秘境!群馬の山奥に幻の六六六人衆を見た!

    作者:J九郎

    「……グラン・ギニョール戦争の後、群馬県の山中の一部が密林化してるのが見つかった」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は微妙な表情でそう告げた。
    「……現在、密林化してる地域の気温や湿度が上昇してて、アガルタの口の戦場に近い環境となってるみたい。……おまけに、密林の中に多数の六六六人衆がいることが予測されてる」
     そこで今回は、この密林の調査と、密林内の六六六人衆の灼滅をお願いしたいのだと妖は告げた。
    「……密林内のどこに六六六人衆が居るか、どんな六六六人衆がいるかは全く不明。……出来立ての密林だから、前人未到の地といっても過言じゃない」
     そのため、密林内の探索は慎重に行う必要があるだろう。
    「……探索がうまくいけば、単独行動する六六六人衆に対して先制攻撃できるかもしれない。……でも逆に、不注意なら、六六六人衆の奇襲を受ける可能性もあり得る」
     そしてもし仮に、複数の六六六人衆と同時に戦闘になった場合は、撤退せざるを得なくなるだろう。
    「……だから、密林の奥深くに足を踏み入れるのは避けた方がいい。……密林の奥深くで敵に囲まれて壊滅という事態だけは避けないといけない」
     なお、密林内部の調査が進み、なおかつ外縁部の六六六人衆を撃破してその戦力を低下させていけば、密林奥地への探索の成功率も次第に上昇していくだろう。
    「……密林化した群馬の山中はまさに秘境。……どんな危険があるか想像もつかないから、慎重に行動して」
     密林内では携帯電話などで連絡する事はできず、別行動してしまうと、再び合流するのはかなり困難なのだという。
    「……もし別行動してる時に六六六人衆と遭遇すれば、勝ち目はほぼ無い。……だから、必ずみんなで揃って探索を行って、そして全員無事で帰ってきて」
     妖はそう言って、秘境へと灼滅者を送り出すのだった。


    参加者
    無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)
    八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)
    近衛・一樹(紅血氷晶・d10268)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)
    十束・唯織(獅子の末那識・d37107)

    ■リプレイ

    ●秘境GUNMA
     迷彩服やポンチョ等、森の中で目立ちにくい服装に身を固めた8人の灼滅者達の前には今、前人未到の密林が広がっていた。
    「え、これが群馬? グンマ()の間違いだろ」
     十束・唯織(獅子の末那識・d37107)が『アリアドネの糸』を発動させながら、生暖かい眼差しで周囲を見回す。
    「我々探検隊は遂に、幻の秘境と呼ばれる群馬の山奥に到達したのだった! そこで待ち受ける困難とは! 現れる謎の原住民! 謎の殺人鬼! 謎の美人ファイアブラッド! 充実の2時間が始まる……!」
     月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)はノートとペンを取り出し、マッピングの準備をしながら、ノリノリでナレーションを始めていた。
    「……って感じで2時間番組が作れそうな感じじゃない?」
     そして、同意を求めるように全員を見回す。
    「さあ、みんな行こう! 隣県のよしみで、群馬県のグンマー化は必ず阻止するよ!」
     群馬のお隣、栃木県は宇都宮市のご当地ヒーローである八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)はそう仲間達に呼びかけると、力強く秘境への一歩を踏み出した。
    (「むしろ完全にグンマー化したら、魅力度調査でますます栃木が不利になりそうだし……!」)
     そんな本音は、もちろん口には出さないでおく。ちなみに今年の魅力度調査では47都道府県中、栃木が43位で群馬が41位と、大変低い次元で接戦を繰り広げていた。
    「とりあえず、深入りは避けて森の外縁から調べていこう」
     『隠された森の小路』を発動させたハノン・ミラー(蒼炎・d17118)が足を踏み出せば、うっそうと茂り絡み合っていた密林の植物が、まるで避けるように蠢き、道を形作っていく。
    「どこから現れるかわかりませんから気を緩めないでくださいね。こんなとこで奇襲されたら不利に立たされますしね」
     近衛・一樹(紅血氷晶・d10268)が、小声で仲間達に注意を促した。うっそうと茂る樹々の中。隠れる場所はいくらでもある。警戒してし過ぎることはないだろう。
    「群馬は噂以上に恐ろしい場所だな……」
     群馬をどう認識していたのか、七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)はそんなことを呟きながら、足元や頭上にも視線を凝らしていた。六六六人衆の奇襲だけではなく、落とし穴やワイヤー、鳴子等のトラップにも注意を払う必要があると判断したからだ。
    「ここは相手のシマだからね。気を付けていかないと」
     富士川・見桜(響き渡る声・d31550)は『DSKノーズ』で業を嗅ぎ分けながら、慎重に進んでいく。効果範囲の狭いDSKノーズでも、視界が極端に遮られるこのような密林では、充分効果があるだろう。
    「アガルタの口に似た密林か」
     無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)は、風上からの匂いや地面の足跡に注意を向けていた。例え足跡がなくとも踏み固められた道があれば、そこは人が頻繁に行き来している場所ということになる。だが、今のところ地面には、そのような痕跡は見つからない。
    「今回はドーター・マリアの仕業っぽいけど、アフリカンパンサーも同様の戦場を用意していた事があったね。この密林、長期間残しておくと二重の意味で危ないかな?」
     理央の懸念が現実のものになるかどうかは、まだ誰にも分からなかった。

