世界救済タワー決戦～戦線を繋げ

■リプレイ

●待ちうける暴威
　ブレイズゲート、世界救済タワー。
　今やマンチェスター・ハンマーによって占拠されたそこを目指して、灼滅者たちが集う。起死回生というほどの手ではないが、彼女とその一派にとってを考えるなら――。
「敗戦の将の地味な嫌がらせね。陰湿だよ」
　ばっさりと済ませた備傘・鎗輔（極楽本屋・d12663）の声に怒りは感じられない。首を傾げて見上げる霊犬・わんこすけを伴い淡々と済ませたものだが、天方・矜人（疾走する魂・d01499）は六六六人衆のありさまに呆れてすらいた。
「ブレイスゲートを手土産に、ってのは大きく出たな。つーか、六六六人衆解体後の方がアイツら生き生きしてねえか？」
「あたしも同感。そンなチョーシ乗らせるわけにはいかないンだよね」
　ぷくりと頬を膨らませて堀瀬・朱那（空色の欠片・d03561）が首肯する。組織的な活動が激減するとはいえ、個体戦闘能力の高い六六六人衆のことだ。彼らが自由きままに人を害しはじめる前に、勢いを削いでおく必要がある。
「確かに、ナミダ姫との接触を許してしまっては厄介ですわね」
　そう思っているのは赤松・鶉（蒼き猛禽・d11006）ばかりではなく、彼女と行動を共にしていることの多い蒼月・碧（碧星の残光・d01734）も気合が入っていた。
「突破した皆さんにはマンチェスター・ハンマーとの戦いが待ってますし、こちらで頑張って引きつけておきますからねっ」
「残る方も決戦へ向かうほうも、楽じゃないだろうな……」
　この戦いへ挑むのは自分ばかりではない。大切な恋人と、その親友も別のチームで参加している木元・明莉（楽天日和・d14267）としては、戦場へ向かいながらも心配事が尽きることはない。
「タワーって結構思入れの深い場所なんですよね。とある目的があってタワーを沢山潜りラブリンスターのドキドキ☆ハートLOVEを集めていたんで……」
　考え考え口を開いたのは木津・実季（狩狼・d31826）だった。敵の詰まった場所とはいえ、慣れた場所を『食われ』るのは気分のいいものではない。ましてや。
「まぁ、今も集めているんですけど」
「見えてきた、あれが世界救済タワーか」
　話を聞いていた日下部・優奈（フロストレヴェナント・d36320）がタワーを振り仰ぐ。あの全てをナミダ姫に食らわせるわけにはいかない。

●一点突破
　この場で前線を維持する殺人ドクター、オピウム。肉切り包丁たるサウザンドブレイド、ラム。試練が一行の前に姿を現した。
「素直に諦めればいいのにねぇ」
　耳障りな笑い声をあげるオピウムの前に、堂々と胸を張って鶉が進み出た。
「さぁ、大試合の開始ですね！」
　封印を解くと青い鳥の刺繍と装飾の施されたリングコスチュームへと変わる。愛用のnon stop、カラフルなステッカーサインを掲げて、朱那がオピウムに躍りかかった。
「押し通らせてもらうヨ！」
　鮮やかな色彩が流れる。相手を押し留める赤い輝きを宿した標識がめりこんで、それでも血まみれのドクターが嘲笑った。
「ひひ。できるもんならやってみるんだねぇ」
「行こうか、皆。何としても抜けるよ」
　無造作にすら聞こえる気負いのなさ。言葉だけを見れば全員で抜けるつもりと聞こえるだろう。疾走する鎗輔のエアシューズの踵が炎を噴き上げた。
「灼滅者風情が大きく出ましたね」
　コートを翻したサウザンドブレードの回りの空間に、ふらりと無数の刃物が居並ぶ。一斉に襲いかかる刃の雨を受けながら、鎗輔は蹴撃をラムの脇腹へ叩きこんだ。勢いで数メートルも跳ね飛ばされながら、まだ笑っているラムを、わんこすけの斬魔刀が切り裂く。
　刃の雨にさらされたのは鶉も同じだったが、彼女は実季が身を呈して庇っていた。
「思い出の場所なんで食べられると困っちゃうんですよ。だからあなた方のつまんない悪巧みは妨害させて頂きますねぇ」
　凝る氷の弾がオピウムを直撃、後を追うように疾走した明莉の妖蒼桜刀が胴を薙ぐ。
　鶉の鮮やかなドロップキックを受けてたたらを踏んだオピウムは、狂ったような笑い声をあげながらチェーンソーを振りかぶる。目標は攻撃手である鶉。
　その斬撃を代わって受けた矜人も、既にゴルトクルセイダーを抜き放っていた。破邪の光が白衣ごとダークネスを斬り下ろす。その一瞬に呼吸を合わせた優奈が、高く跳んだと思うと体重を乗せた踵落としをオピウムに食らわせた。

