上下の絆を反故にして

    作者:幾夜緋琉

    ●上下の絆を反故にして
    『待て!!』
     都内近郊にある、とあるボクシングジム。
     クリーンヒットしたパンチに崩れ墜ちる相手に対し、更なる一撃を加えようと拳を振りかざしたその瞬間……ボクシングジムのトレーナーが、彼を止める。
    『え? 何だよ、まだ立てるだろ? ほら、立てよ!』
     とその制止に対し、相手を挑発気味にまくし立てる男。
     しかし、倒された男は、どうにか立ち上がろうとするも、中々立てないでいる。
     ……そんな倒れた男を倒そうとする男に対し、トレーナーは。
    「いいか? 格闘技は強さだけではないんだ。礼節が伴わなければただの暴力になるぞ!」
     肩をがしっと掴み、説く。
     ……が、その男は。
    『ちっ……うるせえよ、俺にあーだこーだ指図してんじゃねえ!!』
     と怒りと共に闇堕ちし……アンブレイカブルの力と友に、トレーナー、そして……倒れていた男をも、殴り殺した。

    「皆さん、集まって頂けましたね?」
     と、五十嵐・姫子は、集まった灼滅者を一通り目配せすると。
    「最近、一般人がアンブレイカブルへと闇堕ちし、事件を起こすという事件が起きています。そして今回も、そんなアンブレイカブルへ闇堕ちした者が事件を起こす……という予知をサイキック・リベレイターにより確認する事が出来ました」
    「今回の一般人は、アマチュアのボクシングジムに通う青年の様です。実力自体はかなり高いのですが……元々からかもしれませんが気性が荒く、倒れた相手をトコトン殴ってしまい、その素行の悪さからアマチュア止まりの青年の様です」
    「そして彼は、通うボクシングジムで追い打ちを掛けようとした所をトレーナーに咎められ、『俺を邪魔するのは赦さない』とばかりにトレーナー、そして相手を殴り殺そうとしようとしています」
    「アンブレイカブルとなった彼は闇堕ちしたばかりのものの、サイキック・リベレイターの影響もある為、高い戦闘力を持ちます。そして期せず手に入れたその強力な力に陶酔しており、その力を試すべく、ゴロツキの居る繁華街へと繰り出し、喧嘩を仕掛けようとしています」
    「そこで皆さんには、彼がゴロツキ連中を殺してしまう前に、彼に挑んで貰えるような強者を演じて誘き出した上で、灼滅してきて頂きたいのです」
     更に姫子は。
    「このアンブレイカブルは、新宿は歌舞伎町の繁華街に繰り出し、強そうなのを物色して歩いています。周りは少し夜過ぎて、ゴロツキもちらほらと歩き回り始める頃です」
    「強そうな者を探している訳ですから……当然、皆さんも強そうな者を装う必要があります。強そうな格好、言動、雰囲気を心がける様にして下さい」
    「又、彼自身、自分自身の力を振るいたくてウズウズしている様です。そしてその力こそ至上である、と思っている模様です。逆に言えば、その力が弱いと認めるような行動……敵前逃亡などは絶対にしません」
    「又、攻撃手段もその拳から繰り出す殴り掛かり攻撃が主軸です。一撃が重いので、ヘタに真っ正面から喰らわない様に注意して下さいね」
     そして、姫子は最後に。
    「何にしても、このようなアンブレイカブルを放置しておく訳にはいきません。どうか皆さんの力……貸して下さい。宜しくお願いします」
     と、頭を下げた。


    参加者
    火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)
    十束・唯織(獅子の末那識・d37107)
    神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)
    梯・槐(歪曲マーダー・d37878)

