決戦、黄金闘技場~LiedofSiegfried

    作者:長野聖夜

    ●運命の戦い
    「皆、海底の軍艦島に向かっていた灼滅者達から連絡があった」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が軽く息をつきながらそう告げる。
    「結果は、すでに知っている人もいるかもしれないが黒の王の目と耳である、銀夜目・右九兵衛先輩の暗殺に成功、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟に楔を打ち込むことには成功した」
     これにより、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟関係を一時的に抑えることができる。
    「最も、与えられた時間はあまり多くはないけれどね。それでも今なら爵位級ヴァンパイアの援軍が来ることなく、六六六人衆とアンブレイカブルの決戦に持ち込むことができる」
     時間をかければ、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアは新たな交渉役を選び出し、同盟関係の再構築を図るだろう。
     その前に、雌雄を決するべきなのだ。
    「とは言え、アンブレイカブルを吸収している六六六人衆の戦力は圧倒的だ。現状だと決戦に持ち込んでも苦戦は免れないな」
     しかも、ミスター宍戸の予測できない動きの存在もある。
     だから、次に取るべき方策はジークフリート大老開催の『黄金武闘大会』の会場に攻め込むという前哨戦。そして、ここに集った者達は……。
    「ジークフリート大老を撃破……いや、言葉を飾っても仕方がないな。彼を灼滅して欲しい」
     武蔵坂学園の仲間達が道を切り開いてくれることを信じてジークフリート大老の元へと向かって。
    「これには、この戦いに参加する皆の力が必須になる。皆が総力をあげて戦えば、黄金武闘大会を通じて全盛期の力を取り戻そうとしているけれど、取り戻せなくてその力を充分発揮出来ていないジークフリート大老の灼滅も不可能じゃない」
     この作戦に成功すれば、アンブレイカブル勢力は統率を失い足並み揃わぬ者が増える。
     そうなれば六六六人衆との決戦時に現れるアンブレイカブルの戦力を大きく減殺させることとなるだろう。

    ●『勝利』への道筋を立てるために
    「先ず、皆に忘れないで欲しいことがある。この戦いは、他の沢山の灼滅者達の援護を受けて行うものであるということだ」
     その為黄金闘技場強襲作戦の概要も確認し、何処まで、どの様に援護を受けられるかをある程度諒解した上で、決戦部隊としての方策を練る必要がある。
    「他の皆の作戦内容や援護、その為の戦力次第で、皆が立てるべき戦略・戦術も大きく変わる。それも踏まえた上で、より良い判断を行って欲しい」
     詳細な能力は不明ではあるが、ジークフリート大老はかつて戦った業大老を越える戦闘力を保持しているのは間違いないだろう。
    「残念ながら、詳細な戦闘方法も不明だ。ただ、アンブレイカブルの首魁である以上、よりアンブレイカブルらしい戦い方や技を持っているのは間違いないだろうね」
     優希斗がそこで軽く息を一つつく。
    「ただ、はっきり分かっていることがある。ジークフリート大老は、かつて自らが浴びた『ファフニール』の血を使い、60体のファフニールを戦場に召喚して戦わせることが出来る、ということだ」
     このファフニール達との戦いは、黄金闘技場強襲作戦に参加する灼滅者達が対応してくれるが、その力が不十分であれば、最悪多くのファフニールに邪魔され、ジークフリート大老と戦う機会が得られない可能性が高い。
     一方で、もしこの戦いの結果多くのファフニールが撃破出来れば、ジークフリート大老の力が抑えられ、勝機が見えてくることだろう。

    ●真の覚悟を
    「はっきり言おう。この戦いの勝算はかなり低い」
     集った灼滅者一人、一人を真摯な眼差しで見つめる優希斗。
    「更に言えば今回、皆が切り札となりがちな闇堕ちも封じられていると考えた方が良い。何故なら、ジークフリート大老は『挑んでくる者との戦いを避けることは無いが、逃げる敵を追撃するような戦いはしない』からだ」
     つまり危機的な状況になったら、何時でも逃げてくることが出来るのだ。
    『決死』、『自己犠牲』と言った生半可な覚悟でこの戦に勝利するのは難しいだろう。
    「だから闇堕ちに頼った作戦は愚策だと思う。そういう意味では、この戦いで皆が問われているものは皆の『灼滅者』としての矜持と『灼滅者』として生き抜き、そして勝利する覚悟だろうね」
     そこまで告げたところで、優希斗が懐から1枚のタロットを取り出し、机に置く。
     タロットは、『皇帝』の正位置を灼滅者達に示していた。
    「……でも、皆ならきっと大丈夫。皆なら必ずジークフリート大老を灼滅し、そして帰ってきてくれると思っている。その上で、逃げることは決して恥じゃない、ということも忘れないで欲しい」
     そこまで告げたところで静かに優希斗は瞑目する。
    「……勝利の確約も出来ず、皆が戦いに赴く時、ただ見送ることしかできないことが俺には歯がゆい。それでも皆が帰ってきて、此処でまた再会できることを、心より祈っている。その時に、皆の勝利の土産話を貰えるのならば、これに勝る喜びはない。だから……」

     ――死力を尽くして、戦い抜いてくれ。

     祈りの込められた優希斗の敬礼に見送られ……灼滅者達は、静かにその場を後にした。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    最上川・耕平(若き昇竜・d00987)
    彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)
    望月・心桜(桜舞・d02434)
    天峰・結城(皆の保安官・d02939)
    レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    赤威・緋世子(赤の拳・d03316)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)
    咬山・千尋(夜を征く者・d07814)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    無常・拓馬(カンパニュラ・d10401)
    七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)
    赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    東雲・菜々乃(本をください・d18427)
    水無月・詩乃(汎用決戦型大和撫子・d25132)
    八千草・保(星望藍夜・d26173)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)
    荒谷・耀(一耀・d31795)
    松原・愛莉(高校生ダンピール・d37170)
    オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)

