DIY六六六人衆掃討作戦~怠惰の楽園

    作者:空白革命

     シャッター街の一角に残るバーには、数名の男女が自堕落に暮らしていました。
     ある者は親を殺したニート。
     ある者は子供を殺した母親。
     ある者は社長を殺した会社員です。
     彼らは己の愛用する改造工具を携え、高級な酒を好き放題に飲んでいます。
     しかし店主も、他の客もおりません。
     ……いいえ、正確には、いるけれど生きていないのです。
     店主はダーツ板にくくりつけられ、釘を何本も打ち込まれて絶命しています。
     他にもサラリーマンや近所の子供など、遊びのように殺しては、店に捨てているのです。
    「これからどうするんだ?」
    「さあ? こんなすごい力が手に入ったんだから、世の中やりたい放題じゃないかしら?」
    「我々に逆らえる者などいませんからね。よその、我々と同様のチームとさえ衝突しなければ、きっと好きやれるでしょう」
     かれらは浅はかにも、世の真なる闇を知らぬまま、堕落にふけっていたのです。

    ●DIYのゆくすえには
    「聞いたか皆。DIYのジョンスミスがスサノオ傘下に加わったそうだ」
     所変わって武蔵坂学園。
     サイキックアブソーバーの使用によって判明したこの事態に、学園は大きく動き始めました。
     ジョンスミスという六六六人衆がDIY殺人によって多くの同族を生み出したはいいものの、序列が崩壊した六六六人衆は殺し合いをせず、よりによって同族と結託して自堕落な暮らしを始めてしまったのです。
    「このDIY式の六六六人衆たちは10人ほどのチームを組んで、一般人を支配したり戯れに殺したりという暴挙を繰り返している。このことが分かったのは、大元であるジョンスミスがスサノオ勢力に加わったからなんだが……」
     DIY式六六六人衆は生まれたてのダークネスです。
     ダークネスや灼滅者という概念も、この世界の真なる闇や、戦いの歴史も知りません。
     ただ特別な力を急に獲得したと思い込み、同様の者たちとぶつからないよう自分たちなりに隠れて行動しているのです。
    「信念も無けりゃ覚悟もねえ。こいつらを放っておくのは人としても灼滅者としてもありえねえ。ひとり残らず、灼滅だ!」

    ●特別な作戦
     DIY式六六六人衆が10人。ここへ乗り込んで戦えば済む……という話には、残念ながらならないのです。
    「できたての弱い六六六人衆といっても、灼滅者の倍ほど強い。二人がかりでなら倒せる程度の連中だ」
     つまり、10人を一度に倒すには20人ほどで突入しなければならないということです。
     ですが我々には大きなアドバンテージがあります。
    「奴らは灼滅者を知らない。もし見かけても、『自分たちより弱い六六六人衆』としか思わないだろう。
     この状況をうまく利用すれば、ものを知らない連中を騙して闇討ちができるかもしれん」
     どころか、利用の仕方によっては内部崩壊だって狙えるでしょう。
     これは、普段はまずできない潜入作戦なのです。
    「それにもう一つ朗報だ。ジョンスミスはこの戦いに生き残った者を配下に加えるつもりらしい。逆に言えば、俺たちにやられる程度の奴に助けは出さない方針ってことだ。外部からの邪魔なくコトを進められるぜ」

    「連中は戦闘力だけ見れば俺たちより上かもしれない。けれど俺たちにはくぐり抜けた修羅場の数と、無数の格上たちを倒してきた知恵と勇気がある。負けるだなんて、これっぽっちも思わないよな」


    参加者
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)
    雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)
    七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)
    吸ヶ峰・血早(高校生ダンピール・d35925)

    ■リプレイ

    ●坂道を石が転がるように
    「やあ、どうも。掃除くらいならいくらでも申しつけてくださいよ。ええ、皆さんのチームに入れてラッキーなんですから」
     雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)はモップを手に、作り笑いをしていた。
     モップの先端は赤黒くべっとりとよごれ、長靴ごしの床にはおびただしい血液が広がっている。
     ちらりと見下ろせば、壁際に数人の死体が転がっていた。
    「DIYさんの仲間になれるなんて、滅多にあることじゃあないですよ」
     夜々が慣れない敬語でDIY式六六六人衆の手下を演じていることには、当然わけがある。
     彼はまだ暖かい宅配ピザを手に彼らのアジトを訪れ、どうか仲間にして下さいと頼み込んだのだ。
     この時点でてこずるかもと思ったものだが、案外すんなりと仲間に入れてくれた。
     というのも……。
    「そうだぜ、お前がこの闇の社会で生きていけるのは俺様の子分になれたから、だしな」
     リーゼントヘアの男が、夜々の頭をぽんぽんと叩いた。
     彼らは人間を脅したり殺したりすることはできても、従える才能が全くと言っていいほど無かったのだ。

