右九兵衛暗殺計画~三段目、王手への布石

    作者:泰月


     ご当地怪人との同盟は、結ばれない事になった。
    「まあ何と言うか、ご当地怪人ってノリがアレなのが多い感はあるけど、それでもダークネスだものね。明らかになった最終目的の事もあるし、良い判断だと思うわ」
     夏月・柊子(大学生エクスブレイン・dn0090)は、灼滅者達に笑顔で告げる。
     とは言え、そうなると目下の問題は、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟だ。
     アンブレイカブルが既に六六六人衆に吸収されている為、このままでは三勢力相手と同時に戦うと言う、困難極まる状況になる。
    「勝ち目が薄いと言わざるを得ないのは、もう聞いてるわね? 正直な所、割と危機的よ――このままだったら」
     ならば状況を変えるしかない。
    「武蔵坂学園の内情を良く知る、三勢力の同盟の立役者。銀夜目・右九兵衛の暗殺を決行する事になったわ」
     右九兵衛が暗躍し続ける限り、同盟は脅威となり続ける。逆に言えば、彼の存在さえなければ、同盟に隙が生まれる。
     右九兵衛は六六六人衆ではないが、同盟の為に六六六人衆の拠点に身を寄せた事で、エクスブレインが動きを掴む事が出来たのある。
    「それでその、作戦決行先の敵拠点なんだけど、海底の『軍艦島』よ」
     かつてはうずめ様などの拠点で、色々あって田子の浦の沖に沈んだ軍艦島。なんと、六六六人衆達が改造して、旧ミスター宍戸ルームを拠点として使っていたらしい。
    「田子の浦周辺に、ロードローラー。軍艦島内部には、戦神アポリアを筆頭とした複数のハンドレッドナンバーと、護衛の戦力が配置されているわ」
     軍艦島自体の規模がかなり大きく、攻略には一定以上の戦力投入が必要になる。
     更に侵入経路が特定される為、制圧可能な大部隊を派遣すれば、右九兵衛を初め、有力な敵は悠々と撤退してしまう事が予測される。
     右九兵衛を灼滅する為に、連携を駆使した四段階の特殊作戦が考案された。

    「敵はこちらがロードローラーの存在に気づいて充分な戦力で攻めれば、軍艦島を放棄。気づかず少数で強襲した場合は、ロードローラーが分体を増援として送って、こちらを挟撃するつもりだと判ったわ」
     そこで、この敵の作戦を逆手に取る。
     まず少数で軍艦島に強襲をかける。あえてロードローラーの分体増援を発生させたところを別働隊がロードローラー本体を灼滅し、分体を消滅させる。
    「皆の出番は、ここから。ロードローラー分体が消滅した軍艦島を正面から強襲する侵攻部隊よ」
     拠点として使われている旧ミスター宍戸ルームには、標的である銀夜目・右九兵衛の他に、戦神アポリアを筆頭に複数のハンドレッドナンバーが控えている。
     戦力的に、劣勢は免れないが、それは織り込み済みだ。
    「この強襲の一番の狙いは、アポリアに『安全の為に、護衛をつけて右九兵衛を撤退させる』と判断させる事よ」
     撤退路の先には、右九兵衛との決戦チームを配置済み。
     つまり敵の挟撃策を破り、その隙を突いてこちらが本命を挟撃すると言う、ある意味、意趣返しのような四段構えの作戦と言うわけだ。
     正面からの強襲は、その第三段階。
     鍵となるのは戦神アポリア。爵位級ヴァンパイアとの交渉を担当しつつ、右九兵衛の護衛及び監視も行なう立場にある。
     敵にとっても右九兵衛は同盟の鍵だ。こちらの狙いが『右九兵衛だけは絶対に灼滅』だと思わせれば、『右九兵衛が灼滅される』可能性があると思わせれば。アポリアはその場の戦力の一部を護衛につけて、右九兵衛を秘密の通路から撤退させると想定される。
    「アポリアがどれだけ護衛に戦力を回すかは、皆次第。こちらの脅威が高いと思わせる事が出来れば、それだけ護衛が減る筈よ」
     また、右九兵衛を撤退させただけでは、まだ役目は終わらない。
    「最低10分、できれば15分。撤退した右九兵衛を追う為に戦うように振舞う必要があるわ。陽動だと悟られてはいけないから」
     アポリアにこちらの狙い――撤退した右九兵衛を狙う別働隊がいると悟られれば、増援を派遣されてしまうかもしれないからだ。
    「けれど、充分な時間を引き延ばしてからなら。話は変わるわ。逆に教える事で、安全に撤退が可能となるかもしれないから」
     右九兵衛を別の灼滅者が襲撃していると知れば、敵は追撃より右九兵衛の増援に向かうであろう。間に合わないとしても。
     作戦の第三段階の役目は、旧ミスター宍戸ルームで勝利する事ではない。だが、強力な敵も少なくない中で、ある程度の長期戦が求められる。
     軍艦島から撤退する時の事も、考えておく必要はあるかもしれない。
    「今までも色々なダークネスが拠点にしてきたけれど、これで軍艦島で戦うのは最後になって欲しいわね。今回も、皆無事に帰ってくるのを、待っているわ」


