白炎は迷い夢を隠して

    作者:佐和

     迷夢。ディリュージョン。
     心の迷いを、迷った考えそのものを、人間はそう名付けた。
     それは彼女にとってとても魅力的で。
     耽美で。醜状で。芳醇で。愚挙で。
     味わい深い甘露だった。
     じっくりと熟すまで待つのは苦ではなく。
     より美味しく味わうために、手を加えたりもした。
     けれども。
     今この場所に、その甘露はない。
     それどころか人間そのものもいない。
    「……退屈ね」
     小さなベッドに腰掛けて、彼女は呟く。
     そこは可愛らしく整えられた女の子の部屋。
     周囲を眺める仕草に、緩くウェーブのかかった長い黒髪がさらりと流れる。
     この部屋の主はどんな少女だろうと思いを馳せるのにも飽きて。
     笑顔を刻んだ仮面の下から漏れ出るのはため息ばかり。
     ドレスから伸びる華奢な肩を細い腕で抱いて。
     見下ろす先には、ダイヤ柄の黒いスカート。
     そこにあるはずの足は、ない。
    「まだあの薄暗い密室の方がよかったかしら」
     ソウルボードから現実世界への出口となった場所を思い起こして、またため息。
     場所そのものとしては今の、この部屋がある簡素な一軒家の方が好みだが。
     話し相手がいたというただその1点だけで軍配が上がろうというもの。
     とはいえ、ここが一番安全な場所だということは分かっている。
     居場所のなくなった自分を匿ってくれたスサノオの姫に感謝もあるし。
     事が起これば協力するのもやぶさかではない、とも思う。
     ゆえに、見えない白炎で隠されたこの家に居続けることになるわけだが。
    「……退屈ね」
     今はただそれだけと言うように、ディリューと名乗るシャドウはまた呟き零した。

     サイキック・リベレイターはスサノオに対して使われた。
     その結果、スサノオ勢力の情報を得られるようになったのだが。
    「シャドウ、匿われてる」
     スサノオが、滅亡した勢力の残党を、エクスブレインの予知を防ぐ白炎の織で囲った場所に保護していることが判明したのだと、八鳩・秋羽(中学生エクスブレイン・dn0089)は葡萄を房から1つ摘まみながら頷いた。
     残党を匿うというのはいかにもスサノオらしいと言うべきか。
     しかし、スサノオがいずれ灼滅者達と決戦を行う相手となれば、戦力の増強に成り得るこの動きは見過ごすことはできない。
     何かしらの対応が必要と思われる、そんな場所の1つ。
     秋羽が見つけたのは、小さな町の片隅にある一軒家だった。
     家財道具を残したまま誰も住まなくなった、何だか訳ありっぽく誰も近づかないそこに。
    「ディリュー……知ってる?」
     かつて灼滅者達が、密室たる雑居ビルで邂逅したシャドウがいるという。
     笑顔の仮面をつけて黒いドレスを纏った、足のないシャドウ。
     そのドレスのスカートを影業のように操って戦うのは今回も変わらないだろう。
     一軒家は2階建てで、ディリューがいるのはその2階。
     階段を上った先にある2つの扉の1つ、奥の部屋にいる。
     ディリューの他には誰もいないため、一般人を巻き込むことはないが、静かな家ゆえに物音が響きやすく、普通に動けば気付かれるだろう。
     サウンドシャッターが戦場以外の、平常時にも音を防げるESPであれば便利なのだが、ないものねだりをしても仕方がない。
     気付かれていると覚悟の上で部屋に踏み込み、相対するもよし。
     逆に、大きな音を立ててディリューを部屋から誘い出すのも作戦の1つか。
     考え得る邂逅は幾つかあれども。
    「灼滅、お願いします」
     葡萄をもぐもぐしながら、秋羽は灼滅者達にぺこりと頭を下げた。


    参加者
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)
    黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)
    蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)

    ■リプレイ

    ●隠家
     玄関の前に立った新沢・冬舞(夢綴・d12822)は、改めてその家を見上げた。
     何の変哲もない、だが人の住んでいる気配のない、2階建ての一軒家。
