DIY六六六人衆掃討作戦~マーダー・アディクション

    作者:夕狩こあら

    「あああぁぁんもおおぉぉ人間やめたら楽スィ~のなんの!」
    「ヒーハー!」
     標的の人間にバールを振り下ろして以来、毎日が享楽的で倒錯的で、平凡だった過去には二度と戻れない。
    「だってコイツ等、ちょっと脅せば言うコト聞くし?」
    「自分が死にたくないからって、自分より弱ェ奴連れてくんのゲスすぎっしょ!」
    「ぶっは、ガチクズ~!」
     喧しい電子音に笑い声を交ぜた六六六人衆『チーム・アディクション』が眺めるは、己が死の絶望から逃れる為に別なる生贄――ホームレスの老人を連れてきたという若い男。
     幾度の殴打で血が染みつき、歪に変形したバールの前では生きた心地もしなかろうが、何より若者の恐怖を煽るのは、連中が遊興や快楽の為に殺人を犯す事に何の躊躇いもない事だ。
    「で、どうする? この爺さん」
    「俺がギリギリまでやったら、君にトドメあげるよ」
    「シェアとか優スィ~!」
     本来は殺し合うのが六六六人衆であろうが、彼等は同じ境遇を持つ者同士、また同じ嗜癖を有する同士、行動を共にしているらしい。
    「なんかオレ等と似たよーなチームがあるらしーんだけど」
    「目立ち過ぎるとアレだから。これも終わったら埋めとくわ」
    「うん」
     軽妙に声を交わした連中は、各々自慢のバールを手に、足には『新しい玩具』をサッカーボールの様に転がして―ー地下室へと降りて行った。

