●武蔵坂学園、教室
「オレさ、群馬の山奥には洞窟があると思うんだよな」
焔月・勇真(フレイムエッジ・d04172)はそんな予想を立てて、仲間たちを見回した。
もちろん彼の言う『山奥』とは、『グラン・ギニョール戦争』後に密林化した群馬山中の一部の、最も奥地に当たる一帯のことだ。
「『アガルタの口』の戦場に似た、高温多湿の森の中。妨害してくる六六六人衆はまだ多くいるかもしれないけど、探してみる価値はあるんじゃないか?」
無論、本当に洞窟があるのかなんて、行ってみなければわからない。何しろ現地は、どんな敵がいるかすら判っていない場所なのだ。
「だから、探索は慎重に。不用意に歩き回って奇襲されたりしないよう……むしろ逆に油断してる敵がいれば奇襲してやるくらいのつもりでいかないといけない……だよな?」
そう確認する勇真に頷いて、五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は言葉を引き継いだ。
「はい、その通りです。幾度もの探索のお蔭で、かなり奥まで探索できるようになってきたとは思いますけれど、奥地まで行けば複数の六六六人衆と遭遇して、手も足も出なくなってしまう危険があることに違いはありません。外縁部の敵を撃破することに専念しておく方が安全なのは変わりないでしょう」
「……とはいえ、いい加減先に行かなくちゃいけないことも確かなんだよな」
腕を組む勇真。果たして、彼の洞窟探しに付きあって危険を冒そうという者は、どれだけ集まるのだろうか?
参加者 | |
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月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470) |
花藤・焔(戦神斬姫・d01510) |
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952) |
風真・和弥(仇討刀・d03497) |
焔月・勇真(フレイムエッジ・d04172) |
山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836) |
エメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136) |
ルイセ・オヴェリス(白銀のトルバドール・d35246) |
●地を穿つ穴
それは、ぽっかりと大地に穴を空けていた。
まるで地の底から昇ってくるような、べたつくような湿度の熱気。土をくり抜いたような内壁は、これが自然に生まれた洞窟ではなく、何者かの手で掘られた人工のトンネルであることを仄めかしている。
(「よしっ、本当にあった……!」)
焔月・勇真(フレイムエッジ・d04172)の全身が、予想が当たった高揚にわななかないわけがない。思わず大きくガッツポーズをしようとし……はっとして真面目な顔を作り直す。この先のものを確かめるまでは、喜ぶのはまだ早い。
けれども、そんな彼の挙動不審に気づいたエメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136)が、彼の袖をちょんちょんと引っぱると満面の笑みを作ってみせた。
喜ぶ時は喜べばいい。両手の指で自分の口元を押し上げてにっこりの形を作るエメラルに触発されて、勇真もようやく、改めて小さなガッツポーズを作る。
灼滅者たちはしばらく息を潜めて様子を窺うも、辺りには、しかし気配らしい気配は感じられなかった。
(「誰も見張りがいませんね……重要な場所ではないのでしょうか? 今回こそは、何か大きな成果が欲しいところなのですが」)
花藤・焔(戦神斬姫・d01510)の眉が怪訝そうに顰められる。
(「洞窟といえば、浚われたおっぱ……もとい女の子が閉じ込められていて、竜が見張りをしているのがRPG的お約束なんだがな」)
なにやら思案顔の風真・和弥(仇討刀・d03497)。だが、伸びた鼻の下の長さを見れば、彼が竜と女の子、果たしてどちらを期待しているのかは想像に難くない。
そんな彼のすぐ隣で、一匹の狼がヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)の姿をとった。
こうして姿を変えるだけで、余計な時間を費やすこととなる。それなりに敵を灼滅してきた密林までとは違い、この先に待ち構えているものを考えたなら、彼の最も愛する形態ともしばしお別れせざるを得まい。
「しかし……どう思う?」