     町外れゆえか避けられているのか、昼間なのに家の近辺には誰の姿もない。
     8人の灼滅者だけが足を向けたそこにいるのは……。
    「ディリューか。懐かしい名前だわ」
     1年前を思い出すように少し目を伏せて、その名を呟いたのはアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)。
    「前に1度会ってるんだよね」
     富士川・見桜(響き渡る声・d31550)も以前の邂逅を確かめるように続けた。
    「前回は取り逃がして終わっちゃったからな」
     声に振り向くと、家の周囲を見て回っていた天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)が軽く手を挙げて応える。
     外観から推測した間取りや窓の位置を手早く皆へ伝えると、冬舞が静かに頷いた。
     必要な情報を頭に入れながらも、アリスは敵へと思いを馳せる。
    「第三次新宿防衛戦には参加してなかったのね。それともあの戦いを生き延びたのかしら。
     クロムナイトのシャドウ狩りなんて事もあったけれど」
     ディリューがどんな経緯を経てこの家にいるのかは分からないけれど。
    「これも何かの縁だよね」
     今ここで見つけられた、確かな現実を見据えて見桜はぐっと手を握る。
    「倒さないですむ相手なら戦わないに越したことはないけど」
     心の奥に今も残るイフリート達との交流もしっかりと握りしめるかのように。
    「倒すべき相手はしっかりと倒す」
    「さあ、リベンジといこうか」
     見桜の決意に、黒斗は口の端で笑いかけながら声を重ねて。
    「今回で黄泉路へ送ってあげましょう」
     アリスが頷くと、冬舞は玄関に改めて向き直った。
     そっと手をかけ扉を開くと、足元には大きなスニーカーとシンプルなミュール、可愛らしい可愛い赤い靴が置かれていて。
     視線を上げたその先には、廊下と閉じたドアが3つ、そして階段がある。
     冬舞が振り向き頷けば、ディフェンダーの見桜と彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)がまず家の中へと踏み入れた。
     その後にそれぞれが続き、神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)も歩を進めながらゆっくりと周囲を見回す。
    「……直接、この、シャドウと、お会いしたことは、ありません、が」
     ディリューを知らない蒼が考えるのは、それをこの場所に匿った存在のことで。
    「ひそかに、戦力を、増やそうとか、考えて、いる、のでしょうか……」
     蒼には見えないが、エクスブレインはこの場所が白炎に隠されていたと言っていた。
     白い炎。すなわち、スサノオの能力。
    「スサノオ達は最初から僕らと敵対を視野に入れて動いてたとしか思えないね」
     現状から、さくらえもその考えを口にする。
     もっとも、そう感じるのは、さくらえ自身がスサノオに対していい感情を持っていないからというのも一因だろうと自覚しているけれども。
     苦笑の気配を滲ませる背中を黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)は見つめた。
    「残党を取り込むのは……まぁ、常套手段とは言え、これだけひっそりやってきたんだ。
     遅かれ早かれ手を切る算段だった、ってなトコでしょう」
     気怠げに玄関をくぐりながら、無表情に淡々と前を行く背中へ声を返す。
     いつかは至る道だったのだと。
     だがその隣では、蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)が、むぅと哀しそうな困ったような複雑な表情を見せていて。
    「ダークネスとの共存はやっぱり無理なのでしょうか」
     ぽつり、とスサノオとの関係性の変化を憂うように零した。
     榛名だって、ナミダ姫が優しさだけでシャドウを匿ってるとは思っていない。
     自軍の強化を図っての動きでもあるのだと理解している。
     それでも。
    (「種の存続を懸けて生き残ろうとするものを、わたし達が滅ぼしていいのでしょうか」)
     強く在ろうとする理由も分かるから、榛名の銀瞳は揺れ動く。
     蓮司がちらりと視線を横に向け、だが表情すら変えぬままじっと榛名を見た。
