DIY六六六人衆掃討作戦~殺しは美を生むエッセンス

    作者:三ノ木咲紀

     とある山中に、別荘が建っていた。
     豪華な内装のダイニングルームのソファでくつろいでいるのは、十人の女たち。
     十代から六十代まで年齢は様々だが、全員美しい肌とつややかな髪をしている。
     彼らは、六六六人衆。
     ジョン・スミスの声を聞き、殺人衝動のままに人を殺し闇堕ちした女たちだった。
     元の生活に戻ることもできず、放浪していたところを導かれるように集まった彼女らは、似たような価値観から行動を共にするようになったのだ。
    「ねえ見て見て大姉さまぁ。このネイル、綺麗でしょ」
     お嬢様学校の制服に身を包んだ十代の茶髪の少女は、リーダー格の温和そうな老婦人に綺麗な爪を見せた。
     指先をスワロフスキークリスタルでこれでもかと盛った手を取った老婦人は、手の甲をそっと撫でながら頷いた。
    「とても綺麗ね。……それはこの間殺した『お友達』の携帯についていたものを分解したのね?」
    「そう! 全部本物だって言って自慢してたの。……あの女の顔をこの金槌でボコボコにした時、あたしの何かが変わったの。大姉さまや、お姉さま方もそうなのよね?」
     くるりと振り返った視線の先で、思い思いに体や得物の手入れをしていた女たちは一様に頷いた。
    「そうね。浮気した元カレの血を浴びて、私は気づいたの。もう何者に縛られなくてもいいんだって」
    「私は選ばれたの。私は生まれ変わって、人間とは違う存在の高みに昇ったわ。その証拠に……」
     二十代の女は、部屋の隅にいた中年男性に荒縄を投げた。
     まるで生きているかのように伸びる荒縄は、怯え切った男性の全身を締め上げていく。
     怯え、命乞いをする声を心地よく聞きながら男性を放り出した女は、激しく咳き込む男を見下した。
    「ほら、こんなこともできちゃうんだから」
    「そうね。素晴らしいわ。……みなさん」
     立ち上がった老婦人は、女たちを見渡すとにっこり微笑んだ。
    「あなた達は美しいわ。誰よりも。でも、そこにあぐらかくのは良くないこと。若くて、綺麗で、健康な人間をここに連れてきなさいね。彼らを殺して、その血に身を浸し全身を磨けば、その輝きはあなたのもの。--さあ、狩りに行きましょう。美しく知性も備えたあなた達に、靡かない人間はいません」
     頷いた女たちは、立ち上がるとそれぞれの狩場へと向かった。


    「グラン・ギニョール戦争で逃走したジョン・スミスが、ナミダ姫の陣営に加わったことが分かったんや」
     集まった灼滅者達を見渡したくるみは、一つ頷くと説明を続けた。
     ジョン・スミスはDIY殺人事件により多くの六六六人衆を生み出していたが、新参者の六六六人衆が互いに殺し合わないことに業を煮やして行動したようだ。
     六六六人衆は序列をめぐって殺し合う習性があり、生み出された六六六人衆も数多くの殺し合いを経て一人前の六六六人衆に成長する。
     はずだった。
     だがランキングマンが灼滅されたために、六六六人衆同士が殺し合うというシステムが崩壊。
     新たに生み出された六六六人衆は、同じ境遇の仲間としてチームを組み、自堕落に暮らし始めてしまったようなのだ。
     十人程度のチームを組んだ六六六人衆は、一昔前の暴走族や不良グループのように一般人を支配下に置いて命令を下している。
     ジョン・スミスがスサノオの勢力に加わったため、末端である彼らにも予知が及ぶようになったのだ。
     この六六六人衆は、六六六人衆以外のダークネスの存在も、灼滅者の存在も知らず、自分達は特別な力を与えられた特別な存在なのだ、と思い込んでいるようだ。
     辛うじて自分たちと同じ六六六人衆がいることじは理解しており、目立ちすぎる行動は避けているようだが、もう何人もの人間が殺害されてしまっている。
    「……この隙を突いて、六六六人衆のチームを壊滅させて、全ての六六六人衆の灼滅をおねがいしたいんや。もちろん、できたら囚われている一般人の保護もや」
     別荘に集まった六六六人衆は十人。
     堕ちて日が浅いからか、ダークネスとしての戦闘能力は低く、灼滅者ふたりで戦えば勝利は可能な程度だ。
     状況を整えられれば、一対一でも勝利の可能性がある。
     だが、リーダー格の老婦人は戦闘力が高く、注意が必要だ。
     彼女らは灼滅者の存在も知らないため、灼滅者を見ても「自分達よりも弱い六六六人衆」としか認識できない。