彼は小声で周囲に訊いた。
「昔やってた探検モノのテレビ番組みたいだよね」
苦笑してルイセ・オヴェリス(白銀のトルバドール・d35246)が答えると、そうじゃない、と再びヴォルフ。
……わかってる。ここは、そんなお気軽なものじゃない。だからあるべきものがあるはずなのに……ルイセは、今度は灼滅者の顔になって言った。
「……監視カメラとかも見当たらないよね。ここが六六六人衆の拠点なら、絶対に何かがあるはずなんだけど……」
「人の手の加わった場所である以上、この先が異変に関係がある可能性は高いのだがな。重要ではないと偽装しているのか? あるいは、単に出口が多く手が回っていないだけか」
月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)の推理が正しいかどうかは、この先に行ってみるしかないのだろう。
「今回は……私も覚悟を決める」
今や、外縁部の敵を倒すのがエクスブレインの勧めだったことなど関係がない。山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)は危険な旅になるのを承知で、自らこの奥地調査隊へと志願したのだ。
透流の拳が力強く握られて……それから、迷いなき一歩が土を踏みしめた。
●地の底の出会い
延々と斜め下へと続く、人が数人通れるほどの道。ただ、懐中電灯の光だけが、代わり映えのしない曲がりくねった土肌を照らし続けている。
(「足音はなるべく消しているつもりではあるが」)
と、朔耶は思索する。
(「いくら光量を抑えても、暗い中では僅かな光でも目立つからな。そのせいで敵に存在を気づかれなければいいが」)
一方、和弥もまた何事かを考えていたようだった。
(「それにしても……妙だな。何故、ここの土の表面はこんなに柔らかいんだ? まるで、つい最近掘り返されたばかりのような……」)
その直後、ルイセが皆に触れる。心から心へと伝えるは、何か、奇妙な音が聞こえるようだという疑問。
(「誰かいる……まるで、何かの作業でもしているような」)
それから、光も。ヴォルフがジェスチャーで自分たちの灯りを徐々に落とすよう指示すると、最後の光が消えた後でも、トンネルの奥はほのかに明るみを帯びていた。
何か、邪悪な企みが行なわれていることは間違いないだろう。けれど何故、その邪悪を前にしていても、勇真の心はこうも躍るのだろう?
それは未知を前にした冒険心か? むせ返るほどの熱気のせいか? それとも、何もかも全てであるのだろうか?
退路はある。地上までは一本道で、追い抜かれて回り込まれる心配もない。
せっかくここまで来たのなら、敵が何をしているのか覗かねば意味がない!
(「いるのがもし強い六六六人衆さんだとしても、その足さえ止めてしまえば大丈夫なはずだから……!」)
意を決して飛び出した透流が見たものは……。
「ひ……ま、待つモグ! 拙者たちは敵ではないモグ! ドーター・マリア様を訪ねてきたのでモグ……って、六六六人衆じゃなくて灼滅者モグ!?」
「モグラの……ご当地怪人!?」
●モグラ怪人たちの秘密
ここには六六六人衆がいるはずではなかったのか? 疑問を胸に距離を取る灼滅者たちの前で、設置された裸電球の光に照らし出されたのは、ヘルメットを被ったモグラの着ぐるみのようなダークネスたちだった。
「さては灼滅者……我が主アフリカンパンサー様と、ご息女ドーター・マリア様の同盟を阻止する為に来たモグか!?」
「ぐぬっモグ……アガルタの口を目の前にして、なんということをモグ……」
スコップを持った両手を口元に当て、泡を食ったように右往左往する彼ら。すると嬉しそうに体と小さな羽を揺らしつつ、エメラルが全身でラブコールしてみせる。
「ご息女? そんなことより、ボクの想像どおりのモグラさん! みんな、戦いたくないならお友達になろう?」
すると、ぱっと顔を明るくしたモグラ怪人ズ。
「モグ……戦わなくていいモグか?」
「モグらは、戦いは苦手モグ」
……が。
「アンタたち! そんなわけにはいかないモグ!」
彼らの後ろで掘削中だった穴の中から、3体めのモグラ怪人が現れた。その体は丸みを帯びており、肝っ玉母ちゃんらしき風格を漂わせている!
彼女は、不甲斐ない男衆を叱り飛ばしてスコップを構えた。
「灼滅者となんて仲良くしたら、ドーター・マリア様に、灼滅者を手引きしたと思われるモグよ! 同盟を失敗させたくなかったら、やることは1つモグ!」
その殺意に呼応して……焔のイクス・アーヴェント、ヴェイル・アーヴェント2振りの剣が、既に怪人らを斬り刻まんと跳びかかっている!
