間もなく立冬の、いまにも凍てついてしまいそうな夜空。
小さく鳴いた北風のむこうは、満天の星。
天頂で秋の四辺形が輝けばポラリスはいつも其処に居て、南のフォーマルハウトと対になって煌々と瞬く。
プレアデスの群れとアルデバランは東の空。そしてカペラが姿を見せると西のアンタレスは姿を隠す。
星々をなぞると、こぐま座カシオペア座、わし座が姿を現し、デネブとベガ、アルタイルは銀河に三角の橋を繋いで。
そのうちに昇るオリオン座のベテルギウスが、冬の訪れと知らせると同時に世界を深い夜に誘って行く。
列車を降りた浅間・千星(星詠みエクスブレイン・dn0233)はおもわず息を呑む。
空を隔てる山の無い高原の夜空では、幾千の星が輝いていた。
東の空に浮かんだ月は、星を従えて高い場所へと昇ってゆく。
彼女の息を白くけぶらせたのは、どこまでも澄み渡る標高1375メートルの高原の空気。
肩にかけていた大判のストールを、深めに羽織り直す。
「わ、すごーい!」
続いて列車を降りた千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)も満天の星に感嘆の声を上げると、あっ、と東の空を指差した。
牡牛座にいる大きな月。その辺りから星が流れたのだ。
おうし座南流星群の一筋だ。
千星はその一筋を見てはいなかったが、思わずふわりと笑んだ。今日の月は十六夜だから月明りが障って流れる星は見つけることが難しいと思っていたから。
「また流れるかなっ♪」
子供のように声を弾ませ、空を見上げる花近。千星はうーんと小首をかしげる。
それは運次第。でも、願わくば――。
それは遡ること一週間ほど前。
「見てくれ千曲・花近! こんな素敵なものが、田舎の近所を走っているらしい!」
軽井沢出身の千星が興奮気味に花近に見せたのは、星空と高原の山々を背に、列車が走りくるイラストが印象的な観光チラシ。上部には電車の名が、愛らしいフォントで飾られていた。
『Starry Train』
それは、長野県の小諸駅と山梨県の小淵沢駅をつなぎ、日本一標高の高い地点を走る小海線――八ヶ岳高原鉄道の観光列車。
2両編成のハイブリット列車で、定員は50名。先頭車両には、天井の半球体型の幕に映し出される満天の星が印象的なギャラリーがあるほか、天文関係の書籍が観覧できる。シートバリエーションは先頭車両にリクライニングシートが21席。後部車両には4人掛けのボックスが2つ、並んで外を眺めらてるペアシートが7つにシングルシートが7席。
この列車は小淵沢駅を発車すると、『天文学者が選ぶ日本で一番綺麗な星空ベスト3』にも選ばれた長野県南牧村の野辺山駅に停車する。
そこで2時間の星空散歩。
星空を観察できる場所は、駅と隣接する公園。場所は限られてはいるが澄んだ空気の元、満天の星を堪能することが出来る。
「なにこれ素敵!」
「な。ホームで過ごすもよし、公園で過ごすもよし。公園は全面芝生だから、防寒対策さえ万全ならば、寝転がって星空も堪能できそうだ」
「星空の下でお散歩したりお茶したり、楽しめそうだねっ」
夜が深まってきたら再び列車に乗り、浅間山の麓へと向かう。
道中の社内照明は極力まで落とされる。そのため、車窓からは星がたくさん見られることだろう。とはいえ手元を照らす明りは完備されているので、食事や読書に支障はない。
また、リクライニングシートは対面シートに変えることもでき、シングルシートとペアシートはカーテンで仕切ることができるようだ。
「先頭車両のギャラリーも素敵だし、素敵な列車旅になりそうだねっ」
「だろう? これ、皆と一緒だったら、きっとすごく楽しいだろうなって思ったんだ」
そして二人は今、星空の海の底にいた。
星空を見上げる二人の傍らではハイブリット列車が静かに佇み、高原の夜空は、次々に下車して空を見上げる者を静かに迎え入れていた。
満天の星の中。
月明りに負けぬように、流星が長く長く光の尾を引いてゆく。
それではしばしの星空散歩と、星空の下を行く列車の旅をお楽しみください。
●Deep Forest
晩秋の小淵沢を出発した列車は、ゆったりとした弧を描きながら斜面を登り、やがて深い森へと入っていった。
半球体型の幕に映る星空を見上げる七ノ香と幸四郎。
