混戦の群馬密林~卍巴

    作者:夕狩こあら

    「灼滅者の兄貴~、姉御~! 有力情報っす~!」
     先の『グラン・ギニョール戦争』で撤退した六六六人衆第五位『ドーター・マリア』が、群馬県の山中を密林化した事件について、武蔵坂学園では有志を募って探索に出ていたのだが、その彼等が有力な情報を得て帰還したと――日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)はやや興奮気味に口を開いた。
    「探索に出ていた兄貴達が、群馬密林の地下に『アガルタの口』の入り口がある事、そしてご当地怪人『アフリカンパンサー』が、密林に潜む『ドーター・マリア』に接触しようと配下を送り込んでいた事がわかったんス!」
    「マジかー」
     探索を行った灼滅者達は、幸運も味方したろう、アフリカンパンサーが差し向けたモグラ怪人と六六六人衆を戦わせて撤退したのだが、ここでモグラ怪人が敗北し、殺されている。
    「この戦闘の結果、群馬の密林では、アフリカンパンサー率いるご当地怪人と、ドーター・マリア率いる六六六人衆が、一触即発の状況で睨み合う事になったんス」
    「膠着状態なのか」
    「押忍!」
     戦力的に優勢なアフリカンパンサーは、六六六人衆が勢力として壊滅した事もあり、ドーター・マリアを傘下に加えようと威圧しているのだが、ドーター・マリアが拒否している為、話し合いは平行線を辿っている。
    「両者がこのまま戦闘を開始する事は無いッス」
     ノビルが指摘するのは第三勢力――スサノオの姫・ナミダの存在だ。
    「この状況下、ナミダ姫が戦いを仲裁すべく、スサノオの軍勢を率いて群馬密林に入ってきてるんス」
    「ナミダ姫が……!」
     交渉に長ける彼女が介入すれば、この膠着は戦端を開く前に調停され、ドーター・マリアはスサノオの傘下に、ナミダ姫とアフリカンパンサーは協力関係を強くするだろう。
    「ナミダ姫が両者を取り持っては厄介な事になるな」
    「結果としてスサノオの戦力を増強する事になるかもしれない……」
     灼滅者が懸念を示す中、ノビルは口を開いて、
    「これを阻止する為、灼滅者の兄貴と姉御には、スサノオの調停が始まる前に戦闘に介入し、両勢力が全面戦闘を行うような工作をするか、或いは戦闘の混乱を利用して有力な敵の灼滅を狙って欲しいんス!」
     スサノオの更なる強化を阻む為――灼滅者は力強く是と頷いた。
     頼もしい凛然を見たノビルもまた頷いて、
    「ご当地怪人と六六六人衆は睨み合いの状態が続いているんで、130名程度の戦力であれば、悟られずに接近できるッス」
     ノビルの予想では、灼滅者が戦場に近付いてからナミダ姫らスサノオの軍勢が到着するまで12分程度。
     スサノオ勢の進行方向も判明している為、連中を足止める事ができれば、到着を遅らせる事も可能だろう。
    「ふむ。正面から戦争に介入して戦う程の戦力はないのか」
    「押忍!」
     ここは如何にして両勢力の戦端を開かせるか、また戦闘が発生した後に激化させ、スサノオの仲裁を失敗させるかが肝になるだろう。
     灼滅者とノビルはむむり唸りつつ、
    「最低限、双方の戦力を減らす事ができれば作戦は成功」
    「そこにドーター・マリアがスサノオの傘下に加わらない、アフリカンパンサーとスサノオの関係が悪化するといった状況を生み出せれば、スサノオとの決戦で大きなアドバンテージを得られる筈ッス!」
     作戦の立て方によっては、有力敵の灼滅も不可能ではないので、状況が許せば狙っても良いだろう、と顔を合わせた。
     時にこの「有力敵」なる言に、或る灼滅者は口を開いて、
    「今回、マンチェスター・ハンマーやジョン・スミスは軍に居るのか?」
    「いや、奴等はこの作戦には参加してないみたいッスよ」
     彼等を灼滅できる機会は今ではないか、と腕組みした。
    「六六六人衆の残党が、これ以上スサノオ勢に加わるのは阻止したいな」
    「ダークネス同士争って戦力を減らしてくれれば、それだけ世界の平和が近付く」
    「アフリカンパンサーとドーター・マリアの関係も気になる……」
     灼滅者が各々の思いを口にする中、ノビルはビシリ敬礼して、
