●
山梨県の山間部にて、グラン・ギニョール戦争で撤退した、六六六人衆序列2位、マンチェスター・ハンマーと配下の軍勢が西へ西へと移動を続けていた。
軍勢の先陣を務めるのは、防火服を身につけ殺人トーチで山林を焼き払って道を切り開く、デストーチャー達。
「山バカリ、人イナイ。人間コロセない」
デストーチャー達の不満の声に、マンチェスターはぶっきらぼうに応える。
「しゃーねーだろ。あたしらは負けたんだからよぉ」
と。
勢力首魁のパラベラム・バレットだけでなく、六六六人衆の組織の要であったランキングマンを失った今、六六六人衆が再び元の強勢を取り戻すことが不可能なのは間違いない。
「……アタシ達、これからどうすればいいのですかえ?」
薔薇の花に埋もれたドレスを翻して山道を歩く貴婦人たちが不安そうに囁くが、マンチェスターは自明の理であるように答えを説く。
「そんなもん、決まってるだろ。相手が嫌な事をすればいいんだよ」
「さすがは、マンチェスター様というべきでしょうか?」
「きぃーひひ。嫌なことはいいねぇ。はやくやりたいねぇー」
その答えに、体中に刃物を装備したサウザンドブレイド達も、尊敬と諦観を混ざり合わせた声で頷き、殺人ドクター達が不気味な笑顔を浮かべて、マンチェスターを仰ぎ見た。
丁度良い機会だと思ったのか、マンチェスターは、歩みを止めると、配下の者達に、これからの方針について説明を始めた。
「ということで、あたしらはナミダ姫に合流する。ナミダ姫の居場所はわからんし、連絡を取る方法も無いが……、ブレイズゲートを制圧してナミダ姫が喰らえるように準備してやれば、きっと食いついてくるさ」
「ブレイズゲートでナミダ姫釣りというわけですね。更に、ブレイズゲート制圧に協力して恩もお売りになる」
リストレイター達が、マンチェスターの方針に大きく賛同するが、マンチェスターの方針はそれだけでは無かった。
「それにな、あたしの予想では、あいつらの次の標的はナミダ姫になるのさ」
ドヤ顔でそう言い切るマンチェスター。
「そこは、ヴァンパイアじゃないんすか?」
ブッチャーマン達がそう聞いてくるが、
「いーや、ナミダ姫だよ。強敵と戦うのにこりて、弱いところからプチプチしたくなる。人間は、そんなもんさ」
それに……と、マンチェスターはもったいを付けた後に続けた言葉に、配下達はさすがはマンチェスター様と尊敬を確かにしたのだった。
「簡単さ、あたしらがナミダ姫に合流した上で、あちこちの勢力と協力しまくるのさ。せっかく、弱小勢力を狙ったのに……悔しがる声が聞こえてくるよ」
この日、マンチェスター・ハンマーにより世界救済タワーが制圧されたのだった。
●
「今回の投票の結果、ヴァンパイアと僅差だったけれども、スサノオに対してサイキック・リベレイターを使用した結果、厄介な問題が起きていることが分かったよ」
北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が複雑な表情のままに告げた其れ。
彼の目の前に置かれているのは、『塔』の正位置のタロット。
「グラン・ギニョール戦争で撤退した六六六人衆序列二位、マンチェスター・ハンマーがスサノオ勢力に合流するべく、山梨にある世界救済タワーを制圧した、という問題がね」
溜息と共に呟かれた優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情を浮かべている。
ジョン・スミスを初めとして六六六に人衆が其々のやり方で行動している事実を伝えようとしているかの様に、溜息をつきながら優希斗がそんな灼滅者達を見つめていた。
「マンチェスターは、どうやらブレイズゲートである世界救済タワーの制圧を手土産に、ナミダ姫と合流しようとしているみたいでね、其れを知ったナミダ姫が配下のスサノオと共に世界救済タワーに向かっているらしいんだ」
もし、ナミダ姫とマンチェスターが合流しナミダ姫が世界救済タワーを喰らえば、その戦力は更に増加し、黄金闘技場決戦と同等か、下手したらそれ以上の作戦が無ければ対抗が難しくなる。
しかも流石と言うべきだろう、ナミダ姫は世界救済タワーを喰らうのに成功すれば早々に撤退する。
