DIY六六六人衆掃討作戦~大海を知らぬ者達

     郊外にある、潰れたゲームセンター。
     稼働停止した筐体が放置されたそこは、10人の男女の根城となっていた。
     いずれもDIY殺人により闇堕ちした六六六人衆だ。標的の殺害に成功した結果、社会的な居場所を失くし、何かに導かれるようにして集まった者達である。
    「体がうずくなァ」
    「ひッ」
     リーダー格の青年が、巨大なマイナスドライバーを突き立てると、怯えの声が上がった。ここでこきつかわれている一般人だ。
    「地下にいる人間を連れてこい。それとも……お前から殺されてくれるか?」
    「ひええっ!」
     転げ落ちそうな勢いで階段を降りていく一般人の背に、下卑た笑い声が浴びせられる。
    「ははッ、この力がある限り、誰も逆らえねえ」
    「あんま調子に乗らないでよリーダー。他にも私達みたいなチームがあるって話じゃない」
    「なら、そいつらも仲間にすりゃいい。でなきゃ、殺っちまえばいいだけさ。今まで埋めた奴らみてえに、な」
     そう言ってリーダーは床を蹴った。最近掘り返された痕跡のある、そこを。

     初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)の新たな報せは、グラン・ギニョール戦争で逃走したジョン・スミスが、ナミダ姫の陣営に加わった事が判明した、というものだった。
    「ジョン・スミスは、DIY殺人事件で生み出した六六六人衆が全く殺し合わない事に業を煮やし、灼滅者と戦わせる策に出たらしい」
     六六六人衆とは、序列をめぐる殺し合いを経て、成長するもの。だが、ランキングマンの灼滅により、そのシステムは機能を失った。
     そのため、新たに生まれた六六六人衆達は、同じ境遇にある仲間とチームを組み、自堕落な行動を取り始めてしまったのだ。
     それが今回、ジョン・スミスがスサノオ勢力に加わった事で予知の範囲内となり、彼らの活動拠点及び状況が判明したわけだ。
    「10人程度のチームを組んだ六六六人衆達は、一般人を従わせ、金銭の類を調達させたり、適当な人間を連れてこさせては殺しているらしい」
     彼らは、六六六人衆以外のダークネスどころか、灼滅者の存在すら知らない。
     自分達と同じ立場の六六六人衆が他にもいる事だけはわかっているため、目立つ行動は避けているが、既に何人もの人間が殺害されるなど、被害が出ているという。
    「この六六六人衆チームを灼滅した上で、被害に遭っている一般人の救出もお願いしたい」
     今回のチームは、10名。閉店したゲームセンターを拠点としている。
     全員がDIYに使用するような工具……ドライバーやペンチなどを武器とし、殺人鬼と同様のサイキックを駆使する。
    「ただし、経験不足ということもあって、戦闘力は低い。敵1人に対し、灼滅者2人で対処すれば、勝利は難しくない。上手く立ち回れば、1対1でも勝てる可能性すらある」
     そして、六六六人衆に従わされている一般人は、5名。うち2名が使い走りのように扱われており、残り3名は殺人衝動のはけ口とするため、地下室に囚われている。
    「知識不足な六六六人衆達は、君達灼滅者を見ても、『自分達よりも弱い六六六人衆』だと思ってしまうだろう」
     この認識を利用すれば、正体を偽り、チームに加わるなどして油断させることで、一般人の救出や不意打ちを容易に行う事も可能かもしれない。
    「六六六人衆、しかも数が多いのは厄介だが、しょせんは烏合の衆。更に、灼滅者に対する知識がゼロという事を逆手に取れば、撃破は難しくないだろう。健闘を祈る」


    参加者
    藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)
    槌屋・透流(ミョルニール・d06177)
    咬山・千尋(夜を征く者・d07814)
    不動峰・明(大一大万大吉・d11607)
    緑風・玲那(ラストフェザー・d17507)
    リアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    イミテンシル・ナイトフォード(白衣のバリスタ・d37427)

