無限婦人が武人をいざなう

    作者:雪神あゆた

     澄み渡る秋の空気。風が吹き、周辺の木々が音を立てる。
     茨城県の山間部にある開けた空間。
     雑草が茂るそこに、褐色の肌の男が天を仰ぐようにして立っていた。アンブレイカブル・アタワルパだ。
     不意に。
    「やっと見つけたわ。久しぶりね、アタワルパ」
     と女の声。
     黒いドレスの女が木々の合間から姿を現す。
     銀髪、その髪に飾られた青い薔薇。血を思わせる赤い目。女、『無限婦人』エリザベートは音もたてずに歩き、アタワルパへ近づいた。
    「何用か、エリザベート」
    「貴方を誘いに。私達の所においでなさいな」
     端的に問うアタワルパに、エリザベートも短めに答える。
     アタワルパは数秒黙る。そして、
    「俺は灼滅者と戦いたい。我が師ジークフリートや建御雷大老を倒した彼らと」
    「なら――」
    「だが、その為には本気の灼滅者と戦う戦場が必要だ。俺には既にそれを作る力がない。エリザベートよ、貴様らの勢力は、その戦場を作ることができるか?」
    「勿論よ、灼滅者との決戦は近いわ」
     穏やかに微笑むエリザベート。手をアタワルパへ差し出す。
     アタワルパはエリザベートの手を取った。爵位級ヴァンパイア陣営に加わるために。

     教室で。
     姫子は灼滅者に一礼、口を開く。
    「グラン・ギニョール戦争、お疲れ様でした。皆さんの尽力に感謝を。
     さて。大事なお知らせがあります。
     戦争の結果、撤退したアタワルパの居場所が判明しました。
     アタワルパは、茨城県の山間部に転移させられたようです。が、アタワルパに、吸血鬼の重鎮の一人、『無限婦人』エリザベートが接触しようとしています。
     今から急ぎ現場に向かえば、『無限婦人』エリザベートと接触した直後に、アタワルパに戦いを挑めるでしょう」
     アタワルパに戦闘を挑めば、アタワルパは『灼滅者を倒してから合流する』と約束しエリザベートを撤退させる。
     エリザベートも、一人で戦うというアンブレイカブルを下手に援護するのは愚策と考え、戦場から離脱するようだ。
    「アタワルパは強敵ですが、皆さん全員が力を合わせれば、勝てない敵ではありません。アタワルパに挑み、灼滅してください」

     アタワルパとエリザベートがいるのは、茨城県山間部にある開けた空間。灼滅者は、山道の一つからそこに着くことになる。
     この場所は周りを木々に囲まれているが、灼滅者とダークネスが戦うだけの十分な広さがある。
     アタワルパは、戦闘ではクラッシャーの位置に立つ。
     気魄を得意とし、手にした剣で、無敵斬艦刀やサイキックソードに相当する技を扱う。
     攻撃はいずれも高威力。侮れば一気に体力を削られるだろう。また、戦神を体に降臨させるヒールサイキックも、適切なタイミングで使おうとする。
     なお、アタワルパが撤退や逃亡をすることはない。灼滅者が逃げ出すなら、アタワルパが追撃してくることもない。

    「アタワルパは有力なダークネス。無限婦人エリザベートの誘いにのり爵位級ヴァンパイアの勢力に加わるのは、阻止せねばなりません。
     なのでこの作戦は、アタワルパの撃破が目的。
     が、エリザベートを狙うチャンスも無くはありません」
     チャンスがあると言いながら、姫子の声色は明るくはない。
    「アタワルパでなくエリザベートを狙えば、エリザベートとエリザベートを護るアタワルパの、有力なダークネス2体と戦う事になります。
     戦力的に、2体同時の撃破は不可能。なのでエリザベートを狙う場合は、エリザベートを集中攻撃し撃破、そのあと撤退する作戦になるでしょう。
     苦戦は必至ですが、エリザベートを撃破すれば、有力な爵位級ヴァンパイアを灼滅した上、アタワルパの爵位級ヴァンパイアへの合流も阻止できると思われます」
     姫子はそこで言葉を区切る。
    「アタワルパを狙うか、困難を承知でエリザベートを狙うか。判断は皆さんにお任せします。
     相談したうえで、皆で力を合わせ、悔いの残らない戦いを」


    参加者
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    色射・緋頼(色即是緋・d01617)
    蒼月・碧(碧星の残光・d01734)
    叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)
    赤威・緋世子(赤の拳・d03316)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)
    木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)
    氷上・鈴音(永訣告げる紅の刃・d04638)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    無常・拓馬(カンパニュラ・d10401)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    久我・なゆた(紅の流星・d14249)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    秦・明彦(白き狼・d33618)

