きょういのほしょくしゃ

    作者:聖山葵

    「ラジオウェーブのラジオ放送が確認された」
     最近新たな動きがあったが、そうでない方だと前置きし、ただしと座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は続けた。
    「放置すればラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、放送動揺の事件が起こってしまうのでね」
     君達に討伐をお願いしたいと要請したはるひは傍らで何故か水着姿の情報提供者、柊・静夜(愛情ときょういの特盛・d37574)をちらりと見ると視線を戻し。
    「まずは放送内容について語らせて貰おう」
     詳しい話はそれからだと説明を始めるのだった。

    「すっかり秋だよなぁ」
     軍手をはめ、籠を背負った青年は視界に入る紅葉した木々の美しさに目を細めた。
    「ふー、来て良かった。とは言えこれで満足してちゃいけないけどな。さーて、キノコキノコっと」
     山に足を踏み入れた目的を口にしながら山の斜面を青年は降り始め。
    「あんまり下まで行くのも危険か……は?」
     尚も斜面を降っていたところであるものを見つけて驚き固まる。
    「なん……なんだこりゃ?」
     思わず問うも尋ねなくても青年はそれを知っていた、と言うかそれに良く似たものを知っていた。女性の胸、そう女性の胸だ。ばかでかい女性の胸が山の谷間で胸の谷間を見せており。
    「は、はは……疲れてるのかな? 幾ら何でもあんなおお、げっ、こっち来んぶっ」
     乾いた笑いを貼り付けた青年に気づいたソレは急に動き出すと肉薄し、逃げようとした青年を大きすぎる膨らみでぱふんと捕らえ、そのまま捕食するのだった。

    「おーっほっほっほっほ! 名付けて『きょういのほしょくしゃ』でしてよ」
     確かにきょういでほしょくしゃだろう。色んな意味で規格外なきょういてきな都市伝説を捜していた静夜の見つけた話と同じモノがラジオウェーブの目にとまったと言うことか。
    「話はわかったけどさ」
     オイラどこからツッコめば良いかなと鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)は半眼で尋ねた。
    「確かに谷間を重ねてくるギャグは少し寒いかもしれないが」
    「え? 最初に目をつけるのそこ?!」
     腕を組んで答えたはるひに驚くツッコミの人はさておき。赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査によって都市伝説を発生させるラジオ放送は突き止められ、この放送の影響によって都市伝説の情報が得られるようになってもうそれなりにたつ。
    「だが、あくまで情報が得られるようになっただけでね」
     故に先程はるひは君達に討伐を頼みたいと言ったのだろう。
    「この都市伝説との接触は至極単純だ。件の都市伝説は獲物が通りかかるのをじっと待つタイプのようなのでね」
     放送の中に出てきた山の谷間へ行けば間違いなく遭遇出来るとのこと。また、場所が場所だけに人避けも不要だとか。
    「そして、戦闘になった場合都市伝説は影業のサイキックに似た攻撃で応戦してくると思われる」
     青年が犠牲になった急接近からの捕食は影喰らいのサイキックに相当するものであるとはるひは推測したらしい。
    「えーっと、それじゃ、触手とか服破りとかも?」
    「少年、少年達のような女子にそん」
    「わかってて言ってるよね?! わかってて言ってるよね?!」
     顔を引きつらせた和馬を女の子扱いして言葉を途中で遮られた上がっくんがっくん揺さぶられるのもいつも通り。
    「冗談はこれぐらいにして、先程の推測はラジオ放送の情報から類推される能力である為なのでね、その辺りははっきりわからないのだよ。ついでに言うなら、可能性は低いが、予測を上回る能力を持つ可能性もある。ただ、一つ言えるのは――前ふりしたら、本当に使ってくるのではないかね?」
    「え゛」
    「さて、少年が愉快に固まったところで私からは以上だ」
     何故かおーっほっほっほと情報提供者が高笑いをあげる中、凍り付いた約一名を放置し、はるひは君達によろしく頼むよと頭を下げたのだった。


    参加者
    アルゲー・クロプス(稲妻に焦がれる瞳・d05674)
    望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)
    八宮・千影(白霧纏う黒狼・d28490)
    国府・閏(普通の女子高生・d36571)
    柊・静夜(愛情ときょういの特盛・d37574)
     

