混戦の群馬密林~交錯

    作者:中川沙智

     群馬密林を探索していた灼滅者が、有力な情報を持って帰還したという報告があったという。
    「群馬密林の地下にアガルタの口の入り口がある事、ご当地怪人のアフリカンパンサーが、ドーター・マリアに接触しようと配下を送り込んでいた事がわかったのよ」
     小鳥居・鞠花(大学生エクスブレイン・dn0083)が明言する。探索していた灼滅者の活躍により、六六六人衆とご当地怪人が戦闘し、ご当地怪人が敗北して殺されているとか。
    「この戦闘の結果群馬密林では、アフリカンパンサー率いるご当地怪人と、ドーター・マリア率いる六六六人衆が、一触即発の状況で睨み合う事になったらしいわ」
     ただ、この両者がこのまま戦闘を開始する事はない。
    「この状況に対してスサノオの姫・ナミダが、戦いを仲裁すべくスサノオの軍勢と群馬密林に入ってる。この戦いは戦闘が始まる前にスサノオによって調停され、ドーター・マリアはスサノオの傘下に入り、ナミダ姫とアフリカンパンサーは協力関係を強くするという結果になってしまうの」
     この結果はスサノオの戦力を大きく増強する事となる。易々と看過できる状況ではない。
    「これを阻止してもらいたいの。皆にはスサノオの調停が始まる前に戦闘に介入、両勢力が全面戦闘を行うような工作をしたり、或いは、戦闘の混乱を利用して有力な敵の灼滅を狙って頂戴」
     ご当地怪人と六六六人衆は互いに睨み合っている状態である為、130名程度の戦力であれば、気づかれずに近づく事が可能だ。
    「灼滅者が戦場に近づいてから、スサノオの軍勢が到着するまでは12分程度と予想されているわ。スサノオの軍勢の進行方向も判明しているから、スサノオの軍勢の足止めをする事ができれば、到着を遅らせる事もできるでしょうね」
     当然ながら正面から戦争に介入して戦う程の戦力はない。
     いかにして両勢力の戦端を開かせるか、戦闘が発生した後に激化させスサノオの仲裁を失敗させるか、それが肝になるだろう。
    「最低限、双方の戦力を減らす事ができれば作戦は成功よ。加えてドーター・マリアがスサノオの傘下に加わらない、アフリカンパンサーとスサノオの関係が悪化するといった状況を生み出せれば、スサノオとの決戦で大きなアドバンテージを得られるわ」
     また作戦の立て方によっては、有力敵の灼滅も不可能ではない。状況が許せば狙っても良いかもしれないと鞠花は告げる。
     ドーター・マリアの配下は群馬密林の六六六人衆達。アフリカンパンサー配下はご当地怪人の軍勢。ナミダ姫配下は壬生狼組をはじめとしたスサノオの軍勢だ。ちなみに六六六人衆のマンチェスター・ハンマーやジョン・スミスは、この作戦には参加していない。
    「アフリカンパンサーとドーター・マリアの関係は、一体何なのかしら……ともかく有力な敵を討ち取るのは難しいかもしれないが、チャンスはあるわ。良い作戦を考えてみて頂戴ね」
     鞠花は手許の資料を閉じ、灼滅者達に向き直る。
    「行ってらっしゃい、頼んだわよ!」


    参加者
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)
    レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    祟部・彦麻呂(快刀乱麻・d14003)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)

