世界救済タワー決戦～届かせろ、灼滅の刃

■リプレイ

●立ちはだかる双璧
　一路、世界救済タワーを目指す灼滅者達を、黒い風、そして震動が襲った。
「今日の獲物はアンタ達ってわけさね？」
「俺らが料理してやるっす！」
　黒い風、サウザンドブレイドが五指に複数の刃をかざせば、震動の主、ブッチャーマンも大振りの包丁を取り出す。
　それに対し、８人と３体のサーヴァントは一斉に展開。四方から包囲網を形成した。
　そうして敵の背後を取った白金・ジュン（魔法少女少年・d11361）が、動いた。
　……タワーの方へと。
「なッ！？」
　これには、六六六人衆ですら意表を突かれたか。
　タワーへと疾走するジュンを、一拍遅れて追走せんとするサウザンドブレイドの足が止まる。クレンド・シュヴァリエ（サクリファイスシールド・d32295）が組み付いていたのだ。
「ここはお願いします！　その分私たちは少しでも多くマンチェスターハンマーを殴って来ますから」
　後を託し、離脱するジュン。
「それぞれの役割で各人の精一杯をぶつけてやりましょう！」
「ああ、行ってこい！　ここは、俺達に任せろ！」
　ライドキャリバー・ヒトマルとの連携でブッチャーマンを食い止めた平・和守（国防系メタルヒーロー・d31867）が、背中越しに声を飛ばした。
「ここは俺が……！」
「行くのは構わないが、残った方は確実に滅する」
　包囲を抜け、後を追おうとしたブッチャーマンを、クレンドが止めた。
「くそお」
「焦る事はないさね。こいつらを殺していけばいいだけなんだから」
　憤るブッチャーマンをなだめ、サウザンドブレイドが地面を蹴って突撃した。
　少しでもその勢いを殺す。神門・白金（禁忌のぷらちな缶・d01620）の刀が、サウザンドブレイドの剣を断ち切った。
「戦後処理――なんだろうな、これは。何にせよ、六六六人衆相手は気が楽だよ、何事も遠慮の必要がない」
　柄を捨て、新たな剣をコート裏から引き抜くサウザンドブレイドに、狼川・貢（ボーンズデッド・d23454）の射撃が浴びせられた。
　無数の炎弾を、刃で弾き、防ぐ女。だが、破砕され舞い散った炎の破片は、黒のコートを焦がす。
　黒の女剣使が猛攻にさらされる間、ブッチャーマンもまた、その場に釘づけにされていた。
　ゲイル・ライトウィンド（カオシックコンダクター・d05576）が、足元をすくうように、キックを繰り出す。
　肥満体がたたらを踏んだところに、蔵座・国臣（殲術病院出身純灼滅者・d31009）の『鞭』……ウロボロスブレイドが円弧を描き、その巨体を縛り上げる。
「こんなもん！」
　国臣の束縛を、全身の無駄肉で弾いたブッチャーマンに、和守が殴り掛かった。本領は射撃戦。若干の不得手を補うように、執拗に打撃する。
　ビハインドのプリューヌが対ブッチャーマン組に加勢する一方、主であるクレンドは、サウザンドブレイドをビームで狙撃する。
「しょぼい光だ、懐中電灯の方がマシさね」
「流石、六六六人衆はプロですやな！　余所見する暇があるんですから！」
　飛沫を散らしてビームを切り裂いたサウザンドブレイドへと、茨木・一正（仮面被り・d33875）がご当地ビームを放つ。敵の注意を自身に引き付けるべく。