    ■リプレイ


     紡錘陣形の灼滅者達が戦場の最奥部へと駆ける。
     ファフニール達の先、長身痩躯の鍛え抜かれた金髪の男が佇むその前に。
    (「来たか、狭間に在りし者達よ」)
     胸の内で呟きながらゆっくりと目前の30人の灼滅者達へと目を向ける青年。
     その全身を彩る深紅の闘気が王者の威風を灼滅者達に叩きつけている。
    「大老! 私の全てでKOして見せますわ……勝負!」
     圧倒的な威圧感に激しく心を躍動させられ、その思いを言語化して叩きつけるは赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)。
     ――静寂。
     其れを破ったのは……。
    (「こういう大戦の時はまとめてくれる人達の存在がありがたい」)
    「だから、俺は少しでも貢献できるように、自分の役目を果たさないとね」
     薄い白銀の靴で大地を蹴り上げ蒼の流星を思わせる線を引いた蹴りを放った木元・明莉(楽天日和・d14267)だった。
    「我が祖国の大英雄、ジークフリート……不死の神話も今宵まで。伝説は伝説らしく、人の世から退場して頂きます」
     オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)が続けて突貫。
     放たれた裏拳が、ジークフリートの胸を軽く打ち据えると同時に、鶉の影からエリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)が飛び出し、Blaue Blitzの水晶の刀身からその槍に宿された美しき氷の様な意思を思わせる弾丸を発射。
    「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
     それは、オリヴィアの攻撃を受け止めたジークフリートの肩の辺りを凍てつかせている。
    (「お夕食の時間までに帰れるかしら……あんまり待たせても悪いし」)
     ほんの僅かにその身を凍てつかせるジークフリートへと、かつて自らが優しく純真だった頃の祈りによって生まれ落ちた護法の鶴翼を撃ちだしジークフリートの片腕を締め上げながら荒谷・耀(一耀・d31795)は内心で思う。
     その心は酷く冷めていて、只如何にして目の前の敵を灼滅するかのみに注力され。
    「耀嬢、無理はしないで欲しいのう」
     冷徹な耀を信頼しつつ皆を『守る』誓い故に望月・心桜(桜舞・d02434)が労わりながらオリヴィアへと桜の花の華麗な装飾が施された帯を放ってその身を守る。
     ここあは未だ動かぬジークフリートに向けて竜巻を放ち動きを牽制。
     一番最初に接敵した明莉達の一撃を全て受け止めたジークフリートは愉快そうだった。
    「さあ、闘争を始めようか!」
     その手に全長2メートル程の深紅に彩られた長剣が握られる。
     血の螺旋を描いたその剣はまるで生き物の様に蠢いていて。
    「あれは……」
     オリヴィアが呻くその間に剣を一閃するジークフリート。
     光としか形容できない斬撃が荒れ狂う風を生み出して。
    (「!?」)
     心桜の帯による結界がなければ一撃だったであろう程の衝撃を受けオリヴィアが膝をつく。
     エリノアを庇った鶉も同様に激しい裂傷を負った。
    (「これは……」)
     エリノアはふと思う。
     円陣を敷き一気に攻める筈だったが想定よりもジークフリートの攻撃範囲は短い。
     となれば……。
    「皆、一旦後退するわよ!」
    「! 分かりましたわ!」
     エリノアの指示に驚きながらも、黒死斬で敵の足を斬り払った鶉が後退。
    「エリノア嬢、分かったのじゃ」
     桜色の暖かな風をオリヴィア達に施しつつ心桜が答え、ここあと共に同じく戦線を一時的に離脱。
     深い蒼の光を帯びた斬撃の刃を放った明莉が殿を務め、後退しながら耀が自らの師でもある、若桜・和弥(山桜花・d31076)へとアイコンタクト。
     それを受け取った和弥が軽く眼前で両拳を打ち合わせる。
     ――これは、暴力。
     他人を傷つけ踏み躙る痛みを伴う。
    「それでも。強者だけが我を通せると言うなら、そうしよう」
     和弥の言葉を合図に、第2陣が飛び出した。