    ■リプレイ

    ●疾
     密林をひた走る。
     ひとまず基点と成したのは、スサノオ勢が進行し到着するとみられる地点だ。
     生い茂る樹木や草葉に身を屈め、潜み、静かに待機する。
     遠く、戦いの音が聞こえ始める。
     ご当地怪人と六六六人衆がぶつかり始めた――正確に言うと、そう見せかけ乱戦に持ち込もうとする灼滅者達が動き始めたのだろう。
    「あっ、スサノオが動いたよ!」
     反射隠しに色を塗った双眼鏡で前方を見据えていたファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)が周囲の仲間に呼びかけた。目視され難い植物の群生地に潜伏し、皆揃って迷彩服を着ているから、遠目からざっくり見た程度では正体を見透かされる恐れはない。
     動いたスサノオ勢は仲裁役、それを足止めするチームが先に向かっていく。自分達の出番はまだだ。相手の進行方向から本陣の目安をつけておき、暫し時間と余裕を取ってから、視線を交わして進み始める。
     と、単独で密林を行くスサノオを発見した。
    「あれは伝令だ。なら後をつけていけば本陣がわかる」
     匂いを嗅ぎ分けた霊犬のギンの背を撫でながら、レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)は低く呟いた。誰も異存はない。
     気配を殺し、物音を抑えながら往く。伝令のスサノオも焦っているのか、周囲にさほど気を使ってはいないようだ。見つかる心配はない。
     どのくらい後をつけていっただろう。到着したそこには、ナミダ姫を中心として一際立派な出で立ちのスサノオ――スサノオの狼将といったところか――と、壬生狼が大勢揃っている。雑多な声が聞こえる。
    「アフリカンパンサー殿とドーター・マリア殿が争う意味は無い」
    「この戦いは、灼滅者が仕組んだ謀略である可能性が高い」
    「なんと卑劣な」
     両者が争うのを止めねばならない、そう話しているようだ。そんな中、後から合流してきた別の伝令がナミダ姫の前に進み出る。
    「足止めの灼滅者は撤退していきました。追撃は?」
    「追撃は不要。戦いの仲裁に全力を尽くすのじゃ。今ならば、まだ、仲裁は不可能ではない」
    「ははっ」
     ナミダ姫の指示のもと、スサノオの精鋭達が群れを成して前進していく。どうやら全軍を進軍させる心積もりらしい。
    「好機だ。もう少し待てばナミダ姫と護衛くらいしか残らない」
     戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)が目を眇めた。ナミダ姫暗殺に注力する灼滅者は他にも二班存在する。連携できる程度の、しかし適度な距離感を持って、じっと息を潜める。
     結果として、ナミダ姫はスサノオの狼将と警護の壬生狼十体を残して本陣に駐留する事になったようだ。
     スサノオの軍勢が分断され、姫を囲む戦力が手薄になった。この隙を逃すほど灼滅者達は愚かではない。奇襲を、誰もが狙いを定めたその瞬間だった。
    「! あれ」
     ライドキャリバー・メカサシミの傍ら、鋭い視線を投げたのは月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)だ。その先には一本の樹、そこに佇む他班の青年。
     木の上から煌青色の瞳を細め、御神・白焔が十字碑を構えた。
    「――その首、貰い受ける」
     狙いはナミダ姫ただ一人。
     放たれた光弾はナミダ姫の細首を――否、僅かに身じろいだ姫の首飾りを砕く。
     比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)が宣言する。
    「行こう!!」
     それは戦端を開く合図に相応しい。三班の灼滅者達は全力を賭して走り出す。
    「ッ! 何奴!」
    「灼滅者がまだ潜んで――!」
     壬生狼達が相対する間を潜り抜け、狙うは首魁たるナミダ姫のみ。
    「尻尾を出したからには逃す手はないよ。敵対するなら言葉は不要。その首、置いていって貰おうか」
     霊光を両手に集中させた紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)が大きく振りかぶれば、放出されたオーラがナミダ姫の脇腹を掠めていった。続いた祟部・彦麻呂(快刀乱麻・d14003)が鞭剣を振るい姫に巻き付ける事で、その動きを封じようと努める。
     元より成功率の低い作戦だ。その分だけ思い切りよく、一度きりのチャンスを最大限に生かさねばならない。
    「所詮この世は弱肉強食。強い奴が上に立つ、それだけだろ?」
     ――だったらよぉ、どっちが強いか、やってみようぜ?
     黒髪靡かせ嘯いたレオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が鋭く帯を射出する。
     ようやく落ち着いた護衛の壬生浪がナミダ姫を庇うように前に出る。スサノオの狼将がこちらを睨みつける。
     戦闘開始だ。

