世界救済タワー決戦～鮮烈の塔

■リプレイ

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　生温い空気だ、と。御門・心（日溜まりの嘘・d13160）は感じた。
　世界を救うと、その名に関したそれを眼前に見据え、心は小さく息を吐く。
「残念ですね」
　思い入れの深い場所だった――ケジメだと地面を踏み締めて心は花纏う大鎌を振り上げる。細い腕に力を込めて、向かう先でおんなが笑っていた。
「御機嫌よう」
　鮮やかな薔薇を纏い、ドレスを優雅に持ち上げて見せた六六六人衆の姿を両眼に映してシャオ・フィルナート（猫系おとこのこ系幼女・d36107）は警戒した様に指輪を撫でる。
（「……ここを、突破しなきゃ……」）
　表情には変わりなく。ビスク・ドールの様に端正な顔立ちは僅かな感情の機微だけを映し出した。対して、感情をそのかんばせに目いっぱいに映し出す鳥辺野・祝（架空線・d23681）はシャオの背をぽんと叩く。
「背中は任せとけ」
　に、と唇を釣り上げてからりと下駄鳴らした祝が日々続く様に祈りを込めた絲を巡らせた。
「シャオ」
　確かめる様にシャオの名を呼んだ神無月・優（唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383）は柔らかに「頑張ろ」と告げた。
「………うん」
「そして、無事に帰ろう。未来の為に」
　髪が風に煽られる。優はじゃれつく海里に「ワンコ、じゃれない」と小さく叱咤し、蒼薔薇絡む黒い鎖に触れた。
　あらかた丸と共に前線に布陣する狼幻・隼人（紅超特急・d11438）はサウザンドブレイドと薔薇の貴婦人と相対し、ひゅ、と息を飲む。成程、予測通りサウザンドブレイドは前線に立ち、貴婦人は少し離れた位置に陣取っているではないか。
（「ゲート潜るなっていうて妨害待ち遣ったとは、ナミダ姫もとんだ誘い受けやったなぁ？」）
　頬に垂れた汗をぬぐい、バンダナを確認した隼人は悪戯っ子の様に笑みを浮かべた。
「ま、でもとりあえず、六六六人衆は邪魔したろ。スサノオと組もうと考えんかったら予知にも引っかからんかったのに」
「はァ～？」
　こてん、と首傾げた狂気の怪人は隼人の言葉に憤慨した様に地団駄を踏んだ。びく、と肩を揺らした望月・心桜（桜舞・d02434）は内心で焦りを感じていた。
（「戦闘中にここあを呼び出すことが出来ないとなると……」）
　ちら、と己と共に突破を目指す羽柴・陽桜（ねがいうた・d01490）に視線を向ける。彼女の傍らで、不安げなあまおとは尻尾を小さく揺らしていた。
「……このまま、サーヴァントと一緒に突破を目指すしかない、ですね」
「そうじゃの。予定が狂ったと言っても盤上までは狂わせなんだ」
　こくり、と頷く心桜に陽桜は世界救済タワーを見上げて僅かに唇を震わせた。
　嗚呼、そうだ、此処は個人的に思い入れがある場所だった――感情が混ざり合ったそれを振り払う様に陽桜は前線よりぐん、と攻寄るサウザンドブレイドを受け止める。
「ッ――」
「なァに考えてた？」
　くすくすと笑った六六六人衆の横面を叩くが如く飛び込んだ高柳・一葉（ビビッドダーク・d20301）はキュウと鳴った腹を庇う様に笑って見せた。
「さっすが六六六人衆。しぶといなあ。それでこそ、って感じでもあるけど」
「お褒めに預かり光栄ですわ、レディ」
　薔薇の貴婦人の笑う顔が印象的だ――一葉は軽やかにステップ踏んで後退し、攻め来る一撃をその両手で受け止めた。
「キミ達の目論見通りにはさせない。何度だって、私たちは邪魔してあげるんだから」

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　ぐん、と肉薄した六六六人衆を最初に受け止めたのは陽桜。ぎり、と歯を食いしばり後方で主人を見上げたあまおとに首を振る。