    ■リプレイ

    ●窒息注意
    「……どれだけ大きいのでしょうか? 捕食できるという事はかなりの大きさだと思いますが」
     秋の山、色とりどりの紅葉を見せる木々を背景にアルゲー・クロプス(稲妻に焦がれる瞳・d05674)が首を傾げれば、国府・閏(普通の女子高生・d36571)はうーんと唸る。
    「人間を捕食できるなら確実に大きいだろうし、普通の女子高生のボクとは全然大きさが違うんじゃないかなぁ?」
     と自分はごく普通ですよアピール混じりの考察をしながら閏はちらりと自分の豊かな胸に目を落とし、すぐ戻した。
    「ぷっ」
     直後にアルゲーが鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)の顔を自分の胸に埋めたのは、和馬がツッコミを入れるべきか迷いつつ閏の方を見ていたからだろう。
    (「……よくわかんないけど、大きい事は良い事……なのかなぁ?」)
     中学生離れした大きな胸なら現時点で自称ごく普通の中学生一名を窒息の危機に追いやっているような気もするが、八宮・千影(白霧纏う黒狼・d28490)は考え事をしていて見ていなかったのか、顔を上げると、いつの間にか和馬を解放したアルゲーを見。
    「おーっほっほっほ! 私の目に留まった以上倒させていただきますわ! まずは怪談ですわね」
     何故か高笑いしてから人除けの怪談を語り出す柊・静夜(愛情ときょういの特盛・d37574)を見、組んだ腕に強調する様に大きな胸をのせた閏を見てから自分の胸をペタペタと触った。
    「周囲に大きい人が多いからそれが標準、なのかな?」
     少年漫画の強さのインフレよろしくぐぐっと押し上げられた胸囲の標準は何を思うのだろうか。
    「しかし、胸で捕食を狙ってくるのか……あれは柔らかいけど苦しいから大変なんだぜ、和馬も気をつけろよ」
    「あ、うん」
     もう窒息しかけたけどとは言わず、望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)の忠告へ視線を逸らしつつ和馬は同意し、合わせなかった目をそのまま山の谷側へやる。
    「もうちょっと下なのかなぁ?」
    「居ないか、かも知れないんだぜ」
     ラジオ放送でも犠牲者はあまり下まで行くのは危険かと言っていたのだ。
    「そうですわね、それなりに斜面を降ったところだと思いますわ」
    「あー、それは同感だけど、何故それを俺を捕まえて言うんだぜ?」
     会話に加わって来るなり自身を捕獲した静夜に葵がツッコめば、静夜は葵の背中におっきな胸を押しつけたままそっぽを向いた。
    「か、勘違いしないでくださるかしら? べ、別に秋の山は冷えるから葵様が寒くないようにとかそう言うことではなくてよ?」
    「えーと、何だろう、この語るに落ちすぎたかぶっ」
    「……その、秋の山は冷えますから」
     学習能力がないと言うより、思わず生ぬるい目で見てしまったのは性分なのだろう。結果として同じ大義名分を掲げたアルゲーの胸にツッコミの人は確保され。
    「あ」
     声を上げたのは、一連の騒ぎに巻き込まれていなかった千影。
    「どう――」
     どうしたのと続けられず、千影の視線が向かう先を見た閏は立ちつくす。
    「なに……あれ?」
     前情報はあった、形状も大きいことも聞いていた。だが、少々予想外なモノもあったのだろう。谷間にででんとあるそれは小さめの軽自動車くらいはサイズがあったのだから。