    ●壊
    「戦う理由の無いダークネス同士を争わせて殺し合わせようとする、それが灼滅者の意思だとはのう」
     ナミダ姫がしゃらりと舞えば、白き劫火が後列すべてを薙ぎ払う。他の班をも範囲に含む豪炎は戦場を白く染め上げる。
     音を遮断する檻を展開していたファムが手を伸べると、火種を祓うべく浄化の風が吹き抜ける。狩りが生業の一族出身である彼女は呪術めいた作法も慣れたもの。
     だからこそ、告げる。
    「悪いカミサマ退治する、トウゼン?」
    「うん、当然って感じです」
     清らかな風に背を押され、彦麻呂は流れるように殲術道具を構える。碑文から放出されるは聖歌纏う光の砲弾。他のスサノオに見向きもせずナミダ姫を狙うそれを、壬生狼が咄嗟に前に出て壁になる。
     後方に下がるナミダ姫は癒し手として。スサノオの狼将は攻撃手、警護の壬生狼は護り手として布陣する腹積もりらしい。つまり遠距離を通す技でなければナミダ姫には届かない。
     時間が惜しい。レインは人狼としての自負を胸に、紅玉の双眸を細める。
    「アンタらは敵になることを選んだ。だから、俺達は牙を剥いた。それだけだ」
     浄霊の眼差しを後方に送るギンを横目に、馳せる。爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を、後衛にいる姫に向け連射する。
     この策は時間が命。
     戦いの仲裁に向かったスサノオも、ナミダ姫が襲われたとなれば引き返してくる。時間がかかり過ぎれば増援発生で作戦が失敗する。
     先から固持している通り、護衛を無視してナミダ姫に遠距離攻撃を続ける戦闘を突き詰めるしかなかった。
     戦いは続く。護衛の壬生狼達の剣戟をレインや玲、サーヴァント達が庇いながら、只管に遠距離弾をナミダ姫に見舞う。時に護られ、時に命中精度の差で直撃は出来なくとも、それでもただただ連打する。
     ブレイズゲートを接収しようとした壬生狼組の目的は何か。
     ナミダ姫を調停者とし、灼滅者を迎え入れた人類管理。分割統治時代への回帰ではないかと、蔵乃祐は感じている。
     だがそこに人類の自由意思は存在しない。過去のそれすら蔑ろにするものだ。
    「貧困の中で僕を産み育ててくれた両親の想いと恩を裏切れるわけがない。独善的な人間の自己満足だとしても!!」
     蔵乃祐が鞭剣を迸らせ、幾重にも斬り裂きながら動きを封じようと試みる。続けざまに謡が薄く顎を引き、指先から紡いだカミの風を疾走させたなら、大きくナミダ姫の身を斬り刻んでいく。
     しかし未だナミダ姫に陰りは見えない。
    「それでも止まらないよ」
    「言葉はいらない、ってね!」
     謡の背からレオンが飛び出す。冷気の氷柱を表出させて一直線に奔らせた。
     立て続けに妖気をつららと成したのは柩だ。立ち位置を更に前のめりに、力のすべてを籠めて打ち付ける。ナミダ姫の肩口に突き刺せば、傷口から氷結が広がっていく。
    「ぐっ……!」
     ナミダ姫の声に反応したのか。他班と向き合っていたスサノオの狼将がゆらり、こちらを見据えた。狙う先は今しがた重い一撃を食らわせた彼女。
     蔵乃祐がはたと気づき声を上げた。
    「柩さん、まずい――」
     スサノオの狼将が動くほうが早い。その太刀筋は流星の如くに弧を描き、そのまま鋭く落下する。隕石に似た衝撃が襲い来る。
     だがそれを受けたのは直前に滑り込んだ玲だ。想像以上の威力は彼女の体力を根こそぎ奪っていく。
    「……っ、なめるなッ!!」
     それでも気迫で、意地で、玲は限界を凌駕する。脂汗をかき、肩で息をして。
    「じょうだん、じゃ、ないよ。まだまだこれからでしょー」
    「ダイジョブ!?」
     不敵に笑んだ玲の背を支えるべくファムが駆ける。すぐさま回復の矢をその胸に番え、少しでも体力を取り戻させんと懸命に。
     まさに一進一退。果てはまだ、見えない。

