グンマの密林、密林のグンマァ!

    作者:雪神あゆた

     学園の教室で、姫子は灼滅者たちに、
    「皆さん、群馬の密林に行ってください!」
     と、話を切り出した。
    「ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、グラン・ギニョール戦争後、群馬山中の一部が密林化しているのが発見されました。
     密林化している地域は、気温や湿度が上昇しており、アガルタの口の戦場に近い環境となっています。この密林内部に、六六六人衆がいると予測されています。
     皆さん。密林を調査し、密林内の六六六人衆の灼滅をお願いします」
     ぺこりと頭を下げ、姫子は続ける。
    「密林のどこに六六六人衆がいるか、どんな六六六人衆がいるか、わかっていません。
     そのため、調査は慎重に行う必要があります。
     探索がうまくいけば、六六六人衆に対し、先制攻撃を仕掛けられるかもしれません。逆に不用意に行動すれば、六六六人衆の奇襲を受けるかもしれませんが。
     また、仮に、複数の六六六人衆と同時に戦闘になった場合は、撤退せざるをえません。
     なので密林の奥深くに足を踏み入れるのは避けるべきでしょう。密林奥深くで囲まれ、壊滅するという事態は何より避けなければなりませんから」
     姫子の声には灼滅者を気遣う色。
    「今回は、少しでも密林内の調査を進め、また外縁部の六六六人衆を撃破し敵戦力を低下させることが大事です。
     そうすれば今後の密林奥地への探索が、成功しやすくなるでしょうから」

    「密林内では携帯電話などで連絡する事はできません。
     別行動してしまうと再び合流するのは難しいでしょうし、別行動している状況で六六六人衆と遭遇すれば勝ち目はありません。
     必ず全員が揃っての探索を行うようにしてください。
     皆さん。グンマの密林、油断せず探索してくださいね!」
     姫子は拳をぎゅっと握りしめ、皆を激励するのだった。


    参加者
    鏡・剣(喧嘩上等・d00006)
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    緋桜・美影(ポールダンサー系魔法少女・d01825)
    ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)
    刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)
    アリス・ドール(絶刀・d32721)

    ■リプレイ

    ●グンマの熱気の中を
     密林と化したグンマ山中。葉と葉の隙間から照り付ける太陽。肌に感じる暑さと湿度。
     鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)は汗ばむ体で、枝を押しのけ、葉を抑え、前へ。
     片手に地図を、もう片手にコンパスを持ち、現在位置を確認。そして、慎重に一歩一歩あるいていく。敵の気配や罠がないことを確認しながら、皆の先頭をいく。
    「こりゃ見通しが悪いなんてレベルじゃないわ。向こうは好き勝手に仕掛けられるし、完全にアウェイね」
     アリス・ドール(絶刀・d32721)は狭霧の後ろを歩いていた。狭霧が発した言葉に、こくっと頷く。
    「……この密林……隠れるには……いい場所かもしれないけど……迷惑なの……」
     喋りながらもアリスはしきりと視線を動かす。地形を把握しようと努めている。
     ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)は狼の姿でいたが、前足を持ち上げ身振りで仲間に、
    『静かにしたほうがいい。敵が近くにいないとも限らないからね』
     ヴォルフは足音を忍ばせ、息を押し殺し前進。
     ヴォルフの隣には、刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)。晶はメモ帳にペンを滑らせ、筆談。
    『この獣道は中央に向かうのに適していそうね。それからあの岩は目印になりそう?』
     晶はヴォルフたちと相談しつつ、地図に書き込みをしていく。元からの情報と現在地の光景を照合し、中心部へのルートになりそうな道や目印を記載。
     一行は慎重にけれど確実に進み、密林中央へ続くルートを割り出していく。
     鏡・剣(喧嘩上等・d00006)もシダ植物を掻き分けつつ、周囲に視線を走らせる。
    「やれやれ、またここにくっとわな。こんどはどんなやつがでるんだかな」
     口の中で呟く。うんざりするしているような、期待しているような口調で。無意識にか、シダを抑える剣の手に、力が籠った。
     剣の側で、緋桜・美影(ポールダンサー系魔法少女・d01825)は、
    「あっついな~、もう秋なのにねぇ」
     手でぱたぱた顔を仰ぎつつ、耳を澄ます。自分たち以外の存在がいないか確認しているのだ。
     不意に。剣と美影は同じ方向に顔を向けた。
    「来やがったな」
    「だよね! みんな、戦闘準備!」
     二人の視線の先、木々の奥に何かがいた。
     迷彩服を着てフェイスペイントを施した男が、木々に紛れじわじわと近づいていた。が、目を見開く。
     灼滅者が己を認識したのに気づいたようだ、一転、迷彩服の男は疾走しだす。灼滅者との距離を縮めてくる。
     灼滅者は、武器を手に、構え、或いはサウンドシャッターを展開、迎撃態勢へ。

