「皆、群馬に六六六人衆の存在が予測されている。それも沢山だ」
時はグランギニョール戦争後、群馬山中の一部が密林化する事態が発生。気温湿度共に上昇し、『アガルタの口』に似た環境と化していた。
「内部がどうなっているかはまだ手探り状態だ。密林の探索を行なって、内部にいるであろう六六六人衆の灼滅を頼みたい」
さて、探索といっても密林のどこに敵がいるか、どんな敵なのか、それすら分かってはいない。
「うまくいけば単独行動をしている六六六人衆に先制攻撃を仕掛けられるかもしれん。慎重に探索するようにしてくれ。逆に、不用意な行動をとれば奇襲を受けることもあるし、複数の六六六人衆と戦うことになれば撤退もやむおえないだろう。だから、奥深くまでは潜らないでくれ」
外縁部の六六六人衆を撃破して戦力が低下すれば、密林奥地への探索の成功率もあがるだろうとのことだ。
「どこでどんな六六六人衆と遭遇するかわからない以上、はぐれないように注意してくれ。そして何より、無事に帰ってくることだ。頼んだぜ」
参加者 | |
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喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652) |
刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814) |
シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461) |
ロイド・テスタメント(無に帰す元暗殺者・d09213) |
神西・煌希(戴天の煌・d16768) |
ハノン・ミラー(蒼炎・d17118) |
炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512) |
ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696) |
●ジャングルウォーカー
灼滅者たちは群馬県の山へと訪れた。
目の前にはここが日本とは思えないほど大胆に変貌したジャングルが広がっている。
この中に分け入ってもいいし、分け入らなくてもいい。
「さ、行くわよ。準備はいい?」
喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)は長い髪を後ろでまとめ、くるりと帽子の中に入れて被った。
森林迷彩のかかったカーゴパンツに頑丈なブーツ。ジャケットのファスナーを首まであげると隣を見た。
彼女と同じく迷彩服を纏った刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)が、方からさげた保冷水筒を小さく翳す。
「中は熱いかもしれないからな。多少の用意はいるだろう」
二人の手前に腰を下ろす霊犬、黒毛の仙と白毛のサフィア。
その横にちゃっかりと並んだオオカミ形態の炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)。
大きく鼻から空気を吸い込み、瞑目してはき出す。表情には分かりづらいが、しっぽはやんわりと左右に揺れていた。
どっしりとした草と土のにおいが心地よいというふうに、しばらくそうしていた。
「ふみゅ、動物も気持ちよさそうにしておりゅ」
耳をすますシルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)。
そのまま言葉にすると『グケケグェーッグェーッ!』みたいな声がしている。ジャングルをイメージしたレストランやテーマパークでよく聞く音だが、日本ではまあ聞かない声である。
「話には聞いておったが見事に密林じゃのぅ」
「そういや、原理とかどうなってんだぁ? こいつも意味があるかわかんないぜえ」
マッピングセットをしげしげと見つめる神西・煌希(戴天の煌・d16768)。
「ここから更に地形まで変化していくかもしれないしなあ」
ランダム生成されるダンジョンマップみたいなもので、地図をつけることによってかえって不都合や不利を生じることも考えられる。
「やっぱ感覚に頼るのがイチバンってな。DSKノーズがあるからそこは任せといて」
ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)は自分の鼻をちょんと指で叩くと、『更に今なら安心サポートもおつけして!』とか言いながら『隠された森の小路』を発動させた。
チームの先攻は彼女に任せて間違いないだろう。
それに加えて……。
「深部まで探索できれば一番いいのですが、退却が困難になることは避けたいですね。今回は浅いエリアを探索するのですか?」
ロイド・テスタメント(無に帰す元暗殺者・d09213)は昔の感覚を発揮させて周囲を警戒しはじめる。
「一方向にひたすら走れば森から出ることはできるでしょうし、退却は問題ないと思いますが……念のため、目印はしておきますね」
ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)は『アリアドネの糸』を出発地点から発動させた。この辺は本当に念のため、である。探索をするという目的上、来た道をそのまま戻るよりUターンする感じで別の道を通ったほうが良さそうだからだ。
「ところで私、楽しみにしてることが一つあるんだけど」
銘子は探険気分満載のフォームで、片眉を上げた。
「群馬密林って、アマゾン川的な川もあるのかしら」
●グンマクエスト
何かの遠吠えが聞こえる。
風がざわめきの音となり、木々の間を抜けていく。
先の見通せぬ薄暗い木陰で、灼滅者たちは風にまじった水音を聞いた。
木々を抜けると、急流の川をみつけた。
この川を渡ってもいいし、渡らなくてもいい。
「どうしましょう。ジャングルといえばクルーズという気も……」
「落ち着け。ここに船を浮かべようものなら即ジェットスライダーだぞ!」
わくわくしだした銘子を必死でとめる渡里。
「それもそうよね。そんな状態で敵に遭遇したら……」
激流に揺れる船の上でバトルってそれはそれで、みたいな目をしたのでシルフィーゼが両手をばたばた振った。
「一旦川をさけて別のルートを探索すりゅのじゃ。遭遇すりゅであろうダークネスは六六六人衆だそうじゃから、その時に戦力不足があってはならにゅ」
一気にまくし立てるように語ったが、ルートを『りゅーと』って発音したり六六六人衆を『ろっぴゃきゅろきゅじゅーろきゅしゅ』と発音するので聞き取るにワンテンポ要した。つっても普通に伝わるイントネーションである。
「ま、俺たちの役目は地形とかじゃなくて戦力把握の部分がでかいからなあ。あせらずゆっくりいこうぜえ」
首をこきりとならす煌希。
「こんな話をしてる途中にも、俺たちを察知した六六六人衆が近づいてきてるかもしれないしなあ」
「おっ」
ピキーンと目を光らせて顎を上げるハノン。
彼女に続いてロイドと軛も気配に気づき、それぞれ戦闘態勢に入った。
ロイドは身にしみこんだ動きが現われ、冷たく鋼糸を抜く。
軛は人間形態になって影業を限界。しゅるしゅると影を編み上げると日本刀の形へと整えていく。
同じく周辺警戒をしていた仙とサフィアも低くうなりはじめ、煌希のビハインドことニュイも姿を現わして小太刀を構えた。
もはやこの段階になってくると警戒の有無にも関わらない。
樹木を枝から枝へと飛び渡りながら近づく人間大の物体。ギギーと怪物のような奇声をあげることから、不意打ちや待ち伏せの考えが全くない正面勝負であることが分かる。
どこからともなく美しい弓を取り出すソラリス。
「来ます。皆さん、改めて戦闘準備を」
迷彩服やらブーツやらの探検隊コスチュームから一変。八人の灼滅者たちはキリングツールと防具に包まれた姿となった。
「ギギイ!」
木々をへし折って着地する六六六人衆。
トカゲやワニに近いハ虫類めいたヘルメットと竜の鱗めいたボディアーマーに身を包んだダークネスである。
「ギギ、ギギギ……コロス! コロス!」
●ザ・ワイルド
樹幹を足場にしてジグザグに飛び回る六六六人衆。
常人では目で追うことも難しい複雑機動を見せる相手に対し、ロイドはただ直立していた。
「六六六人衆を全て無へ、その生を罰と知れ!」
解き放ったダイダロスベルトが着地点になる樹幹に突き刺さり、素早く回避した六六六人衆へ追撃のレーヴァテインが放たれる。ベルトそのものが直角にカーブし、高熱を持って六六六人衆へと襲いかかるったのだ。
猛攻にバランスを崩す六六六人衆。
今度はベルトを第二の足場としてロイドへ急接近をかけるが、当のロイドは足音すら聞こえないほどなめらかなバックスウェーで大きく後退。
入れ替わりに煌希が輝く指ぬきグローブでパンチを叩き込んだ。
六六六人衆のフライングキックと煌希のダッシュパンチがぶつかり合いエネルギースパークを生んだ。
「ギギッ……!」
ぶつかった衝撃を利用して自分も飛び退こうとした六六六人衆めがけ、煌希のグローブと接続された腕輪部分から霊力糸が放射。蜘蛛の糸よろしく足にはりついた霊力糸が六六六人衆の動きをコンマ二秒だけ鈍らせた。だがコンマひとつが命取りとなる。
「逃がさないぜえ――ニュイ!」
小太刀を逆手に握ったビハインド、ニュイ・ブランシュが弾丸の如く飛んだ。
心臓部めがけての刺突。六六六人衆は身をひねって肩で受けたが衝撃によってはじき飛ばされた。
「この六六六人衆は蹴り技主体みたいね。杣、回り込むわよ」
銘子は交通標識にぐるぐると蛍光テープを巻き付けていく。
煌希たちの回復と戦況分析を平行しつつ、うまく六六六人衆を取り囲むつもりだ。
その気配を察したのか、六六六人衆は逆方向へと走り出した。
むろんただのダッシュではない。非常識なバケモノが見せる恐るべき走りである。
とはいえこちらもバケモノのたぐい。その後ろを銘子はぴったりと追走し、仙とサフィアが彼女の脇を併走し始めた。鏃型陣形である。
対する六六六人衆はスピンジャンプの要領で何かを大量に投擲してきた。
無数の小枝である。それも六六六人衆の殺意によってナイフよりも鋭く研がれた枝だ。
