にゃんこ世界征服

    作者:飛翔優

    ●教室にて
    「ラジオウェーブのラジオ放送が確認されました。このままではラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説の影響で、ラジオ放送と同様の事件が発生してしまうでしょう」
     教室に集まった灼滅者たちを前に、倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)はそう前置きし説明を開始した。
    「放送内容は、以下のようなものでした」

     ――あくのそしきにゃんこだん。
     月のきれいな夜。
     猫の鳴き声がする。
     一匹や二匹どころではなく、十匹以上。
     街を歩いていた青年は、その鳴き声が気になり路地裏へと入り込んでいた。
    「この先は確か袋小路だったかな。それにしても、一体何が……」
     首を傾げながら進む先、三方向がブロック塀に囲まれている袋小路。
     両手の指では数え切れぬほどの猫たちが、まるで会議でも行っているかのように円状に並んでいた。
    「さて、進捗はどんな感じにゃ?」
    「イマイチにゃ。煮干しが足りないにゃ。あ、違った、まだまだ材料が足りないにゃ」
    「煮干しもにゃ。違った資金もにゃ。このままでは世界征服など程遠いにゃ」
     電信柱の影から青年が見つめる中、物騒なことを話し合っている猫の群れ。
     どうすべきかと青年が小さく唸った時、鋭き双眸が一斉に見開かれた。
    「なんにゃ、今のは」
    「誰かいるのかにゃ」
    「ちょうどいいにゃ。世界征服の礎になってもらうのにゃ」
     青年が隠れている電信柱へと視線は向けられていく。
     鳥肌を立てながら、青年は恐る恐る顔を出し……。
    「え……」
     目の前には、鋭い爪が……。

    「……これが、都市伝説の大まかな内容になります」
    「……これが、都市伝説の大まかな内容になります」
     幸い、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査によって、都市伝説を発生させるラジオを突き止め、そのラジオ電波の影響によって都市伝説が発生する前に情報を得ることができるようになった。
     葉月は地図を広げ、街中の裏路地に丸をつけていく。
    「都市伝説の舞台となっているのはこの裏路地の袋小路。月の出ている時間帯に、都市伝説は出現します」
     そのため、その袋小路に乗り込んでいって、戦うという流れになる。
     姿は猫。総数20体で、個々の力量は低いが数で押してくるタイプ。また、攻撃の威力そのものは高いため油断すると危ない。
     用いてくるサイキックは3種。
     相手を何度もひっかく。
     噛みつき加護を砕く。
     可愛らしい鳴き声で攻撃を鈍らせる。
    「それから……どうも、煮干しにこだわっている節もありますので、持っていけば何か有利に働くかもしれませんね」
     最後になりますが……と、葉月は説明を続けていく。
    「この情報は、ラジオ放送の情報から類推される能力になります。可能性は低いのですが、予測を上回る能力を持つ可能性があるため、その点は気をつけて下さい。説明は以上となります」
     葉月は地図など必要なものを手渡し、締めくくった。
    「一匹一匹は可愛らしく、集まっても可愛らしい……ですが、その爪や牙が命を奪うようなことがあってはなりません。どうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    ミリア・シェルテッド(キジトラ猫・d01735)
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    ペペタン・メユパール(悠遠帰郷・d23797)
    田中・ミーナ(高校生人狼・d36715)
     