    「サイキックアブソーバーの予知によって、先の『グラン・ギニョール戦争』で逃走したジョン・スミスが、ナミダ姫の陣営に加わった事が判明したッス!」
     声を大に教室に飛び込んできた日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)に、或る灼滅者は眉根を寄せ、また或る灼滅者は怪訝な表情を露わにする。
    「……ジョン・スミスだと?」
    「奴がスサノオ勢力の傘下に入ったのか!」
     嘗て六六六人衆の序列第四位であった男、ジョン・スミス。
     彼が一般人の闇堕ちを促す『DIY殺人事件』により、多くの六六六人衆を生み出していた事は灼滅者も知る所だが、どうやら奴は新しく闇堕ちした六六六人衆らが序列を争う暗闘を――殺し合わない事に業を煮やして行動したらしいのだ。
    「灼滅者の兄貴と姉御も知っての通り、六六六人衆は序列をめぐって殺し合う習性があり、件の事件から生み出された六六六人衆達も幾多の殺し合いを経て、一人前の六六六人衆に成長する筈だったんス」
    「序列争い、か……だが今は」
    「そっす! かの『ランキングマン』が灼滅された事で、六六六人衆同士で殺し合うというシステムが崩壊したんすね」
     ランキングマンが生み出した序列により、六六六人衆は更なる位を得る為に暗闘を繰り返していた訳だが、それが無い状態で出会った新人達は、同じ境遇の仲間として徒党を組み、自堕落に暮らし始めてしまった様なのだ。
    「連中は一昔前の暴走族や不良グループのように、一般人を支配下において金を巻き上げたり、殺しても良さそうな人間を連れてこさせて、戯れに殺してしまうといったワルをしてるッス」
    「まるで半グレだな」
     今回、ノビルが見つけたチームの連中も、古びたレジャーランドを拠点に殺戮行為を愉しんでいるようだが――。
    「ジョン・スミスがスサノオ勢力に加わった事で、末端である奴等もスサノオ傘下となったんで、予知によって連中の活動拠点及び状況が判明したんスね」
    「成程」
     こっくりと頷く灼滅者に、ノビルは更に今回の案件の特殊性を語る。
    「奴等はおのぼりさん宜しく、六六六人衆以外のダークネスの存在も、灼滅者の存在も知らなくって、自分達は特別な力を与えられた特別な存在なのだと思い込んでるんスよ」
    「まぁ、今は多くのダークネス組織が壊滅しているからな」
    「まるで鳥なき里の蝙蝠じゃないか」
    「押忍。ただ、自分達と同じ立場の六六六人衆が他にも居るって事は分かってて、悪目立ちは避けてるみたいなんスけど、既に何件も被害が起きているのは確かっす」
    「……そうか」
     特に『敵が灼滅者の存在を知らない』というのは好都合だ。
     ここは是非とも連中の隙を衝き、チームを壊滅させ、全ての六六六人衆の灼滅を狙って欲しい。
    「第一目標は六六六人衆の殲滅っすけど、可能であれば、奴等の毒牙にかかった一般人の救出もお願いしたいッス」
     なれば必要になるのは、戦術を組み立てるに有益な情報だろう。
     ノビルは首肯して言を継ぎ、
    「自分が捕捉した六六六人衆は、80年代風のレジャーランドを拠点にしている連中で、チームの規模は十人。全員がバールのような凶器を持った、パッと見窃盗集団みたいな奴等っす」
     彼等はダークネスとしての戦闘力は低く、敵一体を相手に灼滅者二人――状況によってはタイマン勝負でも勝利の可能性があるほど。
    「何より奴等は灼滅者の存在を知らないんで、兄貴や姉御を見ても『自分より弱い六六六人衆』だとしか認識できないんす。これを巧く利用すれば、内部潜入して攻撃する事も、或いは……」
    「弱いダークネスのフリをしてチームに加わる、みたいな?」
    「うす。これまでになかった大胆な作戦が出来そうっす」
     懸念すべきは、外部からの介入であろうが――。
    「ジョン・スミスは、灼滅者の襲撃により自力で生き延びた者だけを六六六人衆として認めて配下に加えるつもりなんで、援軍は寄越さない筈っす」
    「私達を使って、篩にかけようというのね」
     六六六人衆同士で殺し合って数を減らさないならば、灼滅者に襲撃させて数を減らせば良い――。
     現状を憂えたジョン・スミスは、このままでは六六六人衆の尊厳にかかわると考えて、スサノオ勢力の傘下に入る事を決断したのだろうが、勿論、彼の目論み通りに動く灼滅者ではなかろう。
    「ジョン・スミスは、六六六人衆の育成に灼滅者を利用しようとしているみたいッスけど、それなら全員を不合格に――灼滅してしまえば良いんス!」
    「だな」
    「相手は闇堕ちしたばかりの知識の無いダークネス、百戦錬磨の兄貴と姉御なら、全滅狙いッスよ!」
     ノビルは力強く拳を握り込めた後、颯爽と戦場に向かう灼滅者達を全力の敬礼で見送った。


    参加者
    万事・錠(オーディン・d01615)
    暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    青和・イチ(藍色夜灯・d08927)
    有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    貴夏・葉月(勝利と希望の闇中輝華イヴ・d34472)
    茶倉・紫月(影縫い・d35017)

    ■リプレイ


     連中が得た邂逅も今の如くであったか、と蛇は思う。
     成程彼等はフィーリングを重視するらしく、
    「獲物拉致ってんの見て追って来たんだ、俺等も混ぜてくれや!」
    「ウェーイ、キミ鼻ウィー! 混じれやーイ!」
    「成りたての俺達はどうもやり方が半端になっちまう。あんた達と居れば楽しめそうだ」
    「ユー、ナイスセン!」
     同じ嗜癖、同じ境遇の者と思えば、軽率に群れる――これぞジョン・スミスの誤算。
     連中は、万事・錠(オーディン・d01615)と暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)、奇しくも殺人鬼をルーツとする二人を『闇堕ちしたてのヒヨッコ六六六人衆』としてチームに加え、今より始める遊戯に誘う。
    「今ね、丁度いいのが地下室に転がってったとこ」
    「ガチクズくんもおいでよ、頭取れたらフットサルしよ」
     既にホームレスは蹴飛ばされて地下へ、若者は自らの足で惨澹へと向かわされる所。
     ここで切り離しを狙うか、サズヤは物足りなさそうに口を開いて、
    「折角だ、こいつにもう一人連れてこさせよう」
    「えっ何おやつ足りない子?」
    「いいだろ、先輩」
    「うん、いいよ」
     若者に更なる生贄を調達させる――その遊び方を見たいと言えば、先輩呼びに弾かれた男達が彼と若者を連れ出す。その数、三。
     残った錠は、外で戦闘に備える仲間の為にも、地下に囚われた名も無き命の為にも時を稼がなくてはなるまい、
    「自己紹介がてら殺人歴語ってヨ」
    「んじゃ人体に星座を刻む男を殺った話でも」
    「きた、ロマンチスト!」
     血塗れた階段を下りた彼は、ポケットに隠した蛇が、平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)に課せられた任務を遂行すべく這い出る感触を得つつ、メンバーらと語ろうた。

