存在を悟らせないようする事も大事だろう。
    「ただし、アポリアが『この灼滅者達は陽動で、撤退した右九兵衛を狙う灼滅者が別に存在するのでは』と考えたら、右九兵衛側に増援を派遣してしまうかもしれないから注意して」
     つまり、ハンドレッドナンバーの灼滅に拘りすぎると、右九兵衛の灼滅を狙うチームが不利になる、という事だった。
    「皆にやってもらう作戦の詳細はこんなところだけど……」
     珠希は言葉を切ると、前に書いた事件の報告書の1つを取り出し皆に見せる。
    「これは前に確認されたハンドレッドナンバーの1人よ。名前は天童・あざみ(てんどう・ー)、彼女も戦神アポリアと一緒にいるハンドレッドナンバーの1人よ」
     かつて宍戸側が組織に馴染まぬと判断しナンバー奪取の為暗殺しようとしたハンドレッドナンバーの1人であり、その際に灼滅者の判断で共闘し生き残った少女が、どうして宍戸側にいるのかは解らないが。
    「ま、ダークネスの考えなんてどれも理解できないし、私は解りたいとも思わないけど……」
     ちなみに護衛としてアポリアやあざみ達ハンドレッドナンバー以外にも、ヴァンパイアの眷属、ンブレイカブル、通常の六六六人衆などもおり、まともに戦っての勝利は難しいとの事だ。
    「だから、右九兵衛が撤退してから最低でも10分、できれば15分の間、戦いを引き延ばして。皆の目的は『ハンドレッドナンバー達が右九兵衛の増援に向かっても間に合わないタイミングまで戦闘を引き伸ばした上で撤退する事』よ。今回の作戦はかなり大変だから、目的を見誤らずに、無事に生きて戻って来て」
     珠希はそう言いながら、皆を心配するよう1人ずつ見つめるのだった。


    参加者
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)
    華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)
    太治・陽己(薄暮を行く・d09343)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)

    ■リプレイ


    「決死の陽動でロードローラーを灼滅とは、流石はその手に未来を求めし灼滅者達じゃのう」
     旧宍戸ルームへ一斉に突入してきた48名の灼滅者達に言葉を投げるは戦神アポリア。
    「じゃが、その程度の戦力で此処に集った妾達を殲滅するのは不可能じゃ。お主たち自身の無力と浅慮に絶望しながら死ぬが良い!」
     そうして部屋にいた護衛の眷属達が一斉に襲い掛かってくるも、灼滅者達の行動は一糸乱れず――すなわち銀夜目・右九兵衛への一斉攻撃。
     それに慌てたアポリアが秘密の通路から右九兵衛に逃げるよう指示を出し、右九兵衛も「おおきに」と通路の先へ護衛達と共に姿を消す。そこを「逃がすか」と追撃するは1班、2班、そして――。
    「お前らみたいな裏でコソコソ動く奴らを、見逃すかよ!」
     月雲・悠一(紅焔・d02499)が気炎をあげつつ自分たちも続こうと駆け出すも、ピタリ――冷静な部分がその足を止めさせる。
     それは悠一以外の他のメンバーも一緒だった。
     黒い着物を翻し、手には大太刀、腰下まで伸びた黒髪にはアザミの髪飾りを付けた少女。
    「天童あざみ」
     前に会った事のある風真・和弥(風牙・d03497)がそのハンドレッドナンバーの名を呟く。
     立ち塞がられただけで圧倒的な重圧を感じる。
    「も、もう! 邪魔しないで……! まず此方から片を――付けるしかない、よね」
     華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)が最初こそ演技で、しかし後半はあざみの殺気に押されつつ、皆も見回し台詞を言い切ったのだった。


