世界救済タワー決戦～貴婦人と肉斬男

■リプレイ

●対敵
　揃った灼滅者の眼前には、薔薇の貴婦人とブッチャーマン、二体の姿があった。
　仲間たちは走り出す。
　先頭を行くアリス・バークリー（ホワイトウィッシュ・d00814）が叫んだ。
「Slayer Card， Awaken!」
　手にした護符揃えを仲間に飛ばし、守備を固めていく。
「嫌がらせに全てをかけるか。正直、そういうのは嫌いじゃないわ。もちろん、自分がやる場合の話だけど」
　そう言って、敵二体も動き始めたことを確認した。
　薔薇の貴婦人は微笑を浮かべ優雅に舞うように戦場を駆ける。
　ブッチャーマンは手にした包丁を舐め、ぎらぎらとした瞳で前衛の灼滅者に狙いをつけているようだ。
　この二体を抑え、仲間を突破させ決戦へと送り出す。やるべきことを共通の認識として、灼滅者たちが攻撃を開始する。
　蜂・敬厳（エンジェルフレア・d03965）は影で触手を作り出し薔薇の貴婦人を見た。
「わしは薔薇の貴婦人殿の相手をさせてもらおうかの」
「あらあら、うふふ」
　ひらりとドレスの裾を翻す敵に構わず、触手を伸ばして敵の体を絡め取る。
　深束・葵（ミスメイデン・d11424）はライドキャリバーの我是丸をディフェンダーに送り、ダイダロスベルトの帯を射出した。
「合わせて攻撃するよ」
　葵が合図すると、触手からようやく逃れた薔薇の貴婦人に向かって我是丸が突撃をかける。薔薇の貴婦人は、突撃を受け体を浮かせた。その瞬間に、ダイダロスベルトの帯が伸び、敵の体を貫く。
　様子を見ながらタイミングを計っていたセレス・ホークウィンド（白楽天・d25000）も、薔薇の貴婦人へと駆けた。
　今回の件、放置すれば本当に厄介なことになるだろう。
「止める機会があるというのなら、全力を尽くすまでだ」
　言いながら、薔薇の貴婦人を蹴り上げた。流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが敵の体を吹き飛ばす。
　一方、四刻・悠花（棒術師・d24781）はシールドを構えブッチャーマンとの距離を詰めた。
「あなたの相手はここにいます」
　そう言って、少しでも敵をひきつけるため、力を込めて敵を殴りつける。
（「信じるって言葉は責任を押し付けるようで嫌いだけど、わたし一人でなんでもできるってことはないもの事実なんですよね」）
　怒りの表情を向けてくるブッチャーマンを見ながら悠花は思った。
　危険な場所に向かおうという仲間がマンチェスター・ハンマーを倒してくれるのを信じて、そのサポートを全力で行おうと。
「ううぉぉおお！　やりやがったなぁあ」
　ブッチャーマンが飛び上がり、悠花にフライングプレスを仕掛けてきた。
「っ、さすがに、重いですね！」
　見たままの巨体を生かしたプレスは重い。
　しかし、すぐに回復の手が伸びた。
　シエナ・デヴィアトレ（治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905）が前衛の仲間に向かってイエローサインを放ったのだ。
「流石にナミダ姫さんの元に六六六人衆を送り込むわけにはいかないですの……」
　そう言って、ライドキャリバーのヴァグノジャルムにディフェンダーの指示を出す。
　彼女は、ただでさえ敵対し一般人を襲い始めたスサノオ勢力にマンチェスターが合流すれば目も当てられない惨劇に繋がりかねないと考えている。それゆえ、自身が忌避している灼滅を行い自身が闇堕ちする事になろうとそれを阻止しなければならないとも。
　灼滅者たちの動きは、戦線を維持し、仲間を突破させるための布陣だ。
「前の戦争の後始末、次の戦争への布石……休まる暇もねぇな」
　北条・葉月（独鮫将を屠りし者・d19495）が後方からエアシューズを煌かせ走りこんできた。
