放浪のリビングデッド

    作者:長野聖夜

    ●放浪の果てに
    「透流……ぼくはお前を絶対に許さない」
     白を基調とした衣服を着服し、前髪を下ろし目元を隠した女が呟きながら、蒸し暑い密林地帯へと足を踏み入れている。
     ――ぼくには、もう。
     何も残っていない。
     透流によって、自分に役割と罪と死人の名前を押し付けた挙句に奪われ、その上グラン・ギニョール戦争でぼく達の拠り所でもあった序列制度すら崩壊した。
    (「せめて……」)
     透流の魂だけでも奪い取る。
     それで漸く、自らのレゾンデートルを確立できる。
     その為に、マンチェスターの力が必要になるだろう。
     故に、ハヤセは放浪する。
     そして、漸く自らの目的を達する手掛かりを掴めそうな場所にやってきた。
    (「ここならば……」)
     何らかの情報が得られるに違いない。
     思いながらゆっくりと密林へと足を踏み入れた、刹那。
     ズキューン!
    「あ……れ……?」
     周囲に飛び散る血飛沫。
     ……胸から滴り落ちる夥しい量の血。
    『標的に命中』
     淡々とした呟きと共に数人の男女が彼女を取り囲む。
    「ハハッ、馬鹿な話だな」
     ――六六六人衆であればこの可能性は十分あり得たはずなのに。
     そのことをすっかり忘れていた。
     それとも……忘れた振りをしていたのか?
    「――お前達、名前を、聞かせろよ」
     霞む視界の中で六六六人衆に問うハヤセ。
     答えは、無数の武器が風を斬る音。
     無数の武器に貫かれ……ハヤセは血溜まりの中に倒れ伏した。
    (「これが……ぼくの結末か……」)

     ――諦念をその心に抱きながら。

    ●密林の中を駆け抜けて
    「……捕捉できたのは良いが、厳しいな」
    「ゆ~君、どうしたの?」
     強張った表情で溜息をつく北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)へと南条・愛華(お気楽ダンピール・dn0242)が問いかける。
    「ああ。グラン・ギニョール戦争で闇堕ちした透流さんが何処にいるかが分かったんだが……場所が悪い。彼女は今、群馬県に発生した密林地帯に向かっている」
    「それって、今話に出ているアガルタの口っぽくなっているって言う?」
     愛華の問いかけに顔を顰めた優希斗が頷く。
    「そうだ。どうやらマンチェスターの行方について情報を求める間に六六六人衆がいそうな場所を突き止めたみたいだね。だけど、俺に視えたのは……」
     その密林に潜む六六六人衆に殺される、彼女の姿。
     優希斗の表情の意味に気が付き、愛華が思わず息を飲む。
    「それじゃあ、透流さんは……」
    「幸いと言うべきだろうね。今介入すれば密林の六六六人衆に殺されるより前に透流さんに会うことが出来る。但し、制限時間はあるけれどね」
     彼女と戦い始めて7分。
     その間に彼女を救出または灼滅出来なければ、騒ぎに気付いた密林の六六六人衆に襲撃を受ける。
     しかもその時に狙われる可能性が高いのは透流……今はハヤセと名乗っている様だが……であろう。
    「そこで彼女は殺されるだろう」
     つまり、救う為の持ち時間は、7分しかない。
    「かなり厳しい任務になるだろう。それでも皆……彼女のことを何とかして貰えないだろうか?」
     優希斗の言葉に、灼滅者達はそれぞれの表情で返事を返した。