    ■リプレイ

    ●世界征服にゃんこだん
     まんまるお月さまとお星さまが空を満たし、世界を見守ってくれている夜のこと。街の裏路地前で待機していた灼滅者たちのもとに、箒に乗って偵察を行っていたヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)が戻って来た。
     ヴィントミューレは地面に着地するとともに裏路地へと視線を向けていく。
    「大体の地形は把握したわ。残念ながら付近に高いビルはなかったけど、立入禁止の看板も設置してきたし、問題なく戦うことができると思うわよ」
    「それじゃあ行こうか。猫たちのソウルに熱いビートを刻むため!」
     さっそうとファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)が歩き出す。
     残る灼滅者たちも彼を追いかけた。
     裏路地は街灯に乏しく、数歩進むたびに体が暗闇に抱かれる。
     臆することなく進んでいけば、猫の鳴き声に似た声がかすかに聞こえてきた。
     都市伝説・あくのそしきにゃんこだんだと断定し、灼滅者たちは歩調を速めて声の方角へと近づいていく。
     ――さて、進捗はどんな感じにゃ?
     ――イマイチにゃ。煮干しが足りないにゃ。あ、違った、まだまだ材料が足りないにゃ。
     ――煮干しもにゃ。違った資金もにゃ。このままでは世界征服など程遠いにゃ。
     可愛らしい声を聞きながら進んだ果て、淡い街灯が照らしている袋小路。
     円を描くようにして、二十匹の猫たちが人間の言葉で語り合っている様が見えた。
     灼滅者たちが立ち止まる中、ダンボールを被った状態で進んでいたミリア・シェルテッド(キジトラ猫・d01735)は、可能な限り足音を立てないようにしながら猫たちへと近づいていく。
     もぞもぞと動くダンボールに気づく様子を見せた猫もいたけれど、気のせいと思われたかすぐに視線をそらされ……。
    「ん? 待つにゃ、この匂い……」
    「煮干しにゃ! 煮干しがやってきたニャ!」
     1匹の猫が振り向くと共に、残る猫たちも一斉にダンボールに視線を向けてきた。
     ミリアは肩をビクつかせながらも顔を出していく。
    「えと、まずは煮干しと……それから、それから……」
     煮干しの小袋を取り出して猫たちの眼前に差し出した。
     猫たちの視線が釘付けになっている内に荷物を漁り、猫用のおもちゃとカリカリを引っ張り出していく。
     前触れもなく、1匹の猫が煮干しの袋に飛びついてきた。
    「あっ」
     かと思えば次々と猫が煮干しの袋に殺到し、袋を引き裂き中身を食べ始めていく。
    「うまいにゃー」
    「やっぱ煮干しだにゃー」
    「にゃー、にゃー」
     幸せそうに煮干しを食し、喉を鳴らしていく猫の群れ。
     中には笑顔を浮かべたまま寝転がっていくものもいた。
     ミリアは思う。
     世界を狙っていると聞くけれど……武闘派にならなくても、可愛さで征服できる気もすると。
     もっとも、輪に割り込めず煮干しにありつけなかった猫もいる。
     その表情は非常に険しいものだったけど……田中・ミーナ(高校生人狼・d36715)が近づいた時、軟化した。
    「煮干しですよー!」
     ミーナは袋に入れた煮干しを放り投げる。
     ありつけなかった猫たちがその煮干しへと殺到した。
     夢中で食べているさまを前にして、ミーナは小首を傾げていく。
    「煮干しを食べている姿は可愛いのですけど……」
     彼らは都市伝説。
     人に害をなす可能性のある者たちなのだから。
     今もそう。我に返った1匹の三毛が、灼滅者たちへと向き直り威嚇し始めてきたように……。

    ●煮干し大好きにゃんこだん
     煮干しの影響は、決して長くは続かない。
     けれど個人差……個猫差があるのか、我に返る猫と返らない猫がいた。
     我に返った猫には魂のソウルを叩き込むと、ファルケはギターを掻き鳴らす!
    「世の中煮干しだけじゃねぇ、熱いビートを刻むのもまた一興。遠慮はいらねぇ、心逝くまで俺の歌を聴けええっ!」
     マテリアルロッドをマイク代わりに振り回し、全力の歌声を叩きつける。
     三毛が毛を逆立てた。
     ペルシャがファルケだけを威嚇し始めた。
     心なしか街灯も揺れている。
     風に運ばれた葉も旋風に煽られたかのように踊っている。
     地響きさえも鳴り始めた。
     魂はある、熱は溢れんほど、されど音程をリズムを遥か彼方に置き去りにし、ファルケは歌声を響かせた。
     たとえリズムが狂っていても、音程が明後日の方向を向いていたとしても、内包されている力に違いはない。
     加護を受け取り、ペペタン・メユパール(悠遠帰郷・d23797)は威嚇している三毛の懐へと入り込む。
    「まずはこの子を!」
     炎に染めた大きな十字架を突き出した。
     背中を軽く掠めたなら、三毛の体が炎上し始める。
     熱さも痛みも物ともせず、三毛は爪を立てミーナへと襲いかかってきた。
     大きな十字架を横に構えて受け止めるも、爪の掠めた指先は焼けるような熱を放ってくる。
     すかさず、ミリアがミーナに符を投げる。
     指先の傷跡を塞いでいく。
    「あの、その……治療、頑張り、ます」
    「ありがとうございます。私も皆を守ります!」
     頷き、ミーナは猫たちへと向き直る。
     視線の先、ヴィントミューレの放つビームが三毛の体を貫いた。
    「……1匹目」
     体を貫かれた三毛猫は地面に伏せ、光の粒子と化して消滅していく。
     仲間の消失に気づいたか、我に返る猫がいた。
     変わらず煮干しに夢中な猫もいた。
     ……いずれにせよ、猫たちは連携が取れず、数の優位を活かせていない。
     灼滅者たちは様々な感情を抱きながら、散発的に襲い掛かってくる猫たちを次々と撃破していった……。

