至高のたれと壬生狼組

    作者:三ノ木咲紀

     日曜日のフードコートは、たくさんの人で賑わっていた。
     お昼時に友達と買い物に来ていた男子高校生は、ハンバーガーをかじりながらふと隣の友人に話しかけた。
    「なあ、餃子に何つけて食べる?」
    「なんだよ、突然」
     ポテトをつまんでいた友人の面食らった顔に、目の前を通るラーメン餃子セットのトレイを指差した。
    「いやなんとなく。俺は醤油と酢を1:1にラー油たっぷりだな」
    「実は酢だけで食べるってのも……」
    「あ、まーーーーーーーーーーーーーい!」
     どこからともなく現れた餃子頭の怪人は、驚いて目を見開く二人に黒い液体の入ったペットボトルを掲げた。
    「浜松餃子は日本一うまい食べ物! それを引き立てるたれが、そんなやる気のないことでどうする! 俺は悲しい!」
     よよよ、と泣きまねをした浜松餃子怪人は、どこからともなく取り出した小皿にたれを取ると、空中から飛び出した焼き立ての餃子につけた。
    「これぞ、至高のたれの完成形! このたれは餃子のうまみを何十倍、何千倍にも引き立てる!」
     至高のたれをつけた餃子を口につっこまれた二人は、その美味しさに食べていたハンバーガーを放り出した。
    「う、めーー! なんだこれ」
    「ココナッツ風味か?」
    「そう! これぞわが友が生み出し、俺が量産に成功した至高のたれ! このたれで、お前たちを浜松餃子の虜にしてやる! さあ! 食え! たれも餃子もいくらでもあるぞー!」
     一声叫んだ浜松餃子怪人は、周囲の人々の口にたれ付きの餃子を突っ込んでいく。
    「これぞ世界征服の第一歩! 至高のたれにより世界一うまい餃子となった浜松餃子で、世界中の人間どもを餃子の虜にしてくれるわ!」
     高らかに笑いながら始まる餃子の饗宴を、二人のスサノオ壬生狼が見守っていた。
    「……なあ、兄者。あれで本当に世界征服とやらが成るのか?」
     訝しげに首を傾げる弟分に、兄者は首を横に振った。
    「さあな。ただ言えるのは、今から五分以内に灼滅者どもが現れなかった場合……」
     兄者は日本刀に手をかけると、餃子の饗宴を遠巻きに見る一般人へ刃を向けた。
    「あの連中が血の海に沈む。それだけだ」
     兄者の鋭い眼光の先では、大餃子パーティがにぎやかに開かれていた。


    「スサノオ壬生狼が動き出したみたいや」
     集まった灼滅者達を見渡しながら、くるみは地図を広げた。
    「といっても、事件を起こしとるんはご当地怪人や。スサノオ壬生狼組は遠巻きにこの騒ぎを見守っとって、灼滅者が介入したらご当地怪人を逃がして灼滅者達と戦おうとしとるんや」
     灼滅者の作戦の邪魔をするだけでなく、ご当地怪人勢力との友好を深めようという作戦なのだろう。
     ご当地怪人の活動を見逃せば一般人に被害が出て、それを阻止しようとすれば、ご当地怪人とスサノオが友好を結んでしまう。
    「この嫌がらせみたいな作戦を考えたのは、世界救済タワー決戦で逃走したマンチェスター・ハンマーやろうなぁ。性格悪いで、ホンマ」
     スサノオ壬生狼組は灼滅者が現れない場合や、壬生狼組を無視して浜松餃子怪人を攻撃した場合、無差別に一般人を殺していく。
     これを放置することもできない。
     浜松餃子怪人のポジションはクラッシャー。ご当地ヒーローに似たサイキックを使う。
     スサノオ壬生狼組は二体。兄者と弟分と呼ばれている。
     兄者のポジションはクラッシャー。
     日本刀に似たサイキックを使う。
     弟分のポジションはディフェンダー。
     人狼に似たサイキックを使う。
     スサノオ壬生狼組を襲撃した後、浜松餃子怪人と戦うことも可能だ。
     だが、浜松餃子怪人は戦闘が始まれば撤退してしまうため、浜松餃子怪人が戦いを決意するようなひどい挑発をする必要がある。
    「マンチェスター・ハンマーも、あかん意味でええ性格しとるで。ほんまに。嫌がらせには真っ向から立ち向かって、逆に嫌がらせしたる! くらいの意気込みで行こうな、皆!」
     くるみはにかっと笑うと、親指を立てた。