「よいしょっと」
　のんびりとしたかけ声と共に、鎗輔が骨ごと叩き切りそうな斬撃をラムの肩から打ち下ろす。その衝撃によろけながらも、ラムは全てを撫で斬りにしそうな斬撃を繰り出した。真っ向から受けた実季が苦しげに表情を歪める。
「大丈夫ですか、今回復しますよ」
　碧の腰のリボンがふわりと舞った。意思あるように実季にまとわりついて傷を塞ぐ。
「KOを奪ってみせますわっ！」
　鶉のエルボーがオピウムのこめかみを穿ち、棒立ちになったつぎの一瞬。
　３分めでの突破に賭けていた三人がすりぬけようと地を蹴った。
　が。
　鶉と鎗輔の前には、それぞれオピウムとラムが立ちはだかっていた。戦闘のあいま、擦り抜けようと狙った隙を抜けられたのは朱那一人。
　ウィールが炎を噴き上げ尾を引いて、明莉の蹴撃がオピウムの横っ面にめりこむ。それでもまだ追おうとしたようだったが、間合いにとびこんだ実季の槍が放つ氷結の呪いの直撃を受けてのけぞった。
「小癪な真似をしてくれましたわね！」
　サウザンドブレイドが追いすがる前に、無理やり矜人が我が身を盾として捻じ込む。
「行かせねえ！」
　防御を考えない間合いでタクティカル・スパインが回転した。鳩尾に打ちこんだ衝撃についで、流し込んだ魔力が内側から暴発し、苦鳴をあげたラムの足が止まる。
　とどめとばかり、優奈のダイダロスベルトが翼のように広がった。オピウムとラムを捕らえて視界を覆い骨も砕かんばかりに絞めつける。
「行って下さい！」
　一瞬仲間を振り返った朱那だったが、鶉の声に背を押されるように戦場を後にした。