    ■リプレイ


     山間部。ひやりとした空気。
     ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)と木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)達灼滅者三十人は、草の茂る開けた空間に、足を踏み入れた。
    「その勧誘、やめてもらおうか! アタワルパ&エリザベート、略してアタザベート!」
    「また会ったな無限婦人。アンブレイカブルに倣って髪を振り乱すのもたまにはどうだ」
     大真面目なルフィア。キィンは笑いつつ突っかかるように。
     二人の視線の先、中央には、ダークネス二体。吸血鬼にして『無限婦人』エリザベートとアンブレイカブル・アタワルパ。
     二体はルフィアらを見た。エリザベートの唇が動く。
     黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)と叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)は、彼女の言葉を待たず、駆ける。
     白雛はエリザベートの左側面へ。黒と白の大鎌『罪救炎鎌ブレイズメシア』を振り上げた。刃より滾る白黒の炎。
    「さぁ……断罪の時間ですの!」
     白雛は敵に切っ先を突き付ける。そして容赦なくデスサイズ。
     宗嗣はエリザベートの右へ移動。
    「一凶、披露仕る」
     小さな声。同時、腕を一閃。脇腹を抉る銀色の爪。
     白雛と宗嗣は次の攻撃の準備をしつつ、敵を観察。
    「有力な敵だけあって、体力も膨大ですのね」
    「なら、手数で圧倒するのみか」
     二人の言う通り、エリザベートにつけた傷は、致命傷には程遠い。
     なら、敵の態勢が整わない今叩くべき、とアトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)は敵正面へ。
    「たく、危険度の高い方を選ぶのか……ま、面白そうだから別に構わねーがな」
     ぼやくような言。が、アトシュの目には殺気。
    「アタワルパと殺し合うのは愉しそうだが……いや、どうせ横槍入れるんだろうから、どうでもいいか」
     アトシュは口を閉じ、聖剣たる『alba Mistilteinn』を光らせた。エリザベートの胴へ、剣を一閃。
     間髪入れず、
    「さあ、エリザベート、あの時の決着を付けよう。あの時というと……えっと、あれ!」
     ルフィアが腰に付いた玉と羽に手をやる。そして槍の先端をくいりと動かし、妖冷弾。敵の顔へ氷を投げつける。
     顔を凍らせたエリザベートをみて、キィンは笑みを濃くさせる。
    「エリちゃん……って歳じゃないよな。とにかく、オレの相手もしてもらうぜ」
     キィンはベルトを振る。レイザースラスト。
     キィンの技が細身の胴の中心を、穿つ。

     奇襲を仕掛けた灼滅者はさらに攻める。比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)は、
    「随分と迂闊だね、配下もつれず一人でなんて。キミはここで灼滅する」
     痩せた腕で『墓碑』を担ぎ上げる。
    「無限婦人エリザベート、ボクが癒しを得るための糧になってもらうとしようか」
     そして聖歌を口ずさむ柩。柩が『墓碑』から放つは一条の光線。エリザベートを凍てつかさんと一直線に飛ばす。
     柩の光を受けたエリザベートは、とん、と後ろへジャンプ。周囲に視線を走らせる。
    「逃げ道を探してる? させないわよ。エリザベート、その恐ろしさは以前、骨身に感じた。それでも、必ず務めを果たす!」
     黒のドレス姿の氷上・鈴音(永訣告げる紅の刃・d04638)は厚底のレザーブーツで走る。紫の髪を揺らし。
     そして鈴音は漆黒の槍を一閃。黒死斬。血の如く紅き刀身で、エリザベートの足へ傷を刻む。
     鈴音は仲間を見た。皆は、敵二体を囲むべく動いていた。
    「彼女の右後方があいてるわ、移動を!」
     鈴音に応じ、陣を整え二体への包囲網を完成させる仲間たち。
    「囲まれてしまいましたか」
     眉を寄せるエリザベート。

