悪魔の企み、種火は白く

■リプレイ

●企みを封ずる檻
　時計の針が、午前８時を示す、少し前。
　宴会場へと、信者達が続々と集まって来る。……既に館内に侵入を果たした灼滅者達が、身をひそめ、作戦決行の時を待っているとも知らず。
　突入の機をうかがいながら、アリス・バークリー（ホワイトウィッシュ・d00814）が思う。
（「『白炎の檻』かぁ、さすがはスサノオの結界だね。でも、サイキック・リベレイターが使用された今がチャンス。悪巧みはすべて根絶するよ」）
　意気の揚がる鏡峰・勇葵（影二つ・d28806）が見つめる室内は、さながら儀式場。とてもではないが、宴会など開く雰囲気のものではない。
　やがて１０人全員が揃うと、リーダーの話が始まった。信者達はみな、それに耳を傾けている。これを退屈と感じるような者は、そもそもこの場にいまい。
「んじゃゴー」
　まとっていた闇を脱ぎ捨てると、影道・惡人（シャドウアクト・d00898）が突入の口火を切った。
「これまでのデータからしても、灼滅者も、一般人を巻き込んでしまえば……」
「貴様ら今、灼滅者と言ったな、呼んだか？」
　声と共に姿を見せた日下部・優奈（フロストレヴェナント・d36320）に、リーダー、そして信者の視線が一斉に集中した。
「誰ですか！？」
「あっはははは！　まぁだこんな地味ぃな活動してたんだねぇ……ご苦労、さま？」
　真剣だった場の空気に、緋桜・美影（ポールダンサー系魔法少女・d01825）の笑い声が風穴を開ける。
「盛り上がってるところをごめんなさい。毎度おなじみ、武蔵坂学園の灼滅者よ。あなたたちに引導を渡しに来たわ」
　スレイヤーカードをかざすアリスに、信者の１人が憤りを口にする。
「くそっ、ここなら安全なはずじゃなかったのか！　……おい、どうした」
「いや、猫が……」
　信者の１人が、小さな客人を指さす。
　するとその目の前で猫は、古海・真琴（占術魔少女・d00740）へと姿を転じたではないか。
「魔法使いの私にとって、宿敵のハズのソロモンの悪魔……スサノオ勢力と合体して復活されたら、たまったものじゃありません！」
「いい大人が１０人も揃って、やってることが研修まがいのセミナーとはね。一般社会で落ちこぼれるのも分かるというものだわ」
　アリスの辛辣な言葉が、信者達の胸を突き刺す。
「そんな人生の落伍者が、闇の世界でやっていけるはずもないでしょ。先に地獄で、悪魔を出迎える用意でもしてなさい。……Slayer Card、 Awaken！」
　武装、解放。
　信者達が退こうにも、乗り込んできた漣・静佳（黒水晶・d10904）達が、既に包囲網を形成している。
「気持ちはわかるけれど、貴方達が変わらない以上、難しいわね」
　告げる静佳。
　そして、勇葵にも出入り口を塞がれた状態。それでも活路を見出そうとしていた信者は、金色の髪の少女が立っている事に気づいた。
　一般人が迷い込んだのか？　否、一般人は、目に見える闘気をまとっていたりはしない。ならば、
「灼滅者！？」
「そうだよ！　隠されていた勢力が出てきたみたいだね。強化一般人だからって気を抜かないようにがんばろー！　おー！」
　少女……カーリー・エルミール（元気歌姫・d34266）が、元気に拳を突き上げた。