●後へ続くもの
　二体の敵めがけ、わんこすけが六問銭を立て続けに撃ち込んだ。まだせせら笑ってすらいるラムへ、鎗輔がローラーダッシュで炎を噴き上げながら蹴りかかる。口ではまともに戦うつもりがなさそうな言葉を続けていた。
「皆、体力温存を忘れないようにね」
　舌打ちするオピウムの足元から影を跳ね上げ、実季は首を狙って切りつけた。不愉快げに反撃のメスが風をきって死の雨の如く降り注ぐ。
「ふふ、思いのほか楽しいですね」
　ラムが自身の傷を塞ぐべく、コートの下に揃えた無数の刃を打ち鳴らした。
　ほぼ同時、間合いに踏み込んだ明莉が上段から斬撃を見舞った。剣光一閃、額から顔、胸までを迷いのない太刀筋で裂かれてオピウムが怒りの叫びをあげる。その動きを封じるべく、鶉の槍が穂先から凍てつく弾を突き立てた。
　聖鎧剣ゴルドクルセイダーがまばゆい破邪の光を放つ。巨大な鞘が分解された抜き身を軽々と操り、矜人はラムの身体に渾身の斬撃を食らわせた。
「くおっ？！」
「今癒しますから……っ！」
　ラムがたたらを踏んだ刹那、碧の放ったダイダロスベルトが血を滴らせる実季の肢体を守るように覆い傷を塞ぐ。同時に優奈のサイキックソードの刀身が輝きを増した。かっと辺り一帯が光に呑まれ、ふたりのダークネスが顔をしかめて一瞬怯む。
　これぞ好機。ラムの肩へ骨を砕く一撃を叩きこみながら横を鎗輔とわんこすけが。オピウムの胸板にドロップキックを叩きこんだ鶉が、跳ね起きざまに駆け抜けた。
　予定より２分遅れの突破だが、出来ないよりはいい。
「私達の分も任せたぞ！」
「引き受けましたわ！」
　優奈の声援を背に二人と一匹が戦線を離脱していく。同じクラブの先輩である鶉を見送り、碧も思わず呟いていた。
「皆さん、ご無事で……」
　相手は序列二位ともいうマンチェスター・ハンマーだ。せめて誰もひどい傷を追わずに戻って欲しい、と願わずにはいられない。
　勿論突破を黙って見逃すダークネスたちではなかったが。
「おっと、おまえらは残ってもらうぜ！」
　立ちはだかった矜人が怪談を語る。追わんとする六六六人衆たちは怪談に呼び起こされる怪奇現象に巻き込まれ、先へ進むことができなくなった。
「そう簡単に行かせては面目がないというものでしょう！」
　自身の傷を塞ぎながらしかめ面のオピウムをよそに、ラムが怒声をあげる。途端に彼女が携えるたくさんの刃物が翻り、矜人の身体を切り刻んだ。歯を食いしばって堪える彼を中心に、碧が交通標識を掲げて警戒色を灯す。ここから先は耐久戦だ。仲間に少しでも加護をかけておかなくては。
　傷を塞いだばかりのオピウムへ、優奈がサイキックエナジーの凝集した光の刃を撃ち込む。距離をとろうとする彼の四肢に、明莉の放った蒼の銀糸が絡みつき動きを封じようと軋む。
「……ハンマーの方は任せました」
　ダークネスたちとタワーの間へ割り込むよう位置取り、実季は呟いた。構えた槍の穂先に冷気が凝り、氷弾となって撃ち込まれる。
「きひひぃ、端からみんなで行く気はなかったんだねえ」
　耳にひっかかるようなオピウムの慨嘆から察するに、全員突破を目論んでいるようには見せかけられてはいたようだ。ラムは明らかに苛立った表情を浮かべて灼滅者たちを睨めつけていた。

