DIY六六六人衆掃討作戦~破れた蠱毒

    作者:六堂ぱるな

    ●井の中の蛙
     調子っぱずれの大きな笑い声が響いたが、部屋が防音でなくても階上に音は聞こえないだろう。なにせ始終大音量で曲が流れているパチンコ店だ。
    「ボス、悲鳴が聞こえるって噂になってますんで」
    「うるせえな、おまえはとっとと飯でも買ってこい!」
     ひっ、と首をすくめて男が部屋を飛び出していく。人間なんて脅せばこんなものだ。
     うっそりと部屋の中央にいる少年を振り返る。
    「おうほら、喧嘩売ってきた時の威勢はどうしたよ?」
     暴行を受けて半日になる少年には、もう反応するだけの体力も気力もないらしい。血にまみれ、息も絶え絶えに床に転がっているだけだ。
     応接のソファに寝転がった眼鏡の男が、少年を覗きこむ紫のシャツの男に声をかけた。
    「あんまハデにやんなよ。俺らみたいなのが他にもいるんだろ?」
    「そうらしいな」
     ハンマーを手にした別の男が唸る。選ばれた種の強者など自分たちだけで充分だが、そうもいかないようだ。のこぎりの目立てをする初老の男の横で、剣先スコップを担いだ女がかったるそうに天井を仰いだ。
    「死体の捨て場だってネタ切れになるわ。あんまペースあげないでよ」
     女の言葉を聞き流し、差し金を少年の襟に引っ掛けて持ちあげた男が囁いた。
    「おまえは今、生態系の頂点に立つ選ばれた強者の前にいるんだ。せいぜい足掻いてオレたちを楽しませるこったな」

    ●蛇の算段
     サイキック・リベレイターによりスサノオ勢力の動向はエクスブレインが予知するところとなる。埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)は教室へやってきた灼滅者へ渋面を向けた。
    「DIY殺人事件で新たな六六六人衆を生みだしたジョン・スミスだが、予想外の事態が起きたらしいな」
     本来序列を争い殺し合うのが六六六人衆だが、ランキングマンの灼滅などシステムが崩壊したのが祟った。新人たちは殺し合うどころか徒党を組み、一般人を従えて金を強請り、気分まかせに殺人も行っているという。
     新人たちは世界の真実――ダークネスの存在も、灼滅者の事も知らされていない。
     自分たちの他にも六六六人衆がいることは勘付いていて、目立つ真似は避けているようだ。バベルの鎖の効果を正しく認識しておらず証拠を残さないようにしているが、既に一般人が何人も殺害されている。
     新人が殺し合い研鑽することでより強い六六六人衆を補充しよう、というジョン・スミスの目論見は外れた。
     こんな体たらくは六六六人衆の尊厳にかかわる。そこで灼滅者に襲わせて選別を行おうということらしい。そのためのスサノオ勢力への参入というわけだ。
    「奴の思惑に乗るようで不愉快だが、一般人の被害は見過ごせん。新人六六六人衆のチームを壊滅させ、可能なら一般人の救出も行って貰いたい」

     チームは総勢六人、パチンコ店の地下にある事務所にたむろしている。チームの中にパチンコ店の店長がいたようだ。事務所の隣には四畳半ほどの備品庫があって、一般人はそこに閉じ込められている。
     新人六六六人衆はDIYに使う工具類を武器とし、最低限の力はあるがダークネスとしては極めて弱い。
    「一体に諸兄らが二人一組で戦えば、まず負けることはない。手練れの灼滅者がうまく戦えば単独でも勝てるほどだ」
     真実を知らない彼らは、灼滅者を『自分より弱い六六六人衆』としか知覚しない。
     下手に出てうまくチーム入りができれば、内部から初撃を加えることもできるだろう。接触方法は灼滅者次第だが、調子に乗せれば敵の隙も大きくなるから思案のしどころだ。
    「数がいることだ、全員の灼滅は簡単ではない。だが諸兄らの安全を念頭において、可能な限りの戦果を期待している」
     無論全員を灼滅できればそれに越したことはない、と告げて、説明を終えた玄乃は深く一礼した。