    ●絶
     守りを固めたサーヴァント二体は既に消滅していた。
     回復手のみでは治癒は追い付かず、護り手達もヒールに回る。複数名を一気に薙ぎ払う白炎や刀の斬り払いで傷は蓄積していく。
     しかし今はここにいない序列第二位に倣うかのように、ファムは心がけていた。
     すなわち。
    「アイテの嫌がる事、ゼンリョクで!」
     誰もが少しでも長く立っていられるようにと努める彼女の努力は、今目の前の仲間達が熟知している。柩が頷き、氷の穂先をスサノオの首魁に投げつける。
     玲が意志持つ帯を鎧化して癒しと防護を同時に付与すれば、レインが予知を妨げる『白き炎』を放出し棚引かせる。
     対してナミダ姫も自らを癒す白焔を燃やす。
    「これ程の力がありながら、なぜ、共存共栄を望む事ができないのか? 自分以外の全てを滅ぼさねば安心できぬのか?」
    「俺はさァ、人狼だから。いずれスサノオになった時を考えてたんだ。昔、俺がアンタを気にかけて、アンタに与した理由はそれだけ」
     レインは軽薄に笑んで、静かに告げる。
    「戦争っつーのは起きちまったら生きるか死ぬかだ。……仲良しごっこも楽しかったよ、俺は」
     その間を突いて動いたのはレオンだ。可能な限り早い手番で動くよう心がけた彼の所作は無駄がない。
    「がら空きだ!」
     帯を鋭く射出したなら強かに鳩尾を貫く。更に構えたのは彦麻呂と蔵乃祐だ。目標に攻撃が届かない場合を懸念して遠距離を中心とした攻撃構成で固めていた。油断はない。彦麻呂が鞭剣を蛇の如くに疾駆させ、蔵乃祐が十字架掲げ凍らす光弾をぶっ放した。
     迎え撃つ壬生浪勢の攻撃を玲とレインでいなしつつ、どうにか戦線を維持していく。
     ふと、スサノオの狼将が他の班を狙い撃つ様子を見ていて気が付いた。玲と柩は顔を見合わせる。
    「多分、直前に一番重い攻撃をした人が狙われてるね」
    「だからさっきはボクが……まったく、嫌らしいね」
    「――でも」
     謡は包帯だらけの肢体を前に出し、紫苑の彩施す禍々しい十字砲を肩に構えた。その様は、ため息が出るほど美しい。
    「加減するほど優しくないんだ」
     同じ技を使う者は他の班含め複数いた、だがその砲撃はまさに圧巻。それは壬生浪が息を呑むほどの速さでナミダ姫を真正面からぶち抜いていく。
    「くっ……」
     たまらずナミダ姫が眉根を顰めた。確かな手応えがあった。
     それを見定めた敵がいた。スサノオの狼将は牙を剥く。
    「アブナイ!!」
     後方のファムからは動きがすぐ見て取れる。だが誰の護りも届かない。先に柩を穿ったものと同じ技、その秘剣は流星に似て、鋭く重く深く斬り裂く。
    「……!」
     それは紙一重で耐え続けていた謡の体力を残さず奪い去る。ぐらり身体が揺れ、意識を手放した。
     これ以上は許さないとばかりに残る前衛陣が立ちはだかる。ナミダ姫が血を拭いながら、零す。
    「お前達に少しでも誇りが残っているのならば、道を開けよ」
    「いやなこった。……って言ったらどうする?」
     レオンが飄々と言い放つ。
     ここで討ち取る事こそ、誇りの証明だ。