    参加者
    無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)
    ゲイル・ライトウィンド(カオシックコンダクター・d05576)
    北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681)
    ペペタン・メユパール(悠遠帰郷・d23797)
    琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)
    師走崎・徒(流星ランナー・d25006)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)
    森本・愛(高校生サウンドソルジャー・d36352)

    ■リプレイ

    ●第三段階
     田子の浦沖、海底。
     ダークネスの拠点として利用されていた軍艦島の周りで始まった戦いは、1つの終わりを迎え、次の段階へ進もうとしていた。
     陽動の役割を終えた灼滅者達が、浮上を始めている。
    (「作戦の続きは、必ず成功させてみせます……!」)
     先行するチームが手信号でやり取りするのを見ながら、北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681)は胸中で呟いて、雪の結晶が刻まれた刃を持つ拳銃を手に取った。
     陽動を終えた灼滅者を追って姿を見せたダークネスに、弾丸を放ち出鼻を挫く。
    (「第二段階まで、成功したみたいですね」)
     見える範囲でロードローラーの姿がないことを確認し、ゲイル・ライトウィンド(カオシックコンダクター・d05576)もガトリングガンを向け、邪魔な敵を撃ち落とす。
     陽動チーム達との戦いで傷ついていたダークネスをあっさりと蹴散らし、6チームの灼滅者達は軍艦島内部へと侵入を果たした。
     長らく海底にあったからだろう。
     軍艦島内部も海水が満ちていたが、灼滅者達は過去の潜入や攻略戦の経験を活かして進み、やがて空気の残る空間に辿りついた。
     先に広がる倉庫群。目指す敵拠点はすぐそこだ。

    ●開戦
    「決死の陽動で妾がライバルロードローラーを灼滅とは、流石はその手に未来を求めし灼滅者達じゃのう」
     旧ミスター宍戸ルームに辿り着いた灼滅者達に、賞賛の言葉が浴びせられる。
    「じゃが、その程度の戦力で此処に集った妾達を殲滅するのは不可能じゃ。お主たち自身の無力と浅慮に絶望しながら死ぬが良い!」
    「劣勢大いに結構! 勝ち目の薄い方が燃えるってもんだ」
    (「見つけたよ、右九兵衛!」)
     アポリアの宣言に髑髏面が言い返すのを聞きながら、琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)が仇敵の姿を敵群の中に見つける。
     輝乃が抱く怒りを表すかのように広がった白炎を浴びながら、師走崎・徒(流星ランナー・d25006)は無言のまま動き出していた。
     矢の様に撃ち出した意思持つ帯は、敵の隙間を縫って飛んで――しかし右九兵衛に届く前に、別のダークネスに阻まれる。
    「鬱陶しく群れてまぁ。そんなに大事ですか――同盟」
     ゲイルが別方向から放った意思持つ帯も、また別のダークネスに阻まれていた。
     右九兵衛は、別に最後尾にいるわけではないが、それでも護衛は薄くない。
    「なら、力ずくで埒をこじ開ける!」
     無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)が拳にオーラを溜めて、一歩踏み込む。右九兵衛の近くの敵が放った矢を避けずに受けると同時に、拳を振り上げた。
     放物線を描いたオーラの弾丸が、右九兵衛の頭上を襲う。
    「長い仕事になりそうね――いくよ、ソース」
     そう促した相棒のウイングキャット・ソースが尾のリングを後衛に向けて輝かせるのを確認し、ペペタン・メユパール(悠遠帰郷・d23797)の影を操り刃に変えて、敵のどれかが放った魔力の光にぶつけて相殺する。
    「わたしが回復に専念するから、みんなは攻撃を」
    「ああ、そうさせて貰うよ」
     意思持つ帯を巻きつける森本・愛(高校生サウンドソルジャー・d36352)に頷いて、富士川・見桜(響き渡る声・d31550)も飛び出した。
     その腕が寄生体の蒼に包まれ、ダークネスの装甲すら腐食させる強酸が右九兵衛目掛けて放たれた。