    ●せんとうとつにゅう
    「また かわった としでんせつ だね? この としでんせつ の はっしんもと って だじゃれ か だんせいのよっきゅう なのかな?」
     衝撃に立ち直っていないのか、閏は棒読み口調で虚ろな目に獲物待ちかまえ中のソレを映す。
    「静夜が見つけた都市伝説か……凄い見た目だな」
    「……やはり、凄く大きいですね」
     見た目というか、大きさというか。
    「和馬くんはクラッシャーで味方が4人以上BSになったら清めの風、それ以外は光刃放出などで攻撃をお願いします」
    「っ、あ、うん」
     アルゲーの帯びる謎の迫力にいっしゅんビクッと肩を振るわせつつも和馬は頷き。
    「……ではステロは私と和馬くんの防御をお願いします」
     続いてビハインドに指示を出すと、ロケットハンマーの柄を握り締めて地を蹴る。
    「よし、ジョン! 合わせていくんだぜ!」
     追う形で霊犬に声をかけると妖の槍片手に葵も飛び出し。別の方向から都市伝説目掛けて飛来する光刃は和馬の撃ち出したモノか。
    「あなたが都市伝説ですわね、私達より大きそうですが負けませんわ!」
     都市伝説が、気づいたのは、上から静夜の声が降ってきたことによる。ただ、何らかの反応を返すことは能わなかった。ジェット噴射を伴った一撃が女性の巨大な胸の形をしたソレを大きく変形させながら吹っ飛ばしたのだ。ぼよんと斜面で弾んだ都市伝説へ光の刃が刺さり、ステロの霊障波が直撃して弾む方向を変え。
    「喰らうんだぜ!」
     葵の繰り出す捻りを加えた突きに貫かれてはまた方向を変え、更にそこへジョンの六文銭が撃ち込まれる。
    「……ハンマーで叩いたらお餅みたいな感じですね」
     かなりの手応えを感じた腕を一瞥してアルゲーはポツリと漏らす。一瞬だけ遠くを見たのはここにいない誰かのことを思い起こしたのか。
    「おっぱいにはおっぱいですわ! バスト160cmのプレゼント&胸で窒息させる黒歴史少女ですわ!」
     とか、静夜の語り出した怪談の内容を聞き流そうとした訳ではないと思う、多分。
    「うん、規格外の大きさだね? 何cmあるんだろう?」
     石化の呪いをかけつつ復活した閏がさっきまであちこちをバウンドした都市伝説「きょういのほしょくしゃ」をマジマジ見るが、とりあえず分かるのはcmどころかm単位であろうこととちらっと姿の見えた静夜の怪談の元ネタの胸よりも遙かに大きいというだけ。
    「まぁ、大人一人を捕食出来るって言うんだから人が乗り込める乗り物ぐらい有っても不思議はないけどな」
    「おっほっほっほっほっほ! そこから『そもそも俺は静夜のおっぱいが一番好きだし』と続くのですわね? わかっていましてよ、葵様」
     妖の槍を持ったまま、頷く誰かを名指しで全力ポジティブシンキングする灼滅者が居た気もするが、ある意味でいつも通りの流れだろう。
    「……和馬くん」
    「え゛?」
     何処かソワソワもじもじしつつ若干期待の籠もった視線で思い人を見るアルゲーに見られた側の少年が固まったりするのを含めて。
    「どうしてそうなるんだぜ?! それより、和馬もアルゲーも気をつけろよ! 何をしてくるかわかんないしな」
     だから葵の忠告は聞こえていたかどうか。
    「何、この流れ?」
    「よくわかんないけど……何か言うなら……早い内になんだよ? あっちも反撃してくるかも知れないし」
    「ちょ」
     黒狼姫に弾丸を装填しつつ忠告する千影にオロオロしていた誰かの顔は引きつり。
    「ストレッチャーも挟まれないように気をつけてね」
     閏が自身のライドキャリバーへ声をかけた直後のことだった。
    「もう葵様……べ、別に照れな、きゃあっ」
     赤黒く細長い何かの先端が静夜を斬りつけたのだ。
    「静夜!」
    「今のは……触手?」
    「ううん」
     捕食より先に繰り出された都市伝説の一撃に幾人かの灼滅者が傷ついた仲間の名を呼んだりかすれた声で呟く中、黒狼姫の銃口を千影が頭を振る。
    「今のは……舌だよ。おっきな膨らみ同士の間の奥が……ちょっとだけ開いて」
     ビッシリ歯の並ぶ口腔が見えたと千影は言い。
    「挟んで圧死もしくは窒息死させた獲物を舌で口まで引きずり込んで――」
    「……捕食するわけですか」
     文字通り、本当に捕食者であったらしい。
    「けど、それなら俺や和馬でなくどうして静夜を狙ったんだぜ? 放送じゃ、襲われてたのは青年だったよな? 男を襲うんじゃないのか?」
    「まさか……オイラ達、男とみなされてないとか?」
     たぶん、それは自爆だったのだと思う。
    「い、いや、それは違うと思うんだぜ?!」
    「そ、そうですわ。ほ、他に理由が……た、例えば、わたくしのおっぱいを見て『同族だ、獲物を捕られる前に追っ払わなくては』と思ったとか」
     挙動不審になりつつも否定する葵を静夜は援護し。
    「……そうですよ、和馬くんも男性です」
    「アルゲーさん……」
    「んー、と言うか単に静夜さんが狙われた理由ってボクらの中で一番おっきかったからじゃ無いかな?」
     もう一組も良い雰囲気になりかけたところで、閏が口を開いた。
    「え?」
    「あ、胸がって訳じゃないよ? 胸もだけど、この中で身長も一番だし。ほしょくしゃって言うぐらいだから一番食いでがありそうな大きな人を狙ったんじゃないかなぁ、って」
    「「あー」」
     納得のいく理由ではあった、ただ。
    「あるぇ? その理屈から行くと次に狙われるのは――」
     結論が出るよりも早く、半分放置されてた都市伝説の舌は閏に襲いかかったのだった。

