秋の温泉と黒歴史

    作者:聖山葵

    「ラジオウェーブのラジオ放送が確認されたヨ」
     君達の前に現れたエクスブレインの少年いわく、はこのままでは、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、ラジオ放送と同様の事件が発生してしまうのだとか。
    「それでネ、放送の内容はこんな感じサ」
     ひとまずそっちを聞いてくれたまエと続けた少年は、語り始めた。

    「ふー、解けちゃいそう」
     実際とろけてしまいそうな顔でへにょりと湯船の縁に頭を預けた少女に来て良かったねと傍らの少女が声をかける。日常の疲れを取る為、温泉でのんびりくつろぐ二人にとってまさに至福の時だった事だろう、だが。
    「ほああああああああっ!」
    「「え」」
     奇声を発して脱衣所方面に出現したそれを見て少女達は固まった。服は脱ぎかけ、きっと温泉に入ろうとしていたと思われる恰好の胴には腹巻き。年頃は少女達とたいして変わらず、だからこそ腹巻きがミスマッチであり。
    「う゛ぇあぁぁぁあああぁぁぁぁっ!」
     顔を両手で隠したまま、その乱入者は温泉の中をめちゃくちゃに走り回ったのだった。

    「と、まァ、そう言う都市伝説でね」
     ラジオ放送では少女の片方が腹巻き少女に頭を踏まれてカエルが潰れたような声を上げてたとかあげてなかったとか。
    「た、確かに変わった都市伝説ですね」
     と夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)はコメントした。何故水着姿なのかは、きっと気にしてはいけない。
    「それデ、この事件なのだがネ、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査によって都市伝説を発生させるラジオ放送が突き止められたことでラジオ電波の影響によって都市伝説が発生する前に、その情報を得る事ができるようになったという事例の一つなのだヨ」
     故に、今討伐に赴けばラジオ放送内容の被害も防げるという訳だ。
    「現場はとある温泉の女湯、都市伝説は『いつもの癖で腹巻きを着用していたことに脱衣所で気づき、半狂乱になって温泉の中を駆け回る黒歴史少女』と言う設定らしいネ」
     同情すべき点はありそうだが、はた迷惑なことはこの上ない。
    「接触自体は女湯で放送をなぞるようにのんびりしていれバ、都市伝説が乱入してくるのでネ」
     それを迎えうって倒すだけで良いのだとか。温泉もあらかじめ貸し切りにしておくようお願いしておけば人避けも必要ないそうなので。
    「まァ、問題があるとしたら場所が女湯であることかナ。諸君が全員女性なら問題ないのだがネ」
    「それで私に声をかけたのですね?」
     納得した様子の倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)へとその通リと頷いて、エクスブレインの少年は問う。
    「まァ、どこかのい男の娘を呼んで見るのも面白かったかも知れないがネ」
     結果として、ここにいるのは緋那である、つまりはそう言うことだ。
    「ふゥ、そんな些細なことは脇に置いておくとしテ」
     もしその男の娘がいれば些細じゃないからと抗議したであろう口ぶりで不穏な発言をサラッと流すと少年はそれデと続け。
    「話の続きだガ――」
     件の都市伝説は戦闘になるとエアシューズのサイキックに似た攻撃で応戦してくると思われるヨとエクスブレインの少年は推論を口にした。
    「これで石けんでも踏んで転んでくれたら面白いのだがネ、そうも行かないだろウ」
     そもこの都市伝説はラジオ放送の情報から類推される能力である為、うっかりミスどころか 可能性は低いが、予測を上回る能力を持つこともありうる。
    「まァ、一つの可能性として頭の片隅にでも置いておいてくれたまエ」
     それだけ言うと少年はちらりと緋那を見てから片手をあげてから、武運を祈るヨと君達を送り出したのだった。


    参加者
    アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)
    鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)
    神凪・陽和(天照・d02848)
    天峰・結城(皆の保安官・d02939)
    神凪・燐(伊邪那美・d06868)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)
    秋山・梨乃(理系女子・d33017)

