混戦の群馬密林~闇に紛れ、闇を煽り、闇を灼く

    作者:飛翔優

    ●教室にて
     教室に足を運んできた灼滅者たちと挨拶を交わしていった倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は、メンバーが揃ったことを確認した上で説明を開始した。
    「群馬密林を探索していた灼滅者が、有力な情報を持って帰還しました」
     群馬密林の地下にアガルタの口の入り口があること、ご当地怪人のアフリカンパンサーがドーター・マリアに接触しようと配下を送り込んでいたことが判明したのだ。
    「また、探索していた灼滅者の方々の活躍で、六六六人衆とご当地怪人が戦闘し、ご当地怪人が敗北して殺されています。この戦闘の結果、群馬密林ではアフリカンパンサー率いるご当地怪人とドーター・マリア率いる六六六人衆が、一触即発の状況で睨み合うことになったみたいです」
     しかし、両者がこのまま戦闘を開始することはない。
     この状況に対して、スサノオの姫・ナミダが、戦いを仲裁スべくスサノオの軍勢と群馬密林に入っている。そのため、戦闘が始まる前にスサノオによって調停され、ドーター・マリアはスサノオの傘下に入り、ナミダ姫とアフリカンパンサーは協力関係を強くするという結果になってしまうからだ。
    「この結果は、スサノオの戦力を大きく増強してしまうことが予想されます」
     阻止するために、スサノオの調停が始まる前に戦闘に介入し、両勢力が全面戦闘を行うような工作を行う。あるいは、戦闘の混乱を利用して有力な敵の灼滅を狙う……といった作戦を行うことになる。
    「続いて、その介入方法などについて説明しますね」
     ご当地怪人と六六六人衆は互いに睨み合っている状況なため、130名程度の戦力であれば、気づかれずに近づくことが可能。
     灼滅者が戦場に近づいてから、スサノオの軍勢が到着するまでは12分程度と予想されている。また、スサノオの軍勢の進行方向も判明しているため、足止めをすることができれば到着を遅らせることもできるだろう。
     もとより、灼滅者の側に正面から戦争に介入して戦うほどの戦力はない。そのため、いかにして両勢力の戦端を開かせるか、戦闘が発生した後に激化させ、スサノオの仲裁を失敗させるかが肝になるだろう。
    「最低限、双方の戦力を減らすことができれば成功と言って良いかと思います。ですが、ドーター・マリアがスサノオの傘下に加わらない、アフリカンパンサーとスサノオの関係が悪化する……と言った状況を生み出すことができれば、スサノオとの決戦で大きなアドバンテージを得られるかと思います」
     また、作戦の立て方によっては有力敵の灼滅も不可能ではない。状況が許すのなら、狙ってみても良いかもしれない。
    「続いて、各勢力についてですが……」
     ドーター・マリアの配下は群馬密林の六六六人衆たち。
     アフリカンパンサーの配下はご当地怪人の軍勢。
     ナミダ姫の配下は、壬生狼組を始めとしたスサノオの軍勢となっている。
    「マンチェスター・ハンマーやジョン・スミスは、この作戦には参加していないみたいですね」
     以上で説明は終了と、葉月は静かな息を吐く。
    「様々な思いはあるかもしれません。ですが、皆さんの行動がより良い未来につながっていく……そう、信じてます。ですのでどうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    山田・菜々(家出娘・d12340)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    ペペタン・メユパール(悠遠帰郷・d23797)
    グラジュ・メユパール(暗闇照らす花・d23798)
    四刻・悠花(棒術師・d24781)
    カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)

