混戦の群馬密林~世界は君の選択次第

    作者:空白革命

    「皆、群馬密林がヤバイ戦場になりそうだ」
     武蔵坂学園空き教室。大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)が灼滅者たちに説明したのは、そんな話だった。
     話はつい先日、群馬密林を探索していた灼滅者たちがアガルタの口(入り口)と、アフリカンパンサーが配下を送り込んでいた事実を発見したことに始まる。
     ご当地怪人と六六六人衆は戦闘し、怪人側を灼滅してしまったために群馬密林はいまアフリカンパンサーとドーターマリアによるにらみ合い状態に入っているそうだ。
    「事態は思ったよりも複雑でな、にらみ合ってはいるが戦闘には入ってない。しかもスサノオ勢力のナミダ姫が仲裁に入ろうとしているんだ。
     もし放置すればドーターマリアはスサノオ傘下に入り、アフリカンパンサーとスサノオは協力関係になっちまう。思いつく限りで最悪のケースだ。
     これを阻止するために、その場に介入して欲しい。
     介入して何をするかは、いくつか選択肢があるから相談して選んでくれ」

    「ご当地怪人と六六六人衆はにらみ合い状態にある。130名程度の戦力であれば、気づかれずに近づくことができるだろう」
     近づいてからスサノオたちが到着するには12分程度とされている。これに関してもルートが分かっているので、彼らを足止め出来れば到着を遅れさせることができるだろう。
    「悔しい話だが、正面から戦争に介入して戦うにはダークネス連中が強すぎる。
     いかにして戦端を開かせるか。そして激化させるか。さらにはスサノオの仲裁を失敗させるかが勝利の鍵になるだろう」
     この作戦の目的は双方の戦力を減らすことだ。だがそれとは別に『ドーターマリアがスサノオの戦力に加わらない』『アフリカンパンサーとスサノオの関係が悪化する』といった状況を生み出させれば、スサノオとの決戦でそれだけ有利を得られるだろう。
     作戦の立て方次第では有力敵の灼滅とて不可能では無い。
    「こいつは合同作戦だ。皆がどんな選択をするかで未来が大きく変わってくる。けれどどんな選択をとったとしても、俺は皆を信じるぜ!」


    参加者
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)
    城・漣香(焔心リプルス・d03598)
    佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    矢崎・愛梨(高校生人狼・d34160)
    月影・木乃葉(レッドフード・d34599)

    ■リプレイ

    ●アフリカンパンサー襲撃チーム
     ご当地怪人、六六六人衆、スサノオ。現存するダークネス勢力の殆どが会するこの群馬密林にて、ある任務を帯びた八人の灼滅者たちがいた。
    「かろうじて人数が集まった……というような感じか」
     木の幹に身を隠し、駆け足で通り過ぎるご当地怪人たちを観察する佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)。
     その足下では、矢崎・愛梨(高校生人狼・d34160)と月影・木乃葉(レッドフード・d34599)がオオカミに変身して草むらに身を潜めていた。
     バベルの鎖がある以上見たら(想定命中率の具合で)灼滅者と分かるのだが、逆に言えば見つからなければよい。
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)もまた、同じ理由で猫変身して身を隠していた。
     近くにも、同じように仲間たちが身を隠している。
    「情勢を読んだ作戦も必要なんですが……やっぱりどうも、こういうのは私好みじゃありませんね」
     マジカルグローブをぎゅっと握ってあたりのダークネスの動きを見張る白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)。
    「まーまー。乱闘に紛れて奇襲っていうのも、たまにはいいじゃん?」
     城・漣香(焔心リプルス・d03598)が丁寧に草をかきわけながら、ダークネスの居ない方へと進んでいった。
    「んみゅ? 『隠された森の小路』は使わにゅのか?」
     漣香のあとに続くように足音を殺して歩くシルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)。その腕には猫変身した神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)が抱えられている。
    「素早きゅ進めりゅじゃろ」
    「進めるし、数分で元に戻って痕跡も残らないけど……逆に言うと数分元に戻らないじゃん? モロバレじゃん?」
    「モロバレじゃな」
     僕らこっそり移動してますよよ言ってるようなものである。
     そういう意味では、足跡が獣のそれになる猫変身やオオカミ変身はアリなのだが、ギリギリ背後まで近づいて奇襲するのには向いていないようだ。見たらバレる的な理由もあるが、オオカミやネコの状態で駆け寄って手加減攻撃相当の奇襲を仕掛けるくらいなら、灼滅者パワーでダッシュアタックをかけた方がずっと有効だという理由がある。奇襲をかけても人間みたくワンショットで死んでくれないのだ、連中。
     よそではご当地怪人と六六六人衆の戦闘が始まっているらしい。
     ご当地怪人の一部が『アフリカンパンサー様からの伝令だ! 即刻戦闘をやめよ!』と叫びながら走っているが……。
    「いかんせん密林での混線ですからね。伝令が戦略的に有効化するほど機能していないようです」
     人の状態にもどった流希が装備を調え始めた。というのも、恐らく目標が近いからである。
    「伝令として走っているご当地怪人とは逆の方向へ行けばアフリカンパンサーがいる。たった1チームだけど、うまくたどり着けそうだね」
     同じく変身を解いた愛梨と木乃葉が突撃の姿勢をとる。
     理由はいわずもがな。
     アフリカンパンサーの姿を肉眼でとらえたからだ。
     変身を解いた蒼が、蝶の飾りがついた杖を握りしめた。