    「手が届かなくとも足掻くのが灼滅者ですわ」
     千布里・采(夜藍空・d00110)が霊犬の斬魔刀を囮に背後に回り妖冷弾。
     けれどもジークフリートは揺るがない。
    「行くぞ、強者達よ」
     召喚した剣を消滅させ無限とも思える拳の連打を放つジークフリート。
     深紅の雷を帯びたその拳は濃密な殺意を着込んでいた龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)を狙っていた。
    (「竜殺しの英雄か……龍を冠する俺との相性は悪すぎかな……」)
     思いながら背に背負う二刀一対の刃、絶【天羽々斬】に九頭竜の内、二龍を纏わせ踏み込む光明。
    「斬り刻め、九頭龍……龍翔刃」
     二龍がジークフリートの足に食らいつくのと拳の乱打はほぼ同時だったが……。
    (「アンブレイカブルの首魁、ジークフリート。その拳を我が身に刻み、その技を目に焼き付けさせてもらう!」)
     伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)が雷拳の乱打を受けながら心頭滅却するかの如く瞑目し。
    「死地に踏み入り、心清浄ならん! ジークフリート、お前の拳、技、全て喰らってくれる!」
     光明の放った二龍に喰われた足を手刀にて抉る蓮太郎。
     更に最上川・耕平(若き昇竜・d00987)が真正面からグラインドファイア。
    「武闘家として、これ以上の相手は早々出会えないね。全身全霊を以って、手合わせ願う!」
     耕平の放った蹴りがジークフリートの体を掠めその身を焦がす間に和弥が青眼に構えた日本刀を袈裟懸けに放つ。
     真正面から右腕で受け止めながら猛々しい笑みを浮かべてるジークフリートの隙をつくべく天峰・結城(皆の保安官・d02939)が足元の影を軽く踵で叩く。
     同時に、無数の影の手が現出し、それが和弥が傷つけた右腕を締め上げるのを振り解きジークフリートが再び血の大剣を召喚し軽々と振るう。
     神速の一閃が周囲の空気を断って生まれた無数の鎌鼬が蓮太郎達を襲い霊犬が光明を、耕平が蓮太郎を庇い全身に無数の傷痕を作り。
     ピオニーのリングが反射的に輝き耕平達の傷を塞いだ。
    (「なるほど……そうですか」)
     ジークフリートの戦い方を見ながら、采は思う。
     戦いには心理学的な側面がある。
     敵の心を読むことこそ、真の勝利への近道。
    「皆さん、一旦後退しましょ」
     霊犬に浄霊眼で蓮太郎を癒させながら告げる采に軽く頷き返す結城。
    「そうだな。この班じゃ長く持たない」
    「了解だ」
     耕平が答えながら素早くその場を離脱。
     光明も頷きつつ絶【天羽々斬】に這わせた九頭龍を放ってジークフリートへの目晦ましにし、和弥、結城が次々に離脱。
     殿を蓮太郎に任せつつ霊犬と共に後退する采が後方から状況を監視していたレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)へと視線を送る。
    (「頼みましたで、レイさん」)
     そして第3班が動き出した。


    (「ジークフリートの嘘、か……)
     不死と言われながらも灼滅出来るという矛盾した存在ジークフリート。
    (「大老にも隠された弱点があるのだろうか」)
     采から投げられた視線の意図について考えながらレイが帯を放つ。
     放たれた帯を軽く弾くジークフリートの観察は怠らない。
    「マジピュア・ウェイクアップ!」
     白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が華麗に一回りしてアニメの様な変身バンクと共にキラリッ、と決めポーズを決める。
    「希望の戦士ピュア・ホワイト、皆の祈りに答えて戦います!」
     何処からともなく流れた効果音と共に上空へと飛び出すと同時に放った白き流星とでも表現すべき蹴りがジークフリートの左足を打ち据えた。
    「例え天が見逃しても俺達が見逃さねぇ! 平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都参上、てめーの悪事もここまでだっ!」
     ジークフリートの闘気を自分へと少しでも引き付けるべく中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)が縛霊手から結界を展開し、息つく暇もなく咬山・千尋(夜を征く者・d07814)が肉薄する。
    「ジークフリート大老、血を戴きに来たよ」
     吸血衝動に身を焦がしながら枯れ枝のように細い黒槍冬の古木の死を感じさせる凍てつくような冷たさと共に放たれた槍が空気を穿ち螺旋状の渦を描いてジークフリートを貫いた。
    「汝は我が血を求めるか。我が求めしも汝等強者達の血。とく、味合わせてもらおう」
     周囲に纏う覇気を拳に籠め正拳突きを放つジークフリート。
     それは、直撃すれば確実に倒れるであろう一撃。
     ――だから、こそ。
    「させないぜ!」
     赤威・緋世子(赤の拳・d03316)が千尋の壁となった。
     全身の骨に罅が入る程の衝撃を受けながらも不敵に笑う緋世子にラテが浄霊眼。
    (「へへ、情勢だ作戦だ色々あるが、俺は何よりもジークフリート大老と言う強者と拳を交えたいって気持ちが一番あるんだぜ!」)
     愉快そうに笑いながら覇気を弱めるべく拳を叩きつけようとする緋世子。
     ジークフリートがその攻撃を見切ろうとしたその時、緋世子の脇をすり抜けた帯がその足を絡め取って一時的にその行動を阻害した。
    (「ジークフリート大老……アンブレイカブルさんに通じる事やけど……」)
    「ボクは、真っ向勝負は清々しゅうて好きですわ。だからこそ、武蔵坂の仲間の皆さんと共に……いざ尋常に、勝負、挑ませてもらいます」
     ジークフリートの技の射程範囲を冷静に観察していた八千草・保(星望藍夜・d26173)が確固たる決意を告げながら、チラリと背後へと目をやる。
     保の視線の先では松原・愛莉(高校生ダンピール・d37170)や心桜が中心となって自分達よりも前に戦い傷ついた仲間達を回復している姿があった。
    「面白い、面白いぞ狭間にある者達よ」
     気分を害するでもなくジークフリートが無限の拳の連打を放つ。
     神雷を纏ったそれが緋世子を狙うがその前に銀都が立ちはだかりその攻撃を受け全身を貫かれた様な痛みを覚える。
    (「これ以上は危険か」)
     聖なる風を周囲に吹き荒れさせながらレイは采の意図を悟り、ジュンへと目配せ。
     ジュンが頷きながら雲耀剣でジークフリートを斬り裂きつつ胸板を蹴って後方に飛ぶ。
    「皆さん、後退しましょう!」
    「了解や」
     保が頷きながら妖冷弾をジークフリートの目に向けて放って牽制する間に、千尋が流線型の黒いシューズで漆黒の炎を生み出して蹴りを放つと同時にその場を離脱。
     ラテと瞳を合わせて自らの傷を癒した緋世子も撤退。
    「皆、頼んだぜ!」
     銀都の割り込みヴォイスに応じたのは東雲・菜々乃(本をください・d18427)だった。