    ●きょうい
    「ボクの牙は、人を不幸にする存在を砕く! ……だよ」
     服破りという不幸を届けに伸びる鋭く尖った舌目掛け、千影は魔法弾を放つ。
    「わあっ」
     漸く襲い来る舌に気づいた閏が身を屈めれば魔法弾の命中した舌は若干軌道が逸れ閏の服をかすめて山肌を微かに舐め、そのままもの凄い勢いで縮んで胸もどきの谷間に消える。
    「はぁはぁ、ビックリしたぁ」
    「遠くまで届くから、油断は禁物……だよ?」
     千影がいち早く動けたのは影業の使い手でもあるからか、胸を押さえて荒い息をする閏に忠告し。
    「ありがとう。けど、静夜さんをそのまま狙わずボクに来たってことは……使ってきたの舌だし、味見、とかそう言う事じゃないよね?」
    「っ」
     息を呑んだのは誰だったか。もし閏の予想通りなら身長か肉付きの良い順に全員が狙われて行くと言うことであり。
    「アル――」
     次に狙われると予想された灼滅者はもうこの時点で都市伝説にウロボロスブレイドを振るっていた。身長順なら自分の次は思い人なのだ。絡み付いた殲術道具はきょういのほしょくしゃの動きを封じたままその身を斬り裂き。
    「……愛の力?」
     そんなアルゲーを見て小首を傾げつつ千影は次弾装填の準備にかかる。
    「おーっほっほっほっほ! 葵様を味見して良いのはわたくしだけでしてよ! これで凍るといいですわ!」
    「いっ、味見するならわさび餅にしてほしいんだぜ?!」
     思い人を都市伝説に攻撃さすまいと誰かが猛れば、誰かはご当地ヒーローらしい言い回しで被害から逃れようとし、様々な思惑が入り交じる中、命中する攻撃サイキックによって都市伝説は傷を増やして行く。
     無論、都市伝説も一方的にやられはしなかったが。幾人かが予想した通り、次はアルゲーが狙われ。
    「それじゃ回復だね、紅葉饅頭をくれる優しい少女の話だよ?」
    「アルゲーさん、大丈夫?」
    「……はい。それよりもこのまま押し切ってしまいましょう」
     心温まる話を語り出す閏をバックに思い人へ顔を覗き込まれたアルゲーはロケットハンマーの柄を強く握り締めて地を蹴る。
    「うし、すげー弾力で跳ね返してくるけどちゃんと効いてるし押し切るんだぜ」
     丁度破邪の白光を放つ強烈な斬撃を葵が振り抜き、ぼよんと浮き上がったソレが斜面に着地した瞬間だった。
    「……ここです」
     何処かでプッと何かの切れる音がしたが、構わずアルゲーはジェット噴射を伴った一撃を叩き込む。それまで同様悲鳴すら上げずに都市伝説は形を大きく変形させつつ吹っ飛び。
    「触手には触手をですわ! そう、あれは――」
     飛んで行く胸囲の捕食者から視線を外さず、静夜が触手エビフライと水羊羹スライムの怪談を語り出すせば執着する怨霊の如く味噌煮込みうどんの触手の幻影が空飛ぶおっぱいもどきに絡み付く。
    「呪われし狼姫の牙、その身に受けてもらうよ」
     好機ととらえたのだろう、都市伝説が斜面に堕ちて転がると同時に千影は黒狼姫の引き金を引く。
    「よくわかんないけど……何事も程々の大きさが良い……らしいんだよ?」
     ガトリングガンの連射を受けて踊る敵に呟きは聞き取れただろうか。まぁ、言語を解するかも怪しいが、それはそれ。
    「攻撃だね、浜マッチョ軍団! 押し切って!」
     灼滅者達の連続攻撃で消耗したきょういのほしょくしゃへ閏は怪談のマッチョ達を嗾け。
    「閏様、そろそろいけましてよ?」
    「あ、うん。それじゃボクに色々と力を貸してね?」
     ズタボロになって消滅しかけているそれの元へ駆け寄り閏が声をかけると、都市伝説の巨体は閏の豊かな胸へ吸い込まれていったのだった。