     これをうまく利用すれば、チームに加わり内部から攻撃することも可能かも知れない。
     ジョン・スミスは灼滅者との戦闘で生き延びた者だけを六六六人衆として認めて配下にくわえるつもりのようなので、援軍等はない。
     戦場は、人里離れた山中にある別荘の広いリビング。
     二十畳以上ある広い部屋は庭に面していて、出入り口は複数ある。
     彼女たちに制圧された時にホテルにいた運の悪い一般人が五名ほど、囚われて身の回りの世話をさせられたりしている。
     彼女たちを見送るため、この時全員が部屋の中にいる。
     老婦人のポジションはスナイパー。
     殺人鬼のようなサイキックを使う。
     他の六六六人衆も、それぞれが得意のDIYツールを使って攻撃してくる。
    「彼女たち……とくに老婦人は、ヤバイ思うたら逃げてまう。森の中にバラバラに逃げられたら追いきれへんさかい、何とかしてここで灼滅できるように頑張ってな!」
     くるみはにかっと笑うと、頭を下げた。


    参加者
    桜之・京(花雅・d02355)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)
    空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)
    オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)

    ■リプレイ

     別荘の玄関から乗り込んだ漣・静佳(黒水晶・d10904)は、廊下最奥部にある豪奢なドアを開いた。
     一斉に集まる、警戒の視線。突然の事態に緊張する空気を感じながら、静佳はにっこりと微笑んだ。
    「御機嫌よう。私達を仲間に入れて下さらない?」
    「いらっしゃい。当サロンへの入会希望者ね? ここにお名前と……」
     優雅に微笑みながら杓子定規な対応をする老婦人を無視した桜之・京(花雅・d02355)は、一歩進み出た。
    「もちろんタダで、とは言わないわ。手土産もあるの。--来なさい!」
     乱暴に腕を引かれ、突き飛ばすように前に出されたオリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)は、シスター服の裾を踏んでつまづくと怯えた目で老婦人を見上げた。
    「あ、あの、私……」
    「まあ、美しい。それに若くて健康そうだわ。……あなた達は、このサロンの趣旨はご存じの上で、この子を『手土産』にされるおつもりかしら?」
     値踏みするようにオリヴィアの顎を上げる老婦人に、京は微笑んだ。
    「もちろん。だって私も、憧れの人の血を浴びてから、心が晴れ晴れとしているもの」
     うっとりと目を細める京にそっと寄り添った静佳は、甘えるように京の腕に絡みついた。
    「ふふ、人間、いち、に……」
     部屋の隅で怯える人質を数える静佳の手を撫でながら、京は首を傾げた。
    「窓際の隅で震えるばかりの人が五人……一人増えても六人ね……。他にはいないの? もっと沢山集められればきっと素敵なのに」
     京の提案に、老婦人は首を振った。
    「奴隷はあのくらいで十分です。ところで、あなた達は姉妹かしら? とても仲が良いのね」
    「ええ、とても。二人同時にこうなれて、とても幸せ」
     お揃いの服を身にまとい、仲良く腕を組む姿は本当の姉妹にしか見えない。京の目に宿る静かな狂気も本物だ。連れてきた手土産の少女は、ひどく怯えている。
     老婦人は一つ頷くと、結い上げた髪から簪を一本抜いた。
    「あなた達がこのサロンにふさわしいかどうか、試させていただきますね。この簪で、手土産を殺しなさい。そうすれば、仲間に入れて差し上げます」
     集中する視線を受けながら、京は簪を受け取った。
     鋭い切っ先を向けられたオリヴィアは、シスター服を正すと蒼月の十字架を握り締めた。
    「神よ、お守りください……!」
     オリヴィアの祈りが届いたのか。裏口へ続くドアが大きく開かれた。
    「さぁ……断罪の時間ですの!」
     通話状態の携帯電話を投げ捨てて、炎を帯びたクロスグレイブの銃口を女達に向けた黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)は、浮足立つ敵前衛に向けて光線を放った。