「斬り潰します」
「ひ、ひぇっモグ! ここは腹をくくるしかないモグか!?」
「やむを得ないモグ……こうなれば、お前たちを殺して証拠隠滅モグ!」
●予想外の戦い
「ギャー、モグ~!?」
焔にすっぱりと斜めに斬り落とされた左手のスコップの先端を見て、早くもモグラ怪人の1体が悲鳴を上げた。慌てて左手のものを放り捨て、右手のスコップを両手に持ち替える。
「モグ……灼滅者など、これ1本あれば十分モグー!」
反撃を大きく振るったものの……彼のスコップは、横あいから飛びだしてきた透流の左腕に一文字の青痣を作るだけに終わった。そして右拳がカウンターとして命中する。
「強敵との死闘になる覚悟をしてきたのに、弱い……!」
「それでも、俺たち個々と比べれば強い相手だ。いくら慌てふためいているからといって、そう言ってやるな」
朔耶の冷静な分析が、形だけは警告を発した。もっとも、かく言う彼女も彼らの1体に、麻痺の魔法弾を難なくクリーンヒットさせていたのだが。彼女の霊犬『リキ』も、六文銭を敵にばら撒いている。
「アンタたち、こういう時は倒しやすそうな相手から集中攻撃するモグよ!」
女怪人らが男怪人らを叱咤して、自らも焔へとスコップを振り下ろす。だが、最も倒しやすい相手から順番に倒してゆくのは、ヴォルフもやはり同じこと!
「困るんだがな。強敵1体と雑魚3体じゃ、準備が全く違って面倒だ」
「モグ~!?」
逆恨みで突き立てた白銀の狼爪で、スコップ1本の怪人はへろへろになった。そこへ……ズタボロの彼を優しく包みこむような音色が響く。
ルイセの奏でるその音は、彼女の持つマスクメロン型ギターの見た目のように、甘く怪人の魂を浄化した。
「ああ、これでモグも救われるモグ……。グローバルジャスティス様に栄光あれモグ……」
晴れやかな表情で物騒なことを言い残し、爆発して果てる怪人。彼自身は思い残すことはないかもしれないが、遺された残り2体の方は堪ったもんじゃない!
「ああっ! 兄弟が灼滅されてしまったモグ!」
「怖気づいてないで、アンタも決死の覚悟で戦うモグ!」
女怪人に尻を蹴飛ばされてスコップを振り回し始めたもう1体の男怪人を横目に、和弥はこう理解した。
(「なるほど。母親の包容力というのも良いものだな」)
だとすれば……戦況やら何やら全部ガン無視したとしても、おっぱい魔人の彼がすることは決まってるだろう?
「ままー! 俺の顔をそのふくよかな胸に埋めさせてくれー!!」
ぼふっ。
もふもふ。
「あっ、ズルいの! ボクもモグラさんとハグしたいの!」
だきっ。
もふもふ。
和弥の下心などさっぱり理解していないエメラルまで加わって、辺りは一瞬にして謎のハグ空間へと変化した。まあ……女怪人は突然のことに白目剥いてるし、これはこれで敵の指揮系統を混乱させる意味がある……のだろうか? あるといいな。
「と、とにかくこの隙に総攻撃だ! ご当地怪人と六六六人衆の同盟なんて絶対に許さないぞ!」
号令とともに勇真も愛機『エイティエイト』に跨って、トンネルの壁を駆け抜ける。そのまま燃え盛る剣の一撃を加えれば、女怪人も頭から尻尾まで真っ二つになり大爆発!
「もう嫌モグ~! こんな灼滅者だらけの場所にはいられないモグ!」
最後に残った怪人は、後先考えずに逃げ出した。だが入口方面は完全に灼滅者たちに抑えられており、逃げ道はない。
「でも、ここがモグラ怪人の腕の見せどころモグ」
両手のスコップを猛然と奮う……が、いくら穴掘りに長けた怪人といえども、人が駆けるよりも速く掘り進めるわけがなく。
「観念しろ、モグラ怪人!」
勇真の掲げた剣から発せられた破邪の輝きが、最高潮に達しようとしたその時……。
「モグ……?」
怪人の体が、ぐらりと『トンネルの奥へと』倒れこんだ。
●『アガルタの口』
「こ……ここは、どこ……モグ……?」
灼滅者たちがいる場所よりも2~3メートルほど下。
元から点のような目を丸くして、彼は呆然と辺りを見回していた。
「……わかったモグ。モグは、『アガルタの口』に繋がる壁を掘り抜いたモグ」
声が反響する。その様子から、彼のいる場所がそれなりの広さの場所であることは、警戒して近づかず、彼の落ちた穴の手前から見下ろす灼滅者たちにも判る。
そして、判ったことはもう1つ。
「風が熱い……! そうか、このトンネルや密林がやけに蒸し暑かったのは、地下にもっと暑い洞窟があったからなんだ……!」
じっとしているだけで出てくる汗を拭いつつ、怪人の一挙手一投足に目を凝らす透流。すると彼は突然怯えたような表情になり、左右と灼滅者たちをきょろきょろと見回す。
「逃げる準備をしておけ」
極限まで落としたヴォルフの声が、灼滅者たちにだけ聞こえるように響いた。何故なら怪人が落ちた岩肌は、怪人が作業のために取りつけた電球によるものとは、明らかに別の灯りに照らされていたがゆえに。
瞬間、鋭く何かが光った!