    参加者
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)
    吉沢・昴(覚悟の剣客・d09361)
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)
    坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)
    榎・未知(浅紅色の詩・d37844)

    ■リプレイ

     上機嫌で浜松餃子を振舞う浜松餃子怪人に、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は笑顔で近づいた。
    「浜松餃子怪人さん、あたしも餃子大好きなんです! 美味しい餃子、もしよかったらご馳走してくださいです……っ」
     目を輝かせる陽桜を振り返った怪人は、現れた灼滅者達に素早く距離を取った。
    「出たな灼滅者! 布教の邪魔をするなら、ただじゃおかないぞ!」
    「邪魔なんてしない!」
     餃子怪人が驚くほどの声を張った宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)は、真剣な声で訴えた。
    「餃子を囲むひと時に種族なんて関係ない! そうでしょ?」
    「美味いもの作ってそれを誇りにする奴に、悪人は居ないと思うんだよな、俺は」
     陽坐と共に一歩前へ出た吉沢・昴(覚悟の剣客・d09361)は、なおも警戒する餃子怪人に手を差し伸べた。
    「主義主張の違いで争いになる事はあっても、常に争う必要は無い筈だ」
    「騙されるな、浜松餃子怪人!」
     鋭い声と共に、鋭い気合が放たれた。
     扇状に広がる月光衝が、突風となってフードコートを駆け抜ける。
     鋭い突風が一般人に襲い掛かった時、猫変身を解きメールを送ろうとしていた睦月・恵理(北の魔女・d00531)が動いた。
    「危ない!」
     男子高校生との間に割って入った恵理は、痛みを堪えて微笑んだ。
    「ここは危険です。下がっていてください」
    「あ、ああ……」
     逃げる生徒を見送った浜松餃子怪人は、突然現れたスサノオ壬生狼組に目を白黒させた。
    「スサノオ壬生狼組か!」
    「こいつらは餃子を強奪した後、お前を灼滅するつもりだ!」
    「そんなことはしません」
     守った生徒を見送り静かに首を振った恵理は、立ち上がると浜松餃子怪人を見据えた。
    「お前は確か……」
    「浜松餃子怪人さん。あなたは今日、暴力でなくその味だけで戦いに来た。ならば私も、あなたには暴力で戦ったりしません。これは信じて欲しいんです」
     真剣な恵理の声を打ち消すように、弟分が叫んだ。
    「信じるな! 連中は俺達を裏切ったんだぞ!」
    「援軍など要らないから、ブレイズゲートは食わせない。その判断のどこが裏切りになると?」
     ため息をついた天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)は、餃子怪人をチラリと見ると続けた。
    「人あってこそのご当地。一般人に手を出すのは、寧ろ怪人の邪魔をするのと同じだ」
    「いくら私たちが灼滅者と言えど、この和やかな餃子パーティーを台無しにしてまで襲いかかってくるなんて、酷い話ですね!」
     餃子パーティーを台無しにしてまで、を敢えて強調した坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)の声に、怪人はハッと気づいたように周囲を見渡した。
     大いに盛り上がっていた一般人は皆距離を取っている。
     床に落ちた浜松餃子を見下ろした怪人は、手を握り締めた。
    「俺は……」
    「口車に乗るな! 連中にどれだけの仲間が灼滅されたと思っている!」
     スサノオ壬生狼組の呼び声にキッと顔を上げた浜松餃子怪人は、餃子を出現させると一般人へと駆け出した。
    「俺は、浜松餃子怪人だ! 例え灼滅されようとも、一人でも多く浜松餃子と至高のたれを布教できたなら、本望だ!」
    「この、餃子馬鹿が!」
     心底腹を立てた様子の弟分は、巨大な白狼の爪をニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)に振り上げた。
     腕で防御したニコは、弟分を跳ねのけながらよく通る声で宣言した。
    「折角皆で楽しく餃子パーティーをしている所に邪魔者とは無粋な輩よ、此れは皆で退治してやらねばいけないらしいな」
    「ぬかせ!」
     始まる戦闘に即座に動いた榎・未知(浅紅色の詩・d37844)は、プラチナチケットを発動させながら両手を広げた。
    「今からここで映画の撮影を行うので、離れて下さい!」
     映画の撮影、に納得した様子の一般人を移動させる未知は、浜松餃子怪人へ視線を向けた。
    「スサノオがいたら楽しくパーティできないから、奴らは俺たちが倒す。……できればその後で、一緒に餃子パーティをしよう」
    「あの、出来ればこの後で私にも、その餃子を試させて頂きたいんですが……」
    「お前達、そんなに餃子を食いたいのか……!」
     口々に申し出る未知と恵理に、浜松餃子怪人は感動がばれないように後ろを振り返った。
     未知の声に顔を見合わせた一般人たちの鼻孔を、焼き立て餃子の香りがくすぐった。
    「さあ! 世界最高の餃子を食べるがいい!」
     次々と一般人に振舞われる浜松餃子を一皿受け取った陽桜は、とびきりの笑顔を浮かべた。
    「今日はここで、餃子をテーマにした映画撮影を行うのですよ。撮影始まる前においしい餃子をみんなで食べて、心もお腹もほっくほく! 皆さんもよかったら餃子いかがですか?」
    「ここに集う餃子好きの人々を守る事が、餃子に選ばれしこの俺の使命!」
     陽坐と視線が合った餃子怪人は、人の少なくなったフードコートの端へと歩き出した。
    「さあここで、見極めてやろうじゃないか! 灼滅者どもの戦いを!」
     餃子に惹かれるように、一般人たちも移動する。
     餃子怪人と一般人たちが見守る中、戦いは始まった。


