世界救済タワー決戦～炎を越えて

■リプレイ

●接敵、そして
「まーたメンドくさいコト起こしてるのねぇ、えーと……マ、マ、マン……何だっけ？」
　標的の名前を忘れた明石・瑞穂（ブラッドバス・d02578）が思い出そうと海外サッカーチームがどうのとブツブツ呟く姿をちらりと見てから、神楽・三成（新世紀焼却者・d01741）は視線を前方へ戻す。
「首魁を倒してもなお驚異足りえるとは、流石六六六人衆ですねぇ……」
　待ち受けるのは、その六六六人衆との戦い。
「ま、いいや。チャッチャと片づけるとしましょうか」
「その前に、まずはあなた達を送り出すことでしょうけど……」
　結局思い出すのを諦めた瑞穂へ指摘したヴィントミューレ・シュトウルム（ジーザスシュラウド・d09689）は教祖様爆発と口にし。
「いよいよだね」
　否応なく迫り来る戦いの気配にグラジュ・メユパール（暗闇照らす花・d23798）がぎゅっと拳を握った。
「力を貸して！」
　癒月・空煌（医者を志す幼き子供・d33265）はこの時点でスレイヤーカードの封印を解いている。
「人イタ」
「人違ウ、灼滅者」
「ドッチデモいい、コロセる」
　まず行く手を遮るは、防火服と溶接用のマスクを身につけた二体のデストーチャー。灼滅者達に気づくなり喜色を満面にし、欲求を晴らそうとする態度を隠さぬ様を見せられれば、一般人には扱えないサイキックによる一般被害を嫌う片倉・純也（ソウク・d16862）にとって充分だった。容赦の欠片も要らない相手である。
「来るぞ」
　それでも、感情は内に秘め短く仲間へ警告をし。
「イージア」
　黒いウイングキャットへ緑風・玲那（ラストフェザー・d17507）が呼びかけた直後に戦端は開かれた。
「一凶、披露仕る」
「ヒャッハー！　俺様がむしろ手前らを綺麗さっぱり焼き尽くしてやんよぉ！！」
「コ、グゥッ」
　死角に回り込む叢雲・宗嗣（黒い狼・d01779）と戦いの始まる前とはまるで態度の豹変した三成がほぼ同時に動き、高速回転しながら迫り来る恋の予感壱号の杭を殺人トーチで弾こうとしたデストーチャーが死角からの斬り付けられて思わず加害者の姿を探し。
「今だ！」
　自身が相手の視界を外れたところで、額に二本の赤い角を生やしたグラジュが上段の構えのまま地を蹴り、重い斬撃を繰り出す。
「攻撃は当たっていてもあまりこたえた様子はないわね」
　バベルの鎖を瞳に集中させながらヴィントミューレは一連の攻防を観察していた。本来一体あたり灼滅者八人が妥当とされる力量のダークネスなのだ、無理もない。
「それが、二体」
「オォォォォ、灼滅者コロす！」
　連係攻撃に晒されていない側のデストーチャーが獣の様に吼え殺人トーチを手に玲那へ向かって駆け出し。
「ヌぅッ」
　突如横に飛び退いた直後、デストーチャーが直進すれば居たであろう位置を貫いたご当地ビームが地を焦がす。
「力量は本物か」
　ビームを放った姿勢のまま、純也は敵を見据える。相性の問題か、最も苦手とする種のサイキックだったからか。
「いや、どちらでも構わない」
　敵の牽制も純也の目的の一つだった、ならば。
「クソッ」
「っ、危ないところでした」
　狙いの一つは果たされた。勢いと注意を削がれた六六六人衆のトーチは玲那の着るAlter Randgridの表面を軽く炙る程度にとどまり。
「なッ」
　三成と斬り結ぶ、デストーチャーが腕の違和感に視線を落とし見たのは腕に絡み付く細長い影。
「ヌッ、グゥ」
「みぃっ」
　動きの鈍ったダークネスから視線は外さずイージアはリングを光らせた。

●強者
「はー、しぶといわねぇ」
　魔法の光線に貫かれながらも怯まず味方へ突っ込んで行く六六六人衆の姿を見て瑞穂は明らかに嫌そうな顔で零す。
「これで――」
