「皆、銀夜目・右九兵衛暗殺作戦が成功したって知らせはもう聞いたか? 皆が力を合わせたことで、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟をぶった切ったんだ!
この間隙を突けば、六六六人衆に援軍ナシの決戦を挑むことができるってわけだ!
けど相手だって今が危険な状態だってのは分かってる筈だ。同盟関係の修復は時間の問題だろう。
ゆえに――決戦すべきは、今だぜ!」
さて、ここで問題になって来るのは六六六人衆総力……つまり吸収したアンブレイカブル戦力込みの連中を相手にしなければならないということだ。
黄金闘技大会を開催している『ジークフリート大老』。
同大会を運営している『ミスター宍戸』。
そしてこの大会を六六六人衆ランキング制度と連動しようとしている『ランキングマン』。
「お察しの通りだ。この三人を繋ぐ『黄金武闘大会』に攻め込んで、全員まとめてぶっ飛ばそうって算段だ!」
しかし個体戦闘力のトップ争いをするような二大勢力の中核へ飛び込むのだ。学園の総力を結集することになる。
「黄金闘技大会の説明は別の奴に任せるとして……ここに集まった俺たちの役目は『ランキングマン』との決戦だ。
愛する武蔵坂学園の仲間たちが道を切り開くと信じて、フルパワーをぶつけてやろうぜ!」
ランキングマン。
六六六人衆序列六位。
サイキックアブソーバー時代に同種族を生き残らせるべく殺し合いゲームによる序列制度を作り上げた、いわば六六六人衆のルーツとも言うべき存在だ。
「奴はメチャクチャ強力なダークネスだが、そのメチャクチャさは戦闘とは別の特殊能力に向いている。決戦に持ち込めば勝算があるかもしれないんだ。
そして奴を倒すことが出来れば、六六六人衆の秩序でもあった序列が機能しなくなり、六六六人衆を大きく混乱させることができるだろう」
ただミスター宍戸を取り逃した場合は混乱した六六六人衆をミスター宍戸が掌握するなんていう事態も考えられる。ミスター宍戸を担当している別チームが彼を取り逃さないようにすることも重要だろう。
「さっき総力をあげて、と言ったが……この作戦はかなり多くの灼滅者の援護を受けて行なうものだ。
同時に行なわれる『黄金闘技場強襲』の概要も確認して、どういう援護を受けて作戦を行なうのかを確認してくれ。その上で決戦部隊としての作戦をたてるようにしてくれ。
援護の方法や戦力によって決戦部隊が立てるべき作戦も変わってくるからな」
といった所で、ここからが本題。最重要部分である。
「皆が戦う『ランキングマン』。
奴は序列をもつ六六六人衆すべての技を使いこなすという能力を持っている。序列一位から六六六位まで全部だ。
だから、状況に応じて最適な技を繰り出してくるだろう。その対策……っていうと『対策の対策』つって無限に考えることになっちまうから、数のパワーを有効に使って『こういう技が来たら俺の出番!』ってなカウンター方式でもいいと思うぜ。
他に考えるべきことっつーと、ランキングマンの護衛が残っていたり、援軍が発生したり、作戦開始時にこっちが消耗しちまってる状況だな。けど全員がそれら全部に対策をとれるわけじゃない。バランスをとって考えてみてくれ」
と、ここまで説明したところで、大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)はグッと拳を握った。
「こいつを成功させれば、世界を脅かす巨大な勢力を文字通りぶった切ることができる。皆、頼んだぜ!」
参加者 | |
---|---|
石弓・矧(狂刃・d00299) |
周防・雛(少女グランギニョル・d00356) |
月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470) |
叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779) |
神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914) |
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952) |
椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051) |
刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884) |
空井・玉(リンクス・d03686) |
御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806) |
哘・廓(阿修羅姫・d04160) |
渡橋・縁(神芝居・d04576) |
波織・志歩乃(繊月に揺蕩う声・d05812) |
戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549) |
西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504) |
ハイナ・アルバストル(塗り潰す蒼・d09743) |
東雲・悠(龍魂天志・d10024) |
紅羽・流希(挑戦者・d10975) |
月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030) |
ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065) |
月姫・舞(炊事場の主・d20689) |
九形・皆無(黒炎夜叉・d25213) |
刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866) |
比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049) |
真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302) |
クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295) |
カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368) |
御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264) |
ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(夢途・d36355) |
神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383) |
●第一陣 光の手
千人をゆうに超える円形闘技場への襲撃作戦。その結果、武蔵坂学園の灼滅者たちは最終決戦への道を切り開いていく。
ランキングマンへの道のりもまた仲間たちの活躍によって切り開くことが出来た。
しかし。
「『十の戒め』か、とんでもない能力だったな」
頬の傷を指ではらい、紅羽・流希(挑戦者・d10975)は広いホールへと到達した。
「織久、朔耶、白焔……皆いるか?」
流希は共に特殊空間を乗り越えた仲間たちを振り返り、驚愕に目を見開いた。
異変は一目瞭然。
灼滅者30人で到達する筈だったこの場所に、なんとたったの4人しか存在していないのだ。
西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)が鎌を強く握り、周囲に警戒を走らせる。
同じく、西洋騎士のような盾とガントレットを再装着するベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)。
「馬鹿な。全員やられたというのですか?」
「いいえ織久。ここへ来るまでは確かに全員そろっていたはず。分断されたとみるべきですわ」
「……」
目の光を険しくする御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)。
「『十の戒め』の突破が不完全だった……か」
白焔の言葉に、流希たちはそれぞれ納得した。
突破にあたった人数こそ多かったものの、かのいまいましいルールによって十全な攻略には至らなかったのだ。
だが、そうだとしても。
「クク、現われたぞ。『我等』の本懐が」
急に人が変わったように笑い、織久はホールの奥をにらんだ。
海の波をかたどったような幕が左右に開き、一人の男が現われる。
白髭を蓄えた男だ。
赤い衣を纏った男だ。
石版を持った男だ。
この格。間違えようが無い。この男が六六六人衆序列六位『ランキングマン』だ。
しかしまるで、まるで、まるで……。