（「まずは突破を――掴めるチャンスは逃しません」）
　真珠色の鈴飾りが揺れる。翠のリボンを揺らしてステップ踏む様に一歩後退して見せる。白犬の鳴き声を聞いて藍色の瞳がゆらりと揺れる。
「おっと、連れないやんけ。相手は『こっち』やろ？」
　地面を強く蹴り、サウザンドブレイドの眼前へと飛び込む隼人はあらかた丸と共に躍り出た。一方は穏やかに笑った貴婦人の前へ飛び出し妨害の策を練る。
「まぁ、なまくらじゃ俺は斬れんよなぁ？」
「ハァアー―？　ああ、そうか、テメェからか！」
　ぎらりと殺意を見せたサウザンドブレイドに隼人は内心ガッツポーズを一つ。この儘、攻撃対象を自分と認識してくれればそれでいい。
　偽善者の刃を振り翳し心は「わたしの事もお忘れなく」と唇に笑みを乗せて見せる。ぐるんと鎌を軸に身を舞わせたその影より一葉は飛び出した。
「よそ見してちゃ『美味しく』頂かれちゃうよ？」
「メインディッシュには程遠い添え物ですが、『頂いて』ください」
　冗談めかす心の言葉に一葉がからりと笑う。共に進むキャリーカート君に身を委ね、その躰から跳ね上がる。
「あら、良く『踊られる』事」
「盆踊りならノってやれるんだけどな？」
　六六六人衆を毛嫌いする祝は吐き捨てるように呟いた。この場を凌ぎ、前線へと仲間を送り出す為にできる幾つものこと、祝の脳裏にはそれが過った。
（「『ヤクソク』だもんな」）
　誰に告げるわけでもなく心の中で唱えた一つ。
　ふわりと漂う癒しの気配を身に纏い心桜は後方の優へと小さく礼を告げた。
　こうして戦場に出る事は何時になっても慣れない事だが、前線に立つ事には更に慣れない事だ。
（「キョン嬢――……一緒に笑って帰る、じゃろ？」）
　心の中で唱え、心桜はこの先に居るマンチェスターハンマーの事を考えて歯噛みした。彼女にとって、マンチェスターハンマーは許すまじ存在とも呼べた。
「回復は、人を傷つけるために使う物じゃない……！」
「癒し、守るためだね」
　心桜の言葉を受け継いで、優が癒しを贈る。その支援を受け、只、前線で攻撃を奮う己を鼓舞するように心桜は相棒を呼んだ。
「ここあ！」
「ここ『ろ』もおりますよ」
　白鬼は偽善者の笑みを僅かに崩す。サウザンドブレイドの狙いが隼人より心桜にずれないように、慎重な行動を行う心がぴくり、と顔を上げた。
「自分の事弱小とか言ってりゃ世話ないな。他勢力に尻尾振るのが新しい序列システム？」
「そんな訳ねェだろ！　ブッ殺すぞ！」
　噛みつくサウザンドブレイドに「上等だ」と祝はわざとらしく挑発した。固い地面でステップ踏んで、前方に見える世界救済タワーを仰ぎ見る。
「……殺されるのは……困る……」
　少し憮然とした雰囲気でシャオは呟いた。何時もであれば、自己犠牲の心で飛び込んでしまうかもしれない気持ちを押し込めて。
「……――俺は、皆を護って見せる……」
　愛らしいかんばせに浮かんだのは決死の覚悟。その言葉を聞き、唇を三日月に歪めたのは薔薇の薫り纏った貴婦人だった。

●
　ぐん、と身を捻り上げた一葉が飛び交う攻撃を受け止める。敵の行動から『決戦に向かう三人』を護るが為に意識した一葉は周囲の動きをいち早く察知した様に顔を上げた。
「あら、何か？」
　くすくすと笑う貴婦人の攻撃に陽桜が僅かに眉を顰めた。守りを中心に考えて、霊犬と共に進む意志を強く持つ陽桜にとって、二人の殺人鬼は大きな壁の様に立ちはだかっている。
（「セカイは苦しい――でも、あたしは」）
　止まるわけには行かないのだ。口遊む音は歪で何時だって綺麗だとは言えないけれど。
　信じる事は美しい。誰かを愛する美しいさくらを思い浮かべて陽桜は唇を噛み締める。
「必ず、切り開いて見せます……！」