     その時。ジャラッ、と音。アタワルパの服の鎖が鳴ったのだ。
    「灼滅者よ、エリザベートを狙うか。だが、ここには俺がいる」
     巨大な剣を振り上げるアタワルパ。
     彼の前に、色射・緋頼(色即是緋・d01617)が立ちはだかった。
    「アタワルパさんですね。武蔵坂学園、色射緋頼と申します」
     自分より身長の高い相手を凛と見つめる緋頼。
     風が吹き、黒のウェーブヘアが揺れた。次の瞬間に、緋頼は切りかかる。
    「全力で行きます!」
     呼吸を止め、敵の肩めがけ、渾身の斬撃。
    「まだだおっ、アタワルパっ、ずっとこっちの番なんだおっ」
     はしゃぐような声は、マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)。マリナは満面の笑みで敵斜め前方に。足を一歩踏み出し、
    「おっおー、こいつはかなり強烈だおっ♪」
     右手に持った大振りの日本刀『無銘刀・墨染』を、フルスイング! 足へ叩きつける。
     緋頼とマリナの刃は、確かにアタワルパを捉えた。が、アタワルパは怯まない。腕を一振り、二人を払いのける。
     二人に代わって、葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)がアタワルパの前へ。
     統弥は一礼する。強敵への敬意をこめ。
     頭をあげると同時、黒い刀身の刀を持ち上げた。無敵斬艦刀『フレイムクラウン』。
     裂帛の気合とともに、刀を走らせる。刀身がアタワルパの持つ剣を弾き、脇腹を斬る。
     アタワルパが統弥を見た。
    「俺を正面から抑えるか。面白い。ならば俺も全力で応えよう。この刃、受けきれるか?!」
     アタワルパの腕と剣が消えた。
     否。
     灼滅者でも目視できぬ速さで振り抜いたのだ。
     刃が統弥の脇腹へ。赤が散り、足元の草を汚す。鉄の臭い。
     その威力に灼滅者数人が息をのむ。そこに、
    「あなたがたの前にいるのは、アタワルパだけではありませんよ? 囲みをとかぬなら、霧に溺れることになる」
     妖艶なエリザベートの声。戦場を青い毒の霧が包み込む。標的となったのは、前衛の灼滅者。
     ディフェンダーやクラッシャーの数人が毒に蝕まれ、顔を青ざめさせた。
     統弥も傷口から侵入した毒にたまらず膝をつく。
    「さすがに強い。ですが僕にも為すべきことがあります。まだ倒れる訳にはいきません!」
     統弥は刃を地面に突き立て、剣を杖代わりに立ち上がる。
     霊犬あまおとが統弥に近づき、清らかな瞳で見上げ、治癒。
     あまおとの主、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は、卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)に声をかける。
    「あまおとと私は傷の深い統弥さんの治療をします。泰孝さんは前衛の皆さんから毒を取り除いてくれますか?」
    「了解致した、羽柴嬢。即時実行致す」
     泰孝の返答を聞きつつ、陽桜は統弥の元へ。真珠色の鈴飾りついた翠のリボン『縁珠』を取り出す。ラビリンスアーマーを使い、陽桜は統弥の傷を懸命に塞ぐ。
     泰孝は包帯の下で唇を動かす。戦場に響く泰孝の声。
     泰孝が紡ぐは、七不思議の言霊。泰孝の言葉の力が毒を払ってゆく。
    「それぞれ一撃でここまで……どちらも最大限の警戒に値する……が、案ずるな!」
    「はい。皆さんが最後まで戦い抜けるよう、私達が全力で回復役を務めさせて頂きます」
     泰孝は低い声で、陽桜は目に意志をこめ、皆を激励。

     回復役の支援を受け、再び攻める灼滅者たち。
     エリザベートは攻撃を捌きつつ、
    「回復手とは厄介。霧で覆ってしまいましょう」
     片手を振った。エリザベートの前に赤みがかった霧が発生する。
     霧は後衛を襲うが、平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)と赤威・緋世子(赤の拳・d03316)、伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)、牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)がその前へ。
    「仲間の守りを任された以上、それを果たす」
     和守はライドキャリバーのヒトマルを引き連れ、堂々と宣言。
    「ええいっ、絡め手に体つき! 色んな意味でエリザベートは敵だ! 思い通りにさせるかっ」
     緋世子は小さな体ながら両手を大きく広げる。足元には霊犬ラテ。
    「その通り。策謀は俺達が打ち砕く」
    『不尽の武錬』を滾らせ、我流の構えをとる蓮太郎。
    「帰りたいけど、仕事はこなしますよ」
     けだるげな顔の麻耶。
     四人は霧を体で止める。後衛の被害を減らすために。
     霧が消滅したと同時、
    「ヒトマル、撃て!」
     和守がヒトマルに射撃を命じた。銃声。和守自身は排気音を立てつつ前進。エリザベートへ肉薄。繰り出す『AR-Type89』の刃先。
     緋世子はラテの瞳の援護を受けつつ、姿勢を低くして疾走。
    「へっ、ボディがお留守だぜってな!」
     緋世子は縛霊手をはめた拳を突き出す。脇腹を殴りつける。抉るような打撃。さらに締め上げるべく霊力の網を伸ばす!
    「畳みかける。エリザベート、お前はこの場で打ち倒す!」
     蓮太郎はエリザベートの背後に回る。
    『金剛甲』を嵌めた手で手刀を作り、敵の背に袈裟斬りの一撃。戦場に響く音。
     蓮太郎の技が、敵の防御を裂く。
     防御の弱まったエリザベートへ、麻耶がクロスグレイブの標準を合わせた。
    「ええ、倒します。嫌いなんですよ、ヴァンパイア。アンタを狙う理由なんてそれで充分でしょう?」
     言い捨てる麻耶。引き金の指を動かす。
     黙示録砲。光がエリザベートへ直撃。