    ●グンマーに巣食う狂剣士
     現れた男は、六六六人衆。
     迷彩服を着、肩や腰に大小の刀を差していた。一本二本ではない。無数の刀を携えている。
     男は剣を抜く。右手に一本、左手に一本、更に口で一本のナイフの柄を咥えた。陽光を反射する三つの刃。
    「我が名はソードマン。刀剣こそが我が力……!」
     ナイフを咥えた口から器用に声を出し、跳躍してくるソードマン。
     美影は敵の視線を目で追う。
    「狙われているのは――」
     狙われているのはアリスと察し、美影は、すぅぅ、息を吸う。そして、
    「さぁさ、にゃんこ印の防御アップ・デリバリー!」
     腕を突き上げる。手にはダイダロスベルト。アリスの体にベルトの守りを施す。
     果たして敵の二刀と口のナイフがアリスを裂くが、美影のラビリンスアーマーがダメージを軽減。またナノナノがふわふわハートでアリスを治癒。
     アリスは美影に小さく頭を下げると、横に跳んだ。右へ左へと、敵の周りを跳ね回る。
    「……地形に利点があるのは……あなただけじゃない……」
     軽快な動きでアリスは、敵背後に着地、
    「……自慢の武器ごと……切り裂く……」
     小太刀を模した煌刀「Fang of conviction」で、黒死斬!

     戦いは続く。後衛の晶は傍らのビハインド・仮面を従え、前へ。
    「あまり、相応しくないのが来るかと思ったけれど……とにかく、全力を尽くさないとね。――仮面」
     晶の呼びかけに、ビハインドの仮面が両手を突き出す。霊障波を放ちソードマンを牽制。
     晶も鎌を一振り。空中に無数の刃を召喚。
     晶の刃は、容赦なくソードマンの腕や肩を斬る。晶は攻撃を決めた後も、油断なく金の瞳で敵を観察し、
    「来る――気を付けて!」
     叫ぶ。数瞬後に、
    「我が技は、大地すらをも刀剣に変える……!」
     ソードマンは刀の切っ先を地に突き立てた。次の瞬間、土と石のつぶてが、灼滅者前衛を襲う。
     剣と狭霧も、肌をつぶてに打たれていた。
    「器用な真似すんじゃねぇか」
    「沢山の剣を使い、地面まで武器にする。厄介な相手ね」
     会話をしながら、剣は瞳を爛々と輝かせた。口の端を吊り上げ、
    「厄介な敵? 楽しいじゃねえか。なら、もっと楽しくやろうぜっ!!」
     敵の懐に飛び込んだ。剣は腹へ拳を突き立てる。ねじ込むように鉄鋼拳。
     鳩尾に入った拳に、くの字に折れ曲がる敵の体。
    「隙ができたわね。厄介だけど勝てない相手じゃないわ」
     狭霧は姿勢を低く疾走。敵の背後をとった。
     狭霧は『Chris Reeve “Shadow MKⅥ”』を肩に突き立て、敵の防護と肉を裂く。
     攻撃を命中させ、速やかに距離をとる剣と狭霧。
     ヴォルフは今は人の姿、緑の瞳で射抜くように敵を見ていた。
     ソードマンは負傷しつつも、くくっ、と笑っている。手を己の腰に宛がう。新たな技の予備動作なのか?
     ヴォルフは無表情で手を持ち上げる。
    「させないよ」
     嵌めた指輪が光り、弾丸を生成。狭霧の技で防護の弱まった敵の肩を、ヴォルフは狙撃。弾丸は命中、ヴォルフの魔力が敵体内を蝕む。
     ソードマンはヴォルフに視線を向けた。腰にやった手で、更に抜刀。指と指の間に柄を挟み、右手に二本、左手に二本、刀を持つ。威嚇してくるソードマンの瞳。
     ヴォルフは、『それでも、ひかないよ』と一歩前へ。

    ●グンマの密林を血で染めて
     ソードマンから絶え間なく飛ぶ、つぶてや斬撃。
     今もソードマンは顔を突き出してくる。標的は最前線に立つアリス。口に咥えたナイフがアリスの肌を抉る。
     アリスは流血しつつも、
    「……その隙……致命的だよ……」
     小声で告げ、突き出された敵の頭を踏み台にして跳躍。頭上の枝を掴み一回転。そして落下。絶刀「Alice the Ripper」の柄に手をかけ、
    「……最速で……斬り裂く……」
     空中から放つ居合斬り。敵に一文字の傷を刻む。
     着地したアリスに、晶が近づく。晶はアリスの傷を確認、
    「良い一撃だった。傷は今すぐ治すからね」
     そして、晶は歌いだす。朗々とした声。晶のエンジェリックボイスが、アリスを治癒していく。
    「確実に効いてる。皆、攻め続けて。――仮面も」
     仮面に霊撃を命じつつ、晶は治療のため戦場を走り続けた。