    「私もこの戦場で貴方と同じものを賭けられればいいのですが……死力を尽くして全力でいきますので受け止めてくださいね」
     ジグザグスラッシュで溜まり始めてきた足の傷を拡げながら菜々乃が告げる。
     ジークフリートは頷くのみ。
    「行くよ、明日香さん!」
     柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)が解体ナイフを翳す。
     生み出されたのは、漆黒の霧。
     後衛に張る筈だった霧ではあったが4人いる前衛に使用した方が効果は高い筈だから。
    (「灼滅者として、ねぇ……」)
     白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が内心でそう思いつつレイザースラスト。
     ただ戦いたいと言う欲求を剥き出しにしたその攻撃をジークフリートは意に介さない。
    (「掛け金としては取り敢えず十分か」)
     冷えた頭でジークフリートのプロファイリングを続けながら全裸ではなく、白い鎧武者姿の無常・拓馬(カンパニュラ・d10401)がチェーンソー剣を構えながら突撃し、血の張りつく胸を斬り裂く。
     敢えてその刃に身を晒しながら、掌を開き深紅の光弾を撃ち出すジークフリート。
     其れは次の攻撃を予測するべく準備を整えていたヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)を狙うがプリンがヴィントミューレを庇いつつリングを光らせ、ヴィントミューレを強化する。
    (「本気で追撃してこないんだな、ジークフリートは」)
     彼の攻撃の様子を見ながら拓馬は思う。
     采や保等から知らされてはいたが、自分の目で見なければ納得できない。
    「お初にお目にかかります、大老ジークフリート。一介のストリートファイターとして、最強のアンブレイカブルを討つ栄誉を賜りたく存じます……どうか、お手柔らかに等なさいませぬ様」
     優雅に一礼しながら静かに告げ水無月・詩乃(汎用決戦型大和撫子・d25132)が接近して熊手でジークフリートを引き裂く。
    「無論だ」
    (「武人の様な物言い、そしてさっきの一撃の射程距離の限界……確かに、これが勝利の可能性を上げる手段だね」)
    「まだ、耐えられるよね。もう少し、様子を見させてもらうよ」
     拓馬がジークフリートの巨体を掴み投げ飛ばそうとするが、其れは軽くステップで堪えるジークフリート。
     深紅の闘気と共に放たれた反撃に内臓を踏み躙られ喀血する拓馬を飛び越え、明日香が『不死者殺し』クルースニクで残虐に胸を斬り裂き、詩乃が援護とばかりに傘の先端に籠めた魔力を暴発させる間にヴィントミューレが短い詠唱を行い十字を切る。
     ジークフリートの周囲に霜がつもり其れが彼の体を凍てつかせる間に菜々乃が縛霊手による一打を加えプリンがリングを光らせる。
     凍傷と火傷を気にした風もなく深紅の剣を召喚し一閃。
     光速で放たれた刃による生まれた風が空間事詩乃達前衛を断裂しようとする。
     特に明日香が盾にした拓馬、詩乃を庇ったプリンの負傷は深い。
    (「だが、其れでも勝算がある」)
    「皆、一旦退くよ」
     玲奈の癒しの矢を受けながら告げる拓馬を筆頭にジークフリートの前から退く明日香達。
    「雄哉さん、みんな、頼んだよ!」
     玲奈の合図に反応したのは有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)達の班だった。