     畳みかける仲間たちに、
    「気を付けて。エリザベートはまだまだ余力があるよ」
     淡々とした声で、備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)が警告。
     鎗輔は『ブックマーク・カタール』を持ち上げた。栞型の刃から風を吹かせる。霊犬・わんこすけも鎗輔の意に従い、瞳の力で仲間を癒して回る。
     鎗輔は戦場を確認。アタワルパが再び、剣を振り上げていた。エリザベートをあくまで援護するつもりか。鎗輔は話しかけた。
    「綺麗な薔薇には棘がある、てな訳で、綺麗なお姉ちゃんの棘をへし折る予定なんで、アタワルパ、今日は帰ってくれると助かるんだけど、だめ?」
     感情の読めない口調で。
    「笑止だな、灼滅者」
     アタワルパは剣を振り落とす。放つは神秘の剣技。
     アタワルパの正面には、堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)。
    「じゃ、打ち合おっか、アタワルパ!」
     朱那は攻撃をよけようとしない。
     代わりに、カラフルなステッカーサインの標識『non stop』を地と平行に。朱那は体を横に一回転。空気をブンと裂き、標識の先端で敵の胴を狙う。
     朱那の標識が敵に当たるのと、アタワルパの斬撃が朱那に当たるのは、ほぼ同時。
     朱那の膝が揺れる。が、朱那は踏みとどまり、愉快そうに、
    「さあて、シューナちゃんのしぶとさの本領発揮といこうじゃないの」
     朱那を光が照らす。久我・なゆた(紅の流星・d14249)のウイングキャット・レムが朱那へ癒しの力を放ったのだ。
     なゆたは、隣の蒼月・碧(碧星の残光・d01734)と、
    「碧ちゃん! 今日は大物相手。どーんといってやろうねっ!」
    「はい、どーんといきます。なゆた先輩と一緒で、とても心強いですよ」
     赤と黒の瞳で視線を交わす。
     碧となゆたはタイミングを合わせ、それぞれアタワルパの右と左へ。
    「武御雷大老は強かったですよ。何十人相手にしても一歩も引かなかったですしね……だから、今回も全力で行きます」
    「これが、クラブの得意技のっ……スターゲイザーッ!!」
     二人の足が、同時に地から離れる。
     空中で碧の『光陰の翼靴』が、なゆたのエアシューズが光る。碧となゆたは足を前へ。
     スピードを載せ、アタワルパの頭を左右から蹴りつける!


     命を削り合う攻防の中、
    「マジピュア・ヒーリングウェーブ!」
     響く愛らしく勇ましい、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)の声。『マジピュアコスチューム・ホワイト』の裾が揺れていた。
     ジュンはギターを掲げ光を点す。希望を思わせる暖かな輝き。ジュンの力が前衛を治療していく。
     無常・拓馬(カンパニュラ・d10401)は、ジュンの力で痛みが去るのを感じていた。
    「拓馬さんや皆で作戦立案した通り、うまく行っています。エリザベートも少しずつ消耗してきています。後は勝利まで実行し続けるだけですね」
    「勝利まで……そうだな。ヒーローらしく一つ決めに行こうか。ピュア・ホワイトは引き続き支援を」
     拓馬はジュンに応えてから、エリザベートへ向き直る。
    「爵位級。武蔵坂襲撃とは立場が逆だな」
     拓馬はバナナをモチーフにした『忌槍 天劾』の柄で地面をついた。
     エリザベートの頭上に氷の柱を召喚。柱を落下させる、エリザベートを押し潰さんと。
     エリザベートは氷を払いのけるが、その肩が凍り付く。
     彼女を睨むのは、物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)の細い目。
    「苦しいか? だが、まだまだだ。これから地獄を見てもらおうか」
     飄々と言い、唇の端をにっ、と吊り上げる。
    「一歩も動けず、削られ続けるっつー地獄を、な」
     次の瞬間には、みぞおち目掛けクロスグレイブで突く。先端をめり込ませる。
     さらに、
    「おねえさん、ゴメンね! アナタに罪無いかも……あ、ある気するね。カクゴ!」
     ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)がカクゴと声を張る。
    「とっつげーき!」
     真夏を思わせる元気いっぱいの声。
     ファムの手には、祖霊の姿が刻まれたトーテムポール。
     その端を持ち、ブンッ、振り回す。迷いも打算もない、豪快な一撃。エリザベートの後頭部を殴る。
     暦生とファムの攻撃は、エリザベートの態勢を大きく崩す。
     エリザベートは態勢を直そうとか、サイドステップで大きく跳ね、距離をとった。
     が、移動先に、天方・矜人(疾走する魂・d01499)がいた。
     矜人は金の瞳でエリザベートの挙動を冷静に観察、先回りしていたのだ。
    「前方不注意!」
     振りかざす、両刃の剣『聖鎧剣ゴルドクルセイダー』。刃が破邪の光を放った。
     頭を防御するエリザベートの腕。矜人は、その腕ごと、斬る!
    「こっから先は、今まで以上のヒーロータイムだ!」
     剣を構えなおし、叫ぶ矜人。