　再び護符を飛ばし、そんな瑞穂を守護すると空煌は前方を見て顔を歪めた。
「ヘヘヘ、まだやれるぜーっ！」
「オ前、邪魔ァッ！」
　傷ついた身体を砕斧に宿る「龍因子」を解放することで癒やしつつ立ちはだかり続ける三成にデストーチャーは苛立ちを覚えた様だった。
「イマまデの分、ここデ全ぶべっ」
　吼える六六六人衆は宗嗣に足の腱を斬り裂かれて蹌踉めき。
「凍っちゃえ！」
　すかさずグラジュが前のめりになったデストーチャーへ冷気のつららを撃ち出す。
「ガァッ」
「攻撃は気魄と術式かしら？　それなら、妖冷弾が当たるのも納得だけれど」
　今だ観察を続けるヴィントミューレは、バスターライフルの銃口を氷柱の刺さった敵へ向け。
「く、グォッ」
「それだけじゃないわね」
　反応しかけながらも絡まった影に引かれ魔法の光線を避け損ねた姿に仲間達の攻撃の成果を見る。もっとも、それは二体居る内の一体に攻撃が集まっているからでもあり。
「きゃあっ」
　殺人トーチに焼かれた玲那の悲鳴が上がったのは、直後のこと。純也の斬撃を敢えて身体に受け六六六人衆は攻撃を優先したのだ。
「一人二人の攻撃なら大したことはないと言うことか」
　別段、集中攻撃されているもう一体を助けるための行動という訳ではない。
「燃ヤス、こノまま、燃ク」
　溶接マスク越しにぎらつく濁った瞳は、己の欲求、ただ殺戮への渇望からただ玲那を見据え。
「みぃっ」
　片膝をつく主へとイージアがリングを光らせ。
「まだ、いけます」
　玲那は立ち上がる。全ては、事を為すべき者達の為に。
「オオオオォッ」
　歓喜か苛立ちか、三成へのもう一方が見せた反応を鑑みればおそらく後者なのだろう、デストーチャーは吼え。
「ヒャッハー！　その意気だぜー！」
　仲間の闘志に背を押されながら三成がリア充オーラを揺らめかせ。
「グギャアッ」
　気をとられた六六六人衆が死角から無言で宗嗣に刻まれ悲鳴をあげた。
「敵を弱くする、弱くする……！　いくよっ」
「ガっ」
　かと思えば、今度は吼えた側の六六六人衆がグラジュに斬られ。
「ウオォォォォッ」
　幾つも傷を付けられながらもデストーチャーは殺人トーチを振るう。
「ヒャッハー！　そう何度も喰らわねぇぜー！」
　それが身を屈めた三成の髪の先端を焦がし通り過ぎたのは、ここまで灼滅者達が命中させた攻撃が実を結んだからか。
「動きに精彩を欠いてる気がするわね」
「これなら、きっと」
　送り出せると信じ、空煌はルージュの鎧剣を解き、宗嗣の全身を覆わせる。攻防が続く中、定めていた時は、刻一刻と近づいていたのだ。
「燃ヤスゥ、ガアッ」
　揺れる炎が大気を焦がし、叩き付ける様に殺人トーチを吹き付けようとしたデストーチャーの肩にヴィントミューレの跳び蹴りが突き刺さる。
「フリージングデスと言いたいところだったけど、準備してない以上仕方ないわね」
「ヌゥゥぅ、うおオオオオッ！」
　着地して顔を上げれば身体を起こし、再び攻撃に移ろうとする六六六人衆がそこにあり。
「燃ヤス、燃ヤスゥッ」
　もう一方のデストーチャーもまた殺人トーチを振り上げ、玲那へ向かって距離を詰める中。
「頃合い……か」
「ですね」
　視線を交わした灼滅者達は一斉に世界救済タワーへ向かって駆け出した。

●灼滅者達の作戦
「「ナっ？！」」
　灼滅者達全てが突破を計るとは想定外だったのだろう。流石にマンチェスター・ハンマーの元へ行かせてはならないと言うことぐらいは頭へ有ったらしく、だが、それが皮肉にも仇となった。繰り出す直前だった一撃をどの灼滅者に当てて離脱を阻むべきかで迷いが生じ、動きが止まってしまったのだ。
「間抜ケ、通スナ！」
「オ前コソ！」
「範囲攻撃が無かったのが仇になったわねー。お陰で助かったけど」
　互いの不覚に気づいて罵り合うデストーチャー達を尻目に瑞穂がボソッとこぼし。