    ●役目
     海底に沈んだ島が、戦いに震える。
    「纏めて撃ち抜きます!」
     虫のような動きで足元の陥没した地点から離れようとする姿を見逃さず、梨鈴が銃火を響かせた。放たれた弾丸は、護衛ごと右九兵衛を撃ち抜く。
    「逃がすものか」
     間髪入れずに見桜が指輪から制約の魔力を放つが、裁きの光に相殺された。
     6チームの灼滅者達が同じ1人の敵を狙い続ければ、いかにダークネスとて、その全てを避け、防ぎきる事など適わない。
     右九兵衛の護る布陣も、次第に綻びが生まれる。
     隙を突いて距離を詰めたゲイルが、ガトリングガンの銃口を向ける。
     ガガガガガッ!
     容赦ない射撃が断続的な重低音を響かせる中、白の混ざった勿忘草色が翻った。
    「いつの間にあんな所に――接近を許すな!」
    「邪魔はさせないよ」
     気づいたダークネスが放った鋼の糸は、間に入ったペペタンが遮る。
    「ようやっと、届いたよ。久しぶり、右九兵衛。防衛戦の事は覚えているかな?」
     左目だけで見上げてニッコリと笑顔を浮かべ、輝乃が小さな拳を握る。
     覚えていようがいまいが、あの瞬間は、忘れもしない。
     大事な友が目の前で光に撃ち抜かれ倒れた光景、忘れられようものか。
    「友達を大怪我させた分、キッチリ返させて貰うから――覚悟してね」
     握り締めるは激情。振り上げるは鬼の拳。
     輝乃の怒りの一撃が、右九兵衛に叩き込まれた。その身体から、砕けた水晶の破片が辺りに飛び散る。
    「ばいばい、右九兵衛。君はここで倒さなくちゃいけない」
    「こいつら、狙いは銀夜目か!」
     更に雪色の髪の少女の影が右九兵衛を包み込めば、敵も流石に気づいた。
    「今頃気づいても、遅い!」
     輝乃に振り下ろされ様としたハンマーを、理央が阻んでその場で踏み留まる。折角つめた距離、離される訳にはいかない。
    「アポリアちゃん、何故か貴女を見てたら腹が立つので、殴らせてもらいますわ! 何ででしょうね……」
     二槍を構えた少女はアポリアに向けて言い放ちながら、それで警戒を緩ませた右九兵衛に槍の一撃を炸裂させる。
     ――ヒュン。
     短く鳴った風の音。放たれた風の刃を、右九兵衛が大きく跳んで避ける。
    「おお、怖。そない睨まんといてなァ」
     徒が向ける殺気の篭った視線に、右九兵衛は薄ら笑いを返す。
    「しかし――こら、ちぃと拙そうやな」
     まだ余裕がありそうな素振りに見えても、右九兵衛の身体には灼滅者達が刻んだ爪痕が確かに残されていた。
    「考えたのう……。主等の作戦の真の目的は、銀夜目の命か。じゃが、其れをさせるわけにはいかぬな」
     鱶の様な笑みを浮かべたアポリアが、白銀に煌めく刃を振るう。
     白光の衝撃となった斬撃が、この機に乗じて右九兵衛を元に飛び込もうとしていた灼滅者達を薙ぎ払った。
    「銀夜目、お主は護衛を引き連れ例の通路よりこの場から撤退せよ。残りの者達は、こやつらの殲滅じゃ」
    「ほな、そうさせて貰いましょ。おおきに、アポリアはん」
     ゆっくりと振り返ったアポリアの言葉に頷いて、右九兵衛が壁に手を伸ばす。その手が触れたのは、この旧宍戸ルームの壁に掛かっていた『HKT』の3文字がある無駄に派手なプレート。
     それが押し込まれると、ガコンと背後の壁が動いて秘密の通路が姿を現す。
    「ベッタベタな仕掛けやなぁ。そいじゃあまたな」
     いつかと同じ台詞を残して右九兵衛が通路へ飛び込むと、アポリアが密かに目配せしていた6体がその後に続いて動き出す。
     6体。護衛の数を、アポリアにそう決めさせたのは、6チームでの奮戦の成果と言って良いだろう。だからこそ、ここで攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
    「逃がしません!」
     パンッ!
     梨鈴の放った帯が、殿に着いた護衛に叩き落される。
     だが、その帯は『何も避けず真っ直ぐに』伸びていた。
     まるで轍の様に。
     右九兵衛の命を狙っているのがこの6チームのみと思わせる事。右九兵衛の護衛を増やさない事。それが役目だ。
     その為には、通路まで追うのが最善手。敵に塞がれるのを待つ必要はない。
     だが、この状況は他のチームがまだ攻撃の手を緩めていないからでもある。動けば敵もすぐに気づくだろう。自分達が飛び込んだ後、他のチームが続ける保証はない。
     それでも、逡巡はなかった。
    「今ならまだ追いつける! 先行するよ!」
    「走るわよ、ソース!」
     理央とペペタンが告げて飛び出し、他のメンバーも間を空けずに続いていく。
    「アポリア……いや、あきらちゃん」
     8人の後ろを走る見桜は、僅かに振り返り、アポリアに視線を向ける。
     戻ってきて欲しい。帰ったらまた一緒にライブしよう。
     言いたい事はあるけれどうまく言葉にならず、考える時間も余裕もない。だから。
    「ばかやろう!」
     一言だけ叫んで、別のチームもこちらに続こうとしているのを見ながら見桜は仲間を追って秘密の通路に飛び込んだ。

