世界救済タワー決戦～道行きを示すために

■リプレイ

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　しきしきと。空気が軋んでいた。
　ファム・フィーノ（太陽の爪・d26999）は、視界の先にある建造物を見上げる。
「救済タワーさん、お長ーいツキアイだったね」
　少しサビシイ？
　カタコト交じりで言葉を投げかけるが、もちろん返ってくるわけもない。
　代わりに姿を見せた相手に、秦・明彦（白き狼・d33618）の浮かべる笑みがかすかに変わる。
　灼滅者たちと対峙するのは、一方は豊満な肢体を惜しげもなく見せつけそれでいて要所と急所を隠す女と、対照的にボディラインを隠すコートを一分の隙なく着込んだ女。
　それがただの、たとえば嗜好が特殊だとしても、普通の女であるはずもなく。
「あらあら。わざわざ殺されに来るなんてご苦労様ねぇ」
　豊かな胸を突き出すように反らし、一方の女……リストレイターは妖艶に微笑む。黒い手袋に包まれた手元で、ちらりと鋼糸が光を返して。
　もう一方の女、サウザンドブレイドが狂気に冒された笑みで神経質な音をさせてコートの裾を払い、その下に隠していた無数の刃物へ手をかけた。
　今にも攻撃を仕掛けようとするダークネスの動向を伺いながら、戒道・蔵乃祐（逆戟・d06549）は前へ出る。
「（年上の友人として、ファムさんと柩さんを守らないとな）」
　警戒する彼のやや後ろで、比良坂・柩（がしゃどくろ・d27049）が口を開いた。
「さて、序列が何位なのかは知らないけれどブレイズゲートで何度も戦った相手だ」
　キミたち程度に負ける筈がないだろう？
　告げる言葉にも、ダークネスはその余裕の笑みを崩さない。
　灼滅者程度に負ける筈がないだろう？　そう告げる笑みだ。まったく同じ、但し勝者の立場だけは違う。
　灼滅しちゃってもいいんだね。夜伽・夜音（トギカセ・d22134）は、エクスブレインの言葉を思い返しきゅっと拳を握り、
「（……なんてちょっと緊張するねぇ。頑張るさんなの）」
　短く息を吐いて入れすぎてしまった力を抜く。
　灼滅者たちの本心は、ダークネスに隠されている。
　ぴりとした殺意に、桜之・京（花雅・d02355）が挑発気味の笑みを浮かべた。
「後顧の憂いは断つべきだもの。貴方達をここで仕留めるのも、務めの内よ」
　灼滅すると言下に告げる彼女へ、漣・静佳（黒水晶・d10904）がそっと目を向ける。
　戦場には相応しくない、しかし彼女への想いを伝えるにこれほどのものはない感情を湛えた瞳が応えた。
「（……どうぞ、桜之さんも、ご無事で）」
　親愛といたわりを、言葉にせず。
「どちらも援護に行かせるつもりはございませんので。断罪されるお覚悟はよろしくて？」
　いささか大仰な素振りで、断罪と救済の象徴たる願いの結晶たる黒と白の大鎌を構え宣言する黒嬢・白雛（天翔黒凰シロビナ・d26809）。
　応えは哄笑、そして凶刃だった。