    (「柊先輩にとっては、僕は何度も一緒に戦った仲間ってことか……」)
     正直なところ、未だ誰かを信じ切る事なんて出来ていない。
     ――でも、今は。
     感情のままに目前のダークネスを灼滅する。
     その意志だけを持ち、雄哉が漆黒に彩られた闘争衝動を両手に籠めて撃ち出す。
     放たれた漆黒の光弾がジークフリートの胸を撃ち抜くと同時に七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)へと目線で合図。
    「雪風が、敵だと言っている」
     力任せでありながら、繊細な美しさを感じさせる漆黒の風となってジークフリートの懐に踏み込みスターゲイザーを放つ鞠音。
     先手を切った仲間達によりある程度重ねられた足止め故かその攻撃は綺麗にジークフリートの脇腹に決まる。
     ジークフリートは再び深紅の剣を呼び出し大上段から振り下ろして地面に叩きつけた。
     瞬間、深紅の龍達が全てを喰らわんとするべく咢を開き襲い掛かるが、紺青の闘気と共に生み出された結界がその威力を減殺。
    「さて、腕試しだ。……我流・紅鏡地大」
     それは、戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)の生み出した光。
     更に連理木をモチーフにした一対の指輪の片方『連理』を煌めかせ雄哉の盾となった彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)が穏やかに笑う。
    (「護りたいものがあるんだ」)
    『灼滅者』彩瑠・さくらえとして。
     今、後方でレイ達の援護を受けているであろうエリノアが脳裏に浮かび、さくらえはジークフリートを見つめながら『叶鏡』より全てを凍てつかせる玻璃色の弾丸を発射。
     放たれた其れがジークフリートの右肩を凍てつかせ、風雪が斬魔刀でジークフリートを逆袈裟に斬り裂いている。
    (「敵の体力を全て削りつくせるその時まで、全力で戦う」)
    「……です」
     さくらえの放つ玻璃色の弾丸と同時に放たれた氷の弾丸がジークフリートの右肩を更に凍てつかせ、そして関節部へとその氷を広げていく。
     それは、月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644)の妖冷弾。
    (「無理、しないで」)
     口に出せば其れは却って無理をさせる結果になる。
     分かっているからこそ、愛莉は心の中で祈りを捧げつつラビリンスアーマーでさくらえの傷を癒し。
     なのちゃんはしゃぼん玉を撃ちだしジークフリートの体に掠り傷を負わせた。
     なのちゃんのしゃぼん玉を囮にしながら、雄哉が殲術執刀法。
     その一撃はジークフリートの拳に傷を負わせながらも無限の拳の連打の勢いは殺し切れず直撃を受けかける。
    「やらせん」
     久遠が盾となって受けきるが余りの衝撃に地面に着地できずに背中を強打。
    「この力の波動。流石に大老を名乗るだけはある。我流・董風」
     激痛を堪え土着の神の力を封じた籠手、御魂封で癒す久遠。
     風雪もまた浄霊眼でさくらえを回復し、愛莉がラビリンスアーマーで久遠を癒しなのちゃんがしゃぼん玉で追撃。
     この攻撃は指であっさりと弾いて防ぐジークフリード。
     噤が殺人ウイルスを流し込むべく突貫する。
    (「少しでも多く傷を与える為に出来る限りのことをやる」)
    「……です」
     噤の不意打ちとも取れる攻撃に感嘆の表情を浮かべるジークフリートへと鞠音が純白の刀身に生体金属を纏う大太刀『雪風・零』を大上段から振り下ろし、確かな斬撃を加えた。
     ジークフリートが掌から深紅の光弾を撃ち出す。
     放たれた其れが噤を撃ち抜きよろめかせ。
    (「絶対に負けられない」)
    「……です」
     呻く噤を追撃せず深紅の剣を召喚して振り抜くジークフリート。
     一閃によって生み出された台風の様に荒れ狂う風が久遠達を打ちのめす。
    「残念ながら、僕は昔より随分と諦めが悪くなってしまってね」
     雄哉を庇った分大きく傷つきながらも魂を凌駕させたさくらえは笑った。
    「退きます」
     状況を見て取った鞠音の指示に、雄哉達はジークフリートの前から退却。
     久遠に支えられつつ一度後退したさくらえは見る。

     ――今、再びジークフリートに挑まんとする鶉達、エリノアの所属する班を。


    「今の内に回復を」
     鶉達が戦い続けるのを見つつレイが久遠にラビリンスアーマー。
    「……流石にこんな余裕が出来るのは想定外ですわ」
     明莉達の様子を確認しながら采が息をつき霊犬に拓馬を回復させている。
    「数の利は生かしてこそ、と言うことだ」
     結城が告げつつ菜々乃にラビリンスアーマーを施す。
     24名の灼滅者達は今、意外な安全地帯を確保していた。
     ケツァールマスクの増援が抑え込まれ、ファフニール達が介入してこない今、ジークフリートの射程圏外は安全に回復出来る空間と化したのだ。
    「ただ、これ消耗戦になりますよね?」
    「そうやね。でも、ジークフリートの射程が分かった今、決して悪手じゃないやろうな」
     耀のいる戦場を監視しながら呟く和弥に保が頷きながら蓮太郎にラビリンスアーマー。
    「……そうだね」
     果たしてこの策に何処までジークフリートが乗ってくれるのか?
     僅かな疑念を抱きながらも耕平が闇の契約を自身に施す。
    「それでも勝てる確率は低そうだけれどね」
     集気法で自らを癒しながら拓馬が呟けば。
    「班を再編成、しますか? この戦い方ですと、メディックは、後方支援に徹した方が、良いのではないかと思うのですが」
    「その場合は私は穴埋めも考えているわよ?」
    「オレも出来なくは無いが?」
     鞠音の提案に、ヴィントミューレと明日香が相槌を打つが。
    「創破の意味を知れ、九頭龍……龍癒翔」
     光明の集気法を受けつつエリノアを気遣うさくらえと祭霊光で銀都を癒していた菜々乃が小さく首を横に振る。
    「僕や乱入対応班も可能だけど。そうすると連携が乱れるだろうね」
    「それにお二人が穴埋めに抜けてしまうと、私達の班が決定力不足になります」
    「そうね。さくらえくんと菜々乃ちゃんの言う通りだと思うわ」
     緋世子にラビリンスアーマーを施しながら愛莉が雄哉を気遣いながら溜息を一つ。
    「光明さん達とも検証して見ましたが弱点と思しき箇所はありませんでした。となると大老の性格に付け入るしかないでしょうね」
     詩乃の分析に、千尋は今戦っているオリヴィア達を見る。
    (「もしかしたら、あたしは心桜と交代した方が良いかもしれないな」)
     心桜とここあの回復力は群れを抜いて高いから。
    「今の状況で、やれることをやりましょう」
    「……です」
     白い浄化の光でラテを回復しながら告げたジュンに噤が小さく首を縦に振る。
     作戦の変更を確認しながら玲奈は最前線で戦っている耀を見つめ祈るように告げた。
    「みんなでこの戦いに勝って、一緒に帰ろうね。約束だよ」