    参加者
    森田・依子(焔時雨・d02777)
    羽守・藤乃(黄昏草・d03430)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    虚中・真名(蒼翠・d08325)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    鈴木・昭子(金平糖花・d17176)
    遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888)

    ■リプレイ

    ●蛙の巣へ
     強い奴らに追われている。助けてくれ。
     普通なら警戒するフレーズだが、三人が『目覚めたばかり』で、副店長からここを聞いたと説明すると、地下の扉はあっさり開いた。
    「驚きの貧弱さだな。マジで俺たちの同類か?」
     薄笑いを浮かべた声音からすれば、疑っているというよりは小馬鹿にしているのだろう。三人を上から下まで眺めた『店長』の感想を、虚中・真名(蒼翠・d08325)はあえて否定も肯定もしなかった。
    「とっても強い人達がいるってのは本当だったんですねぇ。見るだけでわかります、皆さんの実力が……!」
    「そりゃあお前らとはデキが違うぜ」
    「同類がいるんなら、副店長もう殺られてんじゃないの? 昼飯どうすんだよ」
     早速偉そうな『鳶』はもちろん、『メガネ』の発言も危機感が薄い。血のついたバールを持参してきた森田・依子(焔時雨・d02777)が口を添えた。
    「あの人が居なくなったとしても、置いてもらえるなら代わりを務めますが……」
    「あいつら何気に強かったんですよう。ふつうのニンゲンじゃありませんでしたあ」
     ちりん。手首で鈴の音を響かせる鈴木・昭子(金平糖花・d17176)の甘え声を、床に突き立てたスコップにもたれかかる『墓守』があしらう。
    「あんたらが弱すぎるのよ」
    「でも表の奴ら、ここのナワバリも荒らしに来るかもですよ」
    「そいつは面白くねえな」
     昭子が投げた餌に、初老の『チーフ』が食いついて唸る。他の仲間よりはいくらか慎重派らしい『釘師』が眉間にしわを寄せて『店長』を振り返った。
    「こいつら、悲鳴の噂を聞いて来たって言ったな。外のもそうかもしれんぞ」
    「ならぶっ殺せばいいだろ。小難しく考えるようなこっちゃねえ」

     真名がスマホに仕込んだ盗聴アプリから、話は地上へだだもれになっていた。イヤホンで様子を窺う堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)の頬がぷくりと膨らむ。
    「まぁったく、あたしらは掃除屋じゃないっての」
    「ジョン・スミスの選別に手を貸す形になるのは業腹ですけれど、六六六人衆を一人でも減らす手段であれば是非もありません」
     穏やかに見える羽守・藤乃(黄昏草・d03430)だが、心中大いに嵐が吹き荒んでいた。
    (「私個人の情など……六六六人衆殲滅の為ならば幾らでも捨て去りましょう」)
     その間に階段にロープを張り、パチンコ店の外壁に『危険集団対応中・一般人立入禁止』の貼り紙を済ませた片倉・純也(ソウク・d16862)が戻ってくる。
    「簡略にだが封鎖を済ませた。地下の首尾は如何だろう」
    「順調だ。うまい具合に釣れんじゃねえかな」
     朱那から経過を聞いていたダグラス・マクギャレイ(獣・d19431)が応えて、うんざりとした表情を隠さずぼやいた。
    「しかしまあ、666人衆も諦めがわりい連中だな……やってる事が組織壊滅前と大して変わらねえ辺りは感心するけどよ。うざってえったら無えな」
    「一般人への被害が減少しない点で所感は大差ない。……遠藤、首尾は如何か」
     パチンコ店をぐるりと外から見回ってきた遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888)がぶすっとした顔で頷いた。
    「ああ、副店長には暫く戻るなってキッチリ釘刺しといたぜ。地下からは他に出入口はなさそうだな」
     あとは外へ出てくる新人六六六人衆の対応のみ。