    「兄貴と姉御なら、この難局を乗り切ってまるっと解決できると信じてるッス!」
     直ぐにも相談に乗り出す雄渾を見守った。


    参加者
    ルーパス・ヒラリエス(塔の者・d02159)
    室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    風峰・静(サイトハウンド・d28020)
    ルイセ・オヴェリス(白銀のトルバドール・d35246)

    ■リプレイ


     息を潜め、気配を殺し、陰に潜む。
     其は宛ら『狩り』の様だと――風峰・静(サイトハウンド・d28020)は己が根柢に在る人狼の本能が研ぎ澄まされる感覚を得つつ、漸う騒めき出す密林の変容に耳を欹てていた。
    「睨み合いが続いていた六六六人衆勢とご当地怪人勢が動き始めたようだね」
     大地を震わせる重々しい振動や、一斉に飛び立つ群鳥が教えてくれよう。
     殊に膨張した緊迫が爆ぜる感触は、犀利を増すほど伝わって、
    「うん、撹乱部隊がうまく仕掛けてくれたみたいだよ」
     穏やかな声で是を添えたルーパス・ヒラリエス(塔の者・d02159)も、音の方向を辿る流し目は獣の如く、人狼ならざるひとおおかみの双眸を光らせる。
     一触即発の両勢力を混乱の渦に陥れんと動いた仲間は八班。
     そのうち六班はご当地怪人に扮して六六六人衆の軍勢を揺さぶり、別なる二班はご当地怪人勢を襲撃する手筈となっている。
    「この密林で各班がゲリラ戦を行えば、武蔵坂の介入と早々に気付かれる事はないさ」
     迷彩服で身を馴染ませたルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)が、仄暗い樹陰より言を零せば、葉音に紛れそうな小声をルイセ・オヴェリス(白銀のトルバドール・d35246)が拾って、
    「それにアフリカンパンサーが戦闘回避の指示をしても、伝令を断てば伝わらないし」
     和平の使者を討つは卑怯か――否、敵の連絡網を潰すは肝要と、特に戦力に不安を覚えていた緑瞳は凛然たる儘、茂みに伏す。
    「ナミダ姫らスサノオ勢は、想定外の事態に進軍を早めてくる筈です」
     早めに待機できて良かった、と胸を撫で下ろすは黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)。
     樹木や枝葉に妨げられる事なく接触地点に辿り着いた一同は、その鬱葱たる緑に潜伏して「時」を待っているのだが、
    「仲裁を急がねばならない所、ここで足止めされるとなると動揺は大きいでしょうね」
     緑陰を擦り抜ける壱越・双調(倭建命・d14063)の青瞳が示す様に、この一帯には他に四班が、スサノオ勢の介入を阻むべく待機している。
     そのうち二班が動いたのは間もなくのこと。
    「足止めを狙う皆さんが、白い狼型のスサノオと交戦を始めたようです……」
     戦局を伝える室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)の声が滲むのは、この足止めがスサノオ勢の仲裁を遅らせ、六六六人衆勢とご当地怪人勢を損耗させる重要な役割を担う一方、戦力としては多勢に無勢で、激戦となる事が理解っているからだ。
     胸に宛がった手をきゅ、と握り込める彼女に対し、御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)は遥か樹上より声を降らせて、
    「ならば相応の仕事をするまで」
     仲間の機智、奮迅に見合う働きを為す――。
     姿は見えずとも、その声の怜悧たるや、各戦場で動く精鋭の血と汗を全て利用して『目的』を果たさんと、殺意に溢れている。
     目的とは、言わずもがな、スサノオの姫ナミダの灼滅。
     その為に集まった三班は、冷静かつ冷徹に、軍勢に在る『獲物』を探り始めた。


    「アフリカンパンサー殿とドーター・マリア殿が争う意味は無い」
     だからこそ仲裁に来たというのに、望まぬ剣が交わったとなれば、火種に炎を焼べたのは――我等が進軍を楔打った武蔵坂の連中に相違無いと、スサノオらは鋭牙を剥く。