　攻撃を受けながら、必ず突破口がある筈だと。ある程度分散した攻撃で、まだ余裕は感じられる――だが、攻撃の雨の中、突破できるほど優しくはないのだと同時に思い知らされる。
「さァて、誰が相手だァ？」
　ちら、と視線が心桜に移る。サウザンドブレイドの狙いが逸れたのかと隼人は顔を上げた。
「行かせへんで！」
「それは『同じ言葉』を返してやるぜェ！」
　けたたましく笑った殺人鬼の言葉に祝が歯噛みする。六六六人衆そのものが『なくなった』としても、個の存在が彼女の心を搔き乱す。
「殺人鬼の分際で狡猾さが人間臭いんだよ。ただただ、今のお前らは目障りだ！」
　強い語調で発した祝の足元でからりと下駄が鳴る。サウザンドブレイドに狙いを定め、只、強く金の瞳を煌めかせた。
「おかしな話ですね。利害で動くなんて。もっと感情的になってくれませんか？　莫迦のように――想いのままに、動いてくれるとありがたいんですが」
　淡々と告げた心が祝の側で地面を踏み締める。振り上げた咎の刃は持て余す力全てを込めて。
　サウザンドブレイドを殴りつける。その刹那、優ははっとした様に顔を上げた。
　薔薇の貴婦人の行動を阻害し、出来うる限り前線へ向かう手はずを整えていた灼滅者達の見つけた好機。
「………！」
　後方で、サウザンドブレイドを狙い戦っていたシャオが顔を上げる。
　幼さを感じさせたその表情は茫、としながら――凛とした気配を感じさせた。長い睫を震わせて好機を逃さんと顔を上げる。
「シャオ――！」
　優の声がかかる。こくりと頷いて、ただ、前へ。前へと進む背中を押した。
「……俺は……皆の為に……」
「うん。行って。ここは任せて」
　キッ、と瞳が釣りあがる。シャオを送り出したと共に海里が放った波が六六六人衆の意識を阻害した。
「……必ず、みんな……連れて帰る……」
「先に行ってくだされ！　わらわ達も後で行きまする！」
　只、前へ、前へと進まんとする心桜の体を押し返したサウザンドブレイド。厳しい戦いになる事を意識して、掻き消えた相棒の姿に陽桜が息を飲む。
（「攻撃を集めると厳しいのは解ってます……でも！」）
　前へ、シャオだけでも。せめて、と食いしばる様に陽桜が薔薇の香に身を委ねた。
　貴婦人の魔への誘いは彼女の細い身体を軋ませる。地面を踏み締め、進まんとする彼女を庇う様に一葉は飛び込んだ。
「人間に背を向けるってダサくない？　すぐ逃げるし六六六人衆ってプライドないよね」
「獲物を逃がさんとするのは獣の本能ですもの」
　貴婦人の言葉を聞いて一葉の唇がきゅ、と引き結ばれる。先ずはシャオを送り出す事に成功したが、それでも陽桜と心桜の二人がこの戦場には残されている。
　サーヴァントが懸命に放った攻撃を詰まらなそうに受け止めて傷を負った六六六人衆の笑みが濃くなってゆく。
　六六六人衆はサーヴァントよりも心桜に興味があるという反応を見せる。サーヴァントの多い布陣で、サーヴァントを目障りだと消さずに『真直ぐに狙って』来ているのだ。
「お前……！」
「嗚呼、盆踊りなら誘っていただけるんでしたかしら？　今から……いかが？」
　ギリ、と噛み締め祝はシャオがマンチェスターハンマーの許へと届いた事を確かめる。
　サウザンドブレイドへと囮の様に身を舞わせたここあはあまり効果はない。心は察知する――そうだ、六六六人衆なのだ。『人間を狙う』道理がそこにはあるではないか！
「狙いが人間(ディフェンダー)に向くのは確かに理解できますが、」
「成程なァ、お前らも『増援阻止』やもんな？」
　に、とサウザンドブレイドの唇が釣り上がる。
　その問いに答えなくともすべては悟る。合理的な動きを見せているのだからリアリティが無いだなんて否定はできない。

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「成程ね、増援阻止――そりゃあ、厳しい話だね」