     ハンドレッドナンバー天童あざみを中心に黒い風が鳴き始める。
    「……死の覚悟が出来た人から……かかって来て」
     ゆっくり大太刀を引き抜きながら――だが、鞘から抜ききる前に黒いナイフがあざみに迫る。
     ガキン!
     確かに抜ききる前に斬り込んだはずだった。しかし、目の前の六六六人衆の手には抜き放たれた大太刀があり、鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)愛用のタクティカルナイフを受け止めていた。それでも焦りは一瞬で飲み込み不敵な笑みで狭霧は言う。
    「そこをどいてくれるかしら。私らは猟犬、標的を逃すわけにはいかないの」
     言った瞬間、ナイフを抑え込んでいた大太刀が消え思わずバランスを崩す狭霧。
     すぐに反撃が来るかと身構えるも――。
     ドカッ!
     狭霧の前へ吹っ飛ばされて来たのは桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)。右九兵衛が逃げた方へ抜けようと走り込んだ瞬間、目の前に天童あざみが現れこちらに蹴り飛ばされたのだ。
    「……痛たた、やっぱりアレをどうにかしないとダメみたいですね」
     蹴られた腹を押さえつつあざみを目で指差す夕月。その横に立ち六六六人衆の少女に問うは佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)。
    「天童あざみ……何故だ。何故お前がここにいる」
    「……今、この世界で起こっている事を知り、判断した……」
     その声は仁貴の頭上、咄嗟に鞭剣で薙ぎ払う――も、そこに少女の姿は無く。
     瞬後、仁貴の背が切り裂かれ血飛沫が上がる。
     一瞬、意識が遠のき……――「こほっこほっ。すっごく煙たいですけど……大丈夫ですか?」
     アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)の声と怪奇炎の癒しの炎で仁貴が目を覚ます。
     見れば大太刀を振るう天童あざみと、仲間達が戦い続けている。今も太治・陽己(薄暮を行く・d09343)が斬られた箇所に帯を集中させ自己治癒をしている所で、アイスバーンは慌てて陽己の回復へ走っていく。
     その後、仁貴も戦線に復帰し天童あざみと斬り合うも、1つ解った事は彼女が手加減……と言うより機を見て逃げ出そうとでもしているかのようだった。
     オーラを癒しの力に変え和弥の傷を癒しつつ、悠一が交渉できないかと機を伺うが、高速で移動する彼女に落ち着いて話をするタイミングは難しく……。
    「いや、難しいとか言ってる場合じゃねーか」
     悠一が火の神の名を冠した愛用の戦鎚をクルリと回し構えると、その噴出機能も使って一気に接敵。
     ガキンッ!
     全力で突撃してきた悠一に、さすがの六六六人衆も大太刀で受け止め鍔迫り合いとなる。
    「聞け! そっちが全力でやり合うって言うならこっちも全力で挑む。けどな、そうじゃないってなら、少しだけでいい、俺達の言葉を聞いてくれ!」
     天童あざみが押すように大太刀に力を込めると、は裏腹に鍔迫り合いをしていた悠一が吹き飛ぶ。だが、その時だ。あざみの漆黒の瞳に僅かに迷いの光が浮かんだのも見逃さない。
     だが、それも一瞬で――。
    「成親っ!」
     灯倭が自身の霊犬に叫ぶのと大太刀が和弥に振るわれるのはほぼ同時だった。
     体当たりした霊犬の成親が、大太刀によって両断され消滅――その衝撃波だけで和弥は吹き飛ばされる。
     追撃か、天童あざみが地を蹴ろうとした瞬間、目の前に仁王立ちになるは陽己。
    「もしやお前……武蔵坂学園への復讐代行として雇われているのか?」
     刃でなく言葉で動きを止める。だが、少女の答えは首を横に振り。
    「……私は、自分の意志で私を殺そうとした宍戸の傘下へ入る事にしたの」
    「そんな馬鹿な話があるか! 本当は何か弱みでも握られ無理やり従わされているんじゃないのか? なら――」
     そこで思わず口ごもる陽己。なぜなら、天童あざみはジッと言葉の続きを待つよう陽己を見つめていたからだ。
    「俺、達は……」
     二の句が告げられなかった。
     簡単に嘘をつく事はできた。しかし、見つめてくる彼女の瞳からは真偽を見極めようとしているような気配を感じ。
    「……いい、気にしないで……」
     六六六人衆の瞳が再び感情の読めない漆黒に染まる。もしかしたら本気で説得すれば何か違っていたのだろうか……。
    「今は、目の前の敵を」
     そう言って陽己を追い越し天童あざみに迫るは灯倭と狭霧、そして迷いを断ち切るよう陽己も鋼糸を操り2人のフォローへ入る。
     3人による連携攻撃。狭霧のナイフを刀の柄で払い落し、そのままナイフを拾わず回し蹴りに入る狭霧を同じく回し蹴りで迎撃、聖剣で切り込んでくる灯倭を大太刀の反りを活かして受け流し、体を入れ替え急襲してくる陽己も鋼糸の範囲から抜け出す。そしてお返しとばかりに大太刀の柄を支点に刃を回し、狙うは……灯倭。
     その瞬間。
     ズバンッ!
     何かが斬れた音と共に血飛沫。
     ブンッ!
     次に強引な衝撃と共に狭霧と灯倭は吹き飛ばされる。
    「はぁ……はぁ……」
     見れば息を乱した天童あざみがいた。その右腕は肩口からずっぱりと切り落とされている。
    「やった……」
     夕月だった。狙いすました影の一撃が、見事六六六人衆の利き腕を斬り落としたのだ。
     その隙にアイスバーンが怪奇煙で前衛を癒す。
     腕を失った天童あざみだが、スッと息を整えると――。
    「悪鬼降臨」
     戦場の各地から天童あざみに怨讐の念が集まり、黒い風が鳴き、しゅるしゅると失った腕が再生する。いや、それだけではない。肩口から先の着物こそ再生されなかったが、換わりに異形の手甲が右手を覆う。
     パキリ、と天童あざみは右手の感触を確かめると、大太刀を握って一振り。
     轟と黒い風が巻き起こる。
     その時だった。天童あざみが何かに気が付きチラと別の方向を見たのは。