     ――策が決まり、其れから暫く……。
    (「流石に手強いってわけね」)
     幾度目かの交代を経験した耀が養父を思わせる拳へと変貌させて一撃を見舞う。
    「行くぞ、狭間を揺蕩う者よ」
     耀の拳から何かを感じ取ったのだろうか。
     ジークフリートが無限にも思える拳の乱打で撃ち返してきた。
    「やらせませんよ!」
     鶉が盾となり神雷に打ちのめされるが……。
    「皆がいます……負ける筈がありませんわ……!」
     幾度目かの凌駕で踏み止まり縛霊撃。
    「流石は我が祖国の大英雄……ですが、この位で挫けたりは致しませんわ……!」
     同じく度重なる凌駕を経て限界が近づきつつあるオリヴィアが正拳突き。
    「心桜、頼んだ!」
    「明莉さん、分かったのじゃ」
     長期戦で疲弊した明莉の叫びに頷く心桜。
     ここあが彼女の意志を汲み取ったかのようにシャボン玉を叩きつける。
     煩わし気に片手でそれを振り払うジークフリートへ向けて、明莉と心桜が同時に神薙刃。
     蒼白い刃と桜色の刃が重なり合いジークフリートに無数の斬り傷を作り上げた。
     怯む事無くジークフリートが血によって生み出された大剣を地面に突き刺し深紅の龍の幻達が明莉と心桜、ここあを襲う。
     鶉とオリヴィアが明莉と心桜の盾となるが……。
    「きゃあああっ!」
    「……限界……ですか」
     負傷が限界に達し鶉とオリヴィアが倒れ込みここあもまた消滅してしまう。
    「此処で倒れるわけにはいかないのよ!」
     傷だらけのエリノアがジークフリートの『死の中心点』を見抜き苛烈な突きを放つ。
     其れはジークフリートの胸を深々と貫くが、彼は微動だすらしない。
    「後退よ」
     耀の冷徹な指示を受けエリノアが倒れた鶉を抱えオリヴィアを明莉が抱えて次の班と交代しようとする。
     退きつつ心桜は追撃の様子を見せないジークフリートに思わず問いかけていた。
    「ジークフリートさんは……わらわ達が逃げても、本当に良いのかぇ? 今なら……」
    「……私達を……壊滅出来ます……よね……?」
     夢現のオリヴィアの譫言に、ジークフリートは泰然と頷いている。
    「疲弊した兵力を下げ、次の部隊を敵にぶつける。理に適う戦い方よ。狭間に在りし強者達足る汝らの連携は称賛に値する。なれば、我も全力を以って其れに答える。ただ、それだけの事だ」
    「本当の強者なんですね、あなたは」
     アイコンタクトを受けた和弥が周囲に張り巡らした鋼糸を引きながら呟く。
     鋼の糸がジークフリートの傷口を広げた。
    「ジークフリートさんは、本物の武人なんやな」
     采が漆黒の弾丸で噤が幾度も針を突き刺した部位を撃ち抜く。
     毒が更にジークフリートの体を蝕む間に結城もデッドブラスター。
     ジークフリートの体力を削るべくひたすらに結城がバッドステータスを付与し続ける中で、光明が走りながら絶【天羽々斬】を引き抜く。
    「斬り裂く! 九頭龍・鎧鱗一閃」
     二刀を大上段から振り下ろしそのままX字型に斬り裂けば。
    「まだだ、まだこの程度で倒れるものか」
    「負けないよ、この位で……!」
     半ば無我の境地に達している蓮太郎がティアーズリッパ―で斬り裂いた傷を狙って耕平が制約の弾丸。
     だが、幾度の凌駕を得てその場に立ち続けていた蓮太郎と耕平の息遣いは荒い。
     長時間の戦いの中で幾度も庇いを実行したディフェンダー達は、休息をしても特に回復しきらない傷を蓄積させる。
     故にピオニーも又、回復を捨て攻撃へと転じていた。
    「破っ!」
     肩で息を切らせながらもジークフリートが深紅の剣を召喚して一閃。
     鞠音やジュン達により幾重もの武器封じを重ねられている筈の現状でもその勢いは衰える事無く、剣閃が周囲の空気を斬り裂き無数の鎌鼬を生み出した。
    「ぐっ……まだだ……!」
    「倒れる……訳には……!」
     鎌鼬に斬り裂かれても尚、凌駕でその場に立つ蓮太郎と耕平。
     惜しみない称賛の眼差しを送りながらジークフリートが深紅の大剣を地面に突き刺す。
     放たれた深紅の龍の幻影達が耕平達に襲い掛かった。
    「うおおおおっ!」
     龍の幻影の体当たりを受けて肺の空気全てを血と共に吐き出しながら蓮太郎が黒死斬でその足を薙ぎ払うが遂に限界が来てその場に倒れる。