    ■リプレイ

    ●情報工作開始
     緑に紛れ潜入し、闇を煽り戦を起こせ。
     より良い未来を選ぶため、望む未来へと進むために、灼滅者たちは幾つかのグループに分かれて群馬密林へと突入する。
     目指すは六六六人衆。
     ご当地怪人が元凶だと偽るため、グループ間の連携は取らないと決められた。
     道中何が起きたとしても、同道する仲間たちだけが頼りとなるだろう。
    「それじゃあ、気張っていくっすよ」
     山田・菜々(家出娘・d12340)が手の平と拳を打ち鳴らした。
     頷き、ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)が先陣を切る。
    「3度目の! 群馬密林やぞ! 慎重に行こうか」
    「そうね。発見までは、できるだけ六六六人衆に気づかれないよう移動しましょう」
     ウイングキャットのソースを最前列へと向かわせながら、ペペタン・メユパール(悠遠帰郷・d23797)は2人の後を追いかけた。
     濡れた腐葉土の上を選び歩くことで足音を抑え、木々のざわめきに合わせて草木をかき分け先へと進む。
     仲間たちのためにも長い時間をかけるわけにはいかないから、周囲に何もいないと感じれば大胆に速度を上げる事もあった。
    「……結構深くまで来ましたね。そろそろ、誰かと遭遇しても良い頃ですが……」
     歩く速度を緩めながら、四刻・悠花(棒術師・d24781)が仲間たちへと視線を送る。
     ハノンが発言する。臭いから周囲にダークネスがいることは分かる。けれど数が多く、方角や密度までは特定できないと。
     菜々が地面を示す。踏み荒らされた跡が……六六六人衆が通ったと思しき跡もあると。
     そんな風に様々な意見が述べられていく中、先頭を歩いていたハノンが腕の動きだけで仲間たちに静止を促した。
     彼女が鋭い視線を送る先。腕を伸ばしても抱きしめきれないほど大きな大樹の下。仮面を被りチェーンソー剣を携えている男が1人、幹にけだるげに背を預けていて……。

    ●偽れ我が身、開けよ戦端
     灼滅者たちは仕掛けた。
     草木をかき分け低木を飛び越え、腐葉土を踏みしめ仮面の男へと。
     斬撃を、打撃を、魔力を受けた仮面の男が苛立たしげに喚き散らしながらチェーンソー剣を駆動させていく。
     菜々は正面に立ちふさがり呟いた。
    「まったく、ご当地怪人に言われるままってのは納得いかないっすけどね」
    「っ! なんだと!?」
     苛立たしげな問いと共に仮面の男が斬りかかってくる。
     横に構えた交通標識で受け止め、火花が散る中でさらなる言葉を漏らしていく。
    「モグラ怪人の敵討ちに協力すればアガルタの口探しに協力してくれるっていうなら、仕方ないっすよね」
    「隙あり、だよ!」
     側面に回り込んだグラジュ・メユパール(暗闇照らす花・d23798)が、仮面の男の側頭部めがけマテリアルロッドを横に薙いだ。
     即座に腕を引いた仮面の男のチェーンソー剣とぶつかった瞬間、魔力を爆発させていく。
    「容赦はしないよ!」
     爆風が落ち葉を散らす中、仮面の男もまた大樹へと叩きつけられていくさまが見えた。
     彼我の距離が開いたこのタイミングで……と、カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)は防衛領域で菜々を抱いていく。
    「堅実に、でも大胆に行こう! この後もまだまだ、様々な戦いが待っているんだから!」
    「ちっ……」
     膝をつく形で着地した仮面の男が背後を……おそらく六六六人衆が集まっているのだろう場所を伺い始めた。
     すかさずグラジュが距離を詰め、マテリアルロッドを振り上げていく。
    「余所見は厳禁だよ!」
     仮面の男が右へ飛ぶ。
     構わずグラジュは地面を殴打し、込めていた魔力を爆発させた。
     爆風に乗り、爆煙に紛れ、仮面の男は戦場から離脱していく。
     隙間から赤い2本角を覗かせている髪を爆風になびかせながら、グラジュは視線だけで彼を追った。
     誰ひとりとして、足を使って追いかける者はいない。
     ただ、より自分たちの存在を印象づけるため、魔力の矢を解放していく。
    「随分とすんなり行ったっすけど……とりあえず成功、っすかね」
     2本ほど仮面の男の肩を切り裂いていくさまを見送った後、仲間たちへと視線を送った。
     きっと仮面の男が六六六人衆陣営に偽りの立場を知らせてくれるはず。
     そう信じ、灼滅者たちは次のメッセンジャーを求め侵攻を再開する……。