「ヌゥゥ、逃ガサ、ガぁっ」
　挑発と受け取ったのか、いきり立って追いかけようとした六六六人衆は足首に血の花を咲かせてたたらを踏んだ。
「済まない……ここは任せる……」
　行きがけの駄賃に一太刀見舞った宗嗣はそのまま走り去り。
「もう１体は楽しんでいる様だが、そちらの武装は不調なのか」
「オ前ェェェッ！」
「んじゃ、任されたわ～。あとよろしく～」
　そちらへ意識を向けない様にか、純也の挑発にもう一体のデストーチャーが激昂する様を見届けた瑞穂も踵を返す。
「がんばってきてね！　こっちは任せて！」
「ふぅ、ここまではうまく行ったわね」
　密かに声援を送るグラジュを横目で見たヴィントミューレは、視線を前方に戻しバスターライフルの銃口を向けた。
「コレ以上行カセナイッ！」
　殲術道具を向けた先のダークネスにとって、灼滅者たちの狙いはまだ宗嗣や瑞穂だけではなく、全員の突破なのだろう、もう一体が純也へかかずらっている間もなりふり構わずこちらへ追いすがり。
「ギッ？！」
「大丈夫？」
　追う事を優先したからこそ、撃ち出された魔法光線を避ける余裕もない。敵の怯んだ隙を突いて空煌は護符を飛ばし、味方を癒す。
（「ここからが、正念場」）
　二人抜けた分を補えなければ、窮地にたたされるのは灼滅者側。しかも敵は六六六人衆。空煌にとって怖い誰かが死ぬことを作り出す存在でもある。
「ウオオオッ、細イ影、鬱陶シい」
「ヒャッハー！　こっちにとっちゃ大助かりだー！」
　動きを阻害され喚くデストーチャーへ追加の影の触手を三成が伸ばし。
「ガアッ」
　純也に注意の逸れていた六六六人衆はグラジュに一撃を見舞われ、苦痛に悲鳴をあげた。
「やれてる、僕……役に立てるように……」
　一つ頷いたグラジュはエアシューズを駆って走り出し。
「通サン！」
　行く手を遮る様に炎が薙いだ。
「アトは止メル」
　追加の突破、を許さない構えだが、それは同時にこのデストーチャーが先程の行動を突破して行く二名への支援だった事へ気づいていないことを露呈する。
（「たぶん『六人の突破は防いでやった』とでも考えてるんでしょうね」）
　この分では三人目を送り出すのは不可能だが、そももう一人離脱してはここを支えきれるかが怪しくなる。
「こういう時こそ唱えておくべきね……教祖様爆発」
　ただし、爆ぜる様に光ったのはヴィントミューレの持つバスターライフルの銃口であり。
「グゥッ」
　発射された魔法の光線は、外的要因で回避率を下げられた六六六人衆の身体へ突き刺さる。
「じわじわと、効いてきてはいますね」
「そうだな」
　バスタービームと影縛り。黒死斬にスターゲイザー。蓄積する状態異常は意図して取り払う術をデストーチャー達が持たぬ故に、徐々に効果を見せ始めている。灼滅者達の攻撃をかわし、いなし、弾く数が減ってきているのだ。
「ヌゥゥゥ、何故、ナリ損ない、弱イ。俺、強イ！　何故、コロセない？！」
「死なせない、あきらがいる限り！」
　ここまで傷を負う味方を癒していた空煌は喚くデストーチャーへ叫び返し。
「コロすぅ！」
　六六六人衆は舌戦よりも炎による破壊を選んだ。
「うぐっ」
　格上としての意地か、殺人トーチが三成を焼き。
「やむを得ないか」
　もう一体を相手取っていた純也が両膝をついた三成の全身をダイダロスベルトで包み込む。
「ヌゥゥ、邪魔ヲ」
「させません、護り通します」
　戦いはまだ終わらない。攻防は尚も続くのだった。

●激戦の果て
「グ……ガ」
　全身ボロボロになったデストーチャーが膝をつく。手にした殺人トーチには日本刀由来の傷が幾つも刻まれ、防火服には空いた穴を溶かして無理矢理繋げた様な後が幾つか。
「どうやら限界らしいな」
「ハァ、ハァ、ハァ」
　自己回復を使うところまで追い込まれたのだ。純也へ反論する気力もないのか、六六六人衆は荒い呼吸を繰り返す。
