混戦の群馬密林~波紋呼ぶ石となれ

    「あの、お願いがあるんです……」
     教室に集まった灼滅者達を前に、園川・槙奈(大学生エクスブレイン・dn0053)はおずおずと話しはじめた。
     群馬密林へ赴いた灼滅者達が有力な情報を持ち帰ったというのだ。
    「群馬密林の中にアガルタの口の入口を見つけたようです。それに……ご当地怪人のアフリカンパンサーがドーター・マリアに接触しようと配下を送り込んでいた事も判明しました」
     探索していた灼滅者の活躍によって、六六六人衆とご当地怪人が戦闘となり、結果ご当地怪人が敗北し殺されたのだった。
    「現在、群馬密林ではご当地怪人と六六六人衆が一触即発の雰囲気でにらみ合う事態になっているみたいです……」

     しかし、両者がこのまま戦闘を開始する事は無いという。
     スサノオの姫ナミダ姫が戦いを仲裁すべく、スサノオ軍勢を率いて群馬密林に入っており、両者の戦いは始まる前にスサノオによって調停される事になる。その結果ドーター・マリアはスサノオの傘下に入り、ナミダ姫とアフリカンパンサーは協力関係を強くする結果になってしまうのだ。
    「この事態を静観していては、スサノオ勢が大きく戦力を増強してしまう事になってしまいます。
     そこで、みなさんにスサノオの調停が入る前に戦闘に介入して頂き、両勢力が全面戦闘を行うように工作、もしくは戦闘の混乱を利用して有力な敵の灼滅を狙って欲しいのです……」
    「介入方法についてですが……」
     ご当地怪人と六六六人衆は互いに睨み合っており、130名程度の戦力であれば気づかれずに近づく事が出来るだろう。
     また、灼滅者が戦場に近付いてからスサノオ軍勢が到着するまでは12分程度と予想されている。
     スサノオ軍勢の進行方向も判明しているため、スサノオ軍勢を足止め出来れば到着を遅らせる事も可能だ。
    「その……残念ながら、正面から戦争に介入して戦える程の戦力はないです。
     なのでいかにして、両勢力の戦端を開かせるか、戦闘が発生した後に激化させ、スサノオの仲裁を失敗させるかが肝になると言えます」
     最低限双方の戦力を減らす事が出来れば作戦は成功といえるが、
     ドーター・マリアがスサノオの傘下に加わらない、アフリカンパンサーとスサノオの関係が悪化する等の状況を生み出せれば、スサノオとの決戦で大きなアドバンテージを得られるだろう。
    「作戦の立て方次第では、有力敵の灼滅も不可能ではありません……。もし状況が許せば、狙ってみるのも良いと思います」
     ちなみにドーター・マリアの配下は群馬密林の六六六人衆六六六人衆達。アフリカンパンサーの配下はご当地怪人軍勢。ナミダ姫配下は壬生狼組をはじめとしたスサノオ軍勢達だという。

    「説明は以上です。六六六人衆の残党勢力がこれ以上スサノオ勢力に加わるのは阻止したい所です。
     みなさんどうかお気をつけて行って来てくださいね……」
     槙奈はそう言って皆を見送った。


    参加者
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    庭月野・綾音(辺獄の徒・d22982)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)
    陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)
    赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)
    加持・陽司(炎と車輪と中三男子・d36254)
    神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)

    ■リプレイ

    ●二勢力、戦闘激化
     鬱蒼と草木生い茂る群馬密林の一角ーー。
     有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)の用意した迷彩服に身を包み、密林に擬態して身を潜める灼滅者一同。
     フェイスペイントも相まって、ダークネス達に気付かれる事無く潜伏に成功している。
     陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)が覗く双眼鏡の先では、ご当地怪人と六六六人衆の戦闘が激化してく様が見て取れる。
    「作戦はうまくいっているようだね」
    「他の皆さんが頑張ってくれているんです、絶対に失敗する訳にはいきませんね……」
     狙うはナミダ姫の灼滅、その機会が迫りくるのを感じ神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)は決意を新たにするのだった。