     灼滅者の攻撃を受け続け、エリザベートは物憂げに溜息。
    「攻防回復、全体の動きに無駄が無い。洗練された戦術ね」
    「ならば、その戦術ごと叩き潰すまで」
     二体は反撃を続行。前衛をエリザベートの霧が執拗に襲う。アタワルパの凶刃も、地を灼滅者の血で染めた。
     そんな中、後衛の城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)は戦場を駆ける。片足に蔦型の影業を巻き付けたまま。額に汗の玉を浮かべつつも、仲間の為に。
    「統弥くんは私が治すわ。朱那ちゃんのことを誰かお願いっ」
    『7th』を操り、ラビリンスアーマーを傷が深いものに施しつつ、依頼する千波耶。
     高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が千波耶に応えた。
    「任せください。すぐに癒しますから」
     兎のぬいぐるみをぎゅっと抱きながら、妃那は歌いだす。静けさを思わせるエンジェリックボイスで。妃那の声を聴く仲間の傷を即座に塞ぐ。
     千波耶や妃那、メディック陣の献身で、前衛はかろうじてだが、持ちこたえる。
    「でも……皆、治らない傷が増えているわね」
    「このままだと……いえ、私達が支えましょう。全力で」
     千波耶と妃那は小声で会話。自分たちが戦線を支えると、共に目に闘志を宿す。
    「案じゅりゅにおよばにゅ!」
     二人の声が聞こえたか、シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)が舌足らずに、が、力強く言う。
     その隣で、秦・明彦(白き狼・d33618)も、
    「向こう以上に、こっちが攻撃し続ければいい。そうだろ?」
     ごく自然に請け負った。
     彼らの視線の先で、エリザベートが手を灼滅者へ向けた。攻撃の予備動作か。
     明彦は駆ける。黒鉄の棍でエリザベートの腕を払い、朱塗りの槍を突き付ける。
    「前みたいに奇襲されても困るからなあ。ここで確実に灼滅しておくぞ、エリザベート」
     槍の先から噴き出る、大量の冷気。
     エリザベートが明彦の技に、思わず首を引いたその時、
    「油断大敵じゃの、エリザベート殿」
     シルフィーゼが逆十字を召喚。
     エリザベートが冷気に気をそらした、わずかな隙に、ギルティクロス。シルフィーゼの赤きオーラがエリザベートを、裂く。
     崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)は足元へ、
    「僕も攻撃に加わるよ。ミッキーは引き続き皆を守ってね」
     ゴールデンレトリバー姿の霊犬ミッキーは來鯉に頷き、瞳を光らせる。
    「広島のご当地としてのバット、呉のご当地としての刀剣。今回は両方を使って、全力でぶつかってゆくよ!」
     來鯉は甲冑の音を立てつつ、エリザベートをマテリアルバット 『キヌガサ』で牽制。逆の手の『大脇差 九嶺友成』を操り、敵の胴へジグザグスラッシュ!

     緻密な計算の元、灼滅者は敵の体力を削りつづける。回避する足を鈍らせ、氷を浴びせ……。
     それでも敵の攻撃はなお一発一発が必殺。灼滅者の傷も増えていった。
     統弥も腹から血を垂らしていた。が、
    「最後まで立って戦う、そう決めました」
     ヒュウ、と朱那が口笛。朱那も傷まみれで笑う。
    「あたしもソウしよう。あの時のリベンジ……までは言わないケド、倒すと決めたなら、逃がすのは嫌やしね」
     統弥は踵で地を叩く。影から触手が伸び、エリザベートの足へ絡みつく。反射的に自分の足を見るエリザベート。
    「堀瀬さん、いけますか?」
    「任せて、統弥!」
     朱那が跳躍。空中で体を捻る。『Air Rider』に炎を宿し、エリザベートの側頭部を蹴りとばす。
     膝を揺らすエリザベート。が、顔には冷たい微笑。体から毒の霧が噴き出す。
     呼吸できなくなった統弥と朱那へ、アタワルパが剣から放った、爆発が襲う。
     爆風を浴びた統弥と朱那は、なお敵へ一歩前進し――倒れた。二人ともに、前のめりで。