    ■リプレイ

    ●着替えて温泉に
    「それはまたはた迷惑じゃのぅ……」
     話を聞き、顔をしかめたアリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)が脱衣所の戸口をくぐったのは、少し前の話。
    「女性は、何よりもお腹を冷やしてはいけません。最近、お洒落な腹巻き、増えてるようですし、素材に気を使ったのもあるようで」
    「最近、腹巻き女子、増えてるみたいです。可愛らしい柄も、チラ見せしてもおかしくないのもあるそうです」
    「そう言うものなのですね」
     神凪・燐(伊邪那美・d06868)と神凪・陽和(天照・d02848)の説明を感心した態で倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)が聞いていれば、陽和はだからと続け。
    「脱衣所で腹巻き姿うっかり出したって、恥ずかしくともなんともないと思うのですが」
    「うむ。冷え性の人が腹巻を巻くのは、実に合理的だ。恥ずかしがる事も無いと思うのだが」
     首を傾げる陽和が、私もお腹冷やさない為に付けてみようかな呟けば頷く秋山・梨乃(理系女子・d33017)も腑に落ちない表情をし。
    「偶然、脱衣所で腹巻き姿が1人だった可能性もありますが、腹巻き使用女性は狂乱して浴場を走り回る程恥ずかしいものではないと思います。寒いところにある温泉地なら尚更ですね」
     燐は一つの可能性を挙げて見るも都市伝説の暴走理由をあっさり一刀両断してのける。
    (「それに、黒歴史かもしれませんけどすぐに脱いでしまえばいいですよね」)
     話を聞いていた鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)は下着を外すと、零れ出たメロンのように大きなそれを下から持ち上げる様に片腕で押さえ黒いビキニに手を伸ばす。
    「なんで……すぐに脱がなかったんだろ……」
     と恋人の皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)が場にいれば同意してくれただろうが、生憎今は女性陣の着替え中。流石に男性陣がお邪魔する訳にも行かない。
    「まあ、実際に出現してしまった以上、対処せねばなりませんが。陽和、行きますよ」
    「はい。燐姉、一緒に頑張ろう」
     ワンピース系の水着に着替え終えた神凪姉妹が温泉の方へと歩き出し。
    「では、わたしは零桜奈くん達を呼んできますね」
     別方向に歩き出した蒼香が零桜奈と天峰・結城(皆の保安官・d02939)を連れて温泉へやって来たのは数分後のこと。そう、数分後のこと。
    「すみません、遅くなりました」
    「な、何かあったのですか?」
     自信を迎える夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)に困った様な顔をした結城が零桜奈の方を見ればおおよそ察したのだろう。
    「そ、それではのんびりと待ちましょうか。出て来てくれるでしょうか?」
     敢えて推定ラッキー何とかをやらかしたカップルには触れず、促す満月へ頷きで応えた結城は情報の通りにすれば大丈夫ですよと微笑み手を差し出す。
    「足下が濡れて滑りやすいですから」
    「あ、ありがとうございます」
     湯煙で隠せぬ程、厚意を受け取り手を握る満月の顔は赤く。
    「被害を未然に防ぐのも重要ですししっかりノンビリしましょうね」
    「……うん。あ」
     言語化するなら、とりあえず早く倒してゆっくりしたいねと言った表情で首を縦に振った零桜奈は、まるでもう一組のペアのやりとりがフラグであるかの様に足を滑らせた。
    「いい湯じゃのぅ」
    「きゃあっ」
     既に湯舟に入り縁に背をもたれさせたアリシアの後方で悲鳴が上がり。
    「なんじゃ? 都市伝せ」
     振り返ったアリシアが見たのは、水着を掴んで自分の上に引き倒した零桜奈と恋人へ馬乗りになる形でビキニを剥ぎ取られそうになっていた蒼香の姿だった。

