第4位ジョン・スミスの誘い

    作者:彩乃鳩


    「あぁ、そうだ、ドゥイットユアセルフ。これは、自分でやらないといけないといけない事なんだ」
     それは幻聴か、現実か。
     六六六人衆の第4位であった、ジョン・スミス。
     その声が聞こえてくるかのようで。
    「これを使えば……妹を殺せるぜ?」
     とあるホームセンターの売り場。
     ふと訪れていた十川真一は、人知れず呟く。その視線の先には、大型のドライバー一式。それらをじっと見つめる目は次第に狂気に彩られていった。
    「そうだ……そうだ、そうだ! これさえあれば!!」
     今年で22歳になった十川真一だが、その外見は年齢よりくたびれて見える。
     両親が揃って早くから亡くなったこと。更に、事故により意識不明となった妹の面倒をずっと一人でみてきたことによる摩耗が身心を蝕んでいたからだ。壊れかかっていた箍が、今まさに外れる。
    「どうせ、このままでも妹はただ死を待つだけ。なら、俺がこの手で終わりにしてやればいい。これであいつは楽になる……そして、俺も楽になれる!!」
     十川真一の姿が急変する。
     闇堕ちだ。若々しく、凶暴な体躯を持ったダークネス。鋭く尖った多数のドライバーを持った六六六人衆へと。犯行予告の叫びを高らかに木霊させる。
    「待っていろよ、すぐに殺してやる。今こそ、ドゥイットユアセルフ!!」

    「現在『一般人が闇堕ちして六六六人衆になる』事件が発生しようとしています」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が、灼滅者達に説明を始める。
    「この闇堕ち事件は、グラン・ギニョール戦争で撤退した、第四位『ジョン・スミス』の影響があると思われます。闇堕ちした六六六人衆は、手にした武器をもって、闇堕ち前に憎んでいた人間を殺す為に活動を開始するようです」
     皆には、闇堕ちした六六六人衆から、狙われた一般人を守り、六六六人衆の灼滅をしてほしい。それが今回の依頼だった。
    「今回の相手は十川真一。ドライバーを武器にする六六六人衆です」
     狙われているのは彼の実の妹、十川敬子。
     事故で意識不明の重体となって以来、病院の一室でずっと眠り続けているとのことだった。当の病院前で待ち構えて、六六六人衆を撃退する形となる。
    「また、この六六六人衆は、所持した特徴のある武器に拘りがあるようなので、その方向性で挑発する事ができれば、一般人を殺すよりも灼滅者との戦いに乗ってくるかもしれません」
     十川真一はドライバーで妹の人体を解体して殺すつもりのようだ。
     妄執ともいえる凶悪な意志は強固極まりない。
    「敵は、特徴的な武器を使用してくるようですが、油断せずに、灼滅してください。そして、可能ならば狙われている一般人も守ってあげてください。皆さん、よろしくお願いします」


    参加者
    峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)
    藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)
    戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    四刻・悠花(棒術師・d24781)
    白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    アリス・フラグメント(カタパルトクィーン・d37020)

