資料に目を通しながら、衛・日向(探究するエクスブレイン・dn0188)は集まった灼滅者たちに語りかけた。
「群馬密林を探索していた灼滅者が、有力な情報を持って帰還した。群馬密林の地下にアガルタの口の入り口があることと、ご当地怪人のアフリカンパンサーが、ドーター・マリアに接触しようと配下を送り込んでいたことが分かったんだ」
彼の説明によれば、探索していた灼滅者の活躍で、六六六人衆とご当地怪人が戦闘し、ご当地怪人が敗北して殺されている。
この戦闘の結果、群馬密林では、アフリカンパンサー率いるご当地怪人と、ドーター・マリア率いる六六六人衆が、一触即発の状況で睨み合うことになったらしい。
「……なんというか、とんでもない情報が出てきたな」
唸る灼滅者にエクスブレインは頷いて、
「ただ、この両者がこのまま戦闘を開始することはない。この状況に対して、スサノオの姫・ナミダが戦いを仲裁するためにスサノオの軍勢と群馬密林に入っていて、この戦いは戦闘が始まる前にスサノオによって調停され、ドーター・マリアはスサノオの傘下に入り、ナミダ姫とアフリカンパンサーは協力関係を強くする結果になってしまう」
この結果は、スサノオとの戦力を大きく増強することになるだろう。
「これを阻止するために、みんなにはスサノオの調停が始まる前に戦闘に介入して、両勢力が全面戦闘を行うような工作をしたり、或いは戦闘の混乱を利用して有力な敵の灼滅を狙って欲しいんだ」
言って、目を通していた資料を灼滅者たちへと見せた。
ご当地怪人と六六六人衆は互いに睨み合っている状態であるため、130名程度の戦力であれば、気づかれずに近づくことが可能になっている。
「灼滅者が戦場に近づいてから、スサノオの軍勢が到着するまでは12分程度と予想されている。でも、スサノオの軍勢の進行方向も判明しているから、スサノオの軍勢の足止めをすることができれば、到着を遅らせることもできるだろうな」
当然ながら、正面から戦争に介入して戦うほどの戦力はない。
いかにして両勢力の戦端を開かせるか、戦闘が発生した後に激化させ、スサノオの仲裁を失敗させるかが肝になるだろう。
最低限、双方の戦力を減らすことができれば作戦は成功だが、ドーター・マリアがスサノオの傘下に加わらない、アフリカンパンサーとスサノオの関係が悪化するといった状況を生み出せれば、スサノオとの決戦で大きなアドバンテージを得られるだろう。
「作戦の立て方によっては有力敵の灼滅も不可能じゃないから、状況が許せば狙ってもいいかもしれないな」
でも無理は禁物だよ、と日向は言い添える。
「六六六人衆の残党勢力がこれ以上スサノオ勢力に加わるのは、阻止したいところだな」
ふう、と溜息。それから、灼滅者たちを見渡す。
「有力な敵を討ち取るのは難しいかもしれないけど、チャンスはあるからいい作戦を考えてみてくれ。……欲張って本来の目的を見失わない程度にさ」
言って、ふと首をかしげ。
「アフリカンパンサーとドーター・マリアの関係は、一体何なんだろうな」
まだ分かんないことだらけだな、と笑い、よろしく頼むと頭を下げた。
参加者 | |
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アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814) |
羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490) |
八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863) |
椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051) |
桜之・京(花雅・d02355) |
北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681) |
四軒家・綴(二十四時間ヘルメット着用・d37571) |
榎・未知(浅紅色の詩・d37844) |
●
群馬県の冬は厳しい。『上州名物空っ風』と言われる赤城颪が吹き下ろし、身を切るような寒さにさらされるのが常だ。
しかし今灼滅者たちが足音を忍ばせ急ぐ場所は、寒さとも強風とも無縁の密林だった。
「前に密林探索した従弟から聞いてたけど、日本の冬とは思えない世界ね。どうせ密林を広げるなら、アマゾンでも中央アフリカでも熱帯雨林が危機に瀕している地域で使えばいいのに」
声をひそめてアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)が眉を寄せ、そんな発想が出ないからこそのダークネスか。と独り言つ。
スサノオも所詮同類だったと。