    ●乱入者、来る
    「うむ、判ってはいるのだが、水着を着ていても混浴は気恥ずかしいものがあるな……と考えていた時期が私にもあったのだ」
     どことなく遠い目をしながら梨乃が温泉に浸かっていたのは、それ以上のアクシデントを目撃してしまったからだろう。
    「あそこに近づくのは避けなくては」
    「そうですね、二人の邪魔をするのも良くありませんし」
    「いや、そう言う意味合いで言った訳ではないのだが……」
     戦慄する自信の言を別の意味でとらえて同意する緋那に何とも言えない様な表情をしつつも梨乃は気を取り直す様に別の方向を見てみる。
    「しかし、温泉に現れる都市伝説ですか。なんでこんなところに現れるか分かりませんけど」
    「こ、こんなに早く見つかるとは思いませんでした……や、やっぱり黒歴史がある人って多いのでしょうか?」
    「どうでしょうね? ですが――」
     独言に釣られた様にどことなく不安げな表情になった満月を安心させる様に微笑んで結城が何か言葉を続けた。囁く様に小声で梨乃には聞き取れなかったが、それはかえって幸いだったのかも知れない。
    「いつの間にかカップルに挟まれていたのだ」
     大きな一つの浴槽に最初は同じ方へ居た二組の男女がそれなりに気を遣い両端に移動した結果だった。
    「良いお湯ですね、陽和」
    「そうだね、燐姉」
     コポコポと湯を湧き出す注ぎ口のオブジェを視界に入れつつ、一組の姉妹は隣り合わせになってくつろいでいる様に見える態で都市伝説の襲来を待ち。
    「いい温泉ですねー肩こりにもよく効きそうです」
     一難去った蒼香は豊かな胸の一部をお湯の中から覗かせつつ身体の力を抜く。
    「ほ、本当に、疲れが溶けて行くみたいです」
     満月もまた肩まで湯に浸かって、ほうと漏らした吐息が浮かぶ双子の島へとかかった。そう、蒼香同様に胸の一部だけが出ているはずなのに、オレンジ色の島は何というか圧倒的であり。
    「このままのんびり出来たら良いのですけどね」
     だが、全力で目の毒になりそうな位置にいる結城は敢えて平然としつつ、視線を脱衣所の方へとやる。
    「あまり意識しすぎは女性陣の皆さんにも悪いですし」
     とか気にならないか尋ねられたら答えていたことだろう。そも、一行は都市伝説の出現を待っている訳でもあり。
    「ほああああああああっ!」
    「「っ」」
     入り口から声が響けば、当然の様に灼滅者達の視線は集中した。
    「たしかに腹巻ですね……冷え性だったのでしょうか」
     少女のお腹に腹巻きを認めて首を傾げたのは、蒼香。
    「浴場での駆け足は控えるのじゃ!」
    「こら、風呂場で走ると危ないぞ。……と言っても、聞く訳もないか」
     箒に跨って浮かび上がったアリシアと湯舟から身を乗り出した梨乃が声をかけるも梨乃が自分で口にした通り。
    「う゛ぇあぁぁぁあああぁぁぁぁっ!」
     登場した腹巻き少女は叫びながら洗い場を走り出す。
    「情報通り、ですね」
    「じゃな、ともなればやることも決まっておろうて」
     緋那の言葉に上空で同意したアリシアは瞳へバベルの鎖を集中させ。
    「何だか嫌な予感がしますね、ひとまずはこうしておきましょう。陽和」
    「わかってるよ、燐姉。まず走り回るのを止めさせないと」
     燐が前に立つ仲間をTotenbuchで包み守りを固めれば、トライシオンを少女へ向けた陽和が引き金に指をかけた。
    「ひっ」
     出鼻をくじき味方を援護するための銃撃は見事にその役目を果たし。
    「あ、うあっ、たっ、とっ、と」
     急減速をかけた都市伝説はバランスを崩し、つんのめる。
    「……よし」
     好機と見た零桜奈は濡れそぼったまま、手にした葬刃へ捻りを加え突き込むべく湯舟の縁を蹴って距離を詰め。
    「あ」
     濡れた床で見事に足を滑らせる。
    「ぷっ、うわぁっ」
    「きゃぁぁぁぁっ」
     結果として二人はぶつかり、湯舟へ零桜奈を逆戻りさせつつ水柱というかお湯柱をあげたのだった。