    「灼滅者めが、なんと卑劣な」
    「許せぬ」
     遥か戦場を視る眼に滲むは義憤。
     蓋し二班の襲撃に冷静を欠いた彼等が、他の伏兵を疑わなかったのは失態だったろう、
    「右翼より伝令が走り出しました」
    「あの者を追えば、ナミダ姫の居る本陣が分りますね」
     空凛が細指に示す先、黒叢を擦り抜ける影を双調が捉える。
    「丁度いい、彼に案内して貰おうよ」
    「これで戦場を探し回る手間が省けた」
     ルイセは身を低く草葉の間を、白焔は高く樹木の間を風の様に疾って。
     剣戟に紛れて伝令を追尾した一同は、そこで灼滅者の足止めに苛立つスサノオ達を発見した。
    「姫様。我等は両者の争いを止めねばなりませぬ」
    「一体でも多く同胞を助けねば!」
     強い語気で飛び交う声に息を潜めたのぞみは、枝葉の隙間より敵影を確認して、
    (「……護衛の壬生狼士が十体に……あれは、スサノオの狼将……?」)
    (「ナミダ姫も彼等の怒りを抑えない所、意見に賛成しているようだな」)
     巨躯の間に標的を捉えたルフィアは、彼等の会話を具に探った。
    「姫様、足止めに現れた灼滅者は撤退しました」
    「追撃しますか」
     一斉に集まる視線にナミダ姫は首を振って、
    「いや、追わぬ。今は戦いの仲裁に全力を尽くすのじゃ」
    「ははっ」
     まだ間に合うと、白雪の手に全軍を進めさせる。
     静とルーパスは進軍の跫音に隠れて視線を交し、
    (「ナミダ姫が襲われたと知れば、引き返してくる軍勢だ。それまでに仕留めないと」)
    (「連中がある程度離れた頃合が仕掛け時だね」)
     暗殺に掛かる時間、軍勢が戻るに要する時間から、距離を割り出す――其は畢竟、奇襲のタイミングを見出す事と同義で、自ずと空気が張り詰めた。
     緊迫が胸を押し上げる中、蔚然に潜み、本陣を囲繞する三班が時を待って幾許――。
     刻下。
     我が射線に首魁の姿を捉えた白焔が、鬱葱たる木立より飛燕と羽撃いた。
    「――その首、貰い受ける」
     狙いはナミダ姫ただ一人。
     灼罪の十字碑より放たれた光弾は聢と首を――否、僅かに身じろいだ姫の首飾りを砕き、ほろと零れる欠片が、スサノオらを吃驚と瞋恚に衝き上げた。
    「ッ! 何奴!」
    「灼滅者がまだ潜んで――!」
     直ぐさま抜刀した壬生狼士は、一度は持ち上げた視線を、今度は大地へ引き戻される。
     見れば今の攻撃を鏑矢に、三班の精鋭が一斉に爪弾いて、
    「君達の狙いを台無しにしてあげよう。『絶対に』」
    「新鮮な一品モノの姫君の首。獲りにいかない理由はないよね」
     結界を構築する静然り、白布を延伸するルーパス然り、全ての攻撃がナミダ姫へと収斂されていく。
    「させるものか!」
    「我が命を盾に、姫をお護りする」
     その多くは壬生狼士が剣閃に弾き、或いは庇い出て命中を拒んだものの、姫に創痍を負わせた者には、スサノオの狼将が返報の爪を振り下ろす。
    「姫に仇なす無法者めが!」
     激烈にして強靭なる狼爪が、肉を喰らい、骨を砕く。
     その圧倒的殺傷力に幾人が目を瞠る中、のぞみは緊張を嚥下して布陣を見破り、
    「メディックに据わるナミダ姫を、ディフェンダーの壬生狼士が守り、攻撃はクラッシャーの狼将が担う戦陣ですね……」
     清風を巡らせんと繊麗の手を翻した矢先、ナミダ姫が身に纏う薄布を嫋やかに翻す。
    「戦う理由の無いダークネス同士を争わせ、殺し合せる。それが灼滅者の意思とはのう」
     真狼白焔舞――艶舞が織り成す白き炎が、波濤となって前衛を丸呑みにする。
    「気をつけて下さい! 列攻撃は全チームに及びます!」
    「わふっ!」
     即座に空凛が聖風を、絆が幽光を紡いで警戒を叫ぶ。
     まるで三班二十四名での決死戦だと、癒しを受け取った双調は桜唇を引き結んで、
    「ナミダ姫の首狙いと解れば、彼等も全身全霊を以て私達を仕留めに来るでしょう」
     其も覚悟の上と、禍き白炎を鬼神の怪腕に切り裂いた。
     時にルイセは美し四肢を躍らせてリズムを刻み、