    ●疾風の如き決着を
    「今回の件、灼滅するのは難しくない。六六六人衆に殺されるから」
    「……ゆ~君……」
     やや非難めいた眼差しを浮かべる愛華に優希斗が首を縦に振る。
    「勿論、そんな結末にさせたくないから皆に集まって貰ったんだ」
     透流はかつて巻き込まれた事件で死亡した友人の亡霊が自分のダークネスとなった、と信じていた。
     だが、明確に亡き友人とダークネスは別人と折り合いをつけることでダークネス人格たる彼女に勝利し、灼滅者へと戻ってきた。
     故に、ダークネス人格は自らのレゾンデートルを失い、透流に深い憎悪を覚えた。
     ただ名のりようがないので、彼女自身は一応ハヤセを名乗っている。
    「ハヤセは、解体ナイフ、影業のサイキックと闇に輝く裁きの光を使いこなすことが出来るそうだ」
     ハヤセが求めたのは、自己のレゾンデートル。
     故に、透流と、透流の魂を消すための手段を求めて放浪し、マンチェスターにそういう能力があるのでは? と推測を立ててその行方を追っていた様だ。
    「ただ、こういう状況ならば、透流さんに強く呼び掛ければ彼女を救えるチャンスは十分訪あると思う」
     尚、ハヤセのポジションはクラッシャー。
     よく喋り、透流の知人がいればその人を言葉で弄り、積極的に攻撃を仕掛けてくる可能性も高い。
    「じゃあ、ゆ~君、私の役割は……」
    「ああ。透流さんに皆の声を届けてもらうことにある」
     尚、密林地帯の六六六人衆が現れハヤセを殺している間であれば安全に撤退は可能だ。
    「つまり灼滅を狙う必要はない」
     とは言え透流を救えるのはこの1回限りである。
     7分で如何に説得しハヤセを倒すのかが鍵となるだろう。
    「どうか皆、よろしく頼む」
     優希斗の一礼に背を向け愛華と灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    芥川・真琴(炎神信仰の民・d03339)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    サフィ・パール(星のたまご・d10067)
    諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)
    イヴ・ハウディーン(ドラゴンシェリフ・d30488)
    華上・玲子(甦る紅き拳閃・d36497)
    松原・愛莉(高校生ダンピール・d37170)

    ■リプレイ


    (「2人揃って戻って欲しいから、少し無理するわ」)
     松原・愛莉(高校生ダンピール・d37170)が帽子を探しながら自分の中の決意を確かめる。
    「槌屋ちゃんの帽子、見つかるかな」
     芥川・真琴(炎神信仰の民・d03339)が愛莉を見過ごしながら帽子を探している。
     可能なら温かな熱を持つ光を与えたいのだが、今は其れよりも大事なことがある。
    「ったく、ちょっと目を離したすきにふらっと居なくなりやがって。ほんと、妙な所で似た者姉弟だぜ」
    「柳瀬の兄さんも人の事言えないと思いますやがな」
     柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)が槌屋・康也をちらりと見やるのに諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)が冗談めかした笑みを浮かべながら呟く。
     周囲を警戒している阿剛・桜花や、康也等も同感であろう。
    「ありましたよ!」
     そんな中で南条・愛華(お気楽ダンピール・dn0242)と共に帽子を探していた羽柴・陽桜が声をあげた。
     その手の中に収められている黒い帽子。
    「これは、真琴さんに渡しておきますね」
     帽子を渡す陽桜に、真琴がぼんやりと頷き大事そうに懐にしまう。
    「ほんじゃあ、南条の姉さんにはメディックをお願いしますわ」
     伊織の言葉に頷いた愛華が愛莉へと耳打ち。
    (「雄哉さんも、透流さんもきっと大丈夫。今は肩の力を抜いて皆を守ってね」)
    「……ありがとう」
     そのまま愛莉の肩を軽く叩き去る愛華。
    「よし、行くぜ」
     聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)の促しに、高明達は戦場へと向かう。

     ――槌屋・透流と共に皆で帰る為に。


    「槌谷先輩、そろそろ帰ろうか?」
     そうハヤセに尋ねたのはイヴ・ハウディーン(ドラゴンシェリフ・d30488)。
    「迷子の姉さん。またお迎えに来ましたぇ」
    「久しぶりだな『名無し』」
     続けられた伊織と凛凛虎の挨拶にハヤセが足を止め振り返る。
    『……また、お前達か。あの自分を放り出したかっただけの臆病者を助けようとした軟弱者』
    「誰かが哀しむのは見たくないでふ! だから、助けに来たでふ、透流さん!」
     華上・玲子(甦る紅き拳閃・d36497)の気迫に合わせて白餅さんがなのっ! と張り切って鳴いた。
    「助けに来た、ですよ……」
     ちゃんと、お話したこと無いので出来る事微力だけれど。
     でも、今の儘では、透流さんも、ハヤセさんも悲しいだけ。
     割切れないものは、確かにあるから。
     だから……サフィ・パール(星のたまご・d10067)は此処にいる。
     何時の間にか敷かれていた包囲網を見てハヤセが静かに問いかける。
    『お前達、名前を、聞かせろよ』
    「初めまして、イヴと申します。よろしくお願いいたします」
    「華上・玲子でふ」
    「サフィ・パール、です」
     イヴと玲子とサフィの名乗りに頷きハヤセがナイフを逆手に構え。