　鋭い一瞥をくれた優はサウザンドブレイドの喉元に噛みつかんほどの勢いで睨みつける。癒しを与えるにもダメージ量が釣り合わない事を優は当に認識していた。
（「強い敵を掻い潜って前線に……そうよね、『行かせたくない』係だもんね」）
　夜色の髪をふわりと揺らし、ライドキャリバーと共にサウザンドブレイドの阻害に向かう一葉の足元で影が躍る。
　それに合わせて飛び込んだ隼人の一撃が突き刺さる。然し、刹那、突破を狙った陽桜の足元がぐらりとふらついた。
「いけない」
　――と、そう声を発したのは心。地面を蹴って下駄のからころという音を立て飛び込んだ祝が受け止める。
　陽桜を襲った一撃に彼女の意識が吹き飛ばされた事を咄嗟に理解する。殺人鬼は確かに前線へ向かおうとした『護り手』を狙ったのだろう。
「ッ、」
　息を飲んだ心桜の脳裏に浮かんだのは大好きな親友の姿。こっこ先輩、と柔らかに呼ぶ翡翠の瞳の少女。
「わらわは此処で倒れるわけには行きませぬ……！」
「ワルツを踊るのがお好みでしたら幾らでも踊って差し上げますわ、レディ」
　援護を頼み、只、突破を目指す心桜を追う様にどろりと殺人鬼の手が迫る。
　彼らの魔の手から己を救い出してくれる信頼する心と祝。振り仰げば一葉がサウザンドブレイドの攻撃を受け止めている。
「憧れてる人や好いてくれる人たちにカッコ悪い所も見せられませんし」
　とん、と固いアスファルトを蹴りつける。柔らかに揺れた白髪。
　鬼の顔を覗かせて只、少女は嗤う。
「――一人は殺させてもらいましょう」
　ヒュ、と切り裂く音ひとつ。サウザンドブレイドと交差したそれ。
　ぐん、と心の頬を切り裂く一撃が赤い疵を生みだした。彼女が身をかがめたと同時、隼人の影が振り翳される。
　確かに届いた攻撃はサウザンドブレイドの喉元に突き刺さる。どろりと散った紅が心の白い肌を汚してゆく。
「はやく！」
　早く、行かなくては。誰の物かもわからぬ声を聴き、心桜の足は鈍く動く。
　嗚呼、薔薇の香が濃く感じられる。近くに感じた殺人鬼の殺意の塊がどろどろとまとわりつく様に彼女を襲った。
　クリアでない視界は己がこの戦いで負った傷の深さを思わせた。陽桜を庇う様に戦う一葉の足元がぐらりと揺れる。
「あらかた丸ゥ！」
　吼える隼人の声を聴く。癒しの気配を感じながらも心桜の視界は暗くなる。
　咄嗟に前線に飛び出し、倒れた心桜を後方へと押しやった隼人は嗤う貴婦人と視線が克ち合った。
「お前ッ――！」
　サウザンドブレイドを倒すに至っても、それでも届かぬ凶刃が其処にある。鮮烈の一日に、灼滅者は只、相対した。
　一人を倒すに至った事は好機につながるはずだと心は地面を踏み締める。
「撤退です。あとは前線を信じましょう」
　小さく声を発した心に祝は頷いた。朦朧とした意識の中で一葉はサウザンドブレイドの気配が消えた事を理解する。
「アイ……ツ……」
「大丈夫。アイツは倒れたよ。残るは――……」
　唇を噛み締めた祝は帰り道を確かめる様に走り出す。誰かが死ぬ位なら――そう思い乍らも、約束が脳裏に過った。
（「生きてりゃ何とかなるんだ、フィルナートに任せてここは……！」）
　一葉の身を支え、祝は後方へと走り出す。未だ尚、周囲の動乱は続いている。
「御機嫌よう」
　動乱の気配の中に薔薇の香が混ざり込む。
　走り乍ら、くるりと振り向いた優の瞳には、優美に笑った貴婦人が只、映り込んだ。
　嗚呼、薔薇の香が濃い――……。

作者：菖蒲	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年10月20日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 8
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