    (「ダークネスは、人間と似てる様で全然違う。人間にしか理解できねぇ事がありゃあ、ダークネスにしか理解できねぇ事も当然、ある」)
     種族の違いという大きな壁。
     今まで蓮司はそれを感じていて。
    (「いつまでも平行線辿りゃ、関係が崩れんのは当然だ」)
     そう思うからこそ、無言で榛名を見やる。
    「スサノオとの関係性がはっきりした今、彼らの目論見は出来る限り潰していきたいかな」
     だから、背中越しに声をかけたのはさくらえ。
     見桜が少し心配そうに肩越しの視線を向け、黒斗と冬舞もそっと様子を伺う。
     そんな皆の様子を見た榛名は、ぎゅっと1度目を瞑ってから。
    「今はただ、これ以上誰かの夢を壊さないために……」
     再び開かれた銀瞳は、前を見据えていた。
    「……害をなす前に、ご退場、願いましょう」
     小さく頷いて見せる蒼に、大丈夫、と頷き返し、榛名は皆と共に進み行く。
     1階は気にせずに2階へ続く階段を上って。
     上り終えた先に2つ見えた扉のうち、奥のものへと近づく。
     静かな家ではどうしても足音や物音が気になるが、完全な消音行動は無理と割り切って堂々と、だが必要以上の物音は立てないようにして。
     灼滅者達は辿り着いた。
     欠けてはいるが可愛らしいプレートがかかった扉の前へ。
     ディリューが居る部屋の前へ。
     見桜が送る視線にさくらえが頷いて応え。
     2人は息を合わせて扉を開くと、共に部屋の中へと飛び込んだ。
     赤のチェックで纏められたベッドに、並ぶ動物の縫いぐるみ。
     白いラグに、ピンクのクッション。
     勉強机の椅子にも赤い座布団が置かれ。
     箪笥と本棚が並ぶ壁と反対側には、花柄のカーテンが揺れる。
     可愛らしく整えられた部屋には、主たる女の子は居らず。
     そして、ディリューの姿も、なかった。
     動揺を押し殺して部屋を探る、そこに。
    「上だ!」
     響いた黒斗の声を理解するより早く。
     さくらえが反射的に繰り出した『寂静』の白光が、降り来た黒い刃と交差した。

    ●迷夢
     音を消せないのだから、侵入に気付かれるのは承知の上。
     だからこそ先陣を切るのはディフェンダー2人で。
     待ち構えられている覚悟で部屋に入った。
     とはいえ、と驚きに少しだけ目を見開いて、蒼は天井を見上げる。
     そこに張り付くように広がっていた黒いドレスを翻し、こちらを見下ろしながら降りてきた華奢な女性を。
     緩いウェーブのかかった長い黒髪をふわりと揺らし。
     足音どころか足すらなく、ダイヤ柄のスカートで静かに床に降り立つ。
     仮面と同じ笑みの気配を見せて、ディリューは灼滅者達と相対した。
     黒斗がそれに気付けたのは、さくらえが初撃を相殺できたのは、僅かなりともディリューという相手を見知って警戒していたからだろう。
     そして皆が覚悟をしていたからこそ、不意の事態に誰1人として止まることなく、すぐに灼滅者達は行動する。
     蓮司が、榛名が、部屋の中へと飛び込んで。
     囲い込むように黒斗とさくらえも位置を取る。
     冬舞が窓を背に立ち塞がりつつ、念のためにと殺界形成を使えば。
     蒼も入口たる扉を意識して立ち、ダイダロスベルトを広げて見せる。
     逃走を防ぐための包囲展開。
     そこに進み出て、サウンドシャッターを展開しながらアリスは声をかけた。
    「お久し振り。私たちのこと覚えているかしら?」
    「ソウルボードと密室から出た1年は楽しめた?」
     続けて問うさくらえに、ディリューは順に顔を向けて。
    「……ああ。あの薄暗い場所で会ったわね」
     思い出したように仮面で笑う。
    「忘れられてる方が有り難かったけどな」
     また戦う分にはその方が有利だったのにと、口角を上げる黒斗にも顔を向け。
     ぐるりと四方を眺める動きが、榛名を捉え、そして蒼を正面にして止まった。
    「全員がそうというわけではないようだけれど」
     その言葉に、仮面以上にディリューの笑みが深まった気がして、蒼は朱金の瞳を戸惑いでわずかに揺らす。
     だから見桜はディリューの視線を遮るように割り込むと、蒼を背に立ちはだかった。
    「退屈なんですか、アンタ」
     そして反対側から蓮司がぽつりと声をかける。
    「んじゃ、暇潰しにどうです?