「もしかしたら、皆が相手取るうえで一番手強い相手なのかも知れないねナミダ姫は。皆の事をよく知っているだけに、その動きに隙が無い」
故に、仮にこの場でナミダ姫との決戦の準備を整えていても其れは不可能だ。
「とは言え、ただ手をこまねいて見ている訳にも行かないだろう。少なくとも、マンチェスターと、彼女の率いる戦力を減らすだけでも、今回の戦いには意味がある」
そこで考えられたのが下記の作戦である。
「いつもの手と言えばいつもの手、なんだけれどね。少数精鋭の部隊による強襲作戦で、スサノオ達が増援としてやってくる前にマンチェスター・ハンマー軍に襲撃を掛ける」
マンチェスター本人を灼滅出来る可能性は低い。
だが、マンチェスターの戦力を削ぐことそれ自体がナミダ姫の戦力を削ぐことに直結する為、結果として意味が出てくる。
「……皆、この作戦に参加して貰えないだろうか?」
優希斗の問いかけに、灼滅者達が其々の表情で返事を返した。
●
作戦の概要としては少数精鋭による強襲で敵の前線を突破、マンチェスター・ハンマーの灼滅を目指す流れになる。
その為には、灼滅者達が前線を突破しなければならない。
「この班で皆に担当してもらう前線を防衛する敵は、薔薇の貴婦人と殺人ドクターの2体になる」
尚、薔薇の貴婦人はジャマーであり、殺人ドクターはスナイパーとして行動してくる様だ。勿論、どちらも強敵である。
「皆には2体のダークネスと戦いつつ、マンチェスターとの決戦に向かう者を突破させることになる」
当然、その分戦力が落ちる為、苦戦は免れない。
しかももしこの戦いで敗北すれば、2体のダークネスが世界救済タワーに造園として現われてしまう。
「敗北しなくとも、戦闘不能者が多く出たらダークネス達はどちらか一体が足止めに残り、もう一体が世界救済タワーに向かうことになるだろう」
つまり、マンチェスターを灼滅するならば、戦線を維持してかつ敵を増援に向かわせない戦いが必要になるということだ。
「状況によっては、突破を諦めて増援を阻止する事に全力を尽くすというのも一つの手、だろうね」
尚、タイムリミットはスサノオ勢力の到着までとなる。
「スサノオが現れたら先ず敗北は免れないから、速やかに撤退するんだ。スサノオの姫ナミダの性格上、撤退するみんなを追撃することはないだろうから、撤退自体は安全にできるはずだからね。……決して、命を無駄にしちゃ駄目だよ?」
優希斗の言葉に灼滅者達がそれぞれの表情で頷いた。
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「さて、皆に戦ってもらう薔薇の貴婦人と殺人ドクターだが、六六六人衆だけあって流石に手強い。どちらか片方だけでも、皆を相手取るには十分な強さを持っている」
薔薇の貴婦人は毒による攻撃を得意とする一方、殺人ドクターは単純火力に特化されている。
ポジションの構成の嫌らしさがそれを助長するだろう。
「だから、この2体の灼滅ではなく、決戦に向かう仲間を突破させた上で、決戦終了まで戦線を維持して増援を阻止することが重要だ。勿論、灼滅してもらっても構わないけれどね」
とは言え、灼滅をするために無理をして結果として増援が阻止できなければ本末転倒も甚だしい。
如何にして自分達がアドバンテージを取っていくか。
最大の勝機は、おそらくそこにあるだろう。
「ヴァンパイアの様な強大な勢力ではなく敢えてスサノオ勢力に合流して此方に徹底的にいやがらせをしてくるマンチェスター・ハンマーは正直本当に厄介な的だと思う」
とは言え、時間制限もある以上、彼女を灼滅出来る可能性は高くない。
――それでも。
「ここでもし彼女を灼滅できれば、今後の戦いに大きな影響を与えられる筈だ。ジークフリート大老やパラべラム・バレットを灼滅出来た皆なら可能性はある」
――だから。
「どうか、最善を」
そう呟く優希斗に背を向けて。灼滅者達は静かにその場を後にした。
参加者 | |
---|---|
ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039) |
レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162) |
神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262) |
鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382) |
白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044) |
獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098) |
エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318) |
柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607) |
●
(「リベレイターでスサノオよりも早くマンチェスターが予知に引っかかるとは微妙な感じね」)
エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)が目の前の2体のダークネスと対峙しながらそう思う。
色とりどりの花を飾った漆黒のドレスに身を包んだ女が優雅にお茶を飲みながら、まるで今気が付いたかのように此方を振り向いた。
「お客様がいらっしゃったようですわね」
「キヒヒッ」
優雅にふわりとその場に立つ薔薇の貴婦人とその後ろで巨大なチェーンソーを構える殺人ドクター。
「天摩さん、エリノアさんにレイさんも頼りにしているからね!」
「分かっているっすよ、柊さん」
柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)の呼びかけに、肩の力を抜いて微苦笑を零す獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)。
ただ、その身に帯びている強い殺気と笑みは今まで玲奈やレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)が見てきたものとは異なっている。
(「獅子凰、其れがお前の全力と言うことか」)
レイが内心でそう思いつつ、前に向き直る。
(「ミドガルドが居ない、か。それでも頼りにさせて貰うぜ」)
後ろから刺されたあの時にいたライドキャリバーの存在がないことに気が付き鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)が僅かに目を細める。
それでも、天摩が頼りになる戦友であることには変わりないが。
「これ以上、すきかってさせない。ヤナにはヤナを思ってくれる人がいるから」
白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)が後方に控えるジェードゥシカへと目配せ。
「さて、先ずは前座との戦いと行きやすか。……殲具解放」
ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が無敵斬艦刀『剥守割砕』を抜く。
其々に覇気を見せる脇差達を見て神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)が鷹揚に頷き、左甲に嵌めたコイン状のWOKシールドを解放し、不敵な笑みを浮かべてチャイナドレスを翻した。
「貴様達に私達を止められると思うなよ、ダークネス」
摩耶の号令と共に脇差達は一斉に行動を開始した。
●
「先ずはちょっとしたご挨拶ですわ」
何処か声を弾ませながら貴婦人が衣服の全身から風を放つ。
放たれた風は薔薇の様な芳醇な香りを漂わせ。
「守る、から」
夜奈がギィの、摩耶がエリノアの前に立つ。
摩耶は続けてコイン状の盾で紫色の薄い膜状の結界を張った。
「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