     視線を追い、その先にいたのは――アポリア?
     僅かに睨むような視線。
     天童あざみはチッと舌打ちすると一気に黒い殺気を解放する。
    「こ、これは……きゃあっ!?」
     全身を貫くような衝撃の殺意が周囲に放たれ、アイスバーンですら悲鳴をあげる。
     天童あざみはそのまま周囲を一瞥、近くで別の灼滅者達と戦っていた眷属達に声をかけ、同時、その眷属達は波が引くように道を開ける。
     何だ? と和弥達が怪訝に思っていると。
    「確かに、強い。今を生きる六六六人衆(どうぞく)が脅威に思うのも頷ける……でも」
     その台詞は誰に向けてか、少なくとも悠一達から見れば、それはアポリアに向けて聞かせているようにも……。
     天童あざみが大太刀の切っ先を新しく標的に加えた遊撃班に向け。
    「『出来損ない』のあなた達がそこまでの力を得る過程で、どれだけの同族を斃して来たの?」
     光すら映さないはずの真黒の瞳に、しかし刹那決意が閃き……。
     ……『今』を生きる彼女の答えがそれならば、此方も覚悟を決めるしかない。
     だから、死んで。と告げる。
     波が再び騒ぎ出す。彼女の援護に回るつもりだろう。
    「復讐の業は永久の怨恨なり……怨羅……万象」
     そして黒風を纏う大太刀が、二つの遊撃班を薙ぎ払った。
     凌駕の意志すら刈り取る必殺の一撃が両チームの前衛達をまとめて薙ぎ払う。
     危険だったのは狭霧と和弥だが、狭霧は悠一が、和弥は夕月の霊犬ティンが庇った。霊犬ティンは消滅してしまったが、おかげで何とか全員生き残る。
     見れば天童あざみに言われたからか、眷属達も2つの灼滅者チームを逃がさぬとばかりに包囲陣形を取り始める。
     敵を足止めする作戦なのに、他チームまで天童あざみとの戦いに巻き込む形になり、和弥や悠一がすぐに飛び出そうと――した、その時。
    「落ち着いて、まずは呼吸を整えましょう。窮地ですが、敵が我々に注力していると言う事は、此方の目論見通りに作戦が進行している証でもあります」
     別チームの統弥(d21438)がシールドを広げて回復しつつ言う。
    「俺達を回復する暇があるなら、仲間の援護をした方が良いんじゃないか?」
     仁貴の言う通り、決して統弥達のチームも万全では無い。自分達程じゃないが十分傷ついたまま戦っていたようだ。
    「うんっ! だから援護するよ、じんき先輩!」
    「8人で勝てないなら16人全員で、120%の全力をぶつけるよっ!」
     杏子(d17363)とリリアナ(d07305)の言葉に、狭霧はフッと口許を綻ばせ「感謝するわ」と告げ。
    「でも、相当強いわよ?」
    「ああ、だろうな。だが、諦めが悪いのもヒーローさ!」
     周(d05550)の言葉と共に前衛全体が治癒される。
     向こうチームの前衛達が現在は天童あざみと戦ってくれており、回復役はこちらの前衛達を治癒している。攻撃を食らっても回復している余裕の無かった中後衛の陽己や夕月達も今のうちに回復する。
     確かに、あのまま自分達だけでは勝てない処か全滅していただろう。どうしてもう1チームを巻き込むことにしたのか不明だが、2チームで連携して戦えるのなら……。