「第一の言葉、瞠目せよ」
石版の一部に触れ、『この岩の上に教会を建てよう』と呟いた。
途端、ホールのあちこちから結界石が飛び出し強烈な結界を展開した。
「除霊結界か――!」
「この程度、足を止めるほどではありませんわ!」
ベリザリオはガントレットで地面を殴りつけると、エネルギーシールドを広く展開。
相手の結界とぶつかり合わせる。
「織久!」
「ククク、ヒハハハハハ!」
目を大きく見開いた織久が結界の間をすり抜けるように走り、全身からまがまがしい影業を展開。ランキングマンへと殺到させた。
手足や首、あらゆる部位に絡みつき、飲み込んでいく影。
そんな中で……。
「『闇が訪れぬように太陽を作ろう』」
膨大な光が織久の影業全てを焼き切っていく。
が、それでいい。
「今度は祭霊光か。キュアで一手使わせれば、それが隙になる!」
流希と白焔、二人はそれぞれ左右に展開。ランキングマンを挟み撃ちするように位置取り、全く同時に斬りかかった。
常人では目撃すらできない達人級の斬撃。
白焔は振り込んだ時には既にランキングマンの反対側におり、剣を振り切っている。
一方で流希はその間隙をつくように、ランキングマンの心臓に剣を突き立てていた。
それだけに留まらない。
織久は鎌をランキングマンの首に押し当て、そしてひと思いに断ち切った。
その力とは逆向きに刀を捻り、流希はランキングマンの胴体を内側から切り裂いていく。
一瞬の出来事だ。だが一瞬でできることはまだある。
白焔は拳を握り込み、ランキングマンのボディを拉げるほどに殴りつけた。ベリザリオの縛霊手もまた強いエネルギーを放ちながら反対側より殴りつける。
吹き上がる鮮血。つぶれる身体。飛んでいく首。
やった。そう確信した次の瞬間。
「『罪人の臓物を捧げよ』」
闇から現われた大量の臓物が流希に絡みついた。
あまりの荒唐無稽さに、そして力強さ。
ランキングマンは肉体を逆回しにするかのごとく再生させていく。
●第二陣 戦火
メンバーの分断は皆を一時的に混乱させたものの、順応は早かった。
伊達に修羅場を潜ってきているわけではない。
「これだけしかいないなら。できることをするだけですわ」
「同感だね。手持ちのカードにケチをつけるつもりは無いよ」
メンバーは、黒いピエロの仮面を被った周防・雛(少女グランギニョル・d00356)と、ライドキャリバー・クオリアに跨がった空井・玉(リンクス・d03686)。
そして黒い鎧武者のような装備をした御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)と、魔法使いめいた波織・志歩乃(繊月に揺蕩う声・d05812)である。
やがてブザーが鳴り、ホールにスポットライトが下りる。
開いた幕の向こうでは、流希たち四人が血まみれで倒れていた。
否、まだ意識はある。戦う力が残っていないだけだ。
「みんな! 大丈夫? なにがあったの!?」
駆け寄ろうとする志歩乃――を、百々がそっと止めた。
なぜなら、幕のそでから白髭の男……『ランキングマン』が現われたからだ。
「第二の言葉、同志をつれこの場を去れ」
「半分賛成、半分反対」
ライドキャリバーから下り、クロスグレイブを担ぐ玉。
「織久くんたちは仲間を連れて逃げてくれ。ここは私たちが引き受ける。他の仲間が到着するまでね――クオリア!」
呼びかけに応じて走り出すライドキャリバー・クオリア。
ランキングマンまでの距離を豪速で詰め体当たりをしかけようとした――その時。
「『戦の炎が大地を喰った』」
クオリアの頭上。もといシートの上にランキングマンがいつのまにか移動していた。
触れた石版の文字がうっすらと反応し、ランキングマンの両腕を補うかのように大量の機関銃が出現する。その全てが巨大な片腕のように継ぎ合わさり、機関銃そのものの弾幕となってクオリアをたたきつぶした。たったの一撃で、クオリアが消滅してしまったのだ。
「『焼けた大地に鉛を植えよう』」
全ての機関銃が分離し、銃口が志歩乃たちへ向く。
咄嗟にセイクリッドウィンドを展開する志歩乃。
かぶせるように浴びせられる弾幕。
戦車数十台が鉄くずと化すような弾幕の中を、しかし玉と百々は切り抜けた。
それだけではない。あがった粉塵にまぎれランキングマンの死角に潜り込み、絶好のチャンスを掴んでいたのだ。
「下手に避けるともっと痛いぞ」
玉が振りかざしたクロスグレイブによる直接打撃。