    「キミ達を殲滅してから姫の首を、なんて贅沢は言わないよ」
    「ああ、狼将も護衛も一切無視だ。遠距離攻撃でナミダだけを狙う」
     彼女の言を継いだルフィアは、聖十字より光を射て巨躯の壁を掻い潜る。
    「くっ、灼滅者め」
    「狙いはあくまで姫か」
     猛牙を剥いて怒るスサノオ達、その熾烈な反撃に流血を許しつつ、灼滅者はナミダ姫への攻撃を一縷と緩めなかった。


     先に兇手の肺を焼いた狼姫の白炎は、此度は己が瑕を癒して、
    「アフリカンパンサー、済まぬ。儂がいくまで耐えてくれよ」
     主君の負傷に激昂した狼将が、流星の如き爪撃に血を繁噴かせる。
    「我が姫に刃した罪、万死に値す」
     加えて、本陣に残された壬生狼士も相当の手練であったろう、
    「汝(うぬ)等の剣が届くより先、我等の牙が其を屠る」
    「いざ参る」
     彼等は守壁を掻い潜る冴撃を手折り、また身に負って、執拗にナミダ姫を狙い続ける軌跡を幾度と阻んだ。
     また彼女自身も高確率で回避する為、戦局は手数に反して厳しく、1ターン毎に各班の誰かが倒れる死闘となる。
     蓋し先の戦争で宿敵を滅し、目標を失ったルーパスは、今の惨澹も仕事と思えば飄と務めよう。創痍と流血にぼやけた口角は淡然を零して、
    「闇の根源は怒りだというけど、君は何に怒ってるのかな」
     霊気波打つ導眠符に問いを乗せる。
     狼姫は舞って之を遁れ、
    「お主達が一般人を護る為にダークネスを倒すというなら、それは理解しよう。然し、この戦いは認められぬ」
     ――母娘を争わせるなど、と。
     今度は中衛に白炎を踊らせ、追撃に踏み出る足を灼いた。
     激痛を絞る仲間の声を背に、双調は闇影【天狐】を疾らせ、
    「貴方も戦いに介入しようとしたではありませんか。果たして其が、スサノオの躍進を考えずしての善行だったでしょうか」
    「ッ、くッ!」
     鋭い漆黒が白皙を斬った瞬間には、スサノオの狼将が火球と迫り、畏れを纏った双爪に引き裂く。
    「姫に説教を垂れるなど許さぬ」
    「ッ双調さん!」
     悲痛な叫びに直ぐに反応したであろう絆は、既に消失している。
     空凛は膝を折る夫に駆け寄り、【天の絹織】に止血を試みるが、死を免れたのが幸甚の深手に、安堵と恐怖で胸が震えた。
     然し芯の強い彼女は気丈に唇を噛んで、
    「貴方を闇堕ちから助け出した私です。必ず護ってみせます」
     必ずや神凪家に連れ帰る、と不撓の盾と屹立した。
     多くの者の血を代償に、ナミダ姫も漸う損耗を見せ始めたか、
    「これ程の力がありながら、何故、共存共栄を望めぬ? 自分以外の全てを滅ぼさねば安心できぬのか?」
     自らを癒しながら問い掛けるスサノオの姫に、ルフィアは彼女が目指した『分割統治時代への回帰』を思い起して、
    「人、ダークネス、灼滅者……私は全ての古き価値観を破壊する。その先に灼滅者同士の喰らい合いがあろうとも、過去に囚われるより佳い」
     決意を。
     訣別を。
     黒刃の疾走を以て告ぐ。
    「だから、貴様はここで逝け」
     未来には要らぬ者と突きつけられる冴撃は、彼女に続いて四方より飛び込み、轟音と波動が軍庭を揺らす。
     凄まじい衝撃に蹈鞴を踏んだナミダ姫は、吃、と囲繞を睨めて、
    「お前達に少しでも誇りが残っているのならば、道を開けよ」
    「退けい灼滅者!」
     一斉に月光を差す狼の剣撃と、空を染める血飛沫に、のぞみが首を振った。
    「いいえ、退きません」
     後衛に廻る白炎は、彼女の満身を容赦なく灼くが、【混沌冥竜環】は痛痒に傾く身を聢と支えて、
    「仲間を守りつつ自分も倒れたりしない――それが私の矜持です」
     決して包囲は崩さないと、凛然を以て返す。
     互いに退けぬ道か、灼滅者は血濡れた顔貌を拭いもせず反駁の撃を衝き入れ、一貫してナミダ姫だけを削り続ける。
     徹底した遠距離攻撃に狼姫は柳眉を顰めて、
    「儂が倒れれば、誰がスサノオ大神の力を制御するというのか? スサノオの姫として、ここで滅びる訳にはいかぬ」
     須臾、我が身を癒す白炎にも翳りを視た白焔は、立木の陰より闇黒の刃を放った。