    ■リプレイ

    ●求める力と心の離反
     都内近郊のとあるボクシングジム。
     そこで、突如アンブレイカブルの力に目覚めた男……元々が荒々しい性格と、人に指図を受けるとすぐにキレてしまうという……その性格自体、かなり問題のありそうな男。
    「まぁこれは、『俺をジャマするのは赦さない』という考えを持ったアンブレイカブルさん、という事でしょうかね」
     と火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)が溜息を吐くと、十束・唯織(獅子の末那識・d37107)と神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)も。
    「ああ、そうだな……本当、他人の迷惑も省みず、自分が気に入らなかったら力尽くでぶっ潰すとか……柄悪いにも程があるよな」
    「……ああ……まぁ、元々がそんな短絡的な考えしか出来ないようでは……説得の言葉にも耳を貸す事も無いだろう」
    「そうですね。助けて上げる事が出来ないのであれば、灼滅するしかないですね」
     明がもう一つ瞑目。
     ……と、そんな仲間達の言葉に梯・槐(歪曲マーダー・d37878)が。
    「あぁ? ま、いいんじゃね? ごたくは何でも良いから早よ殺ろか」
     とニヤッと笑いながら、バトルオーラを更に燃やす。
     ……ともあれ、こんなアンブレイカブルの暴走をこのまま放置しておく訳にはいかない。
     そして説得も効かない様であれば、力尽くで倒す他に解決策も、無い。
    「……ま、自分達に仕掛けてくれるか……という事も有るが……どうだろう?」
     と隅也が小首を傾げる……そんな彼の今の服装は、運動着をストリートファイター風の荒くれ者の様な感じに着崩している。
     ……少し危険な感じのする匂いを漂わせて、敢えてアンブレイカブルを誘い込む作戦。
     まぁ……それよりも元々不良風の姿をしているのもいるは居るが……ともあれ、アンブレイカブルを倒す事が重要。
    「ほら、そろそろ行くぜー!」
     と槐が皆を促し、灼滅者達は少し夜を過ぎた新宿歌舞伎町の繁華街へと向かうのであった。