    ■リプレイ


    「作戦前に周囲の人払いをしましょう。この場所ではこのお噺がぴったりです。拙い語りですがお聴きください」
     件の広場。
     アリス・フラグメント(カタパルトクィーン・d37020)は百物語を行う。
    「生きたいと強く願い、生き抜くと命を燃やし、生きるために病魔と闘った、勇敢な少年の物語……『少年のエピローグ』」
     ご静聴ありがとうございました、とアリスが話し終えたときには一般人の姿は消えていた。人っ子一人周囲にはいない。
    「これなら、俺が人払いする必要はありませんね」
     西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)は混乱を呼ばないように注意しておく。
     あとは、ここで待ち伏せて時を待つことしばし。
    「来ましたね」
     闇纏いを使って目立たないよう待機していた戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)達だったが、病院前に現れた六六人衆に全員が目を向ける。ドライバーを持った十川真一は、殺気が分かりやすくだだ漏れていた。
    「何だ、お前らは? どけ、邪魔だ」
    「まず錐でネジ穴開けないと役に立たん工具で何かできる気か?」
    「……何だと?」
    「狩ったり狩られたりしようか」
     峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)はスレイヤーカードを解放。武器を手に、ダークネスの前へとその身を晒し。挑発して気をこちらに向かわせる。同時にクレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)がサウンドシャッターを使う。
    「あなたはそのドライバーで何をしたかったのですか? そんなものでは誰も殺すことはおろか、救うことなんてできはしませんよ」
    「はん。なるほど、お前らはこのドライバーを止めに来たというわけか」
     四刻・悠花(棒術師・d24781)の言葉が気に障ったのか、六六六人衆は凶器をぶらぶらと弄ぶ。通常では考えられないほど巨大なドライバーは鈍く輝いてた。
    「ドライバーは工具であり武器ではない。殺傷能力は低いと認識している。そのような鈍らで我々に勝てると思っているのか」
     藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)は、無表情に黒死斬で口火を切る。
     相手のドライバーと、こちらの刃が勢いよくぶつかり合い。何かが軋むような嫌な音が残響した。
    「今までずっと、守り続けてきたのはあなたにとって、妹が大切だからでは、ないの? ころしては、ダメよ」
     白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)はレイザースラストを放つ。
     祖父をころした経験がある故の言葉。
     夜奈は戻れたから後悔した。真一は戻れないから恐らく後悔しない。それでも後悔を知ってるからこそ妹を、真一を守りたい。


    「こんにちは」
     蔵乃祐による挨拶混じりの蛇咬斬。
     ダークネスを捕縛し、その動きに掣肘を加える。
    「お見舞ですか? そのドライバー。随分とお気に入りみたいですけど。捨てられませんか?」
    「捨てられるわけないだろう。俺はこれでドゥイットユアセルフをする」
    「何が解る何が共感出来るわけでもありません。でも、貴方には必要の無い道具なんじゃないんですか? まだ間に合うんじゃないですか?」
     言の葉に対する返礼は、鋭く尖ったドライバーの一閃だった。
     それをギリギリのところで回避し、代わりに今度は清香が前に出た。