     一日たって、吸ヶ峰・血早(高校生ダンピール・d35925)がアジトを尋ねてきた。
     袋いっぱいの乾燥豆を手土産に、『山吹色のお菓子とまではいきませんけれど』と言って仲間に入れてくれるように頼んだのだ。
     夜々と同じような理由で引き入れられた彼は、早速彼らに取り入った。
    「皆さん、どうしてチームを組んでらっしゃるんですか」
     でっぷりとした女に酒を注ぐ。
     女は血早が見せる腰の低い態度に満足してか、たるんだ頬を歪めた。
    「何って、色々物騒でしょ? 皆で助け合った方がいいじゃない」
    「そんなこといって、知ってるんですよ。この中じゃあなたが一番強いって」
     顔を近づけ、小声で話す血早。
     その様子に更に満足したようで、女は唇を更に大きく歪めさせる。
    「そりゃあね、クズどもの相手は疲れるけど、他にもチームがあるからこうしておかないと面倒なのよ」
    「さすが、器が大きい」
     DIY式六六六人衆たちは、決して友情や義務で一緒にいるわけではなかった。
     彼らはみな、自分が一番だと思っているのだ。
     ある思春期の中学生男子のごとく、周りが馬鹿に見えていた。
     不和はきっとすぐにおきる。
     ほんの少しのキッカケさえあれば。

     DIY式六六六人衆のチームは全部で十人。
     そのうちの一人に、神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)はなつくふりをしていた。
    「明日等ちゃん可愛いしさ、俺の彼女になりなよ。他の連中から守ってやるよ」
     油で汚れた眼鏡を指でぬぐいながら、小太りな男が言った。
     彼に近づくのは生理的に嫌だったが、他の連中はそれを超えて嫌だったので消去法での選択である。
     明日等は引きつりそうになる顔を作り笑いで隠した。
    「私にそんなの早いわよ。ねえ、それより食料が沢山ある場所を知ってるんだけど、一緒に行かない?」
    「食料……? その辺の家から持って来られないの?」
    「もう奪いきっちゃったじゃない」
     彼らがチームを組んでいる理由の一つに、自主性の欠如がある。
     彼らは突然人知を超えた力を獲得したが、それを使いこなす器などない。突然一億円を手にしたニートが無軌道に振る舞って身を滅ぼすまでの流れと同じだ。
     小太りな男は周囲を見回してから言った。
    「他の誰かが持ってくるのを待てば……」
    「でも、一緒に行きたいな。他の人が居たら……いやだし」
     後ろ手を組んで言う明日等に、男は『ぼくだけは分かってますよ』という顔を作って頷いた。

    ●水に落ちた石は浮かない
     ある日のこと、明日等が一人の男を連れて外に出て行った。
     食料がある場所を見つけたので、運び出してくるという名目である。
     二人居れば充分だというので、他の連中はアジトに残っていた。
     だが彼らは一時間たっても二時間たっても、まる一日経っても戻ってはこなかった。
     なぜならば……。

    「ど、ど、どういうことだよ! あ、明日等ちゃん! ぼ、僕のこと、す、すきだって!」
    「言ってない」
     モップの柄に包丁をくくりつけただけの道具を持って、男は歯噛みした。頭から血を流し、泡をふくように唸る。ある倉庫に連れてこられた途端、明日等に攻撃をうけたのだ。
     しかも。
    「そろそろ気づいたらどうですか。あなたは騙されたんですよ」
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)は日本刀を鞘から抜いて、三歩ほど詰め寄った。
     後じさりし、武器を構える男。
    「だ、だれだよ、おまえは」
    「灼滅者……と説明しても、理解できないんでしたね。あなたは」
     うおおと叫んで男が襲いかかってくる。
     流希は間合いを巧みに奪ってモップの柄を切断。
     刃をターンさせて男の首にそえるように止めた。
    「ゆ、ゆるして……」
    「殺した人々に詫びろ」
    「け、けど知らない人だし、名前もしらないし」
    「最悪だ」
     流希は自らの気を放ち、男を硬直させた。
    「一方的に殺される痛みと恐怖を刻んで死ね」
     倉庫に悲鳴が響く。
     誰も聞きつけはしない。なぜなら、皆殺してしまったのだ。