     同時に脇を喰らわれた耕平がレッドストライクを叩きつけ自らの血溜りの池の中に倒れ伏した。
     そして、六文銭射撃を放ちながら光明を庇った霊犬もまた消滅する。
    (「これが……龍殺しの英雄の実力と言うことか……!」)
     霊犬に庇われた光明が内心で歯軋りを一つ。
    「これ以上は持ちません。退きますで」
     光明の一撃に足止めを喰らうジークフリートを見ながら采が告げ、結城が蓮太郎を、和弥が耕平を回収する間に猫魔法で弾幕を張っていたピオニーが無数の鎌鼬に斬り刻まれ消滅。
    「赤威、中島九十三式、無理はするな」
     レイが植物の意匠の施された杖のような形状の怪談蝋燭『蒼翠』の先端から蒼く揺らめく炎を呼び出す。
     更に保が妖冷弾。
    「ジークフリート大老……あなたの武勇、しかとこの眼に焼き付かせて頂きます」
     保の放った氷がジークフリートの身体を蝕みジュンが肉薄してマテリアルロッドの切っ先を突き付ける。
    「マジピュア・エクスプロ―ジョン!」
     圧倒的な魔力の爆発がジークフリートを嬲るが爆発が晴れた直後、ジークフリートは片手の掌を開き深紅の魔力を収束させていた。
    「破っ!」
    「! 不味いぜ!」
     ジュンを守るべく銀都が割り込みながらその拳に炎を蓄える。
    「焼き尽くせぇぇぇぇぇっ!」
     炎の拳を銀都がカウンター気味にジークフリートの顔に叩きつけると同時に、銀都の腹部を深紅の弾丸が撃ち抜いた。
    「喝っ!」
     掌底を叩きつけられ銀都が毬の様に地面を跳ね動かなくなる。
    「血の一滴、髪の毛の一本でもいい。貰い受けるっ!」
     喰らいつく様に千尋が自らの吸血衝動を具現化させた鋏、Vampirismで朱に染まるジークフリートの肩を貫き血を啜らせる。
     ――だが……。
    「破っ!」
     肩に刺さったままのVampirism毎、千尋を引き寄せ無限ともいうべき拳を叩きつけようとするジークフリート。
    「その拳、俺が打ち砕いてやる!」
     小柄な緋世子が走りながら千尋との間に割込み、炎を纏った踵をジークフリートの肩に叩きつけるが限界となり地面に落下して意識を失う。
     ラテが主を倒された怒りを晴らさんとばかりに斬魔刀で斬りかかるよりも先にジークフリートが再び血剣を召喚し一閃。
     音速を超えた一閃の生み出した竜巻が千尋とラテをズタズタに斬り裂きラテは消滅。
    「不味いな」
    (「他の班も被害が大きくなっている、一度班を立て直すべきか……?」)
    「後退しましょう!」
     次の一手を思考しながらレイがレイザースラストで牽制する間にジュンが声を張り上げながら銀都を回収し、千尋も緋世子を回収して撤収。
    「オオオオオッ!」
     怒声を上げた明日香が黒死斬でジークフリートの足を斬り裂き、ヴィントミューレがバスタービームでジークフリートの目を射抜いている。
    「明日香さん! 下がって!」
     ヴィントミューレに目を射抜かれたジークフリートが明日香の前に踏み出したのに玲奈が声を上げた。
    「狭間に在る者よ。我が求むるは汝らの強さ。思想は問わぬ」
     放たれた深紅の闘気を纏った拳。
     明日香が覚悟を決めた時2人の間に割り込む影。
     ――パラ……パラ……。
     それは、砕けた仮面と鎧越しに鋭い眼光を見せる拓馬。
     ジークフリートの巨躯を掴みバックドロップの要領でその体を地面に叩きつける。
    「掛け値なし、俺達の全力だ。酔えているか? ジークフリート」
    「これ程までに酔いしれることの出来る戦いは、久方ぶりだな」
     即座にバク転して態勢を整え直すジークフリート。
     何処までも愉快そうに笑っていた。
    「まだですわよ、大老ジークフリート」
    「拓馬さん!」
     頽れた拓馬の作った隙を見逃さず詩乃が一気に接近し、貫手でジークフリートの胸を貫くその脇から玲奈が飛び出し、詩乃が貫いた胸を深々と抉る。
    「! やらせませんよ」
     玲奈に向けて気を込めた深紅の気功砲を放つジークフリートの前に菜々乃が立つ。
     光に飲まれながらも菜々乃が魂を凌駕し近づき拓馬を回収して引き上げる。
    (「後一度は……必ず防いでみせるのですよ」)
     プリンの猫魔法による弾幕の援護を受けて下がりながら菜々乃は静かにそう誓った。