●血戦
　戦線突破者、三名。だがこれは目的の半分が達成されただけだ。
　明莉はダークネスに聞こえるよう、心底面倒そうに嘆いてみせた。さも、仕方なく相手をしていると言いたげに。
「あっちはデカ乳拝めて羨ましいね。てか、なんでこんなザコ相手しなきゃなんないのかね俺ら」
「分担だからな、しゃあないってもんだ」
　渋々といった声を出して矜人が頷く。離脱した人数は三人だが、戦力からいえば半減したに等しい。ダークネス二体は楽ではないが、少しでも長く足止めしなくては。
「ふざけた真似をしてくれるのですね！」
　ラムの叫びと共に、残った前衛二人の足をナイフがずたずたに切り裂いた。動きが鈍った一瞬を見逃さず、不意に肉迫したオピウムが矜人の足を切断せんばかりに抉る。
「ッつ！」
　呻きながらも矜人はゴルトクルセイダーを振りかぶった。目を灼く破邪の光が薄汚れた白衣を斬り裂くのと、銀鷹を駆使した明莉が滑りこむのは同時だった。わずかに遅れて火の粉が散り、蹴撃は炎をまとって頭部をまともに捉える。
「げはっ！」
　骨の軋む音をたててよろめくオピウムの首を、実季の足元から滑り出た影が薙いだ。ぐらりと頭が後ろへ落ちかけるのを、手袋をした手で力任せに戻す。血を撒き散らすその正面から、優奈は断罪輪を携え間合いへ踏み込んだ。
「ふざけてなどいない。こちらは大真面目だ」
　回転する戒刃・蕾がオピウムの肉を裂き、更なるダメージを刻む。明莉にも加護をまとわせた碧は交通標識を握る手に力を込めた。
「……ここから先へは通しませんよっ！」
　彼女の必死の表情を一瞥し、オピウムとラムが目を見交わした。彼らの務めはタワーへ灼滅者を近づけないこと。追撃しようとしていると悟った碧が仲間に目で伝える。
　血染めの白衣を翻し駆けるオピウムの進路を塞いだのは実季だった。血を拭って槍を構え、至近距離から氷の弾を食らわせて薄く笑う。
「ここで灼滅されるのが怖いんですか？　腑抜けですか？」
「言わせておけば！」
「ところでお前、噂では病院の元スタッフと聞いたが……本当か？」
　怒号をあげるオピウムの牽制をかわした優奈が、宙で一回転すると星が落ちるような蹴撃を頭へ見舞った。衝撃で皮膚を氷の呪いが這いまわる。たたらを踏んだ懐に地を這うように低く素早く明莉が踏み込み、視線が交錯する。
「貴様――」
　妖蒼桜刀はオピウムの腹を真一文字に、霊的防御ごと薙ぎ払った。血の華が咲く。
　それを置き去りにしようとしたラムだったが、気がつけば向かうべきタワーへの道は歪み、怪異で追うことはできなくなっていた。矜人の語る怪談の力だ。
「親玉の所に逃げるのか？　確かに強い奴の近くは安全だよなァ？」
　タワーへ向かった灼滅者の姿は影も形もなくなっていた。追撃することから目の前の敵の殲滅へ、判断を切り替えたふたりのダークネスが一行を睨みつける。

●然れど及ばず
　オピウムのチェーンソーが金切り音をたてて回転し、深々と腹を抉られた矜人がたまらず膝をついた。傷を負っている優奈を庇うことはできたがそろそろ危ない。
　碧が順当に回復を重ねているものの、五分もすればじり貧に追い込まれていった。チームの中でも戦力の高いものが突破したことで抗しかねてきたのだ。
　明莉がダークネスに炎や攻撃力の低下といった妨害を積み重ねているものの、基礎体力の高い六六六人衆、しかも両者共に回復スキルがある。
「ふっ！」
　狼のものと化した腕、銀の爪で前へ出たオピウムの背をしたたか裂いた実季だったが、出血の多さでぐらりと視界が揺れた。
「ここで倒れたいというなら、トドメをあげるぐらいの慈悲はあるのですけど？」
　嘲弄するラムを唇を噛んで睨み返す。十全の状態で三人の仲間を突破させることに尽力したが為、前衛として経つ彼女も矜人も癒えない傷が嵩んでいる。攻撃を集中されたオピウムも相当にダメージを負っていたが、この人数では押しきれない。
　時計を見れば、戦い始めて１２分。可能な限り引きつけたが、これ以上は意識不明者が出るだろう。
「……なあ、どう思う？」
「一人ぐらいは灼滅したいところだったがなァ」
　明莉と矜人が苦笑を交わす。言葉の意味をふたりのダークネスが理解するのと同時。
　優奈が再び、オピウムとラムの視野を奪うようにダイダロスベルトを展開した。
「行きましょう！」
　ふらつく優奈に肩を貸して碧が駆けだした。後に悔しそうな実季が続く。反射的に後を追ったオピウムへ、仲間の後ろを守る明莉が銀の鋼糸を放った。しなやかな糸はダークネスの皮膚を裂き、四肢を断たんばかりに引き絞る。すかさず矜人が怪談を滔々と語り、追手と仲間の間に時空の断層を引き起こした。一時的とはいえ時間は稼げるはずだ。
「おのれ、灼滅者！」
「いえ、オピウム。追撃よりも、すぐにマンチェスター様に合流しましょう」
　オピウムをラムが制しているのが聞こえる。
　全員が満身創痍、出来る限りのことはした。あとは仲間の戦果を信じるだけのこと。
　互いを庇いあいながら、一行は戦場を後にしていった。

作者：六堂ぱるな	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年10月20日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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