流れ星を多く見つけてその分だけお願いをする。
大切な人が見つけられますように。
「よく、覚えていないんですけどね」
星空の下の七ノ香の笑顔どこか大人びても見えて。
「見つかるといいな。流れ星も、大切な人も」
七ノ香はその言葉に笑顔で返した。
あとで一緒にお祝いのアップルパイを食べる約束を。そして少女はもう一つ、お願い事を追加する。
千星おねえさんが素敵な一年を過ごされますように――。
「少し、お話をしましょうか」
森を行く列車に揺られながら、柚羽が言葉を紡ぐ。
それは偶々本で読んだ、蟹座の人を『ムーンチャイルド』と呼ぶ話。
彼は確か蟹座。そして誕生花は紫のラベンダー。
「紫の月の子。星と花がここまでも名前に一致しているのは、すごいなと思いまして」
蟹座をそう呼ぶことも知らなかったし、名についてもそこまで考えたことがなかった。
「確かにその星座はその人を表すとは思う。ゆーさんは天秤座だろ?」
均衡であることを求め、どちらかに傾くことを嫌っている。
「でも、偶には思いっきり傾いてもいいと思う。……もっと俺を頼ってくれてもいいから」
「しーくんには頼って……いる方だと思います」
でももっと頼っていいのならば、天秤を均衡にし続けなくていいならば。
うまく頼れないかもしれないけど。
「その時は遠慮せずに頼りますよ」
微かな笑みに、紫月は思いを強くした。
●Starry Sky
野辺山に着くなり、流星は流れ。
「チセー、ハナチカー。今の見た? 流れ星!」
「みたみた! 流れたよね!」
声を弾ませるオリガと花近。見逃した千星が苦笑いで頭を振ると、
「あら。また流れるかしら」
と全天を見渡したオリガ。
瞬く間に消えてしまう光。その代わりにと取り出したのは、金平糖。
「流れ星の欠片みたいでしょ?」
千星と花近、そして千星の右手にいるうさぎのパペットには口にくわえさせ。
「チセはお誕生日おめでとう。来年も、再来年も、ずっとお祝いを言えるように、こうして皆で一緒に遊べるように願いを込めておいたワア♪」
千星は左手に受けた星を大切に包みこんで、ささやかに笑んだ。
「ありがとう。オリガ・オルフェイス」
星の物語に明るいエミリオが断に聞かせるのは、おうし座にまつわる神話や逸話。
ロマンチックな話とエミリオの横顔に、断は瞳をキラキラと輝かせ。
二人に姿を見せたのは火球。月光にも負けずに空を斬り割いた。
「……すごく綺麗だね」
ため息交じりのエミリオが呟くと断も小さく頷いて。
「こんなに綺麗に見えるの……初めて……」
「折角だからお星さまにお願いごとをしてみようか?」
エミリオが提案すると、断は小さく頷いた。
「……No me imagino lejos de ti Te quiero mucho」
エミリオが静かに囁いたのは母国語。
そのあとのはにかみ顔に釘付けの断の唇に舞い降りたのは、柔らかな口づけ――。
イチと奈那、そして奈那に抱かれているくろ丸は、駅のホームで星空観測。
「井瀬さん、おうし座、どれか分かる?」
「確かオリオン座の西側……でしたか?」
イチの言葉に奈那が自信なさげに指差すのは十六夜の月。
「そうそう、あの、星が集まってるプレアデス星団が、目印」
イチは青白い光が集まる場所を指差した。そしてケースから取り出したのは天体望遠鏡。
「ん、どうぞ。覗いてみて」
イチに勧められて接眼レンズを覗き込んだ奈那の瞳に映ったのは、月明りにも負けないプレアデスの細かな星々。
「わぁ……」
感嘆の声の声を上げる奈那の見つめるイチの瞳は、優しい。
「冬の夜空は、どこも賑やかで……浪漫いっぱい、だよ」
列車を降りたヒトハも、小さく感嘆の声を上げて星空に見惚れていた。
死んだ人は星になる。
それはもういない大切な人がしてくれたお話だった。だからヒトハは無意識に星々に手を伸ばし、力なく手を下ろした。
掴めなかったから。
優はそんな彼の手を優しく握った。
「今は私がこうやって側に居るよ。此れからもね?」
「……はい、もう寂しくない、です」
自分に寄り添ってくれるヒトハのぬくもりを感じながら、優は強く思う。
優にとって家族は消し去るべき存在。だが本来は、守りたい存在を家族というのだろう。
強くなる。そして、護りたいものを何をしてでも護る。
紅緋と聖也は駅で千星に声を掛けた後、公園にやってきた。