「我が物語の前に散るがいい、ランキングマンよ!!」
と同時に、百々の妖刀による強烈な斬撃。
そのふたつが吸い込まれるようにランキングマンの胴体を切断、分割し、上半身を吹き飛ばしていく。
吹き飛んだ上半身めがけ、雛は超高速で追いついた。
まるで上品なダンスでも踊るような優雅さで、スカートのはしをつまんであげて、操り人形の糸をくいっと引き上げた。
ランキングマンの胴体ががんじがらめに縛られ、そしてケチャップになる前のトマトさながらのはじけ方をした。
にも。
かかわらず。
「『そして大地は炎に沈む』」
指だけが動き、石版に触れている。
血液が振動し、言葉を述べた。
そして機関銃の全てが爆発し、雛は炎に包まれた。
しゅるしゅると姿を取り戻すランキングマン。
はじめに見たそのままの姿で、再び石版に触れた。
「『焼けた大地に鉛を植えよう』」
●第三陣 凶刃
対ランキングマン決戦に志願した精鋭灼滅社は30名。彼らはいざという時臨機応変に対応できるようにチームをA班(主力第一)、B班(主力第二)、C班(護衛排除)、D班(援軍牽制)に分けていた。
チームごとに振り分けた役割の重要性から、彼らは十全に攻略できなかった『十の戒め』による分断にもある程度耐え、数人のチームを再編成することができていた。
そんな中でも、チームの枠を超えてお互いを想い合った結果、再結束したチームがある。
「ヴォルフ、明日等……どうやら俺たちだけになってしまったらしいな」
金色の配管が並ぶ部屋へとたどり着いた月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)。霊犬リキの頭を撫で、周囲を警戒させた。
「他のメンバーも散り散りになったと見た方がいいだろうね。大丈夫、俺たち同様、チームを再編成しているはずだ」
懐から銃を抜き、セーフティを解除するヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)。
朔耶とヴォルフはそれぞれお互いの背を守るように構え、一方で神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)は前方に集中した。
「誰かいる。――リンフォース」
ウィングキャットを呼び出して頭上に待機させる。リンフォースはタイヤのオモチャを抱っこしてグルルと唸るように鳴いた。
暫く歩くと、視界が大きく開けた。
まるでパイプの塔。管があちこちに伸びたタワーのある部屋だ。
その頂上よりもはるか上から、一人のダークネスが降りてきた。
ダン、と力強く地を踏みしめる白髭の男。彼こそが紛れもなく『ランキングマン』だ。
「第三の言葉、退路なき現在に絶望せよ」
「お断わりよ!」
リンフォースとリキがそれぞれランキングマンに飛びかかる。
攻撃のためではなく、彼の攻撃から朔耶やヴォルフを守るためである。
「別の仲間と合流する余裕はない。それよりむしろ――」
「奴をこの場に引きつけて、本隊が合流する時間を稼ぐべきだな」
朔耶とヴォルフは全く同じ思考をし、一切の合図なしに連携した。
コンバットナイフほどのハサミを握り、影業を最大展開させ回り込む朔耶。
反対方向へ走りながら銃撃を浴びせるヴォルフ。
対してランキングマンは……。
「『タランテラメロディを奏よ』」
石版の一つに触れ、不思議なワードを述べた。
その途端、虚空から蜘蛛の脚めいたナイフが大量に現われ、嵐のように暴れながらヴォルフたちに襲いかかった。
素早く間に割り込むリンフォースたち。
一撃を耐えて回復をという考えを踏みつけるかのように数秒でリンフォースとリキの身体はサイキックエナジーへと還ってしまった。
だがそれも一手の隙。朔耶はランキングマンの脇腹にハサミをねじ込み、ヴォルフは指輪をした拳で殴りつけ、零距離から制約の弾丸を乱射した。
「今だ」
「やれ!」
朔耶とヴォルフの合図は同時だった。そして明日等は二人を信じ、ランキングマンの脳天めがけてレイザースラストを発射していた。
頭を砕いてスイカのようにまき散らす。
血が吹き上がる。
吹き上がる。
吹き上がり、霧のように満ちていく。
「『見えない蜘蛛が人を食うのだ』」
ランキングマンがそう述べたきり、彼の姿が曖昧になった。
そして。
「『毒が抜けるまで踊れ踊れ踊れ』」
蜘蛛脚のようなナイフが、朔耶の胸を貫いた。
●第四陣 塔を登った弓手