     大きな十字架で黒の牙を受け止めながら、ミーナは思う。
     本当は猫さんたちをモフりたい。
     かわいい猫さんたちを灼滅するのは心苦しい。
     でも……。
    「……一般人の方に被害が出ないうちにどうにかしないといけないんです、だから……!」
     迷いを振り切り、噛み付いてきた黒を押し返す。
     しなやかに地面へと着地していく黒を追いかけるかのように帯を放った。
     頭を強かに打ち据えられた黒は、小さな鳴き声を漏らした後に光の粒子と化していく。
     残る猫は、ぶちと白と虎とシャム。
     うち、シャムは煮干しを求めていたときと同じ笑顔のままにミリアのもとへと向かっていた。
     ミリアが体をビクつかせていく中、シャムは丁寧にダンボールを破き煮干しの袋に前足を伸ばしていく。
    「あっ、そっちは野良猫さんのおやつです、こっちのカリカリで我慢して下さいっ」
     すかさずカリカリを提供しつつ、符を投げた。
     受け取り、ミーナは駆け寄ってくるぶちへと向き直る。
    「……煮干し食べてる姿は可愛かったですよ」
     寂しげに目を細めながら獣の爪を立て、切り上げた。
     虚空に抱かれるようにして、ぶちは夜空に溶けていく。
     さなかにもファルケは虎の懐へと入り込んでいた。
    「歌エネルギーチャージ完了!」
     マイク代わりのマテリアルロッドをくるりと回し、魔力を魂を込めて叩きつけた!
    「刻み込め、魂のビートっ! どうせ吐くなら魂の叫びを吐きな? これが俺のサウンドフォースブレイクだぜっ」
     魂を爆発させ、虎を光に変えていく。
     ヴィントミューレの光線も白を貫いた。
    「後はシャムだけ、ね」
     視線を向ければ、ようやく我に帰ったらしく灼滅者たちから距離を取っていくシャムの姿。
     立ち止まるとともに瞳を見開き、キョロキョロと周囲を見回し始めていく。
    「にゃ……ま、まさか、全……滅……にゃ……?」
    「……ええ、後はあなただけ」
     告げながら、ヴィントミューレは歩み寄る。
     手元に光を集めながら。
     ミーナがいつでも割り込めるように身構えていくのを感じながら、ファルケの歌声を意識の外に起きながら、ミリアの託すような視線を感じながら。
     仲間を失ったシャムを、送るため――。
    「あなた達の主張はよくわかったわ、なので戯れはこの位にしましょう」
    「そ、そんにゃ……」
    「今こそ、これまでの行動に捌きを下すとき。うけなさい、これがあなたに対する洗礼の光よっ」
     ――眩い光条で、シャムを抱いた。
     それきり、猫の鳴き声は聞こえず……。

    ●世界征服潰えたり
    「よし、終わり!」
     猫達の消滅を確認し、ファルケが最後のギターの音色を響かせた。
     余韻が天高く響く中、流れるように武装を解いていく。
     一方、ミリアはダンボールの穴を塞ぎながら安堵の息を吐き出していた。
    「何とか残りました……良かったです……」
     煮干しの袋を数えているのだろう音が聞こえてくる。
     ミーナは静かな笑みを浮かべながら、目を伏せた。
    「本当はモフったり遊んだりしたかったのですが、仕方ないですよね……」
    「……」
     頷くことはせず、ただ、ヴィントミューレは呟いた。
    「せめて逢瀬では好物に囲まれているといいわね。天界に幸、多からんことを」
     例えば、そう。
     彼らが煮干しに夢中になっていた時のように……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年9月21日
    難度:普通
    参加:5人
    結果:成功!
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