    ●キレる心の儘に
     そして灼滅者達が到着するは、新宿繁華街。
     アンブレイカブルの姿は、取りあえず近場には無い……どこに居るのやら、解らない。
    「……むぅ」
     と、ちょっと不満そうなのは明。
     強く見せよう、というのもあるが、それよりも先に想うは、その服装がメイド服だ、と言う事。
    「……まぁ、確かに夜近くにメイド服を着たメイドさんが歩いてる繁華街……って違和感はあるよな」
    「まぁ、そうですけど……」
     唯織の言葉に明がほんの僅かな苦笑。
     ……ともあれ、すぐにまた不機嫌そうな表情に戻して、夜の繁華街をぶらぶらと歩き回る灼滅者達。
     ……そして程なくすると。
    『うっせぇ!! 俺に指図をするな!!』
     と怒りの叫びを上げる男。
     目を凝らしてみると……そこには、アンブレイカブル。
    「……あいつか……」
     と隅也の言葉に皆も頷き、灼滅者達は叫び声を上げている彼の元へと急ぐ。
     ……そして、周りのゴミ箱やらを蹴ったり、殴ったりで壊しているアンブレイカブルの前に立ちふさがる。
    『んぁ、何だよてめぇらはよ!! メイドかぁ? はっ、メイドが何の用だよ!』
     睨み付けるアンブレイカブル……と、欲望には忠実の様で、明の豊満な胸元をしっかりと視線を向ける。
    「……じろじろ見るな。見世物じゃないぞ! こんな夜中に繁華街を、うろうろしているメイドが珍しいか?」
     と明の言葉に、アンブレイカブルは。
    『あぁ、あったりめーじゃねえの。何だおめえ、俺を楽しませて暮れるってのかぁ?』
     下品に笑うアンブレイカブルはかっかっか、と笑う。
     ……そんなアンブレイカブルに唯織が。
    「外見でしか判断出来ねぇ馬鹿が。そこのメイドさんだけじゃなく、俺らが相手になってやんよ」
     と構える唯織に、くっくっく、と笑い。
    『ほぅ、オマエら俺より強いってぇ訳かぁ? 大した自信じゃねえか、面白え!』
     と獰猛に笑ったアンブレイカブルが、灼滅者達に接近……そして、その拳で殴り掛かる。
     が、真っ正面からの攻撃を、すっと躱す隅也。
    「……見た所、あんたは、その拳に、自信があるみたいだな……だが、所詮はそれだけに過ぎないとみた……」
    『あぁん!?』
     怒りの形相を浮かべるアンブレイカブルに、更に隅也が。
    「……要するに、あんたは雑魚だ、と言っている……」
    『ざ、雑魚だとぉ!? んな訳ねぇ! 俺は最強だ、てめぇら何言ってやがる!!』
     と、烈火の如く怒るアンブレイカブル……明らかに沸点もかなり低い様である。
     そんなアンブレイカブルを、更に挑発する様に。
    「ごたくを並べんのはどーでもいい。ほら、早く俺と殺ろやぁ!」
     と、接近した槐が殲術執刀法で斬りかかる。
     身体を傷付ける一撃に、っ、と僅かに唇を噛みしめるが、すぐに。
    『ちっ、じゃかぁしい!! さっさとブッコロス!!』
     と叫ぶアンブレイカブル……対し明はサウンドシャッターを使用し、周囲から人気と音をシャットダウン。
     更に明が。
    「お前を掃除してやろうか!」
     と言いながら、レイザースラストの一撃で斬り込んでいく。
     ……そして、唯織がティアーズリッパーで、アンブレイカブルの防御力を削いで行くと、更に隅也も。
    「……これが、強者の一撃、というものだ……」
     と、縛霊撃で縛り上げる。
     連携した灼滅者達の攻撃で、確実に体力が削られるアンブレイカブル。
     ……でも、反骨精神にその身体を震わせ、灼滅者に対峙。
    『くっ、くそおおおおお!!』
     と怒りと共に、更に拳を叩きつけていくアンブレイカブル。
     ただ、力任せの猛攻は、当たれば痛いが、一撃一撃……かなり命中率が低い、とも言える。
     そんなアンブレイカブルの攻撃を、明がカバーリングしながら受け流していく。
     更にそんなアンブレイカブルに唯織が。
    「知ってるか? 絆の力ってのもだいぶ、馬鹿には出来ねえんだぜ? ま、これで解ったわ。なんでお前がアマチュア止まりだったか、がな」
     と更なる挑発を仕掛ける。
     アンブレイカブルがそれに更に怒るのを、隅也が冷静に。
    「……ただ拳を、振るうのみか……単純だな……」
     と突っ込み、そして槐はガシガシと殴り掛かりながら。
    「やっぱ、楽しいなぁ!! おい!!」
     と、獰猛な笑みを浮かべて殴りつけていく。
     ……流石に一対四という事もあり、すぐに圧倒する、という事までは行かない。
     しかし明は守りを固める方向で対峙し、それをサポートするスナイパーの隅也。
     そして唯織、槐の二人がクラッシャー効果を伴う攻撃で、体力を大幅に削り続ける。
     ……みるみる内に体力は削れ、そして戦闘開始から十数分。
    『ぐ……!』
     唯織の放ったジグザグスラッシュが、アンブレイカブルの足に決まると……アンブレイカブルは足を庇うように跪く。
     ……そんなアンブレイカブルを見下すように。
    「……全く。ただただ殴るだけの雑魚、というのは間違い無かったな……」
    『あ、あぁん!?』
    「……所詮、おまえはその程度の力しかない、という事だ……アンブレイカブルの力を手に入れ、我が物顔になったが……それを使いこなせていない」
    『う、うるせえよ!!』
    「……そうか。なら……」
     と隅也は呟くと……接近、尖烈のドグマスパイクを、その身体深くへと突き刺す。
     ……アンブレイカブルは、ウォォォ、と唸り、其の場に倒れ……立ち上がれない。
     そして、槐が。
    「よっしゃ。その首貰ったぁ!!」
     と、残忍な笑みを浮かべた槐が、次の瞬間……接近し、雲櫂剣をその首元に放つ。
     その一撃は、アンブレイカブルに悲鳴を上げさせる事も無く……その場で、崩れ墜ちていった。

    ●力の墓に
     そして……アンブレイカブルを倒した灼滅者達。
    「ふぅ……何とか、終わりましたね」
     と、安堵の表情を浮かべる明に、隅也、唯織も。
    「……ああ……しかし……力だけを得ると、ああもなってしまうのだな……」
    「そうだな。力だけ持てば、ああやって舞い上がってしまう……と。俺達も、そうならない様に意識しておかないとな」
     と……そんな二人に対し、槐は。
    「あー、終わった終わった、と」
     と、何処か満足気。
     ……ともあれ、アンブレイカブルを倒したのは間違い無い訳で……後は。
    「それでは、後は現場を綺麗に、後片付けしてから帰りましょうか」
     と明の提案に、唯織、隅也は頷く……が、槐は。
    「えぇ、面倒くせえなぁ。元々荒れてた様な所だから、別にいいんじゃね?」
     と。
     ……そんな槐に、明は。
    「いえいえ。しっかりやっていきましょうよ。ね?」
     微笑む明……に、何だか断りがたい気配を感じる槐。
     ともあれ、戦闘の痕跡やら、壊したものやらを一通り片付けて……そして灼滅者達は、帰路へつくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年9月2日
    難度:普通
    参加:4人
    結果:成功!
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