混戦の群馬密林~戦端を開くために!

     群馬密林に向かった灼滅者による探索の結果、有力な情報がもたらされたことが、初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)によって知らされた。
     その情報とは、群馬密林の地下にアガルタの口の入口がある事。そして、ご当地怪人のアフリカンパンサーが、ドーター・マリアに接触しようと配下を送り込んでいた事だ。
    「探索中に六六六人衆とご当地怪人が交戦し、敗北したご当地怪人が殺されている。この結果、アフリカンパンサー率いるご当地怪人と、ドーター・マリア率いる六六六人衆が睨み合う状況が生じている」
     これを仲裁すべく、スサノオの姫・ナミダが、スサノオの軍勢と共に群馬密林を訪れている。このままだと、ドーター・マリアはスサノオ傘下に入り、ナミダ姫とアフリカンパンサーは協力関係を強めてしまう。
    「これを阻止するため、スサノオの調停が始まる前に、この場に介入して欲しいのだ」
     ご当地怪人と六六六人衆は互いに睨み合った状態にある為、130名程度の戦力ならば、気づかれずに近づく事が可能だ。
    「灼滅者が戦場に接近してから、スサノオの軍勢が到着するまでの予想時間は、12分程度。スサノオの進路は判明しているから、足止めを行い、到着を遅らせる事はできるはずだ」
     何らかの工作を仕掛けて戦端を開かせた結果、双方の戦力を減らす事ができれば、作戦はひとまず成功。
     加えて、ドーター・マリアがスサノオへの協力を拒んだり、アフリカンパンサーとスサノオの関係が悪化したりといった状況に持ち込めれば、なお良い。
     また、作戦次第では、有力敵の灼滅を狙う事も可能だ。
     なお、ドーター・マリアの配下は、群馬密林の六六六人衆達。アフリカンパンサーの配下は、ご当地怪人の軍勢。そしてナミダ姫の配下は、壬生狼組をはじめとするスサノオの軍勢となっている。
    「ここで有力敵を討ち取れれば、今後の戦いで大きなアドバンテージを得られるだろう。もしそれを試みるのなら、大胆な判断も必要となるかもしれないな……」
     いずれにせよ健闘を祈る、と杏は締めくくったのである。


    参加者
    鏡・剣(喧嘩上等・d00006)
    合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)
    牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)
    ニアラ・ラヴクラフト(時代旧れ・d35780)

    ■リプレイ

    ●開かれし戦端
     群馬密林……その一角に身をひそめていたニアラ・ラヴクラフト(時代旧れ・d35780)が、わずかに身じろぎした。
    (「……冒涜の時間だ。横腹を撲り潰す悦び。奴等に齎すべき」)
     周囲で同様に身を隠している仲間達にも、聞こえているだろう。サイキックという名の剣を交え、命をやりとりする音が。
     それはすなわち、六六六人衆とご当地怪人の間に、戦端が開かれた事に他ならない。同じくこの作戦に参加している武蔵坂の灼滅者達が、上手く立ち回っているようだ。
     戦闘が生じた事は、アフリカンパンサーも気づいているはず。なぜなら、合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)達が潜伏しているこの場所は、その陣からさほど遠くない場所なのだから。
     ドーター・マリアと刃を交えるのが本意でないのならば、今にアフリカンパンサー陣営にも動きがあるだろう。
     ESPで犬に身を変え、周囲を注視していた牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)は、その目に捉えた。密林を駆ける人影を。
    (「アフリカンパンサーとドーター・マリアの関係も気になりますが、今は任務に専念するとしましょうか」)
     人影……ウサギのような耳を生やした少女。
     それがご当地怪人の伝令である事を確信した灼滅者達は、すみやかに行動を開始した。
     俊足を買われて伝令の役を仰せつかったのであろう。ウサギ獣人型ご当地怪人は、自分を追って来る獣の気配を感知した。
     後方から追いすがって来たニホンオオカミは、やがて七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)へと姿を変える。
    「……!?」
     そして驚く伝令の行く手、茂みから首をもたげたのは、一匹の蛇。
     一見何の変哲もないそれは、威嚇するように牙を剥いた後、戦闘用アーマーに身を包んだ平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)へと変貌。即座に戦闘行動に移った。
    「ななッ!? 灼滅者がなんでこんなとこにいるのね!?」
     困惑して、たたらを踏む伝令。その視線の先……鏡・剣(喧嘩上等・d00006)や、みんとが、次々と犬変身を解き、正体を露わにする。
    「さーて、悪いが、でかい喧嘩が起きてもらわねえといけねえからな、ここでつぶれてもらうぜ」
     ぽきり、と指を鳴らす剣の態度から、伝令ウサギも、真実を察したようだった。
    「もしかして、この戦いを起こしたのは、灼滅者なのね?」
     だが、伝令ウサギの問いには答えず、灼滅者達は己の任務を開始した。