    ●掌の上
    「1チームくらいやったら1人で相手できるんやけど――3人や。ダークネス絶対殺すマシン達が闇堕ちせんよう、殺さん程度でな」
     追っ手に気づいた右九兵衛が、護衛のダークネスにそう声をかける。
    「ま、闇堕ちしたって、3人相手はそう簡単には突破できんやろ。クヒャヒャヒャ!」
     奇妙な笑い声を響かせ、右九兵衛は護衛の半分を残して通路の奥へと去っていく。
     足止めに残った3人のダークネスはまず、倒しても闇堕ちしないサーヴァントに狙いを定めた。
     ソースは猫魔法で一矢報いるが、最後は敵の撃った光剣の刃に貫かれ消えていく。
    「さて、次はお前の骨を砕いてやろうか」
     嗜虐的な笑みを浮かべた僧服姿の敵が、鎖のついた拳大の鉄球を振り回す。大きく弧を描いた鉄球がゲイルに襲い掛かった。
    「っ……本当に、やりにくいですね。相手にこちらの手の内が判っているのがいると」
     毒づきながらゲイルが影を伸ばし、敵の背後で刃に変えて襲わせる。
    「どうした? 追いかけるんじゃないのか?」
    「言われなくても!」
    「そのつもりです!」
     光剣使いの挑発的な物言いに、徒と梨鈴が同時に飛び出した。
     徒は駆け上がるように壁を蹴って跳び、斜め上から槍を突き下ろす。その一撃を阻んだ光剣を避けて、梨鈴が低い姿勢から突き上げた槍が光剣使いの肩を貫いた。
     それを見た別の敵が、すっと暖簾でものけるように腕を振るう。
    「――そう来ると思った!」
     咄嗟に飛び出したペペタンの身体に、鋼糸が細く深い傷を刻んだのは。
    「触れるものを断つ糸の結界、踏み込めるものなら――」
    「だからどうした!」
     足に走る痛みに構わず、見桜は敵が縦横に張り巡らせた鋼糸を踏み越えた。傷なんか気にしない。体が動く限り剣を振るう覚悟を以って。
    「何と!?」
     鬼気迫る素振りに驚く糸使いを寄生体の作りし蒼い刃が、袈裟懸けに切り裂いた。
    「1人で前に出ては、良い的だ」
    「そうでもないさ」
     攻撃直後の見桜を狙って放たれた鉄球を、理央の鋼の様に鍛えた拳が迎え撃った。拳から血が噴出し、弾かれた鉄球が通路の壁を削り取る。
    「銀夜目の旦那は、随分と恨まれてるようだ」
    「それだけの事をしたからね!」
     灼滅者達の攻める勢いに軽く気圧される鉄球使いを、輝乃が虹と見まごう輝きを放つ帯で撃ち抜く。
    「~♪ ~~♪」
     ペペタンは自分でオーラを癒しに変えているのを見て、愛は天上の歌声を理央に響かせる。
     愛がずっと回復に専念しているのは、敵も気づいていた筈だ。だが、敵の矛先が彼女に向かう事はなかった。回復手段を敢えて断たず、闇堕ちに値する危機を遠ざける。憎らしいほど的確な戦術と言える。
     ――本当に、右九兵衛の追撃を狙っていたら、だが。