     外の異変を悟られてはならぬという時、ESP「サウンドシャッター」は全てに先んじる。
    (「弱いモノいじめの六六六人衆、みーつけたっ!」)
     赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)はネオン光に照らし出される影を捉えるや、一切の音を檻に閉し、これより生じる異音を隠す。
     故に車の走行音は聞こえようとも、仲間の悲鳴は届くまい。
    「んっ?」
     足元に何かが疾った。
     先頭を往く男が刹那の残像に足を留めた、刻下、その背に疾風が駈ける。
    「これ以上、彼に弱者を盾にする行為はさせたくない」
    「な、に――」
     其が有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)と、若者を助け出す為に割り入った雄渾と知ったのは、彼が幾許も距離を取った時。
     何が起こったのかと目を丸くする若者は、そこで貴夏・葉月(勝利と希望の闇中輝華イヴ・d34472)の僕が預って、
    「菫。右ポケットからキーを取ってボタンを押せ」
     ライトを明滅させる車両を彼の所有車と判断した主は、安けき清風に魂を鎮めつつ、その身を車内に押し込ませる。
     先程の影が犬のそれと気付いたのは、主の足元に戻るくろ丸と、彼女の初動を讃える青和・イチ(藍色夜灯・d08927)を見てからの話。
    「一般人と六六六人衆の切り離しは、成功、と……」
    「うぉふ!」
     訥々たる言と静黙たる佇まいを見縊れぬのは、彼が蒼炎と迸らせる殺気の凄まじき故。
    「えっ何なに? 別のチームの奴等なの?」
    「俺ら潰しに来たって事?」
     哀しき哉。
     世界を知らぬ蒙昧は、灼滅者も、その戦い方も理解るまい。
    「何と思われても佳い。どうせ殺るだけだ」
    「――ッッ!」
     ネオンの燦光が作る死角から現れた茶倉・紫月(影縫い・d35017)は、切先鋭い氷楔を脹脛に撃ち込み、愚者に蹈鞴を踏ませた。