どこからか極彩色の羽根を持つ鳥が舞い降りそうな木々を、桜之・京(花雅・d02355)は眺め嘆息する。
周囲の把握は大事なこと。だけれどそれ以上に自然と周囲に目が行くのは、見慣れない光景が新鮮だから。
「血なまぐさい話が絡まなければ、密林探索のようで楽しいものね」
ダークネスの力によるものだと分かっているが、好奇心はそそられる。
そしてそこに潜む灼滅者たちの装いも皆一様に何かしら迷彩柄をまとい、こちらもあまり見慣れない光景だ。
「森の進軍、木の根を踏んで、何処が北やら南やら……」
口ずさみながら、四軒家・綴(二十四時間ヘルメット着用・d37571)がコンパスと地図を見比べる。
密林ゆえに雪も氷もないが、ここは皆敵の陣。その只中で、ナミダ姫率いるスサノオ勢力を襲撃し混乱を招く。
役割を果たすためには他のチームとの連携が必要と、北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681)と八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)はすぐ連絡できるよう端末を手にくるり視線を巡らせた。
「敵ばかり協力する厄介な状況を打開するためにも、絶対に成功させるよ! 群馬のグンマー化もとい密林化を防ぐカギが見つかるかもだしね!」
気合いを入れるあきの言葉に、うっかり仲間たちもグンマーもとい群馬密林を見てしまった。
「さて……敵さんの様子はどうだ?」
気の迷いで帰ったり……してくれんじゃろうなぁ……。
綴の誰に問うでもない言葉が深い木々の間に溶けていく。
スサノオの妨害は大事だ……が、出来れば仲間の傷つく姿は見たくない。
皆で無事に、帰ってみせる。そう誓って。
周囲を警戒していた羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は、だが事態に気付き、鋭く息を吸った。
「……来ます!」
先を急いで向かってくるスサノオの群れ。白い犬のように見えるのは狼型のスサノオだ。
何か想定外となったか、予想よりも早い。だが、元より待ち伏せする算段だ。
それに、スサノオ勢力を足止めするチームは他にもある。姿は見えないが、恐らくどこか別の場所で潜伏しているのだろう。
であればこちらも遅れをとるわけにはいくまい。
じりと緊張が走るなか、榎・未知(浅紅色の詩・d37844)がふと口を開いた。
「どっかの六六六人衆さんみたいに、俺らもここで相手の嫌がることしてやりゃいいんだな」
いたずらっぽい笑みに椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)は笑い返し。
戦いが、始まる。
●
「さあ、開戦よ!」
アリスの叫声を合図に紗里亜と梨鈴が攻撃を仕掛ける。
敵群の中でも特に密集している箇所へ吐息のように白いサイキックがするりと忍び寄り、スサノオたちがそれと気づくと同時に氷結の力が体内で炸裂した。
動揺が広がるさなか、あきと未知が放ったオールレンジパニッシャーの光線が乱舞する。
彼らのとった作戦は『敵の多いところに列攻撃を仕掛け、少しでも多くを巻き込み混乱、撹乱させる』。
彼らに続いて戦闘を開始したもうひとつのチームの影響もあり、不意打ちを受ける形となったスサノオたちは確かに動揺し、その動きが鈍った。
「仲裁に来た相手を襲撃だなんて……だとか、姑息な嫌がらせだと、思わないで頂戴ね」
貴方達が強者なら、私たちは弱者なりの戦い方をしなければならないのだから。
敵前衛に向けて除霊結界を展開しながら、わずかに険しい表情で京が口にする。
灼滅者たちが様々な戦いを経て経験を積み力をつけていても、いまだダークネスは強大な存在である。
そしてその勢力を拡大し、或いは充全とするために動くならば、それを阻止しなければならない。
動揺からいち早く立ち直ったスサノオの放つ攻撃を一尺八寸の今様拵えで受け止め、綴が返す刃で呪毒の風を巻き起こす。
ぞわと呪詛に撫でられ苦鳴をあげる敵の様子を、彼女の霊犬あまおとに指示を出しながら陽桜は油断なく確かめた。
サーヴァントを含むディフェンダーとメディックを厚く配し、各個撃破ではなくバッドステータスを付与しつつ多くを巻き込む。
長期戦を狙うには、采配を誤ってはいけない。
互いに声を掛け合い、時に指示や注意喚起を飛ばしながら連携して作戦を進めていく。
ライドキャリバー、マシンコスリーが攻撃を防いだところに文字の刻まれた大剣を掲げ、
「思ったよりも悪くない戦況ではある……か?」
綴は戦場全体の様子をうかがいながら好調を口に含む。
押されているわけではない。まだ。悪くはない。
「スサノオとも少し前まで仲良しこよししてたのに血なまぐさい関係になったもんだ」
銀の装飾が施されたクロスグレイブを手に未知がふっと短く息を吐き、呼吸を整える。その視線は、スサノオの虚をつき短槍を繰り出し死角から打つ紗里亜を、次いで前に立つ彼のビハインド、大和を捉えた。