     2つの隊で共闘し天童あざみに挑み続けるも、それでもなお劣勢はこちら側だった。
     もちろん天童あざみも無傷では無い。
     何か起死回生の一手を、大きなスキを突く事ができれば……。
     そこに最初に気づいたのは陽太(d25198)だった。
     悠一に耳打ちすると、コクリと頷き自チームの皆に合図を送る。そこからは流れるような動きだった。
     レイ(d03162)が足止めを撃ち、僅かに、本当に僅かに天童あざみに隙を作らせると、忍魔(d11863)と凛凛虎(d02654)の姉弟連携で六六六人衆の左足を切り飛ばし、更に陽太が遠距離攻撃で右の二の腕を撃ち抜き再び右腕が落下する。
     片手片足をもがれ、さらにそこへ周が影を伸ばし天童あざみを捕縛。
    「いっけええぇぇぇっ!」
     今だと叫ぶ周。
     2チーム連携での戦いになってから、天童あざみは自己回復をしていなかった。もちろん、多数を相手にし始めたので回復する暇が無かったとも言えるが、眷属に援護だけするよう言い放った意味も汲めば、彼女が1人で2チームを壊滅させる、そんな実績が必要そうだった。
     それはつまり――。
    「外様故、か」
     周の叫びと共に一気呵成に動き出しつつ、仁貴が呟く。
     それは間違いでは無いだろう。自分を殺そうとした組織に入れて欲しいと戻って来るなど不信感以外の何物でも無い。信頼を得る為には多少の無茶や実績が必要だ。
     仁貴の非物質化した刃を避ける為、強引に右足だけで宙に跳ぶ天童あざみ。
     そこに飛び込んでくるは仔羊の影。
    「えっと……ジンギスカンさん、斬り刻んでください」
     アイスバーンの言葉の通り、仔羊の影から鋭利な黒が伸び空中の着物少女へ。だが、それを左手一本で大太刀を操り影の刃を全て弾く――その時だ、フッとさらに上空に影。それは天童あざみより高く跳び、上空からハンマーを振り回しながら落下してくる悠一だった。
     大太刀は影の刃を弾くので手一杯。
    「邪魔をするなら、潰させてもらう!」
     ドゴォッ!
     上段から一閃、振りきったハンマーが大地へと六六六人衆を叩きつける。
    「ぐ……はっ……」
     呻き、なんとか立ち上がろうと上体を起こした所に、狭霧のナイフが飛び込んできて胸を切り裂かれる。さらに背後からは灯倭のオーラキャノンが命中、ふらりと再び倒れそうになるが大太刀を大地に突き刺し強引に身体を預けると。
    「私は……復讐する……絶対に!!!」
     殺気が膨れ具現化した刃となって全周囲へと襲い掛かる。
     誰も近づけない――はずだった。
    「……ようするに、これはチキンレース、だよ。こういうのはな、びびったら負けだ」
     殺意の刃に飛び込み、自身の身を切り裂かれながらも歩を進める和弥。
     それを見て、必死に片足で立つと大太刀を左手一本で構え――るも、陽己の鋼糸がその腕を捕縛し、夕月が放った風の刃が大太刀を弾き飛ばす。
    「恨まれてない奴なんていない……あんたも、そうだろう」
     殺意の刃の中、傷を受け続けつつも和弥が風牙を鮮血色に染め……一閃。
     それが仇討刀へのトドメとなった。


    「結局、天童さんは誰の、何の復讐代行だったの?」
     消滅を待つだけの六六六人衆へ興味本位に夕月が聞く。
    「……途中で言った言葉は、嘘じゃない……だけど……正確、でも無い……」
    「じゃあ、やっぱりそちら側についてたのには理由が?」
     灯倭が聞き、同じ事を考えていた陽己もじっと耳を傾ける。
    「私の目的は……――」

    「え、えっと、今の笛の音……」
    「撤退ね」
     アイスバーンの言葉を狭霧が肯定し、他のチーム同様急ぎ撤退に入る。
    「(彼女が宍戸一派に迎合出来るとは思えなかったが……やはり、か)」
     悠一は急ぎ脱出しつつ天童あざみの最後の言葉を思い出す。
     彼女の最優先事項は自身を殺そうした者に対する復讐だった。
     その為にとった選択肢が、あの組織に入り信用を得て対象に近づく事だったのだろう。
     もし灼滅者に、武蔵坂に協力を求めてくれたら……。
    「(いや、それは無い)」
     和弥は思う。自分達が六六六人衆を受け入れられないのと同じく、向こうだってこちらを信用できなかったのだろう。
    『ああ……私が死んだら……私の復讐は……誰が……』
     天童あざみが消滅間際に残した台詞。
     ふと仁貴は振り向く。すでに見えなくなってしまったが彼女にはどこかシンパシーを感じていた。
     復讐の代行者、仇討刀……ハンドレッドナンバーまで上り詰めた少女は、怨念の如き想いを残し、灼滅されたのだった……。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月31日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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