     ……命の取り合いでも」
     ぼんやりと招くように差し出した手に、ディリューは振り返って。
    「個人的にキミには貸しというか借りというかがあるんでね。
     昨年の宣言通り全力で叩き潰しに来たよ。覚悟するといい」
     さくらえが黒塗りの錫杖『寂静』を構えるのを。
    「話し相手にはなれないけれど、楽しい時間をあげるわ」
     アリスが『風鳴・改』を並べ広げ見せるのを、順に眺めて。
     ディリューは、細い手で黒いスカートを摘まみ、挨拶するように持ち上げて見せる。
     笑顔の仮面がこの上なく似合う、ディリューから滲み出るその感情を感じて。
    「最期の一時、お互いに全力でいきましょう」
     アリスの宣言を合図にするように、蓮司と黒斗が飛び込んだ。
     鋭い刃が重ねて閃き、黒いスカートを切り裂けば。
    「……貴女に『足』止めなんて、笑い話だけど」
     さらに『風鳴・改』が足のないディリューを中心に五芒星を描き出す。
     続いて見桜が『リトル・ブルー・スター』から破邪の光を、蒼が鋭く帯を射出し。
     冬舞の支援を受けながら、さくらえの『絆縁』がディリューを貫いた。
     榛名は、回復役として黄色い交通標識を振るうけれども。
     揺れる心を抑えるようにぎゅっと胸元で手を握りしめ、1つだけと声を上げる。
    「貴女は……人を、傷つけるつもりなのですか?」
     誰かを傷つける存在なら見過ごせない。
     でも、そうでないならば?
     微かに揺れる榛名にディリューは振り返り、仮面の笑顔を向けた。
    「いいえ。今更、人間を襲うつもりなんてないの。
     ここで静かに過ごせれば、それでいいわ」
     返った答えに榛名がはっと息を呑む。
     それならば、と希望を見て1歩足を踏み出すけれども。
     その足元に黒いスカートが広がり、ダイヤから鋭い刃へと象るものを変えて榛名に襲いかかった。
     血飛沫が、舞う。
     しかし、深く切り裂かれたのは榛名ではなく、寸前で割って入った見桜で。
     榛名は慌ててダイタロスベルトを盾とし、癒しの手を向ける。
    「どうして……」
     困惑。微かに抱いてしまった期待。そして後悔。
     混ざり合った感情に榛名は呆然と呟く。
     その迷いに、ディリューの笑みは仮面以上に深くなった。
    「灼滅者がいたら静かに過ごせないわ。
     傷つけたくはないけれど、仕方ないの。仕方ないのよ」
    「詭弁だ」
     冬舞はディリューの言葉を一蹴し、漆黒の弾丸を撃ち放つが。
     その足元から立ち上った黒いドレスが、冬舞を喰らうように覆い尽くす。
    「本当にそうかしら? 何が正しいのかしら?」
     ふふふ、と尚も響く笑い声に、榛名の銀瞳が惑う。
    「迷う貴女は進めるのかしら?」
     けれども。
    「迷いながらだって前に進めるんだよ。覚悟を決めてね」
     傷をおして立ち上がった見桜が握り締める無骨な両手剣が青白い光を浮かべた。
     闇を照らす小さな星。リトル・ブルー・スター。
     それを導とするべく振るい、見桜はディリューに斬りかかる。
    「私は守るためにここに居る。まだまだ倒れる気なんてないよ!」
     どんな時でも変わらない、見桜を支える決意と共に。
     この信念は誰にも揺るがせないのだと見せつけるように。
    「私がいる限り誰も倒させない!」
     真っ直ぐにディリューを見据えて、見桜は榛名を背に庇い立ちはだかった。
    (「迷夢……心の迷いそのもの、ね」)
     そんな見桜の仁王立ちを、戸惑う榛名の姿を、さくらえは少し目を細めて眺める。