「スサノオが掲げる『調停者』って、ただ自分達が人間や灼滅者も含めた世界全ての支配者になろうってだけじゃないの?」
そんなのは真っ平ね。
言い放つアリスが掲げた光剣の、白夜のように淡い白光の刃がひときわ強く輝き、彼女に食らいつこうと飛びかかってきたスサノオを一息に吹き飛ばす。
翠のリボンを躍らせ鈴飾りを鳴らし護りの加護を届けながら、陽桜はスサノオやナミダ姫については好きも嫌いもないですけど、と応えた。
「彼らをそのままにしていたら……学園に居る、ガイオウガの尾への影響もあるでしょうから」
思い出すのは「信じる力」をくれた誇り高き炎獣。……きっとあの中にいるであろう……友。
まとう炎を思い返すわずかな感傷を、しかし戦況は与えてくれはしなかった。
『少しでも多くの敵を巻き込む』という作戦は、敵陣を混乱させるに有効だったろう。
だがそれははじめのうちのことであり、混乱が収まれば多くの敵に狙われることになる。
そうなれば、注意しながら立ち回るにしても限度があった。
敵を多く巻き込むように。しかし囲まれないように。攻撃を受けないように。ダメージを負いすぎないように。回復が重複しないように。
気を配る要素が増えるにつれ言葉を交わす余裕すらなくなり、後衛から飛ぶ短い言葉による合図や注意に、初めて自身が狙われていることに気付くこともあった。
「今、癒しますね……」
梨鈴の手にした怪談蝋燭に黒い炎がともり、癒しとともに妨害の能力を高める黒煙がゆらとたちのぼる。
礼を告げると、控えめな微笑みが応えた。
次の敵はどれだ。次に攻撃を加える、或いは攻撃を防ぐべき敵は。
そして気付く。
「あれは……」
それまでのスサノオとは違う。
人狼型や大型などの、それまでとは違うスサノオが、姿を見せていた。
ず、っ。と前へ身を出すスサノオに、宇都宮のご当地ヒーローが声を張り上げた。
「私は宇都宮餃子ヒーローの八重葎あき! 北関東を、そして世界を必ず護ってみせるっ!」
奮い起たせるあきの言葉に、仲間たちは得物を手にいっそう神経を研ぎ澄ませる。
だが限界は近かった。
サーヴァントが倒れ盾役が減ると、次第に攻撃よりも回復が増えていき、敵の攻撃を防ぎ或いはかわしきれなくなっていく。
「……っが!」
「綴!」
怒りのバッドステータスを付与し攻撃を集めた綴がかわしきれず膝を屈する。
止めを差そうとする疾く鋭い一撃を『白夜光』で受け止め、アリスは次の手にかかる隙を待たず一閃を放つ。
「大丈夫ですか?」
護るように梨鈴が癒そうとするも、身体に力を込められず立ち上がれない。
次いで厄介な相手と判断された京が狙われ倒れることとなる。
ふたりとも、意識も闘志もまだあったが、立ち上がるためには消耗しすぎていた。
なお勢いを失わないスサノオに、灼滅者たちは選択を迫られていることを知る。
●
「撤退しましょう」
きゅっと唇を引き結び、陽桜が告げた。
「でも……」
「このままでは消耗していくだけです」
スサノオたちの足止めは、これ以上はかなわない。それどころか、灼滅者たちのほうが潰されてしまいかねない。
「そうね……ある程度は足止めできたわ。それに、ご当地怪人と六六六人衆の戦いは激化しているようだから、作戦は成功と言えなくもないでしょう」
満身創痍ながら強い意志を灯す京の賛同に、仲間たちの間に躊躇が生まれた。
完璧ではないかもしれない。だが、それでも目的は果たしただろう。
幸いに、今ならまだ皆自力で動ける。完全に動けなくなる前に行動に移さなければ。
「確かに頃合いだなッ! 撤退に移るッ!」
自身を叱咤するような綴の言葉に仲間たちもそれぞれに攻防から撤退の準備へと移り、はたと梨鈴は端末を取り出した。
こちらが撤退するのを他のチームにも伝えなければ。
「ビェールィ先輩……!」
喉を震わせ、辛うじて声を絞り出した。
「もうもちません、撤退します……!」
端末の向こうから聞こえたラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)の応えは如何だったか確かめる余裕もなく。
「みっくん、大丈夫?」
案じる紗里亜に未知は少しだけ強がり大丈夫と応え。
追いすがろうとするスサノオにアリスが古式護符揃えを放ち、くるり舞う銀杏葉の如く軽やかなあきの蹴撃が追撃した。
「さあ、早く!」
促され、灼滅者たちは敵陣から離脱を図る。
この戦いが、よい結果となることを願いながら。
作者:鈴木リョウジ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年12月8日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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