     スサノオ軍勢が急いだ様子で仲裁へ駆け付けてゆく。彼らにとって2つのダークネス勢の戦闘が始まってしまったのは予想外の様だった。
     しかし二チームの灼滅者達がスサノオ軍の元へ向い迎撃を仕掛けた。
    「アフリカンパンサー殿とドーター・マリア殿が争う意味は無い。この戦いは、灼滅者が仕組んだ謀略である可能性が高い」
    「なんと卑劣な。両者が争うのを止めねばならない。一体でも多くの同胞を止めて助けねばならない!」
     その迎撃に憤ったスサノオ軍勢と、戦闘が始まった。
    「足止め班が時間稼ぎをしてくれている内に、僕達はナミダ姫を探しましょう」
     緊張した面持ちで加持・陽司(炎と車輪と中三男子・d36254)は移動開始の指示を出した。時を同じくして他二班もナミダ姫の捜索に動き出し、事態はナミダ姫の暗殺に向けて進んでゆくーー。
     一方、スサノオ軍の動向は。
    「足止めの灼滅者は撤退していきました。追撃は?」
    「追撃は不要。戦いの仲裁に全力を尽くすのじゃ。今ならば、まだ、仲裁は不可能ではない」
    「ははっ」
     ナミダ姫は、義憤に駆られた配下達を全軍投入し二勢力の戦いへ向かわせた。
     早期収拾こそが、スサノオ軍とナミダ姫にとって優先事項なのだった。
    「……居たわ。ナミダ姫と護衛の壬生狼達ね」
     すぐさま、庭月野・綾音(辺獄の徒・d22982)は仲裁に向かうスサノオ軍へ向けてサウンドシャッターを展開させる。
     伝令を追って本陣にたどり着いた灼滅者達が目にしたのは、ナミダ姫率いるスサノオの狼将と10体の護衛壬生狼達だった。
     密林に忍びつつ、志を同じくする三班がスサノオ本陣を包囲。
    (「……いつか、この機会が来ると思っていた。可能なら、ここで討ち取りたい」)
     強襲のタイミングを伺って緊張感の張り詰めた静寂の中、雄哉の野心は滾るようだ。