●悪魔に従う抵抗者
「私はソロモンの悪魔が嫌いでな、奴らが『病院』にしてきたことを忘れた時はない。無論、悪魔に魂を売った貴様らも同罪だ」
　信者達に、憎しみの眼差しをぶつける優奈。
　血の色をした翼、燃えるような瞳……あの悪魔を、優奈は一時も忘れたことはない。
「恐れる事はありません！」
　リーダーが、信者達を鼓舞した。
「今こそ灼滅者に積年の恨みを返す時。ここで蓄えた力を見せてあげようではありませんか！」
「はい！」
　リーダーを守るように布陣する信者達。
　こつん。静佳が杖……交通標識の柄で、床を打った。表示板が黄色に改められたかと思うと、前衛に立つ仲間達が、守りのオーラに包まれた。
「灼滅てなぁ毎日の朝グ……トイレと一緒、溜まったもん出すだけの作業さ」
　皮肉げに言いながら、内なる力を解き放つ惡人。
「ま、こーゆー奴らがいりゃ都合良いって事さ。……じゃ処理すっか」
　無造作に惡人の構えたガトリングガンが、信者達をターゲットする。
　そして、信者達が抵抗を開始した。見たところ、敵は前衛が６人、中衛が３人、そして後衛にリーダーの１人という布陣。
（「こないだは前衛で戦闘不能になったばかりですし、今度こそは得手としている後ろからの攻撃組み立てで、一網打尽！　と行きますよ」）
　慎重にタイミングを計っていた真琴が、魔法を解き放った。
「この力はっ！」
　信者はすぐに、相手が悪魔の宿敵だと察したようだ。それを知らしめた真琴の魔法は、前線に立つ信者達から、熱量を奪っていく。
「再起を夢見ていたようだけど残念ね。厳しい現実ってやつを教えてあげるわ」
　更に、アリスの白い魔力が、信者達の冷却を加速させる。
「さぁさ、こっちは防御アップの差し入れだよぉ～♪」
　美影の声がしたかと思うと、アリスをダイダロスベルトの鎧が覆った。
　数なら、こちらだって負けていない。踊るようにカーリーが両手を振るうと、周囲に霧が発生した。
　カーリーの魔力の粒子を含むそれを取り込んだ仲間達は、闘争本能の活性を感じた。
　順調に体勢を整えていく灼滅者達に、抗う信者。その１人を振り払った優奈の背から、光が差した。
　出現した十字架が、信者達へと光の雨を降らせた。優奈の断罪の意志を具現化したそれは、数秒間も信者達を焼き続け、攻撃の力を封じた。
　ようやく光の洗礼を逃れた信者を、惡人のダイダロスベルトが待っていた。その速力から逃げる事などできようはずもない。
　体を貫かれ、あえなく絶命。上半身が床にぶつかるよりも早く、その身を消滅させる。
　仲間を失い動揺する信者は、見た。攻めかかって来る勇葵の腕が、またたく間に巨大化していくのを。
「この一撃で、その身を叩き潰してあげるよ！」
　その通りになった。
　神薙の力をこめた勇葵の巨腕が、信者の耐久限界を容易く突破した。もはや一般人に戻ることもできないその体は、ただ虚空に消えていく。