     男と明日等が戻らないことで、アジトにはピリピリとした空気が漂うようになった。
     みなそれ以上のもめ事を起こさないように黙っていたが、血早はそうではない。
     料理が不足したこと、それを誰かがつまみ食いしたこと。それらを理由に小さないざこざを起こさせたのだ。
    「もうこんな所にいられないわ! 出て行くからね!」
     でっぷりとした女がそう言って周りをにらみ付ける。血早はなだめるふりをして彼女にとりいり、食料が沢山ある場所へ二人だけで行きましょうと誘った。
     そして……。
     どうなったかと言えば……。
    「騙したわね!」
     影業で縛り付けられた女は暴れ、それを引きちぎった。
    「あんたみたいな未熟な超能力者を拾ってやったのに、その恩を忘れたの!?」
    「未熟なのはあなたです。僕らのことは灼滅者、あなたがたのことはダークネスと呼ぶんですよ」
    「はあ!? なによそれは……!」
    「もういい」
     木箱に腰掛けていた皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)が、ゆっくりと立ち上がった。
    「もう、殺そう」
     どこからともなく刀を取り出すと、目の光を強くした。
    「『ソノ死ノ為ニ、対象ノ破壊ヲ是トスル』」
    「……ッ!」
     咄嗟に自分の武器を取り出す女。
     大きな裁縫バサミを複数組み合わせたお化けバサミだ。
     しかしそれが届くより早く、血早の手術バサミが彼女の手首を切断。
     更に零桜奈の刀が腕と肩を輪切りにしていった。
    「ひ、ひいい!」
     鏖殺領域を展開する女。
     だが零桜奈にはまるで通用しなかった。
     蒼い炎を広げ、殺意の霧を焼き払う。
     女へ飛びかかり、そして盛大に顔面に膝蹴りを入れた。
     血を吹いて倒れる女を踏みつけ、刀を振り上げる。
     どこまでも冷酷に、そして素早く殺す。

     チームの分裂は連鎖的だった。
     女が血早をつれて出て行ったことで、自分も出て行ってやろうという考えが蔓延しはじめたのだ。
     そんな不和をつついたのは、他ならぬ夜々である。
    「この人が私の食料を盗んだんですよ。自分だけよければ他人はどうでもいいんだ!」
     あながち濡れ衣でもない。ここに居る連中は互いを嫌いあい。自分が一番だと思っている。仲間のものを盗むくらい、平気でするだろう。
     だがそれを指摘されれば言い逃れをするほど、彼らは落ちぶれていた。
    「証拠でもあるのかよ! お前みたいな雑魚は黙って言うこと聞いていればいいんだ!」
    「なんて人だ……ねえ、こんな場所は出て行きましょう。もっといいアジトを知ってるんです。他の連中に知られるくらいなら、あなたに教えますよ!」
     リーゼントの男は夜々にそそのかされ、引くにも引けず、ここよりいい場所があるならそれでもいいかという楽観によってアジトを離れた。
     そして、当然のように……。
    「騙しやがったな、クソが!」
     しずかな工場のガレージ内。
     改造バットを握りしめ、頭から血を流しながら唸る男。
     彼の前には夜々、そして背後には可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)が立っていた。
     恣欠はくつくつと笑い、クロスグレイブを振りかざす。
    「ほんの少し、ほんの少しだけ知っていれば、こんなことにはならなかったでしょう」
    「何の話だクソ、俺に知らないことなんてねえ!」
    「無知、無知ですねえ。上位者や狩人の存在も知ること無く、首に糸がかかったことすら気づかない。あなたはある意味、被害者なのです。より分かりやすくいうならそう……」
     手を上げ、指をおっていく。
    「運が……いえ、日頃の行ないが悪かったのです」
     手を握りきった頃、男の首や腕は切り落とされていた。

    ●かくして誰も石を見ることは無く
     チームの分裂は進んでいった。
     傷を負って帰った明日等や血早たちに誘われるようにして一人また一人と連れ出されていく。
     時には食料を巡って言い争いになり、ぶつかり合った挙げ句出て行く者もいた。
     そして連れ出された者は例外なく、待ち伏せした灼滅者によって闇討ちされていたのだ。
     例えばこんな風に……。