    ■リプレイ

    ●潜入作戦、開始
    「……おい、ツラ見せろや。そこにいるのはわかってんだ」
     仲間が談笑する中、その気配に真っ先に気づいたのは、リーダーだった。
     ゲームセンターの入り口が開き、現れたのは、4人の男女。
    「俺らより弱っちぃが……ただの人間じゃねえな」
    「さすがですね。お察しの通り、俺らは同類です」
     メンバーからの問いに、クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)が答えた。
     六六六人衆達の疑念は、来客の手元を見る事で、氷解したようだ。不動峰・明(大一大万大吉・d11607)のマイナスドライバーを始め、鋏やペンチ……それら工具は、DIY殺人によって誕生した六六六人衆を示す記号に他ならないからだ。
     無論それは、灼滅者達が敵に取り入るための、偽装である。
    「元いたチームとは、どうにもそりが合わなかったもので。迷惑でなければ、こちらのチームに入れて欲しいのです」
     明が丁寧に頼み込むのに合わせ、鋏をもてあそんでいた咬山・千尋(夜を征く者・d07814)が、肩をすくめた。
    「あたし、遊んでばっかで成績半端なく悪くてさ。周りの奴らは、陰であたしを見下してた。だから、みんなぶっ殺してやったよ」
     誇らしげに語る千尋の衣服や顔は、血まみれだ。輸血パックを使った変装であるが、その殺伐とした回答は、六六六人衆にとっては好ましいものだったらしい。
    「ははっ、こりゃまたしょうがねえ殺人狂さんだ」
    「うちらも同じっしょ」
     メンバーからのツッコミに、確かに違いねえ、と苦笑するリーダー。
    「確かに先輩方ほど強くはないですが、雑用なら任せてください!」
     そう言ってクレンドが筐体を軽々と持ち上げてみせると、六六六人衆から感嘆の声が上がる。怪力無双の力である。
     それから千尋は、リーダーを見据え、
    「チームに入れてくれるんなら、ちゃんとここのルールに従うよ」
    「私達は、適当に、衝動のままに、ただただ楽しく切り刻みたいだけ」
     リアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549)の率直すぎる言葉に、メンバーたちの間から笑い声が上がった。わかるわかる、と。
    「で、どうするよ、リーダー?」
    「ま、断る理由はねえだろ。一応、歓迎しとくぜ」
     リーダーの許しを得て、満足げな笑みを浮かべるリアナ。隅で身を縮こまらせる、明らかに一般人の男性を見つけると、
    「ところで、なんで普通の人間がいるの? あ、『そういう事』か……じゃあこれ、遊んでいい?」
    「ひっ!?」
     カッターをちらつかせるリアナに、悲鳴を上げる男性。しかし、六六六人衆への恐怖が染みついているのか、決してうかつに動こうとはしない。
    「他にもいる? どこかな……一匹くらい、いい?」
    「気持ちはわかるが、まあ落ち着けや。そいつはパシリだ。殺す用は別にいる」
     そう言ってリーダーは、地下室の方をドライバーで示した。それが、捕らえられた一般人の場所を知るための、さりげない誘導だったとも気づかずに。