     時を待たず次の相手は見つかった。
     場所は木々の開けた場所。
     いたのは2体。
     ホッケーマスクをかぶり龍砕斧を携えている男と、シルクハットを被り縛霊手をはめている男だ。
     先ほどと同じように畳み掛けるため、ハノンが颯爽と距離を詰めていく。
    「っ!?」
    「ご当地怪人との契約により、お命頂戴する……ってね!」
     襲撃を感じ取ったらしい2体が身構える中、ハノンはホッケーマスクの男の間合いへと踏み込んだ。
    「さあさあ、これに耐えられるかな!」
     腕に得物を飲み込ませ、巨大な刃へと作り変えた。
     勢いのまま振り下ろせば、龍砕斧とぶつかりい火花が散る。
     その勢いのまま力比べへと移行していく中、シルクハットの男は2歩分ほど後退していた。
     殺意の光を宿す瞳に映るのはカーリーだ。
    「ボクのオーラに反応するとは流石だね! でも……どうやら効いているみたいだね」
    「……ははっ、全てお見通しって顔してますねっ」
     楽しげに笑うシルクハットの男。
     瞳はカーリーを見据えた時のまま形を変えてはいないけど。
     ともすれば火花が散りそうになった両者の視線を断ち切るかのように、悠花が間に割り込んだ。
    「お相手します。ご当地怪人と約束した、私たちが」
    「……へぇ」
     悠花が先端に魔力を込めた棒を突き出した時、シルクハットの男は縛霊手を振り上げた。
     先に肉体へと到達した棒の先端を爆発させ、風圧に乗って手元へと引き戻す。
     横に構え、爆煙を切り裂き振り下ろされた縛霊手を受け止めた。
    「この、程度……!」
     半身をずらし、縛霊手を右側へと受け流す。
     即座にシルクハットの男は腕を引き、悠花から距離を取っていった。
     同様にハノンを弾いたらしいホッケーマスクの男もまた、2歩分ほどバックステップを踏んでいく。
    「……どうする」
    「そうですねぇ……我々をご当地怪人が襲撃するに足る理由はありますし、ならばそれに応じない理由もありません」
    「わかった……」
     短い会話の後、ホッケーマスクの男が距離を詰めてきた。
     シルクハットの男も静かなため息を吐きながら、ゆっくりと歩み寄って来る。
     灼滅者たちは正面からぶつかり合う。
     ご当地怪人に与する者と偽る言葉を交え、過度なダメージは受けぬよう気をつけつつ、しかし灼滅には至らぬよう相手のダメージ量を図りながら。
    「っ!」
     斧の一振りを棒で受け流した時、悠花が右手側から不自然な木々のざわめきを聞いた。
     2体に向き直ると共にバックステップを踏んで耳を澄ませば、3人分の足音が近づいてくるのが分かる。
    「……誰か来ます、3名ほど」
    「それなら敵の増援かな。……うん、見えた。3体、六六六人衆が近づいてくる」
     促されるままにペペタンが視線を送れば、木々をかき分け近づいてくる見たことのない顔があった。
     騒ぎを聞きつけてやって来た六六六人衆たちなのだろう。
    「なら」
     悠花が、目の前の2体を進路を塞ぐかのような位置にて棒を横に構えた。
     意を汲んだ仲間たちが一歩、二歩と後退を始める中、シルクハットの男がつまらなさそうに唇を尖らせた。
    「逃げますか」
    「させるかっ!?」
     怒号と共に踏み込むホッケーマスクの足を、カーリーの放つオーラが打ち据える。
    「今だよ!」
    「はい!」
     すかさず悠花も後ろへ飛び、両者の間合いから離脱した。
     シルクハットの男たちも仲間への情報伝達を優先したか、それきり追いかけてくることはない。
     灼滅者たちは戦線離脱し、簡単な治療を行った。その上で、再び六六六人衆を求め群馬密林を探索する……。