     ――戦いは、始まりを告げた。


    「1人で勝手に無茶しやがってそんなん教えた覚えはないぞ俺は!」
     魂の底から叫んでハヤセの腱に肉薄し鋭い手刀を浴びせかける高明。
     ガゼルがそれに連携して機銃を掃射し弾幕を張っている。
    『まだ、そんなこと言っているの? 透流はぼくに全てを押し付けた上、最後には其れすら奪った臆病者だよ?』
     呟きと同時に放たれた爆発的な殺気。
     それは、イヴ達前衛に突き刺さる。
    「ほんま手のかかる姉弟やわ」
     愛莉に庇われ飄々とその影から飛び出し帯を解き放つ伊織。
    「透流はもう過去とケリつけたんだよ。引き止める亡霊はもういねぇ!」
     高明の反論に動きを止めたハヤセの足を伊織の帯が絡め取りそのまま締め上げる。
    「槌屋の姉さんも聞こえてはるんやろ? あちらさんはあんたがすべてを奪った、やゆうてますけど、どないなんです? その闇も、葛藤も、乗り越えたものも、全てひっくるめてのあんたなん違いますかぃ?」
    『あいつにそんな言葉が聞こえるわけないだろ』
     嘲る様に答えるハヤセだがその表情には何処か陰りがある。
     それは果たして説得に透流が応じているのか、それともハヤセの声無き慟哭か。
    (「だとしたら……それは、とても悲しい事、です」)
     聖歌を奏でつつ凍てつく弾丸を撃ちながらサフィは思う。
     多くの人はダークネスを倒すべき敵、と考えている。
     でも、お話が出来るダークネスもいたのだ。
     そう……エトの様に。
    「透流さんが憎い……ですね。でも、切ることが出来ないからこそ、嫌い合うではなく、歩み寄れないかな思うです」
     エルの六文銭射撃がハヤセを撃ち抜く様を見ながら告げるサフィの言葉に首を傾げるハヤセ。
    「もし他の出会い方が出来たなら言い分を聞いても良いけれど、キミが表にいる限り槌谷ちゃんは戻って来れないから、さ」
     その隙を見逃さず真琴が静かに告げながら入門用機械刑具Code:Chapelを輝かせる。
     聖歌を輪唱する呪縛の光がハヤセの足を締め上げ容赦ない打撃を与えた。
    『グッ……』
    「遠慮なく否定させて貰うよ、名前も無く生きていない、寝穢い誰か」
     突き刺さる鋭い言葉の棘に、ハヤセの表情が怒りに満ちる。
    「透流さんの意識は透流さんのもの。透流さんから奪い取っても、『奪ったものが闇の貴方になる』ことは決してないわさ」
     玲子が告げながらフォースブレイク。
     圧倒的な熱量を抱えた魔力の爆発がハヤセを嬲り白餅さんが続けて竜巻を呼び起こす。
     それはナイフで斬り裂くハヤセだったが、その隙をついてイヴが死角から日本刀を振り上げた。
     振り上げられた其れがハヤセの左足を斬り裂き、ハヤセの表情が苦痛に歪む。
    「バッドエンドはぶっ潰す! これはこわしや8代目を襲名したオレの意地と灼滅者としての矜持だ。男に二言はねぇ!」
    『ぼくを倒せば本当にハッピーエンドになるとでも?』
    「ここがお前の居場所だ、存在を刻んで見せろ!」
     凛凛虎が抗雷撃。
     雷を帯びた正拳がハヤセの胸を突き、一瞬呼吸を奪われ堰きこむハヤセ。
    「ハヤセ、お前が透流を消したら、お前は何になる? 透流になるつもりか?」
    『ぼくは、ぼくのなりたいものになる。それから透流の魂を奪い、ミョルニールと名付けて利用する。ぼくに全てを押し付けた無責任の罪を償ってもらうためにね』」
    「ハヤセ、あなたが透流さんの魂を奪い取っても、其れは存在証明にはならないわ。『奪ったものがあなた自身のものになる』ことは決してないわよ」
     凛凛虎の問いに応じる様に放たれた鋭い殺気に貫かれた愛莉がクルセイドスラッシュ。
     放たれた刃をハヤセは右手で掴むが、その隙になのちゃんがしゃぼん玉を撃ち出して叩きつけた。
    『でも、お前達はぼく達ダークネスの命を奪うことを自分達の存在証明にしていないかな?』
     問いかけながら、地面を蹴るハヤセ。
     影から生まれた漆黒の鴉の群れが高明を襲った。
     ガゼルがその攻撃を受け止め、傷ついたボディをフルスロットルで癒す間に、ハヤセがナイフを閃かせ真琴を襲う。
     エルがその斬撃を受けながら斬魔刀で応じていた。
    (「悲しい、ですね」)
     エルがよろけるのを見ながら、サフィが十字架戦闘術。
     クロスグレイブによる連撃がハヤセの足を砕き苦痛の表情を浮かべる様が心に痛い。
    (「難しいと、分かってる。それでももし、互いを受け止めること出来るなら……」)
     この願いが届きますように、とサフィは祈った。


