このままずっと、ずっと、歩いていったら――僕らは、どこへ辿り着くのだろう。
東北の山深くにある、人々から忘れ去られた廃線。
誰も訪れなくなって久しいその路に、今年もまた鮮やかな彩が降り積もる。
まあるい煉瓦のトンネルを抜ければ、視界いっぱいに広がる秋模様。
足許から伸びる軌道の先は見えないけれど、ひらひらと舞う紅葉に誘われるままなぞるように辿ってゆけば、心惹かれる名もなき駅が見つかるはずだ。
秋空の薄い青が隠れるほどの、紅葉のアーチ。
森のあちらこちらに点在する池は、ターコイズブルーとヴァーミリオンの織りなす水鏡。
柔らかな小川のせせらぎ。秋色カーテンの奥にある壮大な滝。もみじの大樹の下でお弁当を食べたり、そよぐ風に触れながら天然の足湯に浸かるのも良いだろう。
刻に取り残された線路。
だからこそ、途中下車する場所も自由だ。
「昔、母さんから教えてもらったとっておきの場所なんだ」
言いながら、多智花・叶(風の翼・dn0150)は柔く視線を落とした。懐かしむように掌に包んだ愛用の一眼レフを指先で撫でると、顔を上げてからりと笑う。
「良ければ、一緒に行ってみねーか?」
いくつも伸びる、線路の枝葉。
辿り着いた先が、そう――あなたの終着駅。
●黄金のひだまり
壱の隣で、生き生きとしたきなこの様にみをきが笑う。
あまり好きではなかった季節も、今はとても愉しい。秋色は壱先輩に似ていますしね。そう零せば、自分の髪についた紅葉を抓んだ壱が愉しげに笑う。
「今日はみをきも秋色だね、お揃い」
「これでもっとお揃いです」
倖せ色のお揃いに、頬緩ませながら紅を差し出して。指触れながら、互いの髪を秋色で飾る。
見合って笑って見上げた先には、薄水色の空。視線を落とした先には、秋の彩。それに溶け込む、茶虎の尻尾。
気ままなその歩みが止まったところで、みをき特製のお弁当を食べるとしようか。
落ち葉の揺蕩う湯へとそろり浸けた脚に、じんわりと温もりが染む。帰還と無事を祝いながら、今が日方の安らぎになればと烏芥は願う。
「……此の葉、日方君みたいですね」
「ありがとな」
瞬いた後の、照れ笑い。少し思案し、口を開く。
「俺はさ、この景色が烏芥みたいだなって思ったぜ」
人知れず在り、けれど暖かく出迎え包んでくれる。友達でいてくれてありがとな、と添えられつい瞠目してしまったけれど。何よりもあたたかで不思議な色へと染まったその言葉に、ありがとう、と烏芥の口元も自然と緩む。
昼食へと呼ぶ揺篭の声。「とっておきのおやつ」に喜ぶ日方は、きっと照れ隠し。
紅を愉しみながら語る、近い将来。フィニクスの皆を放っておけぬと真摯な眼差しで語る勇弥へ、さくらえも師匠の店という敷かれた線路を歩くか否か悩みを口にする。
「まぁ、卒業してもとりさんの珈琲や料理たかるのは変わらないんだけどねぇ」
「こっちも大事な常連を逃がしてたまるか」
けらりとした笑みには、冗談めかした笑顔で返し、休憩がてらの昼食の提案には軽く頷く。
秋鮭マヨのサンドイッチに、茸のクリームシチュー。そして香り立つカフェ・オランジェ。
さくらえはきっと、喜ぶだろう。見事に咲き誇った紅葉の大木へと向かう背を追いながら、勇弥も後に続いて歩いてゆく。
見上げれば溢れんばかりの秋色に、ふたり揃って息を零した。
ポンパドールのお手製弁当。りねの花飾りを模した卵そぼろのお礼は、お手製のくまさんおにぎりだ。
「ママに教えてもらって一生懸命作ったんだよ」
「すっげえカワイイ、ありがとう!! ……うん、ホントに、ありがとう……」
「はわわ、ポンちゃん泣かないで」
のんびりとした時間。ありふれた、けれど大切な日常が、今は唯倖せで堪らない。
「お帰りなさい。いつも一緒に遊んでくれてありがとう」