    「お前たちを倒して、浜松餃子怪人の目を覚まさせてやる!」
     日本刀を閃かせた弟分は、ダメージを負ったニコへ鋭い斬撃を浴びせた。
     袈裟懸けに裂かれたローブに眉をひそめたニコは、妖の槍を弟分へと鋭く叩き込んだ。
     カウンターの要領で叩き込まれた打撃に距離を取った弟分は、毅然と立つニコに口元を歪めた。
    「ほう、脆弱な魔法使いにしてはいい打撃だな」
    「魔法使い風情と侮ることなかれ」
    「侮ってなどいないさ。まずお前から倒させてもらおう!」
     言うが早いか。床を蹴って駆け出した兄者は、ニコに向けて一気に踏み出した。
     日本刀がニコに届く寸前、あまおとが動いた。
     ニコとの間に割って入ったあまおとは、大きな傷を負いながらも主の傍へと一足で戻った。
     あまおとの頭を撫でた陽桜は、ニコへ向けて縁珠を放った。
     真っすぐ伸びる白いベルトは深い傷を癒し、盾の防護を与えていく。
    「ミサさん!」
    「任せてください!」
     陽桜の声に恵理へ手を掲げたミサは、鋭い光条を放った。
     裁きの光で傷を癒した恵理は、妖の槍を握り締めると弟分に切っ先を向けた。
     槍の穂先から放たれる多数の氷弾が、弟分に向けて放たれる。
    「お望み通り登場です。立派な刀で餃子パーティーの邪魔なんてするより、全力の私達と堂々戦いましょう。揃いの隊士服も泣きますよ?」
    「ぬかせ! 俺達の敵となった灼滅者どもは許さん!」
    「そういや天海の所にいた時も、粛清ついでに一般人を殺そうとしてたよな」
     敢えて大きな声で指摘する黒斗に鼻を鳴らした弟分は、好戦的な視線を黒斗へ投げた。
    「俺達の邪魔をする者は斬る。相手が誰でも同じことよ」
    「救えないな」
     小さく首を振った黒斗は、サイキックソードを抜き放つと弟分へと斬りかかった。
     死角から浴びせられた斬撃は、一撃だけではなかった。
     黒斗の剣と同時に抜かれたのは、昴の日本刀だった。
     黒斗の攻撃により生まれた意識の死角を突き、間合いの外から一気に踏みこみ鋭く繰り出す日本刀で弟分の腹に一撃を穿つ。
     見事な連携を見せた昴は、振り抜いた日本刀を弟分へと向けた。
    「必要なら暗殺も厭わぬ壬生狼とはいえ、妙な事吹き込まれたな? 人質紛いは流石にらしくないだろ」
    「お前達に理解を乞うつもりなどない!」
    「そっか。会話を拒否されたんじゃ、しょうがないね。……大和!」
     ビハインドと共に踏みこんだ未知は、手にしたクロスグレイブを弟分に叩き込んだ。
     怯んだ弟分に、大和のナイフが突き刺さる。
     見事な連携を決めた未知と大和の連撃に、兄者は日本刀を鞘に納めた。
    「俺達の邪魔をするな灼滅者!」
    「餃子パーティーの邪魔をするな壬生狼組!」
     心底腹を立てた陽坐は、エアシューズを起動すると弟分の懐に炎の蹴りを叩き込んだ。
    「俺は酢7醤油3にラー油は砂多目のごま油派だっ! でも餃子には無限の可能性がある! 可能性を潰すお前達は許さない!」
    「何なんだお前たちは!」
     ずびし! と指を突きつける陽坐に呆れを含んだ怒号を放った兄者は、収めた日本刀を解き放った。