    「お前も死を撒くモノと変わらない。潔く冥府へ逝き閻魔に裁かれろ」
     今度は首を護る飾りもない。
     地を疾り、標的の脚を登って咽喉を目指した影刃は、ナミダ姫の鎖骨を穿って大きく身を反らせる。
    「貴様ッ、只では死なせぬぞ」
     刹那、スサノオの狼将が報復の撃を振り下ろさんと迫るが、彼が『1ターン中、ナミダ姫に最もダメージを与えた者に反撃する』と読み切った静が、庇うも及ばぬ神速の爪を【オトナシ】に預った。
    「ぬっ、貴様!」
    「僕は鼻が良いからね、しょうがない」
     二度と立てぬ激痛を浴びつつ、我が身を突き動かした『誰かの役に立ちたい病』を笑う。
     否、それは宿敵を前にした本能でもあったろう、彼は倒れ様に咆哮して、
    「意地を見せよう、僕等の牙を!」
     絶え間ない集中攻撃に底を見せ始めた白き炎――ナミダ姫の限界と、その終焉を手繰らんと、拳を突き上げた。
     時に。
     昏々と怪談を紡いでいた彦麻呂の、真黒い執着が首筋に絡んだ瞬間、一切が集う。
    「――削り切る!」
     レオンの凍てる氷楔が。
     綾音と鳳花の業の凍結弾が。
     そして、ルイセが弾いたギターの音波が、続け様に飛び込んで。
    「届け、届け、ボクの旋律――皆の想いを乗せて、ナミダ姫を討ち取るんだ!」
     ピックが奏でる【メロメロ☆ベリーメロン】のメロディーに、仲間の、他班の灼滅者の攻撃が連なり、重なり、繋がって――果敢たる一斉攻撃が狼姫の華奢を大きく揺るがす。
    「姫様!!」
    「ナミダ姫!!」
     狼将が叫び、壬生狼士が爪先を弾くが、達せず。
     ナミダ姫は群狼爪を差し出して抵抗するも、鋭爪の疾走が相殺適ったのは幾撃で、それを上回る連撃が、白炎を刻み、削り、穿つ。
    「……――!!」
     果たして誰の一撃が王手と為ったかは解らぬ。
     白き炎が狭霧と散った静寂の後には、ナミダ姫が膝折り、崩れて。
    「くっ……スサノオ大神の力の暴走を止められぬか。狼将よ、残軍を率いて急ぎこの場を離れるのだ。アフリカンパンサーとドーター・マリアにも、撤退の指示を……」
     竟に、決した。
     言を途中に事切れた躯には死が降り立ち、間もなくその周囲に膨大な白炎が発生する。
     月白の炎塊は忽ち肥大して密林に広がり、異様に触れた灼滅者達は急ぎ撤退した。


     各戦場に配分される戦力が見事に調整された結果、首魁の暗殺に方針を一致させた三班が成功を得るに到る。
    「暗殺を成立させる為の状況作りにも援けられましたね……」
     手厚い回復に撤退の脚を支えるのぞみが言ち、之に頷いた空凛が肩を貸す双調に告ぐ。
    「私達も、各戦場で動いて下さった皆さんに応えられたかと」
    「……これで決着がつきましたね」
     スサノオとの決戦を制した、と言っても過言でない結末。
     退路を切り開くルーパスは、後ろ背に異変を見遣って、
    「全員で捥ぎ取った大戦果を持ち帰りたい処だけど……『あれ』が気になるよね」
    「……群馬密林も、アガルタの口も全て飲み込まれたようだ」
     双眼鏡で周囲を探っていたルフィアが嘆声を零す。
    「ナミダ姫を――制御を失って、スサノオ大神の力が暴走したか」
     白焔が今も巨大化する白炎を見れば、彼に担がれた静は頭だけを持ち上げて、
    「あの中がどうなっているか、直ぐに調べないといけないよね」
     直ぐに、という言葉に反応したルイセが、真剣な面持ちで頷いた。
    「うん。あの力がダークネスに狙われるかもしれないと思うと……急がなきゃ」
     勝利を喜び、奮闘を讃え合う時は短い。
     群馬密林一帯を覆い尽くした白炎を前に、灼滅者は疲弊した身体を労う間もなく、混迷と激戦に身を投じていくのであった――。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月8日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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