    ●戦略的奇襲
    「どういうことなの? ボクは戦闘をやめろって言ったんだよ。なんで皆戦ってるのかな?」
    「分からないヌ。伝令は何度も出している筈だヌ」
    「伝令が伝わるまえに殺(ギョろ)されてしまっているか、あるいは……とにかく何かが起きているのは間違いギョざいません」
     アフリカンパンサーを中心に、特徴的なしゃべり方をするご当地怪人が二人。
     それぞれクロコダイルのようなかぶり物をした怪人と、ピラニアのようなグローブをした怪人である。
     アフリカンパンサーはじたじたと足踏みした。
    「もー! 皆にもう一回戦っちゃダメって伝えて! 護衛ももう一人送っていいから!」
    「しかし……」
    「いいったらいいの!」
     骨でできた棍棒を振りかざすアフリカンパンサーに、クロコダイル怪人は深く頭を垂れた。
    「了解しましたヌ。おい!」
     物陰に身を隠していた蛇のようなご当地怪人がむくりと姿を現わし、戦場と思われる方向へと走っていく。
    「これで護衛は二人だけになってしまいましたが……ギョギョ!? アフリカンパンサー様、後ろでギョざいます!」
     ピラニア怪人の叫びに応じて振り向くアフリカンパンサー。
     しかしその時には、八人の灼滅者がそれぞれ飛びかかっていた。

    「その首、ちょうだいさせてもらうのじゃ!」
     刀に紅蓮のオーラを纏わせたシルフィーゼ。
    「潜伏した護衛まで伝令に飛ばすとは、よほど困っていたようですね」
     刀に精神のオーラを纏わせた流希。
     二人の斬撃がクロスし、アフリカンパンサーへと襲いかかる。
     咄嗟に棍棒でガードしたアフリカンパンサーだが、影業を大量に練り上げた愛梨が突風のごとく斬影刃を乱射。
     その圧力によってアフリカンパンサーは吹き飛ばされ――そうになった所をギリギリ飛び退き、シルフィーゼたちに距離をとった。
     ウロボロスブレイドを展開して斬りかかる仁貴。
     しかしそれを阻むようにクロコダイル怪人が頑丈な腕をかざし、彼の展開したブレードチェーンを自らに巻き付ける。
    「おのれ、何やつだヌ!」
    「マジピュア・ホーリースマッシュ!」
     巨大な十字架で強引に殴りつけるジュン。
     仁貴を引っ張ってとらえようとしたクロコダイル怪人がおおきくのけぞる。
    「ギョギョ!」
     その一方で腕のピラニアハンドを飛ばそうと突きだしたピラニア怪人だが……。
    「あなたの、相手は……こちらです……」
     間に滑り込んだ蒼がロッドを振り込み、蝶の形をした氷塊をピラニア怪人へと乱射。
     咄嗟に防御の構えをとったピラニア怪人めがけ、漣香とビハインド・泰流が同時に殴りかかった。
    「ギョギョオ!?」
     こちらは衝撃に耐えきれずに殴り飛ばされ、後ろ向きにごろごろと転がる。
    「ギョれは……灼滅者! 武蔵坂学園ですね!?」
    「そこまで分かれば充分です」
     木乃葉が錫杖を降り、白炎蜃気楼を展開していく。
    「一体なんの話だヌ」
    「そこまで、分かる必要はありませんよ」
     白い炎が広がり、木乃葉たちを包んでいく。