    ●原住民との遭遇?
    「まさか群馬がここまでGUNMAになるなんて……。しかし元々が秘境な為気付かれ難いとは……なんて天才的な発想なんだー!」
     マッピングしながら密林を見回していた玲が、棒読み気味に呟く。
     彼女達が密林に突入してから、既に1時間近くが経過していた。幸い今のところ罠や六六六人衆からの奇襲はないが、周囲を警戒しながらの移動にそろそろ皆の顔に疲労が見え始めてきた頃。
    「気を付けて! 何かいる!」
    「来るよ!」
     見桜とハノンが、ほぼ同時に叫んだ。DSKノーズで周囲を警戒していた2人だからこそ、他の灼滅者達よりも早く敵の気配を感知できたのだろう。
     直後、高速で飛来した何かが、最後尾を歩いていた唯織の肩を掠めていた。警告を受けて咄嗟に身をかわした故致命傷は避けたものの、肩からは鮮血が噴き出す。
     だが、唯織は自らの傷よりも、地面に突き刺さった飛来物に意識を奪われていた。それは、柄から刀身まで、全てが真っ赤に染められた槍。
    「赤い……槍、だと!?」
     それは、唯織の家族を惨殺した六六六人衆の獲物に、よく似た物だったのだ。
    「見つけた、そこか!」
     同じくDSKノーズを使っていた麗治が振り向きざまにウロボロスブレイドを振り下ろした。ウロボロスブレイドの先端が鞭のようにしなり、隠れようとしていた相手の腕に絡みつく。
    「これが原住民……もとい六六六人衆か!」
     密林の中から引きずり出されてきたのは、背中に複数の槍を背負い、奇怪な金属マスクと鎖帷子を着込んだ長身の怪人だった。
    「クカカ……六六六人衆が元序列382位、この投げ槍のジルバの一撃をかわすとは、見事じゃあないか」
    「あ、グンマーでも日本語通じるんだね。なら名乗らせてもらうよ。私は宇都宮餃子ヒーローの八重葎あき! これ以上の密林化はさせないよ!」
     あきは名乗りと共に宮島超十文字を六六六人衆ジルバに向け、光弾を撃ち出した。しかしジルバは腕をウロボロスブレイドに拘束されたまま、器用にその光弾を回避して見せる。
     続けて、
    「投げ槍使いなら、接近してしまえばもろいはず!」
     理央がフットワーク軽くジルバの懐に飛び込み、強烈なストレートを放った。だが、ジルバは鎖帷子を着ているとは思えない華麗なバックジャンプで、その一撃もかわしてしまう。
    「クカカカ、見え見えなんだよぉっ!」
     勝ち誇るジルバだったが、次の瞬間、その腹部に鋭く伸びたダイダロスベルトが突き刺さる。
    「……クカ?」
     そのベルトを辿っていけば、その先にあったのは鋭く光る一樹の紅い瞳。
    「他の六六六人衆が現れる前にさっさと片付けさせてもらう」
     そして、一樹がダイダロスベルトを手元に巻き戻すと同時、ハノンがWOKシールドを構えたまま、ジルバに突撃する。
    「もう一撃だ!」
    「クカカ、二撃も連続で喰らうものかよ!」
     絡んでいたウロボロスブレイドを強引に振りほどき、ハノンの攻撃を間一髪でかわしざま、そのまま密林に再び身を隠そうとするジルバ。
    「逃がさない!」
     そこへ、見桜の放ったリングスラッシャーが追いすがり、ジルバの背中を切り裂いていく。しかしジルバは鎖帷子で身を守りつつ、そのまま密林へ姿を隠してしまった。
    (「それでも、全力を尽くしたけどだめだった、なんて言いたくないからね」)
     素早く周囲に警戒の視線を向ける見桜。
     その時、
    「見つけたぞ、家族の仇!」
     唯織がそう叫ぶや、ジルバの消えた方角へ、抜身の日本刀を構えたまま駆け出していたのだった。