     灼滅者二名を倒したエリザベートは静かに告げる。
    「退くなら、この場は追いはしません」
     それを聞いたアトシュの口に、ダークネスじみた笑み。
    「面白くない提案だ。あんたを殺す、それはもう決まってる」
     麻耶は肩を竦める。
    「此方は逃げないから、其方も逃がさない。それに海に沈んだニライカナイの客分が山で果てるとは、中々楽しいじゃないですか」
     エリザベートは黙る。赤い目が光りまた霧が発生。
     霧が来るより早く、アトシュが動く。
    『ティルフィング』と『alba Mistilteinn』をそれぞれの手に、アトシュは踊りの如く回転、敵の腱を斬る。
     麻耶はエリザベートの顔へ十字架を突き付けた。零距離で黙示録砲。躊躇なき砲撃。
     二人に刺激され、他の者も武器を振るう。が、エリザベートを倒すに至らない。
     二分後には、敵の霧の中で、
    「く……ここまでか」
    「ちょっと休憩します。包囲を続けてください」
     アトシュが殺意を浮かべた目を閉じる。麻耶はこともなげに言葉を紡ぎ、沈黙。
     他の者も無傷ではない。
     白雛は、全身に傷。和守のフルアーマーは関節から煙を出している。鈴音も槍を確と構えつつも、膝が震えていた。
     三人とも耐えられるのは、あと二撃か一撃。が、三人の瞳に闘志。
    「スカーレット様、牧瀬様、承りましたの」
    「包囲と殲滅を引き続き実行する」
    「ええ。役割を全力で全うするわ」
     三人はメディックの支援を受けエリザベートの霧を耐え抜く。
    「まだ耐えるとは……」
     攻撃を放ったばかりのエリザベートに、鈴音が肉薄。
    「必ず、勤めを果たし帰還する!」
     決意を込めた言葉、そして妖冷弾。氷の塊が、エリザベートに激突。
     白雛は大鎌を振りあげる。
    「この一撃が貴女の罪を、裁く……!」
     焔を纏った刃で狙うは相手の首。首は狩れなかった。が、白雛達の攻撃に、エリザベートは額に、汗を浮かべていた。
     動揺するエリザベートへライドキャリバー・ヒトマルが突撃。
     和守はヒトマルに呼応。『ハンドボウガン』より彗星撃ち!
     しかし、アタワルパが彼らに迫る。剣が地面を叩く。爆発が発生。
     爆風の中、鈴音と白雛は昏倒。
     和守も倒れ伏す。
    「ヒトマルも俺もこれ以上は……無常、託すぞ……しくじるなよ」

     敵は灼滅者七名を倒した勢いに乗り、攻めてくる。今も、アタワルパの剣が、蓮太郎を狙おうとしていた。
    「耐えてみせる」
     蓮太郎は避けない。
    『不尽の武錬』を燃焼させ、集気法。己を癒した。
     態勢を整え、蓮太郎はアタワルパの一撃を耐え抜く。
     既に息も絶え絶え。が、戦場を支えるのは己とばかり敵前に立ちはだかる蓮太郎。
    「今のうちに攻撃を……頼む!」
     彼の意を無駄にしまいと、灼滅者はエリザベートへ殺到。
    「分かったよ。僕も行こうか」
    「根性みせてやらあ!」
     鎗輔と緋世子も治せぬ傷だらけながら、攻め手に加わる。わんこすけとラテに仲間を回復させ、自身らは特攻。
     鎗輔は『召された本の魂』を腕に宿し、閃光百烈拳。拳を、観察眼で見つけた急所へ。
     緋世子はジャンプ。敵の延髄へ全身のバネを使っての蹴り。
     確実な手ごたえを感じる鎗輔と緋世子。だが。
     アタワルパが再び剣を振り、エリザベートが霧で体力を吸う。
     蓮太郎は皆を守る構えのまま、崩れ落ちた。鎗輔と緋世子もエリザベートを見据えたまま倒れる。
    「ここまでか。でも、時間は稼げたかな。わんこすけは引き続き皆を治療してね」
    「流石強いな、アタワルパにエリザベート。ここで倒れるのが惜しいぜ」
     と言葉を残し。


     ディフェンダー陣は壊滅。クラッシャーやジャマーも大きく負傷していく。
     明彦も毒を負い吐血、
    「さすがに効くなあ。しかし、俺はお前が斃れるまで、攻撃を止めない!」
     明彦はエリザベートの腹へ、
    「俺が倒れても、想いを受け継ぐ仲間がいる。お前にはいない。それが俺とお前の差だ!」
     棍を振り抜くっ。エリザベートの体をくの字に曲げた。
     姿勢を整える彼女の背に、宗嗣が回る。
    「……」
     無言のまま、短刀の薄らと蒼に染まった刃を、首に突き付けた。飛び散る赤。悲鳴。
    「この程度で悲鳴とは、はっ、無限婦人とやらも大したことなかったわけだな」
     逃さぬため挑発する宗嗣。追撃をと腕を動かす。が、エリザベート達の反撃が早い。
     霧に包まれ、明彦が棍を握ったまま意識を失う。宗嗣もアタワルパの剣に貫かれた。宗嗣は最後に漆黒の瞳で仲間を見、目を閉じた。
     エリザベートは荒く呼吸をしつつ、倒れた者達を見下ろす。