    ●演技
     二人の護衛を4~5人がかりで押さえ込み、空いた隙間を突き抜けてアフリカンパンサーへの打撃を与える。
     それが、灼滅者たちの作戦たてた即席作戦である。
    「……」
    「……」
     蒼とシルフィーゼがアイコンタクト。
     怪人2体とアフリカンパンサーという戦力を前に、1チームでは勝ち目が無い。場合によっては瞬殺されかねない戦力差ではあるが……彼らの立てていた計画には、むしろ都合が良かった。
    「後はまかせりゅ!」
     シルフィーゼがクロコダイル怪人に炎を纏って蹴りかかり、硬い鎧による防御をぶち抜く勢いで蒼も蝶の群めいた光を纏って蹴りかかる。
     二人の猛攻をクロスアームで耐えるクロコダイル怪人の一方では、ピラニア怪人が流希とジュンに手を焼いていた。
     開いたピラニアグローブから投網を放つが、それを流希が刀でばっさりと切り払い、その隙を突いてジュンが跳び蹴りを食らわせる。
     彼らのコンビネーションによって怪人たちは足止めをくらい、そしてアフリカンパンサーには漣香たちのフルパワーが叩き込まれることになる。
    「あんたもここらで潮時じゃない? オレらにさくっと倒されてよ」
     片腕を大砲のように構えた漣香と泰流が、防御姿勢のアフリカンパンサーにオーラキャノンや霊障波を打ちまくる。
    「ちっ聞いてたより手こずっちゃうね。やっぱダークネスの言うことは信用しちゃ駄目だな!」
     ぽろっと零れたように言う漣香。
     片眉を上げたアフリカンパンサーを、漣香は煽るように笑った。
    「こっちの話。今のオレらならあんたをシャクれるって教えて貰っただけだよ」
    「おしえてもらった? だれにかな?」
    「誰だと思う」
     仁貴が展開したウロボロスブレイドを相手の棍棒にまき付け、戻す力に伴って急接近。聖剣を思い切り叩き付ける。
    「奴ら、そうとう頭にきているみたいだぞ」
    「ボクは誰にって聞いてるんだよ。パンサービーム!」
     右から左に薙ぎ払うようなビームを放つアフリカンパンサー。
     仁貴への直撃コースだったが、間に挟まった木乃葉のダイダロスベルトによってわずかに散らされた。
    「けど情報と違うみたいですね。ボクら、はめられたかもしれませんよ? まだこちらに来ない。遅くないですか?」
     仁貴に話しかけているフリをして、木乃葉はアフリカンパンサーに聞こえるように声を荒げた。
     愛梨がトドメとばかりに剣で斬りかかり、感情がたかぶってつい口が滑ったかのように叫んだ。
    「あんたに恨みはないけど、人の世を守るためなんだ。けど……大嘘つきやがったな、ナミダ姫!」
    「…………」
     アフリカンパンサーは目を細めた。
    「つまり、こういうことかな?」
     首を傾げ、純粋そうな目をぱちくりとやる。
    「ナミダ姫の勢力が、ボクらを暗殺するために、灼滅者を差し向けた。うん。うん。そっか、『また』なんだね」
     何に対して『また』と言ったのか、その一瞬では判断できなかった。
     が、すぐに分かった。
    「また武蔵坂学園の灼滅者は、ボクを騙して利用しようとするんだね!」
     棍棒を力一杯振り回す。
     めちゃくちゃに暴れただけに見えるが、そうではない。あたりの樹木を粉砕し、土を巻き上げ、暴風を起こすほどのものである。
     取り囲んでいた仁貴たちはたちまち吹き飛ばされ、樹木に身体をぶつけて転がった。
     いつかのように、アフリカンパンサーは自分を利用しようとする灼滅者たちの空気を本能的に察したのだ。
    「それにもう一つ分かったことがあるよ。ピラニア!」
    「ギョ!?」
     戦いに精一杯という様子のピラニア怪人に、アフリカンパンサーが呼びかけた。
    「伝令が届かないのは武蔵坂学園の灼滅者たいのせいだったに違いないよ! ほかにももっと灼滅者が忍び込んでる筈だよ、探し出して撃破する部隊を編成するんだよ!」
    「し、しかし護衛(ギョえい)は……」
    「ボクは、クロコダイルともう暫く耐えるんだよ!」
    「ギョ、ギョギョ……!」
     戦いをやめ、一目散に走って行くピラニア怪人。
     より護衛の手薄になった戦場で、アフリカンパンサーは獰猛に笑った。
    「それじゃあ、全員死んで貰うね! パンサーキーック!」