「ただ、こちらも余裕のある状況とは言えないわね」
　ちらりと横目で『もう一体』のデストーチャーをと戦う仲間の姿を見て指摘する。灼滅者側は既に戦力を二つ欠いていた。玲那の傍らにイージアの姿はなく、純也の後ろには仰向けに倒れる人影が一つ。
「ソロソロコロスぅッ」
「くっ」
　ただでさえ当初より少ない人数で二体のダークネスを相手取っていた。空煌が回復に専念していようとも癒やしきれないダメージはかさんでゆく。「このあたりで一人は灼滅しておかなければ拙い」状況でもあり。
「しかけるわよ」
「うん。援護するよ、僕の出来る限りで！」
　ヴィントミューレの呼びかけに応じたグラジュが走り出す。上段に構えたままの日本刀は早く重い斬撃を繰り出す為のものか。
「グゥ、ぬ、ヌオオォォォ」
　膝をついていたデストーチャーが雄叫びと共に立ち上がり。
「今こそ裁きの時ね。この交渉に正義があるのかどうか神に問うといいわ。受けなさい、これがあなたに対する洗礼の光よっ」
「ゴガッ」
　グラジュの斬撃を防ごうと殺人トーチをかざしたダークネスの胸を悪しきものを滅ぼす裁きの光条が貫いた。
「バ、馬鹿ナ、俺、コロ……」
　倒れ込むデストーチャーの身体は光に貫かれた場所から白い灰に変わりながら崩れだし。
「これで残りは――」
　あと一体、だが。
「オオオオッ！」
「ぐっ、これ以上は拙いか」
　もう一体の殺人トーチに焼かれた純也は攻撃の機会を犠牲にして後方へ下がる。
「塔の方は……どうなったでしょうか？」
　唯一残ったディフェンダーである玲那は後方を見ず、視線はデストーチャーへ向けたまま呟く。
「かなり、時間は経ってる筈よ。もう、そろそろ何か有っても良い頃なのだけれど」
　マンチェスター・ハンマーの撃破にせよスサノオの到来にせよ、何かあればわかるはずとヴィントミューレは振り返り。
「まだ、やれるよっ！」
「グゥッ」
　斬りかかるグラジュの斬撃を殺人トーチで六六六人衆が受け止める。回復に手を割いたことで連係しての攻めが減ったからであろう。
「死なせない、死なせない……けど」
　空煌の符でも戦闘不能の味方を起きあがらせる事は出来ない。
「二体目の灼滅は無理か……」
　闇堕ちする程追い込まれてはいないものの、眼前の敵を撃破するには火力不足。
「燃エロォ」
「っ」
　戦局は膠着したまま、仲間達の盾になった玲那を幾度目かの炎が襲い。
「え？」
「今のは……」
　幾人かが声を発したのは、ほぼ同時。
「塔の方で何か動きがあったようね」
「間に合った、のかな？」
「わからないわ」
　先程世界救済タワーの方角を気にしていたヴィントミューレは仲間の疑問に首を振る。
「ただ」
　戦闘の継続は難しく。
「そうですね、これ以上は……このまま私が殿をします」
「頼む」
　変わらず視線は敵から逸らさぬ玲那を最後尾に灼滅者達は戦線を離脱する。
「ヌゥゥ」
　唸りはしてもデストーチャーはまた、奇策に出られると警戒しているのか追う様子を見せず。
「追ってこなかったね」
「そうだな」
　やがて六六六人衆の姿が見えなくなって、ポツリと漏らすグラジュに三成を背負う純也は頷く。
「下手に追いつめて闇堕ちされたら拙いとでも判断したか、あるいは六人の突破は防いだのでそれで良しとでも思ったか」
　真相はわからない、だが足を止める理由もなく。一行は来た道を引き返すのだった。

作者：聖山葵	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年10月20日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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