     兄者が放つ月光衝が、三日月状に前衛を襲う。
     大きく広く放たれた攻撃に一般人を振り返った恵理は、戦場外へ後退できた一般人達に安堵の息を吐いた。
     同時に放たれた白炎蜃気楼が、ゆらめく炎となって傷を癒し姿を眩ませる。
    「良かった。避難は終わったみたいですね」
    「はい。せっかくの餃子パーティ、怪我をしちゃったら台無しですから」
     遠巻きに見守る一般人達に笑みを浮かべた陽桜は、清めの風を前衛へと放った。
     吹き抜ける清浄な風が、前衛を癒して吹き抜けていく。
     癒しを割って、昴が動いた。
     ジャマーである自分が一撃を決めれば、戦いやすくなる。間合いを一足で潰し、鞘に置いた左の籠手を巨大化させる。
     弟分の懐に飛び込み、体当たりのような形で放たれた一撃が弟分の鳩尾に深く突き刺さる。
     振り抜き、大きく後退した弟分の背中にマテリアルロッドが深い打撃を与えた。
     得物を手にしたニコは、広がった袖を翻すと距離を取った。
    「正々堂々の良き勝負、有難く」
    「まずはお前からだ!」
     巨大化した弟分の爪が、ニコへと迫る。
     集中する攻撃に、さすがに膝をついたニコへ、ミサのラビリンスアーマーが放たれ傷を癒していく。
     白い帯が傷を癒す頭上で、陽坐の祭壇が展開された。
     二人の回復を見届け、小さく安堵の息を吐いた未知は、クロスグレイブを構えながらにやりと笑った。
    「ニコさんはタフな魔法使いだから大丈夫だな」
    「まあこのくらいは問題ない」
    「うまい餃子を食べるためだもんな」
     真剣な表情になり、弟分に照準を合わせた未知は、黙示録砲を放った。
     氷結した弟分に、ミサのビハインド・リョウの霊撃が迫る。
     身を翻し何とか避けた弟分に、黒斗のサイキックソードが閃いた。
     避ける方向を読んでいたかのように攻撃を叩き込んだ黒斗は、攻撃の構えを崩さない兄者に切っ先を向けた。
    「パーティーを楽しむ人々に手を出そうっていうなら、私達が相手になる」
    「真っ向からお前達と戦えるのならば、それに越したことはない!」
    「そうか。それを聞いて安心した」
     黒斗の声に日本刀を収めた兄者は、次の攻撃を灼滅者に放った。


     戦いは続いた。
     餃子パーティを守るという意思を見せる灼滅者達の猛攻に、スサノオ壬生狼組は徐々に追い込まれていく。
     二体が灼滅されるのに、さしたる時間はかからなかった。