分断された織久や雛たちAチームや朔耶たちの再編チームがそれぞれ時間を稼いだ結果、分断されたBチームの再編成が間に合った。
「他は全員いるね? ヴォルフ君ははぐれちゃったけど……他の皆と合流してるって信じよう」
ライドキャリバー・メカサシミに跨がり、道路標識を担いだ月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)。
「じゃあ、確認するね」
彼女は予め記憶したBチームの顔ぶれを端から順に見ていった。
刀を僅かに引き、ガチンと納め直す叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)。
奇妙なトランクケースを両手でさげた月姫・舞(炊事場の主・d20689)。
つまらなそうに腕を組み、ビハインドのイツツバに周囲を警戒させる真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302)。
自らの手を見つめ、何かの覚悟を決めている哘・廓(阿修羅姫・d04160)。
美しいナイフを握り、蔵乃祐や縁に視線を送って頷くハイナ・アルバストル(塗り潰す蒼・d09743)。
その視線を受けて、胸の前で組んだ手を強く握る渡橋・縁(神芝居・d04576)。
同じく受けて、ゆうゆうと遠くを見る戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)。
切っ先の美しい槍をぐるりと回して備える東雲・悠(龍魂天志・d10024)。
総勢9名。
並のダークネスなら即座に灼滅できるほどの戦力だ。
彼らは隠し地下室の奥に広がる配管の塔を上り、頂上へと到達した。
そこに待ち受けていたのは白髭の男。まごう事なき、『ランキングマン』。
彼は振り返り、石版に手をやった。
「第四の言葉、抗うことで己を知れ」
悠は槍を構え、不敵に笑って見せた。
「ワケの分かんないこと言うなっての。お前、六六六人衆全序列の技を使うんだろ? ここで全部見せてみろよ。出し惜しみで負けたなんてイイワケ聞かないからな!」
悠は足下から影業を展開。ランキングマンに電撃のごとく絡みつけると、棒高跳びの要領でジャンプ。頭上から凍らせた槍を叩き込みにかかる。
「一凶、披露仕る」
死角へあえて見えるように回り込もうとする宗嗣。
「私、いまちょっと機嫌が悪いんです。覚悟してくださいね」
その一方で舞はトランクケースを展開。中からあふれ出た形容不明の影業がランキングマンへと殺到する。
腕を貫き、胸を貫き、腹を貫いていく影業。
そうして固定されたランキングマンにざっくりと槍を突き刺す悠。そして首をはねる宗嗣。
回転して飛ぶ首が……。
「『高すぎる塔はやがて崩れるだろう』」
と述べた途端、頭上に大量の弓が現われた。
十や二十ではない。ひとつひとつが伝説に語られるような恐ろしい力を持った弓たちがひとりでに動き、無数の矢を放つ。
「まーゴールデン特番みたいな名前してやることもエンタメに富んだ事で。うざ」
櫟がイツツバと共に飛び出し、宗嗣と舞への矢を代わりにうけた。
カウンターのように回復……しようとしたが、防御姿勢で飛び出していたイツツバが消滅していた。
たったの一発でだ。
櫟の顔色が僅かに変わる。
シャウトを使って耐えしのぐ。
防御を固め回復に専念した彼を倒すのは、そこらのダークネスでも難しいだろう。
ランキングマンは石版に指を当ててこう述べた。
「『驕る者は言葉によって争うだろう』」
一本の鉄の矢が、櫟の心臓部を貫いた。
衝撃によって吹き飛ぶ彼を、メカサシミがさらうように受け止めた。
ランキングマンの首が、まるで巻き戻し映像のように元の場所に戻っていく。
廓と玲はアイコンタクトを送りあった。
「メカサシミ、頼んだよ!」
玲はライドキャリバーを盾にしてイエローサインを展開。
注意喚起の光を浴びながら、廓がランキングマンに殴りかかる。
「殺人鬼の力……今こそ」
見えない壁に拳が止められる。だが関係ない。
拳の力で無理矢理壁を破壊し、バラしていた刀をワイヤーを通して大きな剣へと再構築。廓は刃に最大の殺意を込め、ランキングマンの腹に突き立てた。
「『されど再び塔は立つだろう』」
どこからともなく放たれた矢がランキングマンの胸に刺さり、廓のねじ込んだ腹の傷が強制的に塞がっていく。
「『争いが塔を再び壊す』」
ドン、という激しい衝撃がおきた。
何事かと視線をやると、虚空から落下してきた不可思議な杭が地面に刺さり、衝撃恐ろしいを放ったのだ。