    ●蟲はらい
     少数を事務所の外へ連れ出すべく、潜入組の煽ても最高潮にきていた。
    「ねえねえ、センパイがたはお強いのでしょう? ああいうのを手頃なエモノってゆうのでは?」
    「誰か片付けてきなさいよ。新米に示しがつかないでしょう」
     甘えたような昭子の言葉に乗ったのは『墓守』だった。自分より立場の弱い女が出来たゆえの優越だったが。顔を見合わせた男たちが依子の方を向く。
    「そいつら何人いた?」
    「私が見たのは三人です」
     複数と聞いて一瞬落ちた沈黙を乱すように、真名が声を上げた。
    「でもあいつ等強かった……皆さんに何かあったら……」
    「お前と一緒にすんじゃねえよ」
     『鳶』が彼の襟を鷲掴みにして持ちあげる。目論見どおり優越感を刺激されたようだ。目をきらきらさせて見上げる昭子の効果も大きいだろう。
    「わたしたちはよわよわですけれど、センパイたちはお強いのですもの。ひとりふたりで充分捻れますよう」
    「先輩たちほどの気迫は感じませんでしたし、縄張りを侵されるのはよくないのでは」
    「当たり前だろ。『鳶』、行くぞ。この辺でデカい面されてたまるか」
     偽りの熱意をこめた依子の煽てに乗って、『店長』がソファから立ちあがった。バールを手に扉へ向かう彼に聞こえよがしに、金槌を握りしめた真名が熱っぽく呟く。
    「堂々として凄いなぁ、僕もそんな風になりたいなぁ」
     自慢げな顔で『店長』と『鳶』は外へ出て行った。