     スサノオ壬生狼組が灼滅され、灼滅者達に一般人達から惜しみない拍手が贈られた。
     一歩前へ出た浜松餃子怪人は、陽桜の前に餃子とたれを差し出した。
    「これは……」
    「ご馳走しろ、って言っただろう? 俺達は今この場では同じ餃子を愛する者同士! さあ、存分に味わおうじゃないか、最高至高な浜松餃子を!」
    「はい!」
     すっかり餃子民となった一般人達も参加して、大餃子パーティが始まった。
    「至高のたれ……。心に刻まれる味です。浜松餃子に相応しいな……」
     感動に目を細める陽坐に、ミサもまた頬張った餃子の味に興奮したように手を握り締めた。
    「餃子は素晴らしい食べ物です。弾力ある皮の歯ごたえ、齧った時の熱さと肉汁の旨み。無論それらを包むタレがあってこそ餃子を美味しさは光るのです。しょっぱい味も酸っぱい味も甘味も許容できるのが餃子の懐の深さと言えるでしょう。中に入れる身を工夫すれば栄養も確保でき、味も変えられます。最高!」
    「なんて深い餃子愛なんだ!」
     ミサとがしっと握手を交わした陽坐は、口にした餃子に深く頷いた。
    「ここには餃子の無限の可能性が! 具の割合味付け皮の厚さ焼き加減その他条件ごとに相応しいたれは違っていて研究を……」
    「お前、餃子研究者か?」
     焼き立て餃子を振舞っていた浜松餃子怪人は、蘊蓄を語る陽坐を振り返った。
    「俺はええと……そう、餃子研究部部長です! 全国の餃子を研究してます。出身地は関係ないんですよ?」
    「ここで出身地を語るということはお前……宇都宮か!」
    「ぎく!」
     一瞬身を固くする陽坐に、浜松餃子怪人は親指を立てた。
    「お前の宇都宮餃子の魂、俺に見せてみろ!」
    「もちろん!」
     親指を立て返していそいそと厨房へ向かう陽坐を見送った昴は、皿の上の餃子を一口頬張った。
     口の中に広がる、キャベツの甘味と豚肉の旨味。それらを引き立てるのは、至高のたれ。
    「シンプルな餃子に独自ながら雑味無く完成度の高いタレ! これは幾らでも食えそうだ。一朝一夕のものでない職人技、賞賛に値するな」
    「この味を出すのに、浜松餃子怪人さん達は努力されてましたから」
     幾度か関わった浜松餃子怪人と至高のたれを思い出しながら、陽桜も餃子を頬張った。
     浜松餃子の甘味を帯びた野菜あんに絡む至高のたれが、餃子の旨味を極限まで引き出している。
    「すごく美味しいです。これはもっと食べたいですね」
     初めて食べる至高のたれの味わいに、陽桜は表情を緩めた。
    「此れは非常に美味だ」
     パリッとした餃子の皮に包まれた餃子あんが、ほんのり甘く舌の上を転がっていく。
     焼き立ての餃子を頬張るニコの隣で、未知もまた餃子を堪能していた。
    「美味しい! なあ餃子怪人。ここに参加できてないけど凄く餃子食べたがってる子がいるんだ! テイクアウトできないか?」
    「それはいいな。俺もお願いしたく」
    「私も!」
    「いいとも!」
     テイクアウトをする未知に、ニコと黒斗もまた手を挙げた。
     空になった皿山の上に新しい空の皿を重ねた黒斗は、口いっぱいに広がる餃子の味に口元を緩めた。
    「噛むと口に広がる肉汁に、まろやかささえ感じるタレ……最高! このタレ、どうやって作るんだ?」
    「それは秘密だ! 親友の努力の結晶だからな!」
     胸を張る浜松餃子怪人に、心から餃子を堪能していた恵理はそっと近づいた。
    「さっき、たれの量産に成功したと言ってましたよね……。いい事を聞けました。例え灼滅者とダークネスの関係であろうと、誰かが懸命に生きた証が受継がれるのを見ると嬉しいんですよ。信じてもらえますか?」
    「無論だ! お前は、迷宮へ向かおうとした俺を止めてくれた。そのおかげでたれの量産化に成功したんだ。奴は、このたれの中で生きている」
     たれが入ったペットボトルを握り締めた浜松餃子怪人の耳に、陽坐の声が響いた。
    「宇都宮餃子が焼きあがったよ!」
    「よし! 我が永遠のライバルの味、とくと味わせてもらうぞ!」
     餃子パーティの輪に戻る浜松餃子怪人の背中に、恵理は目を細めた。
     タカトの策略で命を落とした浜松餃子怪人の魂は今、確かに受け継がれている。
    (「だから一生懸命になれたんです。たれを完成させた彼の時も、屍王の迷宮に降ろうとした彼の時も」)
     思い出に目を細めた恵理は、餃子パーティの輪の中に歩み出した。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年11月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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