     聖歌と共に放たれる光線に貫かれた女たちは、立ち上がるとそれぞれの道具を手にした。
    「誰!?」
    「敵襲ね! これでも食らいなさいな!」
     包囲するように動く灼滅者達へ向けて、京は簪を持った手をかざした。
     放たれる結界の霊力が、女たちの前衛へ突き刺さる。
     そこへ、詠唱が響いた。
    「姉様の敵は、私の敵」
     静佳が放つ氷の嵐が、敵前衛を襲う。
     二撃を受けた女たちは、深いダメージを押さえながら京へ向けて叫んだ。
    「何をするの!」
    「ごめんなさい、力の制御がうまくできなくて」
    「白々しい!」
     金切り声で叫ぶ女の死角に回り込んだ西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)は、実体化した影の剣を振りかぶるとディフェンダーの女に斬りかかった。
     慌てて糸鋸を構える女に闇器【影面】を振り下した織久は、声もなく崩れていく女を踏みつぶすと愉快そうに嗤った。
    「我等が怨敵は有象無象と成り果てるか。まるで腐肉に集まる蛆虫の如き有様よ」
    「あんた……同族なのになんで!」
    「お静まりなさい!」
     突然の攻撃に浮足立つ女たちを、老婦人が叱咤した。
     騒ぐ声がぴたりと止んだ女たちに頷いた老婦人は、三人に向けて冷たい視線を放った。
    「どうやら、あなた達の手引きのようね?」
     一般人へ向けて駆け寄るオリヴィアに向けて、老婦人からどす黒い殺気が放たれた。
     巻き込まれそうになる一般人を庇いながら駆け寄るオリヴィアは、憎々しげな視線を老婦人へ投げた。
    「ブラッドバスなどと巫山戯たマネを……。一人残らず叩き潰してやる……!」
    「大事な血でしょ? 早くここから逃げて!」
     敵愾心も露わにするオリヴィアの隣で、静佳は一般人へ手を差し伸べた。
    「こ、腰が抜けてしまって……」
     おろおろするばかりの初老の男性ににっこり微笑んだ静佳は、男性の腰へ手を伸ばした。
    「失礼」
     怪力無双で男性を担ぎ上げた静佳は、足早に出口へと向かう。その背中に、オリヴィアも人質の男性たちに手を差し伸べた。
    「さあ、行きましょう。ここは危険です」
     二人が避難誘導を開始した隙に窓際へと回り込んだ空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)は、回復しようと解体ナイフを構える女に向けて武器屋手製プロトタイプ咎人の大鎌から咎の黒霧を解き放った。
    「この手の近接武器は苦手だけど……お前たち程度にはこのぐらいで丁度いい」
    「まあ怖い。有象無象と私達の美、どちらが重要かは自明の理でしょう?」
     当然のことのように言った老婦人は、解体ナイフを構えた女の背中を押した。
     連撃を受け、深手を負った前衛に向けて黒い霧が放たれる。
     黒霧に包まれ、視認が難しくなった女たちに土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)は手を握り締めた。
    「こんな事、許すわけにはいきません……! ここで、止めます!」
     拳をほどいた筆一は、回復した女のいる列に向けて七不思議奇譚を語った。
     灼滅者達の攻撃に、回復手段のある者は回復へと手を取られる。
     状況を見た老婦人は、チラリと窓を見た。
    「皆さん。どうやら、拠点を放棄せざるを得ないようです。大丈夫。私達の魅力があれば、すぐに新しい拠点を手に入れることができます」
    「おばあさん達、ちっとも綺麗じゃないの。若さが足りないから、仕方ないね」
     キラキラした笑顔で挑発する久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)に、老婦人はぴくりと眉を上げた。
    「なんですって……」
    「人を殺して美しくなるっていうお考えが、醜いなの。だけど、六六六人衆の美意識ならね、普通なのかな?」
     ウイングキャットのねこさんに問いかける杏子に、錐を持った女が斬りかかった。
    「大姉さまに向かって、生意気な口を利くんじゃないわ!」
     死角に回り込んで錐を突き出す女の攻撃を避けた杏子は、突出した女に向けてバイオレンスギターをかき鳴らした。
     耳を押さえながら戦列に戻ろうとする女の背中に、ねこさんの猫魔法が突き刺さる。
    「皆さん。ここは退きます。そのように」