     扉が再び開いた時、奇妙な一瞬の沈黙が六六六人衆の間にあった。無理もない、堂々と灼滅者が入ってきたのだから。
    「あれぇ? カワイコちゃん達追いかけてた筈なんだケド」
     朱那が目の上に庇をつくって部屋を見回した。三人を見つけて「いたいた」と楽しげな声をあげる。ずいと『チーフ』が前へ出て、唸るような声をあげた。
    「なんだ、お前らは。『店長』と『鳶』はどうした」
    「三人の足止めに感謝する。もう結構だ、当方で引取ろう」
     答えるつもりのない慇懃な純也の言葉に眉を吊り上げる。火に油を注いだのは藤乃の言葉だった。
    「その人達を引き渡してくれれば、見逃してあげても良いですよ」
    「見逃すだあ?」
     完全にキレる寸前の『チーフ』の前に、ダグラスががらんと音をたててバールと差し金が放り出す。仲間が灼滅されたと悟るった六六六人衆たちが色めきたった。
     すかさず真名が魂鎮めの風を吹かせて隣室の少年たちを眠らせたが、頭に血の上った六六六人衆たちは気づかなかった。
    「いい度胸だ。落とし前をつけてもらおう!」
    「今更流行らないな」
     淡々とした純也の口調もかなり怒りを買っているらしい。いきなり『チーフ』が手にしたのこぎりを一閃させた。
    「っらあ!」
     確かに六六六人衆として成長すればかなりの脅威だったろう。しかし充分な戦闘を積んでいない今、大した傷にはならない。
    「っは、蚊に刺される方が痛くない? それがお得意な訳ぇ?」
     笑う朱那が携えたworld of colorの穂先が螺旋を描く。刺突は『チーフ』の腹を深く抉り、慌てて退く彼をダグラスが追った。
    「何だ、狩りの練習にもならねえ様なポンコツばかりだな、オイ」
     火のついていない咥え煙草で笑う彼の身体を雷光が這う。容赦なく『チーフ』の肝臓を抉るようなフックが入り、純也が敵をまとめて射程に収め、強酸性の液を浴びせる。
    「お手伝いします!」
     片腕を狼のものと化した依子の銀爪が、混戦にまぎれて『釘師』の背を裂いた。
    「おい!」
    「あっ、失礼しました!」
    「えいっ!」
     真名渾身の回し蹴りが炎を噴き上げて敵を捉える――『メガネ』を。眼鏡のガラスにひびが入り、流石に怒声をあげた。
    「だから足引っ張んじゃねえよ、新米!」
    「すいません! でも僕、皆さんのお役に立ちたいんです!」
    「いいから引っ込んでろ!」
     キレる寸前の『チーフ』の怒声を浴びても真名はへらりと笑っていた。
    「大丈夫です! やれます!」
    「ちょっとぉ! 痛いわよ!」
     続けて昭子が、間合いを見誤ったような顔で縛霊手で思いきりパンチをかます。
    「あっ、ごめんなさい。まだ慣れていなくて、えへへ」
    「後ろへ行って! ちくしょう!」
     『墓守』が苛立った声をあげ、純也の放った黒い波動を浴びて身悶えた。攻撃をしようとすれば真名や昭子が転びかけて飛び込んでくる――その時になって、やっと『釘師』が事態に気付く。
    「待て。おまえらグルだな?!」
     これ以上は隠しおおせそうにない。潜入組は素早く武器を構え直し、残りの仲間がそれぞれ敵を抑える位置についた。
    「人傷つけて何がそんなに楽しいんだ、下衆野郎どもが」
     もはや嫌悪感を隠さず、穣が本音を剥き出しに眦を吊り上げると、ダグラスも愛槍Ruaidhriを手元で回して飄々と呟く。
    「弱い者いじめをするのにゃ興味無えが、してるのを見ぬ振りする気も無えからよ」
    「クソっ!」
     腰の入っていない『釘師』のハンマーをひらりと躱して、朱那が高らかに笑った。
    「あっはナニそれ、びびっちゃってんの?」
     舞うように跳び退る朱那の手元で、太陽と月のモチーフがちかりとライトを反射する。氷の粒がみるみるうちに結実し、氷弾は『チーフ』の顔面を直撃した。
    「ぐおっ!?」
    「工具も上級者に使われたかっただろうに」
     淡々とした純也の呟きを追って、六六六人衆たちを強酸性の液の雨が襲う。肉を蝕まれる感触に苦鳴をあげる『チーフ』は、肌がひりつく感覚に息をのんだ。
    「これまでです」
     藤乃の放った払暁の青が滲む護布は、焼けつく炎をまとっていた。断絶のひと薙ぎ。『チーフ』の上半身が肉の焼ける匂いを漂わせてごとんと落ちる。
     乱戦のさなかも、穣は時折己の寄生体に向けられる目に苛立ちを覚えていた。
    「てめぇらの方がよっぽど化け物だぜ。仲間には手は出させねえ!」
     掲げた交通標識が警戒色を灯し、傷ついた仲間を癒して加護を与える。
    (「研鑽、六六六の威厳……背を押し放置して、何を言ってるのでしょうね」)
     利用されることへの苦みは表情の下に隠して、依子はただ結論を告げた。
    「選別、などさせません。蠱毒は此処で、終わらせます」
     貫くためだけに作られた鈍い銀色の槍を構える。朽寄の穂先は冷気を凝らせ、一閃、氷弾が『釘師』の胸を直撃した。ばきばきと音をたてて広がる氷を払い、再び釘を放とうとする男の背に藤乃が炎の尾を引く鈴媛の刃で斬りつける。
    「ぎゃあああ!」
     ざっくりと裂かれた背が血を噴いて、ふらりとたたらを踏んだ。虚ろな目で喘ぐ男の真正面に立ち、ダグラスが息をつく。
    「情けねえこったな、それで俺が倒せるとでも? 敵を斃すってのはこうやるんだよ!」
     握った拳の中で雷光が弾けた。拳は鳩尾を打ち抜き、震える『釘師』の肉や骨が砕けて灼ける。堪らず崩れ落ちた男の身体が、ぐずぐずと崩れて溶けていった。