    ●機を待つ者達
     一方、建物の外では。
     逃走経路の有無など、諸々の状況を確認しながら、潜入班からの連絡を待つ槌屋・透流(ミョルニール・d06177)達……通称・突入班。
     藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)は、建物から出てくる者の有無にも目を光らせる。万が一にも、使い走りが用を押し付けられないとも限らないからだ。
     やがて、緑風・玲那(ラストフェザー・d17507)の元に、潜入班のリアナから連絡が入る。どうやら、首尾よく敵に取り入る事が出来たようだ。ならば、こちらも動く時。
     自分達は、勝手に離脱した潜入班を追ってきた、元同じチームの六六六人衆。その演技プランを確認すると、イミテンシル・ナイトフォード(白衣のバリスタ・d37427)達は、建物への突入を敢行した。
    「……何故こんなに人数が多い」
     敵10人全員と、潜入班の姿を確かめると、徹也が困惑の表情を浮かべてみせた。
    「もしかして、誘い出された!?」
    「それにこいつら、思いの外手ごわそうだし」
     徹也の演技に調子を合わせ、たじろぐ玲那。相手を値踏みするように見回した透流が、苦い表情を見せる。
     二度目の来客に、六六六人衆達の向けるまなざしは、険しい。
    「なんだお前ら。こいつらの仲間か」
    「チームを強引に抜けた私達への追っ手のようですね」
     明の険しい表情を見て、六六六人衆も状況を飲み込んだようだ。
    「なるほどな。おいどうだ、うちのチームに入るってんなら、手出しはしねえぞ」
    「そういうわけにはいかない。その4人をこちらに渡してもらおうか」
     徹也の返答に、六六六人衆は互いに顔を見合わせると、首を振った。
    「どうやら、少し痛い目見ねえとわからねえようだな。すぐ殺せる一般人と違って、同類はめんどくせえんだよなァ」
     などとぼやきつつ腰を上げるリーダーに、クレンドや明が進言した。これから起きるどさくさに紛れて逃走しないよう、使い走りの2人も、地下室に閉じ込めておいてはどうか、と。
    「気が利くじゃねえか。ならそっちは任せた。こっちは先に始めてっからよ……やれ」
     リーダーの号令一下、六六六人衆が襲い掛かった。
    「……この数、予想外だったけど、もう引けない……」
     唇を結ぶイミテンシル。
    「怯むんじゃないわ、行くわよ……!」
     イミテンシルの鼓舞と共に、突入班も応戦を開始した。
     嬉々として殺人術を振るう六六六人衆達。突入班が劣勢を装う中、クレンドがメンバーの1人、スパナ使いに耳打ちした。
    「地下室の階段と、ついでに出入り口もゲーム機で塞いできました。これで逃げ場が無くなりましたね」
    「よっしゃ、後は一気に……」
    「……貴様らのな」
     変わる声色。
     直後、クレンドが、スパナ使いを切り捨てた。

    ●未知なる力
    「な……!?」
     目を見開き、傷口を押さえるスパナ使い。
     何事かと振り返る他のメンバーを、背後からの衝撃が襲った。仲間だと思っていた明から、オーラの放出をまともに受けたのだ。
    「お、おい、なんだよそれ……!」
     千尋の腕が巨大な刃に変じたのを見て、おののく六六六人衆。
    「初めて見たって顔だな。これがデモノイド寄生体だ」
     耳慣れぬフレーズ、そして背後からの奇襲。
    「てめえら、何のつもりだ!」
    「まだわからないのか?」
     明の投じたマイナスドライバーが、スパナ使いの顔面を直撃する。
    「ざけんな……ッ」
     怒るスパナ使いの表情が凍り付く。長ドスを抜く明の様子は、今までの低姿勢ではなく、相手を見下すそれへと替わっていたからだ。
    「リーダー、こいつらグルだったんだ……ぐふっ!」
    「弱者を玩び、短絡的に考え、刹那を怠惰に捨てる。そんな弱者以下の雑魚は、そう……沈めてしまいましょう」
     カッターナイフを槍に持ちかえたリアナが、スパナ使いを突き刺した。
     そして、潜入班に合わせ、突入班も挟撃する。スパナ使いを蹴り飛ばした玲那は、リアナと視線を交わす。
     機械の如く精密に振るわれる徹也の剣が、相手の反撃を潰し、やがてその胸を貫いた。
    「ぐあ……」
    「人であることを辞めた代償と知れ」
     倒れゆくスパナ使いを見下ろし、徹也が剣を濡らす鮮血を払った。
     1人目を倒した灼滅者達が、次の標的としたのは、腰の引けたニッパー使いだ。
    「こ、こっちくんなッ! 殺すぞッ!」
     想念弾を練り上げるイミテンシルに、ニッパーが突きつけられる。
    「ダークネスとはいえ、人だったモノを灼滅するのは、気が滅入るわね……」
     弾を浴びせながら、イミテンシルが溜め息をもらした。弾にこめられた毒を受け、のたうち回る姿を見るのは、敵ながら、あまり気分のいいものではない。
     玲那のウイングキャット・黒猫イージアが尻尾のリングを輝かせ、クレンドの陰から現れたビハインドのプリューヌが霊撃を放つ。
     灼滅者にとっては見慣れた戦闘風景も、この六六六人衆にとっては異質なものだった。
    「幽霊みてえな奴に猫!?」
    「なんなのよこいつらの力! 私達と違う!」
     六六六人衆の力自体は、灼滅者より上。しかし、経験が圧倒的に不足していた。何より、覚悟というものが欠けている。
    「びびってんじゃねえ!」
     怒声と共に、リーダーがどす黒い殺気を灼滅者に叩きつけた。
    「こいつらが何者だろうが関係ねえ。俺達には『力』があるんだ。それで黙らせりゃいいだけだろうがッ!」
     リーダーに叱咤され、メンバー達に余裕を取り戻す。
    「そうだ、こいつら弱っちいんだったわ」
    「選ばれた力を持つ私達が、負けるはずがない」
     殺気をみなぎらせる六六六人衆。自分の力に酔う様は、闇堕ちしたときの自分を思い出すようで、透流の胸をざわつかせる。
    「ちっ……借り物の力で、いい気になりやがって」
     舌打ちする千尋。同様に不機嫌を抱き、透流が敵にガトリングガンを突きつける。
    「名前を聞かせろよ」
    「はあ? 今から死ぬ奴にか?」
     六六六人衆のうすら笑いが、透流の不機嫌を加速させる。
    「つまんねえな……ぶち壊してやるよ」
     ガトリングガンが、破滅の音を奏でた。