思わず吹き飛ばされる廓やメカサシミ。
が、入れ替わるようにハイナ、縁、蔵乃祐が一斉にランキングマンへと襲いかかった。
一切の合図なき完全連携だ。
真正面からクロスグレイブの主砲を打ち込む蔵乃祐と、回避できないようにナイフで背中を刺すハイナ。
「いろはすさん、そがぶ」
「ランキングマン、あなたの秩序を破壊します!」
絶好のタイミングでクロスグレイブを叩き込む縁。
三人の攻撃が全て直撃し、ランキングマンの頭はゴルフボールのように飛び腹には大穴があき、すんでのところで飛び退いたハイナは血に濡れたナイフを振って払った。
ランキングマンの指が動く。
「分かってますよ、この程度で死なないことくらい」
蔵乃祐がクロスグレイブをぶん投げた。
胴体に直撃し、バウンドするようにはねる。
それを縁がキャッチして、頭上からのハンマーアタックに繋いだ。
人体と同じくらい大きな十字架でこんなことをすれば、人体がどうなるかなど想像に難くない。
ハイナはめちゃくちゃになったランキングマンのボディに、トドメとばかりに大量の布槍を叩き込んだ。
「『争いの杭は心臓を打ち抜くだろう』」
「『争いの杭は墓下でさえも逃げられない』」
空気そのものが振動するような声で、ランキングマンが述べた。
第一関節だけの指が動き、石版に触れた。
虚空から現われた黄金の杭が、蔵乃祐とハイナの心臓を貫いていく。
●第五陣 ランキングマン
武蔵坂学園灼滅者、対ランキングマン精鋭部隊・Bチーム。彼らは何も無謀にランキングマンに挑んだわけではない。
戦いを長引かせ、後続のチームが合流する時間を稼いだのだ。
後続のチームとはつまり……。
「私の剣は五刀流。あなたは四手足りませんでしたね」
刀を持った護衛ダークネスをばらばらに切断して、刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)は刀を納めた。同じく刀を納めるビハインドの村正・千鳥。
比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)は水晶の剣を消えゆくダークネスから引き抜いて、目を細める。
「蔵乃祐の気配がする」
「気配? どういうことです?」
同じくダークネスを倒した石弓・矧(狂刃・d00299)が、赤い鞘に刀を収めていた。
こちらは護衛の排除を担当していたCチーム。
メディックの神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)と刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)が、ダークネスを連係プレイで灼滅していたビハインドたちを呼び寄せた。
じゃれつく海里を押さえつける優。
「いいぞワンコ。おいやめろ、遊ぶのは後だ」
「護衛の戦力はたいしたことなかったね。主力はやっぱりランキングマン、か」
晶は大きな鎌をかつぎ、表情を僅かに歪めた。
『十の戒め』を十全に攻略できなかった結果として、30人の精鋭部隊は散り散りになってしまった。
刀たち五人はランキングマンの護衛戦力と接触したが、別の仲間たちを先に行かせるためこれと交戦。どうやらランキング外の六六六人衆たちであったようで苦戦はしなかったのだが……。
「そうなってくると主力チームが危ない。戦力比の殆どがランキングマンで占めてるわけだからな」
優の言葉に、柩がこくりと頷いた。
「こっちだ。急いで」
先導する柩に連れられてやってきたのは、塔のような物体の頂上だ。
そこでは……。
「おや、無事に合流出来たみたいですね」
蔵乃祐たちBチームが待機していた。
回復可能なダメージ分を復旧し、戦闘不能になった味方を撤退させつつ合流を待っていたのだ。
優や晶は玲を手伝って回復を急ぎ、戦力を素早く立て直す。
「これで戦力は10人以上。援軍を牽制していたチームとも合流すればもっと増えるだろう」
「まだ、全軍撤退するような状態じゃない……ってわけだね」
かくして再編成を終えたBCチームは塔の更に先。壁画の描かれた巨大なホールへと到達した。
海に沈んだ都市が一面に描かれた、少し不気味な部屋である。
その中央で、ランキングマンは待っていた。
「第五の言葉、撤退せよ。戦うことはない」
「今更臆病風に吹かれましたか?」
刀を抜き、矧は刀身に炎を纏わせた。
「貴方達が命を弄んだ者達の怒り、その身に刻み込んであげましょう」
