グンマ密林潜入オーダー

    作者:六堂ぱるな

    ●変性せる群馬
     グラン・ギニョール戦争からこちら、群馬県の山中の一部が密林化している。のみならず密林化した地域の気温や湿度が上昇、アガルタの口に近い環境となっているという。
    「内部には多数の六六六人衆がいると予測される。よって密林の調査及び、六六六人衆の灼滅を依頼したい。つまり威力偵察だ」
     群馬県の地図を示して埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)が振り返った。
     既に数度灼滅者が赴いているが、充分な情報は得られていない。
     予知情報がないため、密林内部のどこに敵がいるのか、どのような能力があるかは不明だ。探索は慎重に行う必要がある。敵に勘付かれれば不意討ちを食うかもしれない。
    「逆を言えばうまく動き回ることで六六六人衆に先制攻撃できる可能性もある。単独の相手に限られるが」
     仮に密林の中で複数の六六六人衆と同時に戦闘になった場合は、戦力上撤退せざるを得ない。従って密林の奥深くにまで踏み込むのは避けなくてはならない。
     あくまでも作戦目標は内部の調査と、外縁部に陣取る六六六人衆を撃破し戦力を低下させることにある。戦力が下がれば後々の威力偵察の成功確率が上がるだろう。
     密林の奥深くに踏み込み壊滅する、というのが、一番起きてはならない結末なのだ。
     注意点はもう一つ、魔境と化した密林内では携帯電話などが通じない。誰かが別行動でも取ろうものなら再び合流するのは困難だ。
    「戦力を分散させた状態で六六六人衆に出くわしたら壊滅は必至だ。くれぐれも団体で探索を行うようにして、全員無事戻って貰いたい」
     説明を終えた玄乃はファイルを閉じると、深く一礼して教室を後にした。


    参加者
    月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)
    刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)
    穂照・海(暗黒幻想文学大全・d03981)
    焔月・勇真(フレイムエッジ・d04172)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    深束・葵(ミスメイデン・d11424)

    ■リプレイ

    ●密林クルージング
     見渡す限りの密林。気温も湿度も高く、そこらじゅう虫が群れ飛んでいる。ここが日本だとは到底思えない――グンマは魔境と化していた。
    「秋も深まってるっていうのに、ここは夏真っ盛りっすねぇ」
     何故か落ちている大きな岩を担ぎあげて、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が嘆息する。獣道らしきものを辿っているが、目立つ往来跡は見出せない。
    「世間は寒くなってきたってのに、ここは相変わらずだな。つか下手すりゃ前より密林化進んでるか?」
     二度目のグンマ入りをしている焔月・勇真(フレイムエッジ・d04172)が、前に来た時の状態を思い起こした。中心部へ向かっている関係上、以前とルート取りも違っているのだけれど。
    (「俺の認識が群馬の山=原始で固まっちまう前に解決しないとな」)
     過去にはこの群馬で竜種にも遭遇した勇真からすれば、そんなふうにも思う。
    「外の冷え込みが嘘のようだな」
     方位磁石と地図を見比べて刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)も首を振る。彼の傍らでモスグリーンの犬用合羽を着こんだサフィアが暑そうな息をついた。グンマは三度目だが、相変わらず密林も目的も見通しがきかない。
     スーパーGPSを使って現在地を書き込む深束・葵(ミスメイデン・d11424)も、つい半笑いを浮かべている。
    「密林ってマンガのネタぐらいでしか思いつかないけど……これで『裸族の原住民』とか『奇怪な鳴き声の鳥』とかいたら流石にベタでしょ」
    「神秘の密林探索、とか胸が躍るっすね。アガルタの口っぽいのは、臨海学校を佐渡島でやった時に西瓜みたいな何かを割ったりして経験済みっす。あの時と何が違うかも調べやしょう」
     ギィがデジタルビデオカメラを回しているのは、そうした相違点を調べるためらしい。
    「今時、フロンティアでもないからアホな探検隊はウチらぐらいでいいしね」
     葵が溜息をつく間も、穂照・海(暗黒幻想文学大全・d03981)が周辺警戒を怠りなく続けていた。既にこの場は敵地だ。殺気や視線はもちろん、罠が仕掛けられていないか、警戒すべき点は多い。
    「さて、この森の秘密、そろそろ欠片だけでも出てきて欲しいところだけど」
     渡里の呟きに応えるように、月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)が仲間を振り返った。
    「先行偵察が戻ってくるぞ」
     言葉が終わらぬうちに彼女の霊犬リキが葉影から顔を出し、別方向から丈の高い草を押し分けてサバトラの猫が姿を現した。仲間のもとまで来るとサバトラ猫の変身を解き、柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)が息をつく。
    「ったく、なにも本物の密林にしなくたって良いだろうに。敵さんもよくこんな蒸し暑いトコに篭っていられるぜ」
     敵との遭遇確率を下げるため、相棒たるライドキャリバー・ガゼルは封印したままだ。今のところ敵影や目立つ痕跡、洞窟などは見つからない。
     次に進むべき方向を検討していると、索敵に出ていた狼が音を立てずに戻ってきた。変身していたヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)が人の姿へ戻ると、小さく囁く。
    「敵がいたぞ。なんというか……シャーマンみたいな女だ」
     グンマ入りは四度目を数える彼にとっても、今までで最も奥へ向かって踏み込んでいた。敵はこの先、いくらか開けた場所に留まっているという。