     常に多を以て寡を制す――灼滅者の戦術は実に剴切。
     事前に地理を把握すれば機動も鋭く、彼等は戦端を開くと同時、三体の狂気を取り囲むに成功していた。
    「新人くんも戦って!」
    「チームメンバーでしょ!」
     動揺と焦燥がサズヤを駆り立てるが、彼は武器にと投げられたバールのようなものを鞭剣の撓りに打ち落し、
    「嘘とわかっていても、嫌気がさす」
    「へぁ?」
     演技とはいえ、己が唇を擦り抜けた殺人嗜好に、噤む。
     嘗て暗殺教団の私兵と働いた彼だ、身に染む衝動は拭えぬものの、其を快楽にはすまいと躍る刃は、連中の同属となる事を強く拒む。
     四対七と思っていた戦闘が、三対八となれば不利は明白、
    「俺らハメられたの?」
    「うん、多分」
     常に群れていた蝙蝠は、不甲斐ない羽撃きを各個撃破されていく。
     先の列攻撃で布陣を見出した緋色は言はフリーダムに、剣戟はアグレッシヴに迫って、
    「そぉれっ、ちぇすとー!」
    「ッ痛ェ! マジ苦痛!」
     激痛を拒まんと闇雲に振われた鉄梃は、然しくろ丸の霊刀が往なして反撃も適わない。
     畜生、と躰を折り曲げた時には、その僅かな懐さえイチに屠られ、
    「……先ずは、一体」
     衝撃に梳られる前髪に青き透徹を見たのが最期。
     闘気の掌打は胴を撃ち貫き、古びたネオンの明滅に闇を消した。
    「えっ嘘」
    「うっは、イミフ!」
     仲間の死を嗤う彼等に恐怖は無く――雄哉は「なれば」と我が踝に手を伸ばして、
    「この手の輩は……許せない」
     何知らぬ彼等は、緩んだ靴紐を直すとでも思ったろうか。
     冷静なる青年は、黄金のアンクレットに念を送るや、持ち上げた双眸を金色に輝かせ、冷酷冷徹な戦闘狂へと豹変していく。
     暴かれた闘争衝動は一足にして敵懐を侵略し、
    「ぐ、ブ……ッ!」
     蒼盾【Clear blue-sky Shield】に叩き付けられた躯は、そのまま紫月の【ディラックの海】によって闇なる量子へと解かれた。
    「其々が拮抗しあって均衡が保たれる。序列っていう規律が無くなるとこの有り様か」
    「序列なき今、六六六人衆が高い戦闘力を誇る事は、もう無いかと」
     彼の言も淡然たれば、彼を光矢の煌きに支える葉月も頗る沈着。
     屈指の殺戮技巧を誇った強者の姿はなく、その凋落に槿花を重ね見た二人は、一縷の躊躇い無く花弁を捥いだ。

    「つかアイツ等遅くね?」
     灼滅完了の報を端末の振動で受け取った錠が動く。
    「トゥーレイト! どしたんだろ」
    「俺、皆とシェアするのイイ子に待ってんけど」
     直ぐに過る不安と言えば、「若者の逃走」か「別チームの奇襲」だろうが、答えはサズヤが持ってきて、
    「あいつ逃げやがった! 俺以外が追いかけてる、こっちだ」
    「まじか、ガチクズくん仕事ふやす~!」
    「ケン君もおいで。遊ばせてあげる」
     若者を捕まえるだけなら総勢は不要と、連中はチームを二分、つまり錠を含めた四名を地上へ送り出した。
     残る四名は気楽なもので、
    「アイツ戻ったらブッ殺っしょ」
    「賛成。また別のクズみつければいーし」
     地下に緊急の声が降りて三分、息を潜めていた蛇が人と為り、ホームレスを確保し、筐体に隠したと――中々どうして気付かぬのは、やはり灼滅者という存在の狡猾を知らぬから。
    (「――俺はキャプテンOD。何、救急隊員と思ってくれればいい」)
    (「……ッ、ッッ……!」)
     僅かな隙に命の安全を保障した和守は、次なるミッション――仲間が来る迄の間、老爺を護り抜く盾と為る。
    (「何せ気分屋な連中だ。いつ戦闘になるか解らない」)
     その懸念も五分と経たず的中し、
    「ねぇ玩具は?」
    「どこどこー?」
     ウロウロと歩き出す黒影に、迷彩色の鉄塊が「待てぃ!」とタックルを仕掛けた。