「…………」
ランキングマンは石版に触れた。
「『争いの種は尽きることなく』」
虚空から無数の刀が現われ、地面へ次々と刺さっていく。
その全てが圧倒的殺意に満ちていることを、矧は本能で察した。
「刃渡さん。本数は圧倒的のようですけれど?」
「使いこなせなければ意味はありませんよ」
それぞれふたふりの刀を抜く刀とビハインド。
更には足下から影業の刀を生み出し、その全てを一切の隙無く構えた。
「あわせ五刀流――参ります!」
同時突撃。
「その意図、裏切ってみせましょう」
直前で刀術を神霊剣に切り替えた矧が、ランキングマンの防御壁を打ち砕いた。
踏み込む刀。無意識下のレベルで完全連携した五つの刃がランキングマンへと襲いかかる。
むろんそれだけでは無い。
彼らと連携した宗嗣や舞たちが死角からランキングマンを八つ裂きにしていく。
「その程度で死んでくれないのは百も承知」
「そして反撃が来ることもだ」
優と晶がシールドリングとラビリンスアーマーをそれぞれ展開。
矧たちに襲いかかる刀を弾きにかかる。
刀を背後から襲った日本刀を、村正千鳥が高速反転によって受け止める。
間を縫うように追撃をはかる海里と仮面のビハインド。
そうして開いた道を、柩がまっすぐに突撃していく。
「せいぜい楽しませて貰うとしようか」
「『強者は首を落とされる』」
石版をなぞるランキングマン。ひときわ強力な刀がひとりでに柩を襲うが、割り込んだ廓や櫟が身を犠牲にして柩を守った。
くぐり抜ける柩。
彼女に続き、たちまちに連携する蔵乃祐、緑、ハイナの三人。
妨害を次々にはねのけ、ランキングマンの逃げ道を塞いでいく。
悠の打ち込んだ雲耀剣が少しだけランキングマンの剣を鈍らせる。
僅かな隙間だ。しかしその僅かな隙間に、柩の剣は深々と突き刺さった。
「第六の言葉、誇示せよ。汝らは我が臓物を切り裂いた」
勝利。
では、ない。
ランキングマンの指が、いま再び石版をなぞった。
「『伝説は我が手にあり』」
虚空を破り、剣が現われた。
伝説に語られるような恐ろしい殺意を秘めた剣だ。
別の場所からは何百人の生き血をすすったであろう妖刀が。
別の場所からは国を滅ぼした毒針が。
ハサミが、十字架が、蝋燭が、ベルトが、道路標識が、あらゆる伝説級の殺人者が持つ武器たちが現われ、ランキングマンに従った。
もはや形容できぬ地獄絵図である。
切り裂く。叩きつぶす。焼き払う。砕く。縛る。溶かす。吊るす。沈める。古今東西ありとあらゆる殺人が行なわれた。
序列をもつ六六六人衆でさえも灼滅できてしまうほどの戦力が、あっとういうまに削り取られていった。
しかし。
「まだだ、まだ彼らがいます!」
誰がそう言ったのだろう。
少なくとも皆が、同じことを思ったはずだ。
希望のような足音をたて、駆けつける五つの影を、想ったはずだ。
「ラストダンスと参りましょうか」
左拳右掌の包拳礼を作り、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が微笑んだ。
微笑みは音を超え、殺人の限りを尽くすランキングマンの正面も正面。胸の間に手のひらを押し当てていた。
気が雷となり、ランキングマンをのけぞらせる。
手の中にいつの間にか生まれていた八卦妖槍が、身体のバネのみでランキングマンの胸を貫き、踏み台にして飛び上がった紗里亜は手の中に八卦方棍を海だし、強烈な打撃を浴びせた。
常人であれば最低でも三回は死んでいるような美しい連撃である。
だというのに、連撃は更に続く。
繰り出された悪魔の手のような縛霊手が、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)の妖しい縛霊手によって止められる。
「一気呵成に畳みかけるといたしましょう」
鬼の手のような、恐ろしい爪をもった縛霊手だ。それを巻き込むかのように腕を異形化。皆無は恐ろしいパワーでランキングマンを殴り飛ばした。
否、腕だけに留まらない。皆無は鬼そのものと見まがうような姿となり、超高速でランキングマンへと追いついていく。追い越していく。ターンをかけ、鬼の結界をはり、胸に燃える魂を削り取った炎を握り、ランキングマンへと叩き付けた。
全力も全力。
常人どころかダークネスですら消し飛んでしまうような連続攻撃だ。
いわくのついたライフルが虚空よりあらわれ、皆無を狙う。
それも一丁ではない。何十丁というライフルが一斉にだ。