これからも、どこへでも一緒にいくよ。だって――一緒なら、未来はきっと楽しいから。
川のせせらぎに誘われて見つけた、川辺の特等席。
「シグさん、お弁当ある? 僕は無い」
「え? その荷物は?」
「飲み物とおやつは、あるよ」
イチの傍ら、大量のお菓子入りバッグ見せてを得意げなくろ丸に、
「……お菓子かーい!」
栄養を気にする様子が微塵もないのはすくすく伸びた者の余裕だろうか。複雑な心境で、それでも確り用意したお弁当を広げてみせる。
茸飯と栗ご飯のおにぎりに、焼き鮭。里芋の煮物。
「うおぉ……さすが。豪華。エビフライ……秋最高」
「ほんま、美味そうに食うてくれるなぁ」
無表情の中にも見える感情。釣られて笑いながら、シグも秋の味覚を一口頬張った。
お弁当と水筒を手に、秋色の名もなき駅を探す篠介と依子。
燃えるほどに鮮やかな彩。続く線路。綺麗だと重なる声。まるで映画のような景色をカメラに収めながら、やっぱり彼は赤が似合う、と再確認。
やっぱり行楽には弁当が必須と真顔で言う篠介には、笑顔と真顔で同意して。胸があたたかいのは、お茶だけじゃなく美味しそうに食べるその笑顔があるから。
「今年も一緒に紅葉狩り、来られてよかった」
「また、来ようね」
あなたと、こんな風に色を重ねていけるなら。何処だって、しあわせ駅。
暖かくて穏やかな、夕映えのような秋色トンネル。感銘の声、綻びる顔、開いた口までお揃いで。笑顔重ねて見つけた、ベストスポット。
「こたろのおにぎり絶品!」
「希沙さんの鮭すごい、身がふっくらほろほろ」
お腹も心も満腹になったら、大満足と大成功のハイタッチ!
「……あ。こたろ」
零れた声。不意に軽く触れた唇に、小太郎の鼓動が跳ねる。ご飯粒付いてたよ、とはにかむ娘につられて染まった頬を隠すには、まだ陽は高い。
「……き、きさには付いてへん?」
「……付いてないけど、付いてますよ」
心臓鷲掴みの親切へのお礼は、内緒話の距離で。
空のお弁当箱にひらり落ちた秋一片は、今日のお土産。
「水鏡のわたしたちも、いっしょだねっ」
水面と現実。双方隣に自分がいて嬉しいけれど、どこか悔しくて。響はまわした腕に力を込める。
また別の湖畔で語らい合うのは、恵理と志歩乃、そして叶とエマ。
ふたりからの祝辞には、叶もはにかみながら礼を返して。お手製弁当への期待には、大したもんじゃねーぞ? と前置きして重箱を広げる。
「わ、カラフルなお稲荷さんですね!」
「おう。中身見えるようにしてみた。鶏牛蒡、高菜、錦糸卵と海老。あと薩摩芋の甘辛肉巻きな」
「私は、魚の味噌焼や和え物、煮豆腐と……それと黄飯を」
ほんのり広がる梔の香。ありがとな、とひとつ笑んで少年は一口運ぶ。
ひらり舞い降りた真っ赤な髪飾りは、秋からの贈り物。一層笑顔を交わらせながら、秋の味を満喫する。
「そうだ……叶君。私達を入れた景色の写真を何枚か撮って貰えません?」
それを元に描いた絵を、遅めの祝いとして受け取って欲しい。その勿体ない申し出に、断る理由はない。
「じゃあ、おれもとびきりの写真、撮らねーとな」
「わたしも撮るよー! 撮りあいっこすれば、一緒に来たって思い出になるもんっ」
「ふふ、波織さん。それ、妙案です!」
眸と写真に、今日出逢えたこの彩を焼きつけよう。
穂純と叶、ふたり秋の味覚を交換した後は湖畔巡り。
視線の高さ、最初に目に止まったもの、タイミング、込める想い。どれも少しずつ違うから、同じ画は1枚もない。けれどそれが面白い。
同じ場所で同じものを見て、心動かされて。やはり重なる景色と心。完成写真も共に見れば、屹度想い出も重なるはず。
「お誕生日おめでとう」
「黒の革手袋か! シックで格好いーな。ありがとな!」