    ●密林の裸族
     報告から渡里が敵の大体の位置を把握して地図に示した。
    「進む方向は……このままだ」
    「思ったより早かったね。気を付けて行こうか」
     葵が眉をひそめたのも無理はない。今までより奥ではあるが、深度としてはあまり捗々しいものではなかった。それだけ密林内に六六六人衆がいるということだろう。
    「もちろん、油断はしやせんよ。ここグンマでなにが起きてるか突き止めて情報を持ち帰らないと行けないっすからね」
     ギィの言葉に皆が頷く。情報を掴んでも帰れなければ意味はない。
     一行は奇襲や罠に注意を払い、ハンドサインで意思を交わしながら慎重に進んだ。

      密林とくれば裸族。断言しては何だが、実際そこにいた。
     豊かな胸と完璧な桃尻は申し訳程度の革で覆われて――いや、ぶっちゃけ覆えていない。どことは言わないがぎりぎり隠れているだけだ。細くくびれた腰も肉感的な腿も剥き出しで、鳥の尾羽で飾られた仮面をして、腰には無骨な斧が下げられていた。
     木が少ない開けた持ち場を守るように、槍を手に棒立ちで暇そうにしている。上位ランカーかどうかは不明だが、相当な実力がありそうだ。
     ここは不意討ちから一気に畳みかけるに限る。
     始まりを告げたのは封を解かれた高明の相棒、ガゼルの機銃掃射。破裂音と共に弾を浴びた女が反応するより早く、高明のStiefbruderが足を断たんばかりに深く抉る。
    「っく! 灼滅者だね?!」
    「ご名答だ!」
     仮面を叩き割りながら高明が応じた。仮面の下から現れたのは野生的な美貌。猫のような瞳は怒りに燃え、紅をひいたように鮮やかに色づいた唇は苦しげに息をつく。
    「まさか、こういうタイプもいるとは……もう少し奥まで行ってみたかったんだがな」
     正面からサフィアの斬魔刀が、背後からは呟く渡里の鋼糸が閃いた。攻撃は完璧な同着で日に焼けた肌を引き裂く。
    「魂の熱さじゃ負けてないぜ!」
     愛機で迫った勇真の手でクルセイドソードが破邪の光を放った。我が身には刃を防ぐ加護を、敵には重い斬撃を。足元ではエイティエイトがエンジンを噴かす。
     飛び出したリキが魔を断つ刃で切りつけるのを追うように、朔耶の足元から影が滑り出て女に絡みついた。骨も軋む音をたてて絞め上げる。女の正面に飛び込んだヴォルフの腕が、鋭い鉤爪のある狼のものへ変わった。銀の爪が豊かな胸に食い込んで血を撒く。
    「悪いけどこっちも仕事でね」
     舌打ちする女に我是丸を突っ込ませ、葵は猿神棘衣を解き放った。心臓めがけて翻った白銀に煌めく帯が肉を裂く。
    「言葉は無用……」
     囁く海のまわりで、影が不吉な低い唸りをあげていた。不吉な夢のように絶えず形を変える影が弾かれたように伸びると、女を呑みこんで激しく震える。影を引き裂いてまろび出た女の危険を孕む美に魅入られ、ギィがふらふらと近づいた。
    「半人前が寄るんじゃないよ!」
     叫びは溢れ出るどす黒い殺気へ変わり、前衛たちを呑みこんで渦をまく。