だがしかし。
「プリューヌ、絶対防衛だ!」
クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)が専用の盾『不死贄』からシールドを展開。
続いてアタッチメントを展開。翼のようにボウガン形態へと変形させると、シールドをより大きく広げさせた。
一発一発が時代を終わらせるほどの力を持ったライフル弾幕が皆無とプリューヌを襲う。体力がみるみる削れ、力尽きたプリューヌが消滅する。
だがそれでも耐えしのいだクレンドに、ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(夢途・d36355)のダイダロスベルトが巻き付いた。
「さてさて、もうひとがんばりしようじゃないか」
虚空から現われた処刑斧が振りかざされる。
首どころか人間を縦に切断できるほどの巨大な斧だ。
斧の力がランキングマンに流れ込み、防御壁をより硬く厚く変えていく。
それをロードゼンヘンドは、自らの交通標識を叩き付けることで無理矢理粉砕した。
どこか楽しげに、そして不敵に笑うロードゼンヘンド。
「チャンスだよ。よおく狙って」
「言われんでも、狙っとるよ」
破壊された壁を縫うように、コールドファイアがすり抜けていく。
野球の投球のように美しくそして力強く、カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368)が放ったものである。
ランキングマンが『冷たい炎』に包まれていく。
勿論そこでやめるカルムではない。
素早く接近し、バベルブレイカーを叩き付ける。
「そぉれ!」
杭が放たれ、ランキングマンを貫いた。
華麗な連係プレイだ。
さしものランキングマンとて、ここまでの猛攻を受けて平気ではいられなかったようだ。
いや、彼らだけの猛攻ではない。
織久や瑠希、ベリザリオに白焔、雛、玉、百々、志歩乃、朔耶にヴォルフに明日等。ランキングマンがどこかへ逃れてしまわぬよう、味方が集まるまでの時間を稼いだAチームプラスアルファの面々。
宗嗣、舞、櫟、廓、ハイナ、縁、蔵乃祐、柩、悠に玲、優と晶、そして刀と矧。
散り散りになったメンバーを再編し、ランキングマンへ果敢に挑んだBC合同チーム。
そして彼らの元へ全員無事に駆けつけた、紗里亜、クレンド、皆無、カルム、ロードゼンヘンドのDチーム。
その全ての力が積み重なり、ランキングマンを折ったのだ。
「ぐ……」
血を吐き、数歩後じさりするランキングマン。
しかしすぐに血は消え、石版に手をやった。
「最後の言葉……汝らを称えよう。ここより去れ。決して追うことは無い」
カルムは周囲に目をやった。
既にメンバーの大多数が戦闘不能。撤退条件にあったラインを切っている。
「潮時のようやなあ」
「本当に追撃しないのかな?」
カルムとロードゼンヘンドは警戒を解くこと無く、戦闘不能になった仲間から優先して撤退を始めた。
ちらりと笑顔で振り返るロードゼンヘンド。
「ボクらを逃がしたこと、きっと後悔するよ。それまで、待ってるといい」
戦場から撤退する灼滅者たち。
ランキングマンはただその背を見つめるのみで、追っ手をかけることはしなかった。
どのみち手勢をけしかけようにも、退路を完璧に構築していた灼滅者たちを足止めすることすら叶わなかっただろう。
対ランキングマン決戦。
仲間たちの襲撃により『十の戒め』を突破することはできたが、ランキングマン攻略に十分なダメージを与えることはできなかった。
残った力によって精鋭チームの灼滅者たちは分断されてしまったが、それぞれの工夫と努力でランキングマンに痛手を与えることができた。
しかし灼滅には至らず、撤退することとなった。
だが牙や心が折れたわけではない。
彼らは再び結集し、いつか必ずランキングマンを打ち倒す力となるだろう。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年9月15日
難度:やや難
参加:30人
結果:失敗…
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得票:格好よかった 15/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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