     その後も、アリスが最前線で敵の攻撃を止め、晶が背後から支えた。ヴォルフと美影は敵の妨害を中心に動き、狭霧と剣が苛烈に攻め続ける。攻防を兼ね備えた灼滅者の陣形。
     が、敵の反撃も強烈。結果、灼滅者も少なからず傷を負う。
     美影も頭部にできた斬り傷をナノナノに塞がせながら、敵へ顔を向ける。
    「尋ね人がいるんだけど……ここにいるかだけでも知らない、かな?」
    「……」
     ナイフ咥えた口は、返答を返さない。美影は笑う。
    「そっか、答えないのか……じゃぁもう、いいかな……あはっ」
     不自然に明るく響く、美影の声。
     突然、空気が冷えだした。気温が急速に下がり、氷がソードマンを包む。フリージングデス。
     ソードマンは不快そうに顔をしかめた。
    「斬る……っ」
     叫び、両手の四刀で、口のナイフで、切りかかってくる。標的となったのは、剣。五つの刃が、剣の首や肩や顔を斬りきざむ。
     深い傷をいくつも作りながら、剣は、
    「はっ上等!」
     声を弾ませる。駆ける。地を、石を、枝を踏み台にして、相手の周囲を移動、そして相手の側面に飛び込み、
    「ヒャッハー!!!」
     鼓膜を震わす絶叫。剣は拳を繰り出す。
     一発、二発、四発、十六発……加速度的に撃ち込む剣の閃光百烈拳。
     ナイフを咥えるソードマンの口の隙間から、ぽたりと血。なおも殴り続ける剣。ソードマンはたまらずバックステップで、剣から距離をとった。
     狭霧は走る、ソードマンを追う。
    「六六六人衆が何を企んでいるんだか知らないけれど、実現させるわけにはいかないもの。ここで確実に仕留めるわっ」
     狭霧は黒い刃を振る。一閃。金属音。刃がソードマンの持つ四つの刀を弾き飛ばした。狭霧はがら空きになった敵の胴へ、ジグザグスラッシュ!
     狭霧が与えたダメージが、今まで仲間が与えてきたダメージが、ソードマンの両膝を震わせる。が、ソードマンは刀を地に突き刺し踏みとどまった。
    「まだ立てるようね――ヴァルト先輩!」
    「了解したよ、狭霧」
     狭霧の声に、ヴォルフが小さく応えた。
     ヴォルフは靴の踵で地面を蹴る。ヴォルフの影が伸びた。影の先端が立体化する。
    「これで終わりだ」
     ヴォルフの影が、ソードマンの左胸を貫いた。
     悲鳴をあげ、崩れ落ちるソードマン、その姿をヴォルフは無言で見つめ続ける。

    ●グンマより帰還せよ
     ヴォルフは敵が完全に消滅したのを見届け、再び狼の姿になる。
     皆を見上げ、
    「いったん戻ろう」
     と来た道を目で示す。
     美影は、
    「うん、そうだね~。少し消耗しちゃったし」
     相変わらずのテンションで賛同。
    「……地図に情報も加えられた……今回は戻ろう……」
     アリスも皆で書き込みを入れた地図を見て、こくと頷く。
     アリスの言うとおり、地図に、中央に近づけるだろうルートの情報を、付け足すことができた。
     ESPの他、ハンドサインや筆談を使った隠密行動、コンパス・地図・既知の情報などを活かし、慎重に着実に密林内を進んだ故の、成果だ。
     狭霧は撤退すべく歩き出す。来た時と同じく、皆を先導しようと。
    「じゃあ、行きましょう。帰り道も奇襲に気を付けないとね」
     その狭霧や皆に、晶が冷やしたジュースを渡す。ともに勝利を得、探索の成果も得た仲間たちをねぎらうために。
     ジュースを飲み歩きながら、晶は言う。
    「それにしても……暑い、ね。本当に、アフリカンパンサーのアガルタの森と似すぎていると思う」
     熱気の中を歩きつつ、剣もジュースを口にしていた。ふと密林の奥を振り返る。
    「あの奥に、上位の奴がいるのか……」
     剣は缶が変形するほどに、拳をぎゅっと握りしめる。そして、仲間たちと共に歩き出した。後に繋げるための情報を手に学園へ。
     空を仰ぐと、葉や枝の隙間から、雲一つない澄んだ青空。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年11月6日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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