紅緋が聖也に手渡したのは、手編みのマフラー。
「ありがとうなのです! すごく温かいのですね!」
首にかけてみて、聖也はほっと一息。ひんやりした空気は彼の息を白くけぶらせる。
目線の先には満天の星。
「天を征く星々は地上の現し身。それを詠める宿曜師は、星の配列をみて吉凶を判ずる事が出来るんです」
「紅緋さんはすごく知識をお持ちなのですね!」
「私も一応は東洋式の星座の見方は学びました」
故郷周辺は夜になると星あかりしかなかったため、天体観測には最適であったのだ。
昴のそばから星が一つ流れ、あ、と同時に声を上げた二人。
「見えました?」
「流れ星が通っていったのです!」
声を弾ませた聖也には、あの流星が幸運の使者に思えた。
「春翔が息抜きって言うの珍しいわよね」
公園のベンチに腰掛けた律花がホットコーヒーを注ぐと、白い湯気が星空に揺らぐ。
「都内では星を見てゆっくり過ごす事も儘ならないからな」
春翔は差し出されたコーヒーを受け取り、一口。
大学4年生はこれから忙しくなるから――と誘った星空散歩だが、目的は他に。
律花は星空を仰ぎ、感嘆の吐息。
この列車の旅を教えてくれた千星を思い浮かべ、そういえばと春翔に声を掛けた。
「春翔って漢字は違っても千星ちゃんと同じ読みなの、珍しいわよね」
共通点があるのは何だが羨ましいと言う律花に、陽翔は微笑む。
「律花も来年の今頃は朝間になっている筈だから、『あさま』仲間だと思うが?」
言葉は実感に変わりストールで顔を隠す律花。陽翔は小さく笑んで彼女の左手を取ると、薬指の指輪に唇を寄せた。それは彼女の未来の半分をもらう約束の証。
「少し早いが、律花も誕生日おめでとう」
今にも星がつかめそうで、陽桜は満天の星に向けて両手を伸ばす。
足元にいるあまおとも、同じように空を見上げていると気が付き、そっと撫でて。
「あまおと、星の海に沈むなら、あたし達だけじゃなくって道連れも必要かもですよ」
ふと目線をあげれば、見知った姿を見つけ。
「星の海の道連れ発見です♪」
と、千星に声を掛けた。
「あ、羽柴陽桜じゃないか!」
駆け寄ってきた道連れに、祝辞を送り。
「こんなに星が綺麗だと、お茶会したくなりません? あたし、お茶会セット持ってきました♪」
素敵な誘いに笑顔で答える千星を交え、楽しい星空ティーパーティーが始まる。
【Fly High】の5人は、頭を内側にして円を描くように芝生に寝転んで星空を眺めている。手を繋げば、まるで一つの星の様。
「ふふ、こうして空を見上げてみたかったんだ。なんか青春みたいでしょ?」
念願叶ったアメリアの声が跳ねる。
その隣では耀が金平糖をポリポリ頬張り、両隣のアメリアとオリヴィアにもおすそ分け。
オリヴィアは、ありがとうと金平糖を受け取って口に含み、
「オリオン座はあれ、でしょうか? いえ、あっち……? うーん……」
車内の本で予習したのに。と、困り声。
「オリオン座は、三つ並んだ明るい星が目印だけど……」
耀の声が返ってくる。
オリヴィアの隣、ドロシーは両隣の手の張りに若さを感じながら、
「はー……、美しいのう。あの星々をコレクション出来たら、どれほど満たされることか」
大気はゼリー、浮かぶスターフルーツ。暖かなココアも欲しい所。
「一人だけ男なので少々ドキドキします……」
照れ笑いの木乃葉が星々に願うことは、つないだ手のような暖かな幸せが続きますように。と、
「来年もまた見に来たいですね」
「今度は皆で、ココアでも飲みながら夜空を飛ぼうね!」
満天の星の下で大好きな仲間と一緒に飲むココアは、きっと格別。
公園の奥の方、ニコと未知は豚汁に舌鼓をうつ。
食後のデザートは未知が列車の売店で購入した星型クッキーだ。
一瞬の沈黙の後、語りだしたのは、ニコ。
「俺は、かつて一番星になりたくて仕方がなかった」
だけど宵の明星ははるか遠く。
「だが、せめて誰か一人だけでも照らせるような『一番星』になれるのならば、其れは其れで悪くはないと、最近思い始めてもいるよ」
「ナンバーワンよりオンリーワンってやつか、いいよ思うよ」
悪友の心の内を受けいれて未知は空を見上げた。
「欲を言うなら、その『誰か』もまた自分だけの一番星になってくれたら最高だなって思ったこと無い?」
こんな綺麗な星空。願いをかければニコの気持ちも叶うかもしれない。