    ●衝撃の結末?
    「ふぅ、これで一件落着かぁ」
     立ち上がった閏はうーんと伸びをすると周囲を見回す。
    「取りたてて変わったところはないね。これで放送の時の人がここに来ても襲われることはないし、一安心だけど……」
     ただ一つ、閏には違和感があった。
    「なんか胸元がすーすーするんだけど服が切られたかな……そう言えばさっき『プッ』って音もしてたし……」
     まさかねと胸元に視線を落とした閏が見たのは、ボタンが飛んで大きく開いた服の前とそこから覗く胸の谷間、そして胸の先端が布地に引っかかってることでかろうじて零れ出るのを免れた静夜と同じくらいの大きさへ育った柔らかな膨らみだった。
    「って、なにこれーっ!? わわっ」
     数秒しっかり固まってから叫び声を上げると弾みでポロリしそうになった胸を慌てて両手で隠し。
    「あ、閏様、念の為に今着られてる物よりも大きい服があるのでこれをどうぞですわ」
    「うん、ありがとう……と言うか、静夜さんはなんか慣れてるみたいだけど」
    「静夜は前にもあったからなー」
     差し出された服を受け取る閏の疑問を解決したのは、何処か遠くを見て漏らした葵の言葉。
    「そう言うのは先に言って欲しかったよ……うう、普通が、ボクのごく普通が……」
     流石に静夜に迫るサイズになってしまってはごく普通と言い切るのも厳しいと思ったのか、項垂れ。
    「問題なくてよ。わたくしも吸収直後は大きくても落ち着いたら少し小さくなりましたもの」
    「え? それホント?」
     食いつく同胞に経験者はええと頷き。
    「ただ、それでも元のサイズから10cmは確実に大きくなると思いますわ」
     持ち上げてから谷底へ突き落とす、谷間だけに。いや、現時点で同じ大きさだから突き落とした自覚はないのか。
    「全員綺麗になったし、これで大丈ぶ!?」
    「それではごきげんよう、やはり冷え込んできましたし葵様と手を繋いで帰りますわ!」
     仲間へクリーニングを施していた葵へ手を繋ぐどころか抱きつくとすごいジタバタする葵を半ば引き摺る様にして斜面を登り始め。
    「うわーん」
    「えーと……」
     残されたのは凹む閏と衝撃的光景にまだ固まってるアルゲーと、どうしようこの状況と言った顔で救いを求める視線を彷徨わせる男子が一人。
    「何だか知らないけど邪魔しちゃいけないんだよ」
     といつの間にかこの場を後にしていた千影の姿はなく。
    「……これで山に来た人が巻き込まれずに済みますね」
    「あ、うん」
     暫くして、漸く衝撃から立ち直ったアルゲーは都市伝説の居た場所を見てから思い人の顔に視線を戻すと少し紅葉を見てから帰りましょうかと提案し。
    「そうだね。オイラで良ければ付き合うよ」
     ただ、この時和馬は忘れていた、誰かのポジティブすぎる発言を聞いて期待を込めた目をアルゲーがしていたことを。そして、軽く見ていた、アルゲーが胸の大きさを気にしていることを。
    「や、だから揉んでおおきくなるのは俗説だからーっ!」
     その日、せっぱ詰まった誰かの声が山に響いたとか響かなかったとか。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年10月26日
    難度:普通
    参加:5人
    結果:成功!
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