    ●ナミダ姫と対峙の時
     我が射線に首魁の姿を捉えた白焔が、鬱葱たる木立より飛燕と羽撃いた。
    「――その首、貰い受ける」
     狙いはナミダ姫ただ一人。
     白焔(d03806)の灼罪の十字碑より放たれた光弾は聢と首を――否、僅かに身じろいだ姫の首飾りを砕き、ほろと零れる欠片が、スサノオらを吃驚と瞋恚に衝き上げた。
    「ッ! 何奴!」
    「灼滅者がまだ潜んで――!」
     直ぐさま抜刀した壬生狼は、一度は持ち上げた視線を今度は大地へ引き戻される。
     その攻撃を鏑矢に、草木の避けた路を軽快に進み出る鳳花。
    「さてと大博打。まあ損はしないさ。損をするのはキミだよ、ナミダ」
     放った光の銃砲は真っすぐナミダ姫を捉える。
    「ジャイアントキリング、いってみましょ!」
     スレイヤーカードを解放し、赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)はカウボーイ風衣装にチェンジ。
    (「仲裁に行ったスサノオ軍が気づいて戻ってくる前に決着つけなきゃね」)
     護衛に構う余裕は無く、三班総力を投じてナミダ姫へ怒涛の攻撃を紡ぐ。
    「灼滅者共、許さぬぞ!」
     姫を護ろうと壬生狼の護衛が身を挺して銃撃を浴びる。傷ついても毅然として剣戟を振るうが、庇いに入った雄哉がそれを受け止めた。
     護衛の壬生狼達の後ろで存在感を放つナミダ姫。
    「戦う理由の無いダークネス同士を争わせて殺し合わせようとする、それが灼滅者の意思だとはのう」
     嘆くように呟いて、ふわりと薄絹を靡かせ舞い踊れば、
    「くっ……!」
     ナミダ姫から放たれた白い炎が燃え広がり、前列陣に襲い掛かった! 白炎は三班に及び、首魁の格をみせるかの様だ。
     圧巻の光景だが陽司は怯むことなく、
    「なんにせよ、今僕らに出来ることを集中してやるだけです」
     ダイダロスベルトの帯を放って癒しを与え、傷ついた前衛陣にウィングキャット『猫』のリングの光も降り注ぐ。
    (「覚悟、決めるか」)
     戦闘開始までは、灼滅寄りながらもナミダ姫を討伐すべきかグレーと見ていた神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)だが決断と共に銃剣を構えた。
    「行くぞ」
     短く告げると、三成が応じて護衛の守りを掻い潜り、ナミダ姫へと進み出る。
    「ヒャッハー! ちょっと俺と遊ぼうぜぇ!!」
     穏やかだった戦闘前とはまるで別人、凶暴な見た目どおりの戦闘狂のようになり両手にオーラを纏う。
     護衛を相手取る時間が無いとあれば、狙うは首魁。隅也の射撃がナミダ姫の足元に撃ち込まれ、
     銃弾に気が向いている隙に、三成の撃ち放ったバトルオーラがナミダ姫の腹部に叩き込まれた。
     思わずよろけるナミダ姫の様子を見て、
    「貴様ア!!」
     狼将は黙って居られなかった。他の護衛よりも隆々とした体躯に黄金の鎧を纏った姿は正に主将の風格と言えよう。
     今は怒りのままに体中の毛を逆立てて、紅く光る眼が三成を見据える。
    「がはっ……」
     肩口をざっくりと切り裂く狼将の鋭い爪撃。ぐらりと倒れ込んだ三成の周りには、生温い血だまりが出来ていた。
    「悪ぃ、やられちまった……」
    「くそ、庇う間も無いなんて」
     一撃で回復の施しようもなく倒れてしまった三成だったが、それは狼将の標的となってしまう程の強力な一撃をナミダ姫に与えられたからこそだった。
     ナミダ姫を守る強い気持ちと力を持ち合わせた狼将の存在は脅威だが、一丸となって攻撃を続ける他ない。
    「アフリカンパンサー、すまぬ。儂がいくまで耐えてくれよ」
     白き炎を自身に奔らせて傷を癒しつつ、ナミダ姫の心中は二勢力ぶつかり合う戦場へ向いているようだ。
    「小癪な!」
     再度狼将が動く。同時に三班相手取っているとあって、他班の灼滅者も狼将の無慈悲な攻撃に遭っていた。
    「私なりの全力で行かせてもらうよ」
     あまり表情には出ないが、緊張感と決意の混じった思いで綾音の放った光の砲弾がナミダ姫目がけて飛んでゆく。
     しかし姫に届く前に、護衛が砲弾の前に身を滑り込ませた。
    「ああ、もう! あなた達邪魔だよ。いくわよバッドボーイ!」
     赤毛のツインテールと胸元を弾ませたあずさと、バッドボーイが護衛へ距離を詰める。駆けながら腕に装着した巨大な縛霊手で頬を思い切り殴りつけ、
    「にゃっ!」
     猫パンチも命中したのを横目に、あずさ達はひらりと退いた。
     攻防は続く。ナミダ姫の足元周囲を狙って、エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)のフリージングデスが猛威を振るい、
    「許サン!」
     攻撃に集中していた彼女に切りかかる護衛だったが、キツネユリが発進し剣戟を弾いた。累積していたダメージもあり、身を挺したキツネユリは消滅。
    「仲間を守ってくれてありがとうキツネユリ」
     陽司は相棒の活躍をねぎらいつつ、再び動きをみせるナミダ姫の様子を注視するのだった。
     インドの踊り子の様なエキゾチックな衣を纏い舞い踊る姫の姿は美しく、敵将でなければ可憐な舞いを見ていたい程だ。
     しかし、奔らせた白炎は中衛の者達を容赦なく包み込んだ。
    「隅也さん大丈夫ですか!?」
     早急に防護符を飛ばし、やけど傷に癒しを与える。
    「助かる」
     手当てしている間に周囲の状況を見回せば、やはり白き炎が三班に及ぶ被害を生んでいた。
    「お前達が一般人を護る為にダークネスを倒すというのならば、それは理解しよう。しかし、この戦いは認められぬ」
     ナミダ姫にはナミダ姫の通すべき信念がある。
     それが学園側と合わない今、敵として対峙する関係は避けられない。
     だからこそ、
    「……灼滅者とダークネスは、本質的に異なる存在だろ?」
     ナミダ姫の灼滅に躊躇いはなく、雄哉は右足くるぶしの黄金のアンクレットに念を送る。
     瞳が金に染まり、眼光は鋭く姫を睨み付ける。戦闘狂に豹変した雄哉は闘争衝動の赴くままに、オーラキャノンを姫に叩き込んだ。
     衝撃で殴り飛ばされたナミダ姫。宙に投げ出された小さな姫に纏わる薄絹のヴェールが目に焼き付いて……。
    「ウォオオ!」
     理性を失ったかのような狼将が、己の爪に白い炎を纏わせ襲い掛かってくる。雄哉の容赦ない一撃が狼将の逆鱗に触れたのは、ナミダ姫が深く負った傷を思ってこそ。
     爪で切り裂かれた傷口に白炎が奔る。雄哉の血の気が引いてゆく。意識が朦朧としていく中で、後を仲間に託して……。
    「これ程の力がありながら、なぜ、共存共栄を望む事ができないのか? 自分以外の全てを滅ぼさねば安心できぬのか?」
     自己回復を施しながらも、躱し切れなかった数々の攻撃は確実にナミダ姫を蝕んでいる様だった。二勢力の仲裁に自ら行こうとしていた頃の余裕は、今のナミダ姫から消えているように見える。
     とはいえ、24人掛かりで挑む灼滅者側も戦力を減じており、決着を急がねばならないだろう。
    (「灼滅は近いか、こちらも堪え所だな」)
     護衛を避けて、隅也の放った銃撃がナミダ姫を捉える。追うようにエリノアが打ち放した冷気のつららは頭を狙うが、するりと避けられてしまう。だが、そうして矢継ぎ早に繰り出された数々の攻撃が確実に姫へのダメージを稼ぐのだ。
    「お前達に少しでも誇りが残っているのならば、道を開けよ」
     尊大な振る舞いは変わらないものの、懇願ともとれるナミダ姫の言葉には必死さが滲むよう。
     妖艶に舞う姿は変わらず美しいが、躍動感に欠く代わり幼い少女の顔に愁いを感じさせる。
     そして小柄な姫から繰り出されたとは思えぬほど燃え広がってゆく白炎は、後列陣に及んだのだった。
     あずさに迫りくる炎の前に躍り出るバッドボーイ。
    「っ……! バッドボーイ!」
     盾となり消えてゆくウィングキャットへ、必ずナミダ姫を灼滅してみせると想いを告げて……。