     先の戦闘が三体八なら、此度は三対九。
     逃げた獲物を追い回す筈が、自分達が獲物と知った時には既に遅い。
    「いっくよー! ちょあー!」
     緋色のかくれんぼは良い奇襲となったろう、
    「!? 親方、空から女の子が……ッ」
    「いや親方って誰が――ずおおおっ!!」
     ネオン看板より飛び降りた少女は、重力を乗算して墜下する白帯に虹を映した後、その純白を美し緋に染める。
    「うんおおマジ痛い! 下痢起こすってレベルじゃねー!」
    「ちょ、ここで新入りは反撃でしょ、何やってんの!」
     咄嗟に味方の傷を癒しても、睨めた二人が敵陣の囲繞を完成させる違和感に、寝返りを予測する余裕はないか、
    「すまねェ、俺ら武蔵坂ってチームの者でよ」
    「宿敵に成り損ねたお前達を殺しに来た」
     スレイヤーカードを手に一応の断りを入れた錠が、蠍尾【SHAULA】を撃ち込むや、激震する大地に足を捕られた男達――その最も損耗の大きい者をサズヤが狩る。
     死角から疾る神速の斬撃こそ連中の得意技であったろうが、紫月は腱を切られて為す術もない宿敵を静観して、
    「競い合うのは進歩の源。其を忘れたモノは淘汰される」
    「グ、ッ……――」
     嘗て六六六人衆が繰り返していた「淘汰」を示して見せた。
    「……つかコイツ等マジ何なの!?」
    「面白おかしく暮らしてて殺られるとか、ねーだろ!」
     蓋し一度も研鑽を得ぬ攻撃では、ディフェンダーが展開した堅牢を破る事は出来まい。
     雄哉は守護の光壁に敵の集中攻撃を弾きつつ、
    「――今、携帯が」
     震えた、と末語を嚥下したのは、振動が告ぐ「地下での戦闘の発生」を隠す為。
     そして僅かに柳眉を顰めたのは、先に灼滅した一体がメディックなれば、撃破順で言えば順当なものの、地下に残った者が軒並み攻撃力の高い連中では危ういからだ。
    「くろ丸、手数を活かして畳み掛けていこう」
    「おんっ」
     心霊手術に掛かる時間を考慮すれば、出来るだけ損耗を避けるべきと回復寄りに立っていたイチは、ここで攻撃に転じ、
    「ユー、虫も殺さないよーな顔して僕を……ぶえっ!」
     漆黒の黒刃と冴銀の霊刀が主従の連携を見せれば、葉月もまた菫さんと阿吽の呼吸で凄撃を重ねる。
    「次手で沈む相手だ。最後は貴様に任せる」
    「ふぁ? 何言っちゃってんの……ッ、ッッ――!」
     後衛に据わる麗人が、仲間の創痍に合わせて癒しを配る聖女と思ったのが間違い。
     敵の状態を見極めた炯眼は黒布に覆われつつ、その言通りの結末を視た――。

     知恵と連携を駆使して戦う灼滅者を知らねば、地下に残された狂気は今のカラクリを説明できまい。
    「捕まえたジジイが超硬ェロボ男になってんの、おかしくない?」
    「たぶん逆玉手箱で若返ったんよ、逆玉ってやつ?」
    「あっ、そーいう」
     老爺は身を隠していて、和守が殺意より護っている――そんな推理も働かぬのは、「玩具があればいい」という至極シンプルな理由から。
    「イイ子にしてたけど、もー無理だわ」
    「つまみ食いで殴るくらい、いーよネ」
     老爺をワンホイールに乗せて先に逃がす手もあったろうが、四対一ではジリ貧が確実、脱出した先で戦闘が終わっているという確証も無い。
    「ッッ……ヒトマルも暫し耐えてくれ」
     鉄梃の振り下ろしにショルダーアーマーを砕かれつつ、男はギャンッと駆動音を返す相棒に「お互い強がりだな」と零した。