    ●いつものアレ
    「ひ! 何故だ? 何故こうなるのだ? 誰か論理的な説明を」
     パニックに陥った梨乃へ説明するとすれば、フラグを回収した結果だろうか。湯舟に飛び込んできた二名は湯舟にいた他の灼滅者を巻き込んだ。蒼香と緋那、二人の邪魔をするのも良くありませんしと気を遣い少し距離を取った緋那はそれでも競泳水着の肩の部分をずり降ろされ、背を押されて梨乃に胸を押しつける様な形で覆い被さっていた。げに恐ろしきはラッキー何とか体質か。
    「……んぷ、あ」
    「れ、零桜奈くん」
     もっとも大丈夫ですかと梨乃を気遣う緋那はまだ被害の少ない方だった。柔らかな何かに顔を埋もれさせていた零桜奈は、身体を起こそうとして突いた手がむにゅんと柔らかいモノを鷲掴みにし、そのすぐ側から声がしたことで事態を悟り。
    「ご、ごめんなさい……えっ」
     押し倒して顔を胸に埋める形になっていた恋人に謝りつつ立ち上がろうとしたところで、今度は履いていた黒のハーフパンツがずり落ちる。
    「っ、わっ」
     慌てて引き上げようとするもずり落ちたハーフパンツに足を取られたたらを踏み。
    「とりあえず、あの二人には近寄らないことにするのだ」
     再び悲鳴をあげつつハプニングる誰かから視線を逸らしつつ梨乃は緋那の下から身体を引き抜いた。
    「ぷはっ、はぁはぁはぁ、ふう、ふぉぉぉぉぉぉっ!」
     そして、温泉に落ちた都市伝説少女も湯舟の縁に辿り着くと身体を引き上げ、また走り始め。
    「た、助けなくて良いのでしょうか?」
    「では、そちらは私が」
     満月が巻き込まれるのを危惧したのか、それとも既に戦闘が始まり討伐対象が再び元気に浴場内を駆け回り始めたからか、ちらちらポロリしたカップルの方を気にしていた満月へ結城は請け負う。
    「で、でしたら……」
    「う゛ぇあぁぁ!」
     暴走する都市伝説への対処は自分の担当と満月は少女の死角に回り込み。
    「く、黒歴史に巻き込んではいけませんよ」
    「きゃうっ」
     斬撃と前後して現れ自身を引き裂く逆十字に都市伝説は悲鳴をあげた。
    「だから、走るな! ミケ、とりあえず足止めするぞ」
     ようやく落ち着きを取り戻した梨乃もウイングキャットのミケに一声かけるとクロスグレイブを腹巻き少女へ向ける。聖歌と共に解放される十字架先端の銃口。
    「みぃっ」
    「きゃああっ」
     ミケが猫魔法を放った直後だった。光の砲弾とは別方向から飛来した魔法の光線が都市伝説の身体を撃ち抜き。
    「ふぅ」
     肩から上とバスターライフルの銃身の半分をお湯の上に出した蒼香は息を吐く。とらぶりつつも何とかバスタービームを放つことには成功したらしい。
    「しかし、我はここで正解じゃったな」
     魔法の矢を詠唱圧縮しつつ箒上のアリシアはちらりと一度だけハプニング現場へ目を落とすとすぐさま前方へ視線を戻し。
    「あとはこやつを倒すだけじゃ」
     そのままマジックミサイルを放つ。
    「そ、そうですね」
     放置すればはぷにんぐの再発もあり得る。
    「仮にも年頃の女性が、腹巻き姿で狂乱して浴場を走り回るなど見苦しい。女性として慎みを持ちなさい!! あまつさえ、迷惑をかけるなら灼滅します!!」
     それより何より燐としては都市伝説の行動が既にアウトだったようで。
    「ただでさえ、服を着てなくて、腹巻き姿で興奮して浴場を走り回る女性など、許せませんからね。良家の生まれとしては見てられません。見苦しい」
     そんなコメントを口にする陽和も含めて両者に零桜奈達のアレは大丈夫なのかと疑問に思う者はいたかもしれない。だが、口に出して問う勇者は居らず。いや、そもそも言及しなかったのは今が戦闘中と言うこともあるのだろう。
    「しかし、腹巻とはそんなに恥ずかしいものか? 間違った事はしてないと思うが」
    「そう言う噂として誕生してしまった以上、きっとそうすることしか『できない』のでしょう」
     別の疑問を口にする梨乃へポツリと答えた緋那は高速の動きで駆け回る腹巻き少女の死角へと回り込む。
    「黒歴史はここまでです!」
     戦いは続き、いつの間にか都市伝説はボロボロで、殲術道具に影を宿した蒼香が殴りかかった瞬間のこと。
    「かふっ、あ?」
     身を守る物ごと斬り裂く斬撃は確かに少女の腹巻きを両断し、呆然とした都市伝説の身体へと蒼香の一撃がめり込む。
    「う゛ぇ、あ……」
     それでも尚、叫ぶことしか出来ない少女は膝を折り、前のめりに倒れ、二度と起きてくることはなかった。
    「お、終わりましたね」
    「はい」
     同じ消滅して行く都市伝説を見る満月の言葉へ結城はゆっくりと頷いた。