    ●赤い槍を持つ男
    「どの道短期決着狙いだ。十束の後を追って六六六人衆に畳みかけるぞ!」
     叫ぶや、麗治も唯織の後を追って駆け出し、残る灼滅者達もその後に続いた。
    「クカカ、固まって追ってきてくれるとは、良い的じゃあないか!」
     森のどこからか甲高い声が響き、次いで風を切る音が大気を震わせる。高速で飛来した槍は、どんなカラクリか飛行中に10本に分裂し、前方を駆けていた灼滅者達に同時に襲い掛かってきた。
    「その程度、ボクのこの拳で打ち落とす!」
     理央は森を駆ける勢いを殺すことなく、そのまま飛来する槍を拳で迎え撃ち、
    「流石六六六人衆。面白い芸を持ってるなあ」
     ハノンはWOKシールドを最大展開させて槍を弾いていく。さらに、玲の乗ってきたライドキャリバー『メカサシミ』もその車体を盾代わりに槍を受け止めていた。それでも、2本の槍が守りを掻い潜り、それぞれ唯織と見桜に突き刺さった。
    「大丈夫!? 仲間の危機は私が救う! ガイアパワーを籠めたヒールで皆を癒すねっ!」
     最後尾にいたあきがガイアパワーを込めた風を吹かせ、傷ついた仲間達を癒す間にも、唯織は自らの傷を顧みることなく突き進んでいく。
    「攻撃してくれれば位置は特定できる。そこだっ!」
     唯織が中段に構えた日本刀を一息に振り抜けば、軌道上にあった樹々が音を立てて倒れていき、そして、
    「クカカ、悪くない斬撃だが、視野が狭すぎるんじゃあないかな!」
     跳び上がって斬撃を回避したジルバが、そのまま真下にいる唯織目掛け槍を投じた。その槍が唯織を貫こうとした刹那。
    「そういうキミも、ちょっと視野が狭いんじゃないかなっ!」
     強引に二人の間に割り込んだ玲が、槍を受け止めていた。そして、
    「流石に空中では、器用に避けられないだろう?」
     自由落下に入ったジルバ目掛けて跳び上がった一樹が、落下の勢いを乗せた強烈な蹴りをジルバに浴びせ、その体を地面に叩きつける。
    「グカッ!」
     素早く受け身を取って立ち上がろうとするジルバだったが、それよりも見桜が仕掛ける方が早かった。
    (「私は誰かの幸せのために戦ってる。歌うときは自分と私の歌が届く人の両方のために歌ってる。だから、私は仇がいたとしてそれを討とうとは思わないだろうけど、そう言う気持ちになる人がいるのはわかる」)
     デモノイド寄生体の形作る巨大な刃が振るわれ、ジルバの体を大きく切り裂く。ジルバがよろめきつつ後退するのを牽制しながら、見桜は背後にチラッと視線を向けた。
    「せめて悔いが残らないように、あなたの思うようにやればいい。だけど、1人で突っ走らないで。私達8人で、この六六六人衆を倒しましょう」
     それは、家族の仇を討たんと焦る唯織に向けられた言葉。
    「……すまん、少し取り乱したみたいだ」
     唯織は自らを落ち着かせるように一旦大きく深呼吸すると、
    「確実にあいつを討つため、みんなの力も貸してくれ」
     そう言って、日本刀を構え直したのだった。