     ――4分。
    「妙な癖がついちまってんなら叩きなおしてやる。射撃の技もっと学びたいんならとっとと戻って来い! ダチにだって笑われるぞ!」
     高明が透流に呼びかけながら無骨な黒い銃口から黙示録砲。
     聖歌を奏でながら放たれた其れが、ハヤセの胸を射抜きハヤセが右手で胸を押さえる。
    『邪魔を……するな……!』
     ガゼルの体当たりを受けながら、ハヤセがお返しとばかりに漆黒の弾を撃ち出す。
     黒き裁きの弾丸が、何度も庇いを実行し息を荒げさせている愛莉に向かうが。
    「俺が堕ちた時、高兄に心配かけて……って、透流怒ってたよな。それなのに、お前が高兄心配させてどーすんだよ! 戻って来い! 帰り道の邪魔する奴は、速攻でぶっ飛ばしてやるから!」
    「何度でも助けに行くよ! 槌屋センパイ! 臆病者だなんてそんなことない、無茶をしてそれでも誰かを助けようとしたセンパイは絶対違うよ! ちゃんとあの時みんな生きて帰れた、だから今度はセンパイが帰ってくる番ですよ! だから意識強く持って、皆で学園に帰ろうよ!」
     康也と饗庭・樹斉の必死の叫びが戦場に木霊し漆黒の矢が反転ハヤセの肩を射抜いた。
    『ぐっ……お前、まだ……!』
    「槌屋ちゃんが何度堕ちても何度でも迎えに行くよ。だから、帰っておいで」
     呻くハヤセへと真琴が苛烈な炎を纏った拳を叩きつけ。
     胸から広がる氷を伝い、炎がハヤセの全身へ回る。
    『……ぼくは……ぼくは……』
    「透流さん、聞こえる!? 自分自身を信じて、抗って!」
     苦しげなハヤセへと傷だらけの愛莉がクルセイドソードに緋色のオーラを這わせ紅蓮斬。
     この数分のハヤセの苛烈な攻撃は想像以上だった。
     ならば、回復よりも攻撃を優先するべきだ。
    「痛みを感じるならまだ帰れる! 不格好でも最後に笑えたらいいんだ。帰って来いよ!」
     イヴが叫びと同時に黒死斬。
     足の腱を幾度も斬られていたハヤセはその攻撃を躱しきれずに左足をも斬り裂かれる。
    『どうしてぼくが苦しまなきゃいけない? 全てをぼくに背負わせて自分は逃げ出したあいつばかりが必要とされるんだ!?』
     喚くハヤセへと伊織がレッドストライク。
     緋色の線を引いた交通標識による痛打にハヤセが喀血する様を見ながら、伊織は優しく諭す様に言葉を紡ぐ。
    「存在理由、なんてもんは誰かに与えられるもんやなくて、自分で見つけていくもんですぇ」
     ハヤセを名乗る今の彼女はきっと透流のもう一つの側面なのではないかと伊織は思う。
     だから……。
    「存在理由が見つからないなら、これから生きて、生き続けてその先で見つければいいとオレは思っておりますぇ。そうやって進んできた道のりが証なんやから」
    『……証、だって……?』
    「ハヤセさん」
     たじろぐハヤセに優しく告げるは陽桜。
     意識的に名を呼ばれ思わず足を止めるハヤセにサフィがスターゲイザー。
     エルが斬魔刀で横薙ぎに斬り払い、なのちゃんが竜巻を起こす。
    「あたしは、あなたに生きていて欲しいって思っています」
     竜巻に呑まれる彼女を見つめながら陽桜が続ける。
     その言葉に、目を見開くハヤセ。
    『ぼくに……生きて……?』
    「勿論透流さんにも生きて戻って来て欲しいです。でも、あなたにも生きていて欲しい。伊織さんも言う通り、ハヤセさんと透流さんは表と裏だと思いますから」
    『ぼくとこいつが……?!』