     千波耶も倒れた仲間を見ていた。表情を引き締めなおし、傷の深い者にラビリンスアーマーを施す。
     陽桜は桜色を基調とした『はなうた』を淡く光らせ、仲間を照らした。
     ディフェンダーはもう戦えない。あまおとも霧から仲間を庇い、既に倒れた。
     それでも二人は全力で治癒に当たる。包囲網が保たれているのは、メディック五人の努力によるものでもある。
     千波耶と陽桜は皆に、
    「押しているのはこちら。今までの攻撃が、倒れた皆が稼いでくれた時間に与えたダメージがエリザベートを苦しめてるわ」
    「はい。それに、効率のいい攻撃と作戦で、エリザベートの動きを鈍らせていますし、体力も着実に削れています」
     戦況を支え見続けてきた故の、説得力ある言葉。
    「勝てるわ」
    「必ず勝ちましょう、誰も欠けること無く皆で帰りましょう!」
     千波耶も陽桜も己の言を実現させるべく、さらに力を振るう。二人の言葉に、
    「その言やよしじゃ」
    「なら、勝つとしようか」
    「託されたしな。タイミングもいい……突撃しよう」
     シルフィーゼが、柩が、拓馬が、それぞれの面持ちで頷く。
     先陣を切ったのは、シルフィーゼ。右へ跳び左へ跳ぶ。ふわりとしたスカートが揺れる。
     フットワークで敵を翻弄し、横凪の斬撃。エリザベートの肌にできる一文字の傷。
    「休ませてはならにゅ、続けよ」
     シルフィーゼが言い終わらぬうち、柩は『水晶片』を振りかぶっていた。エリザベートは剣に対処しようと手を動かすが、『水晶片』はフェイク。
    「甘いね、エリザベート」
     柩は本命の神薙刃を発動。エリザベートの肩から体液を散らす。
     拓馬の前にはアタワルパが立ちはだかるが、拓馬はあくまで冷静。膝を曲げ跳躍、アタワルパを越えエリザベートの正面へ。
     着地と同時、『法杖 壊理』を無限夫人の脳天へ。フォースブレイク。
    「ぐっ……」
     呻き目を見開くエリザベート。それでも、エリザベートは周囲に濃霧を発生させる。奪われる拓馬たちの体力。
     さらに追ってきたアタワルパが剣を振るった。
     シルフィーゼが斬られて倒れる。一分後には、柩が毒霧に沈んだ。拓馬もまたアタワルパの剣に流血、地に転がる。
    「後少し……任せた」
     拓馬の呟き。

     矜人は倒れた者に頷き、
    「エリザベートに聞きたいこともあったが、今は――」
     倒すことに集中しなければ、と矜人は背骨を模した『タクティカル・スパイン』を両手に持ち替え、
    「スカル・ブランディング!!」
     絶叫。渾身の力で突く。力と魔力でエリザベートを吹き飛ばす。
     エリザベートは髪を乱し、着地。
     暦生とファムがエリザベートに迫る。
    「地獄は存分に味わったか、エリザベート?」
    「おねえさんもアタワルパさんもやっぱり強いね! さぁ、ココから勝負のイチバン! だね!」
     ゆるやかな暦生の声と、ファムのそこぬけに明るい声。
     暦生は腕を伸ばす。
    「ここが、お前の死に場所だ」
     陽光を受け輝く刃を一振り二振り、三振り。ジグザグに裂く!
    「アタシもゼンリョクでいく!」
     態勢の崩れたエリザベートへ、ファムが斧を一閃。竜骨斬。命ごと断たんとばかり放つ斧。
     エリザベートは片膝をつく。悔しげに呟く。
    「なんということ。このままでは……なんということ……」
     アタワルパは静かに問う。
    「エリザベート、諦めるのか?」
    「……いいえ。あがきましょう」
    「心得た」
     エリザベートの返答を聞き、アタワルパが駆ける。剣が矜人の体を貫いた。矜人は剣を掴み、引き抜き、反撃しようとするが、限界。崩れる。
     エリザベートも立ち上がっていた。なりふり構わない表情で、霧で暦生やファムを包み込み、力を吸い取る。次の一分後には、毒の霧が二人を蝕んだ。
     暦生やファムは武器を振りながら――倒れる。

     ルフィアもまた毒を浴び、咳込む。
    「エリアル嬢、待たれよ。すぐに施術する故」
     泰孝が声をかける。ベルトを操り、ルフィアの傷を癒す。泰孝は視線を動かした。
    「……っ、エリアル嬢、警戒されよ」
    「すごい勢いだな。かけっこも得意とは恐れ入った」
     警告を発する泰孝に、分かったと頷くルフィア。アタワルパがルフィアへ駆けてきていたのだ。
     数秒後にはアタワルパの剣がルフィアを裂く。
     が、泰孝の加護もあり、ルフィアはその一撃を耐えきった。ルフィアは走る。アタワルパの横を抜け、エリザベートへ接近。
     チェーンソーで殲術執刀法! 急所を刻む。
     エリザベートは両手でルフィアを突き飛ばす。霧を操ろうとするが、そうはさせないと碧が仕掛ける。
     碧は『降魔の光刃』から光刃放出。エリザベートを刃で刺す。
    「なゆた先輩、今ですっ!」
    「了解だよ――エリザベート、これが、私のせいいっぱい。受けろぉぉぉっ!」
     なゆたは足に、腹に、腕に、全身に力を籠め、日本刀を振り落とす。斬!