    ●密林の死闘
    「さあ、残党退治ガンバろっか」
     メカサシミに跨った玲が、再び密林に身を隠さんとするジルバに追いすがり、メカサシミの機銃で牽制しつつ『Key of Chaos』で斬りかかっていく。
    「クカカ、ちょっとしつこすぎるんじゃあないかな!」
     斬撃を赤い槍で受け止めたジルバが、笑いつつメカサシミを蹴り飛ばした。よろける玲とメカサシミを尻目に、再び駆け出さんとするジルバ。だが、
    「どこへ行こうというんです」
     いつの間にかジルバの背後に回り込んでいた一樹が、間髪を入れずにジルバにマテリアルロッドを突きつけていた。直後、発生した魔力の爆発が、ジルバを吹き飛ばす。
    「クカカ、やるじゃあないか!」
     それでもジルバは、後方に吹き飛びながらも手にした赤い槍を放った。避ける間も庇う間もなく、赤い槍は一樹を刺し貫く。しかし次の瞬間、
    「宇都宮餃子の名にかけて、私の目の黒い内は、誰も倒れさせないよ!」
     あきの放ったダイダロスベルトが一樹の体を覆い、赤い槍を引き抜くと同時にその傷口を塞いでいった。
     同時に、ハノンが着地直後のジルバへと、拳を叩きつける。
    「アンタ、十束さんの話の通りなら、弱い者いじめが好きなダメな大人だ。油断なく逃がさないように気をつけよっか」
     拳を捌きながらも後退する隙を探すジルバだったが、ハノンは相手に逃げる暇を与えぬよう、右、左と連続で拳を繰り出していった。
    「クカ、こりゃたまらん」
     ジルバは後方に大きく跳ぶことで、ようやくハノンの連撃から逃れる。だが、
    「お前の後ろへ後ろへと逃げる癖、もう見飽きたぞ」
     そこへ突進してきた麗治が、周囲の樹々ごと叩き折る勢いで、畏れを纏わせた無敵斬艦刀を振るった。
    「クカカ、効くものかよ!」
     その一撃を、手にした赤い槍で受け止めるジルバ。しかし、
    「面倒だ、その槍ごとたたっ斬ってやる」
     麗治の腕に力がこめられ、押し込まれた無敵斬艦刀はジルバの持つ槍の柄を、真っ二つにへし折っていた。
    「クカッ!? バカな!!」
     初めてジルバの表情に、焦りが浮かんだ。慌てて背中に背負った予備の槍に手を伸ばす。
    「その隙は、見逃さない!」
     そこへ、理央が大きく踏み込んだ。無防備になったジルバの頭部へ、強烈な拳撃を炸裂させる。
    「クガッ!?」
     強烈な衝撃によろめきながらも、ジルバは素早く背中から抜いた槍を投じた。たちまち槍は10本に分裂し、灼滅者達に襲い掛かる。
    「まだそんな力が残ってるなんて、腐っても六六六人衆だね」
     理央は腕をクロスさせて守りを高め、仲間達の盾となって立ちはだかった。そんな中、
    「その程度の目くらましで、私の足は止められない」
     見桜は一人、防御を捨てて特攻を仕掛けていた。槍に頬を割かれ腿を貫かれながらも剣を取り込んだ腕で体当たり気味にジルバへ斬りかかっていく。
    「クカカ、そんな悪あがきが!」
     だがジルバはその捨て身の攻撃を、紙一重の動きで横に跳び、かわしてしまった。それでも、見桜が浮かべたのは満足そうな表情。
    「後はあなたが自分の手で決着を」
    「任せろ。こいつだけは俺がケリをつけてやる!」
     見桜の背後から飛び出した唯織が、大上段に構えた日本刀を、ジルバ目掛けて唐竹割に振り下ろす。
    「クガッ!? バカなあっ!!!」
     その渾身の一撃は、ジルバの仮面を真っ二つに割るだけに留まらず、鎖帷子をも破壊して、その身を縦一文字に切り裂いたのだった。
     だが、その瞬間唯織は気付いてしまった。
    「……違う、こいつじゃねえ」
     ジルバの素顔は、彼の記憶に残る家族の仇の顔とは、似ても似つかぬものだったのだ。たまたま同じ特徴を持った武器を使っていただけの、赤の他人。
     落胆する唯織の肩を、見桜が励ますように叩く。
    「ともかく、六六六人衆を一人無事に討ち取り、群馬の平和を守ったんだよ! 後は迅速に撤退して生還することが、私達の役目だよ」
     仲間達の傷を癒し終えたあきが、一同に撤退を促した。
    「秘境群馬か……噂に違わぬ恐ろしい場所だった」
     アリアドネの糸を辿って密林を抜け出した麗治は、最後にもう一度背後を振り返ると、そう呟いたのだった。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年10月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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