    ●血染めの死闘
     避け損ねた海の前にガゼルが滑り込み、ギィはヴォルフが身を捻じ込むように庇った。殺気は灼滅者の身を深く蝕み、我是丸やガゼルの装甲も痛めつける。
     頭を振り、ギィは改めて距離をとると軽く笑った。
    「やってくれたっすね。ここからが本番っす――『殲具解放』」
     現れたのは身の丈ほどの巨大な無敵斬艦刀、剥守割砕。圧倒的な重量を振りあげると、柄と刃の間に嵌まった宝玉が陽光を受けて煌めいた。裂帛の気合で繰り出される斬撃が女を裂く。が、女はすぐさま体勢を立て直した。
    「このウェイペ、灼滅者如きを相手に退くわけにはいかないんだよ!」
    「舐められたもんだな!」
     懐に踏み込んだ高明の無骨な黒い銃砲が女の腹にめりこんだ。連続で叩きつけて宙に打ち上げ、地面に叩き落としたところへガゼルが突進する。
     ブウウンと音を立てて揺らいだ海の影が、津波の悪夢のように押し寄せて女の四肢に絡みつき絞めつけた。朔耶の放った魔力弾が眉間に直撃し、舌打ちした女はヴォルフの魔力弾を紙一重で避ける。
     葵が穏やかな口調で物語を説き始めた。物語は人の心を癒すように傷を癒していき、リキも蒼く輝く眼でヴォルフを蝕む殺気を解いた。灼滅者へ襲いかかろうとする女――ウェイペの足は、我是丸の掃射が牽制する。
     サフィアの六文銭でウェイペをふらつかせた渡里が、彼女に絡めた鋼の糸を仲間から遠ざけるように思いきり引いた。血飛沫をあげながらも、ウェイペの笑みは崩れない。
     エイティエイトに乗って突進しながら、勇真は観察していた。
     彼女が纏っているのはなめした革と紐と鳥の羽根や植物の大きな葉ぐらいだ。呪術的な意味がありそうな輝石のイヤリング、ビーズを幾重にも繋いだブレスレット。キャスターだろうか、見た目より肉体的にも魔力的にも強化されているように見える。
    「お前たちはここで何をしてるんだ!」
     エイティエイトの機銃に脚を穿たれ、勇真の影に絡め取られて女が怒りの声をあげた。
    「半端もんが首を突っ込むんじゃないよ!」
     紅い唇がまじないじみた言葉を紡ぐと、彼女の影が泡だつように揺らいで中衛たちに襲いかかる。それはまるで悪霊にまとわりつかれたようだった。

     ウェイペは徐々に足を殺され動きが鈍っていくが、当たれば大きい攻撃力は保っていた。今度こそ掲げた指輪から魔力弾を撃ち込んだヴォルフだが、庇い手である彼の傷は見るまに嵩む。ギィが喚び出したオーラの逆十字に精神を裂かれて、よろけながらもウェイペが死角から反撃の刺突を揮う。
    「お返しだよ!」
     咄嗟に庇ったガゼルの装甲を、ウェイペの槍は高い音をたててやすやすと貫いた。勢い余って半回転したガゼルが横倒しになって消えて行く。
    「ちっ!」
     高明が証明の楔の銃口を展開した。業を凍りつかせる光の砲弾の直撃で吹っ飛んだ女を見送り、朔耶はナイフを手に意識を集中した。癒しの力が夜霧となって中衛の仲間を包み、同時に気配を気取られにくくしていく。リキも蒼く眼を輝かせてギィのダメージをいくらか癒した。
    「サフィア、月翅を回復しろ」
     言い置くなり飛び出した渡里が、死角からウェイペの脚に深々と切りつけた。彼女の脚を着実に潰さなければ仲間の傷は増える一方だ。
     サフィアが癒しの力を放って朔耶の傷を塞ぐ。葵からはヴォルフの身を守るためのシールドリングが飛んだ。我是丸が轟くような音をたててエンジンを噴かす。
     ウェイペという六六六人衆はどこか、灼滅者じみて海には見えた。
     幾つも武器を持ち戦い方を変える様のせいか、力が全ての種族らしからぬキャスターという戦術のせいか。あるいはドーター・マリアも灼滅者に近しい存在なのだろうか。  だがどうあれ、敵には違いなく。海の小刻みに震える影が広がってウェイペを呑みこむ。
    「譲歩しない以上どちらかが消えるまで殺し合うしかない!」
     しかし力まかせに影を引き裂いて転がり出たウェイペが咆哮した。
    「ここを通さないのがアタシの役目なんだ。雁首並べてくたばりな!」
     腰にさげていた斧を取ると半回転しながら投擲する。しなやかな肢体からは想像もつかない破壊力を秘めた斧が飛んで前衛を襲った。
     躱し損ねたギィが胸を裂かれ燃える血を撒いて呻き、ヴォルフも胸骨を叩き折られてたたらを踏む。紙一重で海を守りきった我是丸が吹き飛び、草を巻きあげて転がっていくと搔き消えた。