    ●始末の仕上げ
     もはやこの新人たちの攻撃はろくに仲間には当たらない。見切りをつけた穣は『メガネ』を追った。引き攣った顔は、こんなはずではなかったという焦りにまみれていて。
    「俺もろくでもねぇ奴だがよ。てめぇらはもっと救いようがねぇな」
     回りこむと拳を握り、骨まで擦り潰すような連撃を食らわせる。為す術もなく打たれながら『メガネ』が悲鳴をあげた。
    「嘘でしょ、こんな!」
     叫びながらもスコップを担いだ女が身を翻す。流れる聖歌を聞きながら出口へ駆けようとした途端、横合いから氷の砲弾の直撃を食らって転がった。この場の一人として見逃す純也ではない。
    「罪は我が身に返るもの。お覚悟ください」
     藤乃の足元でfairy laddersの花房が揺れる。輪のように連なる鈴蘭が滑るように床を這い、『メガネ』を捕らえて内へと引きずりこんだ。くぐもった絶叫が響き、影の花びらを押し開いて脱出した『メガネ』が声を裏返らせる。
    「わ、罠にかけるなんてお前ら卑怯だろ!?」
    「騙されたテメェの頭の程度を嘆けよ」
     振りあげられたドリルを豹のようにするり躱したダグラスが、反転しざま槍を繰り出した。Ruaidhriの刺突が獣の牙の如く腹腔に深々と突き刺さる。
    「得た力を振るうのは王様になったような気分、ですか。頂点に立つ等、とんだ驕り……奪ったからには、奪われるご覚悟はおありで」
    「あんなの殺したぐらいで冗談でしょ。私はこれから……」
    「これ以上は、ありません」
     眉間めがけて迫る剣先スコップを見据え、依子は蔦の這う深緑の刺繍が施されたクロークを翻した。女の目を一瞬裏地の闇色が眩まし、バックステップした身は軽々と壁を蹴って星が落ちるような蹴撃を食らわせる。
    「ッあ!」
    「――ひとを踏みつけるのは、楽しかったですか。引き返せなくなったのは、あなたたちの業がゆえですよ」
     首が折れんばかりの一撃を堪えた前には昭子がいた。足元から沸き上がった影――黒影が、『墓守』をばくりと呑み込みトラウマを呼び起こす。
    「いや! 来ないで、近付かないで! あんたは殺したはずよ!!」
     黒影を引き裂いてまろび出た彼女の咽喉に、一筋の赤い線が走る。
    「さようなら」
     死角から疾った真名のダイダロスベルトに断たれたと知る暇もなく、女の首は落ちた。
     身を焼かれながら『メガネ』が狼狽えた顔を部屋中へ向ける。どこにも退路はない。
    「くそっ、なんで、なんで俺だけこんな……!」
     やけくそで電動ドリルを振り回しながら、正面突破を図った先には朱那がいた。
    「……ザンネンだね。目覚めなければ、」
     良かったのに。
     言葉は空を穿つ突きがあげる音に紛れて消えた。『メガネ』の胸を蹴って鮮やかなムーンサルトで距離をとりざま、炎をまとった刺突が彼の胸に大穴をあける。
    「……があっ……」
     彼の手にした電動ドリルが悲鳴のように唸った。

    ●呪は解かれた
     空間を震わせる断末魔が消えると、六六六人衆たちの死体は初めから何もなかったように消えうせた。
    「……よかった」
     息をついた穣は、急いで備品庫の扉を開いた。三方を棚に囲まれた部屋の中で少年が転がされている。側の二人が穣を見て震えあがるのへ、駆け寄った朱那が声をかけた。
    「もう大丈夫、あいつらいなくなったヨ!」
    「ほ、ほんとに?」
    「あんま変な連中に絡むんじゃねぇぞ」
    「もうしません。二度としません!」
     半泣きの二人を朱那が、血まみれの少年には穣が治療を施した。怯えきった少年たちを眺めて、穣は自分は彼らとは違う所にいるのだと改めて実感する。
     純也は外壁の貼り紙を『生存に感謝する』というものに替えた。戻ってくる副店長には意味がわからないだろうが、純也にとっては何よりも大切なことなのだ。
    「ようし、帰るか」
     上着を肩にひっかけてダグラスが事務所を出ていく。まだ怯えの残る少年たちを連れて穣も階段へ向かった。
    「依ねーさん、名演技!」
    「どちらかと言うと、あちらが素直だったのね」
    「皆さん気分良くなかったでしょうに、お疲れさまでした」
     朱那に褒められた依子も扉をくぐりながら苦笑し、真名が朗らかに仲間に笑いかける。ちりちりと鈴の音をたてながら、昭子が純也の後へついていった。
     生命を奪われた者のことを思い、ひと時瞑目した藤乃も仲間の後へ続く。

     殺しの誘惑に堕ちた者たちは、進化することなく消え去った。
     いずれ、そう遠くなく。
     独善的な選別を強いたジョン・スミスには、ツケを払わせることになるだろう。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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