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　コートを翻しサウザンドブレイドが得物を振るう。
　蔵乃祐は踏み込むように前へ出て身を挺し、
　ざざざざざざっ！！
「ぐっ！」
　降り注ぎ刻む斬撃に苦鳴をこぼす。
　強敵と覚悟していた。が、やはり痛いものは痛い。
　メディックから回復を受けながら、引かずなおも踏み込み構えたシールドを渾身で叩き込んだ。
　狙いはサウザンドブレイド、ではない。
　その後ろに位置取っていたリストレイターは、自身を狙う灼滅者へと鋼糸を繰り動きを止めようとするが、止めきれない。
　が、ッ！　したたかに打たれダークネスの肌に傷が走る。はじかれるようにどちらともなく距離を取り、自身の傷を確かめたリストレイターの顔に朱が差した。
「灼滅者……ッ！」
　泣きぼくろのある目にじらと怒りを含み攻撃者を睨む。
「相変わらず無茶をするね、蔵乃祐は」
　嘆息とも案じるとも取れる言葉を口の端に乗せる柩の腕が異形と化し、とんっと痩身を躍らせ襲い掛かる。全力を込めて振り下ろした巨腕は、するりと避けられてしまった。
　後に続く者の攻撃も、避けられたり充分なダメージを与えるに至らない。
　さすがに一度ですべてうまくはいかないか。
　鋭く気を吐きマテリアルロッドを構え、放った明彦の強打がサウザンドブレイドを穿つ。
　たたらを踏んだ隙を突いて夜音は地を蹴り流星の勢いで蹴撃を放つがこれは避けられ、京のラビリンスアーマーを受けながら白雛が得物に炎をまとわせ一息に薙いだ。
　もとより2体同時に相手をするつもりはない。
　タイミングを見計らおうと、蔵乃祐はダークネスを矯める。
「糸と刃物のお姉さん方も中々……あ痛っいだだだ！　ごめんなさい！？」
　悲鳴の状況と理由はさておいて。
「マンチェスターさんの元、もうナカマ向かってる」
　トーテムポールを掲げてファムがダークネスへと言い放った。
「アタシ達の目的、アナタ倒す事！　皆、トツゲーキ！」
　リストレイターの注意を惹きつけつつ、サウザンドブレイドへ攻撃を集中。各個撃破。
　を、狙っているように見せかけ突破する。残ったメンバーが引き続き戦闘し戦線を維持。
　それが彼らの作戦だった。
　京へとイエローサインを示してバッドステータスへの耐性を与えながら、静佳はダークネスたちの行動を注視する。
　次だ。この次に、動く。
　――不意に。
「イマ！　伏兵さんもイッセイ攻撃！」
　誰の姿もない方向を指しファムが鋭く叫んだ。
　伏兵？　否、ブラフだ。無論それに釣られるダークネスではない。
　しかし、視界を遮るように身を滑り込ませて蔵乃祐が放つ攻撃と、
「（突破の隙を作るための攻撃よ、外せないわ）」
　彼を半ば陰にする形で叩き込んだ京の斬撃。そして白雛が裂帛の気合いと共に振るう白黒の鎌の一閃に、一瞬にも満たぬ間の隙ができた。
　それで充分だった。
「！」
　死角を狙ったその向こう、静佳と明彦がすり抜けていく。
　向かう先は当然、世界救済タワー……マンチェスター・ハンマーの元へ。
「しまった……っ！」
　後を追おうとするが、彼らに追随していた柩が即座に反転して攻撃を仕掛け、意表を突かれたダークネスは足止めを食らった形になった。
　行く手を遮る灼滅者を振り払おうとするも、祈りにも似た叫びをひそめた十字架を抱えた夜音の強打と鋭い意志が食らいつく。
　初めてダークネスの顔に焦りが浮かぶ。それも一瞬のことで、再び余裕の笑みに戻った。
　元来ダークネスとは1体に対して8人がかりで戦ってきた。今でこそ灼滅者たちも実力をつけているが、だからといって対等となったわけではない。
　まして相手は六六六人衆。それが2体。対してこちらはふたりが抜けて6人で戦わなければならない。
　それでも。
「いってらっしゃい、静佳さん」
　こちらを振り向くことなく駆け抜けていった少女へと、目を向けることなく京は微笑む。
　貴方の勇姿を見られないのは、とても残念。
　だけれど、だからこそ、私の心は湧いているわ。
　いつも貴方の前に立つ私が、貴方の背中を守れるなんて。
「なんてしあわせなことなのかしら」
　つ、っと得物に指を這わせ、浮かぶ表情はいっそ艶やかで。
「さあ、ボクが癒しを得るための糧となってくれ」
　言って、柩が口の端を歪めた。