     熾烈な戦いの天秤はやがて、傾く。

     朔耶の影が鋭い刃となって風を切った。鋭利な先に脇腹を抉られたウェイペがよろけて歯噛みする。傷つきながらも四肢を踏ん張ったリキが六文銭を飛ばして追い撃ちをかけ、サフィアが魔を斬る刀でウェイペの腿に切りつける。
     よろけた女に、死角から風に乗って飛来した鋼糸が更に深い傷を刻んだ。血にまみれながらもヴォルフがガンナイフで接近戦を挑む。咽喉に、目に、首に切りつけられたウェイペは、回避もままならない様子で苦鳴をもらした。
    「そろそろ年貢の納め時だよ」
     もはやろくに攻撃が命中しないと悟った葵は黄金色に輝く回転砲、猿神鑼息を構えた。轟く雷鳴のような音をたてて弾丸を食らわせる。積み重なった麻痺や催眠に身を蝕まれ、ないに等しい防具もずたずたにされたウェイペは、それでも灼滅者の前に立っていた。
    「悲しいなあ、ああ、悲しい……」
     海の嘆きは心の底からのものだ。殺し合わなくてはならない現実と争いを嫌う理想とのギャップは、心に重い澱となって積み重なっている。
     それでも彼女は人を殺す種族であり、仲間を傷つけて笑う女であり。
     炎を這わせた小刻みに揺れる影が蠢き、ウェイペの腹を深く薙いだ。
    「ぐあっ……!」
     身悶える彼女を追って高明の斬撃が死角から襲う。身体を貫通しかねない一撃に血を吐いたウェイペは、勇真に背を斬りつけられてのけぞった。炎をまとったクルセイドソードが致命的なダメージを叩きこむ。
    「ああクソ、うざったいね、お前!」
     斧が渡里を断ち割ろうと空を切ったが、刃は外れた。勢い余って倒れこむ。
    「アタシは、殺して、殺し、て……そのために!」
     叫びを彩る怨念のどす黒さ。
     ウェイペを見下ろし、ギィは剥守割砕を漆黒の炎で包んだ。
    「所詮は血に飢えた六六六人衆っすね。申し訳ないっすけど恋人にする気は無いんで」
     熱を孕んだ渾身の斬撃を振り下ろす。
     ――もはや抗う力もなく、鈍い音をたててウェイペの首は落ちた。

    ●緑海をあとに
     ウェイペの残骸が消えてゆくのをよそに、一行は怪我人の手当てを急いだ。特にヴォルフと朔耶の怪我が重く、蓄積ダメージが酷い。高明としては心霊手術を施したかったが、いつどこを六六六人衆がうろついているかわからない状況ではリスクが高く、これ以上の探索は諦めざるを得なくなった。
    「まあ、未知への足がかりが一つ増えたと思っとくのがいいかもね」
     葵が到達位置を地図に書き込むのを眺めて、ギィがヴォルフに肩を貸す。
    「残念っすね。でもやっぱり、ここはまだまだ奥が深そうっす」
    「もっと先へ進みたかったんだがな……」
     ヴォルフは無念げであったが、試行としては悪くなかったはずだ。深部への潜入を試みルートを記録し、敵戦力を減らしたのなら威力偵察としては上々といえる。
     密林に入る時からアリアドネの糸を維持してきた勇真が、ふうと安堵の息をついて仲間を振り返った。
    「うん、大丈夫。帰り路をちゃんと辿れそうだ」
    「何よりだ。情報を持って帰れなくては意味がないからね」
     辺りの様子を窺いながら海が応じる。リキに再び先行偵察を頼んだ朔耶が、葵の手を借りて歩きながら気を張った。
    「帰りも気を抜かずに行こう。来る時にはなかった罠も考えられる」
    「よし。俺が勇真と先頭に立って行くぜ」
    「殿はオレが引き受ける」
     黒い銃砲を携えて立ち上がる高明に頷いて、渡里が仲間の最後尾に回る。

     未だ魔境グンマの謎は明かされなかった。
     だが暴く為の一歩は確かに刻まれた。
     互いにカバーをしあいながら、灼滅者たちは無事に魔境から撤退していった。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年11月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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