    ●情報網を断て
    「伝達者は良悪『弄』が相応だ。滑稽な舞台装置を破壊すべき」
    「まさか、伝令のうちらの待ち伏せまで……。なら、こんなとこで足止め喰らってる場合じゃないのね!」
     ニアラ達による包囲網を突破せんと、伝令ウサギが飛びかかった。
     その可愛らしい顔には、焦りがにじむ。少しの時間も惜しいはずだ、無理もない。
     だが、その足元に、和守のビームが着弾。土や泥を巻き上げる。
    「お前たちに恨みは無いんだが……これも任務だ。すまんな」
    「そんなこと言うなら、黙ってここを通すのね!」
     かろうじて転倒だけは避けた伝令ウサギが前を向くと、剣の顔が間近に迫っていた。その表情は、戦える喜びによるどう猛な笑み。
     飛行能力がない相手なら、くみしやすい。剣は、練り上げた気を、雷撃として拳に宿し、殴り掛かった。
    「きゃっ!?」
     二度三度と地面を転がる伝令。それでもめげる事なく立ち上がると、灼滅者をにらみつける。
    「アフリカンパンサー様に託されたこの任務……ちゃんとやり遂げて見せるのね」
     しかしその後方で、閃く刃と銃口。紅音のガンナイフが狙っていた。
     射出された追尾弾が、木々の間を縫って標的を目指す。
     距離を開けようと、軽やかな挙動で回避せんとする伝令ウサギ。だが、鬼ごっこの勝者は、弾丸だった。伝令の太ももが撃ち抜かれ、血が草を濡らす。
    「派手に音を立てれば、誰かが気付くのね。伝令のお役目をもらった仲間は、他にもいるのよね!」
     伝令ウサギが、得意げに言う。攻撃の手が緩んだ隙に逃走する算段だったようだが、灼滅者の攻勢は収まらなかった。この周囲は既に、紅音のサウンドシャッターによって音声が遮断されているのだ。
     あてが外れた伝令ウサギが、やむをえず、覚悟を決めた。それに対する灼滅者達の攻撃の手もまた、緩まない。
     みんとのビハインド『知識の鎧』による霊撃を、空中で受けつつ、着地する伝令ウサギ。
     伝令役であるため、その戦闘力はさしたるものではない。ただ、攻撃は軽い分、回避に優れているのか、仕留めるのは厄介である。
     相手が身軽ならば、それ相応の攻撃に切り替えるまで。みんとがその身に巻いたダイダロスベルトを解放、追尾に回す。
     だが、それを空中でかわすと、体をひねり、キックを放つ伝令ウサギ。
     吹き飛ばされる知識の鎧を追い抜くようにして、相手に肉薄する鏡花。攻撃動作を察知し、とっさに体をまるめた伝令の足元へと、キックを浴びせる。
     鏡花がその場を離れると同時、霊犬のモラルから、六文銭が掃射される。鮮やかな連携。
     交叉させた腕で身を守る伝令が、前方に意識を集中させている間に、ニアラの影業が背後にしのびよっていた。
     聴覚に優れた長い耳でも、無音で近づく影を捉える事はできぬ。女子高校生の姿持つ影を捉える間もなく、健脚を切り裂かれ、伝令ウサギが倒れ伏す。
     そこに、剣の炎撃がほとばしる。
    「ごめんなさいアフリカンパンサー様、役目を果たせなかった……」
     伝令ウサギがこと切れたのを、確認する灼滅者達。
     しかし、戦いはまだこれからだ。ウサギ怪人が告げた通り、伝令が1人であるはずがない。それを全て止める必要がある。他の戦場で奮闘する仲間のためにも。