    ●最後はのんびり
    「ちょ、ちょうどいい温泉ですし結城さんも一緒にどうでしょうか?」
     満月が誘えば、結城はそうですねとあっさり応じた。と言うか、せっかく貸し切り状態の温泉なのだ、そのまま帰るつもりのない灼滅者は他にも居り。
    「戦闘後の風呂は格別じゃ! 怪我人も出なんだし、一件落着じゃな」
     アリシアが上機嫌で目を閉じたままほうと息を漏らす。ラジオ放送でもつかっていた少女がとろけそうな表情だったのだ、身体を動かした後なら格別なのだろう。
    「せっかくですし背中を流しましょうか? 綺麗にしてあげますよ」
    「ん……それじゃあ……お願いしようかな……。終わったら……私も……蒼香の……背中……流すね……」
     その一方で、洗い場には風呂桶を抱えた蒼香と零桜奈の姿があり。
    「ここに座って下さい」
    「うん」
     椅子を示され返事をした零桜奈が腰を下ろすと、後ろに回った蒼香が桶に湯を汲む。
    「へ、平和ですね」
    「そうですね。それはそれとして、折角ですから何か飲み物でもあったらいいのでしょうけど」
     戦闘の前や最中の様なハプニングが起こらないことにどことなくホッとした感の有る満月へ同意して結城はちらりと脱衣所の方を見る。
    「水なら脱衣所に置いてありましたね」
     思い出した結城がいったん湯舟を出るか悩み始めた頃。
    「それじゃお願いしますね」
     恋人の背を流し終えた蒼香は邪魔にならない様髪をタオルで纏めながら声をかける。その零桜奈視点で見たなら、背中越しだというのに両脇にはみ出す形で揺れる豊かな膨らみが見えたかも知れない。
    「じゃあ……流すね……あ」
    「っ」
     準備は万端、選手交代と言うところでやらかすのはもう零桜奈だから仕方ないのか。手が滑り、傾いだ身体を支えようとした零桜奈が鷲掴みにしたのは、先程揺れていた柔らかなものであり。
    「ごめ」
    「良いですよ、スキンシップと考えれば――」
     そも、今更感が漂っていると言うことも有るのだろうか。二人は暫くそうしていちゃつき。
    「こういう風に秋の温泉もいいですね♪」
    「ん……秋の温泉も……風情があって……良いね……」
     やがて湯舟に入って肩を並べ、暖まりつつ上を仰ぐ。色々ありはしたものの、温泉の一時は一行の癒しとなったのだろう。
    「い、いい温泉でしたね。ま、また機会があったら一緒に楽しみたいです」
     帰路で、温泉を出てもまだ顔を赤くしたまま結城に寄り添う満月はちらりと後ろを振り返り。
    「ええ、その時は――」
     続けられた言葉は小さく、満月にだけ囁かれた。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年10月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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