    「そうだな。少なくとも、お前が透流を消したら、お前はハヤセではなくなる。それこそ、お前の存在を消してしまうのだ」
     凛凛虎が頷きつつ大上段から暴君の名を持つ大剣Tyrantを振り下ろす。
     振り下ろされたその刃を辛うじてナイフで受けるが、ハヤセは大きく体を傾がせた。
    「自分自身を信じ貴方を見守ってくれている人の元に帰って来て欲しいね!」
     玲子が告げながらハヤセにご当地ダイナミック。
     地面に全身を強打され骨が軋む嫌な音と共にハヤセが呻き声を上げるのに陽桜が囁く。
    「あなたが透流さんのことをどんな風に思っていても透流さんにはあなたが必要であなたにも透流さんが必要です。だから、ハヤセさん。生きてください。透流さんと、一緒に」
    「全く、また一人で抱え込んで……。透流さんは私にとって妹みたいなものですから、どーんと頼ってもよろしくてよ♪ 高明さんやお友達、クラブの皆さんだって透流さんの事を支えてくれますわ!」
    「少なくとも、こんな密林で六六六人衆に殺される未来なんて、僕たちは、きっとセンパイだって望んでないはずだよね?!」
     桜花と樹斉の言葉に、怪訝そうなハヤセ。
    『六六六人衆(ナカマ)に殺される未来……?』
    「ああ、そうだ。お前は知らないだろうがこの先に行けば、お前は死ぬぜ」
     ハヤセのナイフをTyrantで受け止めながらカウンターとばかりに破壊と殺戮の使命が具現化した闘気魔弾【~Vernichter Devil~】を帯びた拳で無数の連打を放ち凛凛虎が頷く。
    「皆が泣くそんな未来は、オレ達が絶対にぶっ飛ばす!」
     イヴが力強く声を張り上げながら尖烈のドグマスパイクでその身を貫き、其れに連携して玲子がフォースブレイクを放ち、白餅さんが竜巻を叩きつける。
    『ならば、ぼくはどうすればいい! ぼくがぼくである意味すら分からず、求めていたものに殺される未来しかないぼくは何を頼りにすればいいんだ?!』
     嘆きながら突き刺す様な殺気を放つハヤセ。
    「お役御免の大根役者が何時までもしがみついてんじゃねぇ! それはお前が透流と一緒に考える事なんだよ!」
     高明が怒鳴りながらティアーズリッパ―でその身を斬り裂き、ガゼルが機銃を掃射して更にその身を撃ち抜く。
    「柳瀬の兄さんも厳しい事言いますなぁ」
     伊織が微苦笑を浮かべつつ、彗星撃ちでその身を射抜いた。
    「それを見つける為にも、一緒に帰りましょ?」
     労わる様に告げながら。
    「新しいお名前、考えましょ。そしたらきっと、あなたは誰でも無いたった一人のあなたになれる」
     その呟きは、サフィの奏でる聖歌に籠められた真心と言う名の祈り。
     黙示録砲に足を凍り付かせるハヤセにエルがぴょんぴょんと木々を飛び跳ねながら六文銭射撃。
     愛莉がレイザースラストでその身を締め上げ、なのちゃんがふわふわハートで凛凛虎の傷を癒す。
    「諦めるのは勝手だけど、他人を巻き込んじゃだめだよね、とわたしは思うんだよね」
     真琴が呟きながら黙示録砲。
    『最初に巻き込んだのは、こいつの方だろ』
     ハヤセの返事と同時に、タイムアラートが鳴る。
     それは5分が経過した証。それでもハヤセは立っている。
    『まだだ……ぼくはまだ諦めない。お前達を倒してこいつに絶望を与えその名前と魂を奪う為にも』
     それは、まだ認められない自分の事を認めたくない、此処で誰かを殺し名前を奪うことで自らの存在証明を目指す『意地』。