    「人間のまま妹を殺す分には関われない話だが、ダークネスになって殺そうというなら私達の領分になる」
     クラッシャーの火力を乗せた一撃。
     蹂躙のバベルインパクトが火を吹く。ジェット噴射で懐に飛び込み、バベルの鎖が薄くなる死の中心点へと衝撃を与える。
    「ドライバーを選択するセンスを疑うな。殺しには明らかに不適切だろ。アイスピックのほうがまだマシだぞ」
    「はん、アイスピックじゃドゥイットユアセルフできんだろうが!」
     続いてクレンドが彗星撃ちを挑発的に撃ち放つ。
     強烈な威力を秘めた矢が、相手の身体をかすめてブレイクした。ビハインドのプリューヌはそれに攻撃を合わせる。
    「その安物ドライバーでは妹さんどころか。わたしたちも殺れませんよ」
     感情を出さない淡々とした物言い。
     味方が敵を包囲する陣形を展開する中。アリスは左目を開き注意深く敵の癖や動きを観察し的確に後方支援を行う。被害を最小限におさめんと、防護符を飛ばし守りを固めた。
    「我等の悲願は見えた。彼奴等が如何な手段を取ろうとも、悉く屠るのみ」
    「ちっ、とことん邪魔する気か」
     織久の螺穿槍が映える。
     対六六六人衆はいつも狂気じみた表情で、特攻まがいの攻撃性を見せる彼である。怨敵の雛、つまり六六六人衆のなりたてを逃すつもりは毛頭ない。一念を乗せた闇器が、ダークネスを貫き削ぎ落とす。
    (「心が弱ってる人にそういうことするなんて……六六六人衆なんて、いなくなればいいのに。救うことができないのなら、その手が血で染まる前に倒させていただきます」)
     悠花はシールドバッシュで敵の気を引く。
     仲間への攻撃を減らし、特に味方のメディックに攻撃がいかないように気を配る。ディフェンダーとして壁となり、隙あらばカウンターを入れる。
    「このっ。妹をドゥイットユアセルフには、まずは貴様らを血祭りにあげるしかないようだなっ!」
    「殺せば、お前は永久に悔いる事となるだろう。故に、止める」
     向かってくるドライバー群を、徹也は十字架戦闘術で迎撃する。
     常に敵の前に立ち塞がる立ち位置を意識し、一般人から此方に注意を向けさせる。仲間達の分の挑発もあって、今のところそれは成功していた。しかし、それはその分ダークネスの戦意も高いということだ。決して気は抜けず、足止めも怠れない。
    「今のあなたに、りかいできるかわからないけれど、きっとこうかいする」
    「後悔? ドゥイットユアセルフに後悔などない!」
    「……こうかい、しないのであれば。あなたはもう、手遅れなのでしょうね」
     夜奈にしてみれば、闇堕ちして祖父をころした経験がある故の説得の言葉だ。
     自分は戻れたから後悔した。
     真一は戻れないから恐らく後悔しない。
     それでも後悔を知ってるからこそ。
     妹を、真一を守りたい。
     そんな思いを力に変えて、繰り出されるのは渾身のサイキック。グラインドファイアの炎が、ダークネスの凶行を止めるために激しく燃え上がった。
    「殺意は本物なんでしょう」
     戦場の熱がヒートアップし、互いのダメージが蓄積する。
     蔵乃祐の呟きは、そんな中でも不思議と良く通り。そして、次第に大きく膨らんでいく。
    「どうしようもなくなってしまうくらい、何年も独りで耐え続けてきた筈です。だからって、諦めてしまったら終わりじゃないですか。妹が大事だからこそ、今まで兄として、家族を見捨てなかったじゃないですか!」
    「……」
    「僕の偽善欺瞞かもしれない。でも今も、以前の真一さんの人格が残っているのなら。本物の善人だったあなたを救いたい。こんなのは嫌だ!」
    「…………」
     灼滅者の渾身の願いを掛けた叫びに。
     六六六衆はしばし目を瞑ってから……口を大きく歪ませた。