     それから灼滅者たちは3度ほど六六六人衆と小競り合いを行い、2度撤退させ、1度は自ら手を引いた。
     他の場所でも同様の活動が行われ、それもまた実を結んでいたのだろう。六六六人衆とご当地怪人との戦端が開かれたらしく、数で劣る六六六人衆は徐々に後退していく様子を見せていた。
     混迷がより深まれば別働隊が楽に動けるとより熱意を持って活動していく。
     そして出会った。
     木々が左右に開けている道のような場所で。
     まるで灼滅者たちを待っていたかのように佇む、断罪鋏を持つ小柄な男とバトルオーラをたぎらせている太った男のコンビと。
    「き、き、き、きみ、きみ、君たちが、が、う、うわ」
    「噂の暴れている灼滅者たちなんだなぁ。殺させてもらうんだなぁ」
     六六六人衆陣営に情報が行き渡っている事を匂わせながら、その2体が襲い掛かって来た。
     負けじとグラジュが踏み込んで、小柄な男の首元狙いマテリアルロッドを突き出した。
    「それなら、他の人たちが来る前に終わらせよう!」
    「……いや、少し厳しいかも。悪口の1つ言うくらいの余裕は欲しかったけど」
     断罪鋏とぶつかり合うグラジュのマテリアルロッドが爆発を巻き起こす中、ハノンが背後へと視線を送った。
     そう遠くない距離を六六六人衆と思しき者が5体、歩いてくるさまが見える。
     視線を感じたのだろう。先頭を歩いていた男が立ち止まり、声を上げた。
    「おーい、そこの! どうやらそいつらはご当地怪人とは関係ない、武蔵坂学園の灼滅者らしい!」
    「っ!!」
     即座にハノンが太った男との距離を詰めた。
    「潮時だね。道を切り開くから、その間から!」
    「手伝うっすよ!」
     菜々も爆風を耐えきった小柄な男の懐へと入り込み、ガトリングガンを突きつけた。
     拳が、数多の弾丸が2体を押さえつける中、他の仲間たちは2体の間を駆け抜けていく。
     逃さぬとばかりに、2体の六六六人衆は得物を用いて2人を弾いた。
     2人は勢いに負けて倒れ込み――。
    「そこだ」
    「抜けるっす!」
     ――倒れるふりをして、2体の横を転がり駆け抜けた。
    「に、に、に」
    「逃さないんだなぁ」
     2体の六六六人衆も機敏に向きを変え、5体の増援と合流しつつ灼滅者たちの後を追い始める。
     振り切るにはまだ、近い。

    ●望む未来の礎に
    「ソース、最後尾をお願い!」
     合計7体の六六六人衆から逃げる中、ペペタンに促されたソースがハノンらの横を抜け最後尾へと移動した。
     その背中を抱くかのように、カーリーが守りの加護を与えていく。
    「後はすたこらさっさと逃げるだけ。絶対、あいつらを振り切ろう!」
    「ま、ま、ま」
    「待つんだなぁ」
     言葉と共に六六六人衆が放ってきた攻撃は、多くをソースが受け止めた。
     捌ききれなかった風刃は悠花が打ち払う。
    「っ! 中々、鋭い一撃ですね」
    「きっちり全員で離脱するわよ。ソースも、後で遊んであげるから!」
     長くは持たないだろうと判断し、ペペタンは帯による治療を悠花に施した。
     傷の残るソースは笑みを浮かべながら、しゅっしゅっと六六六人衆たちに対してシャドーボクシングを行っていくさまを見せていく……。
     ……ソースは一時的な消滅を迎える頃、灼滅者たちは六六六人衆の手が届かない距離まで逃げていた。
     それでもなお草木をかき分け続けていく中、木々の間から聞こえてくるのは六六六人衆たちの会話。
     ――灼滅者だ、灼滅者を狩れ!
     ――俺たちを騙し、アフリカンパンサーにも手を出そうとした灼滅者たちをぶっ殺せ!
     ――血祭りにあげろ! その手で命を奪い取れ。
    「……これ以上の活動は危険ね。私たちの役目も終わったみたいだし、撤退するわよ」
    「そうだね、姉さま」
     ペペタンが仲間たちに視線を送り、グラジュがいち早く頷いていく。
     異論はない。
     灼滅者たちは緑の中に紛れ、声の聞こえない方角へと離脱していく。
     後は、別の作戦を行う仲間たちの成功を祈るだけ。
     無事、望む未来を掴み取ることができたのだろうか――?

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月8日
    難度:やや難
    参加:6人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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