お礼にとっておきの場所、教えるよ、と手を差し出して導いたのは、オレンジコスモスの花畑。
来年はふたり、高校生。
「今日夢中でシャターを切ったこの場所みたいに、色鮮やかな毎日にしたいね」
「ああ」
その色を、また共有できたら。そう、少年も願う。
過ぎし日に色を置き去りにした廃駅のホームに良く映える、紅葉の赤。
郷愁めいた心地の千波耶の弁当箱から、葉がひとつおにぎりを取った。彼女の説明に「バクロウってキノコだっけ?」と返しながら、結構リア充してんなと改めて思う。
「なんか、今にも電車が来そうな気がしない?」
「もし電車が来たら、逃避行でもしてみる?」
とうひこう。その得も言われぬ音を、千波耶は舌の上で転がす。
電車は来ない。それでも。
「行けるトコまで行ってみる?」
切符替わりの紅葉は、たぶんきっと片道切符。1枚を手に、差し出されたもう1枚を、葉も笑って受け取る。
何処にも逃げられないと知っているけど。
――もし電車が来たら、行ってみるか。
●紅色世界
「見て……すごく綺麗……」
紅葉向こうに広がる滝に、百花は思わず息を飲んだ。深く色づいた木々の間から覗く岩肌を、幾つもの流れがとめどなく伝う。
ああ、とても綺麗だ。繊細な薄絹も、煌めかた眸で笑う彼女も。
滝壺に浮かぶ赤と金が、くるくると寄り添い踊る。まるでももたちみたい、と見つめる傍らに立ち、エアンもくすくすと頷く。
夫婦になって初めてのデートが、この森で倖せ。
「ずっとずっと……隣に居させてね?」
互いの心を重ねて、甘えるように腕を絡める百花。エアンもまた、心は同じ。
「これから先も、俺の側に居て欲しい……ずっと」
願いながらそっと交わす口づけは、二度目の誓い。
幾つにも分かれた小川の終着点のひとつに、愛莉はいた。池の畔に腰を下ろし、なのちゃんが隣に寄り添う。
紅、緋、金。この華やかな美しい色を、一緒に見たい人が隣にいない。込み上げてきた涙を隠すように、膝に顔を埋める。
「ねえ、どこにいるの……?」
「――っあ……」
落ち葉を踏む音と声に、反射的に振り向いた。
「……叶くん。ごめんなさい、みっともないところを見せて」
「……淋しくて泣くのは当たり前だろ?」
じゃなかったら、おれもみっともないってことになるしな。そう、からりと笑う。
大事なのは、思う存分泣いたその後だ。
「そうね……寂しがってばかりじゃいけないわね」
礼を添えながら前を見据えて立ち上がる。またいつか見に来よう。彼と、ふたりで。
溢れているのは、懐かしい土地の、懐かしい色。
色々あったが、それでも心惹かれる故郷の山の空気を紗夜は満喫していた。
水面に舞い降りた紅葉が、無地のターコイズブルーに優美な弧を描く。
「水鏡とはよく言ったものだよ」
現世と水鏡の境界線。眺めていれば朧になりそうなそれも、波紋を描く紅葉が教えてくれる。
だから、もう少しだけ。
錦秋の随に咲く秋の花。真っ赤な落ち葉に毀れた金ひとひら。錆びた鉄と枕木。辿る先々で見つけた景色を、周はカメラへ納めていく。
「お、カナ!」
「あれ、周!」
誕生日の祝辞には照れ笑いを浮かべて感謝する叶と、暫しの間途中下車。
「へぇ、こんな処もあるんだな」
「行ってみるか? 綺麗だったぞ!」
「結構険しいところありそーだけど、行けるかな……?」
「大丈夫大丈夫! この先の滝とか、撮るのにいい場所があるんだ」
胸を反って、口端を上げてサムズアップ。つられて叶もにかっと笑うと、ふたり線路から大きく飛び出した。
美しさとは、なんだろう。
廃線を彩る鮮やかな紅葉たち。その景色にふとそう思い、緋頼は桐香へと尋ねた。
興味を抱いたのは写真ではなく、彼女の仕事。
「今は……生き様とはまでは言いませんが、生きがいのひとつ、かもしれませんわ」