●こじあけろ、勝利への道
　サウザンドブレイドが斬り、ブッチャーマンが断つ。
　それなりの連携を見せる２体のペースを乱すべく、ライドキャリバーの鉄征やヒトマルが疾走した。二方からばらまかれた弾丸の乱舞が、敵を妨害する。
　初手での突破を許したことで、敵の警戒は高まっている。慎重に、次のチャンスをうかがうゲイル。
「マイ包丁が言ってるっす！　もっとお前達の血を吸わせて欲しいって！」
　既に血まみれの包丁を振り上げるブッチャーマン。だが、細い軌跡が煌めく。白金の五指に繰られた鋼糸が、腕を縛りあげていた。
　その間に、地を滑り着火した和守の炎が、ブッチャーマンを焼き上げる。
　火の粉を突っ切り、ゲイルが猛然と攻める。炎にコーティングされた脚が、サウザンドブレイドの体を蹴り飛ばす。
　だが、身を回して着地すると、サウザンドブレイドはコートから剣を調達する。……束ごと。
「血を噴きな！」
　水平に降る刃の雨が、取り囲む灼滅者達、その脚を狙って発射された。耐える仲間へクレンドがシールドを展開させ、そのいくつかを弾く。
　次の刃を抜こうと一旦後退したサウザンドブレイドは、視界が乱れるのを感じた。プリューヌの衝撃波が、体を揺さぶったのだ。なびくコートの裾がはじけ飛び、破片を散らす。
　畳みかける仲間を支えるのが、貢の役目だ。ダイダロスベルトをクレンドに巻き付かせ、鎧を構築する。
　外見通り、頑健さを発揮するブッチャーマンは、鬼の襲来を見た。
　鬼……一正が『茨木一本角』を、敵の胸に打ち込む。分厚い肉壁に押し返される感覚を得つつも、更に踏み込み、少しでも深く回転を届かせる。
　強引に一正の杭を引き抜いたブッチャーマンだったが、国臣の霊力の網によって、体を梱包された。
「その格好、まるで豚肉だな。ちょうどいい、お持ちの包丁でスライスして差し上げよう」
「ふざけた事を……なっ！」
　ブッチャーマンが目を見開く。
　仲間が開いた活路を抜け、ゲイルが突破していくのだ。暴風の如く。
　共に行く白金も、振り返る事はしない。意識は既に、マンチェスターとの戦いに向いている。
　コートを翻し、サウザンドブレイドが追跡に打って出ようとするが、
「背を向ければ滅する。先刻の言葉、忘れたとは言わせん」
　クレンドの視線が、サウザンドブレイドを射抜く。六六六人衆レベルの威圧には至らぬが、こちらの闘志は十分に伝わったらしい。
「そういう事だ。あいつらを追いたければ、俺達を倒してから行くんだな」
　再度和守が、鋼の壁となり、敵の視界を塞ぐ。
「まあ、ものは考えようさね」
「姐さん、何を言って……ははあ、そういう事っすね」
　サウザンドブレイドの言葉の意味を理解したブッチャーマンが、ニヤリ、と笑った。
「あいつらを見逃してやった分、アンタらは私達に切り刻まれてくれるってことだよねぇ？　存分に」
「バラバラにしてやるっす！」
　サウザンドブレイドとブッチャーマンが、得物を打ち鳴らし、あるいはぺろりと舐めた。
「群れなければ戦えない六六六人衆など、俺達だけで十分だ。来い」
　貢の挑発を受け、敵が来る。
　突破した者も、残留した者も、ここからが正念場だ。