　少しでも残る仲間たちのためになるようにと、敵を足止めするためスターゲイザーを放つ。
　白峰・歌音（嶺鳳のカノン・d34072）は箒に乗って空から戦いに参戦していた。
　飛びながら、己の戦う姿を確認し心中で戸惑う。
（「いつもの恰好じゃない！　まるでオレの中の悪魔みたいな格好じゃないか！」）
　黒と紫のドレス姿。これは……。
（「オレ自身がダークネスに近づいて行ってるのか？　闘いが続いてるから……いや、そんなことはないはずだぜ、偶然、偶然のはず……」）
　歌音は首を振り、考えを打ち消した。
　そうして、攻撃するため空中で方向転換し、敵に向かった。

●突破
　２分、３分と時間は過ぎていく。
　灼滅者たちは互いに庇い合い、回復の手を多めに意識して、十分に敵二体とやり合っていた。
　特に薔薇の貴婦人に攻撃を集中させているけれど、そこは敵も一筋縄ではいかないところだ。
「ほほほ。ティータイムにいたします。のどが渇いてしまいましたの」
　傷が開き、不利な効果が重なってくると、薔薇の貴婦人は慌てずティーカップを取り出し回復する。
「くっくっく。なかなか、やるじゃねぇかぁ」
　その傍らで、ブッチャーマンは包丁を舐めて嗤った。
　傷が回復し、更に攻撃の精度が増したように感じる。
　すかさずアリスがサイキックソードを掲げ走った。
「そこは、見過ごせないわね」
　優先的に狙うのは薔薇の貴婦人だが、ブッチャーマンが効果の恩恵を受けるようなことがあれば、こちらは大打撃。
　一時目標を変更し、ブッチャーマンが得た効果を破壊するようにサイキックソードで敵の身体を斬り裂いた。
　同じくサイキックソードを構えた敬厳は、薔薇の貴婦人との距離を詰める。
「さて、こちらも戦闘続行じゃ。休ませはせんぞ」
　言って、敵を斬った。
　回復したと思ったらすぐに傷を斬り開く。決して癒すことのできない傷は積み重なっていくのだから。
　仲間の動きに合わせて走る葵は、前衛の仲間たちの傷具合を見ながら七不思議の言霊を唱えた。
「そして、こちらも回復じゃ」
　心温まるその話は、仲間たちを包み込んで体力を回復させる。身体に染み込んだ毒気も、少しずつそぎ落とした。
　仲間の回復の間に、飛行中の歌音が薔薇の貴婦人に向けて急降下してきた。
「上から丸見えだぜ」
　そう言ってくるりと旋回すると同時に敵を蹴り上げる。
　流星の煌めきと重力を宿した蹴りをヒットさせ、再び空へと舞い戻っていった。
「っ、この鋏で、摘み取ってあげたいですわ」
　貴婦人は悔しげに構えた鋏を引っ込めて、空を見上げる。
　そうしているうちに、早くも５分が過ぎようとしていた。
　交通標識を構えた葉月は、頭の片隅で時間を計る。
　できる事ならあと一撃とも考えたが、今はここを突破することだけを考えたほうが良さそうだ。幸い、堅実な作戦が功を奏し、仲間たちは十分戦力を残している。それに、足止め、麻痺と、できる限りの行動はしたつもりだ。
　葉月は手にしていた武器を納め、チラリと上空を見やった。
（「時間だ。歌音、行くぞ！」）
　空を飛ぶ歌音にアイコンタクトで意思を伝える。
　その様子にいち早く気づいたセレスが大きく敵の前に踏み込んだ。
　眼前の二体の敵は今は並んで経っている。その間をすり抜けるよりも、こちらで敵の立ち位置を分断するほうが良いだろう。短い時間でそこまで考え、セレスは二体の敵の間へ身体を滑り込ませた。
「な――」
　いきなりの事に、ブッチャーマンが体を仰け反らせる。
「邪魔だ」
　そう言い捨てて、振り向こうとした貴婦人の身体を蹴り上げた。
　仲間もセレスの意図に気づき、真上に吹き飛んだ敵の身体向かって攻撃を畳み掛ける。
　回復に専念していたシエナもその一人だ。
「ヴァグノ、行きますの」
　ダイダロスベルトの帯を全方位に放出し、空中にある貴婦人の身体を絡め取った。