    ●行動のゆくえ、そして成否
    「ぐヌう……!」
     クロコダイル怪人は剣を地に突き刺し、膝を突いた。
    「しっかりしてクロコダイル! もうひと踏ん張りだよ!」
    「その余裕は与えません」
     肉薄した流希が刀でアフリカンパンサーに斬りかかる。
     棍棒とぶつかり合い、エネルギーの火花を散らした。
     その隙をつき、愛梨と仁貴が突撃。同時に斬撃を放ち、アフリカンパンサーの背中をばっさりと切り裂いていく。
    「うああっ……!」
    「バレてしまっては仕方ない、なんて」
    「演技とか抜きで戦うだけなら、私も存分にやれます!」
     破れかぶれに放ったアフリカンパンサーのビーム。それをかき消すかのように木乃葉が風を放ち、ジュンが激しい砲撃を浴びせる。
     防御が傾いてきたその瞬間を狙い、漣香と泰流がダッシュパンチを叩き込んだ。その衝撃にプラスするように、二段目のダッシュパンチを叩き込む蒼。
     クリーンヒットをうけ、くるくる回りながら吹き飛んでいくアフリカンパンサー。
     空中のアフリカンパンサーをすれ違いざまに切りつけ、シルフィーゼが着地した。
    「もう、一押し……!」
    「アフリカンパンサー様ァ!」
     悲鳴のように叫ぶクロコダイル。
     トドメの集中攻撃を浴びせようとしたその時。
    「ギョギョー!」
     伝令に出ていた筈のピラニア怪人が飛び込み、身代わりに攻撃を受けた。はじけ飛び、灼滅されるピラニア怪人。
    「こいつ……!」
    「戻ってきたのか?」
    「いえ、それだけではなさそうですよ」
     周囲を見れば、無数のご当地怪人たちが灼滅者たちを取り囲んでいた。
     胸に手を当て、ぐっと奥歯を噛むジュン。
    「まだ命を落とす時ではなさそうです。皆さん、撤退しましょう!」
    「…………仕方ありませんね」
     流希が包囲の一箇所に攻撃を加えると、八人の灼滅者たちは撤退を始めた。
    「逃がすなヌ、皆殺しにするんだヌ!」
    「いや、追わなくていいよ」
     叫ぶクロコダイル怪人をとめ、アフリカンパンサーは周りのご当地怪人たちに呼びかけた。
    「すぐにアガルタの口へ向かうよ! 灼滅者が混ざっているなら、漁夫の利を得ようとしているはず。ということは……ボクの大切なマリアがピンチだってことだよ!」

     それから暫く。
     たった1チームでアフリカンパンサー襲撃の任務にあたった八人の灼滅者たちは全員無事に森から脱出することができた。
     アフリカンパンサーへの襲撃は形式上失敗してしまったが、暫く足止めをするという意味では成功したと言えるだろう。
     そしてこれらの行動が今回の騒動全体にどのような影響を及ぼしたかについては、いずれ分かることである。
     だが確実に言えることがある。
     きわめて不利な戦力差で作戦に挑んだ八人が無事に帰還した。それだけでも、充分な結果だ。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月8日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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