エリノアが水晶の刀身を持つBlaue Biltzの先端から凍てつく氷の弾丸を放ち、殺人ドクターの肩を凍てつかせ。
「行くぜ」
脇差が貴婦人の懐に踏み込み、その足を斬り払った。
「天摩さん、レイさん任せたよ!」
玲奈が夜霧隠れ。
「任せるっすよ、玲奈さん」
霧の向こうから天摩がストールの様に巻かれていた漆黒の布ベルベットディスティニーに古代文字を浮かび上がらせ放つ。
首を締め上げてくる其れを貴婦人が振り解いた直後レイもダイダロスベルトを射出。
今度は貴婦人の腕を締め上げる。
貴婦人がそれを振り解くのを遮る様に藤紫チューリップの留め具から外した月白の帯、花顔雪膚を夜奈が毒に蝕まれ少しだけ苦痛の表情を浮かべながら放って反対の腕を締め上げ、更にジェードゥシカが接近して手に持つ杖で貴婦人を殴打。
両腕の帯を解いた貴婦人にギィが真正面から無敵斬艦刀『剥守割砕』を振り下ろして袈裟懸けにその身を斬り裂く。
「キキッ!」
後退しようとしたギィへと接近して手に持つチェーンソーでその身を斬り裂こうとする殺人ドクター。
けれどそこに割って入ったのは摩耶。
「貴様の思い通りになると思うな」
摩耶がコイン状の盾から紫の結界を発して叩きつけようとするがその時には既に殺人ドクターは後退し薔薇の貴婦人と入れ替わっている。
「私の事を忘れて頂いては困りますわよ?」
右手に持つ鋏で結界を断ち切る薔薇の貴婦人。
咄嗟に下がる摩耶へと殺人ドクターが五連メスを投擲。
だが、その時には夜奈が壁となっていた。
「! 夜奈さん、大丈夫?!」
玲奈がダイダロスベルトで夜奈を覆いその傷を癒していく。
「ありがとうね、レイナ」
小さく礼を告げながら夜奈が花顔雪膚を摩耶へ。
月白色の暖かな光が帯の内側から放たれ摩耶の体を瞬く間に癒していく。
「レイ、天摩」
摩耶がソーサルガーダーで夜奈を回復しながら告げた指示に天摩が頷きを返して悪魔の刻印を持つ十字型突撃銃『トリニティダークXX』に聖歌を奏でさせながら貴婦人を撃ち抜いてその身を凍てつかせ、レイが十字架戦闘術。
クロスグレイブと共に放たれた殴打の直撃を避ける貴婦人へ、脇差が黒いミリタリーブーツ【黒雨】で戦場を駆け抜けて発生させた黒い炎を放ってグラインドファイア。
「あら、これ、私のお気に入りのドレスでしたのに」
「なら、そのドレス事焼き尽くしてやるっすよ!」
舌打ちする貴婦人に向けて黒い炎を纏った無敵斬艦刀『剥守割砕』を振り下ろすギィ。
だが、その攻撃は鋏によって受け止められた。
「同じ技を受けるほど、私は甘くなくてよ」
お返しとばかりに懐に潜り込みギィに鋏を突き刺そうとする貴婦人。
エリノアが咄嗟にギィに体当たりをして入れ代わりその刃に身を貫かれて喀血する。
「やってくれるわね!」
エリノアが紅蓮斬で貴婦人の肩を斬り裂きその血を啜り。
ジェードゥシカが霊障波で貴婦人に蹈鞴を踏ませた。
(「そろそろか」)
時間を確認し脇差が内心で呟く。
「鈍、ギィ、白星」
セイクリッドクロスを薔薇の貴婦人に放ちながらレイが小声で呟き天摩が笑みを浮かべながらOath of Thornsで駆け抜けグラインドファイアを貴婦人に叩きつけ。
「倒れなさい!」
エリノアが殺人ドクターへと妖冷弾を放ち摩耶が彗星の如き速さの一射を殺人ドクターに放つ。
「ギィさん、脇差さん、夜奈さん、頼んだよ!」
殺人ドクターによるエリノアへの切断手術を玲奈がダイダロスベルトで相殺。
「了解っす!」
「後は頼んだぜ」
ギィと脇差が大回りで敵の脇を駆け抜け夜奈が殿を走る。
ジェードゥシカも背面からの攻撃に備えて反転して前に飛び出した。
だが……。
「カカカッ」
ドクターの笑い声に頷き貴婦人が薔薇の香りを周囲へと吹き荒れさせる。
「摩耶さん、エリノアさん!」
まともに香りを吸い込んでしまった摩耶とエリノアが毒で咽、玲奈が祖父から受け継いだ漆黒の刀怨京鬼を頭上に翳して清浄なる癒しの風で毒を払う。
「おっと、逃げるんすか? そんな事だから負けるんすよ。ナメてるんすか?」
天摩の挑発に応じず脇差達を追う2体の六六六人衆。
「マンチェスターを優先するか。急がなければな」
レイが祭霊光でエリノアを癒しながら呟く。
「急ぐぞ」
摩耶の指示に従い玲奈達は駆け出した。