    ●力合わせて
    「儂が倒れれば、誰がスサノオ大神の力を制御するというのか? スサノオの姫として、ここで滅びるわけにはいかぬ」
     白い炎を纏って癒しを得るも、度重なる集中攻撃を受け続けた彼女の体力が尽きようとしている事は明白だった。
     そんなナミダ姫を見据えながら、
    「ボク達がリベレイターを撃ってから君が関わった事と、ボク達も関わってね。君に保護された残党、壬生狼衆……強敵だったよ。
     彼らとした約束を果たしに来たんだ。だから、君の首を今此処で頂く」
     鳳花は綾音と共にクロスグレイブを構えた。
    「――削り切る!」
     彦麻呂(d14003)の放った真黒い執着が幾重にも首筋を絡め捕りにいく、それをきっかけに三班総力を挙げた無数の攻撃が続く。
    (「ここで決めなきゃ……ね」)
     実は気弱な心を隠して、全力で。綾音、鳳花の構えた銃口が開き、光の砲弾がナミダ姫の肢体に叩き込まれる。
     果敢たる一斉攻撃でナミダ姫の身体が大きく揺らいだ。
    「姫様!!」
     スサノオの狼将の声が飛ぶ。護衛の壬生狼組の手は、届かない。
    「――……!!」
     鋭い爪を振るい、ナミダ姫が幾つかの光弾を斬り刻んでいくも空しく、多方向から叩き込まれる数々の攻撃がそれを相殺するのだった。ルーパス(d02159)ルイセ(d35246)の噴出した帯、奏でられた音波が襲い掛かり、レオン(d24267)の冷気のつららが姫を貫いて。
     誰の一撃がとどめとなったのか分からない程の集中攻撃の末、ついにナミダ姫は膝を折る事となった。
     戦場を静寂が支配する。そしてーー。

    ●密林、白炎に覆われて
    「くっ……スサノオ大神の力が暴走を止められぬか。狼将よ、残軍を率いて急ぎこの場を離れるのだ。アフリカンパンサーとドーター・マリアにも、撤退の指示を……」
     事切れたナミダ姫の身体が消滅すると共に、みるみる内に群馬密林すべてが白い炎に覆われてゆく……。
    「撤退しましょう、皆さん急いで!」
     陽司の声が飛び、灼滅者達は速やかに密林を後にしたのだった。
     衰える事無く白炎燃える密林を眺めて隅也はふと思う。
    「群馬密林も、アガルタの口も全て、スサノオ大神に飲み込まれたか……。あの中がどうなっているか、すぐに調査する必要があるな」
     ナミダ姫を討ち果たす事に成功し、スサノオとの決戦は勝利したといっても過言ではない。
     それは多くの灼滅者達の連携の賜物であると言えるだろう。

    作者:koguma 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月8日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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