　呼ばれたヴァグノジャルムもすかさず機銃掃射で敵の身体を撃つ。
　シエナは帯を器用に操り、遠い位置に貴婦人の身体を叩き付けた。
　敵二体の立ち位置が離れる。
　更に、ブッチャーマンの背後から悠花が飛び込んできた。
「あなたは、こちらです」
　シールドでなぎ払うように殴りつけ、反対側へ巨体を投げ捨てる。
　ブッチャーマンは何度か地面を転がり、手を付いてようやく止まった。
　一体は地に伏せ、一体は転がり、そこに突破口が見える。
「ありがとう、行ってくるぜ！」
　瞬間、歌音が空から急降下、急加速して敵の間をすり抜けて行った。
「行かせてもらうぜ」
　葉月も同様、仲間たちの援護に感謝し全力で走りぬける。
「こちらは任せろ」
　セレスが応えるように、二人にささやかな声援を送った。仲間たちも、決戦に向かう二人に信頼の眼差しを向ける。
「ここは任せて先へ行って。しっかり金槌女をぶちのめしてきなさいな」
　遠ざかる二人の背中を守るように、アリスが敵の眼前に立った。
「その間、こっちはこっちで楽しく遊ぶから。ええ、こいつらはどこへも行かせない」
　言ってから、白く輝くサイキックソードで、起き上がった貴婦人を斬り付ける。
　戦場を突破した二人の姿が、はるか遠くに見えた。

●戦線
　二人を送り出して数分が経った。こちらは六人で、スサノオ勢力の到着まで敵二体を抑え込むのが仕事だ。
　灼滅者たちは敵を抑える戦い方に変更し、戦線を維持していた。
「うふふ。数が減ってずいぶん苦しいのではなくって？」
　くすくすくすと笑い声。毒々しい薔薇の花から、薔薇の貴婦人がむせ返るような匂いを漂わせた。
「ほうら、良い香りでしょう？」
　微笑みながら貴婦人が舞う。
　アリスは極力毒の香りを吸い込まないよう口に手を当てた。
「やはり、この程度での対処は難しいわね。けれど、意識して気をつけないとね」
　彼女の言葉通り、薔薇の香りの毒は吸い込まぬよう意識していても、否応なしに前衛の仲間たちに絡み付いて染み込んでいく。
「しかし、キツイ香りじゃのう」
　敬厳も鼻を庇いながら、周辺の毒気に眉をひそめた。
　薔薇の貴婦人はあの手この手を使って毒の攻撃を仕掛けてくる。
　その都度、庇い合い回復しながら戦っているものの、毒が染み込むのは良い気分がしない。
　アリスは予言者の瞳で、敬厳は集気法で自らの傷を回復し、仲間の様子を見た。
　葵と我是丸は共に体力を残して仲間のサポートに走っている。
「うちらの布陣は灼滅用ではないのぅ。じゃが戦線維持重視。まだまだ持たせるのじゃ」
　葵がガトリングガンの連射で薔薇の貴婦人の身体を蜂の巣にすると、畳み掛けるように我是丸も敵に向かって突撃した。
　よろめく貴婦人の前に、ブッチャーマンが躍り出る。
「うるせぇ奴等だぜ」
　地面を勢いよく蹴って、飛び上がった。
　狙うは悠花だ。
　悠花はそれを分かっている。
　防御の構えでフライングプレスに耐えた。盾役の自分だからできる事。敵の怒りを買い、攻撃を自分へと向けさせているのだ。
「ええ、私もまだまだ大丈夫です」
　敵から離れた悠花は、オーラを癒しの力に転換し、自らの傷を癒した。
　まめに回復を行うことで、まだしばらくは戦い続けることができる。
　そこには、再び回復に徹するシエナの姿もあった。
「誰も倒れさせませんの」
　そう言って、立ち上がる力をもたらす響き、リバイブメロディを奏でる。
　その響きは前衛の仲間へ届き、毒を浄化していった。
　シエナの演奏の合間に、ふわりと茶葉の匂いが漂ってきた気がする。
　一歩下がったところから薔薇の貴婦人の笑い声が聞こえた。
「ふふふ。せいぜい頑張ることですわね」
　見ると、貴婦人は優雅にカップを口元に運び、温かい飲み物で体力を回復している。
　こちらが回復している間に、敵も回復を重ねると言う訳だ。