「……どうすればモデルになれますか?」
自身の美しさが、兵器として在るためだけのものだとしても。それでも、灼滅者以外の、自分としての生きがいを見つけたい。そう望む緋頼へ、少し逡巡してから桐香は微笑んだ。
自分を信じること。自分を磨くこと。そして、踏み出すこと。
それが屹度――『綺麗』ということ。
「カナ君、寒けりゃ貸すぜ」
「そんな薄手で、寧ろシエラが風邪引くぞ? これも巻いとけ」
言いながら紺瑠璃のマフラーを外して娘の首元へ。
「都璃ちゃん、こっち!」
「エマ、走ると落ち葉で滑……」
ずべっ。
「大丈夫か!?」
「あいたたた……あ……上……!」
指さす先に広がる、池と空の青を包む朱一色。
「真っ赤が眩しくて奇麗だねー」
「ああ。すごい赤だ」
「ふふ、山が全身で喜んでるみたい。秋だぞー! って」
「……叶君、私達に教えて良かったのか?」
「寧ろ、おれ独りじゃ来られなかったからさ」
未だ褪せぬ想い出。それでも今笑っていられるのは、独りじゃないから。ならばと都璃も礼を紡ぐ。彼へ、そして彼の母へ。
「それと、お誕生日おめでとう」
「おめでっとー! これプレゼント!」
「都璃、シエラ。ありがとな! ……これって手編み?」
「残念ながら! でも私の色だよ喜んで!」
「おう。じゃあ、そっちのマフラーはやるよ」
おれはこっちがあるから、と愉しげに眸を細めて。寄り添いながら伸ばした左手で、華やぐ紅葉を背に記念写真を撮った後は、お待ちかねのおやつタイムだ。
「紅茶とドーナツを持って来たから皆で食べよう」
「私のクッキーもありますよ。新沢さんも! ご一緒にどうですか?」
「いいのか? なら、お言葉に甘えて」
微笑する冬舞に返す、満面の笑顔。澄んだ秋空に、笑い声が融けてゆく。
おいで、と明莉が差し出した手を取って、朱の線路をのんびりとゆく。共に過ごす秋は多分、2年ぶり。
ふたり揃って闇落ちしたのは去年のこと。辛くとも忘れられぬあの日。
「わらわの世界が、少しだけ変わったんじゃよ」
「俺は……、どうだろな」
想い耽る横顔もまた、愛おしくて。並んで歩いた4年、この先も共に歩きたいから。「女子大生になっても、よろしくお願いします」
微笑む娘へ、青年も眦を緩めてその名を呼んだ。
「心桜」
差し出したのはおにぎりではなく、小箱。蓋を開ければ、白と桜が彩る誕生石の指輪が秋の陽に燦めいた。
瞬き、見開き、そして桜の映る銀を見つめて。
ゆっくりと、そっと。心桜は想いを両の手で包み込んだ。
●暮れの朱空
湯の香りにつられての途中下車。見つけた足湯に早速浸かる仲良し3人。
「はー、どっこいしょ」
と空を仰ぎ寛ぐ春へ、ひよりが大人っぽい溜息ひとつ。
「どうしたの?」
「どっこいしょ、なんて……疲れてるのかな、って」
その答えに吹き出した紗奈もまた、大人になりたいから、と春に倣う。
「はー、どっこいしょ」
口調を真似る紗奈も、真似られていーっと白い歯を見せる春も可愛くて。ひよりもまた、ふたりを真似る。
見上げた先には秋色の空。木の葉の掠れる音。鳥の声。日常とは違う世界。それと、気心知れた仲間。なんとなく解った『大人な感じ』に、思わず春がにまりとする。
「ゼータクだなー」
「ほんとだね」
ぽかぽか暖かい心と身体。心地の良い風に混じる、なんだか良い香り。
「お腹すいてきちゃった」
「わたしも」
「……オレもー」
ぐぅと鳴った腹の音。星の瞬く帰り道には、美味しいものを食べて帰ろう。
此処に来たのは小学1年のとき。
大樹の洞、ちいさな瓢箪池。自然に出来た階段は、はしゃいで転んだっけ。想い出をなぞりながら途中下車してはまた戻る叶へ、ステラも心寄り添い優しく笑う。