     鮮血と創痍にぼやける口角が持ち上がったのは、それから間もない。
     奇声と嗤笑が鈍く反響する地下、複数の靴音が階段を駆け下りて、
    「――欲望のまま力をふるって人を殺す輩、か」
    「ん、誰?」
     先ず雄哉が瞳に飛び込む陰惨に言つや、闇堕ちを機に馴染んだ闘争衝動を全解放し、暗澹たる闇影に敵躯を呑み込む。
    「此処で一人残らず、灼滅する」
    「――ッ!!」
     逃せば再び群れる愚だ。禍根を残してはならぬと思えば、慈悲は要らない。
     ただ愚も愚とて、先の新入りが他者を連れ込めば流石に背信を疑おう、
    「ヒヨコちゃん達、俺達ツブす気なの? こーゆーの制裁モンよ!」
    「俺らと居たらクズ狩りできるのに、辞めるわけ?」
     歪な鉄梃が上段から、或いは下段から迫れば、その二撃はイチとくろ丸が聢と防いで、
    「錠先輩に制裁とか、無理、だから」
    「むふ!」
     零距離で撃ち込まれた閃光が、無数の魔弾がメンバー共通の武器を弾く。
    「それに、チームに引き入れるのも、無理」
    「わふ!」
     円を描いて宙を舞う物体を眺める間もない。
     見上げた先にはその錠が居て、
    「おう。俺、自分より弱ェヤツ嬲っても興奮しねェタチだから」
     延伸した黒鋼に縛し、斬り裂き、明確なる相違を突きつけた。
     彼の殺意は強敵にあってこそ精彩を放とう、
    「お前らも愉しめよ、地獄を魅せてやらァ!」
    「、ずアァッ!」
     感情の絆を結んだ灼滅者の血闘は、正に狂宴、正に地獄。
     以降、彼等は敵に手番を許さず連環し、
    「本当に、殺すことがたのしい? 俺は、たのしくない」
    「な――っ!」
     一体が血潮を噴いて沈む隣、紅の驟雨に濡れたサズヤが淡然を置きつつ、凍てる氷の切先に心臓を屠る。
    「殺されていい命は何処にもない」
     お前達も同じ――という言は、呵責と贖罪の念に煙って。
     ズ、ズ、と二体が血溜りに溶ければ、愈々連中も狼狽えようか、
    「ちょ、キミらマジ何なの? 名前くらい、聞いてあげるし」
    「チーム組んでんなら言いなよ、加わってやるから、さ……」
     尚も馴れ合おうとする蝙蝠に、片膝を付いていた和守は走力全開、銃剣とビームサーベルの二刀を以て薙ぎ払う。
    「貴様達に名乗る名など無い!」
     老爺には名を暴いた男だ。その言が全てであろう。
    「此処で流れた血の量だけでも、冥土で篤と詫びろ」
     彼は仲間を揃えた今も、老爺を隠す筐体の射線を離れない。
     時に葉月は戦闘と逃走に迷い始める足を【紫縁】に縫い止めて、
    「ジョン・スミスの新人育成計画も、こんな滑稽な結末を迎えるとは」
    「ぎあ嗚呼ッッッ!」
     醜い悲鳴に端整ひとつ崩さず、怜悧に言を置く。
    「癒しが、餌が尽きないと思えば、良い事かと」
    「ヒ、ッ……」
     嘗ては惨事を阻むのが精一杯だった六六六人衆の成れの果てには、紫月もジョンの代わりに嘆息して、
    「まるで失敗作だ」
     挙措を御された一体を、絶影の一撃に斬り裂く。
    「あのおっさんに利用されてる感はひしひしとするが、逆に利用して糧にしないとな」
     ――糧に。
     六六六人衆が序列を喰い合うなら、灼滅者はダークネスを屠るのが本能だが、その全てを知らぬ者は漸く恐怖に襲われたか、無様に踵を返して、
    「……無、理ッ、ッッ……!」
     畢竟、遁れられよう筈もない。
     背には筐体を足場にぴょんこぴょんこ躍動した緋色が居り、
    「私みたいな子供相手でも逃げる弱虫なの?」
     窮鼠とて噛み付く処、切り返す言もない弱虫は、当然ながらボスの下へは辿り着けず。
     少女は首謀者に代わって判定を下し、
    「――不合格だよ」
     と、吊り上げた躯を地に叩き付けた。

     斯くして六六六人衆集団『チーム・アディクション』は全滅。
     灼滅者は当初の目標通り、一般人を守りきった上で、メンバー全員の灼滅に成功した。
     ジョン・スミスは彼等に篩を渡し、選別を任せた様だが、撒いた種が育たぬまま全て食われたとならば、果たして「徒労」はどちらであったか――。
     その答えは、義気凛然と地下を出る彼等の姿にこそ見事に表れていたろう。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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