●
「くそ、振り切れないか!」
後ろから尚喰らいついてくる貴婦人たちに気が付き脇差が舌打ちを一つ。
タイミングは決して悪くなかったがどうやら敵の方が一枚上手だった様だ。
「大回りすれば振り切れるかと思いやしたが一歩及ばなかったみたいっすね」
ギィが攻撃に転じるべく振り返ろうとしたその時。
貴婦人に向けてジェードゥシカが杖を振るい夜奈が花顔雪膚で殺人ドクターの足元を抉った。
「ギィ、ワキザシ。ここはヤナが」
「白星」
「いいんすか?」
脇差とギィに頷く夜奈とジェードゥシカ。
「レイナやテンマ達は必ず来る。あの時もそうだったから」
班こそ違えど一度はフォルネウスと共に戦った間柄だ。
あの時も最善のタイミングで玲奈達は合流してくれた。
今回もきっと来てくれる。玲奈達は、仲間だから。
「……分かった。頼んだぜ」
「夜奈さんの分もきっちり殴って来るっすよ」
脇差とギィが背を向け立ち去ろうとするのを妨害するように殺人ドクターが五連メスを投擲し、貴婦人が肉薄し鋏で切り裂こうとするがメスの全てをジェードゥシカが受け止め、鋏の一撃を夜奈が受けきり喀血する。
毒の回りが早く膝をつきそうになるが魂を凌駕させ強引にその場に立ち続ける夜奈。
「少し、でいい。ヤナ達が耐え抜く」
「ケケッ」
殺人ドクターが傷だらけの夜奈に向けてチェーンソーを振り下ろすが、ジェードゥシカが壁となり霊衝波。
咄嗟に後退する殺人ドクターを後目に貴婦人が再び薔薇の香りを放つ。
放たれた其れがジェードゥシカと夜奈を蝕み夜奈が堰きこみながらかつてガイオウガと一体化し燃え尽きたアオボシの光で傷を癒そうとするが、貴婦人の鋏による一撃に相殺され足元をよろけさせる。
その隙を見逃さぬとばかりに殺人ドクターが五連メスを投擲。
ジェードゥシカがその攻撃を受け止めるが続いた貴婦人の鋏に斬り裂かれ消滅。
「ありがとうね、ジェードゥシカ」
告げた瞬間殺人ドクターのチェーンソーに斬り裂かれ夜奈の意識が薄れかけたその時。
「もう、あの時と同じ過ちは繰り返さないっす!」
叫びと共に天摩が貴婦人をトリニティダークXXで突き刺した。
「好きにはさせない」
レイが十字架戦闘術で貴婦人を叩けば。
「もう、抜かせはしないぞ」
夜奈を庇う様に駆け寄りながら摩耶が彗星撃ちで殺人ドクターを射抜き。
「お返しよ!」
エリノアが妖冷弾で殺人ドクターの身を凍てつかせ。
「夜奈ちゃん、頑張ったね」
優しく微笑む玲奈が夜奈を労り怨京鬼を翳し聖なる風を吹き荒れさせる。
その風の温もりに包まれながら夜奈はゆっくりと意識を失っていく。
「みんな、まかせた」
そう、囁く様に告げながら。
●
――10分。
(「何処まで持ち堪えられるか……」)
夜奈を玲奈に任せて数分。
レイが祭霊光で摩耶を癒しながら状況を観察している。
現在はまだ持ち堪えているが消耗が激しい。
貴婦人により放たれる毒が確実に体力を蝕んでいるのだ。
「皆、大丈夫だよ!」
玲奈が励ましながらセイクリッドウインド。
暖かな風がエリノアと摩耶を蝕む毒を解除するが其れにも限界がある。
「ウフフ……楽しくなってきましたわ」
左手に持つティーカップを飲み干しながら貴婦人が微笑を浮かべている。
だが、貴婦人の息遣いも荒い。
「なんで相棒のミドガルドを眠らせて、オレの眠ってた本来の力を引き出したか分かる?」
強がりの様に笑う貴婦人に飄々と問いかけながら、Oath of Thronsで回し蹴りを叩きつける天摩。
既に足元が覚束なくなってきている貴婦人が全身を焼かれながら首を傾げている。
「どうしてかしら?」
「アンタらととことん殺し合う為っすよ!」
鱶の様に笑う天摩へと、殺人ドクターが五連メスを投擲。
摩耶が天摩を庇って貫かれながらソーサルガーダーで自らを癒し不敵に笑った。
「……貴様の敵は、私だろう?」
「キキキッ」
殺人ドクターへとエリノアが妖冷弾。
(「敵の事……甘く見てたわね……!」)
幾度目かの其れが殺人ドクターの足を凍てつかせるが貴婦人に比べて遥かに余裕が在りそうだ。
「さあ、アンタらの事教えてよ」
「良いですわよ。……貴方方が物言わぬ屍となった後ですがね!」