     額にわずかな青筋を浮かべた老婦人は、杏子を指差すと静かに宣言した。


    「まずは、ゴミ掃除してから行かなきゃね!」
     ギャル風の女は手にした出刃包丁を大きく振りかぶると、月光衝を放った。
     扇状に広がる衝撃波が、避難しようとしていた一般人へと迫る。
     攻撃が一般人に当たる寸前、オリヴィアは再び動いた。
    「彼らは、絶対守ります!」
     一般人への攻撃は絶対に通させない、という決意を持って庇ったオリヴィアの背中を、鋭い刃が切り裂く。
     その様子に、面白がった若作りの女が靴のヒールを踏み鳴らした。
    「おもしろーい! あんたたち、あの奴隷がそんなに大切なんだ。じゃあ、殺してあげるね!」
    「させませんわ!」
     炎を帯びた靴で駆け出す女との間に割って入った白雛は、蹴りを腕で受け止めると靴の女と睨みあった。
     距離を取り、火のついた腕を庇う白雛に、靴の女はにっこり微笑んだ。
    「ねえ、あんたたちもあたしたちと同じ選ばれた存在よね? あたし達と手を組まない? あんたくらい綺麗だったら、大姉さまだって……」
    「天地がひっくり返っても、あり得ませんの」
     冷笑を浮かべながらきっぱりと言いきった白雛は、炎の灯った鎌の切っ先を靴の女に突きつけると、敵愾心も露わに断言した。
    「ダークネスは全て敵。必ず殺しつくしてみせますの」
    「な、なによぅ。あんたたちとあたし達、何が違うっていうの?」
    「人は法で裁けるけど、ダークネスは裁けないの」
     虹色と青のスニーカーで駆け出した杏子は、炎を帯びた靴で靴の女を蹴り上げた。
     自分とは段違いの威力で蹴られた靴の女は、腹を押さえて低く呻いた。
    「人とダークネス何が違うって、それが全て。だから、たとえ堕ちたてでも、人を殺すダークネスは倒すんだよ」
     杏子の言葉に目を見開いた靴の女を、緋色の牡丹が取り巻いた。
    「一般人を追われると厄介だからな。先に灼かせてもらう」
     フードを目深に被った陽太が手にした怪談蝋燭から、美しい牡丹が生まれては靴の女を取り囲む。
    「や、火傷はいやぁ! 助けて!」
    「一般人の命乞いも、無視しただろう? ……死ね」
     陽太の声が届くのが早いか。靴の女は白い灰となって消えていった。
     怪談蝋燭の火を収めた陽太の背中に、荒縄が突き刺さった。
     狙い違わず突き刺さった荒縄を引き抜く陽太に、目に涙を溜めた荒縄の女は叫んだ。
    「恵様の仇を取るわよ、あなた達!」
     荒縄の女に呼応して、三人の女たちが一斉に陽太へと攻撃を仕掛ける。
     累積するダメージに眉を顰めた陽太に、裁きの光が降り注いだ。
    「あなた達の、好きには、させないわ」
     陽太の傷を癒した静佳は、無事な京の姿を目の端で確認すると静かに息を吐いた。
     陽太の様子を確認した筆一は、前衛へ目を転じると七不思議を語った。
     癒しの光を受けて回復した前衛に、筆一はスケッチブックをそっと撫でた。
     筆一のそんな様子を目ざとく見た老婦人は、挑発するような笑みを浮かべた。
    「眼鏡の坊や。あなたは絵描きなのね?」
     老婦人の言葉に顔を上げた筆一は、スケッチブックから手を離すと臨戦態勢を整えた。
    「だから、どうだっていうんですか?」
    「絵画は、美を永遠に残しておく、とても優れた方法。例え死んでしまっても、美しい少女は美しいまま保っておける。ならば……ねえ」
     目を見開き、老婦人の声から耳を離せない筆一に、老婦人は嫣然と微笑んだ。
    「美しい少女の姿は絵の中で永遠に美しく、その美と若さは私の中で永遠に美しく」
    「……黙れ」
    「それは素晴らしいこと。あなたとは分かり合えるはずよ?」
    「黙れ!」
     激しく動揺し、頭を振って内なるダークネスの衝動をやり過ごす筆一の脇を、黒い影が駆け抜けた。
    「ク、ククク……ヒハハハ!」
     狂気の目で駆け抜けた織久は、暗器【百貌】を老婦人へと突き出した。
     螺旋状の槍が老婦人へと突き刺さる寸前、少女が動いた。
    「大姉さま!」
     女子高の制服を着た少女が老婦人を庇い、攻撃を受けた少女は胸を押さえながら一歩下がった。
     その様子を見下した織久は、口元を邪悪に歪める。
    「蛆虫が美を語るとは愉快、何とも愉快、だが足りぬ! 最期の一匹に至るまで虱潰しにしてくれるわ!」
     織久の狂気を宥めるように、美しい歌声が響いた。