    「貴方は、恋をしたことがありますか?」
     ぽつり、と零れた鞠音の問い。
     答えず、ジークフリートは深紅の剣を召喚。
    (「それが、答えなのですか」)
     本当は、知りたいこと、話したいことは沢山ある。
     だが……現状はそれを許してくれる程甘くない。
     なれば今鞠音に出来ることは……。
    「私は、ナノナ・マリネ。私に、ときめいてもらいます――!」
     己が覚悟を刃に籠め、強者を、ただ一個人として知り、受け止める事。
     紅の双眸でジークフリートを射抜きながら鞠音が雪風・零を一閃させる。
     鋭い一撃はジークフリートの腕を深々と斬り裂くが其の刃を振るう速度を押し殺しきれず、神速で振るわれた大剣が大気を斬り裂き、雄哉達を襲った。
    「風雪。ご苦労だった」
     雄哉を庇いながら六文銭射撃を放ち消滅した風雪を労いながら、久遠が間合いを詰める。
    「我流・鬼哭晦冥」
     自らの影から引き出した陰の力でジークフリートを喰らいながら呟く久遠。
     既に痛覚しか反応せずそれでも尚、負けられぬという意志のみで立ち続ける。
    (「絶対に負けられない」)
    「……です」
     噤が呟きながら妖冷弾。
     これだけの攻撃を受けているにも関わらず、立ち続けるジークフリートに戦慄を禁じえず、武者震いの様に尻尾を揺らす。
    「回復どころじゃないわね……」
     片目が潰れているのを確認し震える体を叱咤しながらその死角へと愛莉が回り込んで導眠符。
     脇腹に其れは張り付きジークフリートの心を揺さぶりなのちゃんが竜巻を起こしてそれをぶつける。
    (「愛莉ちゃん……!」)
     こんな戦いに参加するなんて、全く思っていなかった愛莉が恐怖を押し殺して戦っている。
     それなのに、自分が『これ』に負けていられるものか。
     くるぶしに嵌めたアンクレットが囁きかけてくる甘美な闘争衝動への誘惑を受け入れ制御しながらその拳を鋼鉄化させて叩きつける。
     強烈な痛打がジークフリートの胸に叩きこみ、僅かにその身を傾がせた。
    (「効いている……!」)
     雄哉が更なる追撃を加えようとした時、無限の拳の連打が雄哉を襲った。
    (「まずい……」)
     勢いが付きすぎて今の状況では避けきれない。そしてそれを受けたら自分は倒れる。
    「お兄ちゃん!」
     愛莉の悲鳴、けれども……。
    「この身で、この手で護り切って見せる」
     灼滅者として『生きる』覚悟を固めたさくらえがその猛打を受けながら……己の深淵に誓いし罪を認め、闇を恐れず、望む未来へ突き進む覚悟を秘めた玻璃色の弾丸を撃ち出した。
     それが、噤の撃ち込んだ妖冷弾と全く同じ箇所に撃ち込まれたのは……勝利を信じる鞠音達への戦の女神の微笑みだったのだろうか。
    「ぐっ……あっ……!」
     今まで蓄積していた氷が一気にジークフリートの全身に回り、彼の内側から氷柱となってその身を引き裂いていく。
     ――それは、初めてジークフリートが見せた、大きな隙。
    「後は頼むよ、エリノア……」
     指輪「連理」の輝きに目を止めて微笑みながら。
     どう、とその場に倒れるさくらえ。
     ――そして……。
    「さくらえの作った隙……この槍と防具に賭けて絶対に見過ごさないわ!」
     後方で待機していたエリノアが飛び出し、尖烈のドグマスパイク。
     捻じりこむ様に放たれたバベルブレイカーがジークフリートの急所を深々と抉る。
    「明莉さん」
     心桜の放つ桜色の真空の刃がジークフリートを刻み、立て続けに明莉が蒼い流星の如き蹴りを傷だらけのジークフリートに叩きつけ。
    「咬山!」
    「その血、今度こそもらい受けるよっ!」
     明莉の叫びに応じた千尋が漆黒の炎を纏った回し蹴りで全身を焼き尽くし。
    「終わりね」
     耀が高出力化されたチェーンソー剣『迅雷』のジグザグスラッシュで、ジークフリートの全身に回る氷を拡大し。
    「続きます」
    「耀ちゃんに続いて!」
     和弥が大上段から日本刀を振り下ろして、深々と斬撃を与えるのと同時に玲奈が肉薄してグラインドファイア。
     炎と氷と毒がジークフリートの体を確実に蝕む中で。
    「今ですね」
     詩乃が傘に籠めた魔力を爆発させジークフリートを空中へと吹きとばし。
    「そこやな」
    「落ちろ」
     采が妖冷弾で射抜き結城の影がジークフリートを締め上げ地面へと叩き落とす。
    「さあ来い、強者ども!」
     逆襲に転じた詩乃達にジークフリートが深紅の剣で空間を斬り裂き無数の鎌鼬を生み出し斬り刻む。
     愛莉や玲奈が咄嗟に回復するが耐え切れずに何人かがその場に倒れ伏す。
     ――その中で……。
    「後は、任せた」
     プリンが光明の盾となって消滅し久遠が明日香の盾となり地に伏せた。
    「オオオオオオッ!」
     明日香が地面を蹴って飛び、ティアーズリッパ―で残虐に斬り裂けば。
     光明が漆黒の鞘絶【薄緑】を妖刀へと変形させ、平突きで明日香の斬り裂いた胸に刃を突き刺し。
    「龍気に溺れろ、九頭龍・龍崩衝」
     柄に龍気掌を撃ち込み体内から九頭龍を爆発させた。
    「続くぞ」
     吹き飛ばされたジークフリートをレイがレイザースラストを捕らえ、保が自らの影を無数の刃へと変え斬り刻む。
    「あと少しや」
    「マジピュア・スターダストキック!」
     保の言葉に応じる様にジュンが上空から白い流星の如き蹴りを腹部に叩きつけた。
    「破っ!」
     己が矜持を示すかのようにヴィントミューレに向けて深紅の波動砲を放つジークフリート。
     ――だが。
    「守り……ましたよ……」
     菜々乃が盾になり倒れたその背後で。
     ヴィントミューレが掌を広げ狙いを定めるようにジークフリートを見据えていた。
    「そろそろ引導を渡すときね。この騒動も、そろそろ終しまいにしましょう。今こそ、これまでの行動に裁きを下すとき。受けなさい、これがあなたに対する洗礼の光よっ」
     叫びと同時に掌から『裁きの光矢』を放つ。
     光矢がジークフリートの胸を貫いて心臓を撃ち抜きその背をも突き抜けた。
    「見事だ……強者達よ……我が不死を破りし者がいようとはな……ならば、待とう。何時かヴァルハラに汝らが来るその時まで、更なる精進を重ねながらな……!」
     そして、ジークフリートは光となって消えて逝く。

     ――優希斗の予知と、結城達灼滅者の作戦と、戦の女神の気紛れな微笑み。

     三拍子が揃う『奇跡』によって、噤達は下せぬ筈の敵をその手で下した。

     ――大老ジークフリート、灼滅、完了。

    作者:長野聖夜 重傷:最上川・耕平(若き昇竜・d00987) 彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131) 中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248) 赤威・緋世子(赤の拳・d03316) 伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267) 無常・拓馬(カンパニュラ・d10401) 赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006) 東雲・菜々乃(本をください・d18427) オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年9月15日
    難度:難しい
    参加:30人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 22/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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