　しかも、貴婦人のティータイムにはこちらが付加した悪い効果を打ち消す力もある。
　セレスは敵の様子を観察しながら槍を手に取った。
「そこはお互い様か。だが、こちらも引くわけには行かない」
　傷が回復した貴婦人に向かって突撃し、螺旋の如き捻りを加えて突き出した槍で身体を穿った。
　塞がっていた傷が再び開き、薔薇の貴婦人が肩をすくめる。
「せっかくのお茶が零れてしまいますわ」
　それから優雅にスカートの裾を翻し、距離を取った。
　もう一突きと槍を繰り出したセレスも、空ぶった勢いを殺して一歩後退する。
　灼滅者たちは足を止めることなく戦場を駆け続けた。
　毒の香りを受けて回復し、鋏が来れば相殺を狙って武器ではじき返した。
　包丁の切れ味を最大に生かした斬撃は庇い合い、敵に効果が付加されればそれを打ち砕く。
　幾度も刃を交え、回復を繰り返し、１０分を超えても誰一人倒れることなく灼滅者たちは戦い続けた。

●彼の時
　１５分、１６分と更に戦いは続いていた。
　何と言う堅実な作戦か。
　灼滅者たちは、いまだ地に伏す者も出さず戦線を維持し続けている。
　敬厳も敵を抑えこむ事に全力を注いでいた。一体だけでも撃破することができたのならば、また違った展開もあったのだろうけれど、そこは敵も確実に生き残るよう回復を続けている。
「薔薇の貴婦人殿は、本当にその茶が気に入っているのじゃのう」
　もう何杯目のお茶の時間か、と。
　緋色のオーラを宿した武器で斬りつけながら敬厳は敵を見た。
　チラ、と、貴婦人が傷口に視線を落とし、返事もなく一歩下がる。
　戦いが続いていること、誰一人撃破できないことは、敵をイラつかせているようだ。
「ええええい、いい加減、落ちろや！！」
　ブッチャーマンも怒りの声を上げ、包丁を振り回して悠花に斬りかかって来た。
　体のあちこちを刻まれ、しかし悠花はケロリとした表情でこう返す。
「そんなことを言われても、私まだまだいけます」
　そう言いながら集気法で傷を癒した。
　その後ろから、複数の銃口が薔薇の貴婦人を狙っている。
「うちらも柔じゃないからのぅ」
　葵のガトリングガンだ。
　用意しているのは爆炎の魔力を込めた大量の弾丸。
　逃げようとする貴婦人に向け、連射を開始する。
　敵の身体が吹き飛んで宙を舞った。
　それに合わせてセレスが跳び上がり、スターゲイザーを繰り出す。
「そうだ。まだまだ、戦えるぞ」
　蹴り上げ、吹き飛ばし、地面に叩きつけた。
　更に攻撃を重ねようと走っていたアリスがぴたりと動きを止める。
「え……」
　地面に転がった貴婦人は、次の攻撃がなかったことに肩透かしを食らったような表情を返した。
　すでにアリスは転がっている敵を見ていない。
「どうやら、ナミダ姫が到着したようね」
　その視線の先には世界救済タワーがあった。
「そのようですの」
　シエナもいつの間にか手元にヴァグノジャルムを置き、同意を示す。
　目的は遂げられた。
　仲間をほぼ無傷で決戦に送り込み、自分たちも十分に戦線を維持し二体をここに留め置いたのだ。
「まてぇ、ここまでして、てめぇら――」
　ブッチャーマンの怒りを含んだ声をさらりと受け流し、敬厳が静かに宣告する。
「ふむ、ではここは引かせてもらうのじゃ」
　戦い開始から１８分。
　その決定に仲間は一斉に戦場を離脱する。
「ちくしょぉー！！　殺せない！！　ちっくしょうめが！！」
　悔しげな敵の叫びを背にし、灼滅者たちは撤退を決めた。

作者：陵かなめ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年10月20日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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