    「ごきげんよう。死ぬ準備はできているかしら」
     交通標識をポールごと握り、地面をがりがりと削りながら現われる七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)。
    「あんた、俺にこんなことしてタダで済むと思ってるのか?」
    「…………」
     目を細め、軽蔑のまなざしだけを向ける。
     現われた霊犬蒼生は座り、ただただ紅音の行動を見守っていた。
    「自由とは、無責任に振る舞っていいという意味じゃあないのよ。いろいろ理由はあるけれど、とにかく……私はあなたが大嫌い」
     男の繰り出した改造ネイルガン射撃をダイダロスベルトの展開で防ぐと、道路標識を思い切りぶん投げた。
     ポール部分が男の腹に刺さり、壁にまで突き刺さる。
     かけより、ポールの上に立つと、髪をいちどだけかきあげて言った。
    「死になさい」
     紅音の蹴りが、男の頭部を粉砕した。

     アジトにしていたバーには十人のDIY式六六六人衆がいた。
     しかし彼らは分裂や内紛を重ね、ついにはたったの三人にまで減ったのだった。
     そうなったところでやっと、これからどうしようと考えるようになった。
     自分たちはどうやって生きていけばいいのか。
     もしかしたらこの世には、自分たちがまだ知らない脅威があるのではないか。
     そんな気分に少しでもなったところで、終わりはやってきた。
     そう。
     もう手遅れなのだ。
    「どーも皆さん、灼滅者でございます」
     グローブをした手をグーパーしてみせる天方・矜人(疾走する魂・d01499)。
     ドクロ型ヘルメットの目元がギラリと光り、どこからともなくロッドが飛び出してきた。
    「誰だよあんた、ここは俺らの場所――」
     身を乗り出した男の鼻先に、ロッドの先端を突きつける。
    「人様の場所だ。あんたらが殺して奪った場所だ。悪行の限りを尽くして手に入れたものだ。なああんた、そういう奴のたどる末路を知ってるか」
     矜人に続いて、仲間たちがバーへと入ってくる。
     その中にはリンフォースを呼び出した明日等や、風もなくマントを靡かせる夜々、手術バサミやメスを大量に握った血早たちもいた。
     総勢八名。
     対して六六六人衆は三人。
    「悪いが決め台詞だけ言わせて貰うぜ。ここからは――」
     矜人のカードが光り輝き、彼を黄金の鎧が包み込む。
    「ヒーロータイムだ!」
     咄嗟にカッターナイフを繰り出した男の胸をロッドで突き崩し、回転と共に素早くソードモードにチェンジ。
     両手でしっかりと柄を握り込み、男を袈裟斬りにした。
    「けどあんたら、世界の面倒ごとに巻き込まれる前に死ねて、かえってラッキーだったかもな」
     仲間たちが飛びかかる。
     零桜奈と流希が刀を抜き、女の繰り出す改造鉄パイプをはねのける。
     歯を食いしばって女は連撃に繋ぐが、そのことごとくを零桜奈の剣がはねのけた。
     そして大きく開いた隙を突くように、きっさきが胸に突き刺さる。
    「あんた、なんでこんな」
    「……」
     応えること無く剣がずぶずぶと沈む。
     流希の剣が高く高く振り上げられた。
    「自業自得、因果応報だ」
     流希の放つ強烈な斬撃が、肉体を真っ二つに切り裂いていく。
     恣欠と紅音はゆっくりと歩み寄り、ダンベルを投げつけてくる男の攻撃をはねのけている。
     しかし腕もろくにふるうことなく、ただ彼女らの周囲を舞う帯締めや本のページが意志をもったかのように打ち払っていくのだ。
    「た、助けてくれ。命だけは」
    「この期に及んで、情けない」
    「そんな風に懇願した人に対して、あなたは何をした?」
     恣欠の振り上げた十字架が、紅音の振り上げた薙刀が、相手をめちゃくちゃに破壊していく。

     後片付けをして、バーを出て行く八人。
     彼らは静かになった町の風景を眺めて、そして立ち去った。
     町を襲った悪辣な者たちは、彼らによって消し去られた。
     やがては町に人が戻り、惨劇も忘れ去られ、日常が埋めるだろう。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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