     なゆたのレムがリングを光らせている。來鯉のミッキーも瞳の力を発揮し灼滅者の傷を癒していた。來鯉は二体に目で礼をしてから、
    「皆傷だらけだ……有力ダークネスはやっぱり強い……だけど」
     そして來鯉は叫ぶ。
    「少しでも誰かの笑顔が失われるのを防ぐ為に! 絶対に諦めてたまるかぁっ!」
     來鯉はマテリアルバット 『キヌガサ』を、アタワルパの剣にぶつける。返す刀で來鯉は、エリザベートを殴打。
     エリザベートは仰向けに倒れる。が、ゆらり立ち上がった。
     緋頼は高らかに宣言。
    「最後まで自らの役割を果たします。エリザベートさん、いきます!」
     そして緋頼が跳ぶ。立ち上がったばかりのエリザベートの顔を、輝く蹴りで強襲。スターゲイザーだ!
    「がはっ」
     エリザベートの目は、もはや焦点が合っていない。それでも、エリザベートは手を伸ばしてくる。緋頼の蹴り足を掴んだ。
    「霧を浴びせ――」
     力を行使しようとするエリザベート。その足元で、黒い兎が、跳ねた。それは、妃那の影業。
    「無限婦人エリザベート、あなたが手に届くところに出てきたこの機会を、逃すわけにはいきません」
     妃那は回復は今は効果が少ないと判断、攻撃に出たのだ。
    「此処で灼滅させてもらいます!」
     妃那は兎型の影業を操り、エリザベートを縛る。たまらず緋頼から手を離すエリザベート。
     ジュンは周囲を警戒。
    「分身や仕掛けはなさそうですね……なら」
     エリザベートに視線を戻し、勝負を決める為、ジュンは攻撃を決意。
    「マジピュア・ハードビート!」
     くるりくるくる回転し、決めポーズ。ジュンは激しい音波を飛ばす。音波がエリザベートに直撃。無限婦人をうつ伏せに倒れさせる。
    「まだ……ですよ、灼滅者ァ」
     エリザベートは地面に手をつき、顔を上げる。目は今まで以上に、紅い。
    「今から逆転の一手を――」
     這いつくばったまま力を行使しようとするエリザベート。
     彼女に駆け寄るのは、マリナ。アタワルパが阻止せんと、マリナを切る。肩から大量の血。血塗れのマリナは吠える。
    「それがどうしたおっ!」
     マリナは止まらない。アタワルパを強引に迂回。うつ伏せになったエリザベートに近づき、背へジグザグスラッシュ。
     悲鳴を上げるエリザベートの額へ、キィンはガトリングガンの銃口を向けた。撃つ。撃つ。さらに撃つ。弾丸を容赦なく連射。
     悲鳴が止まる。エリザベートの目から光が完全に消え――エリザベートは消滅。
    「エリザベート」
     キィンの口から小さな声。

     他の者も自分たちの勝利を確認。
     なゆたは、
    「爵位級、ここに……討ち取ったり、だぁっ!!」
     倒れた仲間にも聞こえるように、鬨の声。
     アタワルパは灼滅者に剣先を向け続けている。この場にいるなら斬るとばかりに。
     灼滅者は倒れた仲間に駆け寄る。半数を超える人数が戦闘不能。うち、統弥、朱那、明彦、宗嗣は重傷。彼らの体を担ぎながら、灼滅者は撤退を準備。
    「次、邪魔無しで全力でやりませんか?」
    「アタワルパよ、戦いたくば学園に来い。相手をしよう」
    「武蔵坂は挑戦者をいつでも待っていますよ……他の勢力を頼らずに、自らの拳でかかってきてくださいね」
     緋頼、ルフィア、碧は去り際、アタワルパへ声をかける。
     アタワルパは無言。ただ、エリザベートの倒れた場所で、構え続けている。
     灼滅者は倒れた仲間を連れ、山道を駆け下りる。
     極めて困難な状況の中、緻密な作戦と死力を尽くし、爵位級の吸血鬼を討ったという大きな戦果を胸に。
     木々の間から澄んだ風が灼滅者の肌へ吹いた。

    作者:雪神あゆた 重傷:叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779) 堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561) 葦原・統弥(黒曜の刃・d21438) 秦・明彦(白き狼・d33618) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年10月13日
    難度:普通
    参加:30人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 28/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