●
　回復手と狙撃手がひとりずつ減り、灼滅者たちは苦戦を強いられる。
　ディフェンダーがメディックを庇いながらの形で攻撃を仕掛けるがじりじりと押され、次第に攻撃よりも回復の度合いが増えていく。
「んぅっ！」
　投擲されたナイフの雨をまともに食らい白雛の悲鳴が上がった。
　ダークネスに攻撃を続けさせないように、柩は死者の杖を振りかぶり飛び掛る。
　ささやくように夜音の語るは、黒髪黒目、「普通」を夢観た少女が影の枷と遊ぶ噺。
　七不思議はサウザンドブレイドへと向かうが、刃物の一閃で斬り捨てられた。
　サウザンドブレイドに怒りを付与し自身へ向けている白雛は集中的に狙われ、ファムだけでなく京も回復を支援するが追いつかない。
　無論灼滅者たちの攻撃が集中しているサウザンドブレイドも決して軽くはないダメージを負っているが、それでも灼滅者たちに比べれば軽傷だ。
「ここはあなたに任せてもよさそうねぇ」
　戦況有利と見て、リストレイターは後をサウザンドブレイドに任せて離脱しようとする。
　だが、その行く手を蔵乃祐が遮った。
「ランキングマンが選んだ最凶の第２位でしょ？　あっちはあっちで楽しむんじゃないですかね」
　言いながら攻撃を放つ。己の腕を獣と化して振るう爪撃は女の胸を掠め、ぷつり赤い線を引く。
「今は僕と付き合って貰えませんか。出来る限り努力します。成り損ないの分、必死でね」
「は……いいわ。それじゃあ存分に相手をしてあげましょうかぁ！」
　語気を強め、リストレイターは鋼糸を手繰り放った。
　空を裂き蛇の如く襲い掛かる赤は蔵乃祐を一度は捕らえたが、清らに吹く風がするりと解いていく。
「アイテの嫌がる事、全力スル！」
　清めの風を招き、いっそ元気よくファムが声を上げた。
　どうやら。この少女は敵の言葉に感銘を受け実践しに来たようでもあった。
「イイコト、やってみないとね！」
　太陽のように明るい笑みに、六六六人衆はぎりと歯軋りをする。
　だが、と表情を改める。どうせ戦況は覆せないのだ。それならば、思う存分いたぶってやればいい。
　灼滅者がひとりやふたり、或いはもっと死んでしまっても、まあ、構わないだろう。
　血にまみれたその姿を想像してか、サウザンドブレイドの狂笑が深くなった。
　そして今度こそ、戦いは、灼滅者たちに不利に進むことになる。
　リストレイターを相手取ることになった蔵乃祐は、自己回復が間に合わず膝を突く。
　駄目だ、まだ倒れる場面じゃない。頭では理解しているのに体はゆらりと倒れ、そのままふつりと意識が途切れる。
「かいどーさん！」
　ファムが慌てて彼の様子を確かめる。……死んではいない。だが、意識を取り戻してもすぐに戦うことはできないだろう。
　彼に続かせるように、サウザンドブレイドの凶刃が柩へと襲い掛かる。
　防ぐことがかなわず彼女もまた膝を屈し、かろうじて声を絞り出した。
「あとは任せるよ、フィーノ」
「っ……」
　はた。と倒れた少女に、癒し手は喉を震わせる。
　夜音は一瞬闇堕ちを迷ったが、今はその状況ではないと思い直し跳躍して、炎まとう蹴りをサウザンドブレイドへと放つ。
　ずぁっと尾を引く炎に身を焼かれダークネスが咆える。
「さぁ……断罪の時間ですの！」
　白雛が炎の灯った鎌の切っ先をサウザンドブレイドに突きつける。
　ダークネスの絶殺。他者に重きを置くヒーローを志し、自身よりも他者を生かすことを常に優先する彼女が敵愾心を顕わにし掲げるのはそれだった。
　ぐぅ、っと罪救炎鎌を渾身の力を込めて振り上げ、一気呵成と振り下ろす！
　既に満身創痍となり、自身もまた回復が追いつかなくなっていたサウザンドブレイドは、まるで刃物同士を打ち鳴らすかのように高い悲鳴を鋭く上げた。
　ぐらと身体を傾げ、同時にぞろりと闇にとけていく。地面に倒れ伏すか否かにその姿は消えた。
「倒し、た……」
　誰ともなく溜息がこぼれる。
　だが。
「さあ、次は私を倒してもらおうかしらぁ？」
　傷を負いながらも笑みは消えていない。
　リストレイターは鋼糸をたわませ、張り、灼滅者たちを嘗め回すように見回す。
　……勝てない。
「……撤退しましょう」
　京が口にした。
　撤退？　いや、これは敗走と言えるのではないか。どちらにせよ、このまま戦いを続けても勝ち目はない。
　悔しい。だがマンチェスター・ハンマーの元に仲間を送り出す目的は果たした。それに、ダークネスも1体とはいえ倒している。上出来だ。
　ちらと。ファムは視線をめぐらせる。
　叶うならば双眼鏡で覗いて探し人をしたかったのだが、そんな時間はなかった。
　ただ彼女には、彼女の目には探し人は見つらなかった。いたとして見えないだけか、いないのかは分からなかった。
　灼滅者たちは祈りながら、倒れた仲間と共に、その場を去る。
　どうか、よい結果となるように。

作者：鈴木リョウジ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年10月20日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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