「迎撃よ、みんな!」
銘子はイエローテープを巻き付けた交通標識を豪快にスイング。巻き付いていたテープが生き物のように展開し巨大なシールドと化した。シールドはすぐに突き破られるが二重三重に張り巡らされた仙とサフィアの霊力盾が枝の進行を食い止めた。
「一対一で叶わぬ敵も複数でかかれば対抗できる。今のオレたちなら、な」
損傷によって崩壊した盾の裏から姿を現わしたのは、銘子でも仙でもサフィアでもなく、両手を手術前の医者のごとく掲げた渡里だった。
両の手を小指から順に流れるように閉じていく。
すると指先に接続された無数のワイヤーが六六六人衆の足や腕に絡みつき、さらにはボディアーマーの装甲へ徐々に食い込んでいった。
「このまま切り裂く。恨むなよ」
両手を全て握り込んだ時には、六六六人衆の四肢は切断されあちこちへと飛ばされていった。
「ギギィ!」
悲鳴のような断末魔のような、獣めいた奇声をあげて崩れ落ちる六六六人衆。当然である。足がないのに立っていられる人間などいない。
「お、やったか?」
ハノンは半分わかったような口調で言うと、手の甲にメダルを貼り付けた。
直後、六六六人衆の胴体が蛇のようにうねり超高速でハノンへと飛びかかってきたではないか。
「ほらやってないやつー!」
それこそ分かっていたとばかりにシールドバッシュで迎え撃つハノン。
「グンマー不法占拠しちゃう悪い子たちはお仕置きしなきゃだねぇ。覚悟しろよゴリラ! ゴリラ? ちがうか!」
「ギギギギギ!」
奇声をあげる六六六人衆。その声に応えるかのように、彼の手足が再びはえのび、ハノンの首へと締めかかる。
「知ってたけど放せ! 放せこのやろ!」
顔面を連続で殴りつけるハノン。
ヘルメットの装甲がべきべきとひび割れ、徐々に壊れていく。
「ハノンさん、そのまま動かないでっ!」
背後でソラリスの声。アンド、弓をまっすぐに射った音。
後頭部直撃コースが音で分かったが、動くなと言われて動く彼女ではない。
矢はハノンの頭の直前で二つに分離。左右に迂回して六六六人衆の顔面へと突き刺さった。それも両目への直撃である。
よく見たら通常の矢ではなく影業の矢であったようだ。
「うおお、え、エグ……」
「次は迂回しませんよ。伏せてください!」
矢の衝撃でハノンの首から敵の手が離れてくれた。これ幸いとその場に身を伏せるハノン。かくして視線の交わるソラリスと六六六人衆。
通常とは異なり弓を水平に構えたソラリスは、同じく水平に何十本も並んだ大量の影業矢を一気に解き放った。
全てクリーンヒット……と思いきや、いつの間にか放たれていた無数の小枝がソラリスへと突き刺さっていた。
相打ちどころではない。通常火力の圧倒的差がソラリスの意識を物理的に吹きとばさんとした。が、それを後ろから引っ張り倒して強制交代するシルフィーゼ。
同じく軛。
「焦るな。手負いの獣は狩人を喰らうぞ」
軛は六六六人衆へと突撃を開始。
手加減一切なしのエネルギー完全放出である。
真っ白なエネルギーが彼女を包み、まるで巨大な白い狼が食らいつくかのように六六六人衆へと斬りかかった。
ただの斬撃とは思えない衝撃に、ヘルメットやボディアーマーがはじけ飛んでいく。
下から現われたのは、人とは思えぬ顔だった。鼻も唇もなくただのっぺらとした物体があるのみだ。
「ギギ、ギギ、ギ!」
唯一存在するギザギザの歯を露出し、軛へと食らいつこうとする。
軛はその場から跳躍――というより後ろからひっつかんで投げたシルフィーゼによってまたも強制交代。
「おぬしの相手は儂じゃ!」
かする牙。
続けて繰り出される手。しかし手はほぼ金属の義手であった。ナイフとなった五指が直接シルフィーゼの首を狙う。
回避――できるような速度ではない。無理矢理刀をねじ込んで切断をまぬがれるが、パワーとスピードによってはじき飛ばされる。
相手は一騎当千のダークネス。その中でも特に恐ろしい個体殲滅性能をもった六六六人衆である。
だがこちらとて人外魔境で百戦錬磨。シルフィーゼは空中でぶわりとドレスをひるがえすと、両足でもって樹幹に強制着地。
腕を振り切ってごくごく僅かに隙のある六六六人衆の首めがけ、自らをエアパンジャンドラム化した。具体的にはエアシューズからジェット噴射した推進力で高速回転し、飛行する巨大なカッターと化したのである。
両腕でガードする六六六人衆だが、そんな強引な大切断になすすべ無く崩壊。サイキックエナジーとなってあたりに飛び散った。
あとシルフィーゼはうきゃあと言って進路上の木に激突した。
六六六人衆との死闘を終え、八人の灼滅者たちはそれぞれ群馬密林から撤退、離脱した。
彼らの持ち帰った経験や内包戦力へ与えたダメージは、きっとこの先の戦いに確かな楔をうつだろう。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年11月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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