    「ははっはははは! 十川真一は消えた! 今の俺はドゥイットユアセルフのダークネスだ!!」
     完全に意識を侵食された、かつて人間だったもの。
     その残滓は最早、見る影もなく。ただただ、人を傷つけ、人を殺そうとすることだけを至高とする存在と成り果てる。
    「救えないから殺して「楽になる」か。ふざけるなよ! 大切な家族なら自分が死ぬまで足掻いてみせろ! 最後まで傍にいてやれよ! じゃないとな、後悔と罪悪感に苛まれるんだぞ……」
     一層激しくなる敵の攻撃に対し。
     クレンドは防御と回復を強化して耐え忍ぶ。ソーサルガーダーと癒しの矢で、戦線を維持することに尽力して、決して理不尽な力には屈しない。
    「警察でもなんでもないんだ、人間のまま疲れて投げ出したくなっただけの奴をどうこうする権利は私達にはない。ただ貴様が真っ当な生命から外れたダークネスになったから始末する。それだけのことだ」
     清香は毅然として言い放つ。
     ドライバーの攻撃を何度受けようとも、そんなことは関係がないように。寧ろ何倍にもしてやり返す。ディーヴァズメロディの一撃が、敵の勢いを押し返す。
    「あなたのやるべき真のDIYは周りの人に助けを求め介護の改善策を見出すことではなかったのですか? 兄妹殺しなど愚の骨頂です」
     アリスは澄んだ青と濁った青の両眼で、相手から絶対に目を離さない。
     動きを良く観察して、タイミング良く七不思議の言霊で仲間の行動を後押しする。バックアップに不備はない。
    「我等が怨敵の憐れな雛よ。貴様も我等が刃に宿るがいい」
    「何を!」
     今まで幾度も、情念を撒き散らす敵を狩ってきた。
     また一つ血と怨念が宿すだけのこと。
     織久はティアーズリッパーで果敢に攻め立てた。高速の動きで敵の死角に回り込みながら、身を守るものごと鋭く斬り裂く。
    「全力で殺してあげますから、あなたは絶対に消えないでください」
     悠花は緋色のオーラを纏った打撃と魔力の込めた突きを見舞う。
     相手の好きにはさせない。一つでも多くダークネスの行動を妨害して、この事件に終止符を打たんと試みる。
    「戦闘を続行する」
     徹也は、どんなに負傷しても無表情だ。
     常時、機械の如く冷徹。
    「殺してやる、殺してやる、ドゥイットユアセルフしてやる!」
    「そうか」
     六六六人衆に、淡々と反応する徹也。
     自らもダークネスの声に誑かされ、家族を手にかけた過去がある。
     故にこの敵を必ず止める。
     灼滅してでも。
     十二分に足止めを果たした後。闘気を雷に変換して拳に宿し、飛びあがりながらアッパーカットを繰り出す。
    「ころさせないわ。堕ちる前のシンイチが、大切にしてた唯一の家族を、うばわせない」
     夜奈は一緒に戦う己がビハインドをちらりと見やった。
     守る為戦う。闇堕ち救出後は殺意の行き場に迷った。六六六衆だけでなく自分もいつか裁かれ死ぬべきなのかもしれない。でも、今は生きることを望んでくれるひとがいる。
     だから、まだ死ねない。
     全力のシールドバッシュで相手の身体を吹き飛ばす。
    (「真一さんは、敬子さんの為に一生を棒に振ればいいとは思わない。殺されなければ何時か必ず敬子さんが目を覚ます保証もない」)
     蔵乃祐は何度でも刃を混ぜ合わせる。
    (「目を覚ましても、失った歳月は取り戻せないし。敬子さんを養う人間は必要だから。僕達が責任を肩代わりするなんて約束出来ない」)
     サイキックが、六六六人衆の身体を潰し。
     確実に死に向かわせる。
    「でも! 一生懸命頑張ってきた真一さんは僕達に灼滅されるべき。敬子さんは死んだ方が幸せになれるなんて認めたくない!」
     無責任で我が儘で身勝手だ。
     現実は……残酷だと諦めている。
    「ごめんなさい……」
    「っ!」
     六六六人衆の身体が崩れる。
     限界を迎えたように。
    「境遇には同情はしますが殺人を見逃す理由にはなりません。必ず阻止します」
     好機を逃さず。
     アリスが攻撃に転ずる。神薙刃が一閃して、相手のドライバーが圧し折れる。
    「お前は最善を尽くした。だが」
     最後に。
     徹也は僅かに感情の篭った何かを吐き出す。
    「最後に、道を誤った」
     すれ違った二人。
     目にも止まらぬ黒死斬の斬撃が、ダークネスの身体を薙ぎ。数拍のうち、六六六人衆は膝を折り大地へと身を沈めた。
    「……敬子」
     人のものか。
     それともダークネスのものか。
     どこか優しさを帯びた最後の一言を残して。


    「対象の灼滅を完了」
     徹也はズタボロになった遺体を確認して淡々と述べる。
     改めてジョン・スミスを早急に灼滅するべき対象として、認識するのに充分な光景だった。
    「仕方がなかったとはいえ、妹さんはこれから孤独の身となりまね」
     悠花は擬死化粧を、十川真一の身体に施す。
     こうして身体が残ったことは幸運といって良いことなのか。容易には判断がつかない。
    「彼女が目覚めることがあれば……残酷な現実を見なければならないのか。ジョン・スミス……絶対に貴様の居場所を突き止めてやる」
     クレンドは出来る限りの事後処理をしようと心に決めていた。
     アリスは十川敬子がいるであろう病棟を見つめ。救えなかった謝罪の気持ちを込めてお辞儀をする。
    「さあ、後片付けをしようか」
     清香が撤収の準備を始める。
     ジョン・スミスに誘われてしまった男の死に顔は、何かの呪縛から解き放たれたように安らかだった。

    作者:彩乃鳩 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年10月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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