     ――残り時間、後、2分。


    「後……1分です……」
     サフィが焦りを交えて呟きながらスターゲイザー。
    (「苦しむ方の手を取りたくなるのは……人が、弱いからだけじゃないのですね……」)
     息を荒げさせながらも尚『ハヤセ』として立つ彼女を見てサフィは思う。
     透流とハヤセは表と裏。
     故に表だけはなく苦しんでいる裏にももっと手を伸ばすべきだった。
     それに納得できればハヤセとしての抵抗は減じただろう。
    「お前に似合いな名前は『子子』だな」
     束の間考える様にしていた凛凛虎が告げながらTyrantを大上段から振り下ろす。
     其れに斬り裂かれながらも、じっ、と凛凛虎を見つめるハヤセ。
    『子子……?』
    「貴様の在り方で獅子にも猫にもなるってな」
    『……』
    「そうやな。確かに聖刀兄さんの名付けは今のあんたにはピッタリかも知れんなぁ」
     伊織が呟きながらレッドストライク。
     赤い光条に撃ち抜かれながら鴉の影を呼び出し、真琴を斬り裂こうとするハヤセ。
     その前に愛莉が盾となるが……。
    「……御免なさい、此処までみたいです……」
     そのまま膝をつく彼女に頷き、真琴が接近して炎を纏った拳を叩きつける。
     苛烈な熱を持つ焔を寒く熱の無い世界を焼きつくす光として。
    『グ……ァ……』
     ――後、一押し。
    「迎えに来てくれた、あなたに。まだ、言ってなかった」
     白星・夜奈がたどたどしくそう告げた。
    『透流に……何を……?』
    「言えてなかった。ただいま、ありがとう、って。今度はヤナが、迎えに来たよ」
     この時、ハヤセは……否、『子子』と呼ばれた者は気が付いていない。
     自分が、透流と呼んでいた事に。
    「いっしょに、帰ろう。ヤナにも、お帰りを言わせてよ。あなたが……ヤナ達に言ってくれたのと同じように」
     其れが切欠となったのか。
     それとも負傷の蓄積が原因か。
     グラリ、とよろけるハヤセ。
    「これで、終わらせる!」
     イヴが叫び、グラインドファイアでハヤセを焼き。
    「ヒーローは最後まで諦めないでふ!」
     玲子がご当地ダイナミックでその地面に叩きつけるのに合わせる様に、なのちゃんと白餅さんが同時に竜巻を起こしてその身を飲み込み。
    「ワォーン!」
     エルが斬りかかりガゼルが体当たりを放ち、ハヤセをよろめかせた。
    『……ぼくは……』
    「いい加減に戻って来い、透流!」
     高明が叫びながら証明の楔をハヤセの身に突き立て黙示録砲。
     至近距離で奏でられる聖歌に撃ち抜かれ遂にハヤセ……子子と呼ばれた彼女は地面に倒れる。
    (「透流……お前の勝ちだね……」)
     消えていく意識の中で思いながら。


     倒れ込む透流を咄嗟に高明が支え。
    「槌屋ちゃん!」
     真琴が駆け寄り、彼女へと帽子を被せ、反射的に脈を取る。
     脈は……あった。
     彼女は、生き延びたのだ。
    「変な癖を覚えやがって」
     思わず、高明がそう告げた時。
     ――ズキューン!
     銃声が鳴った。
     驚いた真琴達の盾となったのは、陽桜の霊犬あまおとと、鏡餅さんとエル。
    「泣くのは後だ。逃げるぞ」
     六六六人衆が騒ぎに気が付いたのだろう。
     凛凛虎が告げると、夜奈とジェードゥシカが殿につく。
    「皆! 急いで!」
     愛華に促され玲子達はその場を速やかに撤退した。

     ――槌屋・透流……救出、成功。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年10月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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