天摩の問いに笑いながら自らの衣服に縫い付けてある薔薇を放出する貴婦人。
棘の突いた深紅の花弁が天摩とレイを蝕んでいく。
「そうこなくっちゃね!」
棘が突き刺さった皮膚から流れ落ちる血に全身を朱に染めながら天摩が笑みを崩さずトリニティダークXXで貴婦人を串刺しに。
「そんな攻撃なんかに私達は負けないよ!」
玲奈が叫び怨京鬼を天に掲げて天摩達を癒していく。
「まだ、倒れるわけには行かないからな」
レイが逆十字の光を放ち貴婦人を貫いた。
「キキキッ!」
貴婦人を叱咤するかの様に殺人ドクターが笑い声を上げながらレイに向けてチェーンソーを振り下ろすべく肉薄。
毒を癒された摩耶がその前に立ちはだかりコイン状の盾を持って受け止めるが体に重く圧し掛かる。
「エリノア!」
「いい加減に倒れなさい!」
摩耶の指示にエリノアが閃光百列拳を叩き込もうとするがその時には貴婦人が前に立ちその攻撃の猛打を受けている。
まだ完全に抜けきっていない毒が全身を苛みエリノアは眩暈を起こして足元をふらつかせた。
「私、これでも結構しぶといのですわよ?」
怪しげに微笑みながら貴婦人が放った鋏がそんなエリノアの胸を深々と抉る。
「ゲホッ……?!」
抉られながらもエリノアは辛うじて立つが殺人ドクターが五連メスを投擲。
玲奈がダイダロスベルトで其れを迎撃しようするも落としきれず、摩耶も疲労で僅かに反応が遅れメスがエリノアの胸と腕を貫いた。
「してやられたわね……」
限界が来てその場に膝をつき崩れ落ちるエリノア。
「柊」
レイがエリノアを玲奈の方へと下げながら体に回る毒を血と共に吐き捨て十字架戦闘術。
その猛打を受けても尚踏み止まろうとする貴婦人だったが……。
「それで終わりじゃないっすよ!」
笑みを浮かべた天摩がレイの隙を潰す様に黙示録砲。
聖歌を奏でた砲弾が悲鳴と共に貴婦人を灼滅する。
「後は貴様だけだな。此処までてこずらせてくれた礼をさせて貰うぞ」
告げながら摩耶がシールドバッシュ。
紫の結界による容赦のない殴打が殺人ドクターに痛烈な一撃を与えるが彼を灼滅するにはまだ遠そうだった。
●
――15分。
「カカッ!」
未だ健在の殺人ドクターが切断手術を行うべく刃を振り上げ摩耶の肩から脇腹にかけてを深々と斬り裂く。
「ぐっ……」
これだけの長期戦だ。
限界間近の状態でのこの一撃は重く摩耶は凌駕をして辛うじてその場に立つ。
そんな摩耶に止めを刺すべくメスを放とうとする殺人ドクター。
だが……。
「とことんまで、楽しもうっすよ!」
毒に蝕まれ傷だらけの天摩が血を吐き出しながらグラインドファイア。
標的を咄嗟に切り替えた殺人ドクターが投げつけたメスが天摩のゴーグルを破壊しその破片が片目を傷つけ、4本のメスが四肢を貫く。
それでも尚放たれた炎の蹴りは殺人ドクターを捕らえていた。
だが灼滅には至らない。
「流石にこれ以上は厳しい、かな」
玲奈が息を切らせている。
夜奈やエリノアについては言わずもがなだ。
(「流石にこれ以上は持たないか」)
動けなくなった天摩を見ながらレイが咄嗟に考えを巡らせる。
摩耶も同じ結論に至ったようだ。
「神崎」
レイの言葉に摩耶が頷く。
これだけ時間を稼げば敵が今から増援に行ってもマンチェスターとの決着には間に合わないだろう。
そして此方も既に3人が倒れ毒に体を蝕まれ浅くない傷を負っている。
これ以上の戦いは危険すぎるし意味も薄い。
(「出来ればスサノオが来るまで持たせたかったがこれが限界か」)
そう結論付けた摩耶が告げる。
「撤退するぞ」
「分かったよ、摩耶さん!」
玲奈が夜奈とエリノアを抱えレイが天摩を抱える。
そして玲奈がジャッジメントレイを放つのを合図に灼滅者達は鮮やかにその場を退いた。
作者:長野聖夜 |
重傷:白星・夜奈(星望のヂェーヴァチカ・d25044) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年10月20日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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