    ●力に溺れし者の末路
     1人ずつ、確実に六六六人衆を仕留めていく灼滅者。
     明が相手を壁際まで追い詰めると、手元に魔力を収束させた。
     炸裂する魔弾。そして、横合いから伸びて来た徹也の影業が、爆煙ごと、六六六人衆の身を飲み込んだ。
     六六六人衆側も灼滅者に手傷を負わせていくものの、回復役の透流を、他の仲間達がサポートして、即座に態勢を整えていく。
    「俺達が何したってんだ! 人を殺ったからか?」
    「ダークネスは灼滅する。それだけだ」
     殺人技に圧倒される相手に、徹也が冷徹な言葉を浴びせる。
    「ザックリいくか?」
     千尋の声と同時、巨大釘使いの肩が血を噴く。
     千尋の武器は、鋏……それも、最初に持っていた普通のものではなく、殲術道具だ。
    「自分達は狩られないと……好き勝手出来ると、そう思ったか? 残念だったな」
     周囲を覆う、透流の夜霧。少々視界を遮られただけでも、今の六六六人衆にとっては混乱の種だ。
    「ただ楽に殺しがしたかっただけなのに……リーダー、悪いけど、あたしは抜けさせてもらうよッ!」
     身を翻す巨大釘使いが、一瞬、足を止める。クレンドの仕込んだゲーム機が、行く手を塞いでいるのに気付いたからだ。その隙を逃さず、クレンドのビームが釘使いを仕留めた。
     それでもなお、仲間を盾に逃走しようとしたメンバーもいたが、イミテンシルの斬艦刀に行く手を塞がれた直後、リアナの影に飲み込まれた。
    「卑下した相手から逃げるとは。先人達の方が余程強かったのだけど、失望したわ」
     聖剣で1人を両断した玲那が、残念を口にする。それも無理からぬ話。かつて玲那を闇堕ちにまで追い込んだダークネスは、他ならぬ六六六人衆だったのだから。
     戦いの末、仲間を残らず失ったリーダーが、ドライバーを投げ捨てた。
    「降参だ。アンタ達が強えって事は、よーくわかった」
     両手を掲げて見せるリーダー。
     だが、その直後、突き出される手刀。だまし討ちだ。
     しかし、それを見抜いていたイミテンシルが、溜め息とともに、つがえた矢を放つ。それは吸い込まれるように急所を打ち抜き、リーダーは床に崩れ落ちた。
    「ちきしょう、こんなの聞いてねえ……ぞ……」
     こんな末路のために、人間を闇堕ちさせたのか。そして灼滅者にこんな事をさせるためにスサノオと手を組んだのか。透流の、ジョン・スミスへの憤りは強くなるばかりだった。
     敵の姿がなくなった事を確認した後、潜入班の手引きで、地下室に向かう一同。
     怯える一般人達を見つけると、自分達が救出にやってきた事を説明する。にわかには信じがたいことばかりだろうが、玲那達が手当をするうち、敵ではないとわかってもらえたようだ。潜入班から種明かしされた使い走りの2人も、六六六人衆からの解放に歓喜の声を上げた。
    「ふう。みんな、お疲れ様。リアナも」
     玲那の労いに、リアナは嬉しそうに笑いを返す。
     そして徹也の顔にも、かすかに安堵が浮かんでいた。
    「これで任務は無事完了した」

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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