●信ずる者達、その心は折れず
　カップ麺も出来ないような、短い時間。いきなり前衛２人を失った信者達が、ざわめく。
「敵の前衛に攻撃を集中させなさい！　我らには、ソロモンの悪魔様の加護がある事を忘れてはいけません……！」
　リーダーの叱咤、そしてマジックミサイルが、信者達の弱気を掻き消す。
　次々と魔法弾や冷却魔法で、攻撃を仕掛けていく信者達。
　カーリーの盾がダメージを軽減する中、アリスがミサイルを切り払い、真琴やウイングキャットのペンタクルスも、急激に低下する温度に耐える。
　敵味方入り乱れる宴会場を、広く把握する静佳。回復役には、攻撃役とはまた違った状況把握能力が求められるものだ。
「緋桜さん、お願い、できますか」
「任せて！」
　氷結を受けた前衛に、静佳と声を掛け合い、美影が交通標識を振るった。
　黄色表示による守りの加護が起動し、仲間を治療する。回復役に専念していた美影のナノナノも、小さな体で飛び回る。
　リーダーを守れ、とディフェンダー陣が奮闘する。
「ソロモンの悪魔の復興のために！」
「灼滅者を供物として捧げるのだ！」
　一斉に飛びかかってきた信者達の目と体を、光が焼いた。アリスが光剣を弾けさせたのだ。
「頼れるものなら何でも頼る……追われる身は悲しいねぇ」
　攻撃の手を弱められた信者達は、美影の餌食となった。自分達も使う熱量奪取魔術、それもずっと強力なものを喰らい、次々と体を凍り付かせていく。
「諦めても諦めなくても良いんだけどさ、君らはもう逃がさないってことは理解してね？」
「おのれ灼滅者め……」
　恨み言を口にする信者が、背に硬い感触を覚えた。
「銃……！」
「感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
　トリガーを引く惡人。
　無数の銃弾が破壊の音を奏でる。蜂の巣にされた信者の倒れた音が、演奏終了を告げた。
「よくも仲間を！　背後からとは卑怯な……！」
「うるせー、なもん知るか。勝ちゃいんだよ」
　怒りをぶつける信者を、惡人が一蹴する。
　そう、戦場は無慈悲に推移する。
　勇葵の人狼としての俊敏な挙動に、信者達は翻弄されるばかりだった。ようやく銀色の閃きを捉えた、そう思った瞬間には、肉体はおろか意識さえも刈り取られていた。
　次々と信者が数を減らしていく様子を把握し、静佳が動いた。手にしていた武器を、攻性を示す赤表示にシフトさせて。
「人の心は変えられない、わ。そう、容易には、ね」
　打撃する静佳。赤い軌跡が走った後には、信者が倒れ伏している。
「お、おい！　ぐふっ」
　同朋に手を伸ばそうとした信者が、血を吐いた。腹に、優奈の光剣が突き立っていた。
　『あえて』わずかに力を抜いた優奈の一撃は、信者に死までの猶予を与えていた。恐怖、あるいは罪の意識を認識させるために。
　相次いで守り手を失い、矢面に立たされた中衛陣は、魔術を解き放つが、数に頼んだその力は恐れるに足らず。
　ここは一気に攻勢をかけるチャンス！　そう判断したカーリーは、回復の手を休めると、まとっていたオーラを手元に収束させた。
　床を踏みしめると、それをカーリーは、砲として放つ。とっさに逃れようとした信者を追跡すると、焼き尽くした。
「今ならいけるわ」
　アリスにとどめを促され、真琴が前進した。
　敵の攻撃を受け流していた盾をかざすと、そのまま相手の体ごと、壁へと叩きつけた。

●摘み取られし罪の種
「さあ、ご退場願いますよ、魔法使いの名において！」
　まさに一網打尽。他の信者は全て倒れた。いよいよ追い詰められたリーダーに、真琴が言葉を叩きつける。
　アリスらの集中攻撃を受けるリーダーに、取れる選択肢は多くなかった。都合よく脱出できる状況では、もはやない。
　必ずここで撃破する、と静佳に行く手を阻まれたリーダーが、憎々し気に吐き捨てた。
「悪魔を罰する天使のつもりですか！」
　天使、そう揶揄されたのは、美影だ。もっとも、その背から広がるダイダロスベルトは、天使の翼に見えたとしても無理はない。
　だがその翼は、容赦なくリーダーの四肢を絡めとる。
「不様に死んで見せろ、その方が少しは気も晴れるからな」
　優奈が身を回した。己自身を刃に見立て、リーダーを薙ぎ払う。
「ダークネス全てを滅ぼす灼滅者……その業は必ずあなた達を地獄へと誘う事でしょう！」
　胴を両断されながらも、リーダーは恨み言を叩きつけると、肉体を霧散消滅させたのだった。
　短かった戦いが終わりを告げると、静佳は、黙祷を捧げた。信者達の冥福を祈って。
「んじゃ後は任せたぜ」
　さっ、と手を挙げると、先に立ち去る惡人。後始末には、自分より適格な者がいるだろう。
　片付けのついでに、勇葵が辺りを調べるが、信者勧誘のノウハウが書かれた自費出版的　な書籍や、メモ書きが残されているだけだった。
「ソロモンの悪魔のいた痕跡はなし、かぁ」
「そういえば、朝から動いたら、お腹がすいたね！　……すかない？」
　食欲に従い、カーリーが言う。
　だが、強化一般人となっていた信者達に飲食は不要。隔絶された土地という事もあって、食料の類は残っていなかったのである。
　こうなれば、長居は無用。廃旅館を後にする灼滅者達。
「こうしてひとつずつ、壊していけばいつかたどり着く……かもねぇ？」
　美影がつぶやく。その胸には、探し求めるものの姿が去来していた。

作者：七尾マサムネ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年10月30日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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