終着駅は何処かと問えば、きっと「解らない」と返しただろう。4年の歳月は涙を昇華させるには十分なれど、未来を決めるにはまだ足りない。
「……こんなんで、母さん歓んでくれてるかな」
そう独りごちた声に、ステラは慰撫するように、鼓舞するように笑顔を返す。
「使命は、次の世代に引き継がれていくものですよ」
視線の先には、朱鮮やかな梔の実。頷き微笑む少年の花もまた、いつか咲くのだろう。
線路の上で揺れる握った掌。不意に名を呼ばれ、想希は傍らを見つめた。
紅葉が苦手と知りながらの毎年の誘いは、悟にとっても逃避に対する自戒だった。
「俺の悟は、紅葉に負けたりしませんから」
返る笑顔に、悟も誓う。この紅を忘れない。ふたり過ごしてきた時間を消しはしない。
秋色に染まる空に思い出す。畝った道も凸凹道も、あれから共に駆け抜けた。ふたりでも独りでも、歩んだ道はどちらも大事だと悟も頷く。
「ずっと一緒やで想希!」
「ありがとう、悟。これからもよろしくお願いしますね」
共にこの道を愛おしく想うからこそ、続いてきた。そう互いに笑い合う。
誘われた電車ごっこ。懐かしいと手を取って笑みを零す。
「しゅっぱーつしんこーや!」
「しんこー」
声重ね、愉しげに拳を空へと突き上げた。行き先は足湯と――その先の未来。
本当に、随分遠くまで来た。
ふと振り返った陽桜の横で、あまおとも足を止めた。紅の世界に、白い柴犬。独りではないことに安堵した。
共に歩き始めた1年をなぞるように、来た路を見つめる。
「あたしは、ようやっと、好きになれそうですよ」
この景色と同じくらい、自分のことが。
「これからも、一緒に歩いてくださいね?」
そういって笑う娘に、相棒もまた、笑ったように見えた。
風に揺れる赤茶の髪は、秋日暮れに融けて見失ってしまいそうで、時兎はくいと傍らの袖を抓んだ。
ぽつり毀れた、素直なのか否か解らぬ答え。「最後の一言、余計だよ」と吹き出した聡士が赤らむ頬をつつけば、仏頂面の時兎がそれを握る。
ずっと前。紅葉にも花言葉がある、って言ったこと、きっと覚えてないのは知ってたけれど。ふたり共に過ごした大切な想い出、大事な時間であることには、変わりないから。
失念をへらり笑顔で誤魔化す聡士へ、眸を細める。
廃線の先の何処かに、終着駅があるのなら。
「それまでも、それからも、聡士と一緒に居られたらいーなと思うよ」
「そうだね」
想い出のあちこちに在る、時兎の姿。この先も共に居られたらきっと、愉しいだろう。そう思う聡士の笑顔が、夕映えに融けた。
手を繋いで歩いてきた線路。その路傍で佇む水鏡に、イコと円蔵は脚を止めた。
音もなく彩移る宵空へと、燈る紅葉が降り注ぐ。きれい、ね。ぽつり、洩れる声。抱き寄せた肩。伝わるぬくもりは、抱き返されれば尚一層、心地良くて愛おしい。
初めてのお出かけから、もう5年。止めどない紅葉のように、降り積もった想い出たち。
「円蔵さんと居るとね、永遠を夢見るの」
季節は廻り、時は移ろうけれど。それでもずっと、愛して生きたい。そう永遠なる倖せを願うのは、円蔵もまた同じ。
「この瞬間が終わっても、これまでと変わることなく、ぼかぁずっと一緒ですよぉ」
彼らしい笑みに、イコも倖せ色に微笑んだ。
まだ先の見えぬ、朱の廃線。
遠く離れ、いつか路が失われても――あなたがわたしの、終着駅。
作者:西宮チヒロ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年10月19日
難度:簡単
参加:43人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 3
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