「俺もお願いしてやるよ」
と、目を閉じた未知の横顔をみて、ニコは柔らかに笑んだ。
お前と一緒に来られて、良かった――。
「故郷で見慣れてると思っていましたが、今日の星空は一層綺麗にみえます」
何故でしょうねと、はにかんで問いかける桜に、花近は目を細めた。
「一緒に見てるから。かな」
その答えに頬を染めた桜。
特別な星空を切り取るためにスマートフォンのカメラ機能を起動してレンズを空へと向けるが、内蔵カメラは肉眼に劣る。
「むむ、暗くてよく撮れません……」
画面越しの空に困り顔の桜。
「俺ので撮れるといいんだけど」
花近も同じようにレンズを空に向けようとしたその時、小さく鳴ったシャッター音。
えへへとはにかむ桜のスマホ画面には、少し真剣な面持ちの彼が切り取られていた。
「こうして一緒に星を見上げるのは久しぶりね」
広樹と並んで星空を見上げる澪音は、思わず笑んだ。
たくましくなった彼との優しい時間が少しこそばゆかったから。
「誘ってくれてありがとう、綺麗な星空だな」
最近は二人の時間も多くなり、広樹も自然と口元が緩む。
「こうして星に興味をもてるようになったのも麻生たちのお陰だな、ありがとう」
返事の代わりに柔らかく笑んで、澪音は星空に手を伸ばす。
「このまま星が降ってきそう」
東の空にはオリオンが姿を見せ始めたところ。に、星が流れた。
「今の見た? 明るい流星だったわ」
嬉しさで振り向けば、近くにあったのは彼の顔。
小さく謝り俯く彼女の手を優しく握ると、微笑んだ広樹。
(「次はオレから彼女を誘えるよう……」)
がんばろう。
二人はまた、静かに空を見上げ始めたのだった。
あの日、黄金の星々に囲まれながら闇に呑まれ薄れゆく意識の中で見たのは、貴女の姿。
だから余計に、今こうして手を繋げることに感謝と――。
自分の左側には、自分と繋がれた右手を気にしている彼女。だけど名を呼べばいつもの笑顔。アンカーは目を細めると彼女と向かい合い跪いた。
「誕生日、おめでとう。気に入ってもらえるといいんだけど」
黄玉は闇の中で見つけられた太陽の石。彼女の首に星の輝きを一つ。
「ありがとう」
と嬉しそうにはにかんだ彼女は、一等星。優しく彼女を抱きしめた後、大きなコート越しの両肩に手を添えたアンカー。
「大好きだよ、千星」
わたしも。と返した唇に――。
●Galaxy Railway
星の海を発車した列車は、星の海を行く。
車窓から望む満天の星を眺める徒と千尋を繋ぐのは、一組のイヤホン。
R&Bと同調する、列車の振動音とお互いの息遣いに安らぐ心。
千尋は膝掛を広げて徒とぬくもりを共有する。その中でつながるのは、お互いの手。
徒は少しだけ、つなぐ手に力を込めた。
星空の下、このまま二人でどこまでも行けたら……。
「見られるかな? おうし座流星群」
千尋の問いかけは徒を現実へと引き戻す。すぐさま時刻と地図を確認し。
「うん、こっちに見えるはず」
そして二人は静かに流星を待つ。そして同じ願いをかける。
――これからも大好きな人と一緒にいられますように。
悟と想希は、売店で購入した駅弁を食べ終わっていた。
食後の甘味に。と想希が取り出したのは――。
「おお、金平糖! 夜空からとったみたいやな!」
この旅行にぴったりの甘味に、悟の声も上がる。
「本物の星には敵いませんが、彩と味で勝負です」
微笑んだ想希は悟の手のひらに星をちりばめると、
「せやな。甘い星、大事に楽しもか」
にっこりと笑みを返した悟は金平糖を一粒抓み。
「想希、あーん」
差し出された星を口に含めば、ふんわり広がる優しい甘み。
「悟のために星空から分けてもらった甲斐がありますね」
満足げな想希に続いて、悟も自分の口に星を一つ。
「んー! うまっ! 流れる星が口に飛び込んできたみたいや!」
「……ああ、いい夜ですね」
想希が呟けば、悟はブランケットを彼の肩にかけ、そっと抱き寄せた。
「終わらへん物語が始まるんやな」
列車は進行方向右手をゆく千曲川と並走。その頃には地上の星も見え始める。
窓際のテーブルにカップを二つ並べたマサムネと水鳥は、車窓の星を眺めていた。
星空に向かっている錯覚さえ覚えると言う水鳥の手を繋いだマサムネは、その華奢な指と自分の指を絡ませる。