     爆発的に膨れ上がった光剣の衝撃が、灼滅者達を吹き飛ばす。
    「まだ、だ……」
     血塗れの両手を突いて、理央が限界を越えた体を起こす。
    「こんな所で時間食ってる場合じゃないのに……もうどのくらい経ったかしら」
    「……潮時ですね。もう10分は経ってます」
     2度限界を越えた体をギターで支え、悔しそうに呟いたペペタンに、懐中時計に視線を落としたゲイルが静かに返す。
    「これ以上、時間をかけても……ですね」
     梨鈴も俯いて、悔しそうに呟く。
     最低10分。事前に告げられた時間は稼ぐ事が出来たと言う会話だが、敵には追撃を断念したように聞こえていただろう。
    「銀夜目の旦那には、悔しがってたと伝えておく」
     嘲笑混じりの敵の言葉に何も返さず、灼滅者達が距離を取り始めるのを見て、敵も距離を取り始めた。右九兵衛が、去った方へと。
    (「後は任せたよ……!」)
     警戒しつつそれを見送って、徒は胸中でこの先にいる彼女に想いを馳せる。
     敵の掌の上で踊っていたのがどちらだったのか――彼らが知る前に、きっと、彼女達が全てを終わらせるだろうと、信じて。

    ●脱出
     秘密の通路を引き返す灼滅者達の耳に届く、戦闘音。
     通路の先に戦う仲間の姿を見とめて、徒が速度を上げて一気に駆け寄った。
    「時間稼ぎは充分だ。俺たちも手伝うから早く向こうに戻――って、忍者?」
     雷気を纏った拳を叩き付けた相手を見て、徒が驚きの声を上げる。
    「そう言えば、右九兵衛が連れて行った護衛の中にもいたような。忍者っぽいの」
    「忍者ブーム……とか?」
     輝乃と愛が、思わず首を傾げる。何しろ、忍者ばかり4人もだ。
     とは言え、状況は明白。この忍者達をここで抑えてくれていたチームがいた。つまり、背中を護られていたと言う事だ。
    「そちらも、撤退を決意したのですね」
     向こうも状況を把握したようで、アリス・フラグメントが左目を一瞬開いて呟く。
    「そろそろこちらも限界だしね。協力して、撤退しよう。敵を半分、頼めるかな?」
    「大丈夫だ。こっちだって――まだまだ出来る」
     鬼の腕を振り回す日向・一夜の呼びかけに、見桜が自分も仲間も鼓舞するよう答え、血塗れの足で踏み込んだ。
     青白い燐光を放つ刃に寄生体の蒼を纏わせ、刀を構えた忍者に振り下ろした。
    「!」
     別の忍者が無言で腕を振るう。
     放たれた多くの手裏剣の前に、ペペタンと理央が飛び出した。
     連鎖的に幾つも重なった爆発が収まった後には、倒れ伏す2人の姿があった。限界を越えるのも、限界だった。
    「全滅させるのはきついですね。減らして、突破ですかね」
     忍者の動く先を予想して、ゲイルはガトリングガンの銃爪を引いた。
    「そこから、動くな」
     無数の銃弾に撃ち抜かれた忍者を、輝乃が季節を先取りしたかの様に色づいた葉のある枝――と言い張るもので壁に叩き付ける。
    「これで……」
     その隙に、愛がナイフを掲げて夜霧を広げる。傷を癒す以上に、仲間のサイキックの効果を少しでも高める為の一手。
    「スピードで負けるか」
     枝の呪縛を振り切った忍者を、徒が追う。走りながら放った風が、忍者の背を切り裂いた。
    「終わりです!」
     そこに飛び込んだ梨鈴が、螺旋を加えた槍で忍者を貫き消滅させる。
     隣のチームも丁度、1人灼滅したようだった。
     敵が2人なら、強引に突破するのは難しくない。2チーム一丸となって、旧ミスター宍戸ルームへ飛び込むと、アポリアが驚いた様にこちらを見ていた。
     そこに、撤退を告げるホイッスルの音が響き渡る。
    (「良かった、キョンも無事で。少しは、向こうの負担も軽く出来たかな」)
     慌しく撤退が始まる中、鳴らしたのが見知った友だと気づいて、輝乃は安堵すると共に抜け出したばかりの通路の先を思う。
     布石は打てた。後は――信じるのみ。

    作者:泰月 重傷:無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858) ペペタン・メユパール(悠遠帰郷・d23797) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月31日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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