    ●伝えるもの、断つもの
     一体、また一体。
     ご当地怪人の陣から放たれる伝令を発見しては、それを撃破していく灼滅者達。
     伝令を食い止めるこの作戦には、もう1つのチームが参加している。特別、連絡を取り合うことはしていないが、前線の戦況に変化がないところを見ると、確実に伝令は封じているようだ。よしんば連絡手段があったとしても、この密林の中では十分に機能しなかったろう。
     心の中で他チームの善戦を称えつつ、今また、新たな伝令と対峙していた。それも、二体。
    「ここは……」
    「通してもらうよ!」
     それぞれ、タヌキとキツネの獣人型をした、少女ご当地怪人が、勇ましく立ち向かって来る。
    「六六六人衆よりも、ご当地怪人の方が個人的にはやり易いけど……すみませんね」
     タヌキの置物型ビームをかわしたみんとが、謝罪混じりにクロスグレイブを撃ち返す。
     被弾箇所から生じた氷結に、苦虫をかみつぶしたような表情のキツネ。それでも不敵な笑みを保とうとしたその表情が凍り付く。懐に入り込んでいた和守を見て。
     ほとばしる雷撃。アッパーを受け、地面から引き離されたキツネが、空中で和守の体を弾く。
     血をぬぐうキツネ怪人を、剣が狙う。ここまでの交戦で、体は十二分に温まっている。
    「くそっ、これでも喰らえっ!」
     油揚げを模したビームを、銀髪一本を犠牲に回避すると、拳をぶつける剣。初撃が決まれば後はつなげるのみ。続く連打が、その場に敵を釘付けにする。
    「よくも……」
     ぬっ、と背後から忍び寄ったタヌキ怪人が、和守を捕まえる。ホールドからの激しい叩きつけ。弾けるガイアパワーが、地面を揺るがす。
     だが、土煙の中から悠然と立ち上がる和守の姿に、二体の伝令がおののく。
     仲間達の傷の回復を、霊犬の蒼生に任せると、紅音は狼の爪を露わにした。キツネの目が、銀閃を捉えた時には、血が舞い、胸に裂傷が刻まれた後である。
     劣勢である事を悟ったのであろう。タヌキが、キツネを手で制した。
    「ここは自分にまかせて先に……」
    「バカ言え、私達は一心同体だろ!」
     渋るキツネの背中を、無言でタヌキが突き飛ばす。
    「戦いを止めなければ、アフリカンパンサー様が悲しむ事になる……行って!」
     だが、そのやりとりを、ニアラの双眸が見逃してはくれぬ。それこそが、今回の灼滅者の役目であるから。
    「我が掌で開くのは甘美『の』捕食」
     無情にも、ニアラの影に飲み込まれていくタヌキを振り返る事なく、先に進むキツネ。
     だが、キツネもまた、活路を見出す事はできなかった。
     木々の間から、鏡花が襲来する。死角からの斬撃をよけきることは、キツネにはできなかった。
     最後は、みんとのクロスグレイブが、致命傷となった。
    「ちきしょう、灼滅者……!」
     タヌキの後を追うように倒れるキツネ。最期に伸ばした手は、空しく虚空をつかむのみだった。

    ●1つの戦いの終結
     それは、何体目の伝令を始末した頃だっただろうか。
     ニアラは、手にした鋏を見遣る。元より赤と黒の粘液にまみれていたそれからは、これまでほふった怪人の鮮血がしたたっている。
    「さすがに、連戦となると損傷もかさむか」
     アーマーの駆動音に若干の不備を感じながら、和守が次なる標的を探す。
     その時、鏡花がモラルと共に、前線の方を振り返った。戦況の変化を感じ取ったからだ。
    「前線の六六六人衆が後退していくようだね」
     その言葉が示す通り、戦場の最前線では、ご当地怪人側が六六六人衆勢力を、押し込んでいた。
     すると紅音も、反対方向からのざわめきを察知する。
    「あちらは……アフリカンパンサーの陣の方でも、何かあったようね」
    「そろそろ、伝令が排除されている事に気づかれたのでしょうか?」
     懸念を口にするみんと。
     前線の戦いが収まる気配を見せない事で、伝令が何者かに止められている事を察したに違いない。
     やがて、ご当地怪人達が動き始める。その中には、アフリカンパンサー本人の姿もあるようだ。
     怪人勢力は、前線を目指して移動している。アフリカンパンサーが直接前線に出るのなら、小細工はもはや通じまい。
    「……俺達の役目はここまでか」
     拳を収め、撤退を始める剣達。
     ここまで戦闘を継続させたのだ。任務は十分に果たせたといっていいだろう。
     そして、紅音もまた、足早にこの地を後にする。かつての交渉の際、言葉を交わしたスサノオの姫・ナミダ。その姿を思い出しながら。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月8日
    難度:やや難
    参加:6人
    結果:成功!
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