「モグッ!? これはモグのせいじゃないモグよ!?」
悲鳴に似た怪人の弁解がこだまする! それから……彼のいる空間の中で、続々と膨れ上がってゆく幾つもの殺気!
「こいつだ! ずっと響いていた音はこいつのせいだったんだ!」
「侵入者はコロセ! ドーター・マリア様のために!」
「違うモグ! モグは……やめるモグ! アフリカンパンサー様、どうかせめてアガルタの口の場所だけでもお受け取りくださいモグ!」
モグラ怪人が惨たらしく殺され爆発を遂げた後、殺気の主たちは続々と、彼が開けた穴へと集結してゆく。それは……すなわち、灼滅者たちの前に幾人もの六六六人衆が臨戦態勢で現れたことを意味している!
「灼滅者までいるわ! あいつらもぜーんぶ殺さないとね!」
「こりゃあいい! 誰が一番たくさん殺れるか競争しようぜ!」
「全力で逃げろ! 情報を持って帰るまでがオレたちの探検だ!」
勇真が張り上げた声を聞くまでもなく、皆、地上に向けて駆け出していた。穴の向こうから放たれたナイフが灼滅者たちのすぐ脇をかすめ、なだれ込んできた弾丸の嵐がトンネルの天井に跳ねて裸電球を次々に割る!
「モグラ怪人が掘り当てた場所が高めの位置で、幸運でした」
怪人らにスコップで切られた傷を治す時間も惜しみ、とにかく先を急ぐ焔。もしも穴のできた場所があと1メートルでも低ければ、誰かが決死の覚悟で敵を食い止めねばならなかったろう……だが今も、敵が追ってくるのは時間の問題なのだ!
「リキ。悪いが、念のためお前はここに残って、来た敵を片っ端から足止めしろ」
命じる朔耶。期待はできぬが、それでもいないよりは気休めになる。
「女もいたが男も多数。流石の俺も、あれだけ野郎どものいる中に突っ込む趣味はないな」
和弥の口許が自ず、愉しげに笑んだ。趣味はない……だが、いざとなったら魂の奥底に秘めしこの力、余すところなく奴らにぶつけてやろう。
そして、ようやく長い長いトンネルの出口が見えた。後ろからは騒がしい六六六人衆らの足音が聞こえるが、いまだ、彼らが灼滅者たちに追いつく様子はない。
「あんなところで一体何をやってたんだろうね。洞窟の奥の怪しげな空間……怪しい儀式でもやってたのかな?」
今ならルイセもそんな軽口を叩ける。
「このまま、地上にさえ出てしまえば……」
そして広がる眩しい光! 密林の木陰から洩れ出ただけの、欠片のような太陽光であっても、ずっと地下を探索してきた灼滅者たちにとっては、まるで朝日のようにまばゆく映る。
かくして密林の地下に潜んでいた『アガルタの口』は、密林を探索して全貌の解明の努力と外周の敵らの灼滅を続けていた者たちと、その最後に挑んだ8人の手により、ついに、新たな謎とともに白日の下に晒されたのだ。
「みんな、ボクたちは今日は帰るから、また会ったらよろしくね!」
密林に身を躍らせた後、トンネルのあった方へと呼びかけるエメラル。ようやく自分たちも地上にやってきた後、木々に反響してどこからやってきたのか判らなくなってしまったその声を聞いた六六六人衆たちは、きっとトンネルから出たばかりの場所に佇み、忌々しげに歯軋りしていたに違いなかった。
作者:るう |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年11月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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