     少し前の自分だったら、迷いに囚われていたかもしれない、と思う。
     榛名のように足を止めてしまっていたかもしれない。
     でも、今は違う。
    (「もう迷わないよ。僕は僕の想う道を進むのみだから」)
     見桜に続くように。そして榛名に自らの背も見せるように。
     さくらえは『叶鏡』を構え、冷気のつららを生み出し放った。
    「マジックミサイル・バラージ! 魔力の雨を受けなさい」
     そこにアリスが魔法の矢を重ね撃ち、蒼が異形巨大化した腕を振りかぶる。
    「……ボクとも、少し、一緒に、踊りましょう。
     手加減は、して、あげられ、ません、が……」
    「それは、残念……っ」
     殴り飛ばしたディリューを蒼はぼんやりと見つめて。
     ふと、1つだけ、と言って問いかけた。
    「……ナミダ姫は、あなた方を、匿って、何を、しようと、しているのですか……?
     あなたは、その答えを、知って、いますか?」
    「貴女……思ったより好みじゃないわ」
     だが、返って来たのはつまらなそうなそんな言葉だけで。
     蒼は朱金の瞳を少し伏せてから、すっと横にずれて場所を開けた。
    「スサノオへの協力はさせてやらない。此処で灼滅する」
     その空いた場所へ、壁を蹴り不意に飛び込んだ黒斗が『Black Widow Pulsar』を振り抜いて、黒い刃を象ろうとしていたドレスを切り裂き散らし。
    「スサノオ勢力は潰しに行きます。今日のアンタは、その下準備ってトコだ」
     蓮司は炎を纏った蹴りを放つ。
     重なる攻撃に、ディリューのドレスは裂け破れ、息も長髪も乱れて。
     だがその顔は笑顔の仮面に覆われたまま変わらず。
    「せっかくの表情も仮面で隠れてしまうとは勿体無いな」
     仮面の向こうから伝わってくる苦しそうな気配。
     冬舞は槍を捻り穿ち、手応えを感じると小さく笑って見せた。
     たまらず下がったディリューだが、周囲は灼滅者達に隙なく囲まれ逃げ道もない。
     ならばと1点突破を狙ってか、ドレスをこれまでより大きな刀剣に変え、傷の多い見桜へと斬りかかる。
     大振りな動きに、だが見桜は避けずにあえてその剣を受け止めると。
    「今よ!」
     上げた声に反応したのは、榛名だった。
     迷いが全て晴れたわけではない。
     共存の道とは。正義とは。答えが出たわけでもない。
     でも、前に進もうとする仲間達の姿に背中を押されて。
     仲間を唯の1人も欠けさせたりしない、という決意を思い出して。
     そのために、回復に専念していた交通標識を赤くスタイルチェンジさせると、見桜に剣と共に動きを止められたディリューを殴り倒す。
     そして、床に倒れたディリューが身を起こす前に。
     傍らに光剣『白夜光』を携えたアリスが立った。
     1年遅れの終焉に思うことは飲み込み、ただ1言だけ、告げる。
    「おやすみ、迷い夢」
     アリスが静かに放った1撃で、黒い影は白い光に包まれていく。
     笑顔の仮面のままで。
     ソウルボードに戻れなくなったシャドウが、消えた。
     気が抜けたか膝をついた見桜に、榛名が慌てて駆け寄り、皆もそれぞれ傷を癒し始める。
     そんな中、冬舞はふと、ずっと背にしていた窓の向こうを見上げて思う。
    (「……彼女も、こうして何処かに匿われているのだろうか」)
     空は、シャドウの行く末など気にもせず、ただ青く冷たく広がっていた。

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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