●苦闘
　戦力を減退させた灼滅者達にも、敵の手加減は、ない。
　当然か、と思いつつ、和守が抜刀する。サウザンドブレイドと違い、こちらはただの一振り。しかし、魂をこめて振るえば、千の刃にも引けなどとらぬ。
「勢いがなくなったじゃないか。３人ぽっち数が減ったくらいでさ」
（「こいつらを無理に倒す必要は無い。ただ耐えて時間を稼ぐ。俺の得意分野だ」）
　サウザンドブレイドの挑発を受け流し、地面を蹴ったクレンドの横を、影が走る。
　使い手を追い越した影は、コートごと女を包み込んだ。一正も続き、敵の行動阻害を加速する。
　急加速した鉄征が、機銃の掃射を止め、ブッチャーマンと激突。
「サーヴァントなんぞ、お呼びじゃないっすよ！」
　並々ならぬ膂力によって横転させられた鉄征が、ブッチャーマンのボディプレスを受け、地面に沈む。
　だが、相棒の危地を救うべく、国臣が行く。相方が鋼の弾丸となるならば、己は流星と言ったところか。光の尾を描いたキックが、ブッチャーマンの顎をかち上げる。
　そうして仲間が奮戦する中、貢が断罪輪をかざす。虚空に描かれた円陣が光を飛ばし、仲間達に天魔の加護をもたらす。
　態勢を整え直す灼滅者を見回したブッチャーマンが、相方に問う。
「いいんすか、このままだと」
「マンチェスター様なら灼滅者の１０人や２０人、どうってことはないさね。ただ」
　サウザンドブレイドは、剣を逆手に持ち直しつつ、
「そろそろ、１人くらいくたばってくれないもんかねぇ」
「それは弱音か？　まさか俺達を殺せないとは言うまいな」
　舌打ちする敵にも動じず、回復に専念する貢。仲間を戦場に立たせ続ける事こそ、自分の役目。
「弱音？　これは余裕さね。灼滅者５人程度、いつでも殺れる、ってね」
「なぁに、僕達の本領はこれからですや！」
　一正のクロスグレイブが、サウザンドブレイドをロックした。トリガーが引かれると同時、聖歌が響き渡る。戦場の殺気を浄化するように。
　一正の意に従い射出された光状は、周囲を一瞬白く染め上げる。それが収まった後には、体のあちこちを氷結させたサウザンドブレイドの姿があった。
　だが、即座に氷のドレスを脱ぎ捨てると、無数の斬撃を放つ……！

●己の役目を果たすために
　灼滅者達は、苦戦を強いられていた。
　早期に３人もの仲間を送り出した上、守りに主眼を置いたため、攻撃力不足という面もある。
　貢の手厚い回復によって、戦線を離脱する者はまだいない。しかし、特に前衛に立つ者達の損耗、そして疲労の蓄積は大きい。
　だがその一方で、サウザンドブレイドとブッチャーマンも、灼滅者の包囲を崩せず、焦れている。
　ならば、自分達は踏みとどまらなければならない。送り出した仲間達のためにも。
　和守が、ブッチャーマンに組み付いた。残る力をこめ、大重量を抱え上げると、地面に一時の別れを告げ、跳び上がる。
「一緒に跳び下りるつもりっすか！？」
「一人旅で頼む」
　地面に叩きつけられたブッチャーマンの体を、衝撃と、ご当地パワーが襲った。
　同朋を一瞥すらせぬサウザンドブレイドに、クレンドが手を向けた。
　射界から逃れようと走り出す相手を、射出された酸液が狙い、コートの劣化を加速させる。
　刃を振るうごとにテンションを高める六六六人衆の２人に対し、国臣の態度はあくまでも淡々としたものだった。業務を遂行するように、粛々と縛霊手をブッチャーマンにねじこむ。
「ぐほっ……まだこんな力が残ってたっすか！」
「そっちも余裕がなくなってきたようですやな！」
　殴り、叩き、潰す。ブッチャーマンとの格闘戦を演じながら、一正が言葉をぶつける。
　挙動を鈍らせた敵をうかがいつつ、国臣らが、時間を確認する。白金やゲイルを送り出してから、既に１０分以上。戦闘開始……ジュンの突破から数えれば、１５、６分と言ったところか。
　想定外の事がなければ、マンチェスターとの交戦も、それ相応の時間が経過しているはず。今からこの２体が向かったとしても、決戦の成否を覆す事はできまい。
　それに、これ以上の交戦を続ければ、戦線を離脱する者も出てくるだろう。スサノオならいざ知らず、六六六人衆がやすやすと見逃してくれるとは思えない。ならば……。
　誰からともなく送った視線は、瞬時に灼滅者達の意志を統一した。それぞれに全力の一撃を２体に加えると、戦場から離脱していく。
　獲物を逃す事を悔しがりながらも、六六六人衆たちは追ってこない。マンチェスターとの合流を優先させたのか。
　一瞬、世界救済タワーを振り返る貢。雌雄は既に決せられただろうか、それとも。
　力は尽くした。後は、自分達の送り出した仲間の勝利を祈るだけだ。

作者：七尾マサムネ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年10月20日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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