    ●破
     壬生浪の三段突きから柩を庇い、果敢に前線を支えた玲が力尽きる。それを見届けたからこそ揮う力は勇ましい。
    「スサノオの姫ナミダ、キミはここで終わりだ。ボクたちを敵に回したことを、あの世で精々悔いるがいい」
     柩が直撃させた雷は稲光を華々しく轟かせ、この世の栄華はむなしく消え去ると示すかのよう。ナミダ姫は奥歯を強く噛む。
    「儂が倒れれば、誰がスサノオ大神の力を制御するというのか? スサノオの姫として、ここで滅びるわけにはいかぬ」
     癒しの白炎がナミダ姫の傷口を辿る。しかし集中攻撃を連続で受けた彼女の体力が尽きようとしている事は明白だ。
    「盟約なんて打算で結ばれた口約束」
     彦麻呂が嘯いた。災厄たる黒色の双眸は確かに前を見据える。怨恨系の怪談はナミダ姫に向け昏々と語られ始め、蝕むように響き渡る。
    「相手の力を必要としない程、敵に回して問題ない程の力を手に入れたなら、反故にしたところでリスクは無いですもんね?」
     それはスサノオと、ナミダ姫と繋がりかけた関係の否定。それを上回るほどの力で友好を殴り棄て、真っ向から進み続けようとする決意に他ならなかった。他者から同意を得られないかもしれないが、今ここにいる自分は揺るがない。
     前はスサノオとも仲良くできるかもと思っていたけれど、気付いてしまった。
    「……私達は自分より弱い相手としか手を組めないって」
     いつだって後ろから刺される恐怖に怯えてる。
     だから彦麻呂は踏みしめ、吼える。
    「――削り切る!」
     真黒い執着が幾重にも首筋を絡め捕りにいく。ナミダ姫に襲い掛かる次の瞬間、他の灼滅者からも無数の攻撃が続いていく。浴びせていく。連打していく。果敢たる一斉攻撃でナミダ姫の身体が大きく揺らいだ。
    「姫様!!」
     スサノオの狼将の声が飛ぶ。護衛の壬生狼組の手は、届かない。
    「――……!!」
     鋭い爪を振るい、ナミダ姫が幾つかの光弾を斬り刻んでいく。それは相殺。しかしてすべてを損なうには能わず、残りの妖気のつららが、ギターの音波が、帯の射出が、業の凍結弾が、数えきれないそれらの波濤が深く深く穿っていく。
     果たして誰の一撃がとどめになったのかもわからぬ連撃の末、ナミダ姫は膝を折る。
     静寂が戦場を支配し、それが崩れた。戦局は決した。
    「くっ……スサノオ大神の力が暴走を止められぬか。狼将よ、残軍を率いて急ぎこの場を離れるのだ。アフリカンパンサーとドーター・マリアにも、撤退の指示を……」
     事切れる。
     その躰に死が降り立った事を示すように、巨大な白炎が発生する。それは瞬く間に群馬密林すべてを駆け巡っていく。
    「テッタイだよ!」
    「あばよーっと!」
     立ち止まる暇はない。ファムが玲を抱え声をかけたならレオンが謡を担いで走り出す。他の班とも連携し脱兎の如くその場を去る。出来る限りの遠くまで。
     無事に撤退が完了し振り返ると、群馬密林のあらゆるすべてが真白い焔に覆われていた。その正体は言わずと知れた、スサノオの。
    「スサノオの姫ナミダを灼滅したんだ、スサノオとの決戦は勝利したといっても過言じゃない。でも、残る勢力はどうなるんだろうな」
     それほどの大戦果と言ってよかろう。しかし懸念も残る、レインが何かを噛みしめるように呟けば、眉根を寄せたのは蔵乃祐だ。
    「群馬密林も、アガルタの口も全て、スサノオ大神に飲み込まれたか……。あの中がどうなっているか、すぐに調査する必要があるね」
     今ここでナミダ姫を倒したからといって、すべてが丸く収まるわけもない。

    「まだ終わらない、か……」
     柩は銀の髪靡く向こう側、猛々しく燃え盛る白の炎を見つめていた。

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月8日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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