     京の歌声が、制服の少女を回復しようとしていたナイフの女の耳に届き、うっとりと聞きほれさせる。
     他の女たちが制服の少女を回復するのを見届けた老婦人は、歌う京へ語り掛けた。


    「あなたは、間違いなくこちら側の人間ね? 歌を聞けば分かります」
     老婦人の語り掛けに、京は歌うのをやめて老婦人と向かい合った。
    「あなたは、誰よりも私達と理解し合えるはず。こちら側へいらっしゃいな」
    「……そうね。私、嘘は言っていないもの。憧れの人を殺したの。彼女は赤の似合う人だった。気高く、美しく、何より強かった」
     老婦人の言葉にかつてを思い出した京は、ふと遠い目をした。
    「彼女の胸に刃を突き立てた瞬間、私の全ては終わったの」
    「なら……」
    「だから、比べてしまうわ。貴方達には何も感じられなくて」
     手を差し伸べる老婦人に小さく笑った京は、冷酷な目で老婦人を見下した。
    「ええ、そう。六六六人衆崩れの貴方達なんて、彼女の足元にも及ばないの」
     縛霊手を構えた京は祭壇を展開すると、老婦人へと放った。
     老婦人を取り巻く結界因子が、霊的因子を強制停止させる結界を発動させる。
     表情を強張らせる老婦人に、京はむしろ憐みの声で言った。
    「これは、手向けよ。これ以上醜くならない内に、殺してあげる」
    「そう。残念ね。……お行きなさい!」
     老婦人と京との会話に意識が集中する隙を狙ったのか。
     残された女たちは一斉に窓へと向かって駆け出した。
     灼滅者達を勧誘するわずかな隙を突き、窓際へと徐々に移動していた女たちがバラバラの方へと駆け出す。
     それを見逃す灼滅者達ではなかった。
    「そこ!」
     クロスグレイブの全砲門を開いた白雛は、逃げようとする女達へ向けて容赦ない光線を浴びせ次々に灼滅していく。
    「逃がさない」
     足を止めた女には構わずに戦場を駆けた陽太のレイザースラストが、窓へと到達しそうな女の背中を切り裂き灼滅する。
    「てめぇらはここで終わりだ!」
     咎人の大鎌を振り上げた織久の一撃が、逃走する女を塵へと返す。
     自身も窓へと身をひるがえした老婦人に、裁きの光が降り注いだ。
    「逃げたりしないわよ、ね」
    「大切なのは、生きて美を謳歌すること。必要ならば逃げます」
    「そんなこと、させないの!」
     声と共にバイオレンスギターをかき鳴らす杏子のギターの音色に思わず膝をついた老婦人の背中へ、筆一は影の剣を放った。
    「ここで、倒します!」
    「大姉さま!」
     筆一が放った影の剣が、老婦人を庇った制服姿の少女を切り裂く。
    「大姉さま……逃げて……」
     黒い霧となった少女の手を一瞬握った老婦人は、床を蹴ると窓へと駆け出す。
     その背中を、ショルダータックルが迫った。
     一般人の避難を終えて戻ったオリヴィアの龍翼飛翔を受け、一瞬立ち止まった老婦人にオリヴィアは言い放った。
    「ヴァンパイアまがいの醜い老婆! あなたの仲間は大したことなかったわね」
     ヴァンパイアへの憎悪を込めたオリヴィアの声に、怒りに目を眩ませた老婦人は振り返った。
    「あなたはこの手で殺してあげるわ! 手土産の小娘!」
     高速で死角へ入り込み、簪がオリヴィアの胸へ突き刺さる。
     至近距離の老婆に、コークスクリューブローが放たれた。
     鳩尾を強打され、体をくの字に折り曲げた老婦人に、二連撃が迫る。
    「今まで散々楽しんできたツケを払ってもらおうか。贖いの代金はお前の命だ」
    「あなたの断罪の時間ですの」
     ダイダロスベルトに貫かれ、咎人の大鎌に裂かれた老婦人から大量の血が流れだす。
     失われる血液と共に、肌から皺が失われる。骨と皮となり果てた手を見た老婦人は、自分を抱きしめながら叫んだ。
    「嫌! 嫌よ! 醜く老いさらばえるなんて嫌ぁ!」
     叫びと共に消えていった老婦人に、杏子はため息をついた。
    「なんだかね、女子力だけ拗らせたら、こうなっちゃうなのねえ……」
     一つ頭を振った杏子は、気持ちを切り替えると避難した一般人の元へと向かった。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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