「水鳥、お前流れ星見かけたらなんってお願いするつもり」
「願い……?」
彼の問いに小首をかしげて考える水鳥。
「オレは水鳥がいつも笑顔で健康でいられますようにって願うな」
健康で笑顔でいられるなら何でもできる。
「それと、二人いつも一緒に居られますように、ってな」
とマサムネは笑む。
「一緒に居られるように……、願いじゃなくて、約束。です……」
つないだ手、絡んだ指、そして、
「水鳥、愛してる」
寄せられた唇から彼のぬくもりを感じ、水鳥は思う。
今ここに一緒に居られて、良かった。
【糸括】の7人は、ボックスシートで列車の旅を満喫していた。
「わあっ!お星様があたし達と一緒に、走ってきてるのーっ」
車窓からの星々に窓にペッ足りくっついた杏子は、感嘆の声を上げている。
対して隅也は静かに天上と地上の暖かそうな星を見つめていた。
らしいな。と二人から目線をずらした脇差の視界には、車窓の景色ををカメラで切り取って確認しては満足げな輝乃の姿。
「ん、どうしたの?」
「いや、いい写真撮れたか?」
ぷいっと目を逸らしたが、胸の奥が熱い。
「流星が流れ落ちる場所って何処か知ってる?」
有名な詩の一説を思い出した明莉が尋ねれば、澪はうーんと首を傾げ。
「そういうのはあまり詳しくないからな……神無日さんはどう?」
「……どこにも、落ちないが、空を駆け巡り、数多の地上の星と、出会い別れる、といったところか……?」
隅也が呟けば、明莉は小さく頷き外を見た。
「出来得るなら、地上の星たちと交わって欲しいけどねぇ」
と、明莉にもたらされたのは、プリンふたつ。
ひとつはおみやげと告げて、
「あたしね、プリン、作ってきたのっ」
杏子が皆にお手製プリンを回してゆけば、温かな飲み物を提供するのは隅也。さらにミカエラ持参のおやきが配られ、楽しく美味しい時間が始まった。
暖かな車内と比べて外はとても暗い。夜は全ての音を消し去るようで。
規則正しい列車の揺れに身を預けていたミカエラが、食べ物を手にうとうと。
星座は見る場所で少しずつ違う――。
「――甘くない食いもんは、無いデスか?」
二口食べてダウン気味の明莉に差し出されたのは、星型のタルトクッキーが入ったバスケット。
「珈琲とか抹茶の味なら甘くないかも」
その横から手を出しクッキーを攫うのは脇差。
「贅沢者め」
ふんとクッキーを齧る脇差を横目にして、輝乃は思い出していた。
皆を星に例えて詩を作ったことを。
何でこんな風に思うんだろう。
大切な仲間の星の中で、彼の星の光が一番強く感じた。
クッキーを頬張りながら明莉がふと西にノーザンクロスを見つける。
「銀河鉄道の終着駅は、サウザンクロス」
自分たちはまだ、そこにはいかない。
「地上に降りたら、山の向こうに在る星をこの手で掴まえに行かないとね」
呟いて明莉は、杏子からもらったプリンの片方をそっとカバンにしまった。
「あたしの終着点は、まだ見えないの」
呟く杏子の瞳に映るのは光。
「僕の、終着点か……」
出来るなら、姉さんの隣なら――。澪はそっと目を閉じる。
星に願うなんてガラじゃないが。だけど脇差は思う。
この先どこへ向かおうと、仲間と過ごす時間をずっと忘れずにいられる様に――。
岩村田の風景をカメラに収めている千星に祝辞をささげ。
すばるの輝きを筆頭に星々の輝きに心に、依子の旅のお供は暖かな飲み物と一冊の本。
己の心の炎を燃やして宇宙を目指した少年に自分を重ね。
まるで数多の旅のような学園の門をくぐってからの日々。
ふと顔を上げれば目の前には数多の灯。膝を折りそうな選択の日々も生きているのを諦めないのも、この灯を守るため。
笑って、顔を上げている為に何ができるのか。
思案しながら依子は、静かに瞳を閉じた。
北にポラリス。南西にはフォーマルハウト。
月は天へ、流星は祈りを連れて。
――間もなく、小諸。終点です――。
作者:朝比奈万理 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年11月15日
難度:簡単
参加:40人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 0
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